いたち川の付着藻類
著者 安田 郁子
雑誌名 富山市科学文化センター研究報告
号 10
ページ 13‑20
発行年 1987‑03‑20
URL http://repo.tsm.toyama.toyama.jp/?action=repos
itory̲uri&item̲id=534
富山市科学文化センター研究報告第10号 pp,13‑20(1987》
いたち川の付着藻類*
安 田 郁 子
富山県立技術短期大学衛生工学科*¥
AttachedAlgaeintheStreamltachigaw重
IkukoYAsuDA
'IbyamaPrefecturalCollegeof企chnology
ThefloraofattachedalgaeintheStreamltachigawawaslnvestlgatedonMav 29,AugustlandOctoberl7inl986,Thespeciesfoundwereasfollows:jVりsj
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は じ め に
いたち川の付着藻類については,これまで 報告はほとんどみられず,安田(1974,1982)
の報文中に一部含まれているのみである。し かも,中流部の数地点の付着藻類だけである。
今回,川の上流から下流まで,5月,8月,
lo月と季節の異なる時期に採集を行い,付着 藻類の大体の様相を明らかにすることが出来 たと思われる。
方 法
川の中央付近の石レキ(こぶし大〜スイカ 大位)を3個程度選び,その表面に付着して いる藻類を真ちゅうブラシでこすり取った。
ただし,上流のStlでは流速が大きすぎるた め,川岸のコンクリート壁(水中の)に付着
している藻類を採集した。ほかに,川の中に 入れないSt,7とSt、M(松川)においても同 様に,川の中のコンクリート壁あるいは石壁 付着の藻類を採集した。また,10月のSt、6で は,底に石が全く見つけられなかったため,水 草の付着物を採集した。採集した藻類をホル マリン固定して持ち帰り,種の同定を行なっ た。このうち,珪藻の同定に際しては,次の ような前処理を行なった。サンプルの一部を 過マンガン酸カリと濃硫酸とで処理し,遠心 分離(3000〜4000rpm,10分間)を3〜4回行 ない,硫酸を除く。その後,沈殿物をカバー グラスにのせ,遠火で約2時間乾燥させる。こ れをマウントメディアで封入して永久プレノゼ ラートを作成し,珪藻の同定を行なった。
なお,本調査は付着藻類を明らかにするの
*富山市科学文化センター研究業績第59号**富山県射水郡小杉町黒河
安 田 郁 子
が目的ではあるが,付着生物膜の中には細菌 類 も 共 存 し て お り , そ の う ち 糸 状 細 菌 の 勤勉g 〃"s〃α "sは同定が容易で汚水細 菌として水質汚濁に重要な意義をもつ細菌で あるため,このS,〃α敗れsも調査対象に含め た。
結 果 と 考 察 1.主な出現種
藍藻類(Cyanophyceae)
jVbsi0c〃e"湖 s況加:5月,8月にSt. で みられた。いわゆるアシツキである。この種 は常に水生で,渓流中の岩盤やダムの壁面上 等に生じる(広瀬ほか,1977)といわれてい
る。
Ly"g6yaル"e "g〃:8月のSt、3,5,6,9お よび10月のSt,5でみられた。この種の生態的 特徴はよくわかっていないが,著者の経験で はやや汚染された所に出現するようである。
紅藻類(Rhodophyceae)
A 0"加g"tzc〃αIy6 :8月のSt、9,10月の St5にみられた。この種は,水中の有機物や 栄 養 塩 に 対 し て 広 範 囲 に 出 現 す る 広 分 布 種 で ある(安田,1982)。
黄緑色藻類(Xanthophyceae)
I/tz〃c"gγmsp.:10月のSt、4,5月のSt.M (松川)にみられた。この属は有機物濃度の高 い所にはみられないが,NO3−Nに対しては広 分布である(安田,l975a)。
珪藻類(Bacillariophyceae)
〃"Osjm〃αγzα"s:5月のSt、6,7,8,8月の St.M,10月のSt,7,8,Mにみられた。有機物 濃 度 に 対 し て は 広 分 布 種 で あ る が , 栄 養 塩 類 の 比 較 的 多 い 所 に 出 現 し や す い 種 類 で あ る
(安田,1982)。
F7てzg"γねりα"chg"tzE:5月のSt,5,6,8,9 にみられた。いずれも石面付着である。栄養 塩の多い所の出現種(安田,1975b)とされて いるが,有機物濃度に対しては広分布種と考
えられる。
Sy" 〃/"α:5月のSt5,6,7,8,9,M と,8月のSt7,10月のSt、7,8,Mにみられ る。いたち川の代表的藻類の一種である。有 機物,栄養塩の両者に対して広分布種である
(安田,1982)。
副ノ" 、〃/"αvar・池畑 i:5月のSt,3,4 6,8,9,Mと8月のSt,7でみられた。前種と 同様,有機物,栄養塩に対して広分布種であ
る(安田,1982)。
AC〃"α"娩鉛陀加jSね"α:5月のSt,6,8月 のSt、8にみられる。有機物に対しては広分 布,栄養塩に対しては高濃度地点出現種であ
る(安田,1982)。
CO 0"efsPe伽c"んs:10月のSt,2,4にみ られた。この種は"epiphytic"な性質を持って おり,他の水生植物に付着しやすい。大量に みられることの希れな種類であるが,いたち 川では,本調査以外でも,中流域でしばしば みられたことがある。今回,10月のSt、2では.
緑藻のc〃ぱ 伽γzzg/O加e、 に付着してい た。有機汚濁に対して耐性があると考えられ ている(Patrick&Reimer,1966)。
Ntz"ic"呪z畑""cα:10月のSt、8でみられた。
淡水〜汽水域の出現種(Patrick&Reimer,
1966)で,有機物濃度の比較的高い所にみら れる(安田,1975b)。
jVtz抑c"〃9超g"γ":5月のSt、5でみられ た。有機物,栄養塩の両者に対して広分布種 である(安田,1975b)。
Ⅳ" c"呪z噸或Osavar.膨れg/〃:10月のSt.§
でみられた。有機物,栄養塩の両者に対して 広分布種である(安田,1982)。
の瓶be"tz〃どれ加 sα:5月のSt,2,3,4,5ミ 6,7,8,9,Mでみられた。Sy" 液〃/ と同 様,いたち川の代表的な種類の一つと考えら れる。有機物,栄養塩の両者に対する広分布 種である(安田,1982)。
Go"ゆ加郷e α9" ?ゆ""c 加加var.〃
い た ち 川 の 付 着 藻 類
表 いたちノ││の付着藻類I
May、29,1986.
+:非常に少ない,++:少ない,+++:普通,++十十:多い,++++十:非常に多い
‐ − − − − − − s L N s p . ‐ − − − − − − − −
(Shizomycetes)
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(CyanoDhvceae)
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安 田 郁 子
表 2 い た ち 川 の 付 着 藻 類 Z
Aug、1,1986
松川との合流後地点。+:非常に少ない,++:少ない,十十十:普通,+十十十:多い,+++++:非常に多し
玉 − − 聖 聖
(Shizomvcetes)
即勉ze "/z心 なれs (Cyanophyceae)
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(Rhodophyceae)
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A"eノosj 〃α河 2s ornycetes
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(Rhodophyceae)
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十い た ち 川 の 付 着 藻 類
表 3 い た ち 川 の 付 着 藻 類 Ⅲ
0ct、17.1986
+:非常に少ない,++:少ない,+++:普通,++++;多い,+++++:非常に多い
(Shizomycetes)
助ノzae /"zfs α 邦s (Cyanophyceae)
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LJ"zgめ極々"ezz加g〃
L、spp (Rhodophvceae)
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1/fz〃cノzねs、.
(BaciⅡariophyceae)
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安 田 郁 子
、、:5月のSt,3,5でみられた。有機物,栄 養塩の両者に対して広分布種である(安田,
1982)。
jV"zSC〃α〃jSsゆα/α:5月のSt、7でみられ た。有機物,栄養塩の両者に対して広分布種 である(安田,1982)。
jWizsc〃αPα/ :8月のSt、8,M,10月の St,8でみられた。有機物に対しては広分布.
栄 養 塩 に 対 し て は 高 濃 度 地 点 出 現 種 で あ る (安田,1982)。
緑藻類(Chlorophyceae)
U/ hγなzo" α:5月のSt,3,4,5,9と8 月のSt.lにみられた。この種には,清水域に 出る型と汚水域に出る型とが存在する(Fjer dingstad,1950)といわれている。St、9に出現
したものは汚水性の型と考えられる。
〃jcγOsPompacノ"虚γ畑α:5月のSt. で多 くみられた。細胞膜の構造が特異的な種類で ある。生態的な特徴はまだよくわかっていな いようであるが,河川ではあまり頻繁に出る 種類ではない。
S姥 C/0"" 伽/"6γj 加:5月,10月のSt 5,8月のSt、3にみられた。有機物,栄養塩両 者に対する広分布種である(安田,1982)。
α 〃Omgjo加eうてz、:5月のSt2,8月 のSt,2,7,10月のSt,2,7でみられた。10月の St、2では,本藻全体に珪藻のCO 0"gzs p iα""sがとりついており,枯れる寸前の状 態であった。いたち川では,St2における特 徴 的 種 類 で は な い か と 思 わ れ る 。 こ の 種 は 比 較的水温が低く,硝酸塩,リン酸塩の多い所 によく増殖する(Hynes,1970)といわれてい るが,安田(1982)によれば,BODl〜2mg/
1,N03‑N0.3mg/1以下,PO4−P().03mg/1以 下の範囲でよく出現しているので,汚水性の 種類ではないと考えられる。パーマー(1972》
も下水汚染には関係がないと述べている。
C〃 加加0ゆ 0ルα加z" :8月のSt,7(コ ン ク リ ー ト 壁 ) に 付 着 し て い た 。 河 川 で は ま
れな種類である。排水溝や井戸の内壁などに 着生して出現する(広瀬ほか,1977)といわ れる。
O 090"""〃sp.:8月のSt,1,10月のSt.
に多く,10月のSt、7でもみられた。o ogo
"加属は種類が非常に多く,しかも種の同 定 の 困 難 な 層 で あ る た め , 生 態 的 な 特 徴 は 明 確でない。この属は,清水域にも汚水域にも
出現する。
助"OgWnsp.:8月のSt,8,10月のSt、4,9 でみられた。この属も0忽Qgo ""'属と同 様,種の同定が困難で,種類数が多い。
細菌類(Shizomycetes)
助〃 γ0"ノ"s〃α如泥s:汚水細菌の一種であ る(津田,1964)。有機汚濁の指標種として優 れている。いたち川では,5月のSt,5,7,8,9 M,8月のSt、7,M,10月のSt、5,7,8,Mに みられた。
2.付着藻類および細菌からみたいたちjl;
の 水 質 汚 濁
1で述べたような種類が,いたち川の主な 藻類であるが,これらのうち,Stlにのみ出 現する種類を除くと,大部分のものは,有機 物,栄養塩類に対して広分布の種類,あるい は栄養塩高濃度域に出る種類である。藻類は 水質汚濁(有機性の)に対しては,底生動物 ほど敏感ではなく,極端に清い水域か,極端 に汚染された水域の場合にのみ指標性がみら れる程度である(安田,1982)。
今回の結果からみると,Stlだけが明らか に清水域といえる。また,助〃 7℃"/"s α雌"s の分布からみて,St、5以下の下流において は,有機汚濁の進んでいることが推測される。
St、2〜4は,清水域ではないが,有機汚濁を特 徴づける種類も少ない。ただし,St,3,4では.
助h γ0"伽s7?α〃"sが少し出現しているの で有機汚濁がやや存在するものと考えられ る。
い た ち 川 の 付 着 藻 類
お わ り に
石面付着の生物膜は細菌,原生動物,藻類 などから形成され,とくに増水の影響がなく とも,増殖とはく離を年に数回以上くり返し ている。生物膜発達のある時期に,はく離現 象が生じることは,相崎(1980)等によって も実証されている。そして,生物膜の形成時 期により,藻類の種類組成が変わることも,渡 辺・山本(1982)により指摘されている。そ のような生物膜の形成過程を考慮して採集を 行なうことは不可能であるため,採集時の藻 類がどのような生物膜形成時期のものである かは不明である。したがって,本調査で出現 しなかった藻類でも,今後,見つけられる可 能性はある。
また,本調査で,5月に付着藻類の多かっ た地点でも10月には付着藻類がほとんどみら れないという場合があった。これは,採集時 における生物膜の形成時期の相違によるもの と考えられる。さらに,5月に珪藻が多く,8 月に藍藻が多いという現象もみられたが,こ れも単に,水温や光の強さといった季節的要 因以外に生物膜形成過程における種の遷移と いう要因も加わっていることを,考慮しなけ ればならないと考える。
引 用 文 献
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17〜21.
図|いたち川の主な付藩藻類(細菌の一部を含む;
1,Nイノsルノ(、〃〃γ" s"ノ〃
2"/(ソ'(ノM("抑(ノ("塵"ノ"
3,〔ノ/(ノ/〃吹罫 "/〃
4 、節!" "ノ〃/"〃
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