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平成20年度 報告書

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平成20年度 報告書

世界金融危機の中東経済に与える影響の調査

平成21年3月

財団法人 中東協力センター

この事業は、競輪の補助金を受けて 実施したものです。

http : //ringring.keirin.go.jp

中東協力センター

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取扱注意

(2)

はじめに

本調査報告書は、財団法人中東協力センターが平成20年度中東・北アフリカ経済情 勢調査事業の一環として、世界金融危機の中東・北アフリカ経済に与える影響について 取りまとめたものです。

本年度は、産油国を始めとする中東・北アフリカ諸国にとり、原油価格が140ドル 超えの史上最高水準から僅か半年で30ドル台半ばに急落するというまさに激動の荒 波にさらされた一年となりました。ここ数年のオイル・ブームによる高い経済成長を背 景に、域内各国ではインフラや文化・教育への活発な投資が見られたり、中東に縁の深 い政府系ファンドやイスラム金融の国際経済における存在感が急速に高まりましたが、

昨年秋以来の世界金融危機とも相まって、今年に入りこれまで急成長する中東のシンボ ルにも擬せられてきたドバイの経済発展の勢いに陰りが出てきたといった論調が日本 でも聞かれるようになりました。しかしながら、中東・北アフリカ地域は広くかつ多様 であり、また激動の時期だからこそタイムリーに現地の生の声・情報を収集・発信する ことが、短期的でなく中長期的な視点を持って同地域への投資を検討していく際の一助 になると考え、本調査を実施致しました。

平成21年2月中旬から下旬にかけ行われたリヤド、イスタンブール、ドバイの現地 調査では、現地の政府機関や金融・調査会社に加えて現地に進出している日本企業も訪 問し、その調査結果もふまえて、本報告書ではまず世界金融危機の発生とオイルマネー の動向につき概説し、それに続き世界金融危機の中東・北アフリカ地域経済への具体的 影響に関して数カ国を例にとってまとめました。本調査が、今後中東・北アフリカ地域 でのビジネス展開を検討している企業にとって少しでもお役にたてれば幸いです。

末筆ながら、本調査に全面的にご協力頂きました、財団法人 海外投融資情報財団 上席特別研究員 山岡通宏氏および特別研究員 岩見元子氏に対して、深く感謝の意を 表します。また、現地調査では在イスタンブール日本国総領事館、国際協力銀行ドバイ 事務所、日本貿易振興機構(リヤド及びイスタンブール)、三菱商事イスタンブール支 店、三菱東京UFJ銀行イスタンブール事務所、その他現地の関係者の方々に種々ご協 力いただきました。ここに本誌面を借りて心からお礼申し上げます。

平成21年3月

財団法人 中東協力センター 専務理事 河 野 秀 樹

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目 次

第1章 世界金融危機とその影響... 1

1.1 世界金融危機の発生... 1

1.1.1 リーマンショック後の金融市場... 1

1.1.2 欧米の金融危機の経過... 4

1.1.3 今回金融危機の特徴... 7

1.2 世界金融危機発生の背景... 8

1.2.1 グローバル・インバランス(経常収支の不均衡)の拡大... 8

1.2.2 世界的な低金利の持続... 10

1.3 新興国、途上国経済への金融危機の影響... 10

1.3.1 金融市場への影響... 11

1.3.2 実体経済への影響... 13

1.4 世界的な不況の深刻化と今後の見通し... 15

第2章 オイルマネーの動向... 19

2.1 石油価格高騰とオイルマネー... 19

2.1.1 オイルマネーの規模... 19

2.1.2 石油価格高騰の経緯... 20

2.2 オイルマネーの還流とその影響... 27

2.2.1 オイルマネーの還流... 27

2.2.2 オイルマネー還流の影響... 32

2.3 石油価格下落と中東経済への影響... 41

第3章 中東経済と世界金融危機の影響... 46

3.1 サウジアラビア経済と世界金融危機の影響... 46

3.1.1 原油価格高騰と好調な経済... 46

3.1.2 インフレ率上昇と金融政策... 52

3.1.3 世界金融危機のサウジ経済への影響... 55

3.2 ドバイ開発と金融危機の影響... 66

3.2.1ドバイ開発... 66

3.2.2 世界金融危機後のドバイ経済... 68

3.3 トルコ経済と金融危機の影響... 72

3.3.1 2001年経済危機以降の好調な経済... 72

3.3.2 成功したインフレ抑制と財政規律の維持... 74

3.3.3 拡大した経常収支の赤字とファイナンス... 80

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3.3.4 世界金融危機のトルコ経済への影響... 89

3.4 北アフリカ諸国... 96

3.4.1 エジプト... 96

3.4.2 リビア... 105

3.4.3 アルジェリア... 111

おわりに... 115

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1

第 1 章 世界金融危機とその影響

米国のサブプライム住宅ローンの焦げ付き問題1に端を発した金融混乱は、2008年9月中 旬の米国大手投資銀行リーマン・ブラザーズ2の経営破綻によって米国はもとより欧州にも 瞬時に伝播し、一気に世界金融危機へと発展した。米国、欧州など各国政府、国際金融機 関の政策努力にもかかわらず、金融危機の収束はみえず、金融危機による信用収縮、先行 き不安の高まりなどにより実体経済面でも投資、消費が抑制され、また貿易の縮小から景 気の悪化が急速に進行し、世界同時不況の様相となっている。新興国にも欧米の金融危機 の影響は及んでいる。

1.1 世界金融危機の発生

1.1.1 リーマンショック後の金融市場

欧米の金融市場の混乱は、2007年夏ころからアメリカのサブプライム住宅ローン問題に 起因する短期金融市場での流動性の低下や一部金融機関の経営不安などの形で続いていた が、2008年9月15日、大手投資銀行のリーマン・ブラザーズが経営破綻し、政府の救済 がなされなかったことから市場では大きなサプライズと受け止められた。

このリーマンショックによって銀行間市場は疑心暗鬼から機能不全となり欧米の主要な 金融機関は経営が行き詰まり、金融システム全体をゆるがす問題へと拡大していった。

① 株価の動き

主要国の株価の推移を見ると、08年9月中旬を転機として、それまでの金融機関株を中 心とした株価の下落が金融機関以外へと広がり、市場全体の株価が急落するなど、主要国 の株価指数は9月中旬以降の3か月間で30%を超える下落を記録した(図表1-1)。また、

金融市場の混乱は、新興国にも資金の流出という形で波及し、株価が 9 月以降下落のテン ポを速めるとともに、多くの国では通貨が大幅に減価し、対外ファイナンスの困難に直面

1 サブプライム住宅ローンとは、「信用力の低い個人層向け住宅融資」で、普通の(プライム)住宅ローン と比較して相対的に延滞率や破綻リスクが高い。このため貸出利率が高く設定され、それを利用してサ ブプライム債権を証券化するビジネスが盛んとなった。証券化商品は、金融工学を駆使して「低リスク・

高利回り」という触れ込みで世界の投資家に販売された。しかし住宅ブームが終わり住宅価格が下落す ると、延滞率が高くなり、原債権からの返済金(キャッシュフロー)を原資とする証券化商品の価格は 下落する。この場合、証券化商品がサブプライム住宅ローン証券を他の債権と組み合わせて再証券化す るなど複雑な組成となっており、リスク・損失の所在が分からずフェアバリューが不明となったことか ら、証券化商品の流動性は失われ価格は暴落した。この結果、債権を証券化する過程で大量の不良在庫 を抱えた投資銀行やヘッジファンドに証券の購入資金を大量に貸し付けていた銀行の融資は不良債権と なり、金融機関の収益は大幅に悪化した。

2 米国証券大手リーマン・ブラザーズは2008915日米連邦破産法11条の適用を申請し、経営破綻 した。リーマンはサブプライム・ローン問題による住宅ローン資産などの値下がりで120億ドル超の関 連損失を計上、資本不足に陥るとの見方が強まり、株価が急落。顧客や取引先が離れ、事業継続が困難 になった。日本においても同社に融資債権や社債をもつ金融機関や企業だけでなく、投資信託などを保 有する個人投資家や不動産市場など幅広い分野に影響が及んだ。(日本経済新聞08.9.16

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2

するなど、新興国の金融資本市場にも大きな混乱が生じた。

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出所:内閣府「世界経済の潮流」2008年Ⅱ(原データ ブルームバーグ)

② 短期金融市場

リーマン・ブラザーズの破綻により、大手金融機関についても破綻のリスクがあること が強く認識された。欧州各国でも2007年から経営に行き詰る金融機関が相次いだ。こうな ると金融機関はお互いの財務状況について急速に相互不信に陥り、その結果、銀行同士が 日々資金を融通しあう銀行間(インターバンク)市場が機能しなくなった。たとえ一日で も、ある銀行に融通した資金がその銀行の破綻によって回収できず債務不履行になれば、

他の銀行への返済に影響し、資金繰り破綻にもつながりかねない。借り手の債務不履行を 恐れて資金供給が枯渇したり、大幅なリスクプレミアムを付して取引される事態となった。

こうした金融機関の信用リスクの高まりについて、銀行間市場の指標であるロンドン・

インターバンク市場で決まる金利(LIBOR)をみると、大幅に上昇した。LIBORと米国債

(3ヶ月物)の利回り格差(TED スプレッド)は、リーマン・ブラザーズが破綻した直後

からLIBORの急騰を反映して拡大した3(図表1-2)。これは資金が潤沢な銀行でもその資

金を市場に放出しなくなったためである。

インターバンク市場の機能不全は銀行の資金繰りを逼迫させ、信用供与額は大幅に減少 する。新規の信用供与は減少し、既存の与信まで回収することにつながり、実体経済に大 きな影響を与える。その後、中央銀行の資金供給によってTEDスプレッドは低下してきて いるが、まだ不安感が消えてはいない。

3 スプレッドは、正常な市場状態では2030ベイシスポイントであるが、20089月下旬から10月初旬 に最大値400ベイシスポイントまで高騰した。

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3

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注)ユーロドル・スプレッド(3か月) = LIBORユーロドル金利(3か月)-米国債3か月物金利 出所:図表1-1に同じ。

③ クレジット市場

株式市場と同様に、クレジット市場でも信用リスクへの懸念が急速に高まった。アメリ カの主要金融機関におけるCDS4スプレッドの推移をみると、9月中旬にスプレッド(保険 料)が跳ね上がり、その後も少し落ち着きはみせつつあるものの依然として高水準で推移 していることが分かる(図表1-3)。とりわけ、投資銀行については、スプレッドが一時1,000

4 CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は、貸付債権のデフォルトに対する保証契約取引。CDS

の買い手である銀行や社債投資家はCDSの売り手である保険会社や証券会社に保険料を支払うことで、

融資対象企業が倒産した際の融資の返済や証券化商品の元利保証を受ける。(日本経済新聞 08.9.17)

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ベーシスポイントを超えるところが現れるなど、市場が当該金融機関の存続可能性に強く 疑念を抱いていたことがうかがわれる。

CDS は、そもそも、各種債権に対する債務不履行(デフォルト)リスクをヘッジするた めの金融デリバティブ商品である。CDS の保険を提供する金融機関の破綻により、保険を 購入していた金融機関も保有債権がデフォルトするリスクを抱えることになり、結果とし て、当該金融機関の資産内容も悪化するリスクにさらされることになる。このため、CDS を提供する米大手保険会社AIGのような金融機関に対する信用不安が高まり、市場全体に おけるカウンターパーティ・リスク(取引相手に係るリスク)の認識を強めることとなっ た。

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注)クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)スプレッドとは、貸付債権のデフォルトに対する保証契 約取引(デフォルト・スワップ)の際に、買手が売手に対して支払うプレミアム。

出所:図表1-1に同じ。

1.1.2 欧米の金融危機の経過

(1) 米国発の金融危機

サブプライム・ローン問題は、2006年末頃から米国経済のリスク要因として顕在化し始 めたが、07年8月にフランス大手金融機関BNPパリバが傘下の投資ファンドの解約凍結5を 発表した、いわゆる「パリバ・ショック」が契機となって、株価が下落し欧米の金融市場 に動揺が広がった。その後、2008年3月のアメリカ大手投資銀行ベアー・スターンズの経

5 サブプライム関連の金融商品の売却を試みたが市場で買い手がつかず、解約に応じるための現金化が困 難になった。

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営危機6、同年7月のアメリカのGSE(Government-Sponsored Enterprises:政府支援機 関)、住宅公社2社7のファニーメイとフレディマックの経営不安といった局面ごとに、混乱 の度合いを強めてきたが、08 年9月15 日のリーマン・ブラザーズの破産申請により、国 際金融資本市場の緊張は一気に高まり、世界的な金融危機となった(図表1-4参照)。

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ベアー・スターンズ 住宅金融公社 リーマン・ブラザーズ AIG 規模 最大290億ドル 最大2000億ドル なし 最大850億ドル 内容 買い手のJPモル

ガン・チェースに 特別融資(損失補 てん契約付き)

優先株購入枠(融 資、資産買い取 り、79.9%の普通 株取得権利も)

破綻 2年間の緊急融資

(79.9%の株取 得権利も)

当局の説明 デリバティブ取 引多く、突然の破 綻を回避

住宅市場底割れ 防ぐ。海外投資家 の信認維持

緊急融資制度もあ り、市場混乱の可 能性小さい

金融取引の中核。

経済・家計への影 響防ぐ

株主価値 身売り価格は 1株10ドル

無配、株主価値の 希薄化

普通株はほぼ無価 値に(9月16日株 価は0.3ドル)

無配の可能性、株 主価値の希薄化

注)公的支援の規模、内容は新聞掲載時点。

出所:日本経済新聞(2008.9.18

それまで、大手金融機関については、「大きすぎてつぶせない」(too big to fail)、また、

他の金融機関との関係が密接なのでつぶせないため、市場関係者の多くが漠然と破綻する ことはなく、政府の救済があると考えていた。しかし、政府は 3 月のベアー・スターンズ 救済後にFRB(米連邦準備理事会)が証券会社向け融資制度などを整備したことから、リー マンが破綻しても他の金融機関に累は及ばないと楽観視していたとされる8

「大きすぎてつぶせない」という市場の暗黙の了解が崩れた衝撃は大きく、リーマンは 世界に拠点を置き、手広く活動していることから混乱は瞬く間に世界中に波及した。

6 ベアー・スターンズは、米国の5番目の規模の投資銀行。短期借入の多くを市場価格下落の著しい住宅 ローン証券を担保にしたレポ取引に依存。住宅ローン証券価格急落で担保価値が下がり、資金の出し手 の銀行が追加担保要求をし、資金繰り難で株価が急落していた。(日本経済新聞08.3.18

7 政府支援機関(GSE)住宅公社 2 社(ファニーメイ(連邦住宅抵当公社)とフレディマック(貸付抵当公 社))の主要業務は、民間住宅ローン業者から住宅ローン債権を買い取り、それを裏付け資産とした住宅 ローン担保証券(RMBS)を保証することである。両社の保証額は米国の住宅ローン残高の約半分に相当 し、その役割は「事実上住宅ローン最後の買い手」という言葉に集約される。一方、資金調達のため発 行される GSE 債は“暗黙の政府保証”があるとみなされ、世界の多くの中央銀行、金融機関などがその 債権を保有している。(日本経済新聞 08.9.8)

8 「リーマンの公的救済は一度も考えなかった」(ポールソン米財務長官08.9.15記者会見)

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さらに、続いて9月16日にアメリカ大手保険会社AIG9の経営危機が起きた。FRBによ る緊急資金融資は、同社が国際的なオペレーションを行っていたことから、他の金融市場 への影響が強く懸念され、また、同社がCDSの保険を幅広く提供していたことから、CDS に係るリスクが関心を集めることとなった。

(2) 欧州における金融危機

ヨーロッパにおいては、07年8月のドイツIKB産業銀行への支援や07年9月の英国の ノーザンロック銀行における取付け騒ぎ(その後08年2月に一時国有化)等にみられるよ うに、早い段階から、アメリカのサブプライム住宅ローン問題の影響を受け、一部金融機 関の信用不安や金融市場の混乱が表面化してきた。

08 年 9 月のリーマン・ブラザーズの破綻を契機に更に事態は深刻化し、英国大手銀行 HBOSのロイズTSBによる救済買収、ドイツ政府による大手住宅金融会社ハイポ・リアル・

エステートへの支援、フォルティスやデクシアといった複数の国にまたがる金融機関への 公的資金注入等、大手金融機関の経営不安や資金繰り困難の問題が次々と表面化し、ヨー ロッパの金融機関のCDSプレミアムも、経営不安が表面化した金融機関を中心に、9月中 旬以降急上昇した。

ヨーロッパにおいても、カウンターパーティ・リスクの認識の高まりから、金融機関同 士が相互不信に陥り、短期金融市場においては、中央銀行が唯一の資金の出し手という状 況になっている。

外国為替市場では欧州全域に広がった金融危機と実体経済の悪化の懸念から、これまで ユーロに流れ込んでいた投資資金が逃避した。米国金融機関がユーロの換金売りに動いた ほか、日本の投資家もユーロ建て債などを組み込んだ投資信託を解約するなどの動きをし た。ユーロの対ドルレート、対円レートは2008年7月下旬を境に一転してユーロ安の展開 となった。

このようにヨーロッパにおいても金融危機が発生した要因としては、ヨーロッパ各国自 身が抱えていた問題とアメリカの金融危機の影響という二つに分けて考えることができる が、主に、ヨーロッパ自身の問題によるところが大きい。

ヨーロッパ各国自身が抱えていた問題には、次のようなものがある。

① ヨーロッパの金融機関においても、2000年代に入ってからの国際的な資金フロー の拡大下において、リスクの適切な管理が行われていなかったこと、

9 米保険大手 AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)は本業は生損保だが、利ざやが薄いた め、証券化商品の保証業務、住宅ローン担保証券の投資など多角化していた。具体的には、AIG の高格 付けを利用して、CDS(クレジット・デファルト・スワップ)と呼ばれるデリバティブ(金融派生商品)

を用いて、保証投資銀行が組成した債務担保証券(CDO)などの証券化商品の元利保証を投資家に約束し ていたが、サブプライム問題深刻化を受け、AIG 保有の住宅ローン担保証券や保証する CDO の価値が減 損。格付会社は、AIG 本体の格下げに動いたため、AIG は保証していた証券化商品の元利返済を確実にす るため、現金担保を差し出す必要に迫られ、資金繰りが急速に悪化した。(日本経済新聞 08.10)

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② アメリカの金融機関以上に高いレバレッジ10で投資が行われていたことなどから、

金融機関の経営構造が資産価格下落に対して脆弱であったこと、たとえばユーロ 圏の金融機関の総資産残高の推移をみると、99~07年のわずか8年の間に、資産 残高のGDP比が、100%以上も高まっている。

③ 英国、スペイン、アイルランド等においては米国と同様に2000年代に住宅バブル が発生しており、住宅バブル崩壊から金融機関がその影響を大きく受けたこと。

さらに、ヨーロッパにおける金融危機は、アメリカの危機の影響により、事態が深刻 化している面がある。ヨーロッパの金融機関の一部は、アメリカにおいても広く事業活 動を行っており、また、アメリカで組成された住宅ローン債権担保証券(MBS)等を大 量に保有していた。このため、ヨーロッパの金融機関は、サブプライム住宅ローン問題 の発生に伴うMBSの価格下落の影響を強く受けることとなった。

1.1.3 今回金融危機の特徴

今回の危機の特徴の第一は、グローバルな危機という点である。金融機関のグローバル な活動により、各国の国際金融市場の相互連関はますます強まっており、アメリカ発の金 融市場の混乱は、アメリカにとどまらず、まずはヨーロッパに、そしてアジアをはじめと する新興国へと波及している。これは緩和的な金融環境のもとで金融機関が過剰なリス ク・テイク行動を常態化する中で、各国・地域間のクロスボーダー金融取引が実体経済以 上に拡大したことが影響している(図表1-5)。

第二に、危機の進行や波及のスピードが速いことである。今回の危機の過程においては、

9月15日のリーマン・ブラザーズの破綻以降、市場を通じて、危機が瞬く間に伝播し、各 国で経営危機に陥る金融機関が次々と現れるとともに、各国の短期金融市場は機能停止状 態に陥った。こうした市場を通じた危機の波及の速さが、これまでの金融危機との大きな 違いであると言える。

第三に、証券化により危機のプロセスが複雑なものとなっているということである。今 回の危機では、住宅ローン担保証券や更にそれらを証券化した CDO(債務担保証券)、さ らには、企業や金融機関のデフォルト・リスクを売買するデリバティブ商品であるCDS等 の商品を様々な金融機関が広く保有し、誰がどの程度のリスクを抱えているかが分かりに くくなっており、それが金融機関間の相互不信を通じて、危機を深刻なものにしている。

この点は、80年代のアメリカのS&L危機や日本のバブル崩壊後の経験において、不良債権 が不動産関係にほぼ限定され、また、関係者も明確であったのとは大きく異なる点である。

10 レバレッジとは「てこ」を意味し、他人資本(借入れ)を使うことによって自己資本に対する利益率を 高めること。たとえば、株取引の場合に信用取引を使えば、自己資本以上の株を購入でき、自己資本だ けの場合の何倍もの収益が狙える。企業経営でも、自己資本の何倍の資産を保有しているかという倍率 をレバレッジという。一方で、レバレッジ効果は変動性を高めているため、自己資本に対する損失の割 合も大きくなる。すなわち総資本(自己資本+他人資本)を利用した事業の利益率が他人資本の調達コ ストを下回るときは、レバレッジ効果によって、利益率の減少または損失が拡大する。

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出所:ジェトロ「米国発金融危機の経済・ビジネスへの影響」(原データ BIS,国連統計)

他方で、今回の金融危機に際しては、各国の中央銀行、政府、国際金融機関において速 やかに政策対応が行われるとともに、国際協調の枠組みが早期に構築されており、こうし た対応の速さや国際協調も大きな特徴と言える。

1.2 世界金融危機発生の背景

今回の金融危機発生の根本的な原因は国際的な資金フローに支えられて世界の金融部門 が急速に拡大する中で、金融機関のリスク管理やレバレッジの拡大、さらには、金融当局 における規制・監督体制が、新しい金融商品や金融イノベーションに十分対応できておら ず、資産価格等の下落に対して、非常に脆弱な構造になっていたことにある。

しかしながら、マクロ経済的にも、2002年以降、アメリカの低貯蓄率や新興国・産油国 における経常収支黒字の拡大を背景として、グローバル・インバランス(経常収支の不均 衡)が拡大しており、こうしたグローバル・インバランスの拡大が、国際的な資金フロー の急速な拡大、特に、アメリカ、ヨーロッパへの資金流入をもたらし、実体経済を大幅に 上回る金融部門の拡大を支えるとともに、世界的な低金利ともあいまって、金融機関によ る過剰なリスク・テイクによる投資行動を助長した面があったことは否定できない。

1.2.1 グローバル・インバランス(経常収支の不均衡)の拡大

今回の金融危機におけるマクロ経済的な背景としては、2000年代に入ってからのグロー バル・インバランスの拡大が挙げられる。

すなわち、米国は2000年以降、景気が拡大する中で家計の過剰消費から貯蓄率が低下し 経常収支の赤字幅が大幅に拡大した。一方、これに対応する形で、中国やNIEs等の新興国 や中東等の産油国を中心に、経常収支の黒字が拡大した。

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経常収支の赤字は海外からの資本の流入によってファイナンスしなければならないが、

米国の大幅な経常赤字は中国など新興国、産油国、日本等が経常黒字で蓄積した外貨準備 をドルに投資することでファイナンスされた(図表1-6)。

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注)ASEAN5は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム。

出所:内閣府「世界経済の潮流」2008年Ⅱ(原データ IMF

こうしたグローバル・インバランスは、金融面でのグローバル化が進展する中で国境を 越えたクロスボーダー金融取引(国際間の資金移動)を急速に拡大させることとなった。

一つは、アジア、中国など新興国から米国、欧州など先進国への直接的な資金移動の拡大 である。もう一つは先進国間、とくに米国と欧州の間の資金移動の拡大であり、データに よる把握は困難であるが、中東など産油国のオイルマネーも2001年の米国同時テロ以降米 国による資産凍結を恐れて欧州の銀行に流れ込み、欧州を経由して間接的に米国に流入し ている部分も大きいと推測されている。

近年、ヨーロッパの金融セクターは目覚ましい成長を遂げており、ヨーロッパのみなら ずアメリカ、アジア、中東等との間で幅広く資金を仲介する機能を担っている。実際に、

ヨーロッパの商業銀行部門の資産規模や国際的な貸出残高は、アメリカを大きく上回って 成長している。

さらに、英国、ユーロ圏では、債券投資や直接投資が流出と流入の双方向で増加してい る。その背景として、ヨーロッパにおいてもアメリカと同様に、社債等の従来の債券に加 えて、資産担保証券等の新たな金融商品の発行・購入やクロスボーダーM&Aが活発化した

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10 ことなどが考えられる。

こうした欧米への資金移動の拡大を背景に、世界の金融資本市場は、債券発行残高、株 式時価総額でみて 2000 年代に入りその規模が急速に拡大し、金融部門が国際的な資金フ ローの拡大に支えられて、実体経済の伸びを大幅に上回る拡大を続けた。

1.2.2 世界的な低金利の持続

また、2000年代以降の金融部門の拡大の背景には、長期間にわたり世界的に低金利が持 続したことがある。IT バブル崩壊後の景気減速を受けて、各国は政策金利を大幅に引き下 げたが、その後、世界経済が回復に向かってからも、物価が極めて安定していたこともあ り、アメリカ及びユーロ圏等においては長期にわたり緩和的な金融政策スタンスが続けら れ、歴史的な低金利状態が持続することとなった。

こうした世界的な低金利の持続については、グローバル・インバランスの拡大に伴う新 興国等からの潤沢な資金フローとあいまって、世界的なカネ余り、いわゆる、「過剰流動性」

をもたらす原因となったと指摘されている。

こうした長短ともに低金利の金融環境が、金融機関や投資家を過剰なリスク・テイクや 利回り追求型の投資行動へと向かわせたことは否定できない。2003年以降、株価や為替と いった金融資産の不安定性が低下するなど、良好な市場環境により、リスクのある投資を 行いやすい環境となっていたが、他方で、これが金融機関や投資家のリスクに対する認識 を麻痺させた側面もある。

この結果、金融機関のリスク管理の問題ともあいまって、金融機関の姿勢は、高レバレッ ジでの投資拡大や高リスク資産での運用へと傾斜することになったと考えられる。新興国 等からの潤沢な資金フローに支えられた投資資金は、欧米各国の金融資本市場だけでなく、

各国の住宅市場や原油など国際商品市場にも流入し、価格の高騰をもたらした。米国のサ ブプライム層に対する住宅ローンも、低金利を背景に住宅ブームとなって、住宅価格を経 済のファンダメンタルズとかけ離れた水準へと上昇させた。こうした住宅バブルの発生と その後の崩壊は、アメリカにおいては、サブプライム住宅ローン問題を契機とした金融資 本市場の混乱の引き金となったとともに、ヨーロッパを始めとする各国において金融危機 のインパクトを増幅する要因となった。

1.3 新興国、途上国経済への金融危機の影響

欧米の金融危機の影響は新興国、途上国にも急速に広がった。ヨーロッパのハンガリー、

ウクライナ、アイスランド、ベラルーシ、ラトビアはIMFの緊急支援を受けた。また、近 年高成長を続けたパキスタンは経常収支の悪化から外貨不足に陥り、IMFから2008年11 月76億ドルの融資を受けた。

金融危機の影響については、国や地域によってその度合いが一様ではないが、金融危機 の影響が大きい国においては、経常収支の赤字や高い物価上昇率など経済のファンダメン

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タルズに弱さがみられる傾向にある。また、海外からの資本流入に過度に依存していた国 においては、対外的なファイナンスに対する懸念の高まりが、通貨の急落、大幅な資金流 出をもたらしている。

欧米の金融危機の新興国、途上国に対する影響は、国際金融市場における信用収縮と欧 米先進国の景気落ち込みに伴う世界貿易の減少という二つのチャネルを通じて急速に拡大 したと考えられる。

1.3.1 金融市場への影響

新興国については、経済が順調に拡大を続けてきていたことに加え、金融機関の資産運 用において、価格下落の著しいアメリカの資産担保証券(MBS)等の保有は少ないとみら れていたことから、アメリカ発の金融危機の影響は限定的なものにとどまるとみられてい た。

しかしながら、金融機関の活動がグローバル化し、国際金融資本市場の統合が進む中で、

欧米を中心とした金融危機の影響は、通貨の急落や株価の大幅な下落という形で、新興国 にも広がりをみせた(図表1-7および図表1-8)。

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出所:図表1-6に同じ。

新興国市場における海外からの資金調達コストは 2007 年には記録的に低く、2008 年 9 月までは正常なレンジにあったが、世界的な金融市場の逼迫から急上昇し、2009年も継続 するとみられている。新興国市場への民間資本流入は銀行貸出の減少とポートフォリオ投 資の減少により急減している。国際決済銀行(BIS)によると、世界の主要銀行の新興国・

(16)

12

途上国に対する融資残高は、2008年9月末で約4兆5,900億ドルとピークだった同6月末 から6%減少し、リスク資産を減らす動きが広がっている。

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出所:図表1-6に同じ。

通貨及び株価の下落の背景は、「質への逃避」と「レバレッジの解消」という二つの視点 から説明できる。

(1) 質の逃避

為替市場をみると、2008年前半はかなりのドル安が他の主要通貨、とくにユーロに対し て続いており、新興国の通貨の多くもドルに対して上昇していた(図表1-7)。ユーロはヨー ロッパ経済の好調さを反映して一貫して上昇していたが、金融危機以降、ユーロは欧州の 金融機関の経営悪化と経済の落ち込みから大幅に下落しドル高となった。一方、新興国の 通貨はドルに対して大幅な下落となっている。金融危機の震源地の通貨であるドルが高く なるのはなぜだろうか。

これは、金融危機の影響を受けて、欧米の金融機関の投資行動がリスク回避的になり、

相対的にリスクの高い新興国の株式等から、先進国の国債等の安全資産へと「質への逃避」

を行う動きが広がっているためである。ヨーロッパの金融機関の多くは経営が急激に悪化 していること、新興国の成長はかなり低くなる見通しであること、石油など一次産品価格 は下落していること、ヘッジファンドやミューチュアルファンドを含め金融機関の多くは 高レバレッジの解消を始めていることなどさまざまな要因と高リスクの回避ということか ら、アメリカの国債が買われ、急速なドル高へと転換した。このようにアメリカの国債へ の需要が急増した結果、短期国債の利回りは低下し、ほぼゼロになった。

(17)

13 (2) 高レバレッジの解消

米国の投資銀行は2000年代前半、世界的な低金利下で、低コストで短期金融市場から大 量に資金を調達することが可能であり、そうした資金を高いレバレッジをきかせてより利 回りの高いリスクの高い資産に投資し、バランスシートを拡大していくことにより、高い 利益を追求してきた。こうした投資銀行のビジネスモデルは、国際金融資本市場が順調に 拡大し、資産価格も上昇を続けている局面においては、有効に機能してきたが、アメリカ のサブプライム・ローン問題を契機として、金融市場の混乱が広がり、資産価格も下落す る局面においては、逆に損失を増幅することとなった。また、レバレッジ比率(総資産/

自己資本)が高いということは、損失に対する自己資本のバッファーが小さいため、投資 銀行は証券価格等の下落に対して非常に脆弱な構造となっていた。

こうした短期で調達した資金を高いレバレッジで投資することにより収益を上げるビジ ネス・スタイルは、ヨーロッパの金融機関や金融当局の規制を受けていないオフバランス 機関や、ヘッジファンド等に共通したものである。

資産価格の下落により自己資本が毀損した欧米の金融機関やヘッジファンドはバランス シートの圧縮を図り、高レバレッジを解消する観点から新興国など海外における保有資産 についても規模を圧縮しているとみられる。新興市場を対象にしたシンジケート・ローン は金融危機の伝播とともに2008年第4四半期に急減しており、とくに欧州の新興市場向け の低下が大きい。こうした欧米の金融機関の動きは、これまで新興国の活発な金融市場を 支えてきた資金の流れを逆転させ、株価や通貨の下落をもたらしたと考えられる。

1.3.2 実体経済への影響

欧米の金融危機と景気悪化は、新興国、産油国などの実体経済にも国際金融市場の信用 収縮、国際貿易の減少というチャネルを通じて悪影響を及ぼしつつある。

(1) 国際貿易の減少と一次産品価格の下落

石油など一次産品価格は需給要因に投機的要因が加わり2002年以降ほぼ一貫して上昇ト レンドにあり、2008年前半も石油・食料など大部分の商品価格がかなりの変動を伴いなが ら急上昇した。これは、ドル安によってドル建て金融資産を回避したい投資資金が、原油、

貴金属、穀物など商品市場に流入し、商品市況を押し上げる展開となったためである。

しかし、08 年央以降、この上昇トレンドは急激な上昇に対する反動と金融危機の発生に よって急低下し、石油価格は7月のピーク価格から11月は60%以上下落した(詳細は第2 章)。食料などの一次産品価格も同様に急落した。

世界貿易も急速に縮小しつつある。国連11によると、世界貿易額は 2007 年の6.3%から 2008年初めに4.4%へと伸び率が低下し、2008年9月は2%と前年同月の3分の1の伸び 率に低下した。これは世界輸入の約15%を占めるアメリカの輸入が2007年第4四半期以

11 UNWorld Economic Situation and Prospects 2009” (2009)

(18)

14

降低下しているためである。ヨーロッパの輸入額の伸び率も06年8.3%、07年5.2%、08 年3.2%と大幅に低下し、09年は1.2%と予測されている。

こうした米国経済、欧州経済の失速による世界貿易の縮小は貿易取引を通じ各国・地域 経済の相互依存関係が深化し、経済的な緊密度がより高まった結果、比較的早い段階で世 界的に伝播したと考えられる。

ジェトロによると12、世界のGDP全体に占める輸出の比率(90 年実質ドル価格)は70 年代、80 年代ともに平均 10%台半ばの水準にあったが、90 年台は 24.0%、2000 年代は 33.2%(2007年は37.9%)と90年台以降、急速な高まりを見せている(図表1-9)。同時 に、地域経済内の緊密化も進んでおり、アジア域内(ASEAN+6)の域内貿易比率は90年 の33.0%から2007年には43.1%へ、NAFTA(北米自由貿易協定)でも37.2%から41.0% へと高まっている。このように新興国・途上国も経済の輸出依存度を高めており、輸出の 大幅な減少は経済に大きな打撃を与える。

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出所:ジェトロ「米国発金融危機の経済・ビジネスへの影響」(原データ 国連統計)

(2) 株価下落などによる逆資産効果

金融の混乱が実体経済に波及する経路としては、まず株価の下落など資産価格の下落に よって家計の消費や企業の設備投資が抑制される「逆資産効果」が挙げられる。これは、

たとえば個人のもっている株式の評価額が株価下落によって目減りすると、消費を控えた り、住宅の購入を控えたりすることである。企業や銀行も株安が進むと設備投資や融資に 慎重になる傾向がある。企業は株安局面では株式での資金調達が難しくなる一方、株安な どで個人消費が冷え込むと判断すれば、生産や設備投資を縮小し、雇用も抑えるようにな る。株安が企業経営者や消費者の心理に悪影響を与え、実体経済にマイナスに作用するこ

12 ジェトロ「米国発金融危機の経済・ビジネスへの影響」2009.1.24p12

(19)

15 とが考えられる。

(3) 金融と実体経済の相互作用

金融の混乱が実体経済に波及する経路として最も懸念されるのは、信用収縮(クレジッ ト・クランチ)と呼ばれる動きである。信用収縮とは、自己資本の毀損した金融機関が貸 出を抑制し資産の圧縮を進めることを指している。日本においてもバブル崩壊後の金融危 機において、企業に対する貸し出しを抑制する「貸し渋り」、「貸しはがし」などが問題と なった。前節で述べたように、欧米の金融機関は高レバレッジ解消のため、新興国など海 外における保有資産についても規模を圧縮している。日米欧の金融機関の貸出残高をみる と、とりわけ欧州の金融機関については、新興国向けの貸出残高が非常に大きくなってい ることから、今後、新興国においては欧州の金融機関のレバレッジ解消の影響が強く出て くる可能性があるとみられている。

新興国として登場した中・東欧経済を取り上げると、欧州の銀行部門の中・東欧へのエ クスポージャーは大きく、中・東欧諸国は海外からの資本流入、とくに欧州による直接投 資と金融機関からの借入によって国内投資をファイナンスして成長の原動力としてきた。

しかし、世界金融危機により海外からの直接投資が減少し、金融機関からの借り入れは困 難になった。さらに2009年に入り欧州の景気後退による輸出の不振から景気は急速に悪化 し、欧州の銀行の中・東欧向け貸出が焦げ付く危険性が高まるととともに中・東欧からマ ネーの流出が加速し、通貨、株価が再び下落している。またそれが欧州の金融不安に追い 打ちをかけ、欧州の景気悪化を一段と深刻化させている。

1.4 世界的な不況の深刻化と今後の見通し

世界金融危機は、各国政府や国際金融機関の金利の引き下げ、流動性供給などの金融緩 和策や財政出動などの諸対策にもかかわらず、2009年に入っても収束する兆しがみえてい ない。欧米においては金融不安と景気悪化との悪循環が断ち切れず、不況が一段と進行し ている。

米国では金融不安の長期化懸念から株安が加速している。金融機関は急速に貸し渋りの 姿勢を強めており、景気悪化が一段と進み貸出債権が不良化することから、それがまた金 融不安を拡大させる懸念が強まるという連鎖となっている。金融危機の原因となった住宅 価格は下落が止まらず、資産担保証券などの金融商品の損失の底はみえていない。

欧州においても金融危機の深刻化、輸出の不振などから景気が悪化し、過大な対外債務 に直面する中・東欧諸国などのリスクも抱えており、欧州中銀の2009年のユーロ圏経済予 測は08年9月時点の前年比1.2%増から12月時点0.5%減少、09年3月時点2.7%減少と 予測時点が期を経るごとに下方修正となっている。

日本は、リーマンショックの当初は金融危機の影響は相対的に少ないとの見方があった。

たしかに金融面への影響は相対的に軽かったが、実体経済への影響は欧米以上で先進国中

(20)

16

最大である可能性が高い。08年第4四半期のGDPは輸出の急落、内需の低迷から前期比 年率12.1%減少と戦後最悪の落ち込みとなった。

新興国・途上国については金融部門が問題を抱えていない国であっても、欧米の金融危 機と需要の大幅な減少の影響を受けて実体経済が急速に悪化してきている。

今後の世界経済見通しであるが、IMFの最新のWorld Economic Outlook13によると概要 は以下の通りである(図表1-10参照)。ただしIMFの成長見通しは前回(08年11月)よ り下方修正されており、IMF も金融市場の逼迫と不透明な状況の改善に向けて断固とした 対策が講じられない限り、世界経済成長は下振れリスクが高いとしている。

① 世界の経済成長率は2008年の3.4%から2009年0.5%へと落ち込むと予想されている。

これは第二次世界大戦以降最悪の数値である。各国政府、国際金融機関などの多岐にわ たる政策努力にかかわらず、金融市場は極度の逼迫が続いており、実体経済の悪化を引 き起こしている。金融部門の機能が回復し、与信市場が動き出さない限り、持読可能な 回復は見込めない。拡張的な財政金融政策、信用収縮対策を採ることで、2010年は徐々 に持ち直し、3%成長に回復する。

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(前年比、%)

2007 2008 2009

(見通し)

2010

(見通し)

世界経済成長率 5.2 3.4 0.5 3.0

先進国・地域 2.7 1.0 ▲2.0 1.1

米国 2.0 1.1 ▲1.6 1.6

ユーロ圏 2.6 1.0 ▲2.0 0.2

日本 2.4 ▲0.3 ▲2.6 0.6

新興国及び途上国・地域 8.3 6.3 3.3 5.0 独立国家共同体(CIS) 8.6 6.0 ▲0.4 2.2 アジアの発展途上国 10.6 7.8 5.5 6.9

中東 6.4 6.1 3.9 4.7

世界貿易量(財・サービス) 7.2 4.1 ▲2.8 3.2 原油価格(ドル/バレル) 97.03 50.0 60.0 出所:IMFWorld Economic Outlook”(2009.1.28

② 先進国・地域のGDPは2009年2%減少と戦後初のマイナス成長となり、多くの先進国 で大規模な財政刺激策と大幅な金利下げが実施されれば生産は回復し始め 2010 年に 1%程度の成長となる。

③ 新興国及び途上国・地域の成長率は、2008年の6.3%から2009年3.3%へと急激に鈍化 する。地域別ではロシア、東欧はマイナス成長、アジアは5.5%成長、中東は3.9%成長 となる見通しである。これは、輸出需要の減退と貿易信用の縮小、商品価格の下落、海

13 IMFWorld Economic Outlook” (2009.1.28)

(21)

17

外からの資金調達環境の悪化などがあるが、反面多くの新興国ではより堅固な経済枠組 みが整備され、以前に比べて成長支持の政策発動の余地があり金融危機の影響を緩和で きる。

④ 原油価格の基本シナリオは2009年50ドル/バレル、2010年60ドル/バレルと前回に 比べて下方修正されたが、このシナリオもさらに下方に修正される可能性が高い。

⑤ 一方、インフレ圧力は実体経済の不振と商品価格の下落により緩和されており、消費者 物価上昇率は先進国では2008年3.5%から2009年過去最低の0.3%へと低下し、新興 国では9.2%から5.8%へと低下する。2010年にもインフレ緩和状態は続く。

IMFは上記の世界経済見通しにほぼ対応して中東・北アフリカ地域(MENA)の経済見 通し(2009 年 1月時点)も示しており、GCCなど中東石油輸出国の予測の概要は以下の とおりである。なお世界不況や石油価格の低下が長期化する場合には下方修正される可能 性がある(図表1-11参照)。

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ታ⾰ )&2 ᚑ㐳₸㧔೨ᐕᲧޔ㧑㧕 2000-04

年平均

2005 年

2006 年

2007 年

2008年

(見込み) 2009年

(見通し) 2010年 (見通し) 中東・北アフリカ諸国 5.1 5.8 5.8 6.1 5.9 3.6 4.7

石油輸出国 5.6 6.1 5.5 6.1 5.6 3.6 4.9 うちGCC 5.9 7.0 5.6 5.3 6.8 3.5 5.4 新興国・途上国 4.1 5.4 6.3 6.0 6.3 3.6 4.3

⽷᡽෼ᡰ㧔ਛᄩ᡽ᐭ㧕㧔)&2 Ყޔ㧑㧕 2000-04

年平均 2005年 2006年 2007年 2008年

(見込み) 2009年

(見通し) 2010年 (見通し) 中東・北アフリカ諸国 0.9 5.9 6.1 5.2 5.5 ▲4.5 ▲1.5 石油輸出国 4.0 12.0 12.4 11.0 12.0 ▲4.0 0.0

うちGCC 5.1 19.5 21.8 17.6 22.8 ▲3.1 2.1

新興国・途上国 ▲4.3 ▲5.1 ▲5.0 ▲5.0 ▲6.0 ▲5.4 ▲4.1

⚻Ᏹ෼ᡰ㧔)&2 Ყޔ㧑㧕

2000-04

年平均 2005年 2006年 2007年 2008年

(見込み) 2009年

(見通し) 2010年 (見通し) 中東・北アフリカ諸国 6.4 16.1 17.1 14.7 15.0 ▲2.1 1.5

石油輸出国 9.7 22.2 23.5 20.5 21.0 ▲1.7 3.4

うちGCC 12.4 27.9 29.0 25.0 27.5 ▲0.1 6.7

新興国・途上国 0.1 ▲1.3 ▲1.8 ▲2.6 ▲4.3 ▲3.1 ▲3.9

(注)アフガニスタン、パキスタンを含む 出所:IMF推計(2009.2.9

① 2009年の経済成長率は、3.6%と予測されており、2008年の5.6%からは低下するが、

他の地域に比べて強い経済状況にあったため低下は緩やかとなる。

② 石油輸出収入は、2009年石油価格の下落とOPECの生産削減によってほぼ半減する。

(22)

18

このため、政府収入は、2008年に比べて3千億ドル程度減少する。

③ 経常収支は、2008年の約4千億ドルの黒字から2009年3千億ドルの赤字へと変化す る。ただし、2008年までの巨額の経常黒字による外貨準備の蓄積があるため、対応は 可能である。

④ 中東・北アフリカ地域の新興国、途上国の経済成長率は、2008年の6.3%から09年に は3.6%へと鈍化する。これは世界景気後退の影響で、輸出の減少、観光、出稼ぎ送金 の減少、資金調達コストの上昇があるためである。

一方、IMFは、GCCなど石油輸出国が赤字財政になっても財政支出や投資計画を維持す るとみている。このことは中東・北アフリカ地域のみでなく世界の需要を支える上で貢献 し、世界不況を安定させる役割を果たすとの期待を表しているといえよう。

(第1章主要参考文献)

・内閣府「世界経済の潮流」2008年Ⅱ、2008年Ⅰ、2007年秋

・ジェトロ「米国発金融危機の経済・ビジネスへの影響」(2009.1.24)

・三菱UFJリサーチ&コンサルティング「世界的な金融危機とその影響」(2008.11.12)

・IMF“Global Financial Stability Report” (2009.1)

・IMF“World Economic Outlook” (2009.1.28)

・BIS“Global financial crisis and capital flows in 2008: a preliminary assessment”

(2009.1)

・UN“World Economic Situation and Prospects 2009” (2009)

(23)

19

第 2 章 オイルマネーの動向

2.1 石油価格高騰とオイルマネー 2.1.1 オイルマネーの規模

「オイルマネー」(Petrodollar)には明確な定義はない。言葉通りの意味としては「産油 国が石油輸出によって得た資金」であるが、一般には世界の主要産油国である中東産油国 が石油輸出によって得た資金、あるいはその対外資産と捉えられている。

すなわち、オイルマネーの原資は中東産油国が原油を輸出する一方で、他の財やサービ スを輸入して差引きした残り、つまり、経常収支(黒字)であると考えることが出来る。

そこで中東産油国の経常収支の動きを、最近の石油価格の推移とともにみると、近年の石 油価格上昇とともに中東産油国の経常収支黒字幅が急増している様子がみてとれる(図表 2-1)。

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0 20 40 60 80 100 120

-100 0 100 200 300 400 500

1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008

(十億ドル) (ドル/バレル)

出所:IMFWorld Economic Outlook, Oct. 2008のデータベースより作成

1) 非産油国も含む13ヵ国(バーレーン、エジプト、イラン、ヨルダン、クウェート、レバノン、リ ビア、オマーン、カタール、サウジアラビア、UAE、イエメン)

2) ブレント、WTI、ドバイのスポット価格の平均値

オイルマネーが注目されるのは、その規模の大きさと、それが世界の金融市場に還流す ることによって世界経済に与える影響の大きさによる。図表2-1の棒グラフは産油国の単年 度の経常収支を表しているが、国際金融市場ではこれらが蓄積された巨額の資金がオイル マネーとなっている。そこで、オイルマネーの規模を把握するため、今回の石油価格上昇

(24)

20

が始まった1999年以降14、2008年までの中東諸国の経常収支を足し上げると約1.5兆ドル となる。

しかし、経常収支黒字の全てがオイルマネー、すなわち投資可能資金となるわけではな く、一部は国内の消費と投資に充てられ、残りが対外投資(直接投資あるいは間接投資)、

あるいは銀行預金などに向けられていると考えられる。そのため、2008年にはオイルマネー の規模は1.5兆ドルよりも少なかったともいえるが、実際にはそれら資金を運用しているた め、運用益も含めると1.5兆ドルよりかなり大きな金額になっているとみられる15

このオイルマネーは世界の金融資産においてどの程度の割合を占めているのであろうか。

マッキンゼーは2006年の世界の金融資産規模は167兆ドル16、IMFは190兆ドルである17 としている。金融資産規模も 2008 年にかけて増加しているものと考えられるので、仮に 200兆ドルであるとすると、オイルマネーが1兆ドルの規模である場合には金融資産に占め る割合は0.5%、2兆ドルの場合には1%に当たる。

オイルマネーの規模についてはその実態が把握できないことから、様々な角度から検討 がなされており、過小評価されているという見方が一般的である18。世界の金融資産に占め る割合が約1%という規模は、しかし、それが向かう先の例えば米国の証券市場19などに大 きな影響をおよぼすことから、その動向が注目されてきた。

2.1.2 石油価格高騰の経緯

図表2-2は2000年以降の原油価格の推移を表しているが、原油価格は前2回の石油ショッ ク時とは異なり、徐々に上昇している。2003年のイラク戦争の勃発を機に上昇を始めた原 油価格(WTI)は2008年7月11日に147.27ドル/バレルという過去最高水準をつけた後 に急落し、12月には47 ドルまで下がった。それでも、2003年に平均 31ドルであった原 油価格は08年には平均すると100ドルと過去最高水準に達し、6年で3倍以上に拡大した ことになる。

最近の石油価格の値上がりは、イラク戦争をきっかけとしているという点では前 2 回の 石油ショック時と同じく中東情勢の不安定さがその一つのきっかけであったが、他にも

14 BIS(国際決済銀行)は今回の石油価格サイクルの始まりを1999年とし、オイルマネーの増加をこの年

以降のこととしている(BIS, BIS Quarterly Review, December 2005)。

15 2007年末のオイルマネーの残高についてGCC諸国だけで2兆ドルに達したとみる向きもある(会田守

志、「オイルマネーラッシュ、マネーから実体経済へ GCC 諸国の国づくり」JOGMEC『石油・天然 ガスレビュー』2008.11

16 McKinsey & Company, Mapping Global Capital Markets, Fourth Annual Report, January 2008

17 IMF, World Economic Outlook, October 2008, p.204

18 国際金融情報センター、「湾岸オイル・マネーに関する若干の考察」(トピックスレポート、200712 19日)、みずほ総合研究所、「オイルマネーを巡る最近の動向について~拡大を続けるマネーフローの行 方~」(みずほマーケットインサイト、2007621日)など

19 米国の証券市場が債権発行市場と株式市場から成るものとすると、2007 年の前者の残高は30兆ドル、

後者の残高は50兆ドルであったので、合わせて80兆ドルとなり、オイルマネーの規模が2兆ドルの場合 は米国の証券市場の 2.5%に当たることになる(債券発行残高は BIS、株式時価総額は WFEWorld Federation of Exchange)の統計により算出した。

(25)

21

様々な要因が重なりあって起こったといわれている。それらは、①新興国の台頭による原 油需要の増加、②原油先物市場に対する投機的な資金の流入、③伝統的産油国の生産能力 の停滞、である。

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0 20 40 60 80 100 120 140 160

00-1 00-4 00-7 00-10 01-1 01-4 01-7 01-10 02-1 02-4 02-7 02-10 03-1 03-4 03-7 03-10 04-1 04-4 04-7 04-10 05-1 05-4 05-7 05-10 06-1 06-4 06-7 06-10 07-1 07-4 07-7 07-10 08-1 08-4 08-7 08-10 09-1

$US/Brrl

出所:EIA

① 新興国の台頭による石油需要の増加

世界の石油需給動向を見ると、原油価格が上昇傾向を辿り始めた2004年から05年にか けては供給が需要を上回っており、価格上昇が需給のインバランスを反映したものではな いと理解できる(図表2-3)。しかし、2006年から08年第1四半期にかけて、需要が供給 を上回るようになり、原油価格上昇の原因の一つはこの需給ギャップによっていたと理解 できる。

原油に対する世界需要は2004年から07年にかけて年率1.4%で増加したが、2004年時 点で世界需要の 60%を占めていた OECD 諸国の需要は年率 0.2%の割合で減少し、2007 年には世界需要に占める割合は57%に下がった(図表2-4)。

一方、非OECE諸国の需要の伸びは年率3.6%と高く、世界に占めるシェアを40%から 43%に拡大した。非OECD諸国の中で需要の増加が最も著しかったのは、2003年から07 年に至るまで 10%以上の高成長を続けてきた中国であり、石油需要はこの間、毎年 8%の 割合で増加し(図表2-5)、2004年には米国に次ぐ世界第二位の石油消費国となった。

$US/Brrl

(26)

22

��2-3� ��の��需給��

80 81 82 83 84 85 86 87

2004 2005 2006 2007 2008/Ⅰ2008/Ⅱ2008/Ⅲ

供給 需要 百万バレル/日

出所:EIA

��2-4� ��需要の���2004→2007��������

OECD, 60.0 中国,

7.8 旧ソ連 , 4.9

その , 27.3

2004

OECD, 57.3

中国, 8.8 旧ソ連 , 5.0

その他, 28.9

2007

出所:図表2-3に同じ

その他の新興国で石油需要を増加させたのは、主な原油供給国を擁する中東地域である20。 産油国である中東諸国は、石油価格の上昇によって国家財政が潤い、多額の余剰資金が多 くの大規模プロジェクトを可能にし、バブルともいえる様相を呈した。図表 2-6 は中東地 域・国の石油生産および消費量の推移をみたものである。いずれの国も消費の伸びが生産 の伸びを上回っており、特に最近の経済成長率が高かったカタールとUAEにおいて原油消 費量が急増している。

20 IEA, World Energy Outlook 2008

OECD, OECD,

(27)

23

��2-5� 中�の原油消費量の��

8.4 8.3 9.1

10.0 10.1 10.4 11.6 11.9

5 6 7 8 9 10 11 12 13

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 原油消費量 経済成長率(右目盛)

(千b/d) (%)

出所:BP Statistical Review of World Energy, June 2008 およびIMFデータベース

��2-6� 中東��の原油の生産�消費の��

(単位:千バレル/日、%)

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 平均伸び率 経済成長率

生産 3,818 3,794 3,543 4,183 4,308 4,359 4,388 4,401 2.1 消費 1,301 1,314 1,413 1,498 1,558 1,578 1,625 1,621 3.2 生産 2,206 2,148 1,995 2,329 2,475 2,618 2,682 2,626 2.5

消費 202 206 222 238 266 302 275 276 4.6

生産 757 754 764 879 992 1,028 1,110 1,197 6.8

消費 39 45 59 53 55 65 79 95 13.6

生産 9,491 9,209 8,928 10,164 10,638 11,114 10,853 10,413 1.3 消費 1,536 1,551 1,572 1,684 1,805 1,891 2,005 2,154 4.9 生産 2,626 2,534 2,324 2,611 2,656 2,753 2,971 2,915 1.5

消費 255 292 320 333 355 376 419 450 8.5

生産 7,244 7,101 6,393 5,802 6,405 6,274 6,556 6,539 -1.5 消費 1,383 1,422 1,425 1,423 1,467 1,519 1,546 1,608 2.2 生産 23,516 23,006 21,623 23,357 24,818 25,393 25,589 25,176 1.0 消費 4,716 4,829 5,011 5,229 5,507 5,731 5,949 6,203 4.0 その他中東

中東計

5.7 7.5 10.4 3.7 7.2 イラン

クウェート カタール サウジアラビア UAE

出所:図表2-5に同じ

② 原油先物市場に対する投機的資金の流入

一般に投資・投機的資金が原油先物市場へ流入した結果、原油価格が高騰したといわれ るが、投機的資金の原油先物市場への流入は、ニューヨーク商品取引所(NYMEX)におけ る原油先物取引の急拡大として捉えられる(図表2-7)。

同市場の参加者は、当業者と非当業者、それに報告義務のない取引参加者に分かれてい る21が、投機筋を非当業者(すなわち石油生産や精製等に従事しない業者)による取引であ ると仮定して、その取引状況を見ると、売り(Short)と買い(Long)が2007年に入ってか

21 NYMEXWTI原油市場に占める非当業者の割合は2000年代半ばには37%(投機目的投資家13%、

ファンド7%他)であった(丸紅経済研究所、「原油高騰とオイルマネーの動向」2006215日による)

参照

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