1.はじめに
硫黄は生命の代謝に不可欠な栄養元素であり
、
炭素や窒素などの循環と共に地球上の物質循環で は重要な位置を占めている1)。
産業革命以降、
硫 黄化合物の発生量は大きく変動し、
人為起源の硫 黄発生量60 〜 80 Tg S
2),3)は天然起源の発生量50
〜 100 Tg S
4),5)にほぼ匹敵している6)。
そのため 地球上の硫黄循環は人間活動によって大きな影響 を受けていることが指摘されている。
排出規制が 功を奏し硫黄発生量が減少に転じた欧米とは対照 的に、
経済成長によるエネルギー需要の増大が著 しいアジア圏が、
現在では北大西洋岸地域に代わ る世界の硫黄発生源となってきている3)。
世界的 に見ると人為起源の硫黄(SO
2)
発生量は1980
年か らほぼ横ばい傾向にあるが3)、
アジア地域からのSO
2発生量は今後とも増加する見通しであり7)、 1990
年には16 . 9 Tg S
だった発生量は1997
年には19 . 6 Tg S
になり、 2020
年には20 〜 22 . 5 Tg S
に達す ると見られている8)。
そのため人為起源の硫黄が 陸水生態系に与える影響を評価すること、
とりわ け生態系に取り込まれた硫黄化合物の行方を追跡 することは、
現在我々のおかれている環境を理解 するために不可欠である。
しかしながら
、
硫黄化合物の測定は他の元素 と比べても難しく、
森林における硫黄動態の研究 はこの数十年以前にはほとんど行われてこなかっ た9)。
状況が変化したのは大気汚染の影響が深刻 になった1970
年代後半であり、
イオンクロマト グラフィーや誘導結合型プラズマ発光分析装置(ICP-AES)
の普及により溶液中の硫酸イオンや全 硫黄の簡便な定量が可能になると10),11)、
陸水生態 系における硫黄動態研究は急速に発展した。
硫黄 負荷が生態系に与える影響に着目した研究が多く 行われた結果12)−14)、
硫酸イオン吸着を中心とし た無機態硫黄動態の解明が進み、
硫酸イオン吸着森林生態系における硫黄の循環と 土壌の硫黄集積機構の意義
−土壌の硫黄蓄積とその理化学性との関係−
谷川 東子
*・
高橋 正通**・
今矢 明宏***
(*独立行政法人 森林総合研究所関西支所・**独立行政法人 森林総合研究所・
***独立行政法人 森林総合研究所九州支所)
摘 要
地球上の硫黄循環は人間活動によって大きな影響を受けていると考えられている
。
エネルギー需要の増大が著しいアジア圏は、
北大西洋岸地域に代わる世界の硫黄発 生源となってきているため、
生態系における硫黄循環の解明が早急に必要である。
し かしながらアジア圏での硫黄動態に関する知見は欧米に比べて少なく、
基礎的な情報 である土壌における硫黄現存量についての報告もほとんどない。
そこで本研究ではま ず、
一般に知られている森林生態系における硫黄循環の概要を紹介し、
その中で土壌 によって硫黄が保持されることの重要性について述べた。
さらに土壌の硫黄保持機構 を解明するために、
複数の土壌の硫黄現存量調査を行い、
土壌の硫黄集積能に寄与し ている土壌因子を特定した。
その結果、Andisols
は欧米の土壌やInceptisols
に比べ、
著 しく大量の硫黄化合物を蓄積し、
その現存量は現在までに世界で報告されている全硫 黄現存量の中で最も高いレベルに相当することが明らかになった。
さらに主要な蓄積 形態として重要なのは、
エステル硫酸態S
およびリン酸イオン溶液に可溶の硫黄化合 物(PO
4可溶性S、
吸着態硫酸イオンが主体)
であること、
全硫黄含有率は土壌の粘土 含量、DCB
溶液および酸性シュウ酸溶液に可溶のアルミニウム酸化物と相関が高いこ とが明らかになった。
硫黄は土壌中で微細な粒径画分に多く存在するとともに、
その 保持にはアルミニウム酸化物が密接に関わっていると考えられる。
また炭素含有率、
窒素含有率との明瞭な関係はなく、
硫黄と炭素および窒素との動態には違いがあるこ とが推察された。
キーワード:アルミニウム酸化物
、
硫黄現存量、
土壌、Andisols、Inceptisols
には酸を緩衝する作用があること
、
硫黄負荷量の 増加に伴い土壌の硫酸イオン吸着量も増加するこ と、
その吸着態硫酸イオンは負荷量が減少しつつ ある欧米では、
徐々に脱着されて系から流出して いることが明らかになってきた。
この無機態の硫 酸イオンよりも有機態硫黄化合物の方が、
土壌に 蓄積した後に流出するまでの時間(
滞留時間)
は長 いことが報告されている15)。
しかしながら、
有機 態硫黄化合物の動態についての知見は少なく、
各 種土壌における滞留時間を推定するには至ってい ない。
森林に取り込まれた硫黄が森林から排出さ れる際に森林の周囲環境が受ける影響を見過ごさ ないためには、
この森林土壌における硫黄の滞留 時間を考慮する必要がある。
にもかかわらず、
我 が国では森林土壌における硫黄の滞留時間の解明 に不可欠な硫黄現存量に関する知見はほとんどな い。
本報告では
、
森林生態系における硫黄循環の概 略を紹介するとともに、
我が国の森林土壌におけ る形態別硫黄現存量の調査、
さらにその現存量に 影響を与えている土壌要因について検討した結果 を報告する。
2.森林生態系における硫黄循環
土壌に含有されている硫黄の起源には
、
人間 活動に起因するSO2、
火山活動に起因するSO2、
パイライトのような含硫鉱物、
海塩由来の硫酸 イオンなどが挙げられる。
前者の3
つは陸域環 境の酸性化にかかわっている。
土壌に供給され た硫酸イオンは植物や微生物に取り込まれ、
同 化的還元反応を経て生体に必要な有機態硫黄化 合物に変換される16)。
その後、
生物遺体として 土壌へ戻り土壌有機物へと変化し、
分解と縮合 を繰り返して、
一部は安定化し蓄積され、
一部 は最終的に硫酸イオンまで分解される。
生物に 利用されなかった硫酸イオンや無機化によって 生成された硫酸イオンは、
そのまま自由水の移 動と共に系から溶脱するか、
土壌粒子に吸着さ れ17),18)、
あるいは金属イオンと結合して硫酸塩木による吸収量は
0 〜 22 kg S ha
−1y
−1、
落葉落枝に よる林床への供給量は3 〜 10 kg S ha
−1y
−1、
土壌か らの排出量は16 〜 44 kg S ha
−1y
−1と各フラックス は森林によって幅広い値をとるが、
いずれも土壌 の硫黄現存量の数%(
最大5 . 8 %)
を占めるに過ぎ ない。
森林生態系を循環する過程で系から放出される 硫黄は
、
それをとりまく環境−
水域や大気−
にも 影響を与えている。
よく知られている例が土壌の 硫酸イオン吸着反応であり、
硫酸イオンの吸着に よって水酸化物イオン(OH
−)
が土壌水中へ放出さ れると23)土壌pH
や9)陽イオン交換容量(CEC)
が上 昇し24)、
陽イオンの溶脱が抑えられる25),26(
)陰イ オン吸着理論についてはParfitt
27)およびBarrow
28) が詳しいのでここでは割愛する)。
その機能が伐 採や松枯れといった森林のかく乱が引き起こす窒 素の無機化や、
硝化によるプロトンの生成を抑え る役割を果たしていることが示されている29),30)。
また微生物活動により大気に放出された含硫ガス は、
微粒子化し気候に影響を与えていることも知 られている1)。
しかし、
大気から森林生態系に負 荷される硫黄量の変動が生態系の周囲の環境に与 える影響は、
生態系による硫黄の滞留時間が長い 場合には、
ある程度緩和されると考えられる。
3.森林土壌における硫黄現存量森林生態系の中で硫黄を蓄積する主体は植 生
、
林床と鉱質土層などが挙げられるが、
その 中では鉱質土層が最も重要であることが知られ ている。
森林全体が保有する硫黄の80 〜 98 %
が 鉱質土壌に含まれており、
その硫黄現存量は根 系の深さまでに310 〜 3 , 070 kg S ha
−1あるといわ れている9),26),31)。
鉱質土壌での硫黄の滞留時間 は、
安定性の低い画分では10
年に満たないが、
安定性の高い画分では50 〜 1 , 500
年に達するとい われている32)。
森林土壌中の硫黄化合物の形態は
、
有機態は エステル硫酸態S
とC-bonded S
の2
画分に、
無 機態は硫酸イオンと硫化物に分画されている(
図地球環境
な森林土壌では硫化物は通常存在せず
、
硫酸イ オンが主体をなしている33)。
硫酸イオンは土壌 中に保持される硫黄化合物全体のごく僅かな部 分しか構成しないが、
植物根が吸収できる形態 として最も重視されている。
無機態硫酸イオン の抽出には、
リン酸イオン溶液、
塩化物イオン 溶液や蒸留水などが用いられる。PO
4可溶性S
に は水溶性および吸着態硫酸イオンに加え、
有機 態硫黄化合物も若干含まれることがあるが、
そ の量は無視できるくらい僅かである33)。PO
4可溶 性S
は植物による吸収量と相関が良いため34)、
土壌中の硫黄化合物の中では植物が利用可能な 量であると考えられている。
本研究では全硫黄現存量や上記の画分別硫黄
の現存量がほとんど知られていない
Andisols
と、
日本に広く分布するInceptisols
について硫黄化合 物量を調査した(
表1)。Andisols
やInceptisols
は米 国Soil Taxonomy
35)による土壌名であり、
日本の林 野土壌分類( 1975 )
36)では褐色森林土や黒色土など に分類される。
褐色森林土は主にInceptisolsに相 当するが、
火山性物質の影響がその理化学性に 反映されている場合は、Andisols
に分類される。
逆に比較的年代の若い火山灰土壌は、Inceptisols
に分類される場合もある37)。Inceptisols
は世界の 山地帯を中心に広く分布するが、Andisols
は我 が国の他、
環太平洋火山地帯やアフリカの大地 溝帯などの地域に特異に分布している38)。
供試土 壌を採取した関東および中部地方における硫黄 沈着量は、
藤田39)より算出すると1980
年代後半 で15 kg S ha
−1y
−1であった。Andisols
とInceptisols
は 山林地帯でモザイク状に混在しているため40)、
硫 黄沈着量に大差があるとは考えがたい。
なお、
この15 kg S ha
−1y
−1という値は、
米国東部の集水 試験地の硫黄降下物量と同程度であり[
例えば、 Integrated Forest Study (IFS)
のWF, DL, LP
試験地で は約16 kg S ha
−1y
−1 41)]、
チェコ、
ポーランドや ドイツといったヨーロッパ諸国9)よりは低いとい える。
硫黄の測定は
Soil Science Society of America
33)の 定める方法に従った。
全硫黄は土壌試料を酸分 解後、 ICP-AES (Fisons Inst., Maxim)
を用いて定量 した。
有機態硫黄化合物のうちエステル硫酸態S
は、
土壌を直接Johnson and Nishita
の蒸留法に適 用して得た測定値から、PO
4可溶性S
を差し引き 求めた。PO
4可溶性S
はリン酸溶液を土壌へ添加 し振とうした後、
濾液中の硫黄濃度をJohnson and
Nishita
の蒸留法を用いて定量した。
水溶性S
はリン酸溶液の代わりに蒸留水を用いて抽出し
、
蒸留 法によって測定した。C-bonded S
は全硫黄含有率 からエステル硫酸態S
とPO
4可溶性S
の含有率を 引いて算出した。
図1 土壌中の硫黄化合物画分.
表1 試料採取地の土壌型,土性,標高,気温,降水量,土壌pH,土壌母材と木本植生.
その結果
、Andisols
ではInceptisols
や欧米の土 壌よりも全硫黄現存量が高いことが明らかにな り、
表層から50 cm
深までの積算現存量は最大 で3 , 520 kg S ha
−1という高い値を得た(
図2)。
こ の値はこれまで報告されている全硫黄現存量の中 で、
最も高いレベルに属する。
さらにAndisols における全硫黄現存量は深い層位まで積算す るほど著しく増大し、 Ince ptisols
との差も大 きくなった(
図3a)。
同様の傾向はエステル硫 酸態S
やPO
4可溶性S
でも観察されたが(
図3
b,d)、C-bonded S
現存量には土壌間で大きな差はなく
(
図3c)、
水溶性S
現存量はInceptisols
の方がAndisolsより高い傾向にあった (
図3 e )。
これら の結果は硫黄の分布が形態別に異なること、
また エステル硫酸態S
およびPO
4可溶性S
は硫黄の主 要な蓄積形態であること、
また単位面積あたりの 現存量の比較には積算深度を考慮する必要があるInceptisols
では若干高めの傾向が認められた42)。
我が国にはこの他にも若干ではあるが、
土壌の全 硫黄含有率についての報告がある。
森林土壌につ いては佐久間ら31)が北海道の軽石質の土壌で80 〜 600 mg S kg
−1, Kim
43)が関西の花崗岩質未熟土で22 〜 224 mg S kg
−1と、
いずれも低い値を報告し ている。
鈴木44)による水田や畑土壌の調査では、
干拓地土壌、
泥炭質土壌を除き、
火山灰土壌が959 〜 1 , 540 mg S kg
−1の範囲で最も全硫黄含有率 が高く、
他の土壌は、 299 〜 1 , 135 mg S kg
−1と 比較的低かった。
また草地における全硫黄含有 率も泥炭土壌を除き火山灰土壌が上位を占め、 100 〜 2 , 800 mg S kg
−1の範囲であった45),46)。
草地 における火山灰土壌以外の土では、
鈴木と同様 に数百mg S kg
−1程度含有する土壌が多く、
その 範囲は53 〜 1 , 200 mg S kg
−1であった45),46)。
本研究のInceptisols
における全硫黄含有率は、
図2 各種土壌における硫黄化合物現存量.現存量の積算:無印,表層から50 cm深;*,表層から根系の深さ;†,表層 から44 cm;‡,表層から60 cm深;§浸水により有機物の再堆積を受け た土壌.
地球環境
の影響を受けている土壌は
、
著しく大量の炭素を 集積するといった特異な理化学性を有することが 知られているが、
炭素だけでなく硫黄を集積する 能力も高いことが明らかになった。
4.森林土壌の硫黄含有率と土壌化学性の関係
土壌の硫黄集積能は土壌の化学性と関わってい ると考えられる
。
そこで全硫黄含有率と炭素(C)
含有率
、
窒素(N)
含有率、CN
比、
土壌pH (H
2O) ,
土壌pH (KCl)、
酸化物含有率との関係を調査し た。
土壌の有機炭素含有率はCNコーダー(
ヤナコ 分析工業、MT 600 CN Corder)
を用いて測定した。
土壌pH
は生土を用いてガラス電極法で測定した(
土壌:
溶液=1: 2 . 5 )。
鉄やアルミニウムの酸 化物は、International Soil Reference and Information Center
49)に従って抽出した。
シュウ酸可溶アルミ ニウム(Al
o)、
鉄(Fe
o)
およびシリカ(Si
o)
は暗所にて
pH 3
の酸性シュウ酸アンモニウム溶液で4
時間 振とうして抽出した(
土壌:
溶液=1: 50 )。DCB
溶液可溶アルミニウム(Al
d)
および鉄(Fe
d)
は17 %
クエン酸ナトリウム溶液と1 . 7 %
ジチオナイトの 混合溶液( DCB溶液 )
を用いて、
暗所で16
時間振と うして抽出した(
土壌:
溶液=1: 60 )。
ピロリン 酸可溶アルミニウム(Al
p)、
鉄(Fe
p)
および炭素(C
p)
は0 . 1 M
のピロリン酸ナトリウム溶液を用い て、
暗所で16
時間振とうして抽出した(
土壌:
溶 液=1: 100 )。
抽出液中のアルミニウム、
鉄、
シリカの濃度は前出のICP-AES
を用いて定量し た。
粒径組成は土壌物理性測定法50)に従った。
風 乾細土を過酸化水素水で処理して超音波にかけ( 20 kHz, 250 W)、
塩酸もしくは水酸化ナトリウム を用いてpH
を4
もしくは10
に調節し、
粘土を分 散させた。
粘土(< 0 . 002 mm)
量はピペット法で測 定した。
結果を図
4
に示す。
全硫黄含有率は、Al
d、
図3 硫黄化合物の積算現存量と土壌深との関係.Al
o、
粘土含量と強い相関があり、
決定係数(r
2)
は0 . 83 〜 0 . 88 (
危険率p < 0 . 001 )
と高かった。
それ らのパラメータに比べてFe
o およびFe
d とのr
2は若 干低くかった( 0 . 69 〜 0 . 71 , p < 0 . 001 )。
一方、
ピロ リン酸抽出態酸化物、
アロフェン含量の指標と なるSio 含有率51)、
および炭素含有率、
窒素含有 率、CN
比、
土壌pH
との明瞭な関係はなかった。
これらの結果から、
硫黄化合物は土壌粒子の微細 な画分(
粘土画分)
に多く含まれるとともに、DCB
溶液および酸性シュウ酸溶液に可溶なアルミニウ ムのような酸化物と密接にかかわっていることが 示された。
全硫黄含有率と炭素や窒素含有率とは 良い相関が得られるという報告もあるが43)、
本邦 には硫黄と炭素、
および窒素との動態が異なる土 壌も多く存在すると推察される。
実際、
耕作によ る硫黄の減少速度は炭素や窒素よりも遅く、
有機 態硫黄は無機化に対して抵抗性が強いことが報告 されており52),53)、
その理由の1
つは炭素や窒素よ りも粘土画分とより強く結合していることにあると考えられている54)
。
また硫黄化合物と酸化物と の関係では、
酸化物の変異荷電による硫酸イオン 吸着現象が良く知られているものの24),26),27),55),56)、
当該土壌試料の無機の硫黄はAndisols
で全硫黄 の34 %、Inceptisols
で27 %
を占めているに過ぎな かったので42)、
他の硫黄画分についても酸化物と の関係を検討する必要がある。
5.土壌への硫黄蓄積と生態系への影響
土壌におけるアルミニウムや鉄の酸化物は
、
長 期に渡る土壌生成過程によって現在の含量に至っ ているので、
それらに保持されている硫黄化合 物は、
土壌が撹乱されない限り短期間に大量に溶 出されるということは考えがたい。
しかし今後の 環境変動に対しても土壌の硫黄保持機構が有効に 機能するかという点については、
注意が必要であ る。
アジア地域では、
今後も人為起源の硫黄発生 量が増加する見通しであり7)、
また脱硫装置の普地球環境
及で大気中の硫黄濃度が減った地域でも
、
窒素の 過剰供給の問題は依然として解決されていない。
土壌に酸を負荷し続けた場合に、
水素イオン濃度 の上昇とともにアルミニウムや鉄の酸化物の表面 が可溶化すると、
土壌の硫酸イオン吸着能は低下 する57)。
実際、
硫酸溶液を土壌へ添加して酸緩衝 能を調べた石塚ら58)の実験では、
添加量が少ない 間は硫酸イオンは吸着するために溶出はごく少な く抑えられているが、
一定の添加量を超えると硫 酸イオンの溶出量は急激に増え、
それと共にアル ミニウムイオンも溶出してくるという結果が報告 されている。
早くから降水や土壌水等の化学組成 のモニタリングを開始した旧西ドイツでは、
生態 系への硫黄や窒素の負荷の増加、
土壌硫黄蓄積量 の増加とアルミニウムの溶出( 1973 〜 1977
年)、
それにつづく土壌からの硫黄の溶出とアルミニ ウムの溶出量の増加
( 1977 〜 1981
年)
が観測され ている59),60)。
我が国でも窒素飽和が報告されてい るアカマツ林(
主にAndisols、
一部Inceptisols
が分 布)
において、
アンモニウムイオンの負荷が土壌 有機態窒素の無機化および硝化を促進し、
大気か ら供給される量の1 . 5
倍ものプロトンを生成し、
塩基性陽イオンの溶脱や鉱物風化が起こっている ことが観測されている61)。
石塚らの実験では、
ア ルミニウム溶出量の急激な増加をもたらす硫酸添 加量は土壌によって異なり、
硫酸の添加量が少な くても早くから硫酸イオンが溶出する土壌ではア ルミニウム溶出量も少なく、
硫酸を多く吸着する 土壌では溶出してくるアルミニウム量も多いこと が明らかにされている。Andisols
のような非晶質 アルミニウム含有率が高い土壌は後者に属し、
土 壌pH
が低下した場合に溶出されるアルミニウム イオンが多い62)。
もし吸着機能が低下すれば、
将 来負荷される硫酸イオンが保持できないだけでな く、
土壌pH
の低下が抑制されずにアルミニウム 酸化物や粘土鉱物が溶解することによって現在集 積している硫黄化合物も溶脱することになると考えられる
。
日本のAndisols
のように硫黄化合物が多く集積する土壌においてアルミニウム溶出まで 酸性化が進んだ場合は
、
陸水生態系が受ける影響 は欧米より大きい、
もしくは長期に渡る可能性が ある。
そのため酸化物が多い土壌が分布する地域 に適した硫黄循環モデルの構築が必要となると考 えられる。
こうした酸化物をパラメータにした硫 黄蓄積の知見や硫黄循環モデルはアジア地域に分 布し、
同じく変異荷電性をもつOxisols
やAlfisols
についても応用できるものと期待される。
6.まとめ
森林生態系の中で硫黄を蓄積する主体として
、
最も重要なのは鉱質土層であることが知られてい る。
本研究はこれまで報告のほとんどない日本の 森林土壌の硫黄現存量を調査し、
土壌の化学性と の関係を明らかにした。
その結果、Andisols
は欧 米の土壌やInceptisols
に比べ、
著しく大量の硫黄 化合物を蓄積していること、
硫黄は土壌中で粘土 画分に多く存在していることが明らかになった。
また全硫黄含有率は土壌のDCB
溶液可溶性アルミ ニウムと非常に強い相関があり、
土壌中でアルミ ニウム酸化物によって保持されていることが示唆 された。
土壌における硫黄化合物の動態は、
渓流 へのアルミニウムの溶出にも影響を与えていると 考えられるため、
酸化物含有率が高いAndisols
が 分布する我が国に適した硫黄循環モデルの構築が 必要であると考えられる。
謝辞
森林土壌の硫黄現存量に関する研究は
、
環境省 地球環境研究総合推進費「
流域の物質循環調査に 基づいた酸性雨による生態系の酸性化および富栄 養化の評価手法に関する研究」
により実施した。
またこの論文をまとめるにあたり、
名古屋大学農 学部竹中千里先生、
木村眞人先生、
農業環境技術 研究所新藤純子氏、
森林総合研究所石塚和裕氏ほ か立地環境研究領域の皆様に研究協力と貴重なご 助言をいただきました。
記して感謝いたします。
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