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高強度鋼板を用いたハット型構造部材の高速変形特性

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高強度鋼板を用いたハット型構造部材の高速変形特性46. 日新製鋼技報 No.88(2007). 高強度鋼板を用いたハット型構造部材の高速変形特性. 大 楠 洋* 原 健 治**. Dynamic Deformation Characteristics of Hat Square Column in High Strength Steel Sheets.. Hiroshi Oogusu, Kenji Hara. 技術資料. **技術研究所 加工技術研究部 加工第二研究チーム 主任研究員 **技術研究所 加工技術研究部 上席専門部員. Synopsis :. In order to obtain the guideline of optimum material and structure design for automotive body, we examined dynamic tensile charac-. teristics of steel sheets. Also, the dynamic collapse behavior and the impact energy absorbing capability of hat square column modeled on. a front side member were analyzed by using dynamic axial collapse tests and finite element method (FEM) simulations.. We obtained the results as follows :. (1)The dynamic tensile strength increases, and the dynamic/static ratio of tensile strength decreases with the increase of quasi-static. tensile strength of steel sheet.. (2)The impact absorbed energy of hat square column is considerably affected by the plate thickness and the quasi-static tensile. strength of steel sheet. However, the difference in material structure have little effect.. (3)The impact absorbed energy of hat square column decreases with the increase of spot welding pitch.. (4)In case of hat square columns produced by the draw bending method, the effect of the processing history is small to the offset. impact energy absorption because of the mutual influence of the strain hardening and the plate thickness decrease.. フロントサイドメンバー センターピラー. 変形後 変形前 変形後 変形前. a)軸方向の圧潰変形 b)曲げ変形. 図1 自動車衝突時における各構造部材の変形挙動 Fig.1 Deformation behavior of automotive body parts in impact.. 1.緒 言. 自動車メーカーでは,車体軽量化と衝突安全性を両立. させるため,高強度鋼板の適用が拡大している。. 衝突時における車体構造部材の変形は,その形状や部. 位によってさまざまであるが,その代表的モードは軸方. 向の圧潰変形とそれに垂直な方向での曲げ変形に大別さ. れる。乗員保護の観点からみると,衝突時に乗員に伝わ. る衝撃エネルギーを低減すること,ならびに乗員の存在. 空間を確保することが必須になる。前者は,図1に示す. ように,前面衝突時にフロントサイドメンバーと呼ばれ. る構造部材を用いて塑性変形させることにより,限られ. た変形領域内で効率的に衝撃エネルギーを吸収すること. 高強度鋼板を用いたハット型構造部材の高速変形特性 47. 日新製鋼技報 No.88(2007). で達成され,後者は,センターピラーに代表されるキャ. ビン側面の構造部材を強化して曲げ変形を極力抑えるこ. とによって達成される1,2)。. これら対象部位の構造部材は衝突時に高速変形を伴. い,例えばフロントサイドメンバーのように前面衝突時. に軸圧潰される部位では,最もひずみが集中する図1a). に示す角筒の角部で600~1,000/s程度のひずみ速度に. 達する2,3)ことから,動的強度が高く,衝撃吸収能に優. れた鋼板の開発が行われてきた。現在,車体構造部材に. 採用されている高強度鋼板として,フロントサイドメン. バーには440~590MPa級の合金化溶融亜鉛めっき鋼板. (以下,GA鋼板と記す)が,またセンターピラーには. 590~980MPa級の冷延鋼板の適用が主流4)となってお. り,当社においても590および980MPa級の高加工性GA. 鋼板を開発5)した。. 衝撃吸収能については,これまで冶金学的な検討が多く. 行われており,DP(Dual Phase:フェライトとマルテンサ. イトの2相組織)鋼やTRIP(Transformation Induced. Plasticity:フェライト,ベイナイトと残留オーステナ. イトの複合組織)鋼 が優れるという報告6,7)や,材料. 組織による差はない8,9)などの報告例があるが,必ずし. も統一的な見解は得られていない。. 一方,最近の車体構造部材を設計の観点からみると,. 自動車車体の衝突安全性の向上,軽量化と製造コスト削減. などを同時に満足させるため,構造のみでなく,材料,プ. レス成形方法や溶接方法など,衝撃吸収能に影響を及ぼ. すさまざまな因子を考慮した構造部材の設計が注目され. ており,多面的な最適化設計が行われている10)。ただし,. 実構造部材の評価のみによる最適化設計では開発工期の. 長期化を招き易いため,形状の多様性を排除したハット型. 構造部材(以下,ハット型部材と記す)を用いた落錘型軸. 圧潰試験やFEM(有限要素法:Finite Element Method). 解析による評価が前面衝突試験の簡易的検討手法として. 多用されている11)。. そこで本研究では,衝撃吸収能に優れた鋼板の選定や,. 車体構造部材の設計を行う上での指針を得るため,高速. 引張試験を行い,鋼板の高速変形特性を調査した。また,. 落錘型軸圧潰試験とFEM解析により,フロントサイド. メンバーを模擬したハット型部材の衝撃吸収能に及ぼす. 影響因子の検討を行った。. 2.供試材. 引張強さが440~980MPa級で,材料組織と板厚が異な. る6種類のGA鋼板(片面当たりのめっき付着量45g/m2). を供試材とした。供試材の化学成分と材料組織を表1に,. 板厚と機械的性質を表2にそれぞれ示す。鋼板を高強度. 化するための手段により,供試材を分類すると,Si,. Mn,Pなどの元素を利用した固溶強化鋼,Ti,Nbなど. の炭窒化物を利用した析出強化鋼,ならびに硬質なマル. テンサイト相を利用したDP鋼の3種類である。材料組. 織でみると,フェライト+パーライト(F+P)とフェ. ライト+マルテンサイト(F+M)の2種類に大別され. る。ここで,表1に示す鋼種CはTiとNbを含有してい. るものの,材料組織はF+Mであり,DP鋼として分類さ. れる。. 衝撃吸収能に及ぼす材料組織の影響を調査するため,. 590MPa級の析出強化鋼(鋼種B)とDP鋼(鋼種E). の2種類を用いた。DP鋼は析出強化鋼に比べて降伏強. さが低い。一方,板厚の影響を調査するため,590MPa. 級DP鋼は1.4mm(鋼種E)に加えて1.6mm(鋼種C). 表2 供試材の機械的性質 Table2 Mechanical properties of galvannealed steel sheets. used. 鋼種 板厚 降伏強さ 引張強さ 均一伸び 全伸び. (mm) (MPa) (MPa) (%) (%). A 1.4 319 456 15 36. B 1.4 488 592 13 28. C 1.6 407 600 16 28. D 1.6 383 620 13 30. E 1.4 390 644 14 29. F 1.4 541 975 12 19. 表1 供試材の化学成分と材料組織 Table1 Chemical compositions and material structure of gal-. vannealed steel sheets used. *) F:フェライト,P:パーライト,M:マルテンサイト. 鋼 種 化学成分(mass%). C Si Mn P Ti Nb. A 固溶強化鋼 0.15 0.01 1.02 0.015 - - F+P. B 析出強化鋼 0.14 0.10 1.62 0.019 0.02 0.04 F+P. C DP鋼 0.08 0.03 2.07 0.013 0.02 0.05 F+M. D DP鋼 0.10 1.15 1.40 0.012 - - F+M. E DP鋼 0.11 1.48 1.33 0.014 - - F+M. F DP鋼 0.17 1.14 2.25 0.017 - - F+M. 材 料 組 織. 高強度鋼板を用いたハット型構造部材の高速変形特性48. 日新製鋼技報 No.88(2007). も準備した。. 3.鋼板の高速変形特性. 3.1 試験方法. 本研究では2×10-3~4×102/sのひずみ速度における. 鋼板の基本的な機械的性質を調査するため,静的引張試. 験と高速引張試験を行った。. 図2に高速引張試験片の形状を示す。高速引張試験. (7×10-2,2×101,4×102/sの3水準)用の小型試験片. の形状は平行部幅5.4mm,平行部長さ15mmとしたが,. 一部の静的引張試験(2×10-3/s)ではJISZ2201規定の. 5号試験片を用いた。試験片はすべて圧延方向に採取. した。. 3.2 試験結果. 図3に代表的な例として,440MPa級固溶強化鋼(鋼. 種A)と980MPa級DP鋼(鋼種F)における公称応. 力-公称ひずみ曲線を比較して示す。どちらの鋼種とも,. ひずみ速度が2×10-3/sから4×102/sに上昇すると変形. 応力は大きくなる。. 圧延方向 ⇔ 弾性ひずみゲージ. 15. 15. 20. R15 R15. 63. 155. 5. 4. 図2 高速引張試験片の形状 Fig.2 Configuration of dynamic tensile specimen.. 高速引張試験は,2×10-3~10m/sの負荷速度で引張. 試験が可能な,容量10kNの油圧サーボ式高速引張試験. 装置12)を用いた。本装置は,高速条件下で一定速度を. 確保するため,クロスヘッドに100mmの助走区間を設. けたスライダ機構部を有する。負荷速度が高速になる. と,測定波形に応力波が重畳して真の荷重よりも高い. 値を示すといった問題を生じるため,荷重測定には試. 験片掴み部(弾性変形部)の表裏に貼り付けた弾性ひ. ずみゲージを用いた。また,ひずみ測定は試験片平行. 部に貼り付けた塑性ひずみゲージで行った。なお,塑. 性ひずみゲージの最大測定量が10%程度であるため,. 10%以降はひずみ速度一定と仮定してクロスヘッド変. 位を代用した。. 一方,静的引張試験は,100kN引張試験機を使用し,. 標点間距離50mmの伸び計を用いてひずみ量の測定を行. った。. 図4に引張強さに及ぼすひずみ速度の影響を示す。引. 張強さは,ひずみ速度の増加とともに上昇するが,鋼種. 間の大小関係はひずみ速度が増加しても変化しない。. 図5にひずみ速度10-3/sの静的引張強さとひずみ速度. 103/sの動的引張強さの比(以下,静動比と記す)と静的引. 1200. 1000. 800. 600. 400. 200. 0 0 5 10 15 20 25 30 35. ひずみ速度 :4×102/s :2×10-3/s. 980MPa級DP鋼(F). 440MPa級固溶強化鋼(A). 公 称 応 力 (M P a). 公称ひずみ(%). 図3 静的および高速引張試験で得られた応力-ひずみ曲線 Fig.3 Nominal stress-strain curves for quasi-static and dynamic. tensile tests.. 引 張 強 さ (M P a). 0.001 0.1 10 1000. ひずみ速度(/s). 1200. 1000. 800. 600. 400. F. E D. B. A. 図4 鋼の引張強さに及ぼすひずみ速度の影響 Fig.4 Effect of strain rate on tensile strength of steels.. 高強度鋼板を用いたハット型構造部材の高速変形特性 49. 日新製鋼技報 No.88(2007). 30mm)と変えて,ナゲット径5.3√t mm(t:板厚). 前後の条件でスポット溶接を行った。また比較として,. フランジ部の長手方向に対して連続的にレーザー溶接し. たものを製作した。. 本試験は,質量190kgもしくは290kgの落錘を11.2m. の高さから自由落下させてハット型部材を軸圧潰変形さ. せるもので,落錘の衝突初速度は52km/h(実測値)で. ある。試験中は部材直下に設置したロードセルと,落錘. の移動距離を計測するレーザー変位計を用い,部材圧潰. 中の荷重と変位を連続測定した。ハット型部材の衝撃吸. 収能を評価する指標としては,試験で得られた荷重-変. 位曲線(いわゆる,荷重応答曲線)をもとに,荷重を. 180mmまで積分して求めた衝撃吸収エネルギーを採用. した。. 一部の鋼種では,落錘型軸圧潰試験との比較のため,. 1,000kN万能試験機を用いて約0.1mm/sの試験速度で静. 的軸圧潰試験を実施した。. 4.1.2 FEM解析. 解析には汎用の動的陽解法FEMソフトウェアである. LS-DYNAを用いた。解析で取り扱う衝突現象は,落錘. 型軸圧潰試験を再現させるため,ロードセルを想定した. 剛体壁の上に置かれたハット型部材に,試験と同一条件. で落錘を衝突させる現象とした。そこで,軸圧潰中の荷. 重変化は剛体壁が受ける反力の値を出力させた。. ハット型部材本体は対称性を利用して半分をモデル化. し,等方弾塑性体の3次元シェル要素を用いて約5mm. 角サイズに分割した。要素数はハット板と背面板で計. 2,400要素である。材料の変形特性は,3.1節の引張試験で. 張強さの関係を文献値9,13)と比較して示す。ここで,本研. 究の静動比は,図4に実線で示した鋼種ごとの引張強さ. に対するひずみ速度の関係を表わす実験式より,10-3/s. の静的引張強さと103/sの動的引張強さの値をそれぞれ. 算出して求めたものである。本研究で得られた静動比は. 材料組織の違いに依存せず,静的引張強さの増加につれ. て単調に低下する。. 図5に示した結果をもとに,静的引張強さ(TSS)と. 動的引張強さ(TSd)の関係を整理すると,式(1)が. 得られる。ここで,実験式の導出では,同一方式の高速. 引張試験装置を用いたWatanabeら9)のデータも併せて. 用いた。. TSd=3.89×TSS0.82 ……………………………(1). 動的引張強さは静的引張強さの約0.8乗の依存性を有. するが,これは,鋼の静的引張強さが上昇するにつれて. ひずみ速度の感受性は低下することを表している。. 4.ハット型部材の衝撃吸収能. 4.1 試験・解析方法. 落錘型軸圧潰試験とFEM解析によるハット型部材の. 衝撃吸収能の評価方法を以下に述べる。. 4.1.1 落錘型軸圧潰試験. 図6に試験で用いたハット型部材の形状と試験装置の. 概略を示す。本部材は440および590MPa級のGA鋼板を. 供試材とし,V曲げ成形したハット板と背面板を接合し. たもので,軸方向長さは300mmである。フランジ部の. 接合は溶接間隔を30,45,65mmの3水準(基準条件:. 1.8. 1.6. 1.4. 1.2. 1.0 200 400 600 800 1000 1200. :本研究 :Watanabe et al. 9) :中西ら13). 静 動 比 T S d /T S s. 静的引張強さTSs(MPa). ひずみ速度比:1000/s vs 0.001/s. A. B. D. E. F. 式(1). 図5 静的引張強さと静動比の関係 Fig.5 Relation between quasi-static tensile strength and dyna-. mic / static ratio of tensile strength.. a)ハット型部材 の断面形状 b)試験装置の概略. R4 R4. 110. 70. 70. 52km/h. 落錘. 30 0 ハット型部材. フランジ部. ロードセル. 図6 落錘型軸圧潰試験の概略 Fig.6 Schematic illustration of dynamic axial collapse test.. 高強度鋼板を用いたハット型構造部材の高速変形特性50. 日新製鋼技報 No.88(2007). 得られたデータをもとに,加工硬化挙動をSwift型のn乗. 硬化則で近似し,かつ,ひずみ速度の影響をCowper-. Symondsの式で表現した式(2)の形に定式化2)して. 解析を行った。. σ=F・(ε0+ε)n・{1+(ε・/D)1/P}………………(2). ここで,σは真応力,εは真塑性ひずみ,ε・はひずみ速. 度,F,n,ε0,DおよびPは引張試験で得られる材料固有. の定数である。. 溶接部のモデル化は,背面板とハット板の2枚の板. で構成されるフランジ部の一定間隔に配置した節点同. 士を,剛体ビーム要素で連結して表現した。V曲げ成. 形したハット板のコーナー部における加工履歴は無視. した。. これに合わせて,自動車のメンバー類の製造において. 主流であるドローベンド成形(ブランクホルダーでフラ. ンジ部を拘束するハット曲げ成形)14)がV曲げ成形に比. べて大きな加工履歴を受けることから,同加工方法を想. 定した成形と衝突の連成解析15)を行って,加工履歴の. 影響も調査した。. 連成解析では,成形解析で得られたハット板内の要素. ごとの板厚と相当塑性ひずみのデータを,別途作成した. 衝突解析用のハット型部材形状モデルの対応するそれぞ. れの要素に引き継ぎ,初期値として入力した。. 4.2 ハット型部材の軸圧潰変形挙動. 図7に52km/hの衝突初速度で軸圧潰したハット型部. 材の変形形状について,試験結果と解析結果を比較し. て示す。供試材は板厚1.4mmの590MPa級析出強化鋼. (鋼種B)である。衝突後のハット型部材は,蛇腹状に. 折り畳むように座屈変形しており,試験と解析は良く一. 致する。. 変 位 =. 19 0m m. 変 位 =. 19 0m m. a)変形前(解析) b)変形後(解析) c)変形後(試験) 30 0m m. 落錘. 52km/h 鋼種B. 図7 軸圧潰試験後におけるハット型部材の変形形状の一例 Fig.7 Typical deformed shape of hat square column after. dynamic axial collapse test.. 500. 400. 300. 200. 100. 0. 14. 12. 10. 8. 6. 4. 2. 0 0 30 60 90 120 150 180 0 30 60 90 120 150 180. 荷 重 (k N ). 鋼種B ―:試験 ―:解析. 変位(mm) 変位(mm). a)荷重応答曲線 b)衝撃吸収エネルギー推移. 衝 撃 吸 収 エ ネ ル ギ ー (k J). 図8 ハット型部材の荷重応答曲線と衝撃吸収エネルギー推移の一例 Fig.8 Typical impact load response curve and impact absorbed energy transition of hat square column.. 図8に同一条件で得られた荷重応答曲線と衝撃吸収エ. ネルギーの推移を示す。 荷重応答曲線は衝突初期に最. 大の荷重ピークを示して急減した後,一定高さレベルの. 荷重ピークが周期的に現れる様子がみられる。この荷重. 変動はハット型部材の変形とともに順次発生する座屈の. 周期と対応している。衝撃吸収エネルギーは部材の変形. につれてほぼ単調に増大するが,この衝撃吸収エネルギ. 高強度鋼板を用いたハット型構造部材の高速変形特性 51. 日新製鋼技報 No.88(2007). 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0. 衝 撃 吸 収 エ ネ ル ギ ー (k J). 板厚(mm). プロット:試験. 実 線:解析. 20. 15. 10. 5. 0. 590MPa級. 440MPa級. 式(3). A. B E C. 図10 衝撃吸収エネルギーに及ぼす板厚と引張強さの影響 Fig.10 Effect of thickness and quasi-static tensile strength on. the impact absorbed energy.. ーが大きいほど,ハット型部材の衝撃吸収能は高い。. 4.3 衝撃吸収能に及ぼす各影響因子の検討. 4.3.1 材料特性の影響. 図9にハット型部材の衝撃吸収エネルギーに及ぼす鋼. 板の静的引張強さの影響に関する試験結果を示す。図中. には,吸収エネルギーの静動比も併記した。供試材は. 440および590MPa級で,板厚が1.4mmと同一の鋼板. (鋼種A,B,E)である。 衝撃吸収エネルギーは,鋼. 板の静的引張強さの増加につれて線形に増大するが,析. 出強化鋼(鋼種B)とDP鋼(鋼種E)の衝撃吸収エネ. ルギーは同等であり,鋼板の材料組織の影響は明確には. 認められない。この傾向は,Watanabeら9)や佐藤ら16). の報告とも一致する。一方,ハット型部材の吸収エネル. ギーの静動比は鋼板の静的引張強さの増加に伴って減少. しており,ハット型部材の吸収エネルギーに対するひず. み速度の感受性は,静的引張強さの上昇につれて低下す. る傾向がある。. 本研究では衝撃吸収エネルギーに及ぼす材料組織の影. 響は認められなかったが,その原因について以下に考察. した。. ハット型部材が180mm軸圧潰した時点でのハット型. 部材全体の平均的なひずみ量を明らかにするため,. FEM解析を活用して試算を行った。鋼種A,B,Eの. いずれの場合も,相当塑性ひずみは約0.12であり,鋼板. の均一伸びに相当する値にまで達している。この試算. 400 500 600 700 800. 20. 15. 10. 5. 0. 2.0. 1.8. 1.6. 1.4. 1.2. 1.0. 板 厚:1.4mm :F+P :F+M. 衝 撃 吸 収 エ ネ ル ギ ー( kJ ). A B E. 静的引張強さ(MPa). 静 動 比. 図9 落錘型軸圧潰試験における衝撃吸収エネルギーと静的引張 強さの関係. Fig.9 Relation between impact absorbed energy in dynamic axial collapse tests and quasi-static tensile strength.. 結果は,本研究で用いたハット型部材の衝撃吸収エネ. ルギーは,降伏強さではなく,引張強さを用いて整理. することが妥当であることを示唆している。したがっ. て,降伏強さの異なる析出強化鋼とDP鋼でも同程度の. 衝撃吸収エネルギーが得られたものと考えられる。な. お,DP鋼は衝撃吸収能に優れるとの報告も見られるが,. これはDP鋼が固溶強化鋼や析出強化鋼に比べて予加. 工+塗装焼付け処理(通常,170℃×20minの熱処理). による強度上昇量が大きいこと17)が影響したものと考. えられる。. 図10にFEM解析で得られた衝撃吸収エネルギー(Eab). に及ぼす板厚(t)と静的引張強さ(TSS)の影響を,試. 験結果と比較して示す。図中の実線(式(3))が解析. で得られた推定式である。. Eab=K・t1.69・TSS0.74……………………………(3). ここで,Kはハット型部材サイズなどの影響を含む定. 数である。試験で得られたプロットは,この実線上にほ. ぼ分布し,解析結果とも良く一致する。式(3)より,. 鋼板の板厚や静的引張強さの増加につれて衝撃吸収エネ. ルギーは増加するが,引張強さに比べて板厚の影響の方. が大きいことが分かる。. 最後に,得られた結果をもとに,式(3)の具体的な. 活用として,鋼板の高強度化による軽量化効果について. 試算を行った。例えば,衝撃吸収能が要求される部材に. 板厚1.6mmの440MPa級鋼板が使用されている場合,剛. 性の低下に支障のない限り,590MPa級鋼板への置き換. えで約10%の軽量化が期待できる。. 高強度鋼板を用いたハット型構造部材の高速変形特性52. 日新製鋼技報 No.88(2007). 20. 18. 16. 14. 12. 10. 8. *1試験値. 解析値. 衝 撃 吸 収 エ ネ ル ギ ー (k J). 連続 溶接. 鋼種E. *1:平均値と変動幅. 30mm 45mm 65mm. スポット溶接. 図12 衝撃吸収エネルギーに及ぼすスポット溶接間隔の影響 Fig.12 Effect of spot welding pitch on the impact absorbed. energy.. 4.3.2 スポット溶接間隔の影響. 自動車構造部材は多くの場合,薄鋼板を用いてプレス. 成形された部品をスポット溶接して組み立てられること. から,衝撃吸収能に及ぼすスポット溶接間隔の影響を調. 査した。. 図11に65mm間隔でフランジ部を接合したスポット溶. 接部材とレーザー溶接した連続溶接部材を用いた軸圧. 潰試験後の変形形状をそれぞれ比較して示す。供試材. は板厚1.4mmの590MPa級DP鋼(鋼種E)である。座. 屈形態はどちらの部材も蛇腹状に軸圧潰する変形モー. ドであるが,フランジ部の変形挙動に差異が認められ. る。すなわち,連続溶接部材はハット板と背面板の2. 枚の板で構成されるフランジ部が折り重なるように座. 屈しているのに対して,スポット溶接部材はフランジ. 拘束力が低下することで2枚の板が追従せず,スポッ. ト溶接点以外の板同士が離れて隙間が発生する状況が. 観察される。. 図12に衝撃吸収エネルギーに及ぼすスポット溶接間. 隔の影響に関する試験結果を,解析結果と比較して示す。. スポット溶接間隔が大きくなるほどフランジ拘束力が低. 下するため,部材の衝撃吸収エネルギーは小さくなり,. 65mm間隔で溶接した場合は連続溶接したものに比べて. 17%低下する。この傾向はSatoら18)の軸圧潰試験結果. とも一致する。図中の解析値は試験結果とも比較的良く. 一致している。. a)スポット溶接部材. b)連続溶接部材. 図11 スポット溶接部材と連続溶接部材における変形形状の比較 Fig.11 Comparison of deformed shapes between spot welded. hat square column and continuous welded hat square column.. 4.3.3 加工履歴の影響. 自動車のメンバー類の製造において主流であるドロー. ベンド成形の工程を経て組み立てられた構造部材を想定. し,衝撃吸収エネルギーに及ぼす加工履歴(加工硬化と. 板厚減少)の影響について調査した。. まず始めに,衝突解析に加工履歴データを引き継ぐ. ため,事前に実施した成形解析によるハット板の板厚. 分布とハット板表層における相当塑性ひずみ分布の一. 例を図13に示す。成形解析は,590MPa級DP鋼(鋼種. E,寸法260×300×t1.4mm)を用い,下死点近傍(ス. トローク65~70mm)でブランクホルダー力(BHF). を上昇させるダブルアクションを実施した例である。. ハット縦壁部では,ブランクホルダーにより素材の流. 入が制限され,この縦壁部に張力が働くことで板厚減少. を生じるが,図13a)に示すように,大きな板厚減少は. フランジ部側の縦壁部末端(濃い青色を示す領域)に集. 中している。一方,図13b)に示す相当塑性ひずみ分布. からは,ハット縦壁部表層では,ダイ肩部を素材が通過. 高強度鋼板を用いたハット型構造部材の高速変形特性 53. 日新製鋼技報 No.88(2007). ら93kN(35~40mm)に変更するダブルアクションで. ある。ハット縦壁部の平均的な板厚減少率は試験値で約. 8%であり,解析結果とほぼ一致する。. 図15はダイ肩半径とBHF条件を変化させた時の衝撃. 吸収エネルギーを縦壁部の平均板厚減少率で整理した結. 果を示す。縦壁部の板厚減少率によらず,いずれの成形. 条件においても,衝撃吸収エネルギーはほぼ一定であり,. 加工履歴の影響は小さい。この傾向は,590MPa級DP. した際の曲げ・曲げ戻しと板厚減少に起因した加工硬化. が生じていることが確認できる。. 成形解析結果を検証するため,ハット型部材のフラン. ジ部長さに対して,1/10倍に縮尺した小型試験片(鋼. 種E,寸法200×30×t1.4mm)を供試材とし,エリクセ. ン試験装置によるハット曲げ成形試験を行い,成形後の. 板厚分布を調査した。図14に試験結果をFEM解析結果. と比較して示す。成形条件はダイ肩半径3mm,ストロ. ーク40mmで,BHFを4kN(ストローク0~35mm)か. 板厚減少箇所 加工硬化箇所. 30 0m m. 板厚(mm) 1.46. 1.44. 1.42. 1.40. 1.38. 1.36. 1.34. 1.32. 相当塑性 ひずみ 0.5 . 0.4 . 0.3 . 0.2 . 0.1 . 0 . a)板厚分布 b)相当塑性ひずみ分布. ダイ肩半径 (mm) 3. BHF(kN) 40 → 930. ダイ肩半径 素材. BHF. パンチ. ダイ. ストローク =70mm. ブランク ホルダー. 図13 ドローベンド成形後における板厚分布と相当塑性ひずみ分布の解析結果の一例 Fig.13 Typical distributions of calculated thickness and equivalent plastic strain after draw bending.. 0 2 4 6 8 10 12 14. 14. 13. 12. 11. 10. 9. 8. 衝 撃 吸 収 エ ネ ル ギ ー (k J). 縦壁部の平均板厚減少率(%). case1 case2 case3 case4 ベース. 鋼種E. 記号 ダイ肩半径 (mm) BHF(kN). 40(一定) 930(一定) 40 → 930 (可変). 加工履歴なし. 5. 3. case1. case2case3. case4. 図15 衝撃吸収エネルギーに及ぼすドローベンド成形条件の影響 Fig.15 Effect of draw bending conditions on the impact absorbed. energy.. 0 10 20 30 40 50 60 70. 1.5. 1.4. 1.3. 1.2. 1.1. 1.0. 0.9. 0.8. 0.7. 中心からの距離(mm). :試験 :解析. 板 厚 (m m ). ウェブ部 縦壁部. フランジ部. ウェブ部. 30mm. 板厚調査位置. 縦壁部. フランジ部. 図14 ハット曲げ成形後の板厚分布(鋼種E) Fig.14 Thickness distribution after draw bending.. 高強度鋼板を用いたハット型構造部材の高速変形特性54. 日新製鋼技報 No.88(2007). 16. 14. 12. 10. 8. 6. 4. 2. 0 :考慮あり. :考慮なし. 衝 撃 吸 収 エ ネ ル ギ ー (k J). 加工硬化に伴う 強度上昇の影響. 板厚減少による 強度低下の影響. 記号 加工 硬化. 板厚 減少. 図16 衝撃吸収エネルギーに及ぼす加工履歴の影響(鋼種E,成 形条件case4). Fig.16 Effect of the strain hardening and the thickness decrease after draw bending on the impact absorbed energy.. 鋼を用いた軸圧潰試験とFEM連成解析による吉武19)の. 調査結果とも一致する。. FEM解析の結果,加工履歴の影響は小さいものと推. 定されたが,その原因について以下に考察した。. 図16に衝撃吸収エネルギーに及ぼす加工硬化および. 板厚減少の影響を示す。なお,成形条件はダイ肩半径3. mmでダブルアクションを実施したケースを想定する。. この結果より,加工履歴の影響が小さいのは,加工硬化. に伴う強度上昇と板厚減少による強度低下の相互作用で. ほぼ相殺されたことが原因していることが分かる。. 5.結 言. 衝撃吸収能に優れた鋼板の選定や,車体構造部材を設. 計する上での指針を得るため,高速引張試験を行い,鋼. 板の高速変形特性について検討した。また,落錘型軸圧. 潰試験と衝突FEM解析により,フロントサイドメンバ. ーを模擬したハット型部材の衝撃圧潰変形挙動と衝撃吸. 収能に及ぼす因子の影響を調査し,以下の知見を得た。. (1)鋼板の引張強さは,ひずみ速度の上昇とともに増加. する。ただし,高強度化するほど静動比(ひずみ速度. 10-3/sの静的引張強さと103/sの動的引張強さの比)は. 低下し,ひずみ速度の感受性は小さくなる。. (2)ハット型部材の衝撃吸収エネルギーは鋼板の板厚と. 引張強さに大きく支配されるが,材料組織の影響は小. さい。. (3)ハット型部材を構成するハット板と背面板の溶接部. では,スポット溶接点間隔が大きくなるほど衝撃吸収. エネルギーは低下する。. (4)ドローベンド成形で製造されたハット型部材の場合,. 加工硬化と板厚減少の相互効果でほぼ相殺されるた. め,衝撃吸収エネルギーに及ぼす加工履歴の影響は小. さい。. 参考文献. 1)大坂邦明, 森健雄:自動車の衝突安全性と高張力鋼板の高速変. 形特性, 日本鉄鋼協会, 東京, (1997), 9.. 2)A.Uenishi, M.Suehiro, Y.Kuriyama and M.Usuda:IBEC ’96,. 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Rep., 385 (2006), 32.. 12)吉武明英:自動車用材料の高速変形に関する研究会成果報告. 書, 日本鉄鋼協会, 東京, (2001), 5.. 13)中西栄三郎, 板橋正章, 河田幸三:日本機械学会材料力学部門. 講演会講演論文集, 920-72 (1992), 519.. 14)日本塑性加工学会編:塑性加工技術シリーズ14「曲げ加工」,. コロナ社, 東京, (1995), 67.. 15)麻寧緒, 梅津康義:平成12年度塑性加工春季講演会, (2000), 17.. 16)K.Sato, T.Hira and A.Yoshitake:J. Jpn. Soc. Technol. Plast.,. 534 (2005), 641.. 17)渡辺憲一, 岩谷二郎, 岡野洋一郎:自動車の衝突安全性と高張. 力鋼板の高速変形特性, 日本鉄鋼協会, 東京, (1997), 73.. 18)K.Sato, A.Yoshitake, Y.Hosoya andT.Yokoyama:IBEC ’97,. Interior, Safety & Environment, Automotive Technology. Group Inc., Michigan, (1997), 1.. 19)A.Yoshitake:Bull. Iron Steel Inst. Jpn., 10 (2005), 309.

参照

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