パロディジャケット ジャズ編
私の気付いたものは氷山の一角でしょうけども、ジャズのアルバムジャケットの遊び心を紹介します。 「レコジャケジャンキー!」(音楽出版社、2006, 2010)に触発されて小文を書いております。題材が一 部重複するところがあります。ジャケット鑑賞で充分なもの(?)と、音楽も鑑賞すべきものとの区別 がありますので、あまり意識せずにこちらでも取り扱って、演奏や録音を語ります。 パロディは、元ネタが有名であることが前提で、かつデザイナーの美感と創造力をくすぐる題材であ ることが必要です。ポビュラーミュージック界のビートルズに相当するのは、ブルーノート(以下 BN と略)レーベルの、いわゆる 1500 番台と 4000 番台になります。題材を並べていたら半分以上が BN 関 連でした。その秘密はあとでお話します。組み写真の左がパロディ、右がオリジナルです。【図下左2枚】 Warren Wolf Jr. の “Incredible Jazz Vibes” (2005)(左端)は Wes Montgomery の “Incredible Jazz Guitar”(左2枚目)のパロディです。vib と g とで楽器が異なりますが、よく似せてあり ます。おふざけなジャケットの割りには中身は真面目です。むしろかなりよい部類です。Mulgrew Miller (p) が参加した、軽快なカルテットの演奏です。というか、彼が発掘したらしい。#1: I Hear a Rhapsody か ら vib 全開。Wolf は新人ですが vib 大変上手いです。速弾きもバラードもいけます。Overjoyed とか Chan’s Song のように昨今のスタンダード風を演っているほか、Four on Six を入れるあたり、コンセプトには一 貫性があります。Wolf は Christian McBride (b) の新作 “Kind of Brown” (2009) にも参加していました。 これもなかなかよいです。現代モダンジャズの本流です。おや? この表題も ”Kind of Blue” を意識し てのことですね。
【図上右3枚】 Joey DeFrancesco (org) の “Finger Poppin’ ” (2009) のジャケ写(右から3枚目)には 思わずニヤリとしてしまいました。笑顔まで似せたつもりなのでしょう。ジャケット元ネタは、同題名 で Horace Silver (p) “Finger Poppin’ ”(右から2枚目)。CD 全面にプリントが施してあり、“Horace-Scope” のジャケットを真似るというところまで細かい芸を見せています。ただし指パッチンしています(図右 端)。これは snapping であって、popping ではありません、念の為。DeFrancesco は白人だけどもファン キー度が高いオルガニストで、Miles Davis の最後の録音で競演していた方です。これまたファンキーの 伝道師 Silver の曲を全編にわたり Hammond B3 でカバーしました。ついでにカバージャケットもカバー してしまったわけです。org が b を兼ねて、org, ts, flh, ds という変則カルテットになります。org ジャズ には g が必須だよ、というコテコテ派には物足りないかもしれません。ファンキー度を抑制して、1曲 目 Strollin’ からレイジーな雰囲気を醸し出しています。Jody Grind、Finger Poppin’、Filthy McNasty に進 むとだんだんドライブしていきます。曲想には逆らえません。Peace は DeFrancesco の方がいいかな。む
しろ Silver はバラードがイマイチというべきでしたね。org ジャズは色物だと思っているそこの貴兄、 再評価してみませんか。
【図下】 もう一つ org 作品、James Taylor Quartet (JTQ) の “Hammond-ology” (2001)(図左端)は Donald Byrd (tp) の “A New Perspective”(左2枚目)のパクリです。James Taylor という同名のシンガー・ソン グライターもいますが別人です。アシッドジャズ本家のイギリスのバンドによる2枚組みのアンソロジ ー・ベスト盤です。グルーヴィで、それでいてしつこくない。アコースティック色が強く、いいフィー リングのアドリブラインもあります。Mission Impossible やスタスキー&ハッチのテーマなどを料理して います。歌物もあります。辛口ジャズリスナーはあまり聴かないタイプの音です。イージーリスニング と割り切って、ドライブに連れて行くとよいでしょう。
“A New Perspective” はコーラスを取り入れたやや実験的な作品で、好みの分かれるところです。荘厳 な雰囲気に包まれ、マーティン・ルーサー・キングの葬儀に使われたことが理解できます。Cristo Redentor は名曲です。Duke Pearson (p) の作曲です。いろいろな方が演奏していますが、Byrd と Pearson による 録音では、コーラスがスローな曲想に大変にマッチしています。
“A New …” のジャケットは BN のデザイナー Reid Miles の自選 No.1だそうです。このジャケットに 関わるパロディが多いのもむべなるかな、ジャガーと思われる車のヘッドライトという題材と、遠近法 (“perspective”;駄洒落なのです)を強調した写真の構図にはインパクトがあります。アートとして十 分やっていけます。デザインに興味ある人なら彼の作品には一目置くことでしょう。特徴を挙げれば: 1.大胆に切り取った写真、 2.分割した構図、 3.絵柄化したタイポグラフィー、 4.広い無地部分、 5.繰り返し紋様(場合による)。 かっこいいですねぇ。BN のジャケットの写真だけ集めた本が出ているくらいですから。
同レーベルから “Blue Note Revisited” (V.A. (Jazzanova, Kyoto Jazz Massive etc.), 2004)(図3枚目)に、 同意匠、ただし女の子写真が使われています。“Loc’ed after Dark” (1989) に至っては、ラッパー Tone-Loc の作です(4枚目)。デビュー作でビルボード1位とのことで、それゆえ知名度を押し上げました。こ の音は私の耳にはちょっと合いませんでしたが。Hank Mobley “A Caddy for Daddy” (1965)(図右端)は Reid Miles のセルフパロディに相当するかと思います。題目「パパにキャデラックを」からおわかりの ように、車はキャデラックです。演奏は Lee Morgan (tp) と Curtis Fuller (tb) という当時の BN ハウスミ ュージシャンを従えたハードバップです。
【図下左3枚】 よく真似されたジャケットとしては、Miles Davis (tp)/Cannonball Adderley (as) の “Somethin’ Else” もあります。1595 番といえば説明不要ですね。Autumn Leaves の tp から as のバトンタ ッチのところなんかが、個人的には痺れます。このデザインはタイポグラフィーだけですので単純です。 でも実際に真似て作ってみると、空間のバランスが絶妙であることに気付くのです。Jay Geils (g)(Freeze Frame や Centerfold「堕ちた天使」(1981) で Best Hit USA 世代には記憶のある J. Geils Band の)がジャ ズを演ったという “Jay Geils Plays Jazz !” (2005) が、その一例(図左)。やはり、オリジナル(図左2枚 目)の方が、上部の空間の残し方と配色に気品があって、デザインとしては軍配が上がる気がします。 “Routine Jazz Presents: Nouvelle Vague” (2007)(図3枚目)は国内クラブジャズのコンピレーション物で す。色使いは改善されています。BN ロゴまで真似しています。この中に採録されているカルテット Quasimode は現在 BN 契約ですから大目に見てもらっているのかもしれません。
【図上右2枚】 さらに、“Nouvelle Vague” に紹介されている Fascinations という渡辺雅美 (vib) のユ ニットが個人的にはイケてると思っています。彼らの演奏では、Horace Silver (p) の St. Vitus Dance、John Patton (org) の Latona、Lee Morgan (tp) の Sidewinder などアシッド向きのチョイスが多かったのですが、 “My Funny Vibraphone” (2007) (図右から2枚目)では硬派志向を強めました。しかし、このジャケット の元ネタは、レアグルーヴの俗な逸品 Dem Tambourines を収録した Don Wilkerson (ts) “Preach Brother !” (図右端)。この他にも、Herbie Hancock (p) “Takin’ off” や Jackie McLean (as) “New Soil” のジャケット を彷彿とすると見る方もいるでしょう。先に述べたデザインの共通の特徴を満たしているからです。そ れから、Fascinations の “Soulful Strut” のジャケットは Wilkerson の “Shouting’!” に似てなくもない。『ジ ャズっぽい』ジャケットといえば、BN=Reid Miles のデザインがデファクトスタンダードもしくは憧れ の的となっていると言っても過言ではないわけです。
ところで、ジャズでは演奏中にパロディが入ることは普通に行われます。コードさえ合えば、有名曲 のパッセージを紛れ込ませられます。クラッシック、流行り歌、先達のアドリブフレーズなどです。プ レイヤーは遊び心で楽しんでいることと思いますが、リスナーがニヤリとすることを期待しているフシ もあります。“My Funny Vibraphone” の楽曲中、#4: My Funny Valentine には If I Were a Bell のイントロが vib ソロの途中サビに登場します。#7: Someday My Prince Will Come も演られていることからしても、 Miles Davis を意識しているのは間違いありません。考えすぎかな?
【図下左3枚】 Ryan Kisor (tp) は Clifford Brown (tp) や Lee Morgan (tp) をアイドルにしているようで、 国内企画盤に Morgan のジャズロックの当たり曲を表題にした、“The Sidewinder” (2003) があります。写 真は裏ジャケットです(図左)。ラッパの左右の向きを除いて Morgan の表ジャケット(図2枚目)の意 匠そのままです。Kisor の録音は org, g, dr を含むカルテットで、グルーヴィで小気味よい演奏です(こ のリズムセクション構成は org トリオの正統派です)。冒頭曲 Candy は甘さを控えた演奏で、アルバム 全体を引き締めています。好感が持てます。伝統的リズムセクション p, b, dr ではありませんから、ハー
ドバップと言ってもすっかり別物です。同じインストの組み合わせで Kisor が続いて録音した “Donna Lee” (2004) もいいです。この連作の表ジャケ写は、どちらもオヤジ好みでうっかり『ジャケ買い』する ところですが(しっかりはめられた私)、残念なことに再発で違うデザインになりました。だからこの ジャケットは(当然裏面も含めて)現在では入手困難です。
“Blue Note Plays …” シリーズというのに、この The Sidewinder のジャケット意匠が使われています。 “Blue Note Plays Stevie Wonder” (Stanley Turrentine (ts) etc.) (2004) ではラッパのところが女の子の吹くシ ャボン玉になっています!(図3枚目)。BN 本社もなかなかユーモアのセンスがおありです。
【図上右2枚】 大友良英 (g) 率いる ONJO 名義の “Out to Lunch” (2005)(図右から2枚目)、アバン ギャルドジャズです。うねりに陶酔する人もいますが、私はあまり聞かないです。これのジャケットモ デルは同じ表題曲をあしらった Eric Dolphy (as, fl, bcl) “Out to Lunch”(図右端)。これは聴けます。この 時代の混沌と衝撃はよくわかります。音楽は一度空気に放たれるともう二度と取り戻すことのできない ということは真実ではあるけども、一方において、時代の証人としての録音も重要であることがわかり ます。
【図下】 ボーカリスト佐藤竹善のカバー楽曲集 Conerstones はなかなか興味深いです。彼はジャズプ レーヤーとの人脈があり、例えば Salt & Sugar(塩谷哲 (p) とのデュオ)は注目株でした。“Conerstones 2” (2002)(図左端)は Duke Pearson (p) “Wahoo !”(左2枚目) のパクリ。ラスト曲が (I Can Recall) Spain です。ご存じ Chick Corea (p) 率いる Return to Forever の当たり曲でして、歌詞は Al Jarreau (vo) 版です。 このジャケのチョイスはいささか玄人好みかと思います。“Wahoo !” は Pearson の品の良さが Donald Byrd (tp), Joe Henderson (ts) の黒さを包み込んだ好盤です。
“The Hits Cornerstones 3” (2004)(図中)は The Three Sounds (p trio) “It Just Got to Be”(図右から2枚目) のパクリ。この中で塩谷を含めた小曽根真 (p) オーケストラとの共演で Nat King Cole (vo) の Continental を演っていたりします。このパロジャケは差し替えられて入手困難になりました。使用許可の問題があ ったと報じられています。残念です。ところで、Fast 3 というグループが色違いで “The Grifter” (2006) (図右端)を出しています。org, g, dr のトリオからなるノリノリのファンクジャズです。辛口リスナー に言わせると overfunk(やり過ぎちゃった)と片づけられてしまいます。最新の “3’s Company: a Tribute to Grant Green” (2010) はかなりいいです。org と g で兄弟の息の合ったところを聴かせます。オルガニ ストにはパロディ好きが多いのでしょうか、紹介する頻度が高いですね。Three Sounds は Gene Harris (p) 率いる p トリオで、BN のドル箱の一つでした。ジュークボックスに置かれてダンスや BGM で聴かれ るタイプです。黒光りする音を「軽い」などと決して侮ってはいけませんが、作風にちょっと金太郎飴 的なところがあります。
【図下】 Pee-Wee Marquette (mc) のサンプリングに始まり Cantaloupe Islands のグルーヴに乗る US3 のシングルカット “Cantaloop” (1992)(図左端)は、当時ラジオで毎日流れるくらいに、売れに売れま した。これが BN から発売されていることを知ったときの驚きを思い出さずにはいられません。いまや これらも古典となりました。賛否両論ありながら、結局、現代ジャズの本流でありつづけることができ たという BN の時代を読む目はさすがです。ライナーノートによれば、US3 は無断で BN のサンプリン グをして、同社に見つかってしまって呼び出されたところ、叱られるどころか正式契約させられたとか。 表題曲は Herbie Hancock (p) から、グループ名は Horace Parlan (p) から、ジャケットは Hank Mobley (ts) (図中)から、MC は Art Blakey (dr) “Birdland” からのサンプリングです。ジャケのイラストではスペル 通りに環を描かせたところは独創です。ところで、パロディの本質は弱者が強者を揶揄することであり、 自分が権威側に回ったらそれは成立しないものなのです。だから BN 契約後の作品の人気は低迷したよ うに見えます。
なお、Beatnuts がデビュー盤で Mobley の “The Turnaround” の渦巻きをパロって以来、これがグルー プのロゴになったことでも有名です(図右、“Intoxicated Demons” (EP, 1993))。勢い余って尐し巻きすぎ ています。彼らはメジャーレーベルと契約しないのが身のためですよ、とアドバイスしておきましょう。 Mobley は悲しいかな二流テナーというレッテルに甘んじているようです。No Room for Squares や Recado Bossa Nova (The Gift) もダンサブルで、それが俗っぽく見える理由かもしれません。でも楽しい古き佳 き時代のジャズを聴かせてくれます。
【図下左2枚】 US3 のついでに、Horace Parlan の “Us Three”(図左端)。p トリオです。この George Tucker の熱い b を聞くと、まさに「煽る」という言葉の意味がわかります。若い頃にはこの “Us Three” 表題曲の1曲だけをヘビー・ローテーションで聴いていたものです。血が沸きます。このジャケットデ ザインも強烈です。そして、The Madness の “The Heavy Heavy Hits”(図2枚目)で真似されました。
【図上右2枚】 神格化された John Coltrane (ts) までパロられています!(“All of the Above” (J-Live, 2002);右から2枚目)。この時代はまだ神がかっていない頃だから、バチは当たらないでしょう。個人 的には Coltrane は、この “Blue Train”(図右端)および “Coltrane” や “Soultrane” (Prestige) がいい。溌 剌としていて、何といっても音楽が「わかりやすい」。J-Live は hip-hop のラッパー/プロデューサーで す。アシッドジャズムーブメントにおいては、「踊れるジャズ音源」(レアグルーヴ)の発掘作業が行わ れていました。その末裔である、hip-hop、house、techno、一部の rap が、偉大な先人たちへのリスペク トをジャケットデザインに込めることは当然の成り行きと言えます。故 Guru などが特にそうです。
【図下】 Joe Jackson “Body and Soul” (1984)(図1枚目)と Elvis Costello “Almost Blue” (1981)(3枚目) のアルバムジャケットはパロディの古典でして、あちらこちらで紹介されているものです。すみません、 小生、昔の Joe Jackson は “Steppin’ Out”「夜の街へ」、Costello は “Alison” と “She” を知るのみなので、 このパロディ盤は聴いていません。元ネタの方だけを紹介します。“Body and Soul” のネタ盤 ”Volume 2” (図2枚目)のリーダー Sonny Rollins (ts) は、言うまでもなく巨匠の一人です。ストイックなイメージ がつきまといます。サイドメンは、Horace Silver (p)、Thelonious Monk (p)、Paul Chambers (b)、Art Blakey (dr) で、ガチのハードバップ本流です。J.J. Johnson (tb) も加えて超豪華なクインテットの演奏です。 Misterioso では Monk と Silver のアプローチの顕著な違いが見えて面白いです。この盤は BN 1500 番台 で当然録音も古く、この Rollins 作品を選ぶあたり Jackson の音楽へのスタンスを反映しているのかもし れません。おかしいなぁ、Jackson は key で ts じゃないのだけど、構図の模倣は完璧です。
“Almost Blue” のネタ盤 Kenny Burrell (g) “Midnight Blue”(図右端)はソウルジャズの主流、Stanley Turrentine (ts) やときに Jimmy Smith (org) の参加のあった BN のハウスミュージシャンによるセッショ ンです。Burrell はブルージーな g の第一人者です。楽しいです。聴いていると勝手に体が動き出します。 一歩間違えるとコテコテに進むところですが、踏みとどまるところが BN の見識です。気に入った方に は、“Midnight Special” や “Back at the Chicken Shack” (Jimmy Smith) もどうぞ。海外のコンピレーション 盤(各 2 枚組)で、“Relaxin’ Blue”, “Smokin’ Blue”, “Feelin’ Blue”, “Evenin’ Blue” というシリーズがこの モチーフを使っています。midnight のところに …in’ が入ります。
【図下】 80 年代のアメリカンポップスはまさしく飛ぶ鳥を落とす勢いでした。私なんかは多分その ど真中世代です。そしてまた同時に一部にジャズへの回帰が始まった頃でもあります。時代はずっと下 りまして、Costello のライブ盤 “My Flame Burns Blue” (2006)(図左)は要チェックです。ジャケットは Miles Davis (tp) “Sketches of Spain”(図中)を思い起こさせると言ったらこじつけでしょうか。Duke Ellington (cond, p) “Anatomy of a Murder”(図右)にも近いものがあります。ジャズ転向については、堀 内孝雄のように、単に歳をとったのでロックがしんどくなったというのが真相かもしれませんが、なか なかどうしていい熱唱を聴かせます。Diana Krall (vo) を娶った効果でしょう。The Jazz Passengers とい うグループとも共演したりしています。おいぉぃ、使者じゃなくて乗客ですか…。The Jazz Passengers は sax+tb2管クインテットに vib や vo が入るグループです。若き日に胸を焦がしたあの Blondie の Debbie Harry (vo) ともコラボしているのです。90 年代のことです。
【図下】 レーベル主催のコンピ物の中からいくつかを紹介します。BN の “Blue Trails – The Rare Tracks” (1996)(図左)という企画物、ジャケ写真も前出 “Blue Train” の別テイクかな?と思いましたが、 サイズが違うだけのようです。Blue Train の別テイクが入っています。正規販売版に採用されたのはテ イク9 らしいです。なんといっても Trane に加えて、Curtis Fuller (tb)、Lee Morgan (tp) の三管フロント の威勢のいい演奏が聞けるなんて、BN は真にジャズの宝です。尐し前のことですが、前出 Autumn Leaves (Miles (tp)) にも未発表テイクが発見されて、web で公開されていましたね。
同一レーベルの編集物をパロディの範疇には含めるのは正しくないかもしれません。でも多くの傑作 のジャケ写真があります。“Blue Train” の構図に関連して、BN のリイシュー(再発)監督 Michael Cuscuna 自身の DJ による “Blue Cuscuna” (1999) もあります(図右)。非売品(CD 販促のおまけ)で流通が尐な いと思いますので、スキャンしたものを貼っておきました。別テイクが日の目を見られるようになった のはこの人のおかげです。感謝。
【図下】 評論家油井正一の生前の声が聞こえる、“Amazing Shoichi Yui” (1998,99) が LP からの復刻 CD として蘇りました。BN クラブ内で配布されたものです(Vol.1, 左から1枚目;Vol.2, 3枚目)。DJ と 呼ぶと昨今では違う作業を想像しますが、DJ 油井は、当時彼の持っていたラジオ番組のパーソナリテ
ィの口調で曲を紹介していきます。ビギナー向けの解説です。当然、Vol. 1 では “Amazing Bud Powell Vol. 1” (Bud Powell (p);図左2枚目) の Un Poco Loco(ウンコポロポロと読んではいけない)から、Vol. 2 で は “Cool Struttin’ ” (Sonny Clark (p);図右端) の表題曲から開始します。日本人は p トリオが好きという のが定説ですね。それぞれ 83,84 年の収録で、BN レコードの活動休止 79 年までの解説です。活動再開 は 84 年のことです。
【図下】 ついでながら、“Cool Struttin’ ” よりもっと脚線美を見せてもらえるものに、“Blue Note by Request” (2009) というのもあります(図左)。本稿で紹介している曲のかなりの部分を含む2枚組コン ピレーションです。はじめて BN レーベルを聴く人にとっていい入門盤です。1 位は何でしょう? Autumn Leaves でした。シャンソンの枯葉をジャズ曲にしたこの功績は大きいですね。Cool Struttin’ は 5位でした。ジャケットから入る人が多いということでしょう、楽曲としてはちょっと評価低いようで す。もっとも、海外ではこの盤はあまり人気ないと聞いたことあります。それから “Yule Struttin’ ” (V.A. (Dianne Reeves (vo), John Scofield (g) etc.), 1990) もあります(図中)。クリスマス用コンピです。コンピ ゆえにまとまりに欠けていますが、その時期になったら聞いてみるもの悪くないでしょう。ソウル/フ ァンキージャズの一部のルーツはゴスペルなので違和感はないのですが、せっかくならその方面のコン ピにしてしまえばよかったのにと思います。そういう企画盤だったら今はゴマンとありますけどね。
最後は、他レーベルのパロディ盤、Ron Holloway (ts) のリーダー作で “Struttin’ ” (1995; Milestone)(図 右)。野太くて柔らかい Rollins 系 ts でスタンダードを演じています。Lonnie Smith (org)、John Scofield (g)、 Kenny Barron (p) 等々も曲目により入れ替えながら共演しています。R&B 寄りですが、もっと聴かれて よい方だと思います。
【図下】 スイングジャーナル元名物編集長児山紀芳氏も、油井氏のときより尐し新しい音源を含め たサンプラーを BN クラブ用に作成しました (1998)。Silver 名義オリジナルは同一の写真原版からなる 青ジャケと赤ジャケですので、これでめでたく信号三色がそろいました。こう並べると区別つきません なぁ(児山氏は中央です)。Sidney Bechet (ss, clarinet) から Medeski, Martin, & Wood (key, dr, b のユニッ ト) “Combustication” までの試聴と解説です。
スイングジャーナル誌は 2010 年 7 月号をもって休刊となりました。ジャズを定義すると、スイング とアドリブのある音楽と考えていますが、「スイング」という名前は戦前戦中のダンスミュージックを 想起させる古臭さもあり、現代に適切ではなかったかもしれません。生まれかわりの “Jazz Japan” 誌は 軌道に乗せられるかどうか。”Jazz Perspective” というマニア向けジャズ情報誌も 2010 年 11 月に創刊さ れました。中長期的スパンではジャズ人気は盛り返している気がします。国内の女流ミュージシャンの デビューが雨後の筍状態である限り、しばらく安泰と思います。女性の方がブームを先導する能力が高 いからね。
【図下左2枚】 次は Riverside 音源の名盤から。Bill Evans (p) も餌食になりました。“Sunday at Village Vanguard”(図左から2枚目)は “Waltz for Debby”(図右から2枚目)と2枚に分けられた p トリオのラ イブ録音で、私にとっては、レコードを聞き潰して CD を買い直したという思い入れのある名盤です。 Jay Jay Johanson の “Long Term Physical Effects Are Not Yet Known” (2008)(図左端)がパロディ盤です。 Johanson はスウェーデンのシンガー・ソングライターだそうで、ちょっと聴いたら普通にエレクトリッ クポップスの人でした。
【図上右3枚】 意外なところで、“Waltz for Debby” の意匠をちあきなおみの「あまぐも」(2000)(図 右から3枚目)が使っています。若い方たちはご存じないかもしれませんが、レコ大も獲った歌手です。 ジャズはあまり関係なかったように記憶します。引退後のコンピだと思います。Evans の “Waltz for Debby” は色使いが綺麗で、表題曲のかわいい曲想に合っており、私の好きなジャケットの一つです(図 右から2枚目)。A 面1曲目、静寂から立ち上がる My Foolish Heart。うーむ、いつ聴いてもいいものは いい! “Sunday at ...” よりも “Waltz for Debby” の方が個人的には好きです。interplay を主張する Evans だけども、三位一体感は確かに素晴らしいのだけども、曲の開始早々b ソロというのは盛り下がります。 “Sunday at …” は b の割合が高いのです。やっぱり Evans の p がいいのです。表題曲 Waltz for Debby の 演奏については、Cannonball Adderley (as) が “Know What I Mean” で Evans と共演したものも、ファン キー/リリカル入り乱れて独特な味わいがあります。
ードによる企画物が出回りました。この表紙(図右端)にも “Waltz for Debby” からとったデザインが 使われています。
【図下左3枚】 Sarah Vaughan (vo) が Pablo のビッグ4を従えて吹き込んだ名盤、“How Long Has This Been Going On ?” (1978)(図左端)。この盤、作りがオーソドックスで、ノスタルジーに浸るには良いの ですが、実は、Pablo の Sarah と言えば、“Crazy and Mixed Up” (1982) の方がお勧めで、特にこの中の Autumn Leaves はいつ聴いても凄いです。ボーカルの手本です。テーマを歌わずにバリバリとアドリブ スキャットだけです。さて、疑惑の対象は Living in America の収録されている James Brown “Gravity” (1991)(図2枚目)です。JB は Rocky IV 以外にもジャッキー・チェンの Tuxedo にも出演していました。 浮き沈みの多い人生でしたが、浮いたひと時に一世一代のさわやか顔を見せた JB がジャケット写真に 収まっています。これが、お世辞にも美人といえない(失礼)Sarah と、髪型までクリソツ。偶然?な らごめんなさい。さらに、Al Yankovic という芸人が、邦題「グロッキーIV」(1986) (原題 “Polka Party”; 図3枚目) というのを出しました。これはパロディというよりは、確信犯、彼の生業ですね。YouTube に Yankovic の演ずる PV “Living with a Hernia” が上がっています、参考までに。I feel bad ! 笑えます。 Yankovic はポルカアコーディオンがプロ並みの腕前だそうです。トリビア情報でした。
【図上右端】 パロディと盗作の線引きは難しいものです。パロディは元ネタを確実にわからせると いう前提があります。盗作は気付かれないよう黙っています。この世知辛いご時世では、パロディであ れば事前に使用許可の折衝が必要でしょう。しかし元ネタ側にはゲリラ的パロディに対して目を瞑るく らいの度量が欲しい。学生のときファンだった歌姫 Linda Ronstadt は “What’s New” (1983) で Nelson Riddle オーケストラとの競演でスタンダードを歌い、新機軸を打ち出しました。私にジャズを教えてく れたレコードの一つです。#1 表題曲は、Linda の泣き節が好きな人にはたまりません。“♪I still love you so…” なんて自分に言われているように妄想しちゃってね。さて、その後に松田聖子「Touch Me Seiko」 (1984) でやや似たジャケ写を見せたので、おやっと思いました。これも他人の空似?なら申し訳ないで すが、それ以前に聖子ちゃんをめぐっては「ユートピア」(1983) が Olivia Newton-John “Come on Over” (1976)(Jolene を収録)のパクリではないかという疑惑が投げかけられていたことが頭の片隅にありま した。根底に敬意があればパロディ、商売としての狡猾さからくれば盗作と言えましょう。LP の時代 には、女の子写真に惑わされて、いわゆるジャケ買いしましたからね、その辺りの区別は重要です。
【図下】 ビバップからフリーまでやる、Mostly Other People Do the Killing (MOPDTK) という tp, as, b, dr のピアノレスカルテットがいます。コード楽器なしはフリーに近い証拠です。彼らのグループ名やロ ゴがあまり好ましいものと感じませんので、私はあまり聞かないですが、聞けばそれなりにはまってし まいます。それはさておき、ジャケット作品を紹介いたします。二作目から最新作まで全部パロディと なっています。音楽のレンジの広さを反映して、元ネタも幅広いです。“Shamokin !” (2007) はご存じ
Ornette Coleman (as) カルテットの “This Is Our Music” (Atlantic)(右上)、“Forty Fort” (2010) は Roy Haynes (dr) カルテットの “Out of the Afternoon” (GRP)(左下)、“Coimbra Concert” (2011) は Keith Jarrett (p) の “Köln Concert” (ECM)(右下)、それぞれのパクリです。出来栄えは素晴らしく、並べるとどっちがオリ ジナルかわからないくらいです。Coleman のパロディでは、メガネにまでこだわっています。Roy Haynes カルテットの元ネタ盤は、怪人 Roland Kirk (multi-reeds) のフィーチャーされた、ややマニアックなチョ イスとなっています。最後のものは、Peter Evans (tp) 個人名義です。確認しておきますが、この人の楽 器は p ではありません。アバンギャルドな tp です。そこまでパロディにかける意気込みを評価します。
【図下左2枚】 ジャケットで絵になる女性ボーカリストでいくつか紹介します。最近、Michael Jackson のカバー “Never Can Say Goodbye” (2010) を聞かせていることでたまたま知ったオランダの(歌姫と売 り込んでいます、本国での人気とかの真相は知りません)Traincha が、“The Look of Love” (2007)(図左 端)のジャケットで、Jackie McLean (as) の “A Fickle Sonance”(図2枚目)を意識しているのではない かと思わせるフシがありました。Reid Miles デザインの継承の一端です。女の子写真では顔の途中を切 ることはご法度なので、こういうアングルになったと見ました。中身は Burt Bacharach 曲集ということ で、どちらかというと AOR、聴きやすい歌物です。 ところで、マイケル・カバーアルバムが BN から出てくる時代になったのですね。私より年配のジャ ズファンは恐らく途惑っていることと拝察いたします。g と vo のデュオです。g 一本で女の子に歌わせ られたらいいなぁ、と感慨に浸ってしまう、これはこれでかなりいいアルバムでした。
【図上右3枚】 次の作品は必ずしも元ネタがあるわけではありませんが、オマージュとして意識さ れた作品と思います。Verve レーベルですからあからさまに BN の肩棒を担げませんよね。日本のシン ガーAkiko の “Simply Blue” (2005)(図右から三枚目)と “Akiko’s Holiday” (2003)(右から二枚目)を挙 げます。彼女はよほど顔を切るのが好きと見えて、デザイン重視ならそれもアリなのでしょう。先の “A Fickle Sonance” や Kenny Burrell の “At the Five Spot Cafe”(図右端)などが記憶の根底にあり、このよ うな大胆なトリミングによってジャズっぽいジャケ写真に見えてくるのが不思議です。男だったら顔は どうなっちゃっても構わないです。イラストですけど、Johnny Griffin (ts) “The Congregation” は、首チョ ンパですからね。また、モノクローム印刷を真似たところも奏功していると思います。もちろん昔は総 天然色印刷がコストに合わなかっただけですが…。
さて、Akiko の歌はどちらかというと今風クラブジャズの方が引き立ちますので、“Mood Indigo” (2004) がお勧めです。この#3: So Tired ~ #4: Far Beyond あたりはドライブに最適のゆるボイスかと思えば、 一方、#8: 表題曲 ~ #9: I Miss You では色っぽいウィスパーボイスにも聞こえて、なかなかよろしい。
【図下左2枚】 YouTube で検索して下さい、Gabin feat. Dee Dee Bridgewater “Into My Soul” (2005)。Dee Dee Bridgewater (vo) はこの PV で BN ジャケットデザイン「らしく見える」カットインを散りばめてい ます(キャプチャー画像、図1枚目)。Dee Dee は粋なジャズも歌うブラックコンテンポラリーシンガ ーです。私のお気に入りシンガーの一人です。お嬢さん China Moses (vo) もデビューしていますが、お 母ちゃんの深みのある歌声には到底及びません。Gabin はイタリアの DJ と b の二人のユニットです。 CD2作目にして Dee Dee とのコラボ達成ですから実力は認められているのでしょう。
Helicopter Girl (vo) “Angel City” (2004) の PV は BN ジャケットを動画で実現したら、そして歌詞を載 せたらこうなるかという結構な出来栄えです(キャプチャー、図2枚目)。こちらの作品は確実な元ネ タがありますので、あぁコレはアレだねという感じでクイズとして楽しむことができるでしょう。出題 はリズミカルで快調です。彼女は基本的にジャズと関係なく、Rod Stewart (vo) とも共演歴がある(けど 芸歴は浅い)ポップスシンガーです。
【図上右2枚】 Cassandra Wilson (vo) は “Traveling Miles” (1999) における見開き写真(右から2枚目) で、”The Essential Miles・The Miles Davis Story”(図右端)のジャケ写をもじりました。なぜだか Miles の写真はどれもかっこいいのですが、この Columbia のジャケットに対し、いつも真似されてばかりい る BN が逆襲です。彼女はこのアルバムの中で Miles の曲を、あるいは彼から触発された曲を歌ってい ます。だからこの写真は崇高なオマージュです。Cyndi Lauper の Time after Time を Miles が演じたもの が後日スタンダード化して、それを Cassandra が歌っています。音楽の歴史が作られていく過程を目撃 した気がします。Cassandra はどんな歌も自分の解釈にしてしまいますので、Cyndi のチャラチャラし たイメージが吹っ飛びます。
【図下左2枚】 ジャズがポップスを真似た例は? あまり多くないようで、一つは Branford Marsalis (ts) の “Scenes in the City” (1984) です。デビュー盤のジャケットはお茶目でした。ツェッペリンの “Physical Graffiti” の意匠のパクリです。かつてプログレとジャズは近いときもありましたね。実際に彼はロック /ポップス系アーチストとの接触も濃厚です。弟の Wynton Marsalis (tp) に比べて柔軟路線です。が、こ の録音は溌剌としたジャズです。Ron Carter (b) の参加などがあって、きっと張り切ったのでしょう。弟 にデビューの先を越されたからムキになったというのは邪推です。#2 表題曲の、Scenes in the City は街 の風景のナレーションが入り、企画物ともいえる作品です。Charlie Mingus (b) の作曲です。さて、この 写真の多重合成について映画 Matrix のエージェント Smith を思い出すのは私だけでしょうか。
【図上右2枚】 Zeno de Rossi Sultry の “Plunge” (2005)(右から2枚目)のアイコンを見たらば、一世 を風靡した「1ドル札に釣られる赤ちゃん」写真の Nirvana “Nevermind”(図右端)を思い出しました。 Zeno de Rossi (dr) (イタリア)がリーダーで Sultry はバンド名です(と思う)。前述の Gabin もそうです が、イタリアのジャズはすごく元気で、アバンギャルドからクラブ/ハウスにわたってヨーロッパのジ ャズシーンを牽引しています。時代を反映して、ダウンロードだけの販売となり、写真にはアルバム名 もアーチスト名もありません。たまたま DL した一曲(Cristo Redentor)を聴いた範囲では、メロディを 大切にした演奏をしています。
【図下】 Eric Alexander (ts) を知ったのは Harold Mabern (p) の Venus Record の録音におけるサイドメ ンとしてでしたが、最近の(当時)若手注目株で、自身は One for All というグループを率いて活躍して います。現代の Jazz Messengers という触れ込みです。ブロウも繊細なバラードもなかなかよいです。さ て、ライブ盤 “Invades Vancouver !” (2011) (図左)は、スコットランドの4人組ポップスグループ Franz Ferdinand の “You Could Have It So Much Better” (2005)(図2枚目)からのパクリです。全く異分野であ るし、Alexander の作風から言ってもパロディジャケットにはちょっと驚きがありましたね。調べてみ ると、Mike + the Mechanics の “Word of Mouth” (1991)(図3枚目)というのもありました。これらはい ずれもロシアの前衛アーチスト、Alexander Rodchenko(グラフィックデザイナー、写真家)によるロシ アの Lilya Brik(詩人、女優)の肖像(図右端)からのパロディです。Eric Alexander にとってみれば Alexander つながりでした。
【図下】 日本の誇るフュージョングループの Casiopea が “Eyes of the Mind” (1981)(Asayake を収録; 図左)のジャケットで Uriah Heep “Look at Yourself” 「対自核」(1971)(図中)をもじりました。Casiopea ですね、Domino Line、Down Upbeat、あぁ懐かしい(遠い目)。Asayake は他のグループも演奏するスタ ンダードです。アセンディングしていくメロディ、記憶に残ります。さて、これらのジャケットにはさ らに元祖があって、ソウル ts の Jimmy Forrest が 20 年も前に “Night Train” (1951)(図右)で、既にこの 目玉の意匠を使用済みでした。へビー志向ブリティッシュロックの Uriah Heep がこのパロディを意図し たかどうかはわかりません。Night Train は Forrest の当たり曲だったと聞きますが、如何せん 1951 年は 古いことで、流行ったかどうかなんて知りません。Oscar Peterson (p) トリオあるいは Jimmy Smith (org) & Wes Montgomery (g) の演奏の Night Train の方が耳にする機会が多いと思います。
【図下左2枚】 関連して尐し書籍を語りましょう。ラズウェル細木「ときめき JAZZ タイム」(ジャ ズ批評に連載)は、ジャズファンの怪しい生態を自虐的に描いた私小説的漫画です。この中で登場する レコードや CD にちょっと手が加えられています。彼はジャズ界の山藤章二です。コンプリート版(英 知出版, 2002)の表紙にビッチェスブリュー、サキコロ、ヘッドハンターズが見えます(左端)。 イラストといえば、和田誠×村上春樹「ポートレイト・イン・ジャズ(1),(2)」(1997, 2001, ボーナスト ラック増補文庫版 2003) にある和田誠のほのぼのとしたイラストが楽しい。(2) の表紙は私のアイドル Horace Silver (p)(図左2番目)。そしてまた、タイアップしたコンピ物 CD も出ています。勿論ジャケッ トは和田イラスト。村上は CD でなくレコードを愛する旨を述べていますので CD のリリースにはちょ っと矛盾が・・・。彼には「意味がなければスイングはない」という著作もあり、さすが作家はいろい ろと造詣の深いことだと感心します。 【図下右3枚】和田イラストは、いつもではないですが「ジャズ批評」誌の表紙でも楽しめました。 例えば Vol. 68 は Blue Monk っぽい Thelonious Monk (p) でした。Vol. 69 は Kieth Jarrett (p) のうなり声 が聞こえてきそうな絵です。Vol. 120 の Norah Jones (vo) は “Come Away with Me” (2002) からの模写で しょう(順に図右3枚)Norah は丸顔系で、実際にはこんなに頬が痩けていないです。ここにはパロデ ィという意図はなく、音楽とアーチストへの愛情に満ちています。だからいい絵と感じるのです。 さて、アンディ・ウォホールはジャケットのイラストに使われてきた実績がかなりあります。他のア ーチストによっても印象的なジャズジャケットが多数あります。一方、本国でそれに相当するのは渡辺 貞夫のいくつかの作品に起用された和田誠でしょうか。「ザ ベスト 渡辺貞夫」(芸歴 50 周年記念盤) のジャケットは素晴らしく癒し系、いい味出しています。
【その他】 巷には、ジャズを草の根で支えるいろんな方がいらっしゃいます。「ジャズの専門店ミム ラ」でググってみて下さい、店主三村晃夫氏の年賀状、これはウケます。2009、2010 年用なんてもう抱 腹絶倒です。この道では結構知られている方のようです。ずっと続けてもらいたいと思っています。そ う思っていたのですが、2011 年 7 月 29 日突然の訃報を知りました。ジャズに対する愛情の深さからシ ョップの顧客やミュージシャンと広く交流があり、レギュラーラジオ番組も持っておられたと聞きます。 謹んでご冥福をお祈り申し上げます。 もうひとかた、ジャズを仕事になさらない方ですが、「三宅健司デザインオフィス」の中で、社長の 読書と音楽の日記のブログ「音楽、CD アーカイブ」の部に、ところどころですが、合成写真的な自画 像パロディ写真が載っています。他にもこういう遊びをやっている方がたくさんおられるかと思います。 また、「ごめんね ブルー・ノート」で検索してみてください、ベーシスト山崎弘一さんが、ライブの 印象を BN ジャケット風にまとめてらっしゃいます。最近の更新はご無沙汰のようで、オリジナル CD ジャケットのデザインへ進んでいます。プロですからその方が健全かもしれません。 完全に寄り道で、パロディ音楽をひとつ。水口誠という「空耳」替え歌でジャズを歌う方がいらっし ゃいます (“Japanese Parody Jazz Songs” (2009))。「牛丼の話題」?「マリファナ、ばれた」? 何の空耳か お分かりでしょうか。歌詞の一部ではありません、全編です。歌詞カードは全対訳付き! 呆れを通り 越して立派に芸術の香りが漂ってきます。尐なくとも嘉門達夫よりは。音楽は音を楽しむもの、いいじ ゃないですか。一発芸的ですけどね。(答え:順に、You Don’t Know What Love Is、My Funny Valentine)
【最後に】 ジャズ喫茶では、『ただいま演奏中』の立てかけたジャケットが遠くの席からも見えるこ とが必要でした。壁に並べてインテリアにもなりました。12インチ規格は最適なサイズでした。視認 性に加えて芸術性も求められたわけです。残念なことですが、この役割はもう過去のものとなりました。 定年退職後はジャズ喫茶でも開くか、と考えていた私にとって、この衰退は非常に悲しい現実です。 しかし、もし或るアーチストを聞いてみたい、もっと情報を知りたいという場合には、小さい絵柄と はいえこのジャケットデザインがオンラインショップなどでアイコンの役割を果たします。iPod のディ スプレイとしても役立ちます。ジャケットデザインはちゃんと生きています。これからも我々の目を楽 しませてくれることと期待します。私はデザイナーの皆さんを応援します。もちろんミュージシャンも。 (石田尚行、2010 年 9 月記、2011 年 9 月改)