木造住宅におけるバルコニー緑化の実験的研究
− 戸建住宅における住空間の快適性確保に関する研究 −
(
株
)ポラス暮し科学研究所 ○福代昇一
(株
)ポラス暮し科学研究所 松本泰輔
1
まえがき
地球温暖化を背景として,都市部ではヒー トアイランド化が急速に進んでいる。東京都 では新築大型建築物の外皮に緑化が義務付け られ,外皮緑化の採用事例が増えている。更 に,環境配慮に対する意識の向上や,都心部 の住宅において庭がとれない狭小敷地に計画 される住宅でも,ガーデニングなどを楽しみ たいという住まい手の要望から,戸建住宅に おいても屋上やバルコニーの緑化が普及しは じめている。そのため,積載荷重の対策とし て,軽量かつ薄層な緑化システムの開発が進 んでいる。
2
既往の研究
屋上緑化や壁面緑化による効果の研究は数 多くあり,梅干野,何江,堀口,王革による 屋上緑化の熱特性に関する研究
1)や,垣鍔,
溝口,雨梅,石橋による薄層屋上緑化システ ムのヒートアイランド緩和効果の研究
2),一 之瀬,石野,郡,長田や,横山,三坂,三輪,
石渡,佐々木,青木,石井による貯水型屋上 緑化システムの研究
3)4)などが行われている。
しかし,多くの研究は,外界への効果やRC 造における建物内部への効果についての研究 であり,木造住宅における外皮緑化の効果に ついて検討されているものは少ない。
本研究は木造住宅への外皮緑化,特にバル コニー緑化システムの適用について検討を行 うものである。
3
本研究の範囲
木造住宅におけるバルコニー緑化の効果を 検討するにあたり,実験計画の過程と重要と 思われる前提条件を以下に示す。
1)本研究の対象とする緑化システムは,緑化
システムのユニット下部に貯水層を有し,
バルコニーに設置するものとした。
2)実験は,実験箱を用いた比較実験と,当該
緑化ユニットをバルコニーに設置した住宅 の実棟実験の2つについて行った。
3)実験箱を用いた比較実験は,ユニット構成
の異なる2種の緑化バルコニーと,緑化を行 わないFRP防水仕上げのバルコニーを対象 とした。
4)実棟実験は,埼玉県吉川市にある断熱水準,
Ⅳ地域1990年(性能表示3等級)相当を有す る実験住宅で行った。
5)緑化ユニットには高麗芝を植栽したものを
用いた。
The Introduction of Balcony Gardening into Dwelling House
−
Research on Realization of Comfortable Habitation Space − Shoichi FUKUYO and Taisuke MATSUMOTO図1 実験箱および実験住宅
FRP防水1000mm 1000mm
図2 実験箱および緑化システムの概要 熱電対 熱流計
赤外線熱伝対 日射計
貯水型緑化 システム
敷設型緑化
システム
貯水層
4
実験概要
4-1.実験箱による比較実験
実験に際しては,図2に示す1000mm角の立 方体の箱を作成し,底面と側面を押出法PS保 温版1種30mmの断熱材で覆い,上面はFRP防 水で仕上げた。緑化の有無や種類による検討 を行うために,緑化ユニット下部に貯水層を 有する緑化システム(以下,貯水型とする。) と,100mmの軽量土壌を敷設し緑化したシス テム(以下,敷設型とする。)を,
FRP防水の上に設置した。
測定項目および測器を表1に示す。
外界条件として風向,風速,雨量,日射量 を,緑化システムの熱特性として表面温度,
緑化システム内部および実験箱内部の温度,
伝導熱量,反射日射量を10分間隔で測定した。
なお,外気温,外気湿度に関しては,気象庁 が収録している最寄地点(越谷)のアメダス気 象データを引用した。
実験箱による比較実験は,表2に示すように
2008/8/14〜2008/9/30の期間で行った。4-2.実住宅における効果の検証
図3に緑化およびウッドデッキを敷設した バルコニーと隣接居室の位置関係および測器 の位置を示す。
外界条件として,風向,風速,雨量,日射 量を,緑化システムの熱特性として表面温度,
緑化システム内部の温度,伝導熱量,反射率 を,ウッドデッキの熱特性として,ウッドデ ッキ裏面の温度,伝導熱量を,バルコニーで 測定した。また,バルコニー直下の洋間Aお よび瓦屋根直下の洋間Bにおいて室温,天井 表面温度を測定した。なお、いずれも測定間 隔は10分とした。
実棟実験は,2008/7/18〜2008/8/29の期間で 行った。
5
実験箱による比較実験の結果
5-1.緑化,非緑化バルコニーの比較2008/8/7の11:00におけるバルコニー表面の
熱画像を図4に示す。
23. 0 23. 0 26. 0 26. 0 29. 0 29. 0 32. 0 32. 0 35. 0 35. 0 38. 0 38. 0 41. 0 41. 0 44. 0 44. 0 47. 0 47. 0 RG: 1ε: 1 . 0 0 SC: NORM
(100.0)
(-20.0) 08/08/27 11:21:01
30.2℃
51.2℃
23. 0 23. 0 26. 0 26. 0 29. 0 29. 0 32. 0 32. 0 35. 0 35. 0 38. 0 38. 0 41. 0 41. 0 44. 0 44. 0 47. 0 47. 0 RG: 1ε: 1 . 0 0 SC: NORM
(100.0)
(-20.0) 08/08/27 11:21:01
30.2℃
51.2℃
15 25 35 45 55
0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00
温度【℃】
0 300 600 900 1200
日射量【W/m2】
2008/8/29 8/30 8/31 15
25 35 45 55
0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00
温度【℃】
0 300 600 900 1200
日射量【W/m2 】
2008/8/29 8/30 8/31
表1 使用測器一覧 表2 実験箱の測定期間
図3 実験住宅の概要
図4 実験箱表面の熱画像
図5 実験箱の表面温度変動
(貯水型緑化バルコニー,非緑化バルコニー
)図6 実験箱の内部変動
(貯水型緑化バルコニー,非緑化バルコニー
)貯水型 埋設型
2008/8/14〜2008/9/5○ - ○
2008/9/8〜2008/9/30○ ○ -
非緑化
期間 緑化
日射量(右軸) 緑化 非緑化 外気温
日射量(右軸) 緑化 非緑化 外気温
熱電対 熱流計 赤外線熱電対 日射計
バルコニー
洋間
A洋間B
緑化部分 ウッドデッキ
ウェザー
トランスミッター
測定種類 測定項目
温度・湿度 アメダス気象データ(越谷) 気象庁 風向・風速・雨量 ウェザートランスミッター VAISALA
日射計 小型日射計 英弘精機
表面温度 赤外線熱電対 CHINO 緑化システム・
実験箱内温度 T型熱電対 CHINO
反射日射量 小型日射計 英弘精機
伝導熱量 熱流計 英弘精機
ステーションロガー 江藤電気 マイクロ・ロガー 江藤電気 データ収録 データロガー
測定機器 外界条件
バルコニー緑化 の熱特性
貯水型緑化システムを設置したバルコニー の表面温度は30℃程度であるが,非緑化バル コニーの表面温度は50℃程度となっている。
貯水型緑化バルコニーと非緑化バルコニー の連続3日間の表面温度変動を図5に示す。
日射を受けることで,非緑化バルコニーの 表面は50℃を越えている。一方,貯水型緑化 バルコニーの表面温度は35℃以下を示してい る。表面温度差が最大となる時間は,一日に おける日射量が最も多くなる時間よりも若干 遅れており,緑化の有無によって表面温度の 差は最大で20℃程度となっている。その後,
日没とともに表面温度の差は小さくなり,夜 間は両者とも外気温と同程度になっている。
貯水型緑化バルコニーおよび非緑化バルコ ニーの実験箱内部の温度変動を図6に示す。
実験箱内部の温度は,日射量が最も多くな る時間に最大となり,緑化の有無によって最 大で5℃程度の差を生じている。実験箱内部の 温度も表面温度と同様に日没とともに下が り,夜間は,緑化している実験箱の内部温度 の方が高くなっている。
2008/8/31における貯水型緑化バルコニーお
よび非緑化バルコニーにおける構成部材内部 の垂直温度分布と,実験箱の内部温度の経時 推移を図7に示す。
緑化を行った実験箱は,日の出の6:00に温 度分布が均一となり,時間の経過ともに,表 面温度が上昇している。表面より下では,貯 水層の底部に向かい温度が低下し、実験箱内 部の温度よりも低くなっている。その後,日 没とともに表面温度が低下し,温度分布が均 一となっている。非緑化の実験箱は,緑化時 の箱と同様,6:00に垂直温度分布が均一とな り,時間の経過にともない,表面温度が上昇 している。それにともない,実験箱内部の温 度も上昇し,その上昇度合は緑化を行った実 験箱に比して大きくなっている。その後,夜 間においては,緑化時と同様,表面温度が低 下し,温度分布が均一になっている。
5-2.緑化システムの違いによる比較
貯水型緑化バルコニーおよび敷設型緑化バ ルコニーにおける表面温度変動を図8に,実験 箱内部の温度変動を図9に示す。なお,図は曇 天日を除いた代表3日間で示している。
既往の研究では,敷設型よりも貯水型の方 が,表面温度が下がっている報告がされてい るが,今回の実験条件では,表面温度と実験 箱内部の温度ともに,両者による温度の差は あまり見られず,同様の変動を示している。
2008/9/23における貯水型緑化バルコニーお
-700 -600 -500 -400 -300 -200 -100 0 100 200
10 20 30 40 50 温度【℃】
FRP面からの高さ【mm】
-700 -600 -500 -400 -300 -200 -100 0 100 200
10 20 30 40 50 温度【℃】
FRP面からの高さ【mm】
-700 -600 -500 -400 -300 -200 -100 0 100 200
10 20 30 40 50 温度【℃】
FRP面からの高さ【mm】
-700 -600 -500 -400 -300 -200 -100 0 100 200
10 20 30 40 50 温度【℃】
FRP面からの高さ【mm】
15 20 25 30
0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00
温度【℃】
貯水型 敷設型 外気温
2008/9/20 9/21 9/23
15 25 35 45 55
0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00
温度【℃】
0 300 600 900 1200
日射量【W/m2 】
2008/9/20 9/21 9/23
15 25 35 45 55
0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00
温度【℃】
0 300 600 900 1200
日射量【W/m2 】
2008/9/20 9/21 9/23
図7 実験箱の垂直温度分布
(貯水型緑化バルコニー,敷設型緑化バルコニー
)図8 実験箱表面温度の日変動
(貯水型緑化バルコニー,敷設型緑化バルコニー)図9 実験箱内部温度の日変動
(貯水型緑化バルコニー,敷設型緑化バルコニー)図10 実験箱の垂直温度分布
(貯水型緑化バルコニー,敷設型緑化バルコニー)日射量(右軸) 貯水型 敷設型 外気温 日射量(右軸) 貯水型 敷設型 外気温
日射量(右軸) 貯水型 敷設型 外気温 日射量(右軸) 貯水型 敷設型 外気温
0時 6時 12時 13時 18時 0時 6時 12時 13時 18時
0時 6時 12時 13時 18時 0時 6時 12時 13時 18時
図11 FRP層の温度変動
(貯水型緑化バルコニー,敷設型緑化バルコニー)
よび敷設型緑化バルコニーにおける構成部材 内部の垂直温度分布と,実験箱の内部温度の 経時推移を図10に示す。
芝生の表面温度や実験箱内部の温度は同程 度であるが,昼間におけるバルコニー構成部 材内部の温度は,貯水型緑化バルコニーの方 が高く,緑化ユニット底部のFRP層では2℃程 度の差を生じている。
緑化ユニット底部FRP層の温度変動を図11 に示す。
表面温度が最大となる13:00においては,貯 水型緑化バルコニーの温度の方が若干高くな っているが,その後,夜間に関しては敷設型 緑化バルコニーの方が高くなっている。これ は,貯水型には緑化ユニット下部に貯水層お よび空気層を有しているが,敷設型はより多 くの土が敷設されているため,熱容量の大小 による影響があらわれたものと考える。しか し,この違いによる実験箱内部の温度への影 響は小さい。
6.実棟実験における効果の検証
芝生直下とウッドデッキ裏面の温度変動を 図12に示す。
前項の比較実験と同様に,温度が最大とな る時間は,日射量が最大となる時間よりも若 干遅れており,芝生直下とウッドデッキ裏面 において最大で10℃程度の差を生じている。
そして,日没とともにウッドデッキ裏面の温 度は低下し,夜間は外気温と同程度になって いるが,芝生直下は外気温よりも3℃程度高い 温度を推移している。
緑化したバルコニー直下の居室(洋間A)と,
上部に瓦屋根を有する居室(洋間B)の温度変 動を図13に示す。
洋間Bは,日の出〜日没までに,3℃程度室 温が上昇してたが,洋間Aの温度上昇は1℃程 度の温度上昇を示している。夜間の室温は,
洋間Aの変動はあまりないが,洋間Bは日の出 まで室温が低下している。
7
まとめ
本研究の結果を以下に要約する。
1)
バルコニー上を緑化することによって,最 大で非緑化時よりも表面温度は20℃,実験 箱内部の温度は5℃程度低くなっている。
2)
貯水型と敷設型の緑化バルコニーの違い により,緑化バルコニー底部のFRP層にお いて温度に違いはあるが,芝生表面および 実験箱内部の温度への影響は小さい。
3)
昼間は,緑化を行うことで室温が低下し
いるが,夜間に関しては非緑化時よりも 室温が高くなっている。
4)
バルコニーを緑化することで,昼間の室 温の温度上昇は,上部に瓦屋根を有する 室よりも室温が2℃程度低くなっている。
【参考文献】
1) 梅干野晃,何江,堀口剛,王革,芝生葉
郡内の熱特性に関する実験研究 屋上芝 生植栽の熱環境調整効果 第1報,日本建 築学会計画系論文集,No.462,
pp.31-39,1994年8月
2)
垣鍔直,溝口忠,雨海清一郎,石橋龍吉,
薄層屋上緑化ユニットの熱的性能に関 する実験的研究,日本建築学会計画系論 文集,No.578,pp.79-84,2004年4月
3)一之瀬雅之,石野久弥,郡公子,永田明
寛,ヒートアイランド低減化手法として の屋上緑化の実測評価,日本建築学会計 画系論文集,
No.605,pp.47-54, 2006年7月
4)
横山仁,三坂育正,三輪隆,石渡健太郎,
佐々木啓行,青木正敏,石井健一郎,貯 水型屋上緑化システムのヒートアイラ ンド緩和効果に関する研究,東京都環境 科学研究所年報,pp12-16,2007年
5)三坂育正,石井健一郎,横山仁,山口隆
子,成田健一,軽量・薄層屋上緑化技術 のヒートアイランド緩和効果の定量評 価に関する研究,日本建築学会計画系論 文集,No.21,pp.195-198,2004年6月
15 25 35 45 55
0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00
温度【℃】
0 300 600 900 1200
日射量【W/m2 】
2008/8/6 8/7 8/8
15 25 35 45 55
0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00
温度【℃】
0 300 600 900 1200
日射量【W/m2 】
2008/8/6 8/7 8/8
図13 洋間A,洋間Bの室温変動 図12 芝生直下,ウッドデッキ裏の温度変動
日射量(右軸) 芝生直下 ウッドデッキ裏 外気温 日射量(右軸) 芝生直下 ウッドデッキ裏 外気温
日射量(右軸) 洋間A 洋間B 外気温 日射量(右軸) 洋間A 洋間B 外気温