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CSR の視点をもった企業人材の育成

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(1)

CSR

の視点をもった企業人材の育成

越境経験アプローチのCSR活動を事例とした個人の変化と組織移転 Training Human Resources with a CSR Perspective:

The Effect of Employee Volunteering and the Cross–boundary Experience Approach”

藤井 綾美 FUJII Ayami

1. はじめに

近年、欧米を中心に企業のサプライチェーン管理に関心が高まり、企業が引き起こ す人権問題に対する規制が厳しくなっている(1)。さらに、SDGsが国連で採択され、

ビジネスセクターや市民社会、政府などの様々なセクターが連携し、社会課題の解決 に取り組むことが国際目標として掲げられるなど、企業に対する社会からの要請が大 きく変化している。こういった状況から、筆者は社会の様相がめまぐるしく変わる昨 今において、社会の変化を捉え、社会からの要請を組織に還元できる人材がこれから の企業に必要であると考えている。本稿では、その様な人材をCSRの視点をもった人 材と定義する。

本稿の目的は、CSRの視点をもった人材の企業における必要性を明らかにし、これ からの企業人材育成の場としてのCSR活動の可能性を考察することである。また、本 稿は、筆者の修士論文「CSRの視点をもった企業人材の育成 越境経験アプローチの CSR活動を事例とした個人の変化と組織移転 」の一部を加筆・修正したものである。

修士論文では、社会、企業、そして企業で働く個人がどのように変化してきたのかを 整理し、CSRの視点をもつ人材の必要性を提起した。そして、企業の中でどうしたら そのような人材が育つのか仮説を立て、事例を研究し、分析・考察を行った。本稿で は、その中から、越境経験アプローチ(2)CSR活動によって、どのように個人が変化 したのか分析し、企業人材育成の場としてのCSR活動の可能性を考察する。

2. 先行研究の整理と本稿の仮説

(1)日本における CSR の概念整理

日本のCSRは、公害問題や企業不祥事など企業の社会に対する影響の拡大やグロー バル化によって変化してきた(表 1)。1960年代~70年代の、社会にマイナスを与え たことによる規制の対象から、1990年代には、事業で得た利益を社会に還元する企業

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への転換、2000年代に入ると、そこに戦略性が求められるようになってきた。近年で は、ガイドライン化も進み、いかに社会課題の解決に寄与しているのか、公表するこ とが求められている。今までは、利益をあげていれば良かったものが、環境や社会へ どのような影響を及ぼしているのかということにまで、気をつける必要がある。

社会の変化が企業行動の変化をもたらす一方で、社会の持続可能性を考えた時にも 企業は必要不可欠な存在になっている。それは、生活者のニーズが単一のものではな く多様化し、今まで社会の基盤を支えてきた国の力だけでは支えきれない人々が増え てきたことにある。例えば、日本における教育や医療、福祉など今まで行政が支えて きたサービスを見ても分かる通り、少子高齢化や貧困問題が深刻化してきたために、

今までであれば当たり前にみんなが享受してきたサービスを受けることができない ケースが増加している。つまり、企業と社会の関係性は、より密接に影響を及ぼし合 うようになっており、社会を変えていく主体としての企業姿勢が求められている。

表 1 日本での CSR の変遷

キーワード 概 要

1800年代 三方よし(売り手よし、

買い手よし、世間よし) 商売の相手を尊重するだけでなく、その地域社会 までも尊重することを視野にいれて商売する、近 江商人の考え方。

1960年代後半

~1970年代

公害問題、環境問題 近代工業化が進み、企業が社会(環境)への影響 を顧みないことによって多くの問題が引き起こさ れた。(足尾銅山鉱毒事件、水俣病等)社会に与 える影響が拡大したことにより、企業姿勢が問わ れる時代になっていった。

1990年代

企業メセナ、1%クラブ 企業が社会に対してマイナスを引き起こす要因を 規制することから、社会に対するプラス(貢献)

の影響を与えるための取り組みを促進する動きが でてきた。売上の一部を寄付することや、文化芸 術への貢献活動が多く行われていた。

2003年~

CSR元年 経済同友会『「市場の進化」と社会的責任経営』

が公表され、CSRの議論が活発になった。CSR は、企業と社会の相乗発展のメカニズムを築くこ とによって、企業の持続的な価値創造とより良い 社会の実現を目指す取り組みである、と定義され ている。

2010年~

戦 略 的 C S RC S V

(Creating Shared Value) CSRを経営の中核にすべきである、という認 識 が 広 が り、M.E.ポ ー タ ー が 提 唱 し たCSV

(Creative Shared Value)の概念がきっかけとな CSRとビジネスをいかに統合させていくのか、

といった視点も入ってくることとなった。

2015年~

コーポレートガバナンス コード、ESG(Environment Social Governanceの頭文 字)投資

短期的な利益だけではなく、より精度の高い多 面的な企業評価を投資家が望んでいることなど から、2013年にIIRCにより統合報告のフレーム ワークが公表された。財務情報だけではなく非財 務情報の開示も求められるようになってきた。

筆者作成

(3)

(2)人材育成の側面から見る CSR 活動

東京財団が企業に対して行った第3CSR企業調査(3)によると、CSRに取り組ん でいる企業の80%、165社の企業が人材育成に取り組んでいるという結果となってい る。このアンケートでは、CSR担当者への育成施策と、担当者以外とに分けて質問し ている。その中で、CSR担当者向けとして多かったのが「社外研修に参加」、「国内の プログラムにリーダーとして参加」、「国外のプログラムに一員として参加」であった。

この回答からも分かるように、CSRにおける人材育成とした時、そのほとんどの場合 が、CSR担当者が外部の研修に参加し、それを社内で展開しているものとなっている。

さらに、その効果を検証するため、人材育成実施企業と未実施企業で、社会課題に対 する関心状況や、社会課題に対する解決の取り組み実践に与える影響について変化が あるか見てみると、具体的に新たな社会課題の検討や創出に繋がっていないことが数 値から読み取れた(倉持、亀井 2016)。

企業で一般的に実施されているCSRに関する研修について、一定の効果は得られる ものの、企業における社会への貢献と事業への貢献の統合という観点から見た時に、

その効果は限定的であると言わざるを得ない。CSRの視点、つまり、自身の仕事の中 で、社会への貢献と事業への貢献を考えることのできる人材の育成にはまだ繋がって いないのだろう。

(3)ワークプレイスラーニング研究の概念整理と本稿の仮説

では、どうすればCSRの視点をもった人材を育成することができるのか、筆者が着 目したのが企業における人材育成を研究するワークプレイスラーニング研究である。

ワークプレイスラーニング研究とは、「個人や組織のパフォーマンスを改善する目的で 実施される学習、その他の介入の統合的な方法」(中原、荒木 2008)であるとされ、企 業研修や職場でのインフォーマルな学習を含む「企業の人材育成施策活動」について 研究している。その企業の人材育成において、近年注目されているのが、企業や職場 などの境界を超えて学習する越境学習だ。背景として、IT化による社会環境の大きな 変化と、イノベーションの必要性が高まっていることが挙げられる。IT化が進んだこ とにより、共通の興味関心に基づいて今まで会ったこともない人々が簡単に繋がり、

コミュニティや勉強会などがあらゆる所で出現するようになってきた。個人の人脈が 多様化していく中で、改めて職場における学習を捉え直そうとする動きが生まれてい る。また、特に大企業においては、めまぐるしく変わる社会の変化への危機感から既 存のやり方にとらわれない、部門や組織、あるいはセクターの境界を越えた新規事業 の開発など、変革と創造が求められている。以下、表 2が荒木によるワークプレイス ラーニング研究の分類である。荒木は、物理的な職場の枠を超えて拡大しているワー クプレイスラーニングに関する先行研究を、(1)研究が依拠する学習観と(2)研究が 対象とするワークプレイスラーニングの境界、に基づき整理している(荒木 2008)。

基本的な軸として、ワークプレイスラーニングには組織志向と越境志向があり、組 織志向は、例えば企業内での集合研修やOJTなど所属している組織での学習であ り、越境志向は、組織を超えた場での勉強会やウェブ上でのコミュニケーションな ど多様な人材が存在する場での学習を指す。そして、経験による内省学習と参加学

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習という軸でさらに分類している。経験による内省学習は、デービット・コルブの 経験学習モデルからきており、これは知識習得の学習と区別される。コルブによる と、人は実際の経験を通し、それを省察することでより深く学べるという考え方に 基づいており、(1)具体的経験(Concrete Experience)、(2)内省的観察(Reflective Observation)、(3) 抽 象 的 概 念 化(Abstract Conceptualization)、(4) 能 動 的 実 践

(Active Experimentation)という4段階の学習サイクルを経験学習モデルと言う(Kolb 1984)。また、参加学習観は、その場への参加を通して学習することを指し、状況的学 習論が当てはまる。その特徴は、レイヴとウェンガーが提唱した正統的周辺参加に見 ることができる。正統的周辺参加の枠組みでは、学習者は熟達者の所属する実践共同 体(Communities of practice)に所属し、最初は共同体の周辺から、その中で熟達に応 じた役割を果たしながら、共同体への参加を深めていくことが学習の筋道であり、熟 達と共同体への参加、そして成員のアイデンティティーの獲得を三位一体として捉え ることに特徴がある(Lave & Wenger 1991)。例えば、レイヴらが観察した西アフリ カ・リベリアの仕立屋では、徒弟は衣服製造の仕上げ(ボタンを付けるなどの工程)

表 2 ワークプレイスラーニング研究の 4 類型と代表的な研究事例

職場志向 越境志向

経験による内省学 習観

Ⅰ 職場経験アプローチ

経験による内省という学習観にたち、その ような学習を促す環境を、主に個人が所属 する職場に着目して分析を行う研究アプ ローチ。

経験から学ぶ個人に資質に着目した研究

(楠見1999、Mitchell、Levin & Krumbolz 1999、Rothwell 2002)や、リーダーや熟達 社の仕事経験に着目した研究(社団法人関 西経済連合会人材育成委員会2001)、経験 から学ぶための組織的文脈に着目した研究

(松尾2006、谷口2006)、職場での経験学

習の支援に着目した研究(Ellinger & Keller 2003、Ellinger 2005、Kram 1998、Seibert 1999)などがある。

Ⅳ 越境経験アプローチ

経験による内省という学習観にた ち、そのような学習を促す環境を、

職場やそれ以外の共同体への参加 に着目して分析する研究アプロー チ。

実 証 的 研 究 と し て、(Viskovic

2005、酒井、八重樫、久松他2006)

などがある。

参加学習

Ⅱ 職場参加アプローチ

参加による学習という学習観にたち、その ような学習を促す環境を、職場やそれ以外 の共同体への参加に着目して分析するアプ ローチ。

状況的学習論の立場から、冷凍冷蔵の仕事 や旋盤工場での仕事といった技能系職場や、

古典芸能のような伝統的師弟制の職場につ いて分析した研究(上野1999、福島1995、

2001)や、ホワイトカラーの職場を対象に、

職場への参加について分析した研究(Billet 2001、Lohman 2005、Wenger 1998) が あ る。

Ⅲ 越境参加アプローチ

参加による学習という学習観にた ち、そのような学習を促す慣行を、

職場やそれ以外の共同体への参加 に着目して分析する研究アプロー チ。

複 数 の 実 践 共 同 体 へ の 参 加 に 着 目 し た 実 証 的 研 究(Engestrom 1987、Engestrom & Karkkainen 1 9 9 5、G h e r a r d i & N i c o l i n i 2002、Tagliaventi & Mattarelli 2006、Wenger 1998、Wenger McDermott & Snyder 2002)など がある。

出典:荒木2008、126

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から仕事を覚え、それが問題なくこなせるようになると生地を縫うこと、さらに生地 の裁断というように製造ステップとは逆の順番で覚えていく、ということが行われて いた。この場合、学習者は製品にしても全体の活動を壊してしまわないように業務経 験が配列・付与され、配列自体に既に学習が埋め込まれているのである。このように、

学習とは、職場に様々な形で埋め込まれている機会と個人が業務を通じて接点を持ち、

生起するものであるとするのが、状況的学習論である。

これを参考に筆者がCSR活動を分類したのが、表 3である。先述したCSR担当者 が外部研修を受け、それを社内に展開しているのが、左下の「職場参加アプローチ」

である。ここでの課題は、知識を得る場としては機能しているものの、それを現場に 活かすというところまでは至らないということである。筆者が、知識を実践に活かす ために必要なアプローチは、右上の「越境経験アプローチ」でのCSR活動ではないか と考えている。それは、CSRの視点をもち、事業性と社会性を統合させていくために は、知識を得るだけではなく、その後、自身の業務においてどのように活かすことが できるのか、内省し、実践する実践知(4)が必要であると考えているためである。つま り、形式知から暗黙知への転換が必要である。組織内にいるだけでは、社会からの目 線で企業を見ることは難しい。だからこそ、一度組織を出て、社会課題へ向き合う経 験をし、事業への内省を行う経験学習が必要なのではないだろうか。エンゲストロム によると、他者との越境的な関わりの中で、自分自身の相対化、視野の拡大、新たな ものの見方の獲得などが進行するプロセスが存在する(Engeström 1995)。また、石 山は越境先の勉強会での学びを自社に持ち帰り応用するプロセスにおいて、①専門性、

②ノットワーキング(関係性を結ぶ)スキル、③共同体スキル(共同体の運営に貢献 する)、④還流スキル(反発を織り込みつつ、学びを自社に展開する)、を学ぶことを 明らかにしている(石山 2013)。以下で、越境的な実践(越境経験アプローチのCSR 活動)によって個人がどのように変化したのか、分析・検証を行っていく。

表 3 人材育成の側面から見る CSR 活動の 4 類型

職場志向 越境志向

経験による 内省学習観

Ⅰ 職場経験アプローチ

学生向けアイデア・コンテスト

職場体験プログラム

Ⅳ 越境経験アプローチ

事業を通じたボランティア活動

個人のスキルを活かしたプロボノ

参加学習観

Ⅱ 職場参加アプローチ

職場周辺の清掃活動

社有林などでの植林活動

Ⅲ 越境参加アプローチ

個人で参加する勉強会やボランティア

• PTA活動などの学校に関連する活動や地域 コミュニティでの活動

出典:荒木(2008)の類型をもとに、筆者作成

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3. 分析方法

(1)越境経験アプローチの分析

越境経験アプローチによる実証的な研究は、非常に限られている。そのため、荒木 の論文においても、越境経験アプローチによる学習の研究蓄積の必要性が述べられて いる(荒木2008)。ヴィスコヴィックは、教師の教授スキルやアイデンティティーが、

制度的な学習よりも、様々な実践共同体(部門やチーム、キャンパスや作業グループ など)での経験を通じたインフォーマルな学習によって行われていることを指摘して いる(Viskovic 2005)。また、酒井らは、教師のメディア・リテラシー学習を支援する オンライン学習プログラムを開発し評価した。そのオンライン学習プログラムを通し て、教師らは職場を越境し、メディア・リテラシー研究者やメディア業界に勤務する 人々などとの相互作用の中で、メディア・リテラシーの理論的背景といった知識を獲 得し、内省を行っていた(酒井、八重樫、久松他2006)。酒井らは、分析対象となる 発言とオンライン学習プログラムでのコンテンツに相関性があるかを検証し、実際に 相互作用を行った参加者に対し、半構造化インタビューを行い、分析を行った。

(2)分析手法

越境経験アプローチとは、経験による内省という学習観にたち、個人の熟達を促す 経験に着目している。その特徴から、分析する事例の要件として、実践の場が組織外 であり社会課題を身近に感じることのできる場(NPOや社会福祉法人、養護施設など)

であること、社内の様々な部署から参加すること、その場で達成しなければならない 目標、出さなければならない成果などが存在するプログラムとした。プログラム担当 者に、半構造化インタビューを行い、また参加者をランダムに抽出し、アンケートま たはインタビューを行った。そこから共通となるキーワードを抽出してカテゴリ化し、

まとめた。

今回、分析を行った企業は4社である。どの企業も対象となるプログラムを積極的 に実施しており、先進的な事例としても取り上げられることの多い企業である。選定 の理由として、プログラムを5年以上継続していることが挙げられる。人材育成の成 果を明らかにするため、ノウハウや、プログラムに参加した社員の数などが蓄積して いる必要があったため、プログラム継続5年以上とした。企業概要とプログラム概要 を表 4に示す。

4. 仮説検証と考察

越境経験アプローチのCSR活動を行っている4社、6名の担当者と13名の参加者、

合計19名へのアンケート及びインタビューの実施から、個人の変化に関して表 5に示 す変化が見られた。そして、越境経験アプローチでのCSR活動が個人にもたらした変 化を参加前(従来の会社での環境)と参加後として対比させ、インタビューやアンケー トから得られた発言を一部抜粋し、掲載している。また、その発言から変化の程度に

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表 4 分析対象企業のプロフィールとプログラム概要

株式会社A 株式会社B 株式会社C 株式会社D

業 種 電気機器 電気機器 電気機器 化粧品

従業員 22,235名(単体)

98,726名(連結) 16,986

(単体) 249,520

(連結) 703

本社所在地 東京都 東京都 大阪府 神奈川県

プログラム開 始時期

社会起業家支援プログ  2002ラム

プロボノ・プログラム  2010

2008 2011 2008

プログラムの ねらい

社会起業家支援プログ

ラム社会課題に事業で取り 組む事業型NPO・ソー シャルベンチャーの育 成と人づくり

新市場の開拓

イノベーション創出の場

新しいビジネスパート ナーの育成

優秀な人材の雇用

■プロボノ・プログラム

社員のスキルを活かし た社会貢献

社員が生活者の感覚を 磨き、社会感度を高める

社員のスキルや ノウハウを活か した社会貢献 

参加する社員自 身の成長促進

ビジネスにおけ る新市場の開拓

グ ロ ー バ ル な リーダーシップ の醸成

社員のスキルや 経験を活かした

・ NPO社会貢献の事業展開 力強化の支援(社 会課題解決の促 進に寄与)

社員のイノベー ションマインド の向上

ハンディキャッ プをもつ人たち や地域との交流

従業員に多様な 視点を内在化さ せること創業理 念の実現、体現

内 容

社会起業家支援プログ

ラム組織、事業の立ち上げ と運営を通じて学ぶ実

践的研修メンター制度とコーチ ングによるOJT

問題解決力とマネジメ ント力の養成

広報支援

■プロボノ・プログラム

ビジネスプランニング

・ BtoBマーケティング

マーケティング基礎調査

・ ITコンサルティング

システム構築のための 要求定義・仕様設計

ウ ェ ブ サ イ ト の リ ニューアル

トレ ー ニ ン グ・

プログラムの創

ウェブサイトの

構築人脈づくり支援

経営情報システ

ムの開発中期計画の策定  等

ちらしやウェブ サイトなどの情 報発信ツールの

制作事業の新規施策

提案マーケティング

基礎調査営業資料作成

業務フローの設

事業計画立案 

メイクセミナー

健康セミナー

身だしなみセミ

ナーメイク&ハンド マッサージサー ビス

参加者のべ人

128 2,500

(世界)112

(日本のみ)

127 222名(2015年度)

250名(2014年度)

185名(2013年度)

活動期

社会起業家支援プログ  約ラム7ヶ月

プロボノ・プログラム   3時間を4~6ヶ月程

1ヶ月(別途、赴任 前 にMTGや 課 題 がある)

短 期~ 長 期 ま で3 つのコースを設定

5時 間 を6

・ 3ヶ月

・ 12日 の 合 宿 形式

プロジェクトによっ て異なるが、年間 を通して実施

担当者インタビューや提供資料をもとに筆者作成

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ついて評価した。

今回の分析によって、大きく分けると価値観と働き方に関して変化が見られた。既 存の組織に所属しながら、別の組織の一員として、自身のスキルを発揮する経験によっ て、個人の影響範囲(役割範囲)が拡大し、今までの組織では求められなかった成果 を出さなければならない状況が発生したことによって、これらの変化が引き起こされ たと考えられる。

まず、価値観の変化の中で、最も支持された変化は、自分の考え方の限界や異な る価値観を認識したことによる「多様な価値観の受容」である。A社で実施したプロ グラム後のアンケート(128名中70名が回答:回答率54.6%)では、その中の67

(95.7%)が「視野が広がったり、新しい発想が生まれたりした」という項目に肯定し ている。そして、C社におけるプログラム実施後のアンケートにおいても、約80%の 参加者が「自分の視野が広がった」という感想を記入している。また、その後のイン タビューからは「今まで常識と考えてきたことを見直すきっかけになった」や「(自 分自身の)考え方のベースが狭い世界のものだと痛感した」など、単一のあるいは偏 りのある価値観であったという気付きを得ているということが分かった。プロボノな どの活動は、普段自分の環境とは異なる場所へ行き、初めて会った人たちと交流しな がら、成果を出すことを求められる。つまり参加者自身も実際に何が起こるのか、予 測できない。そこから起きる事象としては、予期しないものを経験するある種のカル チャーショックである。そこで、参加者は自分の考えがいかに狭かったか、自分が常 表 5 越境経験アプローチの CSR 活動による変化の内容

参加前 参加後 評 価 コメント(一部抜粋)

社会に無関心 社会への関心が

高まる

プログラムを経験して以来、ソーシャルビ ジネスに興味を持ち、参加メンバーと一緒 に任意団体を立ち上げ勉強会を開催してい る。

単一の価値観

で判断 多様な価値観の

受容

今まで常識と考えていたことを見直すきっ かけになった。

自分が普段依拠している考え方のベースが 狭い世界のものだということを痛感した。

タテの関係性 ヨコの関係性の

構築

他国の社員とのグローバルネットワークが できたことで業務に役立っている。

他組織、他部署の社員と交流できたことが 財産。

指示待ち リーダーシップ

の発揮

組織運営のトラブルの際、調整能力・スキ ルが高まったような気がした。

プログラムでの経験を活かし、部署横断プ ロジェクトのリーダーを務めた。

仕方なく組織

にいる 組織エンゲージ メントの向上

自分の仕事の幅を広げることができたの で、仕事に対するモチベーションが高まっ

た。企業理念をより意識するようになった。

筆者作成

(9)

識だと思っていたことは違うかもしれない、という気付きを得ることが分かった。

次に、参加者に見られた変化としては、「社会貢献意識の向上」である。参加者の参 加動機として、社会貢献への興味、上司からの勧めや仕事での変化に対する悩み、未 知なるフィールドへの好奇心、自身の成長への期待など様々な理由があるが、プログ ラム後に社会課題への関心が高まったという参加者が多かった。また、プログラム後 に、新たに社会活動を始めているケースが多く見受けられた。例えば、NPOスタッフ、

あるいは関わった団体の会員になるなどのソーシャルセクターでの活動や、会社の行っ ているその他の社会貢献活動への参加、大学院や高校などの授業での講演、地域活動 への参加などである。B社やC社の担当者インタビューでは、社会貢献活動に対す る積極的な提案を行ってくれる人が増えているということも分かった。特に、学校や NPOと連携した活動の提案も多く、組織内にいるだけでは生まれてこなかった発想が 生まれるきっかけとなっている。一方で、参加が希望制であるため、もともと社会貢 献意識の高い人材が集まっていることも考慮すべきである。社会への関心が高まるこ とは示されたものの、無関心の状態から変化したかについては、判断ができかねる。

働き方の変化について、最も顕著に現れたのが「ヨコの関係性の構築」である。特 に、社内の関係性構築に寄与していることが読み取れた。具体的なネットワークが形 成されているケースや、顔見知りが増えたというケースまで様々あるものの、プログ ラム終了後のネットワークについてはSNSでお互いの近況などは分かるような状態に なっていることが多いようだ。各社のプログラムでは、多い時には10~15人、少な い時には2~3人でチームを組み、自分たちのスキルを活かしながらも、NPOや途上 国など未知の分野で活動するため、より深くお互いを知ることになる。企業にいると、

その関係性の多くがタテの関係性である。この活動に参加することにより、部署を超 えたヨコの関係性を構築でき、参加者自身の人脈が多世代且つ多職種なものへとシフ トしていることが分かった。

次に、関係性の構築よりは評価が下がるものの、「リーダーシップの発揮」も参加後 の変化として抽出された。多様なバックグラウンドをもつ人材が集まるチームでの経 験は、前述した多様性への受容を促すとともに、主体性も引き出すのではないだろう か。参加者のアンケートやインタビューにおいても、組織に対してより積極的な働き かけをするようになった、という回答や、プログラムでチームをまとめた経験を活か して、部署横断のプロジェクトのチームリーダーになったという発言も見られた。多 様な価値観を受容するとともに、特にヨコの関係性の中では、参加者自身も自己開示 の必要が生じ、自ら関わっていく姿勢が生じたと考えられる。

最後は、「組織エンゲージメントの向上」である。これには、モチベーションが高 まったという発言や、プログラムに参加したことで組織の人の優しさをより実感した、

などの発言が含まれる。またD社の参加者の中には、普段は新規事業の開発を担う部 署で仕事を行っているが、実際にその事業のターゲットとなりうる人たちへの支援活 動を通して、自分のやっている事業は何のためにあるのか、社会的な意義について考 えられていなかったという気付きを得た、という発言も見られた。普段の業務におい て、自分の仕事が誰のどんな役に立っているのか、考える機会はあまりない。一度、

組織を離れる場に参加することで、自身の業務を客観的、俯瞰的に考える機会となる

(10)

ことが読み取れた。しかしながら組織エンゲージメントを向上させる効果が見られる 一方で、逆に作用する場合も少なくないことが、担当者のインタビューで明らかになっ ている。組織へ入った時から組織風土に合わせた社会化が進められている中で、越境 によって異化された人材を、どう組織の中で活躍させていくかということについては、

依然として課題が残っていることが分かった。

5. おわりに

本研究では、越境経験アプローチでのCSR活動によって、参加した個人に「価値観 の変化」と「働き方の変化」が起こったことが窺えた。しかしながら、今回のアンケー ト及びインタビューの結果は、参加者の一部に過ぎない。今回は、プロボノ、つまり 自分のもつ専門的なスキルを活かした社会貢献ということもあり、内省が促されやす かった(藤澤、香川 2016;藤澤 2016)としても、それでも経験による内省というアプ ローチを参加者全員がしたとは考えにくい。つまり、まだ個人よって変化には差があ ると言わざるを得ない。石山は、越境先で得た実践(知識)を所属組織に媒介・伝達 するナレッジ・ブローカー(5)が、知識の仲介を成立させる要因の一つとして、組織文 化との関連を指摘している(石山2016)。CSRの視点をもった人材を企業が育成する 場合、その意図を明確にもちながら、社外で得た経験を内省するようにプログラムを 設計し、さらに実践の場を提供する必要があるのではないだろうか。

これからの企業競争力を考えても、社会課題起点のビジネスがこれからは非常に価 値をもつ。大切なのは、現場における実践であり、知識移転で終わらないことが必要 である。知識だけに留まらず、自分のスキルを社会へ活かす経験や、事業を社会課題 解決へ活かす経験を併せて提供すべきであり、またそれに対する社内評価を上げてい くことで、個人の役割変革を促し、かつそれが組織の変化へと繋がっていくと考えら れる。

■註

(1) 2011年に国連人権理事会は「ビジネスと人権に関する指導原則」を全会一致で承認した。

また、各国でも拘束力のある国内法の整備も進みつつある。特に、2010年には米カリフォ ルニア州の「カリフォルニア州サプライチェーンの透明性に関する法律」が制定され、

2015年には英国で「現代奴隷法2015」が成立した。

(2)荒木が示したワークプレイスラーニング研究の4類型のうちの1つ。職場志向と越境志向 があり、そのうち経験学習観と参加学習観に分けられる(荒木 2008)。本稿、第2章(3)

で詳述している。

(3)3CSR調査は、201581日~1031日の期間で行われた。上場企業や大手上

場企業2,000社にアンケートを送付し、205社の回答を得ている。回答企業の平均として、

売上高11,270億円、経常利益742億円、従業員数24,000人となっている。大企業

がほとんどだが、中には従業員10名に満たない企業も含まれている。

(4)金井は、仕事の熟達者が獲得する実践知の特徴として、個人の実践経験によって獲得され ること、仕事において目標指向的であること、仕事の手順や手続きに関わること、実践場 面で役立つこと、の4つを提示している(金井 2012)。

(5)ウェンガーは、同時に複数の実践共同体に参加している状況を多重成員性と定義し、そ

(11)

の多重成員性を有しながら自分が所属する実践共同体における実践を他の伊実践共同体 へ仲介・伝播する存在を、ナレッジ・ブローカー(知識の仲介者)と呼んだ(Wenger 1988,2000)。

■引用・参考文献

浅川和弘、2003、『グローバル経営入門』日本経済新聞社

荒木淳子、2008、「職場を越境する社会人学習のための理論的基盤の検討 ─ ワークプレイスラー ニング研究の類型化と再考 ─ 」『経営行動科学』21(2)、119128

荒木淳子、2009、「企業で働く個人のキャリアの確立を促す実践共同体のあり方に関する質的研 究」『日本教育工学会論文誌』33(2)、131142

荒木淳子、2016、「かかわりのなかでとらえるキャリア開発入門 複数の空間を横断するキャリ ア」『企業と人材』8月号(産労総合研究所)

荒木淳子、2016、「かかわりのなかでとらえるキャリア開発入門 パラレル・キャリアとキャリ ア開発」『企業と人材』9月号(産労総合研究所)

石山恒貴、2013、『組織内専門人材のキャリアと学習 ─ 組織を越境する新しい人材像 ─ 』日本 生産性本部 生産性労働情報センター

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表 4 分析対象企業のプロフィールとプログラム概要 株式会社 A 株式会社 B 株式会社 C 株式会社 D 業 種 電気機器 電気機器 電気機器 化粧品 従業員 数 22,235 名(単体)98,726名(連結) 16,986 名(単体) 249,520 名(連結) 703 名 本社所 在地 東京都 東京都 大阪府 神奈川県 プログ ラム開 始時期 ■  社会起業家支援プログ 2002ラム年■ プロボノ・プログラム  2010 年 2008 年 2011 年 2008 年 プログ ラムの ねらい ■  社会

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