『嵐が丘』 とゴシック
著者 片岡 洋子
雑誌名 東京家政大学研究紀要 1 人文社会科学
巻 45
ページ 29‑35
発行年 2005
出版者 東京家政大学
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009159/
『嵐が丘」とゴシック
片岡 洋子
(平成16年9月30日受理)
12Vu thering、Ueights and the Gothic
KATAoKA, Yoko
(Received on September 30,2004)
キーワード:ゴシック,城,恐怖,幽霊,反逆 Key words:gothic, castle, terror, ghost, rebellion
1.ゴシック小説と城/家
ホレス・ウォルポールが『オトラント城』(1764)の 再版に「ゴシック・ストーリー」という副題を表紙に載 せ,これがゴシック小説という言葉が英語に誕生した始 まりであった.「ゴシック」は3世紀から5世紀にかけ て古代ローマと闘い,滅ぼしたゴート族に由来し,「野 蛮な」と同義であった.18世紀になるとゴシックは中 世の美術,又は建築の用語となり,ロマネスク様式の秩 序・調和に対して無秩序,不規則を意味した.それは 18世紀的啓蒙主義や合理主義に対して,想像や感情の過 剰な横溢が求められる,という文化的価値の転倒であっ た.『オトラト城』はそれに続くゴシック小説のほとん どすべての要素があると言われている。恐怖装置として の城,僧院,地下道,重い扉,暴君,若い恋人たち,亡 霊,修道士,殺人,近親相姦,秩序侵犯と回復等である.
1)またゴシック小説の条件としては,(1)時間が過去で あること,(2)作品の舞台がイギリスから遠い土地であ ること,(3)超自然現象が次々に起こること,(4)現実 からの解放,或いは逃避の文学であること,(5)人間の 理性ではなく情念をひたすら扱うこと,が挙げられる.
2)
ゴシック小説の流行は,実質的には初めて多くの女性 作家を生み出すことになった.ウォルポール以後クレア ラ・リーヴ,アン・ラドクリフといった女性のゴシック 作家が登場し,また一般に受け入れられるようになった.
これは受け入れる読者層の中に女性の数が圧倒的に増え
教養部
たからであった.17世紀から18世紀になるとイギリス では産業が盛んにより,経済的に豊かになり,社会が安 定し,市民社会が成長してくる.特に経済的に恵まれた 都市に住む中産階級の家庭では,主婦は家事を使用人に
まかせることによって暇ができ,読書に時間を過ごすこ とができるようになる.小説が流行し始めた18世紀の イギリスにおいて,これを支えたのは暇ができた家庭の 主婦や若い女性であった.3)18世紀後半に女性のゴシッ
ク作家が登場するのは,そのような背景があったからで ある.また当時の女性は社会の中で広く活躍する機会に 恵まれることはなく,リアリズムの手法で社会を広く観 察して書く,ということは無理であった.しかしウォル ポールの『オトラント城』のように,過去の時代におけ るイギリスから離れた異国のストーリーを想像力によっ て作り上げることは,むしろ容易なことであったと思わ れる.その後ゴシック小説はロマンスを離れて,人間性 の深みへ,即ち「新しいロマンス」(=小説)へと接近し ていくことになる.
ところでゴシック小説では,恐怖の場としての「朽ち ていく城」や「地上をさ迷う家の無い主人公たち」に焦 点をおきながら,「家」も重要な要素として扱われてい る.「家庭の幸福」という概念は,18世紀末にイデオロ ギーにおいても,また事実においても,労働や金もうけ の場所から切り離された中産階級の家庭として現れた.
しかし安全と調和の場所である筈の家/家庭が危険と監 禁の場でもある,というパラドックスを含んでいること
も指摘できるであろう.ケイト・エリスは,「いかなる 空間もこのパラドックスを表わしているように思われた.
そのパラドックスは家の安全な領域を,その暗黒な対立
片岡 洋子
物,っまりゴシックの城に結びっける.18世紀のゴシッ ク小説は砦としての家を前面におきながら,同時にその 矛盾をあらわにした.」4)と述べている.エミリ・ブロ ンテの『嵐が丘』(1847)は多様な解釈が可能な小説で あるが,本稿では「城」である家とその住人を中心に,
この作品のゴシック的様相を考察してみたい.
2.『嵐が丘』におけるゴシックの装置
(1)「語り」とゴシックの家
『嵐が丘』には多くのゴシック的装置一城/家の強 奪,長子相続,監禁,暴力,流血,亡霊等一を見い出 だすことができ,この小説をゴシック小説とみなすこと は可能であろう.一方ウォルポールは『オトラント城』
の前書きに,この小説は中世イタリアの古文書の翻訳で あり、原本は1529年に出版された,と述べている.超 自然的ロマンスに現実世界の枠として,それ自体虚構で ある序文をっける工夫をしており,このような物語の枠 の創出はゴシック小説の伝統となっている5).『嵐が丘』
においても,外枠である語り手ロックウッドにストーリー を語る内枠としての家政婦ネリー・ディーンが存在し,
語りの構造が意図的に複雑にされている.
語り手の1人である青年ロックウッドがロンドンから 隠遁の地を求めて北イングランドへやって来たのは 1801年,ストーリーの発端から30年たった後のことで ある.彼は「スラッシュクロス屋敷」(以後「屋敷」と 表記する)を借り,家主であるヒースクリフに会うため
「嵐が丘」(以後「丘」と表記する)を訪れる.両家の対 比は著しい.地主アーンショウー家の住まいであった
「丘」は荒野のまん中,風の吹きっける丘の上に建ち,
家族の者たちは黒い目をし,頑強で情熱的な気性をもっ ている.一方南西4マイルの地,肥沃な,木の茂った谷 の中にリントン家の住まいである「屋敷」と猟園があり,
主人は代々治安判事を勤め,自分たちの優越性を意識し,
家族の者たちは金髪で青い目をし,活力に乏しい.この 完全な二元性を撹乱するのが,よそ者であり,中心人物 の一人であるヒースクリフである.
小説の冒頭に登場する「丘」は,堅牢なゴシックの城 を思わせる.門はロックウッドの乗った馬を入れまいと
し,狭い窓は壁の中に深く埋め込まれ,四隅は突き出た 大きな石で守られている.玄関の扉にはグロテスクな彫 刻がちりばめられ,上部には「1500年」という年号と
「ヘアトン・アーンショウ」という第一代目の名前が刻 まれてある.因みに「1500年」はイングランドにおけ る修道院解体の42年前であり,『オトラント城』の序文 に記されている原本の出版年である1529年よりも古い のだ.居間は天井の骨組み全体が剥き出しになっており,
暖炉の上には様々なひどく古びた銃と2丁のホース・ピ ストルが掛けてある.室内の陰に潜む数匹の犬は客の動 きを油断なく監視し,隙を見ては跳びかかり,室内が蜂 の巣を突いたようになる。ロックウッドがそこで会う主 な住人は,顔の色黒い,身なりや態度は紳士に思われる ヒースクリフ,粗野でぶっきらぼうな若者ヘアトン,そ して無口で冷たい,無頓着な態度のキャサリン・ヒース クリフ(以後キャサリンIIと表記する)である.室内に は荒廃した,陰気な雰意気が漂っており,客に対する住 人の態度に親しみは感じられない.その家で一泊するこ とになるロックウッドは,部屋に置かれた大きな樫の箱 寝台で眠り,夜中に夢を見る.それは幽霊の出る超自然 のものである.
(2)亡霊と箱寝台
ロックウッドが2番目に見る夢の中で,ベッドの脇の 窓の外にある縦の木が突風が吹くたびに格子窓に当たり,
うるさい音をたてるので,その音を止めようと挙で窓ガ ラスを叩き割り,腕を突き出してしっこい技を掴むと,
それは氷のように冷たい少女の手であった.その手は彼 の腕にしがみっき,部屋の中に入れて欲しいとすすり泣 きながら懇願する.その幽霊は「キャサリン・リントン」
と名のり,荒野で道に迷い,20年間宿無しだった,と 言う.窓から覗く子供の顔がぼんやり見えると,ロック
ウッドは恐怖のあまりその少女の手首を割れた窓ガラス に押し当ててごしごしこすり,夜具を血で染めてしまう.
握って離さない手をようやく振りほどき,恐怖の金切り 声をあげ,夢から覚めるのである.ロックウッドの叫び 声を聞いて駆けつけたヒースクリフの様子は実に奇妙な ものであった.彼はベッドの上に乗り,窓格子をこじ開 け,それを引っ張ると,ワッと泣き出してしまう.
Come in!come in! he sobbed.℃athy, do come. Oh do−once more!Oh!my hearVs darling, hear me this time−Catherine, at last! (3)
窓に現れた少女はロックウッドにとっては「悪鬼」,「お
てんば娘」,「取り換えっ子」と思われ,ヒースクリフの 外見上の分別にはそぐわない狂乱と悲しみの苦悶は,ロッ
クウッドにとっては奇妙で不可解なものである.
夜具を血で染めてしまうこの箱寝台は,キャサリンと ヒースクリフが幼い頃一緒に寝ていたものであり,2人 の幼年時代の融合の象徴とも言うべきものである.キャ サリンがエドガー・リントンと結婚した後「屋敷」の自 室に閉じ込もり,拒食と心身の衰弱から精神の錯乱状態 の中で憧れるのは,この箱寝台である.ネリーはその時 のキャサリンの様子を次のように伝えている.
Oh, ifIwerebutin my own bed in theold house! she went on bitterly, wriging her hands. And that wind sounding in the firs by the lattice。 Do let me feel it−it comes straight down the moor−do let me have one breath! (12)
キャサリン自身が窓を開け,凍りっくような風が部屋の 中に流れ込むと,「丘」の自分の部屋を幻視するのであ
る.
先述したロックウッドの夢に現れたキャサリンの亡霊 は,ヒースクリフとの融合の場である箱寝台へ戻って来 たと言えるであろう.それはまたヒースクリフが戻って 行く場所でもあった.最終章の終り近くで,開け放した 窓から土砂降りの雨がまっすぐ降り込んでいるのに気づ いたネリーは,ヒースクリフを捜しに行く.彼は箱寝台 の上に横たわっていた.その場面は次のように描写され ている.
Having succeeded in obtaining erltrance with another key, I ran to unclose the pan−
els, for the chamber was vacant−quickly pushing them aside, I peeped in, Mr Heathcliff was there−laid on his back. His eyes met mine so keen, and fierce, I started;
and then, he seemed to smile.
Icould not think him dead−but his face and throat were washed with rain;the bed−
clothes dripped, and he was perfectly still。
The lattice, flapping to and fro, had grazed one hand that rested on the sill − no blood
trickled from the broken skin, and when I put my fingers to it, I could doubt no more
−he was dead and stark!
Ihasped the window;Icombed his black long hair from his forehead;Itried to close his eyes − to extinguish, if possible, that frightful, life−like gaze of exultation, before any one else beheld it. They would not shut
−they seemed to sineer at my attempts, and his parted lips, and sharp, white teeth
sneered too! (34)
キャサリンの亡霊が血を流していたのは,彼女の肉体が その時まだ生きていたことを意味し,ヒースクリフが血 を流していないのは,彼の肉体が滅んだことを示してい る,と思われる.
窓が2人の分離を象徴する一方で,箱寝台は,「私は ヒースクリフよ」と叫んだキャサンとヒースクリフの霊 的・物理的融合を象徴する装置である.それはまたギマ トンの教会の仕切りの崩れた2っの部屋,墓場の中の仕 切りを取り去った2つの棺にっいても同様である.
(3)墓と棺
「丘」から姿を消し,3年後に紳士として戻って来た ヒースクリフがキャサリンに会うために「屋敷」を訪れ,
エドガーとかち会い,騒動を起こした後,キャサリンは 食事を拒否したまま3日間部屋に閉じ込もり,精神錯乱 状態に陥る.鏡に映る自分の顔を幽霊だと言い,格子窓 の傍で月の出ていない暗闇の中に「丘」の明かりを見,
自分の部屋へ戻って行くことを妄想し,うわ言のように 叫ぶ.死を予感するキャサンリンは,「丘」へ戻るには
「ギマトン・チャペルのそばを通って行かなければなら ない」と言い,子供の頃ヒースクリフトと墓場で肝試し をしたことを思い出す.彼女は,「……お墓の中に立っ て,幽霊出て来いって言ったものだわ……でもヒースク リフ,今わたしが肝試しをやろうと言ったら,あんたや る気ある?」(13章)と,この場にいないヒースクリフ に問いかける.ここには後にヒースクリフがキャサンの 墓の周辺を俳徊することが予示されている.「みんなが わたしを12フィートの深さに埋めて,わたしの上に教 会堂を建てたって,あんたが一緒になるまでわたしは眠
らないわ……絶対眠るもんですか!」(13章)と断言する
片岡 洋子
のであり,その言葉は,死後も魂の合一を追求する,と いうキャサンリンの執念の明示である.その執念の凄ま じさは,ヒースクリフの側では,墓暴きの行為によって 示される.
キャサリンの死後,幽霊となって戻って来て欲しい,
と切望するヒースクリフは,彼女が埋葬された日に彼女 の墓を掘り始める.すると誰かが墓の端のすぐ近くにか がみ込み,溜め息をするのが聞こえる.「キャシーがそ こに,おれの下ではなく,地上にいる」(29章)と感じ た彼は,墓堀りを中止する.ヒースクリフが実際に墓暴 きをするのは,キャサリンの死から18年後,っまり夫 であるエドガー・リントンが埋葬される日である.
寺男がエドガーの墓を掘っていた時,ヒースクリフは キャサリンの棺の蓋を開ける.チャペルの立っ二っの丘 の窪地は,泥炭の湿気がもたらす防腐効果により,彼は 生前のままの彼女の顔に対面することができる.キャサ リンが埋葬された日にヒースクリフが墓を実際に暴かな かったのは,風にあたることによって防腐効果が失せ,
腐敗するのを避けるために,霊となったキャサリンがた め息をっいて,墓暴きの行為を止めさせた,と解釈でき るであろう.墓を暴き寺男に棺に細工をさせる様子を,
ヒースクリフは次のように語る.
Ithought, once, I would have stayed there,
when I saw her face again−it is hers yet−he had hard word to stir me;but he said it would change, if the air blew on it, and so I struck one side of the coffin loose−and cov−
ered it up−not Linton s side, damn him!I wish he d been soldered in lead−and I bribed the sexton to pull it away, when I m laid there, and slide mine out too.1 ll have it made so, and then, by the time Linton gets to us, he 11 not know which is which!(29)
スクリフもまた自分の死が近いことを事前に知っており,
夢はその予告である.それは死後の2人の象徴的な図と 言えるであろう.この出来事の数ヵ月後に,ヒースクリ
フは亡くなるのである.
3.反逆する娘
『嵐が丘』が初期ゴシック小説の特徴を多くもってい る,と指摘するエリスは,「最終的には,イニシアティ ヴをとる娘/ヒロインによって混乱させられる父/悪漢 の連続性によって,『嵐が丘』はゴシックの恐怖装置と 共に,恣意的な権威に対する抵抗を思い出させる」6)と 述べる.また「2人の父/悪漢と2人のヒロインが連続 的に内的空間の支配を得ようとして闘かう構図において,
マシュー・G・ルイスの書いた『修道士』(1796)のよう なダブルゴシック小説としてみることができる.」7)と も述べている.小説の冒頭で,「丘」を訪れたロックウッ ドが出会う若い女性は,実質的には「幽閉」状態にある キャサリンllである.しかし小説の最後では,彼女は城
/屋敷を奪還する.その成切において,「父権的遺産相 続制度から女によってねじりとられらた城,というゴシッ クテーマ」8)を読みとることができるのである.キャサ リン及び娘のキャサリン11は,父/悪漢/権威に「反逆 する娘」として描かれていることは注目に値する.
ロックウッドが「丘」の箱寝台の棚の土に見っける蔵 書の1冊に,日誌のかたちで書き込まれた文章を読む.
それは次のように書かれている.
An awful Sunday! commenced the para−
graph beneath. I wish my father were back again. Hindley is a detestable substitute−his conduct to Heathcliff is atrocious 一 H. and I are going to rebel−we took our initiatory step this evening.(3)
(下線筆者)
寺男に与えた指示からも明らかなように,お互いに向き 合った側を外した2っの棺は,ヒースクリフの死後キャ サリンと共に朽ちて,物理的にも一つになることを暗示 している.その夜ヒースクリフは,「眠っている女のそ ばでおれの心臓も止まり,頬っぺたを彼女の頬っぺたに くっつけたまま凍りついて,最後の眠りを眠っている夢」
(29章)を見る.キャサリンがそうであったように,ピー
ここに語られるように,娘時代のキャサリンは「反逆す る娘」として現れる.
キャサリンの父親アーンショウ氏が往復120マイルを 歩いてリヴァプールから戻った時,一緒に連れ帰った汚 らしい,ぼろ着のジプシーみたいに色黒の子供がヒース クリフであった.リヴァプールからのおみやげとして兄 ヒンドリーが望んだフィドルは粉々に砕け,キャサリン
が望んだ馬用のムチは道中で失われてしまう.それがわ かった時の兄妹の反応は対照的である.兄がおいおいと 大声を張り上げて泣く一方で,キャサリンは連れて来ら れた男の子に歯をむき出したり,唾を引っかけたりして 不機嫌さをあらわにし,父親からひどく殴られ,もっと 上品にするようにと喩される.弦楽器であるフィドルは,
音楽というむしろ女性の領域,女性の文化に関連し,家 の内側に属するものであるのに対し,ムチは支配,家の 外側に関連するのであり,作者がここで男女の役割を逆 転させているのは興味深い,それは兄と妹の男女を逆に
した怒りの表現においてもみることができる.
父親はヒースクリフを不思議な程気に入り,いたずら と気紛れがひどいキャサリンよりも遙かに可愛がる.9)
息子のヒンドリーは「決してものにはならない駄目な奴」
とみなされるのである.
母親が亡くなると,ヒンドリーは父親をむしろ圧制者 と見,またヒースクリフを親の愛情と自分の特権を強奪 した者,とみなすようになり,強い敵意を抱くようになっ ていく.ヒースクリフは自分が主人の心を掴んでいるこ とを完全に承知していて,何か言いさえすれば家中が自 分の希望に服従せざるをえないのだ,と気付いていく.
例えばアーンショウ氏が2頭の子馬を買い,2人の若者 に1頭ずつ与えるさいに,ヒースクリフは立派な方を取 り,その後間もなくその馬の脚がかたわになると,ヒン ドリーの馬と交換するよう要求し,2人がもみあった末 に,ヒンドリーの馬を自分のものにする.その様子を家 政婦のネリーは次のように語っている.
Iwas surprised to witness how coolly the child gathered himself up, and went on with his intention, exchanging saddles and all;
and then stting down on a bundle of hay to overcome the qualm which the violent blow occasioned, before he entered the house.(4)
突然一家の中に割り込み,家族関係を混乱させ,また年 少の頃から財産獲得に執念を見せるヒースクリフの姿が ここに浮き彫りにされているのである.
ヒースクリフとは増々仲良くなる一方で,いたずらの 過ぎるキャサリンは,「元気いっぱいで,舌は滑らかに 動き,手のっけられない,人をいらいらさせる,ひょろっ とした娘一しかし教区中で一番美しい眼,一番優しい
ほほ笑み,一番軽やかな足取りをしていた.」(5章)と 表現されている.父親は,子供たちに対してはいっも厳
しく,真面目であり,それが娘の反抗心を募らせてもい たのだろう.キャサリンの反抗,傲慢とも言える不遜な 態度は,次のように語られる.
His peevish reproofs wakened in her a naughty delight to provoke him;she was never so happy as when we were all scolding her at once, and she defying us with her bold, saucy Iook, and her ready words;turn−
ing Joseph s religious curses into ridicule,
baiting me, and doing just what her father hated most, showing how her pretended inso−
lence, which he thought real, had more power over Heathcliff than his kindness:how the boy would do her bidding in anything,
and、ゐ130nly when it suited his own inclina−
tion.(5)
エリスは,「初期のゴシック・ヒロインのように,キャ サリンは家父長的支配に反逆する.彼女は男性の権力に は屈しないゴシック伝統の真の継承者のように,彼女の 優越性を主張する.」10)と述べている.夢の中で,天国 から天使につき落され,そこが「嵐が丘」の荒野だとわ かってうれし泣きをしたキャサリンに「反逆するイヴ」
のイメージを読みとることは可能であろう.11)
キャサリンの父への反逆は,娘であるキャサリンllに も継承されている.13才の時,「屋敷」の猟園の外に出 てはいけない,という父親の戒めを破り,ペニストン・
クラッグズの岩山へ「旅」をする.それは他方,従兄弟 であるヘアトンとの出会いをもたらすものでもあった.
キャサリンHは若くして,リントン・ヒースクリフとの 強いられた結婚,「丘」/城における幽閉,父親の死,夫 の死,「屋敷」/城の喪失という,温室育ちの彼女にとっ ては地獄の苦しみとも言える体験をする.これは,自己 の分身にも等しいヒースクリフではなく,「落ちぶれな いために」エドガーと結婚した後に,キャサリンが体験 する苦悶と精神錯乱に匹敵するのではないだろうか.キャ サリンllはヘアトンに仲間意識を抱き,自己中心性を棄 てるようになる.彼に「読み方」という教育の贈り物を し,ヒースクリフの意志に逆らって,「丘」の庭の模様
片岡 洋子
変えを2人で協力して行う.それはヒースクリフの怒り をかうが,キャサリン1【は彼による財産収奪を堂々と告 発する.2人の対話は次のように語られる.
And why have yoll pulled them up? said the master。 Catherine wisely put in her tongune.
We wanted to plant some flowers there,°
she cried. I°m the only person to blame, for Iwished him to do it.
And who the devil gave you leave to touch astick about the place? demanded her fa−
ther−in−1aw, much surprised. And who or−
dered you to obey her? he added, turning to Hareton.
The latter was speechless; his cousin replied−
You shouldn t grudge a few yards of earth, for me to ornament, when you have taken all my land!
Your land, insolent slut?You never had a ny! said Heathcliff.
And my money, she continued, returning his angry glare, and meantime, biting a piece of crust, the remnant of her breakfast.
Silence! he exclaimed. Get done, and beg one!
And Hareton s land, and his money, pur−
sued the reckless thing. Hareton and I are friends now;and I shall tell him all about you! (33)
アーンショウ氏亡き後,ヒースクリフを使用人に艇め,
虐待したヒンドリーをヒースクリフは後に博打に誘い,
借金を作らせ,その抵当に「丘」を強奪した.またキャ サリンの死後,虚弱な自分の息子をキャサリンllと結婚 させ,息子が亡くなると長子相続権を悪用し,「屋敷」
を自分の所有にしてしまうのである.復讐の鬼,忘恩の 徒と化したヒースクリフの悪行に対して,キャサリンll はその不正を糾弾したのである.
キャサリンIIとヘアトンの眼や顔立ちにキャサリンの 面影を見,遂にはキャサリンの幻を周囲に見るようにな
るヒースクリフは,合一を目指してキャサリンの住む霊
界へ旅立って行く.「丘」/城はアーンショウ家の正統な 後継者であるヘアトンに戻り,また「屋敷」はやはりそ の正当な継承者であるキャサリンllに奪還され,2人の 結婚が間近であることが予告される.ゴシック小説の結 末がそうであるように,『嵐が丘』の世界においても秩 序が回復し,調和がもたらされたのである.
テクスト Emily BrontE, Wuthering Heights(1847,
Penguin Classics,2003)
尚,作品からの引用は章のみ引用文の後に示 した.文中の日本語訳は,みすず書房,ブロ ンテ全集7(1996),中岡他訳を参照した.
注
1)杉山洋子他著,『古典ゴシック小説を読む一ウォル ポールからホッグまで』(英宝社,1999年)pp.8−9.
2)小池 滋著,『ゴシック小説を読む』(岩波書店,
1999年)pp.82−85.
3)小池,pp.67−68.
4)Kate Ferguson Ellis, The Con tes ted Castle − Gothic Novels and the Subversion of Domestic Ideology (Urbana & Chicago:University of Illinois Press,1989)PP.x−xi.
5)小池,p.39.
6)Ellis, p.208.
7), 8)Ellis, p.209.
9)ヒースクリフは父親が他の女に産ませた子供である という説を,『嵐が丘』をゴシック小説とする理由 の1つにあげる見方もある.小池,p.185.
10)Ellis, p.212
11)『嵐が丘』のフェミニズム批評による解釈について は,Sandra M.Gilbert&Susan Gubar, The Mad確oηθn 加 the Attic (New Haven & London:Yale University Press。1979),の8.
Looking Oppositely:Emily Bronte s Bible of Hellに詳しい.
Summary
Placing Muthering He ghts in the tradition of the l8th−cen町 gothic novels, this essay at−
tempts to study the relationship between Muthering Heights and the gothic novels, and analyze the gothic terrible devices and characters, especially heroines as the rebellious daughters.