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希少難病に対する治療法開発の促進と課題に対する対応

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Academic year: 2021

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は じ め に. 分子遺伝学の進歩により,小児神経疾患の病因遺伝子が 次々と明らかにされてきている.それと平行して,難治性神 経疾患に対する,新薬,酵素補充療法,核酸・遺伝子治療と, 新たな治療法が次々と実用化されている.根治に至る画期的 治療もあれば,一部症状の改善にとどまる治療もあるが,患 者さん達には朗報である.一方,新規治療には,安全性への 懸念や,実用化への課題,高額化などの問題もあり,承認過 程,流通上の問題など,改善を要する問題は多い.諸課題を 解決しつつ,先進的な治療法開発を促進する必要がある.新 規治療の適正使用をどうすべきなのか,患者と家族への配慮 を含め,臨床医,行政,製薬企業,倫理,緩和ケアなど,多 方面から報告する.. Ⅰ 難病対策および小児慢性特定疾病対策の現状について. 2014年 5月 23日,「難病の患者に対する医療等に関する法 律(難病法)」および「児童福祉法の一部を改正する法律(改 正児童福祉法)」が可決,翌年 1月 1日に施行され,難病・小 児慢性特定疾病対策は大きな転機を迎えた.医療費助成の対 象となる疾病が大幅に拡大され,地域共生生活に向けた支援 など総合的な対策が図られてきた中で,施行後 5年以内を目 途とした見直し規定に基づいて,2019年から 2020年にかけ て,厚生労働科学審議会および社会保障審議会による合同委 員会が論点をまとめ,ワーキンググループにより医療・研究 面および地域共生面について具体的な方向性が示された.医 療・研究面の方向性としては,①未解明の疾病に対する調査 研究の支援,②対象疾病の治療成績などを踏まえた見直し,. ③トランジション対策,④公平な自己負担水準の設定,⑤ データ登録促進に向けたシステム作り,⑥難病診療連携拠点 病院の各都道府県における設置,⑦ゲノム医療の推進,⑧調 査研究推進に向けたデータ提供の仕組みの構築の 8点であ る.地域共生面の方向性としては,①難病相談支援センター のハブ的役割の強化,②地域協議会の活性化,③福祉サービ スの周知徹底,④地域の関係機関連携による就労支援の促 進,⑤きょうだい支援,保護者の就労支援,通院支援など幅 広いニーズに対する自立支援事業(特に任意事業)の周知と 活用の向上,⑥医療的ケア児および障害児に対する施策との 連携促進の 6点である.今後,これらの観点から,難病法お よび改正児童福祉法の改正に向けた議論が進められていく予 定である. (国立成育医療研究センター 小倉加恵子). Ⅱ 難治性疾患に対する先進的な治療法開発の世界的現状. 1.遺伝子・核酸・蛋白を用いた治療 遺伝子変異自体を換える治療として,ゲノム編集技術があ るが,脳に対してはまだまだ研究段階である.正常遺伝子を 何らかのベクターで核内に導入して治療する遺伝子治療/遺 伝子補充療法,mRNAが合成されるときに行われるスプライ シングをアンチセンスオリゴヌクレオチドなどで調節するエ クソンスキッピング療法,蛋白 ‒酵素自体を体内に入れて機 能させる酵素補充療法などが開発されている. 酵素補充療法は,ムコ多糖症や Fabry病などのライソゾー ム病を中心に開発されている.ライソゾーム酵素は細胞に取 り込まれて機能することから治療効果が得られる.肝脾腫に は著効する.骨・関節に対する作用は少ないが,早期治療開 始例では身長の伸びなど,効果は得られる.しかし,脳への 効果はない.そのために,脳室内注入や血液脳関門を通過す る製剤が開発された.蛋白をコードしていない小分子の核酸 である antisense oligonucleotide(ASO)を用いた治療として, 脊髄性筋萎縮症に対する髄注療法,Duchenne型筋ジストロ フィーに対する皮下注製剤が承認されている.スプライシン グを調節し蛋白を作らせる治療で,有効だが限定的で,反復 投与が必要である.. 2.小児神経疾患に対する遺伝子治療 遺伝子治療の発展は,レンチウィルスベクターとアデノ随. 脳と発達 2021; 53: 207 ― 10. NTT0321 責.indd 2021 年 4 月 9 日 午後 3 時 33 分. ― 39 ―. 207. 見出し語 先端治療,遺伝子治療,難病,薬価,緩和ケア 1国立精神・神経医療研究センタートランスレーショナル・メ ディカルセンター. 2自治医科大学小児科学 3日本小児神経学会小慢・指定難病に関する委員会. 連絡先 〒 329-0498 下野市薬師寺 3311-1 自治医科大学小児科学(山形崇倫) E-mail : [email protected] (受付日:2021.3.14,受理日:2021.3.14). 特集・第 62回日本小児神経学会学術集会. � 小慢・指定難病に関する委員会主催セミナー. 希少難病に対する治療法開発の促進と課題に対する対応. 小牧 宏文 1,3 山形 崇倫 2,3. 伴ウィルス(AAV)ベクターの安全性が高いベクター開発に よる.レンチウィルスベクターは,導入遺伝子は染色体に組 み込まれる.造血幹細胞に導入し体内に戻す ex vivo法によ り,副腎白質ジストロフィーなどの治療が臨床応用開始され ている.AAVベクターは,核内で染色体外に存在し,細胞分 裂で減少するが,非分裂の神経細胞では導入遺伝子は長期残 存する. 2020年に,脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する AAV9ベク ターを用いた製剤を 1×10 14vg/kg静注する onasemnogene abeparvovec治療が保険収載された.1回の静注治療で生涯有 効であることが期待される.SMA I型でも早期治療により歩 行可能例も報告されるなど,有効性は高い.自治医大では, 芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)欠損症に対し,AAV2ベ クターを両側被殻に注入する治療を臨床研究として行い,全 例で運動機能が改善した.ベクターに起因する有害事象はな かった.. 3.AAVを用いた遺伝子治療の開発 AAVベクターを用いた遺伝子治療は,対象組織に感染する AAV血清型と対象細胞で発現するプロモーターを選択する ことにより,神経疾患をはじめ,多くの疾患の治療として有 望で,世界的に多くの疾患で開発されている.候補疾患とし て,以下の点があげられる. ・ 機能障害による疾患が主で,形成異常,破壊性病変は困難 である. ・ 発現量が調節できないため,重複など発現過剰でも症状が 出る遺伝子の疾患の治療は困難である. ・ ライソゾーム病では,酵素が細胞間を移動するので,一部 細胞への遺伝子導入でも効果が得られるが,ほとんどの神 経疾患では全細胞への導入が求められる. 現時点では,一定の割合の細胞へしか導入できず,根治と はならないことも多いが,できるだけ広範な領域の神経細胞 へ導入する方法の開発が必要である.海外では,外科的に大 槽にベクター導入し広範な領域への導入治療が注目されてい る.我々は,腰椎穿刺からカテーテルを大槽に進めベクター 注入する方法を開発し,広範な脳領域へベクターが導入され ることを確認した. (自治医科大学小児科 山形崇倫). Ⅲ 先端治療の課題. 1.有害事象 Onasemnogene abeparvovec治療では,治療後 1週間と 1か 月に肝機能障害,血小板減少の有害事象が報告されている. X連鎖性ミオチュブラーミオパチーに対し AAV8ベクターを 用いた製剤の静注治療で,有効性は非常に高かったが,高用 量群(3×10 14vg/kg)で高度肝障害から敗血症になり死亡し た例が報告された.高用量のAAVベクターの静注は,免疫反 応を誘発し肝障害を起こすリスクが考えられる. AAVベクターは安全性が高いと言われていたが,死亡例も. 出ている.まだ不明な点もあり,慎重な対応が必要である. 2.高額化. Onasemnogene abeparvovecは 1回のみの治療であるが,1億 6,700万円と高額である.ASOや酵素補充療法は,1回の価格 も高額で,繰り返し治療することにより,onasemnogene abeparvovec治療額を超える.治療法開発には費用がかかり, ある程度の薬価は必要だが,保健医療への影響も心配であ る.より低価格なベクター開発など,企業へはコストダウン を求めたい.. 3.治療適応の判断 残念なことではあるが,疾患・治療によっては,進行して いると治療効果が得られない,中枢神経系への効果が得られ ないなどの限界がある.治療効果が得られない患者への治療 は,医療費の浪費になるとともに,患者への負担増になる. 医者は,治療法についてよく学習し,患者の状態と治療効果 を考えて治療すべきである.. 4.早期診断の重要性とマススクリーニング 細胞変性・脱落が進むと効果が得られず,早期治療・発症 前治療も必要で,スクリーニングなど早期診断の開発も同時 に進める必要がある. (自治医科大学小児科 山形崇倫). Ⅳ 小児神経遺伝疾患に対する遺伝子治療の開発上の課題. 難治性疾患に対する遺伝子治療は,様々な治療領域での開 発が進んでおり,米国では,2017年に白血病治療薬「キムリ ア®」が米国で初承認されて以降,すでに 4つの遺伝子治療 が承認されている.本邦でも国産初の遺伝子治療薬として昨 年 3月に「コラテジェン®」が承認され,今後も申請,承認 の動きが活発化するものと推察する.一方で,米国と本邦に おいては,その承認申請審査手順や承認後の医療制度の違 い,カルタヘナ法準拠の問題など異なる環境が散見される. 遺伝子治療薬の上市準備を通じて経験した課題について説 明する.. 1.施設要件と医師要件 施設要件,医師要件は,企業としてカルタヘナ法準拠の観 点から,特に治療の安全性を確保することを念頭に設定する ことが必要である.一方で,患者のアクセスビリティや緊急 治療の観点から,適正な治療施設数を確保することも合わせ て肝要なことと考える.. 2.随伴検査のコマーシャル化 遺伝子治療の多くは,ウィルスベクターを用いることか ら,ウィルスベクター抗体検査は必須である半面,遺伝性の 希少疾患の場合は本邦での治療対象患者数が限定的であるこ とから,ウィルスベクター抗体検査体制について,抗体検査 の薬事申請およびコマーシャル化が大きな課題である.同様 に,遺伝子治療開発された疾患の遺伝子変異解析体制の確立 も不可欠である.. 脳と発達 第 53巻 第 3号. ― 40 ―. NTT0321 責.indd 2021 年 4 月 9 日 午後 3 時 33 分. 208. 3.長期フォロー体制 遺伝子治療が,概念的には生涯一回限りの治療であること に反して,いかに長期に治療後の情報と患者のフォローアッ プを行っていくかは,大変大きな課題である. (ノバルティスファーマ株式会社 篠原久治). Ⅴ 高額医薬品の薬価決定プロセスなどについて. 新しい医薬品の薬価が決まるまでの過程およびその算定方 法について全般的に説明した.特に,小児分野特有のルール としては,主たる効能・効果などに小児に係るものが明示的 に含まれている医薬品については,薬価の補正加算として小 児加算の対象となる.医薬品の薬価の算定は主に類似薬効比 較方式または原価計算方式で行われるが,再生医療等製品の 独自の算定方式はまだ決まっていないため,今後の品目集積 を踏まえて議論していく予定である.算定ルールに加え,今 回は近年収載された高額な再生医療等製品に関する算定方法 を紹介した.これまで再生医療等製品の価格は,製造コスト などを積み上げた原価計算方式で算定されたものが多数であ るが,onasemnogene abeparvovec点滴静注の収載時価格は,既 存の類似薬の価格に有効性加算などを加えた類似薬効比較方 式にて算定され,約 1億 6,700万円となった.単価のみでは なく治療に要する薬剤費の総額が高額な医薬品なども次々出 てくる中で,国民皆保険を持続するための対応策として,薬 価の再算定や費用対効果評価などの仕組みがある.特に,費 用対効果については,現在対象品目が着々と追加されている 状況であり,今後の評価結果を基に価格を見直していくと共 に,費用対効果評価の在り方についても議論していく予定で ある. (厚生労働省保険局医療課 加藤祐太). Ⅵ 高額な新医薬品を使用する上で臨床医からの意見. 神経筋疾患領域において予後不良の難治性疾患に対する革 新的な新医薬品が登場しており,それらの疾患予後が大きく 変わることが夢ではなくなりつつある.一方でそのような新 医薬品の多くは薬価が高額である場合が多く,小児神経領域 でも医療経済に関わる議論の必要性が認識されつつある.治 験の対象患者はその治験薬の有効性評価が最も期待できる患 者層を対象に実施される場合が多いが,実臨床では年齢や重 症度などの点でより幅広い患者層に投与することになる.進 行期の患者に投与し臨床的有効性は限定的としてもその効果 が個々の患者にとって真に利益があるものであれば主治医と してその使用は妥当なものと考える.進行期の患者にとって の利益とは何か,その利益を客観的に評価する手法の確立が 必要である.一方日本でもすでに導入されている条件付早期 承認制度によって薬事承認された場合にはより少数,かつ短 期間のみの治験によって市販されることも想定され,市販後 の有効性安全性評価の重要性が増している.有効性や医療経 済に関わるデータのないところで薬剤投与の可否について議. 論することには限界がある.新規治療法が生み出されたとし ても,既存の治療の重要性が下がることはない.リハビリ テーションなどの既存の治療と新医薬品の効果的併用によっ て相乗的効果を生み出せる可能性も存在する.慢性進行性の 疾患に対する治療はより早期に治療を開始することでより大 きな効果が得られる場合が多くなると想定されることから革 新的医薬品の出現によって早期発見,早期治療の重要性が増 している. (国立精神・神経医療研究センタートランスレーショナル・. メディカルセンター 小牧宏文). Ⅶ 遺伝子治療など,先進的な医療における倫理的課題. 近年の遺伝子研究ならびにゲノム編集技術などの急速な進 歩により,医学・医療は大きく変貌し,遺伝子治療を含む先 進的医療において検討すべき倫理的課題も多岐にわたってき た.他方,希少難病に対する治療法開発の過程において過去 には非常に残念な不幸な出来事も起きており,臨床研究や新 しい医療技術に対する規制の在り方については,先進諸外国 においても様々な議論が重ねられている.これらの先進的な 医療は,希少難病などの治療の可能性を拡げ,患者の選択肢 を増やし,患者・家族に希望をもたらした.一方で,先進的 な医療技術に伴う未知のリスク,将来のリスクなどの適正な 評価,諸リスクへの対応策,比較衡量すべき有効性の評価な ど,まだまだ不確実性が高いため,先進的な医療技術の臨床 利用についての判断は,患者(当事者)の要望,自己決定の みに委ねることは適切ではなく,より広い倫理的議論が求め られるところである.遺伝子治療などの先進的な医療に対す る国内外の規制もある.倫理的議論として,患者の自己決定 の基礎となるインフォームド・コンセントやアセントの問題 を検討しつつ,個を超える問題として,次世代に影響を及ぼ す可能性,社会における医療資源の公正な配分の問題などに ついても検討が必要である. (国立成育医療研究センター 掛江直子). Ⅷ 治癒が望めない疾患を持つ患者・家族と これからについてどう話すか?. 子どもの緩和ケアの対象疾患の半数以上が小児神経疾患で ある.神経疾患は,がんと異なり病状が長期に亘り変化しや すい特徴がある.また疾患の軌跡に共通性がなく,終末期を 正確に把握することが難しい.疾患によっては,確定診断が つくまでに,数か月から年余にわたることがあり,確定診断 がつかないままになっていることも珍しくない.また同じ疾 患であっても症状や重症度に幅があるため,共通性,法則性 を持って対応することは難しく,緩和的な対応が必要かどう かの判断は疾患によるというよりもその子が必要かどうかで 判断せざるを得ない. そういった中でこれからについての話し合いは,「病気を 抱えて生きることを一緒に考える」段階と「終末期を見据え. ― 41 ―. 2021年 5月. NTT0321 責.indd 2021 年 4 月 9 日 午後 3 時 33 分. 209. たこれからを話し合う」段階の二つに分けて考えておくと良 い.「病気を抱えて生きることを一緒に考える」段階において は,子どもと家族の病状理解を確認し,子どもと家族が大切 にしたいこと,価値観を共有することが大切である.その上 で病状の進行とともに終末期を見据えた話し合いを始める必 要がある.こういった話し合いを始めるタイミングとして surprise questionという考え方がある.これは,「この患者さ んが 1年以内に亡くなったら驚きますか?」と患者に関わる 様々な職種間で検討をし,もし驚かないのであれば話し合い を開始するほうがよいという考え方である.成人領域では非 がん患者においてもこのようなツールが利用されており,小 児においても有効性が検証されている.様々な職種が関わる 場面においてはこういったツールを使いながら見通しを共有 し話し合うことが重要になる. 近年の遺伝子治療やシャペロン療法の発展は,これまで原 疾患に対する治療法がなかった疾患の生命予後を大幅に延ば し,長期間に亘って生活の質を保つことができる可能性があ る.だからこそ,医療者が疾患の軌跡を意識し,タイミング. を逃さず必要な話し合いができるよう準備しておくことが重 要になると言えるだろう. (国立成育医療研究センター 余谷暢之). お わ り に. 治療法がなかった疾患の子ども達に治療法が開発されてき ていることは素晴らしいことであり,日本でも開発が進めら れることが期待される.同時に,子どものためにどうするこ とが一番いいのか,客観的・合理的な判断も必要である.小 児神経学会も,治療法開発促進と,治験などへの協力体制整 備,早期診断の促進への支援も必須であるとともに,適正で 安全な治療のためのガイドライン作成も検討が必要である.. 著者の利益相反:小牧宏文;講演料など(バイオジェン・ジャパン 株式会社,Sarepta Therapeutics社),研究費(中外製薬株式会社,日本 新薬株式会社,PTC Therapeutics社,第一三共株式会社,ファイザー 株式会社).山形崇倫;講演料など(ノバルティスファーマ株式会社), 奨学寄附金(エーザイ株式会社).. 脳と発達 第 53巻 第 3号. ― 42 ―. NTT0321 責.indd 2021 年 4 月 9 日 午後 3 時 33 分. 210

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