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高齢糖尿病患者の血糖自己測定手技獲得時の困難さに影響する要因とその看護の実態

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Academic year: 2021

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原 著. 高齢糖尿病患者の血糖自己測定手技獲得時の困難さに影響する. 要因とその看護の実態. 阿部 麻 里 �) ・大 江 真 琴. �) ・池 田 真 理. �) ・村 山 陵 子. �)�) ・小見山智恵子. �) ・真 田 弘 美. �)�). �)東京大学大学院医学系研究科社会連携講座アドバンストナーシングテクノロジー �)金沢大学医薬保健研究域保健学系. �)東京女子医科大学看護学部看護管理学領域 �)東京大学大学院医学系研究科附属グローバルナーシングリサーチセンター. �)東京大学医学部附属病院看護部 �)東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻老年看護学/創傷看護学分野. Factors affecting blood glucose self-monitoring skill acquisition:. Nursing interventions for elderly individuals with diabetes. Mari Abe-Doi �) ;Makoto Oe. �) ;Mari Ikeda. �) ;Ryoko Murayama. �)�) ;. Chieko Komiyama �) and Hiromi Sanada. �)�). 1) Department of Advanced Nursing Technology, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo 2) Department of Clinical Nursing, Faculty of Health Sciences, Institute of Medical, Pharmaceutical and Health Sciences, Kanazawa. University 3) Department of Nursing Administration, School of Nursing Tokyo Women's Medical University. 4) Global Nursing Research Center, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo 5) Department of Nursing, The University of Tokyo Hospital. 6) Department of Gerontological Nursing/ Wound Care Management, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo. Abstract. Purpose: With the increase in the number of elderly patients with diabetes, there is a need for education of. self-monitoring of blood glucose (SMBG) skills, as well as for the device development for SMBG suitable for the elderly.. This study aims to explore the nursing care given and the factors affecting SMBG skill acquisition for elderly patients.. Methods: Focus group interviews with nurses was conducted for data collection, and an inductive analysis was. performed. Results: The following parameters were reported as factors influencing the acquisition of the SMBG skills:. physical response or deterioration (such as eyesight, hearing ability, and dexterity), adaptability to acquiring a new skill,. inadequacy of the educational environment, and a person-device mismatch. The clinical nurses provided care for (1). difficult factors in acquiring SMBG skills, (2) difficulties in acquiring the SMBG skill, and (3) challenges produced by. difficulties in acquiring the SMBG skill. Repeatedly facing difficulties might lead to the manifestation of negative emotions,. such as frustration, sorrow, and a decreased motivation to learn the SMBG skill. Conclusions: It is important to encourage. patients to participate in planning education or evaluation, and provide nursing care to enhance their self-efficacy.. Key words: elderly, diabetes, education, self-monitoring of blood glucose. ― 122 ―. 看護理工,8:122〜133,2021. 連絡著者:真田 弘美 受領日 2020 年�月 12 日. 東京大学大学院医学系研究科附属グローバルナーシングリサーチセンター. 〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1. E-mail:hsanada-tky@umin.ac.jp. 要 旨. はじめに:高齢の糖尿病患者数の増加に伴い,高齢者に適した血糖自己測定(SMBG)の教育やデバイスのニーズは. 高い.そこで,高齢者が SMBGの手技獲得時の困難さに影響する要因と看護の実態を検討した.方法:SMBGの教育を. 行う看護師にフォーカス・グループ・インタビューを行い,質的帰納的に分析した.結果・考察:高齢者の SMBG 手技. 獲得時の困難さに影響する要因は<身体の機能低下や反応>,<新しい技術習得時の適応力の低下>,<教育環境の不. 備>,<デバイスとのミスマッチング>,であることが明らかとなった.看護師は[手技獲得時の困難さに影響する要. 因への看護],[手技獲得時の困難さへの看護],[手技獲得時の困難さにより生じるものへの看護]をしていた.困難を. 繰り返し経験すると,苛立ちや悲嘆,手技獲得の意欲低下など<負の感情>が生じる可能性があり,学習目標の設定,. 評価に患者の参加を促すことや,自己効力感を高める看護の必要性が示唆された.. キーワード:高齢者 ,糖尿病 ,教育 ,血糖自己測定. キーメッセージ. �.今回の研究は看護・介護のどのような問題をテーマにしているのか?. 研究を行うきっかけとなったことはどのようなことか?. 高齢者に血糖自己測定手技を指導する際に,スムーズに進まない要因はなにかと考えたこと.. �.この研究成果が看護・介護にどのように貢献できるのか?あるいは,将来的に貢献できることは何か?. 高齢者がスムーズに血糖自己測定手技を獲得できなくても,失敗と感じさせない指導の提供が,モチベーション低. 下を防ぐことにつながる.. �.今後どのような技術が必要になるのか?. 高齢者が簡便に使用できる血糖測定器の開発が必要である.特に,必要物品の数,測定までの工程数が少ないこと. が重要である.. 緒 言. 糖尿病治療の目標は,血糖コントロールにより,合. 併症の進行を予防し,健康な人と変わらない生活の質. と寿命を確保することである 1) .合併症を予防するた. めの血糖コントロールにセルフモニタリングは欠かせ. ない.セルフモニタリングには,血糖自己測定(Self-. Monitoring Blood Glucose:SMBG),体重,運動,食. 事の記録などがあるが,特に SMBG が有用とされて. いる 1)2) .インスリン強化療法における SMBG フィー. ドバックが合併症および進展予防に有用とされてお. り 3) ,米国糖尿病学会の糖尿病の標準的治療において. も,SMBG に基づくインスリン調整は,血糖コント. ロール改善に有用とされている 4) .また日本糖尿病学. 会の診療ガイドラインにおいても,SMBG は血糖コ. ントロールに有用であることが示されている 1) .. 上記のように,SMBG は普段の療養生活において. も有用であると同時に低血糖の早期発見に非常に重要. といえる.高齢の糖尿病患者は,腎機能低下による薬. 効遷延や,食事量の低下などから低血糖を起こしやす. い 5)6) .重症低血糖は認知症発生率の上昇や,冠動脈イ. ベントを起こすため予防が重要である 7)−10) .高齢者は. 低血糖症状が消失または,非典型的なため 11) ,重症低. 血糖の早期発見には血糖を測定する必要がある.患者. 自身が血糖値を知るためには,SMBG以外に持続血. 糖測定(Continuous Glucose Monitoring:CGM)や. フラッシュグルコースモニタリング(Flush Glucose. Monitoring:FGM)などの血糖推定法があり,CGM. や FGM は,血糖値のトレンドを知るには SMBGよ. りも有用である.しかし,急速に低血糖が生じている. 際,リアルタイムで血糖値を把握するには,SMBG. 以外は間質液内のグルコースを血糖値に換算するた. め,5−10 分のタイムラグがあること,CGM は. SMBG を�日数回行い補正する必要があること,. CGMと FGM は常時皮下に針を刺した状態で過ごす. ため,異物(センサー)に対して生体反応が生じ,そ. れが測定結果に反映する可能性があることなどの問題. がある.したがって,日常生活で血糖値をリアルタイ. ムに知るためには,SMBGが必要である.. 一般的に SMBG で血糖値を測定するには,指先に. 針を刺して血液を絞り出し,その血液をセンサーに採. 取させるという細かい作業が必要である.また,血液. を扱うため,衛生面から針やセンサーはディスポーザ. ブルが原則であり,穿刺具へ針を取り付けたり,セン. サーを測定具へ取り付けたりする作業がある 12) .高齢. 者は,加齢に伴い記憶力,巧緻性,視力などの低下が. あり 13) ,高齢者を対象とした先行研究では,いったん. 習得した SMBG 手技でも,採血量の不足,針が出て. こない,などの失敗を経験していることが報告されて. いる 14) .高齢者が血糖自己測定器を選択する際,ディ. スプレイ表示の見やすさや使用後の針の外しやすさを. 重視していることも知られている 15) .高齢者が SMBG. 看護理工学会誌(2021). ― 123 ―. の手技を獲得するときには,血液を絞り出すことがむ. ずかしい,センサーへの血液の採取がむずかしい,な. どの困難さが生じていることは報告されているもの. の 16) ,手技獲得時の困難さに影響する要因やそれに対. し提供されている看護についてはまだ明らかにされて. いない.そのため,どのような看護が必要か不明であ. る.そこで,今後の SMBG指導における看護技術や. デバイス開発のために,困難さに影響する要因を明ら. かにすることが必要であると考えた.この研究の目的. は,SMBG 手技の教育経験のある看護師にインタ. ビューし,看護師の認識する高齢の糖尿病患者におけ. る SMBG手技獲得時の困難さとそれに影響する要因,. それらへ看護師が提供している看護の実態を記述する. ことである.. 方 法. 本研究では,包括的で幅の広いデータを得るため. に,フォーカス・グループ・インタビュー(Focus. Group Interview:FGI)を用いた.FGI とは,ある. 特定の話題に関して,選ばれた複数の個人によってリ. ラックスした雰囲気のなかで行われる議論である 17) .. この研究における困難さとは,SMBG 手技獲得時. に高齢者ができないこと,高齢者にとってむずかしい. ことを示す.. �.参加者. 大学病院�施設の看護師に,院内の糖尿病看護研究. 会のメーリングリストの使用と機縁法にて参加希望者. を募集した.選定基準は高齢者に SMBG の教育経験. があり,�年以上の臨床経験のある看護師とした.参. 加者には,データは研究目的以外には使用されないこ. と,データは研究終了後�年以内に廃棄されること,. 結果公表の際にも個人が特定されないことを伝え,文. 書で同意を得た.本研究は,東京大学医学部倫理委員. 会より承認を得て実施した(承認番号 10468).. �.データ収集方法. 高齢者の SMBG 手技獲得時に生じている事象を広. くとらえるために,糖尿病の診断がついていないケー. ス(例:周術期やステロイド治療時の血糖コントロー. ルのための SMBG)についての情報も得られるよう. インタビューガイド(表�)を作成した.その作成の. ため,糖尿病看護認定看護師にプレインタビューを. 行った.�−�名になるよう�つのグループに分け,. �回ずつ FGI を実施した.グループの分け方に基準. は設けず,参加者が都合の良い日程を選択し参加し. た.インタビューに先立ち,基本属性の情報を質問紙. にて参加者に尋ねた.FGI について�日間の研修を受. けた研究者が司会を行った.FGI を始める前に司会者. �名と観察記録者�名が自己紹介し,インタビューの. 目的について説明を行った.続いて,参加者に自己紹. 介をしてもらい,高齢の糖尿病患者における SMBG. 手技獲得時の困難さに影響する要因とそれらに対する. 看護の工夫を自由に語ってもらい,その内容を録音し. た.司会者はオープンエンディッドクエスチョンと半. 構造化された質問をインタビューガイドに従って行っ. た.インタビューは各回�時間程度であり,データ収. 集は 2014年�月と�月に行った.. �.分析. 得られた音声データは逐語録に書き起こし,質的帰. 納的分析を行った.概念を分析の最小単位とし,コー. ディングを行った.逐語録から,高齢の糖尿病患者の. 「SMBG 手技獲得時の困難とその要因」,「SMBG 手技. 獲得時に生じている困難やそれに影響する要因に対し. て実施している看護」について読み取れる部分を抜き. 出し,概念を生成していった.概念は共通する内容ご. とに分類してまとめ,小カテゴリーを生成し,さらに. 共通するものを中カテゴリー,大カテゴリーと生成し. ていった.その間に繰り返し語られた元のデータに戻. り,分析のプロセスを通して質的分析を経験したこと. のある研究者の確認を随時受け,データ分析の妥当性. を確かめながらカテゴリー生成に反映させた.. 看護理工学会誌(2021). ― 124 ―. 表� インタビューガイド. �.糖尿病のみに限らず,たとえばほかの疾患や治療からの高血糖状態で自己血糖測定が必要な患者(術後やステロイ. ド治療)への指導経験も含めて,高齢者への血糖自己測定手技の指導経験をお話しいただけますか.. �.高齢の糖尿病患者の血糖自己測定手技獲得時の困難はなんですか.. �.高齢の糖尿病患者の血糖自己測定手技獲得時に生じている困難にどのような看護ケアをしていますか.. �.高齢の糖尿病患者の血糖自己測定手技獲得時に生じる困難の要因はなんですか.. �.高齢の糖尿病患者に血糖自己測定手技獲得時に生じている困難の要因に対してどのような看護ケアを行っています. か.. なにかほかに,話し忘れたことなどがありますか.. もし,後日思い出したことなどがあれば,ご連絡ください.. 結 果. �.参加者の属性. 参加希望のあった9名全員が対象となった.参加者. 属性を表�に示す.日本糖尿病療養指導士の有資格者. は�名であった.臨床経験は 9.9±4.3(平均±標準. 偏差)年であった.. �.分析結果. 分析対象データ数は,203 であった.�つの大カテ. ゴリーが抽出された.中カテゴリーは 18,小カテゴ. リーは 57 であった.本文では大カテゴリーを[],中. カテゴリーを<>,小カテゴリーを≪≫で示す.斜体. は実際のインタビューの際の看護師の発言である.図. にカテゴリー間の関係を示す.. �.高齢者のSMBG手技獲得困難のプロセス. 高齢者の SMBG手技獲得時には,[手技獲得時の困. 難さに影響する要因]によって[手技獲得時の困難. さ]が生じ,その困難を繰り返し経験した結果,[手. 技獲得時の困難さにより生じるもの]として<経済的. 負担>や<負の感情>が生じているプロセスが明らか. になった.. �.生成されたカテゴリー. �)手技獲得時の困難さに影響する要因. [手技獲得時の困難さに影響する要因]は,<身体. の機能低下や反応>,<新しい技術習得時の適応力の. 低下>,<教育環境の不備>,<デバイスとのミス. マッチング>の�つの中カテゴリーから生成された.. (�)身体の機能低下や反応. <身体の機能低下や反応>とは,身体機能と感覚器. 機能の低下,および疼痛による要因を示す.≪視力や. 聴力低下により文字やボタン,デバイスのサイン音が. 認識できない≫,≪手指巧緻性の低下により作業がむ. ずかしい≫,≪血行不良のため血が出にくい≫,≪穿. 刺時の疼痛により十分な穿刺ができない≫の�つの小. カテゴリーから生成された.. ≪視力や聴力低下により文字やボタン,デバイスの. サイン音が認識できない≫について,「遠近感が分か. らないのかな.針と穿刺具がずれる」,「少量の血液が. 見えづらい」と,視力低下が手技に影響していること. に加え,「聴力低下により看護師の指導が聞こえてい. ない可能性があります」,「センサーがセットされたと. きの電子音が聞こえない人もいる」,と聴力の低下に. よって指導内容が十分伝わらない可能性や,センサー. セットが正しくできた場合にもそれを認識できず,行. うべき手順をクリアできたか否か,患者本人が認識し. づらい状況へつながっていた.. ≪手指巧緻性の低下により作業がむずかしい≫につ. いては手指の振戦により,血液の採取がむずかしいこ. とや針と穿刺具のセット,小さいセンサーをつまむこ. とがむずかしいことが語られた.また動作に時間がか. かるため,測定する準備ができたときには,デバイス. の電源が省エネ目的の自動オフ機能によって,電源が. 切れており,測定する準備をやり直すことになってし. まうことがあると語られた.. ≪血行不良のため血が出にくい≫と,穿刺しても必. 要血液量の確保がむずかしいことや,≪穿刺時の疼痛. により十分な穿刺ができない≫と,穿刺時の疼痛のた. め,指が反射的に針から逃げてしまい十分な穿刺がで. きないことも語られた.. (�)新しい技術習得時の適応力の低下. <新しい技術習得時の適応力の低下>とは,高齢者. 特有の考え方,記憶力や応用力の低下による要因を示. す.≪新しいことへの心理的抵抗や血糖コントロール. へのモチベーションが低い≫,≪記憶力,応用力の低. 下により,自ら工夫することや一度経験した失敗を生. かすことができない≫,≪記憶力の低下により作業手. 順を覚えられない,またはいったん獲得した手技を忘. れる≫,≪認知力,理解力の低下により手順を間違え. る≫,≪思い込みから正しい手技を獲得できない≫,. の�つの小カテゴリーから生成された.. ≪新しいことへの心理的抵抗や血糖コントロールへ. のモチベーションが低い≫については,「新しいこと. をするのに抵抗がある」,「血糖測定やインスリン注射. の穿刺の痛い思いをしてまで長生きしたくない」など. 血糖測定を行うこと自体への心理的抵抗について語ら. れた.. ≪記憶力,応用力の低下により,自ら工夫すること. や一度経験した失敗を生かすことができない≫では,. 「(血液の絞り出しのポイントを)言わなかったらいつ. までも苦戦してうまくいかない」,また失念により清. 潔にした部分に触って不潔にしてしまう,何度も同じ. 失敗を繰り返す,デバイスの自動電源オフ機能の時間. に合わせて工夫することがむずかしい,など経験を記. 看護理工学会誌(2021). ― 125 ―. 表� 対象者の属性. グループ 参加者 性別 臨床経験年数(年). A. #1 女性 10. #2 女性 14. #3 女性 4. #4 女性 7. #5 女性 15. B. #6 男性 5. #7 女性 14. #8 女性 7. #9 女性 13. 看護理工学会誌(2021). ― 126 ―. 図 S M B G 手 技 獲 得 に お け る 困 難 の プ ロ セ ス と 看 護. 憶し工夫することのむずかしさが語られた.. ≪記憶力の低下により作業手順を覚えられない,ま. たはいったん獲得した手技を忘れる≫では,「見慣れ. ないものを提示されるので,その物品を覚えるのが大. 変」,「その時はできてもつぎの時にはできなかったり. する」,「何かで中断して,心不全とかでやらない時期. があると(血糖測定の方法を)忘れてるんですよ」,. と物品を覚えることの困難や,一度獲得しても体調不. 良により中断する時期があると忘れてしまうなど記憶. 力の低下が影響している様子が語られた.. ≪認知力,理解力の低下により手順を間違える≫. は,手順がすべて書いてあるものを見ながらでもでき. ない,毛細管現象で血液を採取するということが理解. できず,血液採取部ではないところへ血液を近づけよ. うとする,理解するまでに何度も説明が必要である,. という概念から生成された.「高齢者は,説明がなか. なか通じず,�回言って�回通じる感じがする」,「そ. れ(メーカー作成の手順書)を見ながらでも,できな. い人はできないですね」などと指導のむずかしさが語. られた.. ≪思い込みから正しい手技を獲得できない≫に関し. ては,今までの経験に基づいて穿刺具を形状の似たペ. ンをもつような持ち方をするために,意図せず穿刺ボ. タンに触れて針を出してしまうことや,膿を絞り出す. ときのように局所だけを圧迫して血液を絞り出そうと. するものの効果的ではない,など思い込みや経験が. ハードルになっていることが語られた.. (�)教育環境の不備. <教育環境の不備>は,指導者,指導場所,指導方. 法,治療スケジュール,キーパーソンなど教育にかか. わる要因を示す.≪指導場所(ベッドサイド)が暗い. ≫,≪治療スケジュールのため,SMBG の指導に十. 分に時間が取れない≫,≪シフト制のため継続して同. じ指導者が指導できない≫,≪指導者の声掛けや態度. によって患者を焦らせてしまうことがある≫,≪患者. の理解できる言葉で指導できていない≫,≪指導者が. 教育を制限することがある≫,≪支援してくれる家族. がいない≫,の:つの小カテゴリーから生成された.. ≪指導場所(ベッドサイド)が暗い≫については,. 大部屋でカーテンがしまっていると暗いことや,患者. が窓際での指導を希望するなど,指導場所の明るさが. 求められる語りがあった.. ≪治療スケジュールのため,SMBG の指導に十分. に時間が取れない≫ことについては,手術日までとい. う期限のあるなかで覚えなければいけないという条件. や,インスリンの導入や食事指導など SMBG 手技以. 外にも習得すべきことが多く,患者が混乱している様. 子が語られた.. ≪シフト制のため継続して同じ指導者が指導できな. い≫と勤務の都合で,同じ指導者が継続して指導でき. ず統一した指導がむずかしいことも語られた.. ≪指導者の声掛けや態度によって患者を焦らせてし. まうことがある≫とは,誤りを注意され,慌てるとま. た同じエラーを繰り返すことや,指導者が焦ると患者. も焦る,デバイスの自動電源オフ機能が作動する時間. を気にして,看護師が声掛けをすると焦ってしまう,. などの概念から生成された.. ≪患者の理解できる言葉で指導できていない≫につ. いては,穿刺具の持ち方の説明をしてもそのとおりに. はもてないことや,清潔の概念が看護師と異なるた. め,一度消毒した部位に息を吹きかけてしまうなどコ. ミュニケーションがうまく取れないことが以下のよう. に語られた.「消毒が乾くまで待てばいいんだって. 言っても伝わらず,消毒した部位に息を吹きかけてし. まう」,「うっ血させて穿刺すると血液が出しやすいと. 説明するが,伝わらずできない」.. ≪指導者が教育を制限することがある≫とは,何度. も説明をすると患者が不機嫌になるため十分指導でき. ないことや,指導者が清潔保持やごみの分別をあきら. めて指導していないことであり,下記のように語られ. た.「しつこく説明すると気を悪くされる方もいて,. 間違っているけども,言えない」,「ごみの分別はうる. さく言いません.しょうがない.」,「清潔は望めませ. ん」.. ≪支援してくれる家族がいない≫とは,同居家族の. 高齢化や独居という,高齢者特有の課題であるキー. パーソン不在による教育時のサポート不足が語られ. た.. (�)デバイスとのミスマッチング. <デバイスとのミスマッチング>とは,患者に適し. ていないデバイスが使用されていることを示し,≪患. 者に適したデバイスが選択されていない≫,≪手指巧. 緻性や記憶力を要求する煩雑なデバイス≫の�つの小. カテゴリーから構成される.. ≪患者に適したデバイスが選択されていない≫で. は,直接指導を行っていない医師がデバイスを選択す. るため,デバイスが患者に適していないことがあるこ. とが語られた.. ≪手指巧緻性や記憶力を要求する煩雑なデバイス≫. については,「穿刺具を高齢者がつかむと,意図せず. に穿刺ボタンに触れてしまう」「センサーが逆でも. 入ってしまう」などの器具の形状に関連することや,. 一定の時間が経つと自動で電源がオフになり,測定す. るために電源を入れなおす必要があるという機能面に. 関すること,穿刺具と針,測定器とセンサーをセット. する必要があるなど,手順が煩雑なことへの指摘が. 看護理工学会誌(2021). ― 127 ―. あった.. �)手技獲得時の困難さに影響する要因への看護. (�)身体の機能低下や反応への看護. <身体の機能低下や反応への看護>は身体機能と感. 覚器機能の低下への看護である.≪眼鏡の使用を促す. ことや,表示の見やすいデバイスを選択している≫,. ≪穿刺前に手をこすりあわせて,血行をよくするよう. に指導している≫,≪手指巧緻性の低下を補う方法や. ツールを教えている≫の�つの小カテゴリーから生成. された.. ≪眼鏡の使用を促すことや,表示の見やすいデバイ. スを選択している≫については,インタビューで. 「ちゃんと眼鏡をかけたりとか,そういうのを面倒く. さがらないようにしてもらう,まずそういうところか. ら準備する」,「センサーがセットされたとき OK と. 大きく表示されるデバイスを選択している」などが語. られた.. ≪穿刺前に手をこすりあわせて,血行をよくするよ. うに指導している≫では,血行を良くするために,ご. しごしと手をこすり合わせる動作を行い,患者に伝え. ていた.. ≪手指巧緻性の低下を補う方法やツールを教えてい. る≫は,指用の駆血帯を使用することや,手指振戦が. ある人にはテーブルに指を置いて上から穿刺する方法. を教えている,力が弱く穿刺針のセットがむずかしい. 場合は,テーブルに針を押し付けてセットする方法を. 指導しているなどが語られた.. ≪穿刺時の疼痛により十分な穿刺ができない≫に対. しては,疼痛を和らげるような看護は語られなかっ. た.. (�)新しい技術習得時の適応力の低下への看護. <新しい技術習得時の適応力の低下への看護>と. は,記憶力および応用力の低下や高齢者特有の考え方. への看護である.≪消耗品の取り付け方向や,穿刺の. 深さの指定,穿刺具の持ち方や,センサーを近づける. 角度まで細かく指導している≫,≪繰り返し指導す. る≫,≪家族にも一緒に指導している≫,≪患者の理. 解に合わせて手順書を作成したり,選択したりしてい. る≫,≪失敗しやすいステップで声をかけている≫の. �つの小カテゴリーから生成された.. ≪消耗品の取り付け方向や,穿刺の深さの指定,穿. 刺具の持ち方や,センサーを近づける角度まで細かく. 指導している≫とは,センサーのセット方向を間違え. ないように,センサーと挿入部の模様を合わせるよう. に声掛けをしていたり,血液採取時のセンサーを近づ. ける方向を指定したり,穿刺具に指を置く位置をマ. ジックでマーキングするなどのことである.. ≪繰り返し指導する≫については,「繰り返すって. いうことで習慣づけるっていうのはします.同じ手順. 書を使って」,「繰り返しするしかない」と語られた.. ≪家族にも一緒に指導している≫については,「ご. 高齢の方だと真っ先に一緒に見てくれる人を探しま. す.探して一緒に覚えてもらう」,「家族も一緒に覚え. てもらうとか同居の人に覚えてもらうっていう工夫は. してます」と語られた.. ≪患者の理解に合わせて手順書を作成したり,選択. したりしている≫は,写真付きの手順書を使ったり,. メーカー作成のマニュアルが患者にとって情報が多す. ぎる場合は,血糖測定手技の要点のみを記載した手順. 書を作成することである.. ≪失敗しやすいステップで声をかけている≫は,穿. 刺針を誤ったタイミングで作動させないために「(手. 順書には)書いてないけど,穿刺ボタンを押さない. で,針を差し込んでくださいって言います」という言. 葉で語られた.. (�)教育環境の不備への看護. <教育環境の不備への看護>とは,指導方法や,指. 導者,指導場所など教育のための環境の不備に対して. 行っている看護のことである.. ≪患者が指導に集中できるよう「学習時間であるこ. と」の意識を促したり,指導者も焦らないように気を. 付けている≫,≪指導者が異なっても統一した指導が. できるよう進捗を共有している≫,≪患者に合わせて. 指導の時間や量を調節している≫,≪照明を調節して. いる≫,の�つの小カテゴリーから生成された.. ≪患者が指導に集中できるよう「学習時間であるこ. と」の意識を促したり,指導者も焦らないように気を. 付けている≫では,「(医師の指示による血糖測定の時. 間に指導すると),また説明してるって思われちゃう. ので,(別に)時間を設けて『今から,勉強の時間で. す』みたいな感じでやってましたね」と,指導時間を. 明確に「学習の時間」とし意識の変化を促すことや,. 「業務的なことで申し訳ないが,自分の勤務中に血糖. 測定を教えないといけないときには,業務量の多い時. 間に教えることは避けようとします.自分がイライラ. してしまうので」と指導者であるナースも落ち着いて. 指導できる時間帯を選択するという工夫がなされてい. た.. ≪指導者が異なっても統一した指導ができるよう進. 捗を共有している≫は,下記のように作業ステップに. 番号をつけて,指導するスタッフ間で共有したりして. いることが語られた.「今日はどこまで指導しててど. こができなかったっていうのをどんどん(記録に)足. して,みんな(スタッフ)が見て」.. ≪患者に合わせて指導の時間や量を調節している≫. は,患者の学習能力を考慮して,�回の指導の時間の. 看護理工学会誌(2021). ― 128 ―. 調整をしたり,一度に全手順を指導しないようにした. り,調整していることが語られた.. ≪照明を調節している≫は,大部屋の廊下側にベッ. ドが位置する際など,ベッドサイドが暗いときに照明. を調節することである.. (�)デバイスとのミスマッチングへの看護. <デバイスとのミスマッチングへの看護>とは,患. 者とデバイスのミスマッチングを解消するための看護. のことである.≪間違いを起こしにくいデバイスを選. 択している≫とは,センサーをセットすると自動で電. 源が入る測定具や,消耗品(センサー)の向きを間違. えてセットできない構造のデバイスを選択することで. ある.. �)手技獲得時の困難さ. [手技獲得時の困難さ]は,<物品を揃えられない>,. <測定具や穿刺具の組み立てができない>,<必要血. 液量の確保ができない>,<清潔保持ができない>,. <片付けができない>という血糖測定の手順に沿った. �つの中カテゴリーが生成された.. (�)物品が揃えられない. <物品を揃えられない>とは,≪必要な物品を揃え. られない≫や,≪必要物品を適切な数で揃えられな. い≫,≪インスリン注射物品と間違える≫など,血糖. 測定に必要なものを適切に準備することができないこ. とである.. (�)測定具や穿刺具の組み立てができない. <測定具や穿刺具の組み立てができない>とは,セ. ンサーを正しく測定具にセットできないことや,針を. 穿刺具にセットできず,測定や穿刺ができる状態に準. 備を整えられないことである.. (�)必要血液量の確保ができない. <必要血液量の確保ができない>とは,≪穿刺が不. 十分≫,≪血液を出すのがむずかしい≫,≪穿刺部の. 圧迫がむずかしい≫という出血させるまでの困難と,. ≪センサーへの採取がむずかしい≫,≪センサーを適. 切な角度で血液に近づけられない≫という血液をセン. サーに採取することのむずかしさが示された.. (�)清潔保持ができない. <清潔保持ができない>とは,消毒した部分に触れ. て不潔にしてしまう,穿刺部を消毒したあとに必要物. 品を準備するため穿刺部の清潔が保たれない,不潔に. なったアルコール綿で消毒する,などのことである.. (�)片付けができない. <片付けができない>とは,≪ごみの分別ができな. い≫,≪収納ケースにデバイスを戻せない≫,≪セン. サーを外すのを忘れる≫など,血糖測定実施後の片付. けの段階での困難である.. �)手技獲得時の困難さへの看護. [手技獲得時の困難さへの看護]では,困難ごとに. 対応して語るのではなく,全体を通してのケアが語ら. れた.<測定できるという成功体験をさせる><ポジ. ティブフィードバックをする>の�つの中カテゴリー. に分類される.. (�)測定できるという成功体験をさせる. <測定できるという成功体験をさせる>は,患者が. 自らの力のみでは,血糖測定が成功しない場合に,. ≪看護師が直接介助し血糖測定ができるよう支援して. いる≫ことである.具体的には,患者が血液採取をう. まく行えなかった場合に看護師が手伝いを申し出た. り,準備に時間がかかり測定前に測定器の自動電源オ. フ機能が作動したときに看護師が電源を入れ直したり. することである.. (�)ポジティブフィードバックをする. <ポジティブフィードバックをする>とは,≪モチ. ベーションアップのために,できたところまでを褒め. ている≫ことを示す.「工夫として褒める,そしたら,. やる気にもつながるし覚えようっていう気にもなる. し,同じことができるようになって積み重なっていく. と思うんです」,「モチベーションもあげられるかもし. れない.あがってるかどうか,知らないですけど.で. も,少しは違うような気がするので」と語られた.. �)手技獲得時の困難さにより生じるもの. [手技獲得時の困難さにより生じるもの]は,. SMBG 手技獲得時の困難を繰り返し経験した結果,. 生じるものである.<経済的負担>,<負の感情>の. 中カテゴリーから生成された.. <経済的負担>は,失敗により消耗品が無駄にな. り,経済的に負担がかかっていることを示す.「(穿刺. に失敗すると)お金が結構かかるから,つらいのよ,. �回でうまくいかなくて,何回もやっちゃうと負担が. ね,っていう声が結構ある」.. <負の感情>は,困難を繰り返し経験することによ. り,生じる感情を示す.≪困難感を繰り返し経験する. ことにより SMBG 手技獲得の意欲が低下する≫,. ≪困難感を繰り返し経験することにより苛立つ≫,. ≪困難感を繰り返し経験することにより悲嘆する≫,. ≪困難感を繰り返し経験することにより諦めの感情が. 生じる≫,≪手技の間違いにより,焦燥感が生じる≫. の�つの小カテゴリーから生成された.負の感情が生. じる様子が下記のように表現されている.「同じ失敗. を繰り返すと患者が苛立つっていうか,やる気をなく. してくる」,「できなくて悲しくなるか,イラっとする. か」,「『やっぱりぼけちゃってできないわ』ってなっ. ていく」,「間違うと『わぁ』って焦る」.. 看護理工学会誌(2021). ― 129 ―. �)手技獲得時の困難さにより生じるものへの看護. [手技獲得時の困難さにより生じるものへの看護]. における中カテゴリーは<経済的負担を軽くするため. の指導>のみであった.これは,エラーにより消耗品. (穿刺針)が使用できなくなることに対して,安全に. 問題のない状態(意図せず,穿刺ボタンに触れてしま. い針が出てしまったものの,実際の穿刺は行われてい. ない状態)に限り,再度穿刺できるようにリセットの. 仕方を教えているということであった.<負の感情>. に対する看護は語られなかった.. 考 察. �.高齢の糖尿病患者における SMBG 手技獲得時. の困難さに影響する要因. 本研究は,高齢糖尿病患者の手技獲得時の困難に着. 目し,SMBG指導を行う看護師の語りにより,その. プロセスを明らかにした研究である.その結果,高齢. 者は,手技獲得時にさまざまな困難を経験しており,. それに影響する要因として<身体の機能低下や反応>,. <新しい技術習得時の適応力の低下>という患者側の. 要因だけではなく<教育環境の不備>や<デバイスと. のミスマッチング>が影響していることが明らかと. なった.先行研究では,SMBG 手技獲得時の困難さ. は明らかにされていた 16) が,本研究により,その困難. さに影響する要因が明らかとなった.. 本研究で<身体の機能低下や反応>と<デバイスと. のミスマッチング>が困難さに影響する要因として抽. 出されたことは,先行研究 16) で,加齢に伴う巧緻性や. 認知機能の低下が SMBG 手技獲得時の困難に影響し. ている可能性が示唆されていたことを裏付ける結果で. ある.. <新しい技術習得時の適応力の低下>,<教育環境. の不備>という要因は,在宅でインスリン自己注射を. 行っている高齢者を対象とした先行研究において,正. 確なインスリン自己注射手技に影響を及ぼす要因とし. て報告されている「HDR-S(改訂長谷川式簡易知能. 評価スケール)」,「看護師を中心とする医療従事者の. 支援」 18) と類似している.インスリン自己注射も. SMBGもディスポーザブル部品の使用や,細かい作. 業をいくつも経て実施するという点で共通しているた. め同様の要因が抽出されたと考える.. �.高齢の糖尿病患者の SMBG 手技獲得時に実施. されている看護とその検討. 看護師は[手技獲得時の困難さに影響する要因への. 看護],[手技獲得時の困難さへの看護],[手技獲得時. の困難さにより生じるものへの看護]を提供してい. た.さまざまな看護が実施されているにもかかわら. ず,困難を繰り返し経験した場合,苛立ちや悲嘆,血. 糖測定手技獲得の意欲低下などの<負の感情>が生じ. ることがある,と明らかになった.<負の感情>への. 看護は語られなかった.その理由として,困難を繰り. 返し経験した場合に生じる感情のケアの意義が看護師. に認識されていない可能性が考えられる.また,看護. 師が SMBG 手技獲得時の目標を定め評価を行ってい. る様子は語られたものの,患者にその計画や評価への. 参加を促しているという語りは聞かれなかった.これ. らから,看護師が計画評価を主体的に行っており,患. 者が自身の SMBG 手技獲得の計画や評価に参加して. いる実態は少ない可能性が示唆された.. 成人教育には,小児教育と異なる特徴として,「自. 己概念」と「学習への動機づけ」がある 19) .成人教育. においては,受動的な学習のみでは「自己概念」との. ギャップが生じる可能性がある.高齢者への SMBG. 手技教育は,成人教育であることを念頭に,計画や目. 標を自分で立案し,自ら評価する能動的な学習が望ま. しいと考えられる.また「学習への動機付け」につい. て,「成人の学習者は,外発的動機よりも内発的動機. に基づいている」という前提がある.本研究により. ≪困難感を繰り返し経験することにより SMBG 手技. 獲得の意欲が低下する≫,≪困難感を繰り返し経験す. ることにより諦めの感情が生じる≫ことが明らかに. なった.それは困難感が成人教育に必要な内発的動機. を低下させている可能性を示す.それを解決するため. には,デバイスや指導時期の選択を慎重に行うこと. や,血糖測定の核となる穿刺・血液採取手技を優先的. に教育し,成功体験をさせる指導方法などの対策が考. えられる.また,順調に手技獲得できなかったとして. も,その状況を失敗と感じさせない対応,たとえば失. 敗ではなく手技獲得のステップであると説明すること. や励ますことにより,<負の感情>が生じないまたは. それを緩和することが有用と考えられる.そのために. は,自身が何かを遂行する際に,必要な行動をうまく. 遂行できると自分の可能性を承認できる自己効力感 20). が重要である.. バンデューラー(A. Bandura)によると,自己効. 力感を高めるには,(�)遂行行動の達成:自ら成功. 体験をすること,(�)代理的経験:自分の境遇に近. い人が成功しているのをみること,(�)言語的説. 得:医療者などから肯定的評価を得ること,(�)生. 理的・情動的状態:それをしたら,心身の状態がよく. なったという経験をすること,という�つの情報源が. ある 20) .成功体験を先に経験することや,順調に手技. 獲得できないときに,失敗ではなく手技獲得へのス. テップであると励ますことは,遂行行動の達成,言語. 的説得にあたると考えられる.生理的・情動的状態. は,SMBG 手技習得後に,測定を続けるモチベー. 看護理工学会誌(2021). ― 130 ―. ションを保つには有用な概念と考えられるものの,導. 入時には該当しないと考えられる.しかし,代理的経. 験は同病者から体験を聞き共有することや同病者サ. ポートが糖尿病患者の自己管理を促進する要因として. も報告されており 21)22) ,SMBG導入時にも自分と年齢. が近い高齢者が習得しているのを知ることなどで経験. できる可能性がある.. 血糖値の測定ができれば,ごみの分別や清潔保持な. どはできなくてもよいと,看護師が教育を諦めてい. る,または完璧を求めていないことがあることが明ら. かになった.これらは臨床では自然な現象と考えられ. るが,個々の患者に応じた目標を設定する場合,注意. すべき点が�点考えられる.�つは,指導する看護師. 全員が,個々の目標を詳細に把握しておくことであ. る.教育者によって指導内容が異なると,患者の混乱. や自己効力感の低下につながる可能性があるためであ. る.�つ目は,目標の設定についてである.ごみの分. 別が不十分でも患者に直接の害はないが,繰り返し同. 一部位の穿刺を行わないよう指導することや指尖部の. 清潔保持は,十分に習得する必要がある.糖尿病患者. は易感染者であり,血流障害のある患者ではSMBGに. よる指尖部の壊死の報告例がある 23)24) .つまり,血糖値. を測定することに,直接にはつながらないステップで. あっても,不十分な習得では患者にとってリスクとな. る手順は,獲得の優先順位は下げたとしても手技獲得. 目標から外すことはないよう注意が必要である.. �.デバイス開発に期待するもの. 困難さに影響する要因の�つとして,≪手指巧緻性. や記憶力を要求する煩雑なデバイス≫が抽出された.. 認知力や手指巧緻性の低下が SMBG 手技獲得時の困. 難に影響している可能性は先行研究 16) でも述べられて. いる.デバイス開発においては,血液を用いて測定す. るため,消耗品の交換が必要という制限はあるもの. の,穿刺具と針が一体型の製品 25) や血液吸着部がドラ. ム式になったものなど測定までの手間を省いた製品 26). も開発されている.<デバイスとのミスマッチング>. を防ぐためにも,患者自身も使い勝手を試し自身の手. 指巧緻性にあったものを選択するなど,目標設定と同. 様にデバイス選択にも参加できることが望ましい.認. 知機能低下による困難も語られたが,低血糖時には,. 普段にくらべ身体機能や認知機能なども低下すると考. えられるため,すみやかに測定可能な穿刺および血液. 採取・測定が一体となったデバイスは,低血糖時のリ. スク対応という点でも望ましい.現在市販されている. 一体型のデバイス 27) は,穿刺時や血液採取時に指を固. 定する機能がないため,自身で指を穿刺孔に穿刺・血. 液採取の間とどめておく必要がある.≪穿刺時の疼痛. により十分な穿刺ができない≫患者や,≪手指巧緻性. の低下により作業がむずかしい≫患者が血糖測定に必. 要な血液量を確実に確保するためには,簡便な手技で. 指も固定でき,穿刺から血液採取までできる機能 28)29). を備えたデバイスが必要である.. �.研究の限界と今後の展望. 本研究で明らかになったことは,看護師が認識する. 高齢の糖尿病患者における SMBG 手技獲得時の困難. さに影響する要因であり,患者が認識する困難さに影. 響する要因は不明である.今後,患者の視点から調査. することにより,患者自身がどのように SMBG 手技. 獲得を捉えているかが明らかになるだろう.また単施. 設での調査であり,看護師の性別や経験年数の偏りか. ら,結果の外挿については注意が必要である.高齢の. 糖尿病患者における SMBG 手技獲得時の特徴が明確. になることは,高齢者に適した SMBG指導法や,デ. バイスを開発するのに役立つと考えられる.今回,疼. 痛を和らげる看護は語られなかった.SMBGの穿刺時. 疼痛を和らげる方法としては冷却法の報告 30) があるが,. 水を冷蔵庫で冷やしておくという手間が必要であり,. 日常生活での実践はむずかしい.比較的疼痛が少ない. とされる指尖以外の穿刺部位では,急激な血糖変動時. にはタイムラグがある 31) などの課題もあり,まだ解決. されていない.疼痛の少ない穿刺部位での血糖の推定. 法の開発や簡便に指先を冷却する機能の付いたデバイ. スなど,疼痛軽減に向けた研究開発が期待される.. 結 論. 高齢者への SMBG 手技指導経験のある看護師への. インタビューを行った結果,手技獲得時の困難さに影. 響する要因として,身体の機能低下や反応,および新. しい技術習得時の適応力の低下という患者側の要因だ. けではなく,教育環境の不備やデバイスとのミスマッ. チングが要因となっていることが明らかになった.高. 齢者への SMBG の教育は,成人教育であるという認. 識をもち,患者に目標の設定や評価に参加を促すこと. や,自己効力感を高める看護の必要性が示唆された.. また,少ない疼痛で測定可能であり,認知機能や手指. 巧緻性の低下があっても簡便に血糖を測定できるデバ. イスの開発が期待される.. 謝 辞. インタビューに参加し貴重な時間,情報を提供してく. ださった看護師の方々,調査のためのさまざまな調整に. ご協力いただいた柘植美恵看護師長,インタビューガイ. ド作成にご協力くださった大橋優美子糖尿病看護認定看. 護師に感謝いたします.. 看護理工学会誌(2021). ― 131 ―. 文 献. 1)日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン 2019. 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