−ハワイ島コナ地区のコーヒー産業を事例として−
Current Status and Prospects of Island Activation by Brand of Specialty Products
− A Case Study of the Coffee Industry of Kona District, Hawaii Island −
宮 森 正 樹 Masaki MIYAMORI 1.はじめに
(1)問題の設定
沖縄県は製造業の基盤が脆弱であり、一次産業である農業もサトウキビやパイナップル などは関税に守られている中でどうにかやっているというのが現状である。沖縄で元気な 産業といえば、4,000億円弱稼ぐ観光産業と観光に迫っている IT 産業だといえる。しかし、
県内の地域レベルで見ればまだまだ経済的には苦しい状況が続いている。そのような中で 島嶼としての製造業や農業の弱さを克服するために島おこしを通してわがまちを活性化し ようという動きは継続している。
本研究では、沖縄県の地域活性化を農業と製造業で達成するために海外の成功事例を調 査し、それが沖縄の活性化に寄与できないかを模索するものである。地域が活性化するた めにはそこにある潜在資源を発掘して育て上げいくことが重要である。その為に、沖縄県 や外郭団体の沖縄県物産振興公社、産業振興公社、各地域の商工会議所や商工会などが地 域の経済が成長するための方策を提案・提供し続けているのである。それは農業であり、
漁業であり、製造業などである。地域の地場産業は、大手と異なり規模の経済性が発揮で きない。その為にコモディティ化した低価格競争においては生き残れない。なんらかのそ の地域特有の付加価値を付けなければならないのである。その付加価値を探り、実際に商 品化していくことが今望まれている。
(2)問題の背景
本研究では、沖縄において付加価値をつけることが可能であり、沖縄だけが提供しうる 商品特性を持つものを模索した結果、亜熱帯という気候特性から日本で唯一沖縄にて収穫 することができるコーヒーに着目した1)。そして米国で唯一コーヒーを生産できるハワイ 州にそのヒントがあることが分かった。ハワイ州ハワイ島のコナ地区のコーヒーは代表的 ブランドとして世界中で愛されており、高品質の高級ブランドとしてのイメージを持って いる。しかし、コナコーヒーは200年弱という長い歴史の中で、ハワイ島コナ地区のなだ らかな斜面ではぐくまれてきた希少ブランドであり、簡単にその軌跡を追って産業化する
のは困難である。
(3)先行研究の状況
沖縄県におけるコーヒー研究はほぼ行われていない。また、栽培もいくつかの小規模業 者が自店舗であるカフェ等で提供している程度である。宜野座村において大々的に栽培を 開始した生産者もあるが、まだその成功の行方ははっきりしない。沖縄産というコーヒー もかなり販売されているが、純粋な沖縄産コーヒーは少なく、輸入したものを沖縄コー ヒーとして販売しているものもあると聞く。日本で唯一コーヒーの栽培が可能な沖縄にお いて国産コーヒーを栽培、製造することができれば地域活性化の大きな武器になるのでは ないかと考える。
平成25年1月には、沖縄県内でコーヒー生産者を集めて生産者組合が発足した。また、
平成24年7月には、日本財団から助成を受けて「国産コーヒーを沖縄の農業ブランドに」
をテーマにシンポジュームが開催された。それ以外にも単発でコーヒー園見学会なども実 施されている。このように沖縄においてもコーヒー産業が注目され始めているが、産業化 としての道のりはまだ遠い。沖縄発のコーヒー産業は、製品ライフサイクル上まだ導入期 であり、今後どのように展開していくかは、未知である。今後、生産を活発化させていか に成長期に持って行くかが大きな課題だと言える。
沖縄が当面の顧客ターゲットとして挙げるのは、国内市場であり、唯一日本国内で生産 できる国産コーヒーとして差別化を図って供給していける市場を開拓する。ここでは日本 のコーヒー消費量と生豆輸入の時系列的推移を確認する。
25000 20000 15000 10000 5000
0
米国 ブラジル ドイツ 日本 イタリア フランス 図1 2010年国別コーヒー消費量(1, 000袋)
出所:インターナショナル・コーヒー・アソシエーション(ICO)統計2012年版
日本は世界の中で、4番目のコーヒー消費国となる。国内での栽培が少ない状況で、ほ とんどが輸入となっている。コーヒーに対してこれだけの需要がある国内市場に、安心・
安全・高品質の国産コーヒーを提供できれば沖縄のコーヒー生産業界は大きな産業として 育つ可能性がある。
日本におけるコーヒー生豆の輸入量は年々増加の一途をたどっている。1960年の生豆 の輸入自由化とその後の高度成長の影響で長い間急成長続けていた。2006年をピークに 漸減傾向となっている。2008年には対前年比が減となったが、これは国際コーヒー価格 上昇の影響を受けたものである。
これだけのコーヒーが輸入されている中で、沖縄で栽培した国産コーヒーが市場を広げ るのは可能だと思われる。
(4)問題へのアプローチの方法
これまでの沖縄におけるコーヒー研究が少ないため、コーヒーによる地域活性化の研究 は、主にフィールドワークとインタビューそして県の農業統計等を主として行いたい。本 研究ではハワイ州のコナコーヒー栽培農家などにインタビューを試みた。そして最終的に は宜野座村でのコーヒー栽培農家、名護市周辺の自家栽培を用いたカフェなどのインタ ビューや県内市場の規模、コーヒー栽培の可能性なども明らかにしていきたい。また、ブ ランドという観点から、ハワイのコナコーヒーがいかにして全世界の0. 5% しか栽培してい ないブランドを世界的人気ブランドに育て上げたかを探っていく。
その為に、本研究では、最初にハワイ島のコーヒー産業の現状と歴史を詳しくみていく。
1955年1960年1965年1970年1975年1980年1985年1990年1995年2000年2005年2010年2011年 450000
400000 350000 300000 250000 200000 150000 100000 50000 0
図2 日本のコーヒー生豆輸入量の推移(トン)
出所:財務省通関統計2012年
そしてコナコーヒーというブランドの展開を明確にし、ここまで伸びてきた状況を支えた マーケティング戦略を明確にする。最後にコナコーヒーの成功から沖縄のコーヒー産業の 発展に役立つヒントを得ることができればと考える。
2.ハワイ島のコーヒー産業の歴史と現状
(1)コナコーヒーの概要
ハワイに観光で行くと、お土産品店やスーパーマーケットで、コナコーヒーを販売して いる。しかし値段は高い。それでも多くの観光客、特に日本人が多く買っていくのである。
そのコナコーヒーは、4つの大きなハワイ諸島の中の一つであるハワイ島にて栽培されて いる。ハワイでは、ハワイ島以外にもオアフ島、カウアイ島、マウイ島などでコーヒーを 作っている。そして、ハワイ産コーヒーは、アメリカの産業ベースで生産される唯一の コーヒーである。その内、ハワイ島で栽培されているコナコーヒーはアラビカ品種ティピ カ亜種に分類される豆である。世界の多くの国でコーヒー豆が栽培されているが、コナ産 コーヒーは全生産量のわずか1%以下でしかない。
コナコーヒーの原産地は、ハワイ島のマウナロア山とフアラライ山(海抜300〜800m)
の西側斜面、32, 000あまりのコナ地区の作地である。この地域は、「コーヒーベルト」
と呼ばれている。この辺りの土地は豊穣で水はけが良く、コーヒーの木に必要な栄養条件 が全てそろっている。熱帯特有の日光と適度の雨、日中の暖かな風、夜の涼しい風があり、
また強すぎる直射日光は雲が遮り、激しい風は周囲の森が防いでくれるなど自然がこのコ ナコーヒー栽培に理想的な条件を作り上げている。このためコナの気候だけがコーヒーの 育成に非常に適していたため、やがて、この地域の経済的な基幹産業として発展していっ た。
この地域的特性は偶然にコーヒー栽培と出会い花開いたものであるが、それと比較する と沖縄のコーヒー栽培環境は非常に難しい課題を抱えている。特に沖縄の場合は台風が来 るため、コーヒーの木を保護する費用がかかり、日光が強いため直射した場合に生育に影 響がでる。栽培地域は(北部の山岳地帯がいいのか、西斜面がいいのか等・・)、まだ沖縄 県内でも模索中であり、どの地域・島が最適かは今後の調査及び栽培成果を確認する必要 がある。
コーヒー豆は普通、機械で収穫されるが、コナコーヒーの場合は栽培から収穫まで手作 業で行われる。機械で収穫すると木に実ったコーヒー豆の全部を取ってしまうため、まだ 熱していない実まで混ざってしまうが、コナコーヒーの農場では赤く熟した豆だけを手で 摘むので、完熟コーヒーの、最高の品質となるのである。
コナコーヒーの生産地はコナ地区に限られ、しかも有機農法による手作業で栽培される ので生産量は世界のコーヒー生産高の1 % 未満。ハワイ以外でコナコーヒー100% の製品
を手に入れることが難しいのはそのためである。 コナコーヒーの品質とラベルの規定は 世界で一番厳しいと言われており、アメリカの他州や他国には規定すら存在しないに等し い中で、ブランドとしての品質とイメージの保持のために自ら規制して販売しているので ある。
沖縄においてもコーヒーブランドの位置づけは、コモディティ化した低価格の手軽な コーヒーではなく、高品質・高イメージの高級コーヒーとして位置づけるべきである。そ の為にはコナコーヒーのように、有機農法で手作業のピッキングという方向性を持つべき であるが、課題は世界でも有数な高賃金という壁がある。人海戦術でおこなわれる沖縄 コーヒーのコスト削減、あるいは高コストでもそれをカバーしてあまりある高級化という 課題をいかに解決するかも模索される。
(2)コーヒーの精選とハワイ州農務局による証明書 コナコーヒーが高品質の理由
収穫された熟れたコーヒーの実は、果肉除去機に掛けられる。果肉を取り除いたらタン クで長時間保存し、表面に残っている粘着質を水洗いする。その後、乾燥をさせるのであ る。乾燥したコーヒーの実は「パーチメント」と呼ばれる。10日前後かけて乾燥させた パーチメントは脱穀され、緑色の実の「グリーンコーヒー」ができあがる。このグリーン コーヒーを比重、 サイズ、密度別に選別して、不良品を取り除いた後で等級ごとに45 入 りの袋に詰めていく。
コナコーヒーを精選していく過程にコナコーヒーが高品質である秘密がある。大規模農 場では、コーヒーの実を木から収穫するときに、効率を優先して機械を使う。その場合に は熟しているものや未成熟なものもすべてピッキングされてしまうので、品質にムラが出 る。コナコーヒーの場合は、中小規模生産者が多いこともあり、人間の手を使ってピッキ ングされるのである。その為、人間の判断で熟したチェリーだけをピッキングでき、コー ヒーが同質の成熟した生豆だけとなり高品質になるのである。
ハワイ州農務省の品質証明
コナコーヒーと呼ばれるためには、ハワイ州農務省の品質証明が必要となる。まず品質 で等級分けされた生豆は、今度はハワイ州農務局で厳しく品質チェックされる。そして、
品質検査官が格付けされた通りの等級かどうかを調べ、合格したコーヒー豆に対して「品 質証明書」が発行される。具体的には、精選工場が袋詰めを終了した時点で農務局に連絡 し、係官が工場を訪れ独自にサンプルを取って検査をし、規格をパスしたコーヒーに対し て証明書を発行するという手順になる。
次にコーヒー豆を詰めた麻袋に、生産農園・等級・コード番号などが記していく。品質 証明書と同じコード番号入りマークがラベルとして付けることにより、輸出した後もラベ
ルと品質証明書を照合し、生産履歴をさかのぼることができるようにするのである。
この袋詰が終わった時点で、2種類の証明書が発行される。それは、コナで収穫された ことを証明する「原産地証明」と、コナコーヒーの品質規格を満たしたとする「 品質証 明」である。インタビューによると「原産地証明」だけとって自分たちで好きな等級を付 けて販売する業者もいるとのことで、低級品を焙煎してコナコーヒーとして販売している 業者がこれまで築き上げたコナコーヒーの高品質イメージに悪い影響を与えたりすること もあるらしい。
(3)ハワイ島のコーヒー栽培の歴史 コナコーヒーの歴史的推移
ハワイにコーヒーがもたらされて今年(2012年)で187年となる。持ち込まれたコー ヒーの種類、質の高さ、土壌や気候の適性さなどが重なり、ハワイ島コナのコーヒーは島 嶼州ハワイの世界的特産品として育ってきた。しかしその間にも質の悪いコーヒーやコナ コーヒーミックス率の低いコーヒーなどの販売もされて、コナ地区は多くの苦労を強いら れてきた。
1998年にハワイ州である議案が可決され、ハワイ島コナはコナコーヒーの産地として 指定された。そしてコナ産以外のコーヒーにコナのラベルを付けることは違法になったの である。これによってコナコーヒーのブランドとしての位置づけが安定的なものとなって きた。コナコーヒーの農園では、作地面積は2000年には3, 000エーカーほどに増大し た。 100%コナコーヒーへの高評価と、消費者への直接販売という販売方法がコーヒー市 場で受けいれられ、高級コーヒーとして、コナコーヒーの需要の拡大が続いてきた。
ハワイ最初のコーヒー栽培
前述した通り、ハワイに初めてコーヒーがもたらされたのは、1825年だと言われている。
ハワイ王国カメハメハ2世ら一行がロンドンを訪れた時、 初めてコーヒーという飲み物 を体験したのだが、そのロンドンでカメハメハ2世と女王は 麻疹で亡くなった。その遺体 を載せて英国の軍艦でハワイに向けて帰途に就く途中、ブラジル・リオデジャネイロに立 ち寄ってコーヒーの木を手に入れ、それをハワイに持ち帰った。その木はエチオピア原産 のアラビカ種だったと言われている。最初はオアフ島で栽培されたが、コーヒーを成功さ せることはできなかった。
それから3年後にキリスト教の牧師が、コーヒーの挿し木をハワイ島のコナに持ち帰り、
観賞用として庭に植えたのである。この時点でコーヒー栽培ブームが起きたが、それは飲 料のためのコーヒーではなく観賞用としてであった。
③ハワイ日系移民が果たしたコナコーヒーへの貢献
コーヒーがハワイにきて15年後には、コナの温暖な気候と最適な環境のおかげで、コー ヒー栽培は繁栄し、その香りは、特に貿易や捕鯨をする船員たちの間で飲まれるようにな る。しかし、その後、労働者不足、干ばつ、害虫の蔓延、サトウキビ栽培の勃興、捕鯨産 業の崩壊によってコーヒーを飲んでいた捕鯨船船員の減少などが続けて起こり、ハワイの コーヒー産業は瀕死の状態を迎えた。
これを救ったのが、1866年米国本土からハワイに新聞記者として訪れていた作家マー ク・トウェインだと言われている。コナの地で出会ったこのコナコーヒーを絶賛し、「コナ からケアラケクア湾までの道のりで、有名なコナコーヒーに出会った。この香り高いコー ヒーは他のどのコーヒーにも勝るすばらしい逸品」と記事にしたのである。
この時期、ハワイとアメリカ政府間で米国・ハワイ間で関税に関する条約が締結され、
ハワイは砂糖を無関税でアメリカに輸出できることとなった。その結果、さとうきび産業 は飛躍的に増大、コーヒー豆からさとうきび栽培に変える農家がさらに増加して、生産が 減少したコナコーヒーのほとんどがハワイ内で消費され、ハワイ外に輸出されることはほ とんど無かった。これを救ったのが日系移民達のコーヒー産業への参入である。ドイツ移 民でコーヒー農場主のブルナー氏がコーヒー市場の悪化に困り、その対策として、コー ヒー農場を小作人に貸し出すという仕組みを考え出した。それを利用して多くの日系一世 がコーヒー栽培に関わるようになり、5から15エーカーの農地を家族で経営しはじめた のであった。
1910年頃にはコナコーヒー農家の8割は日系人の個人農家であった。大農場経営から 家族経営農家への移行期であり、この時期の質の高いコーヒーへの改良には、当時の日系 移民が多大な貢献を果たした。
沖縄では、昔サトウキビ農家の多い学区では、サトウキビ収穫時期になると学校を休む 生徒、あるいは休みにする学校が多かった。同じように1932年には、コナの公立学校が コーヒーの収穫期である8月から11月にコーヒーの収穫の手伝いのため臨時休校とした。
コナにおけるコーヒーはこれほど主要な産業だったのである。
州外への移出とブランド化
1950年代後半には、パシフィック・コーヒーとサンセット・コーポレーティブという協 同組合が設立された。そして1950年末までキャプテンクック・コーヒー・カンパニーと アメリカン・ファクターズという2つの会社が実質的にコナコーヒー市場を統括していた。
しかし、1979年にはダグラス・ボング氏が、それまで協同組合により独占状態だったコナ コーヒーを島外にて売り始めた。それをきっかけにアメリカ本土の西海岸地域でコーヒー の需要が高まってきた。そして多くのコーヒー消費者は高価格にもかかわらずコナコー ヒーを好むようになり、コナコーヒーは最高級のブランドコーヒーとしての確固たる地位 を得ることができたのである。
1990年代よりコナコーヒーは世界でも人気のコーヒーブランドになり、今に至ってい る。しかし、作地面積の減少などに伴い、コナコーヒー自体は高値にもかかわらず、多く のコーヒー農家は副業をせざる状況もあり、さらなる生産体制、マーケティング活動の増 強が望まれている。
(4)日本企業の関わり
ハワイ島コナ地区には、日本資本の代表的コーヒー農園が2つある。それらは日本では トップレベルのコーヒーメーカーであり販売業者の「ドトールコーヒー」と「UCC コー ヒー」である。日本におけるコナコーヒーの知名率アップにはこの2社を抜きにしては語 れない。ドトールコーヒーハワイ社の社長の宮岡好道さんと UCC ハワイ社の取締役総支 配人の松尾潔さんにコナコーヒーと日本企業の関わりについて取材した。
ドトールコーヒー
ドトールコーヒーハワイ社は、2001年にドトールコーヒーの創業者である鳥羽氏の「い つかは海外での農園の運営をしたい」というロマンをかなえるためにオープンした。ド トールが運営する農園「マウカメドウズ(Mauka Meadows)」は、ハワイ島の西、コナ 地区にあり、規模は東京ドーム約16個分と広大でハワイ島最大の農園となっている。そ こには約9万本のコーヒーの木が植えられている。コナ地区では700ほどのコーヒー農場 があるが、コーヒーを栽培して焙煎までのすべてのプロセスができるのは10数農園しか なく、ドトールコーヒーはその一つとなっている。
現在、ハワイで栽培されたコナコーヒーは、多くが日本に輸出されている。ただ、もと もとの生産量が少ないコナコーヒーの為、約1, 000店あるドトールコーヒーで出すことは できずに、POP やチラシ、HP 等での広報活動のみを行っている。関東を中心に14店舗 展開しているハワイアンカフェの「マウカメドウズ」のみでコナコーヒーを提供している。
ドトールコーヒーが自社栽培コーヒーを日本に輸出する際には、収穫したコーヒー豆の 皮と身を取り去って乾燥させたグリーンビーンズの検査が必要となる。プラスチックバッ クに入れ日本に船で運搬するのである。ちなみに海外からの農産物の輸出なので燻蒸が必 要と思われるが、ハワイではしなくて良いとのことであった。ドトールの農園で輸出準備 が整うと、ハワイ郡の農務省に申請をして、そこから検査官が農場を訪れサンプルを持ち 帰り、それらが検査に合格すると出荷できる。
ハワイのドトール「マウカメドウズ農園」では、コーヒーを栽培するだけではなく、観 光農園の運営も行っている。園内には100種類もの花々が咲くフラワーガーデンや、パパ イヤ、マンゴー、パイナップルなど30種類の果実系植物のフルーツガーデン、そしてパー ティーが楽しめるバーベキューガーデンを設置してある。2007年には終了したが、世界
でただ1本のマイコーヒーの木を植えられる記念植樹なども実施していた。
また、ここハワイの農園はコーヒー栽培の為だけの施設ではなく、コーヒーのポイント を貯めたお客様が、抽選でハワイ旅行を兼ねたコーヒー農場視察のプレゼントがあたる セールス・プロモーションも展開している。毎年40〜50名程の招待があり、10年では500 名程のコナコーヒーに対するロイヤリティーの高い消費者を育て上げている。顧客以外に も、ドトールコーヒーのフランチャイザーや従業員なども50名ほど招待しており、イン ターナル・マーケティングとして機能させている。
宮岡社長は、ここ最近急激に伸びてきている「カウコーヒー」 2) に警戒感を示した。カウ コーヒーフェスティバルも5年ほど続き、ハワイ郡の農務事務官にインタビューした時も このカウコーヒーを絶賛していた。ただ、コナ地区に比べカウ地区の農地面積がさほど大 きくないことから、産業的にはコナコーヒーの大きな脅威にはならないであろうとのこと である。
UCC ハワイ
UCC は上島忠夫氏により創設され、現在に至っている。海外に3カ所の農園を持ち、日 本で UCC 上島珈琲(株)、キーコーヒー(株)、(株)アートコーヒー、(株)ドトールコー ヒーでコーヒー全供給量の約半分を占める大手4社の一角に位置づけられている。
昭和56年(1981年)、アメリカ・ジャマイカの両政府から農水省へ日本の栽培技術援 助の要請があり、上島忠雄氏はそれを受託し、農園の運営を始めた。現在では、ブルーマ ウンテンコーヒーの日本での輸入量の約半分を UCC が占め、日本への供給を担っている。
さらに平成元年(1989年)には、ハワイ島コナ地区に「UCC ハワイコナコーヒー・エ ステート」を開設して、ハワイコナコーヒーの生産に乗り出した。農園は、ハワイ島コナ 地区フアラライ山の裾野、標高 460m付近に位置している。総面積約14ヘクタールの中 に、およそ1万5千本ものコーヒーの木が植えられている。1993年にはアメリカ農務省 によって「ハワイ島西地区最優秀農園」として表彰された。
他にも1995年(平成7年)にはインドネシアスマトラ島でマンデリンの農園を開設し ている。これら直営農園の開設によってコーヒー生豆の一貫生産体制を実現した UCC は、
各生産地の高品質なコーヒーを日本市場へ安定供給し消費の拡大をはかっていったのであ る。
1970年代までは、コナコーヒーはその品質の高さに比べ、低価格で販売されていた。
徐々に大粒の豆でおいしいとの評判が高くなり、またあこがれのハワイで飲めるというこ ととこれまでの価格の安さも相まって人気ができてきた。そこで UCC と米国系企業でシ カゴのスーペリアコーヒーカンパニーの2社がプレミアムを付けて、コナの栽培農家から 豆の買い取りを始めた。その為、コナコーヒーのブランド化が進展してきたのである。コ ナコーヒーの販売状況としては、生産量の10%を日本に輸出しており、他の10%はお土産
として買われて日本に持っていかれる。UCC では、1981年から高級品としてのイメージ 戦略を実施しており、コナコーヒーの日本におけるブランド化に大きく貢献した。現在、
UCC では、コナコーヒー生産の絶対量が少ないため、日本内の限定ショップ20〜30店 舗で販売を展開している。コナコーヒーを生産する上で、人件費は全体の約3割だという。
松尾支配人からは、沖縄でコーヒー栽培を導入した場合、それだけの人件費をまかなえる だけの販売が可能か危惧する意見が聞かれた。ただ沖縄でバリスタシステム3)等を導入し てコーヒー文化の定着を図っていくのは効果があるのではということである。
3.コナコーヒーというブランドの展開
(1)ハワイにおけるコーヒーの栽培統計
ハワイ州におけるコーヒー農園数は、2009-201年シーズンで、830カ所となっている。
2005-2006年シーズンよりは増加しているが、それ以降はほぼ横ばい状況となっている。
ハワイ島における農園の増加は見られるが、他の3島(オアフ、マウイ、カウアイ)での 減少で相殺されている。コナコーヒーは、ハワイ島で生産されるコーヒーの95%を占めて いるが、この島の農園の伸びは、今ハワイで話題になっている「カウコーヒー」によるも のが大きいと思われる。
2005
−2006 2006
−2007 2007
−2008 2008
−2009 2009
−2010 900
800 700 600 500 400 300 200 100 0
ハワイ州全体 ハワイ島のみ
他の3島(オアフ、マウイ、カウアイ)
図3 ハワイにおけるコーヒー農園数
出所:STATISTICS OF HAWAII AGRICULTURE 2011
Hawaii United States,Department of Agriculture Department of Agriculture
ハワイ島では農園数の増加は見られるが、逆に収穫規模は年々減少している。2005- 2006年シーズン中には3, 300エーカーであったが、2008-2009年シーズンでは、2, 900 エーカーとなり、コーヒー農園の小規模化が起こっている。これとは逆に他の3島では、
2005-2006年シーズン中には45カ所であったが、2008-2009年シーズンでは40カ所と減 少している中で、収穫規模は、2, 800エーカーから3, 400エーカーに増加している。これ から見ると、他の3島では、コーヒー農園が収斂され、大規模しているのがわかる。
ハワイ州におけるコーヒー販売の売上高は、2005-2006シーズン中から減少が続いてい たが、2009-2010年シーズンには持ち直して、$31, 320, 000となっている。やはり、ハワ イ州に占めるコーヒーの売上もハワイ島が多いが、収穫面積の減少と比例して売上も減少 傾向は続いている。これとは逆に他の3島は、収穫面積が拡大している分、売上も増加傾 向にある。
ハワイ州全体 ハワイ島のみ
他の3島(オアフ、マウイ、カウアイ)
2005
−2006 2006
−2007 2007
−2008 2008
−2009 2009
−2010
$40,000
$35,000
$30,000
$25,000
$20,000
$15,000
$10,000
$5,000
$0
図4 ハワイ州コーヒー売上高(1, 000ドル)
出所:STATISTICS OF HAWAII AGRICULTURE 2011
Hawaii United States,Department of Agriculture Department of Agriculture
2008-2009年シーズンのハワイ全体のコーヒー1ボンド当たりの価格は、¢340である。
これに比べハワイ島産コーヒーは¢650と平均の約2倍弱となっている。これを他の3島 の単価(¢170)と比較すると、なんと3. 8倍となる。これから見てハワイ島産のコーヒー がいかに高値で取引されているかが分かる。コナコーヒーのブランド化に成功した結果だ と言える。
(2)コナコーヒーと観光産業
187年の歴史を持つコナコーヒーであるが、製品としてそのブランド価値の向上には成 功した。そしてそのブランドから派生する付加価値は観光産業の発展にも貢献している。
コナ地区の人びとやコーヒー農園は、コナコーヒーの知名度を活かした観光サービスの提 供をおこなっているのである。第一に「コナコーヒー・カルチャル・フェスティバル」が ある。それから UCC ハワイ社の焙煎体験ツアー、そして内田農園の歴史博物館である。
コーヒーフェスティバルの開催
毎年11月には、ハワイ島コナ地区で「コナコーヒー・カルチュラル・フェスティバル」
が開催される。フェスティバルでは1週間以上に渡ってさまざまなイベントが開催される。
フェスティバルは、ハワイで最も歴史があり、そして最も成功しているイベントとして有 名である。その為ホノルルや米国本土、日本などから多くの観光客が訪れる。このフェ ティバルを支えるのは、コナコーヒー産業に関わる59団体のスポンサーである。大型リ
図5 1ポンド当たりのコーヒー価格(¢)
ハワイ州全体 ハワイ島のみ
他の3島(オアフ、マウイ、カウアイ)
2005
−2006 2006
−2007 2007
−2008 2008
−2009 2009
−2010 700
600 500 400 300 200 100 0
出所:STATISTICS OF HAWAII AGRICULTURE 2011
Hawaii United States,Department of Agriculture Department of Agriculture
ゾートホテルやコーヒー生産者組合などと一緒に UCC ハワイ社もメインスポンサーの一 つとなっており、コナコーヒーの歴史を支えてきた日系人達と共にハワイ島のコーヒー産 業を日本の会社も支えていることに新たな感慨を感じる。
イベントの種類としては、コナコーヒーを使ったレシピのコンテスト、カッピング・コ ンペティション、ラベル展示会、コーヒー農園見学ツアー、コンサート、パレード、カル チャーイベント、美術展などがある。このフェスティバルは2012年で41回目の開催とな り、年々盛り上がってきている。
ある年のフェスティバルの最終日の模様である。まずコナコーヒー・ミラクルミル・ラ ンというマラソン大会が朝早くから行われた。その後9時半からは、コナのメイン通りに て賑やかなパレードが行われる。コーヒー協会や組合の団体の行進があり、その後に地元 高校生のブラスバンド行進、そしてミス・コナコーヒーを乗せたオープンカーが続いてく る。コーヒー農園で働いているフィリピン人を乗せたトレーラーも通過していく。
メイン会場のステージでは、いろいろなエンターテイメントプログラムが観光客や地元 客を楽しませている。ミス・コナコーヒー・コンテストのグランプリの発表や、コーヒー ファームの各賞授与、フラダンスや大太鼓、バトントワリングなどが次々と催される。メ インステージ以外にも、ラウハラ教室、ハワイアンキルト教室、いけばな展、コーヒーの ロースティング(焙煎体験)やテイスティング、フラワーレイのコンテストなども行われ ている。会場外の広場にも沢山のブースが設営されており、ウクレレ販売、ニットのレイ の店、ゲーム、アクセサリー、クリスマスオーナメント、ブラスバンドのステージや、
ファーマーズマーケット、さまざまなランチ BOX の販売や、シェイブ・アイスショップ などが賑やかにフェスティバルを盛り上げている。
沖縄でいうと、那覇市奥武山で催される産業祭りという趣があるが、期間的なこと場所 そして参加する団体やメンバーの質と量でコナに圧倒されている感がする。
2012年のフェスティバルでは、11月2日から11日までの10日間でその間に催された イベント類はざっと数えただけでも30種類ほどあった。各イベントは毎日開催している ものもあり、その日だけの一回だけというものもある。開催場所はコナの街全体とコナの 大型リゾートホテルそしてコーヒーベルトを中心とした農園などとなっている。下記は具 体的なフェスティバルで催されたイベントである。
1.Sugai Kona Coffee Talent Night 2.Holualoa Village Coffee & Art Stroll
3.UCC Ueshima Coffee Co., Ltd. Miss Kona Coffee Scholarship Pageant 4.UCC Ueshima Coffee Co., Ltd. Kona Coffee Picking Contest 5.KTA Super Stores Kona Coffee Recipe Contest & Big Island Showcase 6.Kona Coffee Living History Farm Tour
7.Kona Coffee Cultural Festival Quilt Show Judging
8.Kamehameha Investment Corporation Kona Coffee Label & Website Display 9.Kona Coffee Council Farm & Mill Tour
10.Kona Historical Society:Kona Coffee Living History Farm Tour 11.Kona Coffee Cultural Festival Quilt Show
12.Kamehameha Investment Corporation Kona Coffee Label & Website Display 13.Kona Coffee Cupping Competition − Preliminary Round
14.Kona Coffee Art Exhibit
15.Kona Coffee Market Day and Cultural Events 16.Kona Coffee Cupping Competition − Finals 17.Kona Coffee Market Day and Cultural Events 18.Kona Coffee Council Dinner & Benefit Auction
19.Kona Coffee Marketplace − Festival of Artists and Ethnic Foods 20.Big Island Running Company Miracle Mile Run
21.Kona Coffee Cultural Festival Parade 22.Kona Coffee Cultural Festival Bon Dance 23.KBXtreme Scholarship Bowling Tournament 24.Kona Coffee 101 Seminar
25.Aloha Makahiki Concert
コナコーヒーをモノとしての商品販売だけでなく、コナの地域全体で産業を支えていこ うという地域を愛する心の醸成とコナコーヒーのブランドイメージの向上を図る年に一回 のハワイ島最大の催し物だと言える。
UCC ハワイ社の焙煎体験ツアー
単にコナコーヒーを買ってその香と味を楽しむだけではなく、コーヒーを焙煎する経験 も時間消費型エンターテイメントとして、あるいは学びと楽しみの結合したエデュテイン メント(Edutainment)として観光産業のサービス商品としての位置づけができる。UCC ハワイ社の焙煎体験ツアー(ROASTMASTER TOURTM)では、100%コナコーヒーの焙 煎が体験できる。 自分で焙煎したコナコーヒーは、顔写真つきのラベルを付けて持ち帰 りができる。価格は一人35ドルで 約200グラム(約100グラム入り袋が2個)コナコー ヒーが作れる。 一回のツアーの所要時間は、約45〜60分で、ツアーには農園見学も含ま れている。
コナコーヒーベルト地帯で見学ツアーを催しているコーヒー農園は外にもいくつかある が、自分でコーヒーを焙煎して仕上げて、袋詰めした焙煎後のコナコーヒーに本人の顔写
真付きラベルをつけて持ち帰ることができるのは UCC ハワイ社のツアーだけである。「モ ノ」と「コト」の融合した高度な観光サービス商品だと言える。このツアー以外にも100%
コナコーヒーの袋詰めから、特選の豆だけを使った限定品、おしゃれなマグカップまで、
コーヒー愛好家へのおみやげにぴったりの品がたくさんそろっていて、観光客を満足させ る仕組みになっていた。
コナ ・ コーヒーの歴史を作った日系人の歴史博物館
小さいながらも民間のコーヒー歴史館がある。「内田コーヒー農園」内に昔の内田家がそ のまま博物館になっている。ツアー代金は大人 $15、子供 $ 5、 5歳未満は無料となってお り、日系人のガイドが昔のコーヒー作りについて説明してくれる。
コナコーヒー・リビング・ヒストリー農園、(内田ファーム)は、1925年に九州から移 民してきた内田家の人達が、1994年まで住んでいた建物や農地をそのまま歴史博物館と して公開しているものである。来園客向けに1940年代ごろの日系人の暮しぶりや習慣、
文化などを紹介してくれる。1926年に建てられた内田氏の家の中には、手作りの仏壇、古 いタイプライター、コーヒー豆を使って作った人形などが再現され、当時のコーヒー作り の苦労説明してくれる。農園の方ではコーヒー畑で収穫の様子を見せてくれる。
4.コナコーヒーの課題と将来展望
コナコーヒーは高品質イメージの構築に成功し、いまや世界の中において高値で取引さ れる有名ブランドになっている。しかし、評価が高まるにつれいろいろな課題を抱えるよ うになってきた。
コナコーヒーはハワイ島のコナ地区のみで栽培されており収穫量が少ないため、100%
コナ産はわずかしかない。その為ハワイ州では「10%以上のコナコーヒーを含むブレンド のみコナコーヒーブランドとして良い」ということになっている。これが法律で明文化さ れていないため、いろいろ問題を引き起こした。例えば、カリフォルニア州のコーヒー豆 販売業者が1980年代に「コナコースト」 4)と名付けたコーヒーを販売して訴訟問題になっ たことがある。そういう問題を解決しようとハワイのコーヒー生産者は州に訴えて、「コ ナコーヒー」の商標登録を米国連邦政府に申請した。しかし、「コナ・フレーバー」や「コ ナ・スタイル」と名乗るコーヒー豆を販売する業者などからの反対があり、商標登録を認 めてもらうことはできなかった。その為ハワイ州は州独自の認定制度を設定したのである。
この認定制度は、ハワイ産コーヒーブランドのイメージを守る為のもので、「100%ハワ イ産のコーヒーである」を証明するものである。それに追加してハワイ州農業局の検査官 がコーヒー豆にグレードをつけ、コナコーヒーが10%以上含まれるものだけに「ハワイ産 コナコーヒー」のシールを貼る権利というシステムを構築した。
しかし、ハワイ島コナだけでなく、ハワイ州の各地でコーヒー栽培が盛んになり、また 州の財政が悪化してきた中でコーヒーの検査官が足りなくなり、この制度も2012年7月 に廃止となった。
ハワイのコナコーヒー以外の他の島の様々な種類のコーヒーすべてがハワイ州の認定制 度を利用しているため、コナコーヒーの産地であるハワイ島には検査官が一人という状況 になったのである。検査官が一人ということで検査に時間がかかり、コーヒーの出荷を遅 らせてしまい、コーヒー生産者からの苦情が増えてきたため、ハワイ州政府はこの認定制 度を廃止する法案を提出し、法案は成立したのである。ハワイ州は新たな制度として、検 査は農家の自主性に任せ、希望する農家には認定証を出すというものにするとしている。
「ハワイ産コナコーヒーのブランドを守る為に認定証は必要」とする生産者と、認定を得 るために出荷が遅れて減収になると考える生産者の二つのグループがあり、その妥協策と して新たな制度が認定されたのである。現在、コナコーヒー産業は、コナコーヒーのこれ まで築き上げたブランド価値を守るべきか、市場のニーズ・タイミングに合致した出荷を 優先するべきかというマーケティング的に重要な課題に直面している。
5.沖縄産コーヒーの可能性と地域発展にむけて
(1)地理的優位性
沖縄県は北緯26. 13度に位置して、かろうじてコーヒーベルト内ある。同じような緯度 でコーヒーを作っている所としては、キューバやジャマイカなどの世界有数のコーヒー生 産地もある。そして、そこは沖縄の台風とおなじハリケーンが襲来する場所でもあり、そ のような中でコーヒー生産を成功させていることは、沖縄側にとって直接的な参考になる といえる。ジャマイカでのコーヒー栽培は1, 500メートルあたりの高地で行われているが、
沖縄県北部の山原の奥が気候的に似ている。冬場に気温が10度を切る気象条件を乗り越 えた沖縄産のコーヒーはうまみが凝縮され、世界でもトップクラスの味になると評価され ている5)。
(2)県内のコーヒー生産農家
沖縄では約100年前からコーヒー栽培は行われていた。最近では、1972年にブラジルに 移民した沖縄県系ブラジル人が里帰りしたときに持ち帰った種から育ったと言われている。
しかし、その頃は沖縄ではコーヒー栽培は趣味レベルで行われており、実際にビジネスに しようとする人はほとんどいなかった。沖縄で国産コーヒーが栽培できることを知ってい る人も少なく30年近くビジネス的展開はなかった。近年、日本においてもコーヒー栽培 が可能なことがマスコミなどで喧伝されて来たため、栽培愛好家も増えていった。
本土の流通業者が沖縄産コーヒーの買い付けに来たこともあるが、本格的なコーヒー栽
培ビジネスをしている農家はほとんど無く、また栽培者側でもコーヒー栽培により農業経 営が成り立つか確証を持てなかったため、本格的な栽培に踏み切る人達は少数に留まっ た6)。
(3)沖縄産コーヒーの展望
日本は世界で4番目にコーヒー需要が高い国となっている。しかし、国産コーヒーが無 いために、ほとんどが輸入に頼っている状況である。そのような中で、沖縄で栽培が可能 なコーヒー生産が注目を浴びているのである。注目を浴びる理由は二つある。第一に「輸 入コーヒーの安全性への危惧」そして「沖縄産コーヒーの質の高さ」である。
日本財団助成事業の「沖縄に農業ブランドを起こすセミナー」で、矢崎栄司氏7)は、輸 入コーヒーの安全性について疑問を投げかた。例えば、栽培時に農薬が使用されることが 挙げられる。海外の生産国から日本に持ってくるまでの長距離輸送・長時間貯蔵がひつよ うであるがその際にポストハーベスト農薬の使用も考えられる。沖縄県でコーヒーを生産 できればそのような安全・安心面がクリアーでき、昨今の健康志向の中でその需要は高ま ると思われる。第二に沖縄産コーヒーの質の高さが考えられる。矢崎氏が焙煎し味わった 経験から「沖縄産のコーヒーは、味はまろやかですっきりとした甘味で雑味がなく、飲み やすい」とコメントしている。
同セミナーで、田崎聡氏8)は、沖縄県産コーヒーの問題点と市場性について指摘してい る。問題点としては四つ挙げている。それは、台風、収穫までの期間、労働力、土壌の違 いである。第一は、台風銀座と呼ばれる沖縄の気候的問題である。コーヒーの木は風に弱 く、台風対策、強風対策は欠かせない。次にコーヒーの実の収穫に5年ほど要するという 長期の栽培スパンの問題もある。三番目に、コーヒーチェリーの手摘みによる労働力の問 題がある。ハワイなどは海外から安価な労働者を雇うこともできるし、すでにブランドと して確立しているので、労働力をかけてもそれをカバーして取り返すだけの高値の販売が 可能になっている。沖縄で日本レベルの賃金を支払って採算が取れるかと言うことである。
最後にジャーガル、マージなど地域の土壌性の違いが挙げられた。
市場性として四つの可能性を挙げている。それらは有機栽培、露地栽培、収益性、そし て付加価値である。第一に沖縄では農薬を使用しない安心・安全の有機栽培が可能である こと。第二にコストを抑えることができる露地栽培が可能であること。三番目に沖縄だっ たら1坪当たり1万円の収益が可能であること。そして最後に需要の増加に供給が追い付 かないので希少的付加価値がつくと指摘している。
沖縄でコーヒーを栽培して収穫していく中でいろいろと問題・課題は山積している。し かし、それを解決していくとで、有望な産業として育っていく可能性がある。日本は世界 で四番目のコーヒー需要国であり、安心・安全で品質高いコーヒーを求める国民性は、沖 縄あるいは国産コーヒーの市場として最適である。
ただ、一般的に沖縄の特産品の問題点として、良いモノを作るが、安定的に、均一の品 質で大量に生産できないということがある。本土の流通業者との取引がまとまりかけても 生産現場の問題でビジネスにつながらないことが多いのだ。沖縄コーヒーも同様な問題を 抱えている。マーケティング理論の新しい考え方で「マーケティング3.0」 9) という社会志 向の考え方が出てきているが、こと沖縄コーヒーに関しては、消費者志向のマーケティン グ2. 0でもなく、生産・製品中心志向のマーケティング1. 0のレベルだといえる。まずは生 産すること、安定的に供給すること、品質を高くして一定にすること、大量に生産するこ とそして流通を整備することが先に来る。沖縄でのコーヒー産業の成功に関わるのはまず は生産体制の盤石なる構築だといえる。
(4)コーヒー産業と地域発展
沖縄県は製造業の基盤が脆弱であり、一次産業である農業も TPP 問題で岐路に立たさ れている。県内の地域レベルで経済的には苦しい環境が続いているが、島嶼としての製造 業や農業の弱さを克服するために島おこしを通してわがまちを活性化しようと行政、民間、
NPO 法人などが懸命に動いている状況である。前述したように本研究では、沖縄県の地 域活性化を農業と製造業で達成するために海外の成功事例を調査し、それが沖縄の地域活 性化に寄与できないかを模索してきた。
そのような中で、平成24年7月には、日本財団から助成を受けて「国産コーヒーを沖 縄の農業ブランドに」をテーマにシンポジュームが開催された。続いて平成25年1月に、
沖縄県内でコーヒー生産を集めて生産者組合が発足した。沖縄においてもコーヒーの産業 化が注目されはじめ、民間レベルでの動きがスタートし始めたのである。沖縄発のコー ヒー産業は、製品ライフサイクル上まだ導入期であり、今後どのように展開していくかは、
未知であるが、生産を活発化させて産業としての成長期に持って行くことが必要である。
地域が活性化するためにはそこにある潜在資源を発掘して育て上げいくことが重要であ るが、地域の地場産業は、大手と異なり規模の経済性が発揮できない。その為にコモディ ティ化した低価格競争においては生き残こることは難しい。なんらかのその地域特有の付 加価値を付けなければならない。その付加価値を探り、実際に商品化していくことが今望 まれている。
沖縄において日本で唯一コーヒーを栽培できる地として、製品差別化が可能であり、
TPP など経済自由化の波が押し寄せる中で、地場産業として巨大国内市場が隣接している という優位点を活かして、沖縄コーヒーはこれから成長発展していけると考えられる。
この研究では、沖縄において付加価値をつけることが可能であり、沖縄だけが提供しう る商品特性を持つものとしてコーヒーに着目した。そして米国で唯一コーヒーを生産でき るハワイ州ハワイ島のコナ地区が世界の代表的ブランドとして、高品質の高級ブランドと
してのイメージを持つコナコーヒーの現在を作り上げたヒントを探ることができたのでは ないかと考える。
注:
1)東京都の小笠原諸島で可能であるが、産業としての規模が小さい。鹿児島県の徳之島 にも農園がある。
2)「Ka u Coffee (カウコーヒー)」は、ハワイ島(ハワイ諸島の最南端)のマウナロア 山東側の高地斜面で栽培されているアラビカ種のコーヒーである。そのマウナロア山の 反対側西斜面には、世界的に知られているコナコーヒー農園が広がっている。同じ山の 西側と東側で栽培されているコーヒーだがその味には違いがあり、コナコーヒーは酸味 やフルーティーさが際立ったテイストが特徴となっている。しかしカウコーヒーは酸味 が控えめでやわらかなフルーティーさとふくよかな甘みが特徴になっている。飲めばそ の違いが分からないが、独特の香りとその非常に滑らかな味のため、ミルクや砂糖なし で飲めるコーヒーと言われている。
3)バリスタ(伊: barista)は、バールのカウンターに立ち、客からの注文を受けてエ スプレッソをはじめとするコーヒーを淹れる職業、およびその職業についている人物を いう。イタリアのバールには喫茶店やカフェとしての特徴がある。バーのバーテンダー がもっぱら酒類を扱うのに対し、バールで働くバリスタはノン・アルコールの飲料、と りわけコーヒーに関する知識と技術をもつ。欧州スペシャルティーコーヒー協会はバリ スタのために3段階のレベルからなる技能認定試験を実施しており、筆記、口頭、実演 の各試験に合格するほか実務経験も求められる。
4) コナコースト・コーヒーとは、わずかなコナ産コーヒーに南米産の安いコーヒーを混 ぜたものである。本物のコナコーヒーはその為に米国本土にて多くの市場を失った。
5)沖縄に農業ブランドを起こすセミナー「国産コーヒーを沖縄の農業ブランドに」平成 24年7月8日、カルチャーリゾートフェストーネ
6)国産コーヒー生産者団体設置記念座談会「世界のコーヒー栽培と沖縄コーヒーの可能 性」
平成24年1月22日、沖縄コンベンションセンター会議棟 A、カフェ・ド・ミヤ代表、
宮里直昌氏
7)矢崎栄司氏。長年有機食品流通・有機農業にかかわり、社会問題や農・食・環境・健 康等をテーマに執筆・講演活動を行うかたわら、有機食品ビジネス、有機の里づくり、
放牧養豚農場企画、短角牛有機畜産化、無農薬米栽培等を行い、遊休農地解消プロジェ クトにも携わる。
8)田崎聡氏。重度の花粉症と沖縄病に悩まされ沖縄に移住。2004年沖縄・奄美スロー フード協会設立する。2010年NPO法人食の風を設立。移住後、雑誌「うるま」「沖縄
スタイル」「沖縄に住む」「沖縄暮らし」等の創刊編集長を経て、現在「食の風」を出版、
現在に至る。「食農連携コーディネーター」としても活躍中。著書に「泡盛ブック」「泡 盛王国」「沖縄食材図鑑」等がある。
9)マーケティング3.0とはフィリップ・コトラーが提唱した新しいマーケティングの概 念である。日本では2010年9月に書籍が発行されている。マーケティングはマーケ ティング1.0から始まり、マーケティング2.0となり、そしてマーケティング3.0に進化 していくという理論である。マーケティング1.0は、製品中心のマーケティング。いわ ゆる「マーケティング・ミックス」や「4 P」に象徴されるマーケティングで、50〜
60年代、アメリカの基軸産業が製造業だった時代に開発された概念。不況な時期には有 効な需要創出のためには、製品でなく、消費者を中心に据えないといけないという考え 方が中心となり、「STP」=セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング、
が出てきた。この消費者志向のマーケティングが、マーケティング2.0である。多くの 企業はこのマーケティング2.0の段階に留まっている。マーケティング3.0とは「価値主 導のマーケティング」と表現される。マーケティング3.0は、3つの新たなコンセプトの 組み合わせから成る複合概念である。構成する3つの要素とは、「協働マーケティング」
「文化マーケティング」「スピリチュアル・マーケティングである。コナコーヒーも生産 体制を整えた上で、マーケティングの発展理論に則り、マーケティング3.0の段階まで 持って行く必要がある。
【参考文献】
FINAL REPORT(2010)
The MARKETS and MARKETING ISSUES of the KONA COFFEE INDUSTRY,
State of Hawaii Department of Agriculture Hawaii Agricultural Statistics Service (HASS) (2010)Statistics of Hawaiian Agriculture
Market Outlook Report(2004) Hawaii Department of Agriculture, Agriculture Development Division
STATISTICS OF HAWAII AGRICULTURE(2009)、Hawaii United States Department of Agriculture Department of Agriculture, Agricultural Development Division National Agricultural Statistics Service
【ウェブサイト】
米農務省(USDA)(2012)
http://www.usda.gov/wps/portal/usda/usdahome 全日本コーヒー協会
http://coffee.ajca.or.jp/
County of Hawaii 農業報告書 http://www.hawaiicounty.gov/
【インタビュー】
1.Big Island Visitors Bureau
250 Keawe St. Hilo, Hawaii 96720 2.Hawaii Department of Agriculture Agriculture Development Division 3.宮岡好道、ドトールコーヒーハワイ社、社長 4.松尾潔、UCC ハワイ社、取締役総支配人