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■レ タ ー

会話することの効果

−ナラティブアプローチと患者満足−

The effect of conversation: narrative approach and patient satisfaction

大出 順

1

Jun ODE

キーワード:会話、ナラティブアプローチ、患者満足

Key words

conversation, narrative approach, patient satisfaction

1 市立伊東市民病院         Ito Municipal Hospital

 静岡大学大学院人文社会科学研究科 Graduate School of Humanities and Social Sciences, Shizuoka University

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日本看護倫理学会誌 VOL. 5 NO. 1 2013 看護は実践する場所を選ばない。病院や施設、学

校、自宅と様々だろう。看護師が一番多く働く場所 として病院がある。高度化する医療に伴い、看護師 に求められる知識や技術も増え、さらに看護師不足 が問われる日本の現状において、臨床ではたらく看 護師は懸命に励んでいる。一人一人の看護師に求め られるものが増え、さらに人員不足が重なる中で看 護師は慌ただしく病棟を走り回っているが、筆者は 経験から、病院における看護実践に危機感を抱くこ とがある。

危機感を抱かせる事の一つに、「業務」と「看護」

が混同されていると感じることがある。このように 述べるとやや極端な表現かもしれないが、実際にそ のように感じられる。看護を実践するにあたり、医 学的な知識が必要不可欠であることは言うまでもな い。急性期の患者管理においてはその必要は顕著で ある。患者管理も生命を預かるゆえに非常に大切な 看護実践ではあるが、そこに注目が行き過ぎること で、もっと多様な看護が隠れてしまうのではないか と考える。患者管理が業務的になり、いかに素早く こなすことができるかといったことが臨床における 価値の一つに挙げられているように感じるのは筆者 だけであろうか。またそのような状況から、患者と の「会話」そのものが減少していることは無いだろ うか。

確かに、ただの「会話」であれば、それは「看 護」とは言い難く、ましてや専門職として看護を実 践しているとは言い難い。しかし、一見全く関係の ない「会話」であっても、看護師が看護を意図し、

患者の発言や表情からも意図したものが汲み取れる ような「会話」であればどうだろうか。筆者は、患 者の日々のストレス緩和や、関係性の構築を意図 し、あえて全く関係のないような「会話」を患者と することが多々ある。内容は筆者自身のことであっ たり、疾患とは関係のない患者自身のことだったり する。また、社会的なことであったり、旬なニュー スが内容であったりと様々である。そして最後に、

「全然関係ないことばかり長々とお話してすみませ んね」と言う。すると、大抵の患者は笑顔で、「い やぁ、こういうのがいいのよ」「色々話せて楽しい よ。すっきりした」といった反応を示してくれる。

中には、「忙しいのに時間をとってもらってありが とう」と気遣いの言葉まで頂くことがある。当然の ことだが、会話の間に、患者の状態(疲労感や表 情)を観察し、また、その時々の周囲の状況も考 え、その都度内容や時間を選択し調整するよう努力 を払う。公平な看護を実践するためにも「正義」の 原則を意識しながら行なうことは重要である。

ところで、看護とは何だろうか。ナイチンゲール が近代に看護理論を構築してから、様々な看護理論

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日本看護倫理学会誌 VOL. 5 NO. 1 2013

生まれるケアへの手がかりは、その患者の「自律尊 重」とは何かを汲み取れる機会にも広がり、それは 患者の満足度にも大きくつながるだろう。そのよう な関係性こそケア的な関係であり、今必要とされて いるのではないだろうか。

認定看護師や専門看護師に続き、近年では特定看 護師の資格化が検討されている。それぞれの分野で よりスペシャリストを目指すことは非常に意義のあ ることだが、その前に、まずは看護師であり、看護 を専門とするスペシャリストでありたい。看護の対 象者は老若男女を問わず、全ての人を対象とするの である。看護の基本は対象者や実践する場所がか わっても同様であろう。その基本をしっかりと押さ える事で、私たち看護師は全ての対象者に対してす でにスペシャリストであり、ゼネラリストであるべ きだろう。看護には、患者の尊厳と権利を守るとい う重要な役割がある。そのために、その人自身に関 心を示す必要があり、まずは、患者と「会話」する ことから始まるのではないだろうか。慌ただしい臨 床において、会話する時間を割く事は困難な時もあ るだろう。しかし、たとえ1分であったとしても、

しっかりと向き合って会話することで患者の生活の 質を向上させることが可能であるならば、私たちは 是非ともその機会を捉えたい。患者にとって一番近 い存在であり、患者と共に「会話」できる機会が多 いのは、看護師の特権でもあり、患者の満足に繋が る大きなきっかけとなるだろう。対象者に一人の人 として関心を示し、「会話」することで得られる患 者の満足という効果を実感したい。

引用・参考文献

1 . Nightingale F. 序章/湯槇ます 1968..看護覚え書 き―看護であること・看護でないこと―.第6 版.東京:現代社.

2 . 桑野偕紀.医療におけるコミュニケーション─な

ぜ,その患者は訴えないのか.看護教育 2007;

48 (5),403−406.

3 . 野口裕二.第10章物語としてのケア.物語として

のケア―ナラティブ・アプローチの世界へ.第1 版.東京:医学書院;2010

4 . 野口裕二.1序章概念と前提.In:野口裕二編.

ナラティブ・アプローチ.第1版.東京:勁草書 房;2010.

者たちが説いている。医学でもなく、心理学でもな く、社会学でもない。看護とは、看護学とはいった い何だろうか。基本に立ち返るならば、ナイチン ゲールは看護を「患者の生命力の消耗を最小にする ように整えることを意味すべきである。」(p15)1と 述べている。それは単に身体的な事柄のみに注目を 置くのではなく、精神的、社会的な事柄を含むこと は多くの看護職が理解しているところだろう。単純 に考えるならば、医学的知識をもとに看護師が実践 する患者管理は看護の一側面でしかないのである。

(その時々の患者の状況により、医学的な患者管理 が看護のほとんどを占めるケースもあるが。)

筆者が耳にしてきた患者らの言葉は何を考えさせ るだろうか。それらの言葉は、患者の「生活の質を 向上」させることを目的とするとき、確かに患者満 足の効果が得られていると言えるのではないだろう か。患者は病院に入院し、病気が完治したとしても 必ずしも満足を得るとは限らず、逆に、あってはな らないような残念な結果があったとしても、患者は 満足を得ることもありえることを桑野2は述べてい る。何気ない世間話のような中にいくつもの情報が 出てくることもある。直接的な不安を打ち明けられ ることもあれば自分の思いや考えを表出すること で、その人にとって重要と考えていることや大切に していることが分かり、それが治療方針や関わり方 に大きな影響を与えることもある。そして、なによ りも会話をすることで患者との関係を築くことがで きる。野口はナラティブアプローチの示唆している ところとして、「相手を信頼していると思えるよう な関係、相手に信頼され、相手を信頼していると思 えるような関係、そのような関係が『ケアされた』

という感覚を生み出す。つまり、ケアとは『行為』

ではなく『関係』であると考えることができる」

(p.189)3と述べている。看護師は患者との関わりに おいて、まずはその人自身に関心を注ぎ、会話を通 して互いを理解していくことが求められているので はないだろうか。その過程で新たな情報が得られる 事があり、また違った視点で考える事もできる。直 接的ではない、何気ない内容の会話をすることで、

ケアリングの実践と結びつき、患者とよりよい関係 性を築いていけることもある。「『語る』という行為 と『語られたもの』という行為の産物」(p.1)4から

参照

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