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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 医 学 ) 鷲 見 紋 子

    学位 論文題名

    Time Series Analysis for Surveillance     Data of Infectious Diseases in Japan

(日 本におけ る感染症 のサーベイ ランスデ ータの時 系列解析)

学位論文内容の要旨

    感染症の予防および予測を目的として,多くの疫学研究が行われてきた.これらの疫学 研究の成果とワクチンの開発によって,天然痘は1970年代後半に世界から撲滅された.しか し,麻疹や百日咳のようなワクチン摂取率の高い感染症でも,時折流行が発生し,撲滅には 至っていない.近年,AIDS,エボラ出血熱のような新しい感染症が出現したこともあって,

1996年度の統計では世界の全死亡者数のうちのおよそ30%は感染症によるものであり,感染症 の予防および予測は現在の極めて重要な課題となっている.

    先進諸国では,感染症サーベイランスが行われており,感染症発生数の膨大な時系列デ ータが蓄積されている.これらのデータの長期変動,再帰的変動,そして季節変動の時間的 変動構造を解明するために,これまで時系列解析を用いた多くの研究が行われてきたが,そ れらの解析は移動平均や重回帰分析などを用いたものであり,有意な情報を引き出すために は不十分で,感染症の予防や予測に十分に役立てられていたとは言い難い.そのために,サ

―ベイランスデータの時間的変動構造を解明する新たな時系列解析方法が望まれていた.

    本研究では,著者らがこれまでに提起した,感染症の流行変動の時間的変動構造を解明 するための有用な時系列解析方法を用いて,厚生省の感染症サ―ベイランス事業年報に集録 されている21種類の感染症の発生率時系列データ(以下,発生データ)に適用し,発生データ の長期変動,再帰的変動,および季節変動の時間的変動構造を詳細に調べ,さらに予測解析 を行った.

    本論文は6章からなり,第1章では,本研究の背景,意義およぴ目的について述べた.

    第2章では,サ―ベイランスデータの解析に用いる時系列解析方法について述べた.す なわちこの時系列解析方法は,周波数領域では最大エントロピー法(MEM)に基づぃたスベクト ル解析,時間領域では非線型最小2乗法(LSM)によづて構成されており,さらにこの方法は,

セグメント時系列解析と予測解析に用いられることが可能である,発生データの長期変動,

再帰的変動および季節変動の時間的変動構造を調べるために,それぞれ,セグメント時系列 解析と位相トラジェクトリーの計算,発生データ全体のパワースペクトル密度(PSD)の計算,

および1年間の平均週単位発生データのPSDの計算を行った.予測解析では,発生データ全体 のPSDで見積もられた基本モードを用いて最適最小2乗あてはめ(LSF)曲線を計算し,発生 データの解析時間領域から予測時間領域に延長した.

    第3章では,解析対象である日本の感染症サ―ベイランス事業年報に集録された21種類

(2)

の感染症発生データについて記述した,

    第4章 で は , 第2章 で 記 述し た方 法を 用い て第3章で 記述 した 感染 症の 発生 デー タを 解 析 し て 得 ら れ た 結 果 に つ い て述 べた .す なわ ち第1節で は発 生デ ータ の位 相ト ラジ ェク ト リー につ いて 述べ た. 位相 トラ ジェ ク トリ ーは 各感 染症 発生 デー タの 基本 的特 徴を 説明 す る. 第2節 では 発生 デー タの 長期 変動 の時 間的 変動 構造 につ いて 述べた.セグメント時系列 解 析 の 結 果 , 発 生 デ ー タ の 周期 構造 の時 間的 変化 を示 す3次 元ス ペク トル アレ イが 得ら れ た. 多く の感 染症 の3次 元ス ペク トル アレ イは ,麻 疹, 水痘 症お よび流行性耳下腺炎に代表 され ,3つ の特 徴的 パタ ーン に分 類さ れる こと が明 らか とな った . 第3節で は, 発生 デー タ の再 帰的 変動 の時 間的 変動 構造 につ いて述べた.各 感染症の再帰的変動を構成する複数の基 本モ ード が同 定さ れ, 各感 染症 のPSDの全 体が 指数 特性 を示 すこ と が認 めら れた .第4節 で は発 生デ ータ の季 節変 動の 時間 的変 動 構造 とし て, 各感 染症 の季節変動を構成 する5つの周 期モ ード が同 定さ れた .第5節で は予 測解 析に つい て述 べた .各 感染症の基本モードを用い て計 算さ れたLSF曲 線は ,解 析時 間領 域及 び予 測時 間領 域の 発生 データを十分に良く再現し た.

    第5章 では ,本 論文 で得 られ た結 果に 基づ ぃて ,議 論を 行っ た.すなわち,各感染症の 発生 メカ ニズ ムに つい て,3次元 スペ クト ルア レイ の様 相別 パタ ーン(麻疹パターン,水痘 症 パ タ ー ン , 流 行 性 耳 下 腺 炎 パ タ ー ン ) に つ い て 次 に あ げ る 議 論 が な さ れ た .     (1) 著者 らの これ まで の研 究成 果を 考慮 に入 れて ,麻 疹パ ターンの感染症の発生メカ ニズ ムに つい ては ,麻 疹発 生デ ータ の3次 元ス ペク トル アレ イの 様相は,感染症の数理モデ ルで あるSEIRモデ ルに よる カオ ス時 系 列の3次 元ス ペク トル アレ イの様相と本質的に一致す る. 従っ て, 麻疹 の流 行変 動は ,カ オスカ学系に基 づくものであることが明らかとなった.

    (2) 水痘 症パ ター ンに 属す る感 染症 の発 生メ カニ ズム につ いては,雑音のある周期的 (noisy limit cycle)時系列であり,その論拠は3次元スペクトルアレイで,気温変動のような環 境要因によって支配されている6カ月の周期モードの周期値がnoisy limit cycleとして時間的に ゆら がな いこ と, さら に水 痘症 の発 生データは,帯 状ヘルペスを偶然に数える結果として生 じる 多量 な雑 音を 含み ,外 的要 因で ある季節変動と しての明確な周期性と多量な雑音の混入 に よ っ て , 水 痘 症 の 発 生 メ カ ニ ズ ム は 雑 音 の あ る 周 期 的 時 系 列 で あ る と 解 釈 さ れ た .     (3) 流行 性耳 下腺 炎パ ター ンに 属す る感 染症 の発 生メ カニ ズ ムに つい ては ,3次元 ス ペク トル アレ イで の周 期構 造の 時間 変動の様相が麻 疹の場合と本質的に一致することから・

麻疹と同様にカオスカ学系に基づぃていると結 諭される.

    次い で, 各感 染症 の発 生デ ータ 全 体のPSDが示 す指 数特 性と 指数の傾きの値の意味につ いて述べた.

    第6章 では ,結 論と して 本方 法に よっ て, 感染 症サ ーベ イラ ンスデータの長期変動,再 帰的 変動 およ び季 節変 動の 時間 的変 動構造が定量的 に解明できること,さらに21の感染症の 発生 変動 が, 麻疹 ,水 痘症 およ び流 行 性耳 下腺 炎に 代表 され る3つの特徴的パターンに分類 され るこ とが 確か めら れた .こ のこ とによって感染 症の発生が,流行発生に関する年齢,地 域, 環境 要因 など の疫 学的 特徴 の違 いとは無関係に ,ごく少数のメカニズムによって支配さ れていることが示唆された.

    以上 本研 究に おい て, 著者 らが 提起した時系列 解析方法は,感染症の発生データの時間 的変 動構 造と 発生 メカ ニズ ムを 解明 するための強カ な手段であることが確かめられた.本研 究で 得ら れた 結果 は, 疫学 ,社 会医 学,そして感染 症サ―ベイランス事業の発展に貢献する ことが期待される.

    ‑ 320―−

(3)

学位論文審査の要旨

    学 位 論 文 題 名

    Time Series Analysis for Surveillance     Data of Infectious Diseasesln Japan

( 日 本 に お け る 感 染 症 の サ ー ベ イ ラ ン ス デ ー タ の 時 系 列 解 析 )

    感 染症 の予 防お よび予測を目的とし て,先進諸国では,感染症サ―ベイランスが行われ ており.感染症発生数の膨大 なII寺系列データが蓄積されている.これらのサ―ベイランスデ   クを感染症の予防や予測に 役立てるために,サ―ベイランスデータの時間的変動構造を解明 する本格的な時系列解析方法 が望まれていた.

    本 研究 では ,著 者らがこれまでに提 起した,感染症の流行変動の時間的変動構造を解明 す るた めの 有用 な時 系列解析方法を用い て,厚生省の感染症サーベイランス事業年報に集録 されている21種類の感染症の 発生率時系列データ(以下,発生データ)に適用し,発生データ の長!引変動,再帰的変動, および季節変動の時間的変動構造を詳細に調べ,さらに予測解析 を行った,

    ホ 論文 は6章か らな り, 第1章 では ,本 研究 の背 景, 意 義お よび 目的 について述ぺた.

    第2章では,サーベイランスデータの解析に用い.る 時系列解析方法について述べた.す な わち この 時系 列解 析方法は,スペクト ル解析と非線型最小2乗法(LSM)によって構成されて おり,さらにこの方法は,セ グメント時系列解析と予測解析に用いられることが可能である.

    第3章 では ,解 析対 象で あ る日 本の 感染 症サ ―ベイランス事業年報に集録された21種類 の感染症発生データについて 記述した.

    第4章 で は ,第2章 で記 述し た方 法を 用 いて 第3章で 記述 した 感染 症 の発 生デ ータ を解 tJfして得られた結果について述べた.第一に,サーベイ ランスデータの長期変動,再帰的変 勧おjニび季節変動のlI寺間的変動構造が定量的に解明された.第二に,各感染症の発生率の予 測 値が ,定 量的 に見 積もられた.第三に ,セグメント時系列解析の結果得られた,21の感染 症 の3次元 スペ クト ルア レイ の 多く は, 麻疹 ,水 痘症 およ び流 行性 耳下 腺炎 に代表される3 つの特徴的ノくターンに分類 されることが明らかとなった.

    第5章 では ,本 論文 で得 ら れた 結果 に基 づぃ て,議論を行った.すなわち,各感染症の 発 生メ カニ ズム につ いて ,3次 元ス ペク トル アレ イの様相別パターン(麻疹パターン,水痘 症 パ タ ー ン , 流 行 性 耳 下 腺 炎 パ タ ー ン ) に つ い て 次 に あ げ る 議 論 が な さ れ た .     (1) 著者 らの これ まで の 研究 成果 によ ると ,麻 疹発 生デ ータ の3次 元スペクトルアレ

321― ー

雄 郎

   

   

和 恒

藤 井

齋 櫻

授 授

教 教

査 査

主 副

(4)

イの 様j:ロは,感染症の数理モ デルであるSEIRモデルによるカオス時系列の3次元スベクトル ア レイ の 様相 と本 質的に一致する.従って,麻疹の流行 変動は,カオスカ学系に基づくもの てあ るニとが明らかとなった.

    (2)水 痘症 パタ ーン に属 する 感 染症 の発生メカニ ズムについては,季節変動などの外 的要 囚としての明確な周!9H生と,多量な雑音の混入によって,雑音のある周!伽的時系列であ ると カ¥釈された.

    (3)流 行性 耳下 腺炎 パタ ーン に 属す る感 染症 の発 生メ カニ ズム については,3次元ス ペク トルアレイでの周1 t構造の 時間変動の様相が麻疹の場合と本質的に一致することから,

麻疹 と同様にカオスカ学系に基づいていると結論される.

    以 上 の議 論に よって,感染症の発生が,流行発生に 関する年齢,地域,環境要因などの 疫 学的 特 徴の 違い とは無関係に,ごく少数のメカニズム によって支配されていることが示唆 され た,

    審 査 にあ たっ て, 副査 の櫻 井教 授か ら, 本研 究で 用い た解 析 方法 のオリジナルな点,

MeIllCalcの利点と欠点,感染症 の分類と発生メカニズムとの関連,感染症サーベイランスの信

・J頃性,感染症の分類が主観的 でないかについて,さらに副査の小林教授から川崎病は感染症 か 否か , ワク チン 投与が行われている感染症のワクチン 効果,ヘルプアンギーナの原因とそ の影 響,流行性耳下腺炎と異型肺炎の周!夘性についての質 問があったが,申請者はこれら何 れの 質問に対しても妥当な回答を行った.

    以 上 本研 究に おいて,申請者が提起した時系列解析 方法は,感染症の発生データの時間 的 変動 備 造と 発生 メカニズムを解明するための強カな手 段であることが確かめられたもので あ り, 得 られ た結 果は,疫学,社会医学,そして感染症 サ―ベイランス事業の発展に貢献す るこ とが期待される.

    審 査 員一 同は これらの成果を高く評価し,大学院課 程における研鑚や取得単位などを併 せ , 巾 請 者 は 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た .

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