組合員から
「必要とされる農協」
「見捨てられる農協」
有限責任監査法人 トーマツ JA 支援室
水
みず谷
たに成
せい吾
ご1.職員に浸透していない自己改革の必要性
規制改革推進会議の主張する農協改革に関する「農協改革集中推進期 間」(平成31年5月まで)も残すところあと2年を切り、同会議による農 協グループに対する急進的な要求など農協解体を目的とする“農協改革”
の勢いはとどまることを知りません。そのうえ、農協経営を支える信用 事業を取り巻く環境は厳しさを増し、農林中央金庫が将来の信用事業の 在り方を検討するよう呼び掛ける状況になっています。
このように、農協の置かれた環境は、国内農業の衰退による組合員基 盤の弱体化、マイナス金利にはじまる信用事業の減収、マスコミ誘導に よる地域からの疑心暗鬼、規制改革推進会議による威嚇と、まさに四面 楚歌の状況です。
しかし、改革の当事者である農協の現場に訪問すると予想外に楽観論 がはびこっています。昨年あれだけ改革に向けた議論を重ねたにもかか わらず、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とばかりに“改革”などどこ吹 く風で、昨年と何も変わらず推進目標の達成にしか興味のない職員がそ こにいます。
経営管理 そもそも農協グループの掲げる自己改革とは、農協が地域において必 要な存在であり続けるために、自分たちが必要と考えて実行する当たり 前の事業活動であり、“農協改革”を迫られたから実行するものではあ りません。それにもかかわらず、自己改革が政府に対するパフォーマン スになってしまえば、職員にとっては中央会や経営層による政治活動で しかありません。これでは、改革が道に迷うのは当然であり、誰のため の改革なのかわかりません。
2.失われる組合員との信頼関係
改正農協法では、「組合は、事業を行うに当たって、組合員に利用を 強制してはならない」と規定されました。この条文については、どこの 農協で話を聞いても「今の時代、こんなことをやっている農協はない。
農協の農業資材が高ければ、組合員は平気でホームセンターで買ってい る」という意見がほとんどです。
しかし、本当に組合員に利用を強制していないと言い切れるのでしょ うか。LA は組合員に共済契約を繰り返しお願いして、組合員がしょう がないと根負けして半ばあきれて契約しているようなことはないでしょ うか。『家の光』や『日本農業新聞』を読まない、必要ないといってい る組合員に押し付けるようなことはしていないでしょうか。
これから先は組合員の世代交代が進み、「これまで仲良くしてきた農 協さんの言うことだから」と受け入れてくれていた組合員はいなくなっ ていきます。新しい組合員は農協が頼りになるから、必要だからお付き 合いをいただけるのです。組合員の相談に応えることで信頼関係を構築 し、農協と付き合うことの価値を感じてもらわなければなりません。先 人が築き上げた信頼関係を切り崩して短期的な実績を積み上げているだ けの農協は、あっという間に地域から必要とされなくなるでしょう。
3.農協の現場はできない理由のオンパレード
全国の農協を訪問するなかで、管理職以上の役職員から「○○農協だ からできるが、自分たちの農協では規模が違う」「○○県だからできるが、
自分たちの地域では環境が違う」という話を、これまで幾度となく聞い
てきました。誰に聞いても、自分たちには特別な事情があり、改革を実 行することがいかに困難かということを雄弁に語ります。
「農業所得を増大させるための取組みをしたいが、高齢化が進み農家 がそれを望んでいない」「農地を集約して農作業を効率化したいけど農 家の理解が得られない」など、自己改革が進まないのは仕方がない、忸 怩たる思いだと訴えます。しかし、できない理由を完璧に説明すること に価値はありません。現在の環境下において自分たちに何ができるのか を考え、実践しなければ状況が改善することはありません。
また、改革が進められない理由で多いのが「改選時期だから今は動け ない」という理由です。そのうえで、新しい理事が就任すれば「まずは 現状を把握することからはじめる」といって、さらに“改革”は先送り にされます。役員改選は農協の都合であり、その間に農家の営農活動が 止まるわけではありません。
未曽有の危機ともいえる環境に直面している日本の農業にとって改革 は待ったなしのはずです。それが「農協の理事を決めるのでちょっと待 ってください」というのは、外から見たときに本気で改革をする意思が ないと捉えられてもおかしくありません。
4.組合員から「必要とされる農協」と「見捨てられる農協」
の違い
この1年で、口では何と言っていようと、改革の意思があるのか、な いのか、はっきりと差が出たように感じます。政府を批判したり、日本 農業の将来を嘆いたりするだけで、改革の当事者としての自覚がない農 協で自己改革の進捗状況を問えば、多くの職員から「何も変わっていな い」「よくわからない」という答えが返ってきます。
このような職員は、自己改革が必要なことはわかっているが、“忙しい”
ので余計なことはしたくないというのが本音です。
支店長と話をすれば、農協を改革する姿勢の違いはすぐに感じられま す。改革の意思がない農協の支店長は、自己改革といっても全く自分の こととして捉えていません。むしろ、そんなことを考える暇があるなら、
今期の目標達成のために LA を叱咤するほうが有効と本気で考えていま
経営管理 す。
また、農協の存在意義は何かと問いかければ「農業振興」と言葉では いうものの、実際にはどうかと聞けば「役員、部長の意識が低い」「う ちの農協はこれまで農家との関係構築をしてこなかった」など、他責の 言い訳しか出てきません。
このような農協で支店長向けに研修などで話しても、はっきりいって 目が死んでおり、改革意欲などまったく感じません。
現在のような厳しい環境を乗り越え、将来にわたって地域から必要と される農協は“改革”する意思のある農協です。“改革”する意思のあ る農協では、「経営者としての資質を持った」理事が「地元農家と覚悟 を持って向き合い」、自己改革をチャンスと捉えるくらい「柔軟な発想 で自己改革という変化に対応」しています。
衰退する地域農業と向き合い、どのような困難に直面しても「絶対に 地域農業を守る」「組合員のくらしを守る」という覚悟がなければ地域 からの信頼を得ることはできません。評論家気取りで政府を批判し、地 元農家と向き合うこともせず、「現在のままで大丈夫」「農協がなくなる はずがない」と楽観的に考えているような農協は、存在価値を失ってい くでしょう。
5.問われる「地元農家と向き合う覚悟」
地域営農振興の担い手は、政府でも農協でもなく、あくまでも農家で す。地域営農を活性化するために、農協は農家を支援し、農家が“やり がい”を感じて営農を継続できる環境をつくることが求められているの です。農家と農協とが一体となって取り組まなければ、日本農業が直面 している難局を切り抜けることはできないでしょう。
全国には、農業所得30%アップを目指して徹底的に地元農家と向き合 っている農協があります。営農指導員が農家の経営を真剣に考え、本気 の提案をすることで農家も農協と二人三脚でやっていこうと農協を信頼 しています。
その他にも、地元農産物の販売力強化に向けて地元農家(部会)の意 見を集約し、広域での一元分荷を実現している農協もあります。地域ブ
ランドにこだわる農家と向き合い、産地を維持するために何をしなけれ ばならないかを真剣に議論し、時には怒鳴られながらも地元農家のため と信じて行動しているのです。
しかし、全国の農協の役職員と意見交換していると、農家に対して全 く物が言えない役職員の姿勢に驚かされることも少なくありません。こ のような農協では、農業所得増大に向けた取組みとして、新規就農者へ の支援や新しい品目への挑戦などを掲げていますが、既存の農家に対し ては物が言えないために、新規就農者への支援ということでお茶を濁し ているのが実態です。
もちろん、新規就農者への支援や新しい品目への挑戦などは必要な取 組みです。しかし、数十億円という共選品目への取組みをおざなりにし て、話を聞いてもらえる新規就農者を支援することで数百万円の農業所 得増大に貢献したと得意げに語っているのであれば自己満足でしかあり ません。
6.問われる「経営者としての資質」
広域合併を繰り返し規模が拡大した農協の経営は、地域農家が持ち回 りで農協経営を実践できる範疇を超えており、経営者としての資質を持 った適任者が経営することが必要です。特に農協を取り巻く環境が大き く変化している今の時代には、外部環境の変化や組合員・利用者からの 農協に対する期待の変化を見極め、組織を正しい方向へと導いていく経 営者としての力量が問われます。
しかし、農協の理事の中には、農協全体の利益よりも出身地域の利益 にこだわり、改革には賛成だが出身地域に不利益になることは一切認め ないという理事もいます。拠点統廃合の議論になるとその姿勢が顕著に あらわれ、農協は経営の合理化・効率化をしなければならないと主張す る一方で、話が出身地域の拠点の廃止となると急に地域住民のよりどこ ろになっているから反対だと主張します。なかには、優秀な営農指導員 を自分の地域で囲い込み、人事異動に対して口出しするケースもあるよ うです。
農協の理事は、経営者として俯瞰的に事業全体、地域全体を見る視野
経営管理 の広さが必要です。特に拠点の統廃合や人事異動などは、特定地域のエ ゴ(既得権)ではなく、農協全体の観点からの必要性に対する理解を各 地域から得ていくようにすることが理事の役割ではないでしょうか。そ のためには、自分が納得できるまで各種委員会等において建設的な議論 をすることは不可欠です。ここでいう建設的な議論とは、重箱の隅をつ つくような指摘を繰り返して結論を先送りすることではありません。
7.問われる「変化対応力(柔軟性)」
現在の農協を取り巻く過去に経験のない状況に対応するためには、前 例や固定観念に縛られることなく、柔軟に発想し、改革をチャンスと捉 えるくらいでなければなりません。
「農協は特別だから他の業界の事例は参考にならない」「農協は特別だ から外部の人間には理解できない」など、農協は特別だと言って殻に閉 じこもり外部の声に聴く耳を持たないという役職員は最近少なくなった ように感じます。実際、必要に応じて外部の専門家を活用したり、異な る業種・業態の事業会社へ視察に行ったりする農協も少なくありません。
なかには、系統組織ではなく他の金融機関や証券会社等へ職員を出向さ せ勉強させている農協もあります。
しかし、信用・共済事業を中心に事業利益が右肩上がりに成長してき た環境下で、今まで通り仕事をしていれば利益が出るという状況が当た り前となり、変化が求められることについていけない職員も存在してい ます。このような職員は、外部環境の変化に鈍感で問題意識を持つこと ができず、自己改革と自分の仕事とを結び付けて考えることができませ ん。
また、昨日までの業務を少し効率化したり、改善すれば利益が出てい たため、わざわざ新しいことを始めたり、リスクのあることに挑戦する べきではないという誤った認識を持ち、「変わらないことが農協の価値だ」
と、変われない自己を正当化する職員も存在しています。
農協を取り巻く環境が急激に変化している状況において、変わらない ことこそがリスクであると認識しなければなりません。組合員や地域か ら農協に対する期待が変化するなかで、農協がそれに対応して変化でき
なければ、農協に対する期待は不満や失望に変わるでしょう。
8.農協の存在意義を判断するのは組合員
最終的に農協の存在価値を決めるのは、外部の有識者でもなければ、
国でもなく、出資者である組合員です。出資者である組合員が「農協に 存在価値がない」というのであれば農協は解体すべきでしょう。しかし、
組合員にとって存在価値があるのであれば、外部の有識者や国が存在意 義を議論する必要はなく、農協は地域にとって必要な存在ということで す。
各農協が組合員に対して農協の存在意義について問いかけてみてはど うでしょうか。これまで組合員と向き合い、地域農業を中心に地域社会 を支えるパートナーとして取り組んできたのであれば、必ず「農協は必 要だ」と答えてくれるはずです。
あなたの農協はどうでしょうか?
掲載内容について
掲載内容は筆者の個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です。