幼児期における重症心身障害児の 発達評価に関する検討
西 原 睦 子
†A Study for Developmental Assessment of Children with Severe Motor and Intellectual Disabilities
in Early Childhood
Mutsuko NISHIHARA
キーワード:重症心身障害児、超重症児、幼児期、発達評価、療育
Ⅰ.問題と目的
1.重症心身障害児を巡る社会的背景
近年、周産期医療の進歩により、重度の知的 障害と肢体不自由を併せ持つ重症心身障害児1)
及び医療的ケアが日常的に必要な障害児(以 下、医療的ケア児)が増えている(厚生労働省,
2019)。重症心身障害児への対応は 1960 年代よ り重症心身障害児施設や国立療養所(現独立行 政法人国立病院機構)などへの施設入所や病院 入院による医療や福祉が主であったが、1981 年 の国際障害者年を機に施設福祉から在宅福祉へ の転換を受け、重症心身障害児の多くが在宅生 活を送るようになった(岡田・石井,2015)。ま た、障害は重度・重複化の傾向にあり、1990 年 代より人工呼吸器の使用や痰の吸引、経管栄養 などの医療的ケアが日常的に必要な医療的ケア 児が増えており、中でも 0、1 歳児が増加傾向に あるのが近年の特徴である(口分田他,2018)。
2.重症心身障害児の療育
このような社会的背景により、医療的ケア児
† 学校教育専攻 障害児教育専修 担当教員:白石惠理子
も含めた重症心身障害児の在宅生活への支援、
とりわけ低年齢からの療育保障が地域福祉の課 題となっている。多くの重症心身障害児にとっ て、乳幼児期は、入院生活から家族が看護・介護 する在宅生活への転換点にあたる。そこでは、
子どもが安全で快適に過ごせるよう医療やリハ ビリ、看護や介護が十分なされるよう留意しな ければならない。それとともに、子どもらしい 生活をつくり発達を保障していくこと、家族が 育児の手応えを感じていくことへの支援も不可 欠である。療育教室(現児童福祉法の児童発達 支援事業)は、そこに関わる重要な役割を担っ ている。
こうした療育を進めていく際の前提となる のが発達評価である。そして、重症心身障害児は 自発運動や感覚系に重い障害があるため、標準 化された発達検査や行動による評価が難しく、
発達をどのように把握するかが課題になってい る(白石正久,2016:細渕,2019)。子どもの反 応がかすかで不確かであるがゆえに、乳児期前 半の発達と判断され、揺さぶりや触れ合い遊び などが長年続けられる場合があるとされる(細 渕,2019)。
3.重症心身障害児の発達評価に関する先行研究 重症心身障害児は標準化された発達検査に よる発達評価が困難であるため、先行研究で は、発達を客観的に把握できるものとして、心 拍数の変化などの生理学的指標と情動反応を組 み合わせた期待反応という観点から分析してい るもの(北島,1993)、不随意的微小運動を応答 的な関係を基盤にして随意運動として捉えて取 り組み、心拍数変化を手がかりに分析したもの
(川住他,2008)、などがある。子どもの不確か な反応を探るため、生理学的な指標と子どもの 情動反応を組み合わせて分析するのは発達評価 の有効な方法である。一方、一定の発達理論に 依拠して質的検討をしようとする立場がある。
重症心身障害児がみせる微細な変化について、
その現象のみをとりだして検討することは困難 であるが、乳幼児期の発達全体に位置付けて読 み解くことで、その変化の意味を推察すること が可能になる。そこで本論では、田中(1980 な ど)の「可逆操作の高次化における階層−段階 理論」に依拠して質的検討を試みた。田中は、
近江学園や大津市の乳幼児健診等の実践を通じ て発達を量的に把握することの問題点を解決し ようと発達の質的把握を試みた。ピアジェの発 達理論では発達が変わる仕組みを捉えきれない とし、発達を発達連関において質的に捉え、同 時に発達の原動力を発達段階に位置づけ、動的 にも捉えたことに特徴がある。さらに、発達を 狭い意味での個人内のものにとどめず、集団の あり方や社会の進歩など周囲との開かれた関係 の中で捉えようとした。
ただ、田中(1980)が理論化した当時は、今 日ほど超重症児が実践上の課題になっていたわ けではない。発達評価する者が、外界に働きか ける現象によって可逆操作を捉える、とりわけ 6 か月以降の移動運動や手指の操作により外界 や人との結節点をつくって、それが高次化して いくと捉え方では、超重症児の発達評価が困難 になるという問題にぶつかる。
4. 重症心身障害児の発達評価への乳幼児発達研 究の応用
それを解決する手がかりとして、乳児期早期 からの発達研究の知見を発達の質的検討に応用
するという点から検討する。乳幼児の発達研究 を足場にしている大藪(2019)は、Trevarthen
(2005)の母子間の間主観性という視点から論じ た共同注意の獲得からシンボルの共有に至る発 達研究をベースに、乳児期早期からの発達プロ セスを明らかにしている。共同注意研究は視覚 認知を主としており、自閉スペクトラム症研究 に応用されることが多かったが、大藪(2019)
は、共同注意は視覚的なものだけではなくマル チモーダルなものであるとして、盲ろう児にも
「利用できる感覚を使った情動調律」から始ま り、「人と物に対する注意配分」への進み、さら に「シンボルを伴う 3 項的な共同注意」まで発 達すると紹介している。視聴覚障害がある重症 心身障害児も代償的に他の感覚を使って、かつ かすかな動きによってこれらを育んでいくと考 えられないだろうか。
なお、心理的操作という観点では、「可逆操作 の高次化における階層−段階理論」を土台に検 討した中村(2016)は、6 か月以降の発達的特徴 を、田中の結び目という操作概念が共同注意研 究における乳児期後半の特徴、つまり「動作が物 と接点を持つ場合に意図理解が促進されるとの 見解とも対応している」とし、現象としての結 び目ではなく、主体の心理過程に焦点化し、内 面的結び目、志向性の分節化という視点から捉 えられないかと提起している。中村(2016)は一 瞬先の未来を予測し期待することを 6 か月以降 の発達的特徴とし、10 か月ころになると志向性 が一瞬先の未来の目標に向け分節化すると、子 どもの文脈から捉えて提起した。また、白石惠 理子(1990)は 10 か月児健診のスクリーニング 項目を数量化理論Ⅲ類で解析した結果から、10 か月児健診の時点では姿勢・運動に関する下位 項目は発達全体の中から独立していることを明 らかにしたが、それを根拠に、重度の運動障害や 視聴覚障害があっても、内面的結び目、志向性 の分節化という点から 6 か月以降の発達を捉え られないだろうか。大藪(2019)や中村(2016)
の提起に基づいて、6 か月以降の発達を共同注 意の発達と志向性の分節化という心理的操作に よる結節点の生成から検討すれば、相手からの 関わりへの応答という受け身ではなく、発達の 主体として運動障害や視聴覚の障害がある重症
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表 1 対象児一覧(研究Ⅱ時点)
* D は研究Ⅱの途中で経口栄養と注入栄養の併用から経口栄養のみに変化している
心身障害児を捉え、発達評価や実践の展開が可 能ではないかと考える。
5.本研究の目的
0、1 歳児の超重症児が増加し、その多くが在 宅生活を送りながら幼児期より療育を受ける状 況において、自発運動がほとんどなく視聴覚障 害を合併している就学前の重症心身障害児の発 達をどのように評価するかが課題となっている が、重症心身障害児の就学前期については、事 例研究や実践事例の報告はされつつあるが十分 蓄積されているとは言えない。
そこで本研究では、幼児期における医療的ケ ア児も含めた重症心身障害児に対して、標準化 された発達検査及び先行研究に準拠した追加項 目を実施するとともに、 療育場面や家庭で把握 された子どもの姿から、重症心身障害児の発達 評価について量的検討、質的検討を試みる。こ れらを通じて、発達保障の出発点となる幼児期 において、療育や保育を実践する際の発達的前 提を明らかにするため、発達相談臨床に応用可 能な発達評価を検討することを目的とする。な お、本研究では、医療的ケアを必要とする超重 症児も対象とする。人工呼吸器をつけ生活範囲 がベッドの上に限られているという条件は考慮 するが、自発運動や感覚系が障害され制限され ている点で共通すると考え、超重症児を含む重 症心身障害児と捉えて検討する。
Ⅱ.研究方法
1.研究期間
201X 年 10 月〜 201X+1 年 11 月
2.対象児
Z 市児童発達支援センター(以下療育教室と する)に在籍する幼児期の重度・重複障害児で、
研究終了時に療育経験が 3 年以上あり、かつ筆 者が発達検査をしている 5 名(男児 3 名、女児 2 名)を対象とした。対象児の概要を表 1 に示 す。なお、療育期間は研究Ⅱ時点の年数である。
年齢は研究Ⅰ時点で 1 名が 3 歳児、残り 4 名が 4 歳児で、研究Ⅱ時点の年齢は研究Ⅰ時点の年 齢+1 年であった。全員先天性疾患で、自力座 位がとれず全面介助が必要で重度知的障害があ り、大島の分類1)(大島,1971)の「1」で重症 心身障害児に該当した。研究開始時には全員医 療的ケアが必要であったが、うち 2 名が人工呼 吸器装着、気管切開、痰吸引、導尿などの継続的 で濃厚な医療的ケアが必要で超重症児スコア2)
(鈴木他 1996、2008 改定)による判定で超重症 児に該当し、残り 3 名の医療的ケアは注入栄養 であった。超重症児 2 名 のうち A は訪問療育開 始時には大村の超重症児分類3)で「睡眠と覚醒 の区別可」の「2」であったが、研究開始時「刺 激に対する意識的反応がある」の「3」に該当し た。5 名のうち 3 名は視聴覚障害を、1 名は視覚
障害を、もう 1 名は聴覚障害を合併していた。
療育形態では、居宅訪問型の療育(以下訪問 療育とする)が 2 名、通所療育が 3 名であった。
療育教室は就学前児が対象で学齢児は在籍して いない。通所療育は週 5 日通所で一日約 5 時間 の集団療育(給食提供 ・ バス送迎あり)を行っ ており、3 歳児以上の継続児 C・D・E は送迎バス で単独通所していた。A・B が利用している訪問 療育は週 1 日 1 時間で曜日、時間は子どもにより 固定しており、担任保育士 2 名で実施していた。
3.手続き
研究期間において半年毎に計 3 回、新版 K 式 発達検査 2001 と KIDS 乳幼児発達スケールを実 施した。発達検査の 1 回目を研究Ⅰ、3 回目を 研究Ⅱとした。
新版 K 式発達検査 2001 については、訪問療 育 2 名は家庭訪問にて実施し、母、担任保育士 2 名が同席(うち A は家族 1 名も同席)し、通所 療育の 3 名は Z 市児童発達支援センター発達相 談室にて担任保育士が同席した(保護者の同席 なし)。なお、新版 K 式発達検査 2001 の姿勢・
運動領域は、人工呼吸器を装着している児の行 動評価を含んでいるため、理学療法士に評価を 依頼した。K IDS 乳幼児発達スケールは評価基 準のバラつきを避けるため、担任保育士に依頼 し、担任団の話し合いにより記入された。評価 の理由及び両検査結果に対する感想を後日筆者 が聴き取った。
また、新版 K 式発達検査 2001 検査日の療育 の姿、検査時の様子をビデオ撮影したものを検 査直後に筆者が分析したが、後日保護者、筆者、
クラス担任の三者でも視聴し、子どもの姿を見 た保護者の感想、家での様子を聴き取った後、
子どもの姿の読み取りを三者で話し合った。心 拍数の変化については、A・B それぞれが自宅 で使用しているパルスオキシメーターをビデオ 撮影して計測した。
(1)研究Ⅰ
新版 K 式発達検査 2001、KIDS 乳幼児発達ス ケールのマニュアルに従って発達年齢を算出し た。その後、発達相談時に保護者記入の問診票及 び担任記入の子どもの状況、発達相談時に行っ た保護者及び担任への聴き取りから、家庭や療
育場面で捉えられる姿と両検査結果との整合性 について検討した。その後発達段階を推定する ための課題を整理した。
(2)研究Ⅱ
研究Ⅱは、研究Ⅰの結果より、発達検査で確 認すべき視点と事項を整理し、必要な場合は追 加項目や実験的関わりを設定して新版 K 式発達 検査 2001 実施時に実施した。追加項目は、発 達の質的評価、動的把握のため、田中・田中
(1981,1982,1984)及び白石正久(2016)を参 考に設定した。発達検査に対象児が向かわない 場合は、発達段階の推定に必要と考えた実験的 関わりを療育場面で実施した。発達評価は、ま ず発達検査のマニュアルに従って発達年齢を算 出する、続いて追加項目、療育の観察、聴き取 りから、「可逆操作の高次化における階層−段階 理論」に基づいて発達段階を推定し評価する、
という 2 段階で行った。
4.倫理的配慮
保護者及び Z 市児童発達支援センターには研 究の目的、分析資料としての使用、個人情報の 保護について書面を渡して説明し、口頭で本研 究協力への同意を得た。また、実施方法が対象 児にとって侵襲的でないかについても Z 市児童 発達支援センターに予め相談し了解を得た。
Ⅲ.結果と考察
1.研究Ⅰ
新版 K 式発達検査 2001 では、全領域の発達 年齢は A が換算外、B と E が 4 か月、C が 5 か 月、D が 6 か月となり、全員が乳児期となった。
領域ごとに見ると、姿勢・運動領域は A・B・C の 3 名が換算外となり、D が 4 か月、E が 3 か 月であった。言語・社会領域は A が換算外、B が 5 か月、C・D・E が 8 か月であった。KIDS 乳幼児発達スケールでは、総合発達年齢は A が 換算外、B が 2 か月、C が 3 か月、D が 7 か月、
E が 6 か月で全員が乳児期であった。領域ごと に見ると、運動・操作・食事領域は運動障害や 視聴覚障害の影響を受けて全員が乳児期前半と なった(D の食事領域を除く)が、理解言語・
社会性(対子ども)領域では C・D・E が乳児
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表 2 研究Ⅰの発達検査結果及び家庭や療育場面で見せる姿
注)新版 K 式:新版 K 式発達検査 2001、KIDS:KIDS 乳幼児発達スケールの略
期後半となった。C・D・E は 3 歳児以上の通所 児で、バス通園で親から離れて子ども集団の中 で過ごしているので、親子通所の日も「親から 少し離れて遊ぶ」が可能であり、社会性(対子 ども)領域の結果は C・D が 1 歳 0 か月、E が 1 歳 2 か月となった。KIDS 乳幼児発達スケール の社会性(子ども)領域はこうした社会的経験 を反映しやすいと考えられた。
二つの標準化された発達検査の総合発達年 齢はほぼ一致し、全員が乳児期という結果に なった。しかし、家庭や療育で見せる姿とは差 があった。研究Ⅰでの新版 K 式発達検査 2001 と KIDS 乳幼児発達スケールの総合的な発達年齢 と家庭や療育場面で見せる姿を表 2 に示す。特 に差があったのは D・E で、両児は話しことば で目的の共有が可能であるが乳児期との結果に なった。また、自発運動がほとんどない A は換 算外となり、量的把握だけでは A の発達を説明 することができない。発達検査の領域ごとの結 果を見ると、運動障害により、姿勢・運動領域 や手指の操作や発声、ことばを必要とする下位 項目の不通過が総合的な発達年齢に影響してい ると考えられた。また、中村・川住(2007)が 指摘するように、視聴覚障害がある場合は主に 触覚により情報を収集するが、触覚の継時的特 性により、把握できる範囲が極端に狭い上に空 間的把握に多くの時間を要するため、めったに 行われることがない発達検査の状況を把握する ことが難しく不通過になるとも考えられた。運
動障害と視聴覚障害を重複する児の発達評価を する際に、どのような状況であれば持っている 力を発揮でき、的確な発達評価が可能か検討す る必要があると考えられた。
2.研究Ⅱ
研究Ⅱ実施に向けて、研究Ⅰでの発達検査結 果と家庭や療育場面の姿から何をポイントにみ るのかを整理した。その上で、研究Ⅱでは 、第 一に、新版 K 式発達検査 2001 と KIDS 乳幼児 発達スケールを実施した。第二に、発達を質的、
動的に検討するため、発達の原動力が誕生して いるかどうかを確認することとし、例えば発達 段階を乳児期後半と推定した場合、幼児期で獲 得する心理機制を考慮した項目を発達的抵抗と して入れた。その際、検査に向かわなかった場 合は、療育場面での実験的関わりを設定してお き実施した。第三に KIDS 乳幼児発達スケール と新版 K 式発達検査 2001 の結果の中でも比較 的障害の制約を受けにくいと考えられた言語・
社会領域と「可逆操作の高次化における階層−
段階理論」による発達段階の推定を比較した。
第四に、主として C の事例より乳児期後半の発 達プロセスについて検討した。
実施方法については、運動障害、視聴覚障害 があることを考慮し、上肢は使えなくても視線 で答えられるようにした。また、療育場面での 実験的関わりでは、視聴覚障害はあっても対象 児が状況を把握できるように、遊びや生活場面
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表 3 研究Ⅱ実施に向けての検討課題及び追加項目
で対象児が興味を向けている活動において、毎 回するものとそうでないものを実施したり、道 具を反対にして渡したりするなどした。研究Ⅱ に向けての検討課題及び追加項目について表 3 に示す。
(1) 新版 K 式発達検査 2001 及び KIDS 乳幼児 発達スケールの結果
研究Ⅱにおける二つの発達検査の結果を表 4 に示す。研究Ⅰ時と比較して発達年齢の上昇が あった領域をグレーで色塗りした。新版 K 式発 達検査 2001 においては、全領域の発達年齢は D 以外の 4 名は研究Ⅰ時と同じで変化がみられず 全員が乳児期となった。研究Ⅰ、Ⅱを通じて発達
年齢の変化が見られなかったのは、新版 K 式発 達検査 2001 では姿勢・運動領域、KIDS 乳幼児 スケールでは運動・操作・しつけ・食事領域で あった。逆に二人以上に発達年齢の上昇が見ら れたのは、理解言語や概念、社会性の領域であ り、これらは運動や手指の操作を要する領域に 比べて障害の影響を受けにくいと考えられた。
KIDS 乳幼児発達スケールにおいては、総合 発達年齢では D は 8 か月であったが、他の 4 名 は乳児期前半となった。E は 4 つの領域で発達 年齢の上昇が見られ、「『ブーブーはどこ?』と たずねると、そちらを見る」、「『長い・短い』
がわかる」、「自分より年下の子どもにちょっか いを出す」などの項目が新たに通過したが、手
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表 4 新版 K 式発達検査 2001 及び KIDS 乳幼児発達スケールの研究Ⅰと研究Ⅱの結果の比較
< 年齢表示例> 1:2 → 1 歳 2 か月 *グレー色塗り:研究Ⅰから変化があった領域
をほとんど使わないためその他の領域の得点が 低く、総合発達年齢にはその結果が反映されな かったと考えられた。
しかし、領域ごとに見ると、D は概念領域で 1 歳 5 か月、E は概念・社会性(対子ども)領 域で 1 歳 6 か月となり、幼児期の可能性が示さ れた。ただ、理解言語領域では D は 1 歳 0 か 月、E は 1 歳 2 か月であり乳児期後半となった。
KIDS 乳幼児発達スケールの概念領域は「わか る」という理解レベルでの評定であり、運動障 害があっても理解していれば通過と見なすこと ができる。一方、理解言語領域の設問は「見る」
「わかる」など運動障害があっても通過しやす い設問であるが、中には「絵本を見て『ワンワ ン(いぬ)はどこ?』とたずねると指をさす」、
「『新聞を持ってきて』など簡単な指示に従う」
のような項目があり、客観性を担保するため、
するかどうかの行動で評定される項目が含まれ るためと考えられた。
(2) 発達検査への取り組み方と「 可逆操作の高次 化における階層−段階理論」による推定 発達相談臨床では、発達段階の推定に際し て、発達検査結果の数値からだけではなく、発 達検査への取り組み方や聴き取りも含め総合的 に検討し、発達を質的に捉えて療育実践や家庭 育児への助言を行っている場合が多い。続いて 5 名それぞれの発達検査への取り組み方、追加 項目、実験的関わりの結果について述べ、「可逆 操作の高次化における階層−段階理論」に基づ いて発達段階の推定をする。
B は、繰り返し楽しんでいる活動では次に何 をするかわかると笑顔を見せて期待し手足を伸 ばして準備をしたのに対し、発達検査の準備を
する間は意図を窺うように担任の顔を見たり、
歯軋りをして両手合わせをしたりした。鏡を見 せると笑顔を見せたがしばらくすると担任を見 て検査課題には向かわなくなった。一方、毎回 楽しんでいる布ブランコでは担任が B の顔を見 て「布ブランコしようか」と話しかけても表情 は変わらなかったが、「ブーランブーランしよう か」と言い換えると笑顔になり、布の上で仰向 けにすると、両足を伸ばし両手を脇に沿って伸 ばし、布にくるまる準備をした。布ブランコで は揺さぶってもらうだけでなく、膝下を両足同 時に動かし頭を左右に動かして楽しんだ。床に おろして、「もう一回する?」と担任が尋ねると 担任の顔を見上げて笑った。この一連の遊びを 繰り返し楽しみ、発達検査時の姿とは全く異な る姿を見せた。本人が期待している遊びにおい て、一瞬先の未来の目標に向けて期待し志向性 を分節化させて相手と共有したと考えられ、10 か月ころ、示性数 3 形成期と判断した。
C はそれまで発達検査場面になると相手を窺 うような、困ったような表情になり担任に抱き つき発達検査にあまり向かわなかった。しか し、研究Ⅱの発達検査では鏡を持っている手 を離さない程近づけ自像を見て笑っていたが、
ボールのやりとりになると意志を込めた発声と 目で筆者を見返して、しないことを表した。療 育の中では、友だちの姿を見ると側傾した頭を 挙げ足も高く挙げてウォーカーで力強く進んだ り、友だちがいる場所に寝返り移動して友だち の合間に入り、身体を左右に動かし友だちにあ てて遊んだり、食事場面で介助され口に入れら れようとするスプーンを自分で持って口に入れ る行為が出てきていた。また、朝の会の名前呼び で、友だちの名前ではなく自分の名前とわかっ
て期待していた。生活場面に即した「ごはんた べようか」、「お外行こうか」と自分が楽しみに している活動と結びついたことばを理解し始め ていたことから、1 歳前半、1 次元形成期と判断 した。
D と E は、話し言葉での目標の共有が一定可 能である。新版 K 式発達検査 2001 を白石正久
(2016)が提起する方法で言語・社会領域の下位 項目を実施したところ、目で見て見比べて絵指 示図版に答えた。D は 10 か月、示性数 3 形成期 に入って以降発達検査に向かわないことが続い たが、研究Ⅱ時の発達検査は取り組んだ。「〇
〇さん、どこ?」と尋ねるとその場にいる担任 は見る形で答え、自分は指さした。その場にい ない友だちの名前を出して尋ねるとにっこりと 笑った。身体各部は着替えの場面で「足挙げて」
と伝えると足を挙げるなどして答えた。大小比 較には答えなかったが、食事場面では食べ物が 多い皿と少ない皿を対で提示してもらうと見比 べて多い皿に手を伸ばし、位置をかえても同様 だった。これらから 1 次元可逆操作期にあり、
さらに次の 2 次元形成期のきざしが出てきてい る 2 歳前半と判断した。
E は筆者とは笑ってふざけて検査にならな かったので、担任に尋ねてもらった。大小比較 よりも長短比較の方が答えやすいようだった。
日常的に「E ちゃんの足は長い」、「髪の毛が長 くなった」とほめられることが多いが、大きい 小さいということばはあまり使わないとのこと だった。対の比較課題においては、抽象図形の 図版では答えた後に合っているかどうかを確か めるように相手の表情を窺ったが、E が日常的 に関わっているものを写真図版にして尋ねると 自信を持って笑顔で答えた。「朝何に乗ってきた の?」という質問にもバスを見て答えた。療育 の中では、同学年の友だちとは足で蹴り返すな ど対等な関係であるが、年下の友だちにはこれ まであまり使わなかった手をつかって頭を撫で る姿があり、人によって出し方を変えるように なっていた。2 〜 3 歳ころ、2 次元形成期の言語 認識や関係性が育っていると判断した。
A は視覚、聴覚、触覚、複合の 4 種類の刺激 と筆者、担任、母の 3 人の関わり手による違い を組み合わせた実験的関わりで、筆者と担任・
母とでは心拍数が明らかに異なった。筆者が試 行している間は 115 〜 120 だったが、筆者から 担任に交替すると 88 に下がり、母の終了時ま でその前後の数値であった。また、筆者の試行 時には右手の挙げ下ろしや左手を胸の辺りで動 かし探るような姿があったが、担任・母にはせ ず、リラックスして傾眠状態になった。いつも しない体操では様子を探るような表情になり、
足を屈伸する所では下肢に力を入れて抵抗し心 拍数 120 に増加した一方、いつもする「ふれあ いリラックス体操」の曲がスタートすると心拍 数は 82 に下がり、曲の 1 番で筆者がいつもの メンバーがタッチしない身体の部位を不器用に マッサージすると大きく瞬きをしたものの心拍 数の増加は見られなかった。曲の 2 番で毎週実 施している母、祖母、担任に交替して、各々の 定位置でマッサージをするとリラックスした表 情で足の曲げ伸ばしが容易になった。脇や太も ものマッサージが始まると笑顔になって、口を 1 回動かし心拍数が 95 に増加した。その後の発 達検査は傾眠状態で実施できなかった。A は自 発運動がほとんどなく、盲で光覚弁、片方は重 度難聴、もう片方は高度難聴と医療機関からは 説明されている。3 年間の訪問療育を受けるう ち、他の音ではしないが木製玩具や鈴の音に身 動きを止め聴いているような様子を見せ、音が 鳴らないと眼球を動かし探るような姿を見せる ようになった。また、赤や黄色への注視やわず かな追視が見られ、瞬きや舌の動きで応答して いるように見える時や祖父に対して他者とは違 う笑顔を見せる姿が出てきていた。
①聴き取りからも、家族の中でも関わる人の 違いや訪問する保育士の違いを区別し、自分に とって重要な他者を認識していると考えられた こと、②刺激の種類と関わり手を変え組み合わ せた実験的関わりでは、いつも関わらない筆者 に対して心拍数が急激に増加し高い緊張を示し たが、それだけでなく、意識的に右手を挙げた り下げたりし相手の意図を探るような動きが見 られたこと(それまでは緊張すると大きなあく びが出たり、傾眠傾向になったりしていた)。③ いつもする体操とそうでない体操への応答の違 いは研究Ⅱの半年前から出ていたが、いつもの 体操であれば普段関わらない筆者がマッサージ
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表 5 新版 K 式発達検査 2001 及び KIDS 乳幼児発達スケールと「可逆操作の高次化における階層−段階理論」による 発達段階推定との比較
<年齢表示例> 1:4 → 1 歳 4 か月
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しても心拍数の増加は見られなかったこと。こ れらから、予期できない初めての経験に対し、
他者の意図を探り把握しようとした、A がいつ もの体操だと期待し、リラックスする一瞬先の 未来を予測して、滅多に関わらない筆者の関わ りも受け入れ、他者が置き換え可能となった、
いつもの体操が心的媒介項として機能したと捉 えれば、少なくとも 9 か月ころ、示性数 2 可逆 操作期と推定され、10 か月、示性数 3 形成期の 可能性もあると考えられた。ただし、名前を他 者に呼ばれて自分と認識する対象化された自己
(田中,1982:川田,2014 では「概念化された 自己」)は訪問療育という条件ゆえか明確でな かったので、9 か月、示性数 2 可逆操作期と判 断した。
(3) 新 版 K 式発達検査 2001 及び KIDS 乳幼児発 達スケールと「 可逆操作の高次化における階 層−段階理論」による発達段階推定との比較 続いて、標準化された二つの発達検査中でも 比較的障害の影響を受けにくい領域の発達年齢 と「可逆操作の高次化における階層−段階理論」
による発達段階の推定結果とを比較した。その 結果を表 5 に示す。B・C は標準化された二つ の発達検査の言語・社会の領域と同理論による 推定は大きくは異ならず乳児期後半との結果で あった。一方、一定ことばでの目的の共有が可 能である D・E と標準化された発達検査では評価 が難しい A は差があった。D・E について新版 K 式発達検査 2001 の言語・社会領域及び KIDS 乳幼児発達スケールの理解言語・社会性(対子 ども)、概念領域の結果を見ると、そのいずれも が 10 か月以降の発達年齢であった。白石惠理子
(1990)は 10 か月児健診時に運動発達は全体発 達の中で独立しているとし、田中(1980)は 10 か月に次の次元可逆操作の階層に向かう発達の 原動力が誕生するとしている。これらに依拠し て考えると、新版 K 式発達検査 2001 の言語・社 会領域及び KIDS 乳幼児発達スケールの理解言 語領域で 10 か月以降の結果が出た場合、1 次元 可逆操作期(1 歳半)以降の可能性がないか検 討する必要があるかもしれない。
(4)乳児期後半の発達プロセスについて
C の発達経過を振り返ると、寝返りを 1 歳 後半以降に獲得し、2 歳児より療育教室へ派遣 されている PT の指導により療育場面でウォー カーを使用し始め、4 歳児になってから寝返り 移動の範囲が拡大して保育室を探索するように なった。しかし、支座位で側傾するような筋緊 張の低さと視覚障害があって手指を使う操作に つながらず、乳児期後半に入ってから発達段階 はなかなか変化しなかった。ただ、C は、自分 にとって重要な他者(第二者)との間で心的媒 介項を共有する三項関係が獲得される手前のと ころで以下のプロセスを辿った。まず、子ども にとって第二者が形成されて安心して外界に探 索に向かうことが可能になり、その後、自分で 動かすことができる機能を使って自分のやり方 で探索をしていたのが特徴的であった。これ は A・B にも共通していた。視覚障害があるので まず家庭でその姿が見られ、しばらくしてから 集団療育の場でも探索が盛んに見られるように なった。母はその頃「必死になってやっている」
と表現している。ビデオで見返すと、その間、
子どもにとって安心できる第二者が子どもの試
みを見守り、一緒にし、共感して言語化し、「支 持的共同注意」(大藪,2019)を重ねていた。そ れに支えられて、子どもは自分の行為の意味や つながりを把握していき、行為に埋め込まれた 自分の意図を理解し、一瞬先の目標を志向する ようになった。そして、自分の意図との関係で 他者の意図を把握し、その上で「意図共有的共 同注意」を獲得したと考えられた。その段階に 至った研究Ⅱ時の 5 歳児では、療育において友 だちと過ごす遊びや生活場面では誰が見てもわ かる変化を見せ 1 歳前半、1 次元形成期に入っ たと推測された。
細渕(2019)は、「主体は周囲の対象物を直 接に取り扱う実践的行為を通じて対象の諸特徴 を知覚する」としている。そして、中村・川住
(2007)は、子どもが好きなこと、自分が動かせ る力を本人が外界を知り操作する方法として、
またやりとりの手段として持つ大切さを指摘し ている。子どもが自ら外界に関わる、そのこと を他者とやりとりしながら意味づけられ自分と してつながりを把握する、こうした実感に裏付 けられて自己感を得ていくとも考えられた。乳 児期後半の発達を評価する際、自分と他者とい う二者間の関係性や共同注意にのみ焦点化する と以上のような子どもの試みの発達的意味を見 落としかねないと考えられた。C のように自分 としてできる最大限のことをして外界を探る試 みをおとなが受けとめ、その意味やつながりを 子どもに返していくことによって、子どもは自 ら外界に関わって外界が変化する手応えを感じ ていくのではないだろうか。
一方、自分の意図を持ち相手の意図を把握す るようになった 10 か月、示性数 3 形成期以降に なると B と C は発達検査に向かわなくなった。
D も同様に、1 歳半、1 次元可逆操作期に入るま でそれが続いた。これらから、幼児期へ移行す る発達の原動力が誕生すると、川田(2014)が 指摘するように、おとなの意図や行為に合わせ 模倣するという関係性から、自分の意図や志向 する目標から相手の意図を見て、それと合えば するがそうでなければしないというように、主 体的に選択し、おとなとの関係を変え、おとな に新たな交流の質を求めると考えられた。乳児 期後半においておとなの意図を超えるような姿
が出てきた時期の発達検査場面では、子どもが 自由に退避できるような体勢で実施するととも に、こうした心理機制を捉えた、子どもの志向性 が発動する遊びや生活、子どもの文脈の中で仮 説を持って観察することが有用と考えられた。
ただし、3 例からの示唆であり、今後幼児期 の重症心身障害児の縦断研究の蓄積によって検 討されていくべき課題である。
Ⅳ.総合考察
幼児期における重症心身障害児の発達評価 に関して臨床に応用できるものとして検討した 本研究の目的は大きく次の 3 点にあった。第 1 に、新版 K 式発達検査 2001 及び KIDS 乳幼児発 達スケールという二つの標準化された発達検査 による重症心身障害児の発達評価について検討 する。第 2 に、標準化された二つの発達検査で発 達評価が難しい場合、田中・田中(1981,1982,
1984)や白石正久(2016)による検査項目及び 独自の追加項目を実施した結果から、「可逆操 作の高次化における階層−段階理論」に基づい て発達を質的、動的に捉えて発達評価する。第 3 に、自発運動がほとんどない超重症児に関し て、乳児期後半の発達を、可逆操作を姿勢運動 や手指の操作による外界への現象的な結節点と してではなく、共同注意や目標志向性という心 理的な結節点として捉えた場合の発達評価の可 能性について検討することにあった。
第 1 の点、標準化された発達検査をマニュア ル通りに実施して数値化された総合発達年齢の 結果だけで、幼児期の重症心身障害児の発達を 捉えるのは難しいことが示された。しかし、話 しことばによる目的共有が可能になる 1 歳半以 降では、KIDS 乳幼児発達スケールの概念領域 の結果や新版 K 式発達検査 2001 の方法を子ど もに合わせて工夫することで一定発達評価がで きることが示された。
第 2 の点、「可逆操作の高次化における階層−
段階理論」による発達の質的、動的検討につい ては、子どもの発達を質的に捉えること、とり わけ発達の原動力を子どもと他者との関係性が 転換し新たな交流の質が芽生えるという視点か ら捉えることが、実践に寄与する発達相談臨床
では有効であることが示された。
第 3 の点、乳児期後半の発達評価に関しては、
自発運動や視聴覚に重度の障害がある子どもに 対しても、心理的結節点として、共同注意や目 標志向性の分節化という視点から発達評価が可 能であることが示唆された。また、自分にでき る方法で外界を探ろう、関係を結ぼうとする心 理機能や操作への注目が臨床への応用という点 で重要との感触を得た。しかし、5 事例からの 示唆であるため、今後は、事例の前方視的縦断 研究を蓄積して検証していく必要がある。
謝辞
本研究に際して、御協力いただいた対象児 及び対象児のご家族、Z 市立児童発達支援セン ターの職員の皆様、並びに的確な御助言、御指 導をいただいた滋賀大学の白石惠理子先生、江 原寛昭先生に深く感謝申し上げます。
<引用文献>
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文末脚注
1) 大島一良(1971)によってつくられた知能指数 と移動機能の 2 軸分類。区分 1 〜 4、移動機能が 座位までで知能指数が 35 未満を重症心身障害と 見なしてきた。
2) 鈴木ら(1996,2008 改定)が提起したもので、
運動機能は座位までという条件で、レスピレー ター管理、気管切開、吸引、胃ろうなど 6 か月 以上持続している濃厚な医療的ケアを点数化し たもので、スコアが 25 点以上は超重症児、10 点 から 25 点未満は準重症児と判定される。
3) 大村(2002)が「昏睡」「覚醒と睡眠の区別可」
「刺激に対する意識的反応あり」「コミュニケー ションの成立」の脳機能障害の 4 つの水準と超 重症児スコアを組み合わせて分類したもの。