2017,92, 205-228 No.17 4月28日版 17-1 今週の話題: <麻疹ワクチン: WHO 見解文書 2017 年 4 月> *導入: 健康政策についての加盟国への提供の義務に基づき、WHO は国際公衆衛生に影響を与えるワクチン及 びその組み合わせに関する見解文書を定期的に更新し、発行している。その中にはワクチンで予防しう る疾患及びそのワクチンについて要約されており、国際的ワクチン使用における WHO の方針を結論づけ ている。 見解文書は、外部の専門家及び WHO スタッフ、予防接種における専門家で構成された戦略諮問グルー プ( SAGE)による評価を受けて、承認される。(http://www.who.int/immunization/sage/en)GRADE 法 は利用可能なエビデンスの質を体系的に評価するために用いられる。ワクチン見解文書発展の経緯は (http://www.who.int/immunization/position_papers/position_paper_process.pdf)で入手できる。 見解文書は主に各国の公衆衛生局の職員及び予防接種プログラムのマネージャーを利用対象としてお り、また、国際基金の機関、ワクチン顧問グループ、ワクチンメーカー、医療系コミュニティ、科学系 メディア及び一般公衆の関心を集めている。 この見解文書には麻疹領域における直近の発展が盛り込まれており、また、麻疹ワクチン 2 回目の接 種導入基準を撤廃すること、生後 6 か月以降の乳児のワクチン接種時期、HAART を受けている HIV 感染 児に対するリワクチネーションのガイダンスを含む。これらの内容は 2009 年、WHO の麻疹ワクチンに関 する見解文書から更新されることになった。麻疹ワクチン利用の推奨は 2013 年 11 月、2015 年と 2016 年の 10 月に SAGE で話し合われた。このミーティングで示されたエビデンスは (http://www.who.int/immunization/sage/meetings/2013/november/presentations_background_docs /en/) (http://www.who.int/immunization/sage/meetings/2015/october/presentations_background_docs/ en/) (http://www.who.int/immunization/sage/meetings/2016/october/presentations_background_docs/ en/)で入手できる。 *背景: 麻疹はヒトに最も感染しやすい疾患の一つである。麻疹ウイルスにより引き起こされ、流行地で季節 病として発生する。熱帯では麻疹のほとんどの症例が乾季に発生し、一方で温帯では発生のピークが晩 冬から早春にかけてくる。 1963 年に麻疹ワクチンが導入されるまでは、大流行が約 2~3 年毎に発生し、3,000 万件の麻疹、毎 年 200 万人以上の麻疹による死者が存在し、また 15 歳までに 95%以上の人々が麻疹ウイルスに感染し ていたと推定されている。 麻疹は予防可能な疾患であり、ワクチンにより除去することが可能である。世界年次報告では 2000 年から 2015 年の間に、麻疹の発生件数は人口 100 万対で 146 件から 35 件、つまり 75%減少したと報告 されている。2015 年には 134,200 件の麻疹による死亡例が世界的に発生しており、これは 2000 年から 79%の減少を示す数字である。 麻疹に感染しやすい年齢の平均は生物学的および疫学的因子に依存する。ある状況(低所得国や難民 キャンプなど)での低い集団免疫、高い人口密度は乳児や未就学児を含む若い世代への感染を助長する。 ワクチン接種率の向上は麻疹感染年齢の平均を思春期や若青年期へとシフトさせる。これらの年齢層の グループはワクチンを接種しておらず、若年者間における伝染の減少によって野生型の麻疹ウイルスに もさらされていないため、未だに影響を受けやすいままである。影響を受けやすい青年期のワクチン接 種を努力して行わない場合、これらの年齢コホート間における免疫ギャップを反映して、麻疹ウイルス の伝来はアウトブレイクを引き起こしかねない。 2010 年、世界保健総会(WHA)は 2015 年までに麻疹をコントロ―ルするための 3 段階を明らかにした。 ①1 歳児に対する麻疹を含むワクチンの初接種率を国家的には 90%、どの地方でも 80%以上まで増加さ せる。②国際的な麻疹罹患率を人口 100 万対で 5 件未満にする。③麻疹による死亡率を 2000 年と比較 して 95%に減少させる。2012 年 WHA は、2015 年までに WHO の 6 つ中 4 つの地域、2020 年までに 5 つの 地域における世界ワクチン行動計画(GVAP: The Global Vaccine Action Plan)を推奨した。WHO のす べての地域の加盟国は 2020 年までに麻疹の除去を完了させることを目標とした。2016 年 9 月、アメリ カ地域は麻疹の撲滅を確認した。 麻疹の撲滅は限定された地理的エリアにおける麻疹伝染が少なくとも 12 か月中断し、36 か月間それ が維持された場合、と定義される。高い集団免疫は麻疹の高い感染性から、麻疹の伝染を妨げるために 必要である。麻疹の群予防しきい値はワクチンで予防できる疾患のなかで最も高く、条件により 89~ 94%の多様性をもつ。数学的モデルでは米国の麻疹集団免疫閾値は 92~95%と見積もられている。2015 年、全世界の麻疹ワクチン 1 回目接種率は 85%と見積もられ(アフリカ地域の 74%から西大平洋地域
17-2 の 96%の変動がある)、2009 年からずっと接種率は安定している。全世界の麻疹ワクチン 2 回目接種率 は 2000 年から増加し続けているとされているが、2015 年にはたった 61%までにしか達しなかった。麻 疹ワクチンの利用が世界的に広まっているのにも関わらず、麻疹は健康基盤が未熟な国々で死亡や障害 の重要な原因である。2015 年に麻疹ワクチンの接種を一度も受けていない 2080 万人の乳児のうち、53% がインド、ナイジェリア、パキスタン、インドネシア、エチオピア、コンゴ民主共和国の 6 か国に集中 していた。 ・病原体 麻疹ウイルスは一本鎖でエンベロープを持ち、マイナス鎖 RNA をもつパラミクソウイルス科モルビリ ウイルス属に属する RNA ウイルスである。影響を受けやすいサルが麻疹ウイルスに感染したとしても症 状のある病原体保有動物とはならず、ヒトが唯一のホストである。伝染は主に空気感染によるヒトーヒ ト感染であり、また感染した粘膜分泌液との接触感染も起こりうる。無症候性免疫者からの伝染は報告 されていない。1 つだけ抗原性の麻疹ウイルスがある。遺伝子の構造のようにワクチンの効果に目立っ た変化はみられていない。ゲノムは細胞のエントリーに重要な膜表面タンパクであり、ヘマグルチニン (以下 H)、フュージョン(以下 F)タンパクを含む 8 つのタンパクをコードする。感染を助長する生涯 免疫は抗 H タンパク抗体を中和する性質を持つ。麻疹ウイルスの遺伝子配列は 24 のジェノタイプを持 ち、伝染追跡や消去確認に使われうる。最近、麻疹ウイルスはまず下気道から感染が起こることが提唱 されており、そこでウイルスは肺胞のマクロファージおよび上皮下樹状細胞に侵入する。次いでウイル スは所属リンパ節へと運ばれ、リンパシステム内で複製し、ウイルス血症や白血球減少を引き起こす。 ・疾患 麻疹の潜伏期間は通常、咳、熱、不安感、結膜炎、鼻風邪などの初期症状が現れてから 10~14 日間 である。特徴的な麻疹様発疹は前駆症状の 2~4 日後に現れる。患者は発疹が現れる約 4 日前に感染し ており、発疹の 4 日後までに気道に存在する麻疹ウイルス量はピークに達する。典型的な斑点状丘疹は しばしば 39.0~40.5℃の高熱を伴う。発疹に先立って、口腔粘膜に麻疹に特異的な青白いコピック斑が みられる。合併症のない麻疹患者は発疹 3 日後までに改善し、罹患後 7~10 日後までに完治する。 麻疹の重症度はホストと環境因子によって大きく異なる。麻疹が深刻かつ致命的になるリスクは、5 歳 未満の子供や密集状態で暮らしている人々で増加し、彼らは栄養失調、特にビタミン A が不足していた り、AIDS のような免疫不全をもつ。報告されている合併症の約 30%が年齢に加えて素因となる状態に依 存している。比較的よくみられる麻疹の合併症は中耳炎や咽頭気管気管支炎、下痢、肺炎を含む。先 進国の子供たちは 7~9%で中耳炎、8%で下痢、1~6%で肺炎がみられる。麻疹感染後 1,000~2,000 症 例中約 1~4 例に脳炎、数年後に 10,000~100,000 症例中約 1 例に亜急性硬化性全脳炎(SSPE) を発 症する。免疫不全の人に起こる特に深刻な合併症は急性進行性脳炎(麻疹封入体脳炎)、特徴的な巨細 胞性肺炎である。発展途上国では、特に乳児で永続的な下痢がタンパク喪失性の腸疾患に次いで起き る。栄養失調、特にビタミン A 不足があり、日常的に他の感染症に曝露されているこれらの国々では、 麻疹による致命率は通常 3~6%だが、とくに強制移住させられたり,隔離されたり,あるいは免疫学 的に弱い集団においては 30%もの高さになりうる。先進国では、麻疹による死亡は稀であり、致命率 は通常 0.01~0.1%である。そして死亡のリスクが最も高いのは 1 歳未満の子供および 30 歳以上の大人 である。HIV 感染した子供において致命率は 50%にもなるという報告がある。 ビタミン A 不足は回復を遅らせ、麻疹感染後の合併症を引き起こす確率を増加させる。さらに麻疹の感 染は急性ビタミン A 不足および眼球乾燥症を加速させる。結果として、麻疹はアフリカにおける小児失 明の重要な原因であるが、その多くは予防可能である。 ・診断 WHO によると、麻疹を疑う症例は発熱や丘疹を認める場合、または医療従事者が麻疹を疑う場合であ る。検体検査室での検査は風疹ウイルスやパルボウイルス B19、ヒトヘルペスウイルス 6、7、デングウ イルス、溶連菌感染症などの他の症状との鑑別に必要不可欠である。検査室における麻疹の証明は ELISA 法による、抗麻疹ウイルス IgM 抗体の症例、または RT-PCR による咽頭ぬぐい液や口腔液、鼻咽頭粘液、 尿における麻疹ウイルス RNA の検出に基づく。 ・治療 麻疹に特異的な治療はない。麻疹の症例管理は麻疹合併症や 2 回目の麻疹感染をできるだけ予防、治 療することに焦点を当てている。麻疹の感染力は高いため、麻疹患者の隔離はウイルスの拡散を防ぐた めに重要な介入である。しかし、ワクチン接種によって集団免疫を高めることは、アウトブレイクを防 ぐために最も効果的である。 熱や咳、鼻風邪、鼻漏、結膜炎、口内炎などを含む症状へのサポートケアは提供されるべきである。 栄養サポートも麻疹に伴う下痢や嘔吐、食欲の低下による栄養失調のリスクを軽減するために推奨され ている。また、適切な場面で、授乳も推奨されるべきである。経口補水塩は脱水をふせぐための必要に 応じて使われるべきである。
17-3 ある研究では予防的抗生物質を投与された患者は肺炎や結膜炎、急激な体重増加の発症率が低いと報 告されている。一般に抗生剤は肺炎や中耳炎などの二次的な細菌合併症がないかぎり、麻疹の治療には 適さないとされている。 ビタミン A はすべての急性疾患で以前投与したタイミングに関係なく投与される。ビタミン A の口腔 からの投与は診断後ただちに行われ、次の日も繰り返し行われるべきである。6 か月未満の乳児には 50,000IU,6-11 か月なら 100,000IU,12 か月以上の小児には 200,000IU が与えられるべきである。もし 小児がビトー斑などの臨床的眼症状を示した場合、3 度目の投与を 4~6 週後に行うべきである。たとえ 麻疹の重症化が稀な地域でも、ビタミン A はすべての重症化した麻疹症例で投与されるべきである。 ・曝露後予防 予防接種を受けていなかったり、不十分であったりする人は麻疹ウィルスに曝露された 72 時間以内 に、病気に対する防御のために麻疹ワクチン接種が好ましい。疾患が進んでも、たいていの場合は重症 化せず、不調の持続期間も短い。麻疹ウイルスにさらされた後、ヒト免疫グロブリンが産生される可能 性があるため、影響をうけやすい人、特に妊婦や生後 6 か月未満の乳児、免疫システムが衰弱している 人に麻疹ワクチンは禁忌である。曝露後 6 日以内に接種できれば、この受動免疫は疾患を防ぎ、重症度 を軽減させる。 ・自然獲得免疫 麻疹ウイルスの感染を防ぐためには抗 H 抗原中和抗体が循環血中に存在することで十分だが、もし感 染が起こってしまったら,ウイルスを排除するためには細胞性免疫が必要である。長期間、おそらく生 涯にわたり、野生型麻疹ウイルス感染による免疫記憶は麻疹ウイルス特異的な抗体産生と麻疹ウイルス 特異的な CD4、CD8 陽性の T リンパ球の循環を含む。時間が経つにつれ、抗麻疹ウイルスの抗体価が下 がっても、体液性、細胞性免疫の 2 次応答を急速に成り立たせる能力があるので、感染からの保護を確 実なものにしている。乳児は胎盤を通して得た母親の抗麻疹 IgG 抗体 により、一時的に保護されうる。 母親由来の抗体により、通常乳児は 6~9 か月まで麻疹から守られている。しかし、麻疹ワクチンを受 けた母親をもつ乳児は野生型の既往歴のある母親をもつ乳児よりも受け取る抗体が少なく、保護される 期間が短い。大量のウイルスに感染すると,ときに母親由来の抗体に打ち勝ち、母が野生型の麻疹ウイ ルスに未感染でかつワクチン未接種である場合、その新生児や乳児に麻疹が感染することがある。 ・麻疹ワクチン 麻疹ワクチンは 1963 年初めて認可された。現在では、弱毒化した生ワクチンに限り、市場で入手可 能である。不活化ワクチンは発展したが、ワクチンを受けた子供が次に麻疹に感染したとき、より深刻 で非典型的な麻疹を呈することから撤退した。1980 年代には、乳児免疫応答における母親由来の抗体の 抑制に打ち勝つためのアプローチとして力価を増加させた弱毒生ワクチン(ヒト培養細胞の 50%に感染 するのに必要な力価であるTCID50が 10 万を超える)がテストされたが、標準的な力価の麻疹ワクチンを 受けた女児と比較し、高い力価のワクチンを受けた女児の方が死亡例が多いとの報告を受け、中止した。 いくつかの弱毒化ワクチンは一価のワクチンとして、または風疹やムンプス、水痘・帯状疱疹やその 他のワクチンとの組み合わせでの利用が可能である。MR や MMR、MMRV などの多価ワクチンを使用した際 でも、各抗原に対する免疫応答に大きな違いはみられない。 ・ワクチンの特性、内容、一回投与量、投与、ストレージ
ほとんどの弱毒化ワクチンは Edmonston 株由来である。Schwarz 株、Edmonston-Zagreb 株、AIK-C 株、 Moraten 株を含むよく知られているワクチン株は Edmonston 株から派生したものであり、その全てが 1960 年代から使用されている。遺伝子配列を分析すると、これらの株の間にはわずかな違いしかないと 証明された。CAM-70 や TD97、Leningrad-16、Shanghai-191 などの非 Edmonston 株由来の株は配列がよ り多様である傾向がある。効果および副作用の点において臨床的に明確な違いがあるという証拠が不十 分であることから、これらの弱毒ワクチンは総称的に「麻疹ワクチン」として参照される。単一抗原と して使われるかこれらを組み合わせた麻疹ワクチンとして使われるかにかかわらず。単一抗原あるいは 組合せとしての麻疹ワクチンは、すべての野生型麻疹ウイルス遺伝子型に同じくらい良い抵抗性を持つ。 麻疹ワクチンは製造過程の残留物としての微量の抗生物質ネオマイシンや、ヒトアルブミン、ソルビト ール、加水分解ゼラチンを含む安定化剤が含まれている可能性がある。 国際的に利用可能な麻疹ワクチンは安全かつ効果的であり、ワクチン接種プログラムにおいては同等 に用いられる。WHO は安全かつ効果的な麻疹ワクチンの製造及び品質管理に関する勧告を出した。 通常麻疹ワクチンの容量は 0.5ml である。麻疹ワクチンは一般的に皮下注射であるが、筋肉注射でも 効果を示す。穿刺部として好ましい部位は大腿前外側部、上腕部でありどちらにするかは小児の年齢に 依存する。ワクチンの使用開始は早くて生後 6 か月から認められている。生後 1 歳未満の麻疹による死 亡が多い国々では、ワクチンの接種を生後 9 か月かその少しあとに始めるよう勧告されている。感染が 生後 9 か月以降に起こる国々ではワクチン接種を生後 12~15 か月まで遅らせることが可能である。一 次免疫のための予防接種は 2 回接種が望ましい。麻疹ワクチンの 2 度目の接種は通常、2 歳のときか入
17-4 学時に提供される。しかし早ければ 1 回目の接種の 4 週後に接種してもよい。2 度目の接種は 1 度目の 接種で予防免疫が上がらなかった小児を守るために必要とされる。 使用前に、凍結乾燥されたワクチンにメーカーから提供された滅菌済希釈剤を加えて液体に戻す。保 存料を含む再構成液はワクチンウイルスを不活化してしまうため、推奨されていない。再構成されたワ クチン各 0.5ml はそのワクチン株の 1000 以上のウイルス感染単位を含んでいる。全般的にフリーズド ライされたワクチンは 8℃以下の冷蔵庫で保管されることが推奨されている。しかし麻疹ワクチンはウ イルスの抗力を長期間保存するために-70℃から-20℃で保存される。希釈剤は凍結されるべきでなく、 再構成の前には 2~8℃にしておくべきである。再構成されたワクチンは 20℃、1 時間で 50%、37℃、1 時間で全ての効力を失う。ワクチンはまた光にも敏感であり、褐色ガラスのバイアルで保存し、日光か ら守らなければならない。再構成の後、ワクチンは 2~8℃の冷暗所に保存し、6 時間以内に使用する。 ワクチンの 1 回目、2 回目の接種のタイミングは国や地域によって異なる。一般に、高いワクチン接 種率と低い麻疹罹患率に到達しているワクチン接種プログラムが長期にわたって続いている国では、2 回とも高い年齢で接種し、ワクチン接種の提供も定期サービスに頼っている。保健インフラが弱い国で は、ワクチン接種キャンペーンを使って麻疹ワクチンの 2 回接種率を向上させている。麻疹ワクチン接 種スケジュールの多様性は、国ごとの持続的な麻疹ウイルス伝播率、保健サービスインフラ、プログラ ムが様々な年齢の小児にどれだけアクセスできているかの違いに起因する結果である。 ・免疫原性、有効性、効果 麻疹ワクチンは、抗体濃度は通常低いものの、野生型麻疹ウイルスに感染したときと同様に体液性免 疫、細胞性免疫の双方を誘発する。ワクチン接種後は一過性の麻疹ウイルス特異的 IgM 抗体が血中に出 現し、分泌粘液中に IgA 抗体が出現する。次いで IgG 抗体が産生され、長年血中に持続して存在する。 H タンパクと F タンパクへの抗体はウイルスの中和に貢献し、麻疹ウイルス感染に対する防御反応と 最もよく相関する。中和抗体の存在は、普通、プラーク減少中和試験によって示されるが、防御と相関 する最も信頼できる指標(防御レベルは>120 mIU/ml)と考えられている。しかし、多くの検査室では 抗体濃度が低いときに感度が下がる ELISA 法により免疫が測定されている。 野生型麻疹ウイルスは著明な免疫抑制を数年間にわたって生じさせ、小児の感染症による死亡率全体 の上昇と関係している。入手できるデータによると、現在 WHO が推奨する麻疹ワクチン接種スケジュー ルは小児の全死因死亡率に有益な効果をもたらしていることを示唆しており、それは麻疹の予防のみに よるものとして説明できない。 生後 6 か月以前の乳児へのワクチン接種では、母親由来の中和抗体の存在や免疫系の未成熟のため、 しばしば血清抗体陽性化を誘導できないことがある。生後 9 か月のワクチン接種済乳児の 10~15%にワ クチンによる免疫がつかないことがある。研究では生後 9~11 か月に麻疹ワクチン投与を行うと、生後 12 か月後に投与した際よりも効果的であると評価した。高結合性の抗体反応は麻疹ウイルスに対する免 疫の発達に対して絶対条件である。生後 6~9 か月にワクチン接種した小児は生後 12 か月に接種した小 児に比べて抗体の麻疹ウイルスへの結合性が弱い。したがってワクチン接種の推奨年齢は、年齢ととも に減少するワクチンによる免疫がつかないリスクと、年齢とともに増加するワクチンによる麻疹感染の リスクとのバランスを考慮すべきである。 初回ワクチンで応答のなかった小児におけるワクチン再接種の研究では、2 度目の接種後、約 95%が 免疫を獲得することが証明された。あらかじめ抗体を持っている人々においてはワクチンの再接種は抗 体価の急増を引き起こすには及ばない。ワクチンにより誘導された抗体は時が経つにつれ減少し、防御 作用を失うが免疫記憶が残り、麻疹ウイルスに曝露されると防御的免疫反応が起こる。 ある一定数の人々、特に生後 12 か月以前にワクチン接種を受けた人々は初回ワクチンへの防御的免 疫反応が起きないことがある。麻疹ワクチンの 1 回目接種が 2 歳までに行われる国々ではワクチンの失 敗率が約 5%である。 麻疹ワクチンによる抗体反応は HIV 感染児で障害されうる。アメリカにおける HIV 流行の初期にいく つかの研究が行われ、マラウィでは HIV 感染児の約 25~33%が麻疹ワクチンの 1 回目接種に反応し、HIV 感染のない小児では麻疹ワクチンの 2 回目接種後に 94%が反応するのに対し、HIV 感染児ではたった 64%しか反応しなかった。
また、HAART を受けていない HIV 感染児に対し、HAART を受けた小児はワクチンの再接種に応答しや すいことも研究で示唆された。 *防御期間: 麻疹ワクチンによる防御期間は野生型感染により誘導されるものに比べむらがあるが、血清抗体陽性 化を正しく引き起こし、ワクチンが正しく投与された場合、生涯にわたって防御を得られるというエビ デンスが挙げられている。麻疹がすでに流行している国々でさえ抗麻疹ウイルス抗体は数十年間存在す る。IgG 結合活性測定を用い、1 回目接種と 2 回目接種の不成功を比較検討する研究では、2 回目接種の 不成功は少なくとも免疫力の低下した条件下で起きている。しかし、免疫力の低下は麻疹ウイルス感染
17-5 において主要な役割を果たしているようには見えない。 ・ワクチンの安全性 麻疹ワクチンによる副作用は通常軽症であり、短期間である。ワクチン接種によって 24 時間以内に 注射部位にわずかな痛みや圧痛を感じることがあるが 2、3 日で解消する。ワクチン接種の約 7~12 日 後、5~15%に 1~2 日間の 39℃を超える高熱全身反応が現れ、2%に一時的な発疹がみられる。副作用 はアナフィラキシーショックを除き、麻疹ワクチン 2 回目接種のほうが発生しにくい。 麻疹ワクチン投与(とくに複数回投与用のバイアルを使ったとき)に伴うエンドトキシンショック症 候群や敗血症など致命的なイベントは、麻疹ワクチンの取り扱いや再構成や投与においてメーカーの推 奨に厳密に従わなかった場合に起こりうる。 ネオマイシンや安定化剤を含む麻疹ワクチンの構成物質に対するアレルギー反応も報告されている。 注射部位におけるじんましんなどの過敏反応も稀に起こる。麻疹ワクチンに対するアナフィラキシーシ ョックは非常に稀であり、100 万件に 3.5~10 件ほどである。アナフィラキシーショックは通常ワクチ ン製造時に含まれるゼラチン質に対して起こる。 麻疹ワクチンは時に熱性痙攣を引きおこす。痙攣の発生率は 1/2941 及び 1/1150 とする研究がある。 残存性痙攣異常と麻疹ワクチンとの関係性は未だ確立していない。一過性の血小板減少症もワクチンを 接種した小児に稀に(ほぼ 30000~40000 接種当たり 1 例)みられる。 多くの国における広範な研究によると麻疹ワクチンによる恒久的な神経後遺症やギランバレー症候 群のリスク増加はないとされている。さらに麻疹ワクチンは炎症性腸疾患や自閉症とのつながりを持た ないという強い科学的エビデンスもある。 MMRV の一度目の接種後に熱性けいれんが発生する確率は MMR と水痘ワクチンを別々に接種した小児の 2 倍であるが、麻疹の一価ワクチンと同様に MMR や MMRV による副作用は穏やかかつ一過性である。しか し、この熱性けいれんのリスク増加は 2 回目接種として MMRV が接種されたときはみられない。稀に、 風疹やムンプス、水痘様症状がこれらのワクチンを含む麻疹ワクチン投与後にみられる。麻疹ワクチン 株のヒトーヒト感染は報告されていない。 HIV 感染などにより免疫抑制状態にある人では、一過性に急激なワクチンウイルスの複製が起こり、 死に至る場合もある。 軽度の同時感染はワクチン接種の禁忌とはされていないが、麻疹ワクチン接種は高熱や他の重篤な急 性症状のある人へは避けるべきである。麻疹ワクチンの禁忌は、アナフィラキシー症状やアレルギー反 応をワクチンの成分(例えばネオマイシンやゼラチン)に示したことがある人、妊婦、免疫抑制状態の 人である。麻疹ワクチンは、以下の患者には禁忌である:深刻な免疫不全、進行した HIV 感染、進行し た白血病やリンパ腫、重症な悪性疾患、高容量ステロイドやアルキル化剤、代謝拮抗薬を用いた治療を 受けている人、免疫抑制放射線治療を受けている人。 ・特にリスクのあるグループ HIV に感染している子ども:現在入手可能な限られたエビデンスによると、MMR ワクチンは HIV に感染 している子どもに対して安全であるということが示唆されている。MMR ワクチンは HIV 感染者が重症の 免疫不全状態でない限りは使用が推奨される。安全性と免疫原性のシステマティック・レビューによっ て、HIV に感染している子どもにおける麻疹封入体脳炎、巨細胞肺炎(成人 AIDS 患者における MMR ワク チンによる)、血小板減少症に関する研究は全く識別されなかった。しかし、このように珍しい有害事 象の発覚は、HIV が流行している環境においては意義のあることである。WHO ワクチンの安全性に関す る世界諮問委員会によって委任された、HIV に感染している子どもにおける MMR ワクチンの安全性と免 疫原生についてのシステマティック・レビューによって、HIV に感染している子どもの重篤な有害事象 において、HIV に感染していない子どもと比較して全くリスクが増大しないということがわかった。 生後 6 か月のワクチン接種後における麻疹抗体濃度の血清学的な評価によって、HIV感染および非感 染の子どもにおいて同様の保護レベルであることがわかった(統合相対危険度[RR]1.05、95%信頼区 間[CI]0.83-1.34、異質性I2 65.7%、P=0.054)。生後 9 か月までには、HIVに感染している子ども(AIDS の臨床徴候の有無に関わらず)の麻疹ワクチンに反応した数は、非感染の子どもよりも少なかった(統 合相対危険度[RR]0.79、95%信頼区間[CI]0.61-1.02、異質性I2 81.5%、P=0.005)。2 つの研究よ り、HIVに感染している子どもにおける抗体反応は、非感染の子どもより早く弱まるということが示唆 された(訳注:これらの評価はメタアナリシスの結果であり、どちらもリスク比の 95%信頼区間が 1 を 跨いでいるし、異質性が大きいことから、研究によって結果が大きく異なっていると言える。従って、 HIV感染の有無による麻疹ワクチン接種効果の違いに関しては、統計学的に有意な差はなく、結論が出 せないと判断すべきであって、この解釈は若干書きすぎである。)。 妊娠している女性:麻疹ウイルスに催奇性の影響があることは報告されていないが、麻疹ワクチンが弱 毒生ワクチンであり、成長中の胎児に対して特にワクチン接種から生じる発熱のため理論上のリスクが あるとされ、予防措置として麻疹ワクチンの使用は妊娠している女性には推奨されない。しかし、妊娠
17-6 中のワクチン接種後における重篤で有害な影響は報告されていない。妊娠している女性にうっかり麻疹 ワクチンを接種してしまっても妊娠中絶の適応は考慮されない。 医療従事者:幾つかの研究によって医療従事者(HCWs)は非医療従事者にくらべて麻疹のリスクが増大 し、医療現場における麻疹の伝播は幼児や免疫不全者に対する相当な感染リスクを与えることがわかっ ている。医療従事者のワクチン接種の重要性は、医療施設で発生し、医療従事者と患者両方に影響を与 える莫大な麻疹の大流行によって強調される。アメリカにおいて 1985 年から 1989 年の間、非医療従事 者と比較して医師は麻疹のリスクが 8 倍増大し、看護師では 2 倍増大していた。アメリカにおいて 1993 年から 2001 年の間に 120 の麻疹の大流行が起きたが、医療施設が最もよく報告された場所であった。 ・同時投与 一般的なルールとして、生ワクチンは同時にあるいは 4 週間の間隔をあけて接種すべきである。この ルールの例外は経口ポリオワクチン(OPV)であり、麻疹ワクチン接種前、同時、接種後いずれにおい ても両方の反応を干渉せずに使用することができる。現在入手可能なデータによると麻疹ワクチンは異 なる解剖学的部位において、黄熱ワクチン、ジフテリア・破傷風トキソイド、全細胞および非細胞性百 日咳ワクチン、髄膜炎菌ワクチン、B 型肝炎ワクチン、B 型インフルエンザ菌/B 型肝炎ワクチン(Hib /Hep)などの他の注射用ワクチンと同時投与しても問題がないとされている。ある研究では、MMRV ワ クチンとジフテリア・百日咳・破傷風混合ワクチン、B 型肝炎・不活性化ポリオウイルス・B 型インフ ルエンザ菌混合ワクチン(DTPa-HBV-IPV/Hib)の同時投与は免疫原性とすべての抗体試験について良 い寛容性を示すかに基づく。また麻疹ワクチンは 10 価の肺炎無莢膜型インフルエンザ菌 D タンパク結 合ワクチンとの同時投与においても、安全で免疫原性があると報告されている。現在入手可能なデータ によると、麻疹ワクチンと日本脳炎ウイルスワクチンは異なる注射部位から同時投与しても問題はない ことが示唆される。MMR と黄熱ワクチンを 2 歳未満の子どもに同時投与した場合、干渉が発生する可能 性がある。麻疹ワクチンとヒトパピローマウイルスワクチン(HPV)の同時投与はまだ研究されていな い。 ・対費用効果 安価で効果のあるワクチンが得られることから、麻疹免疫法は広範囲の開発状態において最も対費用 効果の高い公衆衛生介入の一つである。ラテンアメリカとカリブ海地域での、定期予防接種およびその 運動によるワクチン接種率の高さは(95%)、定期予防接種のみを行っている一般的なワクチン接種率 (85%)と比較して、大幅に費用を削減しつつ達成されていると推測される。カナダとアメリカにおい て、2 回の定期ワクチン接種と推進運動中の 2 回のワクチン接種はいずれも良い費用対効果率(>1)が あると推測される。ワクチン接種率の低い場所では、推進運動を通した麻疹ワクチン接種や移動の地域 奉仕活動は、1 回の定期予防接種と比較して費用の削減を示している。アフリカと東南アジアにおける 別の研究では、麻疹ワクチンを子ども健康介入セットの中に加えることが高い対費用効果をもっている ことがわかった。一般的に、麻疹ワクチン接種を 2 回接種するプログラムはその方法に関わらず高い費 用対効果があることがわかっている。 麻疹免疫法によって患者とその家族、国民健康保険制度における高い費用を削減することができる。 最も利益が得られたと推測される 2011 年から 2020 年の間、94 の低・中所得国における 10 のワクチン への出資に対する利益の分析(1 ドル毎に得られる純益で定量化)は、2 回の予防接種と啓蒙活動を通 して、麻疹における 58 倍(不確定範囲:25-105)の費用を軽減したことによるものであった。 *WHO の見解: 麻疹ワクチン接種は感受性のある子どもと大人すべてに推奨される。利用可能な麻疹の弱毒生ワクチ ンは安全で効果があり、長期間の保護作用を与え、安価で予防接種事業において互換的に用いることが できる。 すべての子どもに 2 回の麻疹ワクチン接種が及ぶことは、すべての国家予防接種事業の標準となるべ きである。麻疹をなくそうとしている国は全地域において、すべての子どもに対する 2 回の予防接種率 を 95%以上にするべきである。 MCV の 1 回目の定期予防接種(MCV1)に加えて、その到達範囲レベルに関わらず、すべての国は MCV の 2 回目の定期予防接種(MCV2)をその国のワクチン接種計画に含むべきである。2 歳時での MCV2 を加 えることにより、MCV1 に反応しなかったあるいは 1 回目のワクチン接種を受けなかった感受性のある子 どもを減らすことができる。生後 2 年の間に安定して子どもの健康を確立することを助け、麻疹の大流 行のリスクを減らすため、この基準は推進運動の期間を延ばすさらなる利点がある。 NCV2 を追加することでは一つの出生コホートしか含むことができず、全人口規模での高いワクチン接 種率を得るには時間がかかるため、高い免疫人口を得るために定期的な推進運動を行っている国は、 MCV1 および MCV2 について 90-95%より高いワクチン接種率が達成されたときにのみ、その運動を中止 することを考慮すべきである。それは、最低でも連続した 3 年間の正確なデータによって決められてい る。
17-7 *MCV1 と MCV2 の最適なタイミング: 幼児における麻疹死亡率のリスクが高いままで感染が進行している国では、MCV1 を生後 9 か月に投与 すべきである。そのような状況においては、幼児の感受性ある時期に最適な防御作用を確実にするため に、定められたタイミングで MCV1 が投与されることが重要である。これらの国では MCV2 を 15-18 か月 に投与すべきである。MCV1 と MCV2 の最短の間隔は 4 週間である。 麻疹感染レベルの低い国や(すなわち、ほぼ麻疹感染がなくなったあるいは地域流行性の麻疹ウイル ス感染がなくなったと確認された国)、幼児における麻疹ウイルス感染のリスクが低い国では、より高 い血清抗体陽性化率を達成するために MCV1 を生後 12 か月で投与すべきである。生後 9 から 12 か月で の MCV1 の投与が増えていることは、合理的で望ましい方針の転換を表している。しかし、この変更を 実行する前に方針の作成者は、生後 9 か月と比較して 12 か月がワクチン接種率は高いと予想されるが、 実際に麻疹ワクチンを受けた幼児の年齢、また年齢特異的な麻疹罹患率などのローカルデータを参照す べきである。 生後 12 か月に MCV1 を投与している国では、MCV2 を投与する最適な年齢は、最も高い MVC2 接種率、 すなわち最も高い免疫人口を達成したプログラムの検討に基づく。生後 15-18 か月での MCV2 の投与に よって個々の早期の防御作用が確実になり、感受性のある小さな子供が増えるのを抑え、他の定期予防 接種と予定が一致するかもしれない(例えば DTP ブースター、PCV あるいは髄膜炎菌ワクチン)。この指 標は生後 2 年における予防接種や他の医療介入の方針を確立するための支えともなる。MCV1 の接種率が 高く(>90%)入学率も高ければ(>95%)、入学時の MCV2 投与によって、高いワクチン接種率を達成 し、麻疹の大流行を防ぐ効果的な方法が証明されるかもしれない。 次の状況では、生後 6 か月以降の幼児に追加の MCV を投与しなければならない: 1. ワクチンのサービス配布時における麻疹流行中; 2. 生後 9 か月未満の幼児の麻疹リスクが高いままである場所での推進運動中(例えば流行を定期的に 経験している麻疹常在国); 3. 国内で住居を失った人々、難民、紛争地域の人々 4. 個人的に麻疹に罹患するリスクの高い幼児(例えば、既知の麻疹患者に接触するか、あるいはデイ ケアセンターのようなアウトブレイク中に曝露のリスクが増大する場所で) 5. 旅行で麻疹アウトブレイク中の国に行った乳児 6. HIV に感染しているか、あるいは曝露したことがわかっている(すなわち HIV に感染した女性から 生まれた)乳児 麻疹ワクチンの免疫原性と効果は生後 6 か月ではそれ以降よりも低くなり、早期 2 回定期接種の長期 的な効果と、その後の免疫が鈍化する可能性について懸念が生じる。したがって麻疹ワクチンが生後 9 か月以前に投与された場合追加の接種を考慮すべきであり、9 か月以前にワクチン接種が行われた場合 の高い血清抗体陽性化を示すデータがない限り、その子どものワクチン接種の記録には“MCV0”と記録 されるべきである。MCV0 の子どもは国の計画に従って推奨される年齢において MCV1 および MCV2 を受け るべきである。 風疹・ムンプス混合ワクチン(MMR)の安全性と免疫原性について現在入手可能なエビデンスは、生後 6 か月からの使用を支持している。国の計画の中で MR あるいは MMR を用いている国は、1 歳未満を含むす べての子どもに対して麻疹のみよりも混合ワクチンを用いるべきである。 ワクチン接種をしていない生後 12 か月の子どもにおいて麻疹流行の発生が多いため、定期的な MCV1 の投与は生後 9-12 か月の幼児に限るべきではなく、定期的な MCV2 の投与は生後 15-18 か月の幼児に限 るべきではない。特に 15 歳未満の 1 回あるいは 2 回の麻疹ワクチン定期接種を受けられなかったすべ ての子どもにもすべての機会(例えば子どもがいつでも健康サービスを受けられること)が与えられる べきである。生後 1 年を超えた子どもやそれ以上の青年期の子どもにおけるワクチンの使用を禁止する 方針は、必要に応じてワクチン接種を受けられるよう変えるべきである。 戦略や計画に関わらず、子どもの予防接種カードと診療所のワクチン接種記録は追加の接種(MCV0)、 定期接種(MCV1 と MCV2)、キャンペーンでの接種を正確に記録できるようにデザインされるべきである。 入学時に子どもは麻疹ワクチン接種歴を調べてもらい、2 回接種を受けた証明が欠けている人は受けら れなかったワクチン接種を受けるべきである。 *ワクチン接種キャンペーン: 保健システムが適度にまたは弱くしか機能しない国では、通常の麻疹ワクチン接種キャンペーンの実 施は、定期的な保健サービスにアクセスできない子どもを保護するための非常に効果的な戦略である。 コミュニティレベルでは、十分に計画、実行されたキャンペーンは、集団免疫を急速に増加させること ができ、それによって麻疹ウイルスの感染伝播を妨げる。キャンペーンを使用して、既知の免疫ギャッ プ(例えば、過去のワクチンの欠乏中または社会的混乱のためにワクチンを受けられなかった人々)を 小さくすることもできる。 特定の状況では、全国キャンペーンは実現可能ではなく(例えば、市民不
17-8 安、政治的不安定性、財政上の制約、または非常に大きな国土面積による)、地域に限って、感染者の 蓄積を減らす目的で実施される。 麻疹の流行の危険性は感受性の高い人々の対人口比によって決まるため、麻疹に罹患しやすい就学前 の子供の数が 1 つの出生コホート相当数に近づく前に、集団感受性の高い人々の蓄積をモニターし、フ ォローアップ対策を立案するため、集団免疫に関する質の高いデータ(ワクチン接種率、サーベイラン ス、血清学的研究など)を利用すべきである。このアプローチは、大きなアウトブレイクを防止するた めに有用であることが判明している。しかし、大規模な国や麻疹排除に迫っている国では、感受性の高 い人の蓄積のより広範囲な評価が、地方レベルで実施されるべきである。 麻疹(MCV)や麻疹/風疹ワクチン(MR)接種キャンペーンの対象年齢範囲を特定するための単一の基準 がないため、各国は、ワクチン接種率情報、MCV および RCV 使用歴、および感受性人口の年齢分布(年 齢別免疫ギャップ)についてのその地域で知られていること、サーベイランスおよび血清陽性率のデー タを統合して、麻疹および MR キャンペーンの対象年齢範囲を決定するべきである。 MR キャンペーンと 比較して付加的に考慮すべき情報は、妊娠中の女性の風疹免疫、風疹および CRS の疫学、年齢別出生率、 および CRS 罹患児の母親の年齢である。 数学的モデリングは、5 歳未満の子供を対象とした高品質の麻 疹キャンペーン(感受性小児の 90%超に接種)の方が、低品質のより幅広い年齢層キャンペーン(10 歳未満の子供を対象とし、感受性小児のおよそ 70%に接種)よりもコスト効率が良く、同等に効果的で あることを示唆している。 すべての MCV キャンペーンは、確立されたベストプラクティスに従い、キャンペーン前の準備状況を 監視し、キャンペーン中およびその後に独立して監視して、95%を超える均等なワクチン接種率を確保 する必要がある。キャンペーン中に与えられたすべての用量は、子供のワクチン接種記録とワクチン接 種されたゼロ用量の子供(すなわち、MCV の以前の用量を受けていない子供)の年齢別に記録された数 で記録されるべきである。 キャンペーンを中止する前に、国家予防接種諮問グループなどの国家委員会による審査を受ける必要 がある。委員会は以下の項目を検討すべきである。MCV1 のワクチン接種率に関する歴史的データ、定期 的な MCV2 および全国レベルおよび地区レベルのキャンペーン地区間の日常的な範囲の異質性の程度; 集団免疫プロファイル; キャンペーンがない場合に予測される感受性の高い個体の蓄積率; 麻疹の流 行を含む麻疹の詳細な疫学; 麻疹監視システムの性能、などである。 適切なデータがない場合、また はキャンペーンの停止により集団免疫が集団免疫閾値を下回ることがデータによって示された場合、キ ャンペーンは継続すべきである。すべての子供に 2 回分の麻疹ワクチンを接種するようにするには、両 方の用量の投与を記録し、監視するためのシステムへの投資を増加する必要がある。 *ワクチンの選択とその互換性: 一価ワクチンとして、または風疹、流行性鼻炎、または水痘ワクチンと組み合わせて、またはそれら のいくつかの組み合わせのいずれかとして、市販されている弱毒生ワクチンはすべて、麻疹を予防する ために互換性を持って使用できる。しかしながら、プログラム的な理由(例えば低温貯蔵の必要性およ びワクチンの浪費を減少させるため)のために、定期接種の 1 回目と 2 回目の両方の MCV に同じ処方物 を使用することが推奨される。 *同時投与: 原則として、生ワクチンは、同時にまたは 4 週間の間隔で与えられるべきである。この規則の例外は OPV であり、いずれかのワクチン接種に干渉することなく麻疹ワクチン接種の前後にいつでも行うこと ができる。MCV は、日本脳炎ワクチン、黄熱病ワクチン、DTP 含有ワクチン、髄膜炎菌ワクチン、B 型肝 炎ワクチン、不活性化ポリオワクチン、ヘモフィルスインフルエンザ菌 b 型結合型ワクチン、および肺 炎球菌ワクチンを含む他のワクチンと共に、異なる部位に同時投与され得る。 *禁忌: ワクチンのいずれかの成分(例えば、ネオマイシンまたはゼラチン)に対するアナフィラキシー反応、 重度のアレルギー反応、または重篤な免疫抑制の病歴を有する人に MCV を接種すべきではない。 軽度 の同時感染は、予防接種に対する禁忌ではない。 ・妊婦の予防接種 予防措置としての麻疹ワクチン単独または他のワクチンとの混合ワクチン接種は妊娠中は避けるべ きである。 妊婦の予防接種後の胎児や母親に有害な結果は報告されていない。 妊娠中の麻疹ワクチン の偶発的投与は、妊娠を終わらせる理由ではない。 ・医療従事者の予防接種 HCW から患者または HCW への麻疹の伝播の危険性が知られているため、すべての HCW および患者と接 触しているスタッフは、麻疹の免疫を有していなければならない。ワクチン接種の確認および/または 麻疹の既往歴は、標準的な感染管理ガイドラインまたは医療従事者のためのその他のケア基準に統合す る必要がある。 患者と接触している保健医療従事者の場合は、雇用契約書に署名するか、トレーニン
17-9 グプログラムに入る前に、免疫歴に関する文書を要求するべきである。 *旅行者の予防接種: はしか流行地域への旅行者は感染の危険性があると考えられる。 6 か月齢の子供、感受性が高いと思 われる青少年、成人には、ワクチンが与えられるべきである。 *HIV 感染者の麻疹ワクチン接種: エイズ患者において麻疹が重篤化の転帰を辿ることを考慮すると、麻疹ワクチン接種は潜在的に感受 性の高い、無症候性の HIV 感染小児および成人に投与されるべきである。 ワクチン接種は、従来の定 義に従って重度に免疫抑制されていない場合には、HIV 感染の症状が出ている人々に対しても考慮され 得る。HIV 感染と麻疹の両方の発生率が高い地域では、早期に 6 か月齢で MCV の初回用量を提供するこ とができる(MCV0 として記録)。MCV(MCV1 と MCV2)の 2 回の日常的な投与量は、その後、全国予防接 種スケジュールに従ってこれらの子供に投与されるべきである。 HAART の開始前にワクチン接種された HIV 感染小児は、ワクチン接種後の貧弱な抗体反応のために麻 疹のリスクが増大する。HAART は、以前のワクチン接種後に得られた麻疹免疫を回復させないが、ワク チン再接種後に免疫応答をより長くより長くすることを可能にする。免疫系の再構成後に HAART を受け ている HIV 感染児に MCV を追加投与すべきである。CD4+ T リンパ球数をモニタリングする場合、CD4 + T リンパ球数が 20〜25%に達するなど、免疫系の再構成が達成された場合には、追加用量の MCV を投与す べきである。CD4 + T リンパ球モニタリングが利用できない場合、HAART の開始後 6〜12 か月に MCV を 追加投与する必要がある。 現在の知見では、MCV の初回投与前に HAART を開始する小児に対して追加の 用量を推奨するには不十分である。
HAART を受けていない 6 か月以上の子供で HIV に曝露された、もしくは HIV 感染診断後(HIV 感染女 性)すぐに、これらの幼児については、 HAART による免疫再構成後に再ワクチン接種されるまで、麻疹 のリスクが高いので、部分的な防御を提供する目的で、追加用量の MCV(MCV0 として記録)を検討すべ きである。 *サーベイランスとアウトブレイクの対応: 高品質の麻疹症例ベースのサーベイランスは、麻疹の管理と排除にとって重要な戦略である。各国が 排除に近づくにつれて、サーベイランスを強化し、毎週の WHO 地域事務所への報告に移行すべきである。 国は、麻疹および風疹の除去のための枠組みに概説されているアプローチを採用することが奨励されて いる。麻疹の流行の影響を制限するために、WHO は早期発見のためのサーベイランス、蔓延のリスクお よび重篤な疾病の結果の徹底的な評価、免疫ギャップの特定、MCV の拡大された使用を含む迅速な対応 の計画を推奨する。 広範囲の代表者からなる地区または地域のアウトブレイク調整委員会は、地方レベルで実施されるワ クチン接種対応のタイプについての決定を行うべきである。アウトブレイク中に高リスクな人々を守る ため、麻疹の臨床経過を変更したり症状を予防するために、曝露から 72 時間以内に予防接種を行うこ とができる。 ワクチン接種が禁忌である人では、曝露から 6 日以内に麻疹免疫グロブリンを投与する ことでも同様に有益な効果が得られる。 国または WHO 地域全体が排除を達成したかどうかを決定する際、地域確認委員会は、包括的かつ根拠 に基づいた過去のプログラム評価と未来においても掃滅を維持できる能力の保持を認めるために、疾病 疫学、集団免疫、サーベイランスの質、プログラムの持続可能性、遺伝子型の証拠という 5 つの証拠を 考慮すべきである。これら5つの証拠は、掃滅したケースの確立においても一緒に評価されるべきであ る。 *選択された研究ニーズに関する勧告: 麻疹および風疹/ CRS の排除を達成するため、障害となる根本的な証拠のギャップを特定するための 研究が必要である。重要な進歩が開発中であり、その中で最も重要なものは、マイクロアレイパッチに よる麻疹ワクチンの投与およびポイントオブケア診断テストである可能性が高い。マイクロアレイのパ ッチは戸別訪問によるワクチン接種を可能にし、医学訓練を受けていない人がワクチンを投与すること を可能にし、限られた人的資源を有する国にとって大きな利益となる。このようなイノベーションは、 地域排除の目標達成が成功する可能性を高める。 オペレーショナルリサーチは、プログラム戦略の実施と地域の文脈に合わせたアプローチの調整を適 切に指導するのに役立つ。取り組まなければならないプログラム上の問題には、次のようなものがある。 ワクチンを行うために特別な努力が必要な集団、到達困難な集団や青年や成人に到達するための最適な 戦略。病気の監視と報告を強化し、強調する方法。 ワクチン接種率を測定する最善の方法。麻疹ワク チン接種の利点を伝え、ワクチンを受けたがらない人を最小限に抑えるための戦略、そしてこの病気に 伴う経済的影響、である。プログラム上の課題を対象とした研究は、プログラム上の利益が得られる可 能性が高いので、優先されるべきである。 (田中孝一、山田瑞姫、木戸良明、中澤港)