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刑 事 判 例 研 究 ⑳

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(1)

判 例 研 究

刑 事 判 例 研 究 ⑳

ー 背 任 罪 と 預 金 等 に 係 る 不 当 契 約 の 取 締 に 関 す る 法 律 五 条 一 項 一 号 ︑ 三 条 の 罪 と の 罪 数 関 係 1 ー

刑 事 判 例 研 究 四

刑法二四七条︑預金等に係る不当契約の取締に関する法律五

条一項一号・二項・三条

昭和五〇年四月三日最一小判(昭和四五年㈲一西一五号預金等に係る

不当契約の取締に関する法律違反︑背任被告事件)判例時報七七二号一〇

六頁︑判例タイムズ三二〇号三〇三頁︹事実︺被告人甲は︑A女︑Bらと図り︑右A女の資金繰り

を補うため︑同女においていわゆる裏利を負担することとして

預金者を集め︑これら預金者に右裏利を得させる目的でK信用

金庫L支店に預金を斡施し︑一方︑右信用金庫支店からは︑右

A女のための借入名義人(いわゆるトンネル会社)として新設を

予定していたM株式会社(代表者被告人甲)に対し︑右斡施にか

かる預金を担保とすることなく︑・事実上これに見合う額の融資

を得ようと企て︑その旨同L支店長たる被告人乙に申し入れて

その承諾を得︑ここに右預金を担保とすることなく融資を行う

べきことを互いに約したものであるが︑そのうえで︑右融資の

山 火 正 則

約に基づき︑被告人乙︑同甲は︑前記Bと共謀し︑被告人乙に

おいて︑前記信用金庫支店の業務を総括する支店長としては借

受人の資産︑事業内容を十分調査し︑貸付額又は弁済期に応じ

適当な保証人を立てさせ︑十分かつ確実な担保を徴収するほか

融資総額及び稟議決済に関する右信用金庫の内部基準を守り︑

もって貸付金の回収が不能ないし著しく困難となることのない

よう注意して貸付事務を処理すべき任を負うものであり︑ま

た︑前記の斡施預金を担保としないM株式会社への融資が︑後

日の回収に困難があり︑場合によっては回収不能の危険さえ有

するものであって︑前記信用金庫に財産上の損害を生ぜしめる

虞れの極めて強いものであることを認識しておりながら︑前記

M株式会社に融資を与えてその利益を図る目的から︑右任務に

背き︑一〇〇〇万円の定期預金を担保に徴収したのみで︑前後

三回にわたり総額八二〇〇万円を貸し付け︑前記信用金庫に対

しその回収不能の危険を生じさせて財産上の損害を加えた︒

(6?)

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(2)

︹判旨︺原審が︑背任罪と預金等に係る不当契約の取締に関

する法律五条一項一号︑三条の罪(以下︑導入預金罪という)は︑

択一関係にあり︑導入預金罪の成立する範囲で背任罪は成立し

ないとして︑導入預金罪の成立だけをみとめたのに対し︑本判

決は︑これを否定し︑両者を併合罪であるとした︒

﹁預金等不当契約取締法は︑金融機関の業務の有する公共的

使命にかんがみて︑その経営の健全化とひいて一般預金者の保

護を図ると共に︑正常かつ健全な金融秩序の維持をも右に劣ら

ぬ重要な目的とする政策上の取締法規であり︑同法五条の罪に

ついては︑それがほかならぬ金融機関の役職員による右公共的

使命に対する背反的行為であるところに︑処罰の実質的理由が

存するものである︒それゆえにこそ︑同法五条所定の要件のも

とに融資が約されれば︑それによってただちに同条の罪が既遂

に達するものとされているのであって︑右融資の約束の現実の

実行の有無︑当該預金以外の担保の徴収の有無等︑金融機関の

財産に対する侵害の発生又は危険の具体化に関する事項は︑右

の罪の成否とはなんら関わりがないのであり︑もとより︑背任

罪における要素である図利︑加害目的のごときも右の罪の構成

とは無縁である︒

すなわち︑背任の罪と預金等不当契約取締法五条の罪との間

には︑犯罪構成要件の仕組み︑制裁の趣旨及び対象︑保護法

︑処罰の実質的理由等の点において重要な一般的差異が存す

るのであって︑これによれぽ︑両者が一個の行為によって行わ れる場合があるとしても︑その間にいわゆる法条競合の関係が

あると解するのは相当でなく︑両者は︑各所定の構成要件を充

足することにより︑別個独立に成立することを妨げられるもの

ではないと言わなくてはならない︒帰するところ︑預金等不当

契約取締法五条の罪の成立する限度において背任罪の成立範囲

が縮少限定されると解すべきいわれは存しないのである︒

上来説示の観点から本件における前記事実関係について見れ

ば︑被告人矢沢︑同大島の各所為はいずれも刑法二四七条所定

の背任罪の共同正犯に該当し︑かつ︑右は預金等不当契約取締

法五条の罪の構成要件該当行為とはその自然的行為を別個にす

るものであると認められるから︑両者は刑法四五条前段の併合

罪に当るものというべくこれと同旨の第一審判決の判断は正当

である︒L

︹研究︺一原審は︑背任罪と導入預金罪との関係を法条競

合としての択一関係にあるとした︒

ところで︑択一関係という概念については︑それがどのよう

なものであるのか︑また︑これを法条競合の一現象形式として

みとめることができるかについて︑争いがある︒この概念規定

について︑学説上ふたつのものがある︒そのひとつは︑リスト

のいうそれである︒すなわち︑﹁矛盾した要素をおくことによ

って︑ひとつの法益を保護する刑罰構成要件は︑相互に排斥し

あう﹂というものである︒そこでは︑ドイッ刑法における謀殺

(1)罪と故殺罪︑窃盗罪と横領罪の関係が例示されている︒わが国

(68)

68

(3)

刑 事 判 例 研 究 ㈲

(2)

・事

(3)関係を択一関係とよぶことができる﹂というものである︒

しかし︑このような概念規定をしたばあい︑いずれの択一関

係概念も︑法条競合の現象形式としては︑みとあることができ

ない︒リストによるそれは︑そもそも法条競合として問題にな

るばあいではないものとして︒ビンディングによるそれは︑観

念的競合ないし他の法条競合のばあいとして︑考えるべきもの(4)として︒

ところが︑原判決のいう択一関係概念は︑このいずれでもな

いものとして︑用いられているようにおもわれる︒本判決のな

かに引用されている原判決は︑つぎのようにいう︒﹁本件の場

合には従来判例が背任罪を構成するものと認めてきた︑不良貸

付・不当貸付の範囲に属するともいえるものであるが(中略)︑

これと択一関係に立つ預金等不当契約取締法五条の罪が設けら

れた以上︑背任罪の成立を認めるためには或いは主観的意図に

おいて貸付によって第三者に特別の金銭上の利益を得させるに

止まらず︑それ以上に何等かの利益を自己または第三者に得さ

せるとか︑任務違背が重大であるとか︑損害発生の蓋然性が著 しく高度であると認められる場合でなければならない︒﹂これ

は︑両罪の関係を法条競合のばあいとしてみとめようという趣

旨ではあるが︑学説上の択一関係概念には当てはまるばあいで

はない︒むしろ︑A・メルケルのいうように︑法条競合そのも(5)のと同じ意味において︑用いられているようである︒法条競合

は︑刑罰法規間の特殊な関係から︑適用する刑罰法規を択一的

に選択すべきばあいである︒したがって︑そのように考えるこ

とも可能である︒それはともかくとして︑それでは︑両罪の関

係を法条競合のばあいとして考えることができるであろうか︒

二まず︑両罪が特別関係にあると考えることができるかを

検討しよう︒原判決が︑これをみとめているのではないかと︑

思われるふしもないわけではない︒本件の不良貸付が︑本来背

任罪を構成するものであるが︑導入預金罪の立法によつて︑そ

れを排除し︑導入預金罪のみが成立するものとしている点にお

いてである︒背任罪を一般法︑導入預金罪を特別法とすること

になる︒

ところで︑特別関係は︑構成要件の内包に着目すれば︑特別

法が一般法のすべての要素を含み︑しかもなお一ないし数個の

(6)特別の要素を含んでいるばあいである︒したがって︑ここで

は︑導入預金罪が︑背任罪のすべての要素を含み︑しかもなお

一ないし数個の特別な要素を含むという関係が存在しなければ

ならない︒これは︑視点をかえて︑構成要件の外延に着目した

ばあい︑導入預金罪に属するすべてのばあいが︑背任罪に属す

(69}

69

(4)

し︑その逆は成立しないということを意味する︒すなわち︑あ

る事実が︑導入預金罪の構成要件に該当すれば︑必ず背任罪の

成要件にも該当するという関係が存在しなければならないと

いうわけである︒

そこで︑この両罪を比較すると︑背任罪は︑図利︑加害目的

をもって︑任務違背行為をなし︑本人に財産上の損害を与える

あいである︒これに対し︑預金等不当契約取締法五条一項一

号三条にいう導入預金罪は︑預金等に関して︑不当な契約を行

なうばあいである︒図利︑加害目的は必要なく︑不当融資の契

約をすれば足り︑これを実行することは必要ない︒導入預金罪

背任罪のすべての要素を含んでいるとはいえない︒また︑導

入預金罪が成立すれば︑必ず背任罪も成立するとはいえない︒

両罪の間に︑特別関係が存在するということはできない︒

三それでは︑両罪の間に補充関係をみとめることはできる

であろうか︒これについても︑原判決は︑これをみとめること

(7)ができるかのような判示の仕方をしている︒背任罪が成立する

ためには︑その図利︑加害目的︑任務違背︑本人に対する財産

上の損害のいずれかが︑導入預金罪のばあいよりも︑程度が高

いものでなければならないとしている点においてである︒も

し︑両罪が︑補充関係にたつとすれば︑背任罪が基本法︑導入

預金罪が補充法ということになろう︒

ところで︑補充関係は︑高次段階の行為が低次段階の行為を評

しつくしているばあいである︒この関係の存在を確認するた

(8)を示しているかどうかである︒原判決が両罪の関係を程度の強

弱の関係としてとらえている点からすれば︑補充関係の存在の

可能性はある︒しかし︑同じ攻撃方向というものを問題にする

ばあい︑そこには︑同一の法益にむけられた方向性が前提とさ

(9)れるであろう︒すなわち︑補充関係は︑同一の法益が数個の刑

罰法規によって︑異なった攻撃段階において︑保護されるばあ10)いに︑生じるものである︒

背任罪が財産に対する罪であり︑個人の財産を直接保護しよ

うとするものであることは︑疑がない︒行為者が︑本人との信

頼関係を破って︑本人に財産上の損害を与えるばあいである︒

これに対して︑導入預金罪は︑本人(金融機関)の財産を保護し

ようとするものではない︒むしろ︑究極的には︑一般預金者の

利益の保護を目的としているものであろう︒そのために︑正常

で健全な金融秩序を乱す行為を取締ろうとしていると考えられ

(11)る︒その意味において︑導入預金罪は︑一般預金者の利益を目

ざした抽象的危険犯であるといえよう︒

両罪の保護法益の差異を着目すれぽ︑そこに補充関係の存在

をみとめることはできない︒導入預金罪は︑背任罪に対する単

なる補充的性格をもった犯罪ではなく︑それとは別個独立の犯

罪である︒

四両罪は︑法条競合のいずれのばあいとしても︑考えられ

Coo)

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(5)

刑 事 判 例 研 究

(1)ζ︒ゆN99U2け零ωけ轟2β9>一〇ωω

(2)

=一年(幸)

(3)ε9︒噛Go榊量06簿︒︒一◎︒Q︒99ωh

(4)

(5)鋭竃Φ鱒①剖冨訂99鄭①ω9巳曽冨昌ω器団§9一馨や卯

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(6)出︒巳αq'ω茸跳︒ω①ぎ畦‑琶山羅臼§し旨S砕禽ω

(7)﹁法曹﹂編集部・﹁金融犯罪⇔(ほうそう講座特別刑法(三二))﹂

法曹二六六号四九頁以下は︑両罪を補充関係にあるとすべしとい

う︒ (8)智誇び9ぎUδ図o爵霞お自矯Nωけ≦ΦSω・㎝恕悼

(9)その詳細について︑山火・前掲第一論文八四頁︑﹁法条競合の

諸問題e﹂神奈川法学七⁝巷一号四九頁以下︑参照︒

(10)国8貫孚騨ρ憎の劇Q︒h

(11)なお︑参照︒石井富士雄・.﹁預金等に係る不当契約の取締に関

する法律の解説﹂金融法務事情一四一号三九二頁︒

調

(71)

?1

参照