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待ち行列研究部会50年記念シンポジウムルポ 井家 敦

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オペレーションズ・リサーチ 628(42)

待ち行列研究部会 50 年記念シンポジウムルポ

井家 敦

(神奈川工科大学)

,フンドック トゥアン

(筑波大学)

1. はじめに

2019年6月8日(土),東京工業大学蔵前会館くらま えホール (東京都目黒区) にて,待ち行列研究部会50 年記念シンポジウムが開催された.本シンポジウムは,

1970年度に東京工業大学の森村英典氏が中心となって 待ち行列研究部会(Q部会)を発足してから,現在ま で50年もの長い期間,活動を継続してきた節目を記 念して実施されたものである.本シンポジウムの内容 は,「Ⅰ部 Q部会の歴史と待ち行列研究の動向」と

「Ⅱ部 待ち行列研究部会・論文賞受賞者による研究 紹介」に分けられており,それぞれQ部会を代表す る講演者の方々による興味深いお話を伺うことができ た.

まず,開会挨拶としてQ部会の主査の笠原正治氏

(奈良先端科学技術大学院大学)より,Q部会の活動 に関する歴史や活動実績,歴代の主査・幹事の紹介が あった.2019年5月時点で,Q部会は計282回開催さ れており,603件の講演があったとのことで,実績の すごさを感じた.また,待ち行列シンポジウム(Qシ ンポジウム)は計35回実施されており,それ以外に も,関連研究会(1987年),宮沢先生近藤賞受賞記念 シンポジウム(2010年),確率モデルシンポジウム

(2013年度,2014年度)が実施されている.

2. Ⅰ部 Q部会の歴史と待ち行列研究の

動向

「Ⅰ部 Q部会の歴史と待ち行列研究の動向」では,

Q部会におけるさまざまな活動について,それらに大 きく関与されてきた方々による四つの講演があった.

まず,「創設時の活動」について,高橋幸雄氏(東 京工業大学 名誉教授)および森村英典氏(東京工業 大学 名誉教授)よりQ部会発足時に関する話があっ た.発足当時の世界的な待ち行列に関する研究動向に ついての説明があり,特に1966年のKingmanによ る研究成果が待ち行列研究の今後を考える材料となっ たとの話があった.森村氏より,もともと待ち行列研 究は情報通信分野では注目されていたが,一般的な普 及は1952年に「オペレーションズ・リサーチが日本 に紹介された」タイミングであったという説明があっ た.また,日本における待ち行列の初期の研究として,

1950年代に活躍された,河田龍夫氏,本間鶴千代氏 らの紹介があった.実際のQ部会の発足は1970年で あったが,当初は期間を限定して運用していたため,

実際に常設部会として活動を始めたのは1984年以降 とのことだった.

高橋氏より,当時のQ部会は隔週で実施しており,

非常に活発な議論がされていたと話があった.今日に

おいてもQ部会にて,現役を退いた方々が出席し,

積極的に議論をしている様子を拝見していると,この

笠原正治氏による開会挨拶の様子 高橋幸雄氏と森村英典氏による講演の様子

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2019年10月号 (43)629 滝根哲哉氏による講演の様子

研究部会が50年にもわたり長く継続している理由は ここにあるのかなと感じた.また,当時の計算機環境 が十分でない時代の待ち行列研究に対する苦労話も伺 うことができた.

次に,「Qシンポジウムの成り立ち」について,高橋 豊氏(京都大学 名誉教授)より講演があった.Q部 会の主要な活動として,毎年開催されている「待ち行 列シンポジウム (Qシンポジウム)」 の発足に関する内 容であった.1981年1月に京都大学数理解析研究所で 開催されたのが始まりで,その開催については,長谷 川利治氏 (京都大学名誉教授) の尽力が非常に大きかっ たとの説明があった.また,同氏の紹介およびデータ 通信の研究論文の話があり,その中で同時期にアメリ カにてデータ通信の研究で活躍したKleinrockが長谷 川氏とほぼ同じタイミングで同じような研究を進めて いたとの話があった.

また初期にQシンポジウムの会場として利用されて いた数理解析研究所についての紹介があり,実際に利 用する際に作成した研究計画概要を拝見できた.もと もと待ち行列理論の研究はオペレーションズ・リサー チ,情報通信あるいは経営科学などの分野で独立的に 行われていた.しかしながら,それらの分野をまたぐ 交流がほとんどなかったため,それを実現するための 研究集会としてQシンポジウムを開催することになっ たとの説明があった.また,待ち行列シンポジウムで の講演内容の分類についても言及があり,近年は待ち 行列解析の近似に関する研究発表が増加傾向にあり,

また応用に関する研究発表が減少傾向にあるとの説明 が非常にわかりやすい形でまとまっていた.

次に,「Q部会に関連する勉強会活動」について,

山下英明氏(首都大学東京)より講演があった.ここ での勉強会はQ部会における公式的な活動ではない が,Q部会のメンバーが有志で,論文紹介や輪講など を行うために集まっていた会合のことである.勉強会

活動は,1974年に鈴木武次氏 (当時防衛大学校) の薦 めで開催されたもので,当時まだ若手研究者だった川 島武氏(当時防衛大学校),山崎源治氏(当時工学院 大学),逆瀬川浩孝氏(当時統計数理研究所)が初期 メンバーであった.実施場所は,統計数理研究所,工 学院大学などのさまざまな研究機関で行われていて,

メンバーはのちに紀一誠氏(当時NEC),宮沢政清

(東京理科大学),高橋敬隆氏,町原文明氏,小沢利久

氏 (当時NTT)などが加わったとのことであり,Q部

会の多くの先輩方が参加されていたのだなと印象を受 けた.同氏の講演内で,紀一誠氏(神奈川大学 名誉 教授)が少し当時の様子を話されていたがその中で,

「勉強会は年齢の近いもの同士で,少人数で実施する のが望ましい」と述べ,実際に互いに議論を行う場合 はそれがベストな方法ではないかと感じた.

最後に,滝根哲哉氏 (大阪大学) より,1990年半ば から現在に至るまでの 「待ち行列研究部会の活動状況」

について講演があった.まず,滝根氏の特に若い時代 の研究業務などの苦労話があった.同氏はまた,若く してQ部会の主査になっており,そのときにQ部会HP の立ち上げにも尽力していた.当時の構想としては,

日本語で書かれた文献などの情報を網羅し,さらに待 ち行列関連の講義をしている先生方の講義ノートを公

高橋豊氏による講演の様子

山下英明氏による講演の様子

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オペレーションズ・リサーチ 630(44)

開することなどを考えていた.実際に,当時の幹事で ある笠原正治氏と三好直人氏(東京工業大学)と協力 して現在のQ部会の活動が網羅されたHPを作成して おり,その努力はわれわれのようなQ部会のメンバー にとってもありがたいことである.また,Q部会やQ シンポジウムの現状についても言及し,特に大学以外 からの講演数が減少傾向にあるとの話があった.さら に,将来的な確率モデルとしての待ち行列の扱い方に ついての話もあり非常に興味深かった.

3. Ⅱ部 待ち行列研究部会・論文賞受賞

者による研究紹介

「Ⅱ部 待ち行列研究部会・論文賞受賞者による研 究紹介」では,待ち行列論文賞の受賞者2名の講演で あった.

小沢利久氏 (駒澤大学) は第2回待ち行列研究部会・

論文賞受賞者であり,今回の講演は同氏の受賞論文の テーマである「背後過程のある2次元準出生死滅過程 の漸近解析」に関するものであった.準出生死滅過程 とは可算無限のレベルと有限のフェーズからなる2次 元マルコフ連鎖であり,1回の遷移でレベルの変化が 高々1である.1次元準出生死滅過程に関して安定条 件および定常分布の計算アルゴリズムがよく知られて いる.小沢氏はレベルにあたる部分を2次元に拡張し たクラス(2次元準出生死滅過程)に対して,定常分 布に関する性質を調べ,当該マルコフ連鎖の定常分布 の減衰率やその分布が軽い裾を持つための条件,そし て定常分布が存在するための安定条件を求めた.同氏 の講演は数学的に高度な内容にもかかわらず,図を 使った直感的な説明で非常に理解しやすく興味深いも のであった.

2件目の講演は恐神貴行氏 (日本IBM) により行われ た.この講演では恐神氏らの第3回待ち行列研究部会・ 論文賞の受賞論文 「Analysis of transient queues with semidefinite optimization」を解説したのち,同氏の その後の機械学習に関する研究の紹介があった.受賞 論文では到着間隔とサービス時間ともに一般の分布に 従うGI/G/1待ち行列に対して過渡的な待ち時間の分 布の裾に関する上限を与えた.この上界はある半正定 値問題 (SDP) の最適解であり,SDP問題を数値的に 求めることで得られる.また,到着間隔およびサービ ス時間の1次および2次モーメントのみ与えられる場 合に対して,陽な形の上限を導出した.また,同氏は 受賞論文の研究の次に確率モデルに基づく機械学習の

研究を展開しており,本講演では該当分野のトップレ ベルの国際会議で発表した成果の一部の紹介があり,

聴衆に大きな刺激を与えた.

4. 最後に

本シンポジウムのおわりに,待ち行列研究部会・論 文賞の表彰が執り行われた.本年度の受賞は木村雅俊 氏・滝根哲哉氏 (大阪大学)の研究論文「Computing the conditional stationary distribution in Markov chains of level-dependent M/G/1-type」であった.

木村氏は現在,博士後期課程の学生であり,このよう な若い研究者が評価されることは本人にとってもQ部 会にとっても喜ばしいことである.

最後に,本シンポジウムの開催にあたり多大な尽力 をいただいた,笠原正治氏(奈良先端科学技術大学院 大学),会場準備などのご協力をいただいた三好直人 氏(東京工業大学),本ルポ記事の執筆のサポートを いただいた佐久間大氏(防衛大学校)に感謝の意を表 したい.なお,Q部会の研究活動については,Q部会 HP(http://www.orsj.or.jp/queue/)にて公開してお り,こちらも参照いただけたら幸いである.

恐神貴行氏による研究紹介の様子 小沢利久氏による研究紹介の様子

参照

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