利き足の決定要因の検討
塚本駿
<要約>
先行研究にて,支持足に関する研究は多くなされているものの,機能足が反対側と比較して機能的に優 れているという研究結果は示されていない.以上のことから本研究では,自作の足部の軌跡記録装置を用 いて,簡易な実験によりパフォーマンスの面から機能足(=利き足)が反対側よりも優位であることを明ら かにすることを目標とした.対象は健常成人 20名とし,PC 上のあらかじめ引かれた基線をなぞる試行を 両脚左•右•上•下の 4 方向から行い,基線からはみ出た面積をピクセル数として算出した.結果,利き足 と非利き足におけるそれぞれのピクセル数には有意差が見られなかった(p=0.801,p<0.05).しかし,利き 足と非利き足のピクセル数に有意な正の相関が見られた(r=0.676,p<0.05).以上のことから本実験の実 験様式では,利き足を明らかにすることはできなかったが,両足のパフォーマンスに相関があることが 示唆された.
Ⅰ.はじめに
利き足の定義は「両足のうちで力が発揮でき, よく動く方の足」1と曖昧なものであり,またスポ ーツにおいては競技によってその定義は異なる.
例えば,サッカーではボールを好んで蹴る足,ス ノーボードではスタンス(レギュラーorグーフィ ー),陸上ではクラウチングスタートの際の前足 が利き足にあたる.
そもそも「利き」とは,「身体の一側が他側より も優先的に用いられ,より優れた遂行をするこ と」2「手や足など左右対となる器官の一側が,他 方より認知的,運動的課題で成績が優れている現 象」3といった一側の優位性による分類,すなわち パフォーマンスによる分類と,(利き目に関して)
「片目で見る課題での一方の目の一貫した使用傾 向」4といったどちらか一側を好んで使用する偏 好性(preference)による分類があるとされている.
ここで表題の利き足とその反対側の軸足は,パ フォーマンス による分類からそれぞれ「動作を する足であり,器用さが要求され,より多くの注 意力を集めている方の足」としての「機能足」と
「体重を支え姿勢の維持を役目とし,多くは意識 的というよりも,反射的にコントロールされてい る足」としての「支持足」と定義づけられている.
しかしながら,理学療法学の場面において「支 持足」に関しては,立位での下肢の左右の機能差 について,利き手とは対側にある下肢が、支持足 機能を果たしている 56.また動的姿勢制御におい て,支持足での支持機能が優れている 7等の多く の研究はなされているものの,「機能足」に関する
研究は乏しく,また「利き足」は上肢における利き 手のように反対側と比較して,筋力や巧緻性等の 測定値の有意差が認められていない 8).このこと から今回は performance の面から「利き足」を決定 する定量的な検査方法について検討する.
Ⅱ.対象と方法
1.対象
現在,今実験に支障をきたすような整形・脊髄・
中枢疾患を有さない健常若年20名(男性10名女性 10 名,年齢 22.15±0.6(mean±SD))とした.また,被験 者には十分な説明を行い,同意を得た上で本実験 を行った.
2.方法
右足から始める群と左足から始める群の2 群に 分けて,足部の軌跡記録装置としての自作のマウ ス(図1)を片足足部に装着し,図形ソフトにてXY 座標軸の基線を実験開始前に被験者が納得する まで動作練習させた後,本番では時間を考慮せず に,なるべくはみ出ないように指示してなぞらせ た.一度の施行にて各端点から反対の端点までな ぞり,片脚につき左•右•上•下の4 回,両側で計8 回実施した(図2).また実験開始前にあらかじめ 利き足を質問し,わからないと答えたものには, ボールを蹴る足を回答させた.結果,右利き19名, 左利き1名であった.
図1.足部の軌跡記録装置としての実験用マウス
左が足部をのせる表面にあたり,右が軌跡を記録する裏面にあ たる.
図2.実験風景
実験の際,体幹•股関節•膝関節屈曲伸展中間位で,上肢を胸部 に組むように指示し,椅子座位にて実施した.
実験後各試行の基線からはみ出た部分(図3)を 塗りつぶし,ピクセル計算ソフト(menseki)を用い てピクセル数を計算し,統計処理には独立したt 検定,Bonferroni法による多重比較,ピアソンの相 関係数を用い,有意水準はすべてp<0.05とした.
図3.実験前と実験後
左図が実験前の被験者になぞらせる基線であり,右図はある被 験者の下からの実験後のはみ出た部分を塗りつぶしたもの.
Ⅲ.結果
利き足と非利き足の片足毎に、各4方向からの ピクセル数を比較したところ,利き足では上から
の試行と下からの試行で有意差が認められた (p=0.018,p<0.05).しかし,非利き足では,各方向で有 意差は認められなかった(図4).
また,利き足と非利き足(図5)(p=0.801) (図5),1 回目の試行と2回目の試行(p=0.729)(図6)の各試 行毎の総ピクセル数を比較したところ,どちらも 有意差は認められなかった(どちらもp<0.05).以上 のことから,今実験では利き足が反対側に比べて
performanceの面で優位であることを明らかにす
ることはできなかった.加えて,1回目の試行と2回 目の試行の結果から,片足での経験はもう一方の 足の巧緻性に影響しなかった.
図4.利き足と非利き足での各方向における総ピク
セル数の多重比較
利き足では,上からの試行と下からの試行で有意差が認められ た.一方,非利き足では各方向からの試行において有意差は認めら れなかった.
図5.利き足と非利き足の総ピクセル数のt検定
有意差なし
図6.1•2回目の試行の総ピクセル数のt検定
有意差なし
一方,利き足と非利き足の片足毎の総ピクセル数 と計測したタイムで,利き足に関して相関は認め られなかったものの(r=-17.42),非利き足では負の 相関が認められた(r=-34.08)(どちらも p<0.05) (図 7).
また,同被験者内での利き足と非利き足の総ピ クセル数において,中程度の正の相関が認められ た(r=0.676,p<0.05) (図8).
図7.利き足と非利き足の総ピクセル数とタイムの
相関
利き足では相関が認められなかったが,非利き足において負の 相関が認められた.
図8.同被験者内での利き足と非利き足ピクセル数
の相関
有意な正の相関が認められた.
Ⅳ.考察
1.上からの試行と下からの試行で有意差あり 利き足において上からの施行と下からの施行に おいて有意差が認められた.二関節筋もしくは多 関節筋は巧緻運動に際して中心的な役割を果た す運動筋として分類され,一方の単関節筋は抗重 力性が高く,一関節の安定に働く 9.ここで,上から の施行,つまり膝屈曲に作用する筋群,ハムストリ ングスは大腿二頭筋短頭以外の筋群が二関節筋 であり,一方の下からの施行,膝伸展に働く筋群,大 腿四頭筋を構成する筋は,大腿直近以外の3筋が 単関節筋である.上記の筋群の性質より,利き足,非 利き足に関わらず,上からの施行が下からの施行 よりも良い成績を残すことが想定され,結果とし て有意差はないものの,非利き足においても上か らの施行が下からの施行よりもピクセル数が少 ない.よって,利き足の反対側にあたる支持足が先 行研究から支持性に優れていることを考慮する と,ハムストリングスと大腿四頭筋は抗重力筋に あたり,立位での姿勢制御において働くので,利き 足の結果に対して,上からの試行と下からの試行 で有意差が認められなかったと考えた.
利き足
r = -17.42
非利き足
r = -34.08 0
5000 10000 15000 20000
0 100 200 300
ピクセル数
タイム(sec)
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000 18000 20000
0 5000 10000 15000 20000
非利き足
利き足
r=0.676
2.左右間のピクセル数の有意差なし
利き足と非利き足のピクセル数のt検定から,期 待していたような performance の面で利き足が優 位であるという結果は認められなかった.しかし ながら,同被験者内で利き足と非利き足の総ピク セル数において,中程度の正の相関があることか ら,下肢機能に左右差がないことで,歩行を中心と した下肢の体重支持機能を効果的にしている8)と いう先行研究を支持する結果となったと考えら れる.
今実験自体の試行が,一試行につき,一方向への 運動という容易な課題であり, 機能的な優位さが 結果として現れにくい試行であったとも考えら れる.巧緻性に関与する,筋の協調運動が,運動の種 類が変化するとき,また速度が必要とされる運動 の際に発揮されることを考慮すると,今回のよう に正確性のみを求める課題ではなく,正確性とと もに速度も必要とされる複雑な課題を与えるこ とで左右差が生じるのではないかと考察した.
また,基本動作能力の回復を目的とする理学療 法において,今回の実験における下肢の巧緻性は, 応用的な部分にあたり,その点からも基本的動作 に深く関わる支持足に関する研究は多く進めら れているものの,機能足に関する研究は乏しいと 考えられる.本稿で最初に述べた「利き足」の一般 的な定義からすると,理学療法的には利き足が機 能足であるのか,支持足であるのか非常に曖昧で ある.よって,特に理学療法の場面では利き足=機 能足という考え方が当てはまらず,現在,臨床の場 でそれほど考慮されていないのではないかと考 えた.
3.本研究の限界
本研究の実験様式は,山崎の研究 10を参考にお こなったが,先の研究では脊髄髄内腫瘍摘出術を 受ける患者を対象としており,今実験のように健 常者を対象としたものではない.なにより現段階 で下肢の巧緻性を定量的に評価する評価法は確 立されていない.以上のことから実験自体で,後述 するように多くの限界点があった.
(1)椅子座位での実験であり,非実験側の支持要 素も含まれるため,実験側の独立した結果求める ことが困難であった.
日常的に二足歩行であることや,実際に下肢の巧 緻性が求められるような場面,例えばスポーツの
場面を考えると,動作を行う足と対側の下肢で荷 重を支持した状態での動作場面が多くなり,片足 のみの独立した活動はほとんどないことから,今 実験では,椅子座位での実験様式を採用した.
(2)自己申告による利き足の大半が右利きであ り、利き足が偏ってしまった.
一般に右足が利き足である人が 8 割であり,その ことを考慮しても,右と左半数ずつ対象を集める のが困難であった.
(3)足部の軌跡測定装置にとりつけた自在キャ スターの特性により、回転軸がずれているため、
方向転換の際にマウスがすぐ追従しないという 欠点があった。
このことにより,被験者が実験に臨むにあたって, 意図した通りに,マウスが働きづらいという問題 が発生してしまった.しかしながら今実験により, 自作のマウスとPCのペイントソフトを用いて,簡 易に巧緻性のテストを行うことが可能であるこ とが示唆された.先行研究のように患者を対象と して,また更に課題を複雑にしていくことによっ て,明らかにすることができなかった健常者にお ける利き足を定量的に評価する判断基準として 応用できることが示唆された.
謝辞
本稿を終えるにあたり,ご指導いただきました本 学諸先生方、ならびに実験に協力して頂きました 本学学生の皆様に,心より感謝申し上げます.
引用文献
1) 新村出:広辞苑,岩波書店,東京,2008 2) Harris,A.:Harris tests of lataral
dominance :Manual of directions for
administration and interpretation. New York : Psychological Corporation : 1958
3) Touwen,B.C.L.:Laterality and
Dominance.Developmental Medicine and Child Neurology,14,747-755:1972 4) Noonan,M,et al.:Earedness (ear choice in
monaural tasks): Its measurement and relationship to other lateral preferences.
Journal of Auditory
Research,21,263-277.:1981
5) 平沢彌一郎:Stasiologyからみた右足と左 足.神経進歩,24:623-633,1980.
6) 木村邦彦,他:人に四肢の一足優位性につい て.人類学雑誌,82:189-207,1974.
7) 井原秀俊,他:静的および動的姿勢制御にお
いて、支持足(軸足)は支持足機能を果たし ているか?.整形外科と災害外
科,60:(4)739-743,2011
8) 村田伸,他:上下肢の一側優位性に関する研 究.West Kyushu Journal of Rehabilitation Sciences 1:11-14,2008
9) Schraube A:ルード法による神経•筋機能障
害の治療,神経生理学的治療法の理論と実 際:安藤忠他訳,パシフィックサプラ イ,159-198,1985
10) 山崎一徳:巧緻性と固有感覚の定量的評価 システムの開発.名古屋工業大学学術機関 リポジトリ,2014
(指導教員:高橋光彦)