博 士 ( 農 学 ) ジ ャ ム サ ラ ン ウ ン ダ ル マ ー
学位論文題名
PHYSIOLOGICAL AND MOLECULAR BIOLOGICAL STUDIES ON DORMANCY
IN Agrostis capillarisLcv .HIGHLAND
( ベン ト グラ スAgrostis capillarisLハイ ランドの 休 眠 に 関 す る 生 理 学 的 およ び 分子 生 物 学的 研 究 )
学位論文内容の要旨
多年生牧草は低温や乾燥等の生存に不適当な環境条件を乗り切るために休眠芽を形成す ると考えら,れている。休眠芽の形成や休眠芽に含まれる栄養分が不十分になると次年度の 牧草の生産量が落ちる。このように牧草において休眠芽の形成機構を調べることは農業上 重要な問題である。
牧場の多年生の優勢植物であるコモンベントグラスAgrostis capillarisL.cv. Highland の無菌培養系を用い、糖やアブシジン酸(ABA)が休眠芽形成に及ぽす影響について調べ た 。無菌種子 を5週間23℃16時間日長 で培養した植物体を、根の付け根から0.7〜lcm の ところで葉 身を切除 し、その 株の基部 をべンチルアデニン1 mg/lを含むMS培地で4 週間培養、分げつさせた後、6週間種々の条件下で休眠芽の誘導をさせた、形成した芽が 伸長するかどうか調べ、休眠を確認した。
一般に乾燥ス卜レスにより植物ホルモンであるABAが誘導されると考えられている。
浸透圧調整剤としてスークロースとマニトールを用いて乾燥ストレスが成長や休眠芽形成 におよぽす影響を調べた。スーク口ースの濃度が0.26Mまで増加させると植物体の成長は 促進される。一方0.44M以上の濃度では成長は停止するが、休眠芽の形成が増加した。
マニトールにより植物体の分げつは促進されたが、休眠芽の形成は起こらず、生重や乾 重は減少レた。このことから、休眠芽の形成は乾燥ス卜レス及び浸透圧の上昇だけによる ものではないと考えられる。
植 物が最も良く成長した0.26Mのスークロースを含む培地にABAを添加し、その影響 を観察すると、ABAは植物の成長を抑え、休眠芽の形成を促レた。休眠芽形成を最も促 進 した10‑4MのABAを培地に添加し、スーク口ースの濃度を変化させると植物体の成長 はスークロースの濃度に関係なく停止したが、休眠芽形成の誘導は0.26Mのスークロース を加えたときのみ促進された。従って、休眠芽形成はスークロースとABAの相互作用に よって起きると考えられる。
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休眠芽形成の誘導により多年生の牧草の主要な貯蔵物質であるフラクタンがどのように 変化するかを調べた。植物体の基部のフラクタシ含量を測定した結果、スークロースの濃 度を高めると総フラクタン含量と高分子のフラクタンの増加が見られた。高濃度スークロ ースで誘導した休眠芽と基部のフラクタン含量は基部よりも休眠芽に多く含まれていたが、
高分子フラクタンの量には差がなく低分子フラウタン含量が増加していた。さらにABA に よ り 形 成 さ れ た 休 眠 芽 に は 基 部 の 約2倍 の フ ラ ク タ ン が 含 ま れ て い た 。 低分子フラクタンを調べるためにTLCに80%エタノール溶液フラクタンを展開したと ころ、低分子のフラクランであるネオケストース、ケス卜ースやネストースなどが休眠芽 に見られた。このように、休眠芽では休眠していない芽と異なったフラクタン構成を示し た。 休眠芽誘導条件下に形成レた休眠芽は、いかなる人工気象条件(温度、日長)でも 萌芽しなかったが、長目条件下10‑4MのACC(l‑amino cyclopropane‑lーcarboxylic acid) を 含 む 0.26Mス ー ク ロ ー ス 添 加 培 地 中 に 培 養 し た と き の み 萌 芽 し た 。 休眠芽 誘導を行っ た株の基部及び形成レた休眠芽には16kDaの蛋白質の明瞭な増加 が見られたIoこの蛋白質は種子形成時に発現するLEA(late embryogenesis abundant) 蛋 白 質 の ひ と つ で あ る デ ハ イ ド リ ン ( dehydrin) 蛋 白 質 と 考 え ら れ る 。 休眠芽誘導条件下で特異的な発現を示す遺伝子を検出するために、休眠誘導区(高濃度 ス ーク 口 ース .ABA)、ABA添加 区 な らび に コン ト ロ ール からRNAを 抽出し、 ディ ファレンシャルディスプレーを行った。3個のアンカープライマーと20個のアービタリ ープライマーを組み合わせ、休眠誘導区にのみ強く発現が見られたバンドを回収しクロー ニングを行った。得られたクローンのシークエンスと塩基配列の相同性検索の結果、
ABAやスト レスで誘導 される遺伝子3ク口ーン、ヒー卜ショック蛋白質 3クローン、
耐 凍 結 糖 蛋 白 質1ク 口 ー ン な ど の 他 、 未 知 の 遺 伝 子15ク ロ ー ン を 検 出 し た 。 休眠芽と種子休眠との関連を調べるため、種子休眠に関与する以下の3種の遺伝子の休 眠芽形成過程での発現について検討した。デハイドリン遺伝子は休眠芽形成中の組織より RNAを 抽 出 し 、RT―PCRを 行 な っ た 。 増 幅さ れ たDNA断 片 を クロ ー 二, ン グ レ、
a18クロー ンを得た。a18は禾本科 のデハイ ドリン遺伝子と高い相同性を示し、これ らの遺伝子に特徴的なりジンリッチの配列を含んでいた。VPl (VIVIPAROUS)遺伝子 は卜ウモロコシの穂発芽突然変異株のーつとして発見された。ベントグラスの実生よルゲ ノムDNAを 抽出しPCRを行いVP l‑likeクローンを得た。さらに休眠と高い関連性が指 摘されているアンチオキシダント蛋白質のぺルオキシレドキシン(peroxiredoxin)遺伝子の 発現の検討を行った。これら3種の遺伝子は休眠芽誘導条件下で発現し、8週間後の休眠 芽において高い発現が確認された。また休眠芽のACCによる休眠打破に伴い消長した。
このことはこれらの遺伝子が休眠芽形成に重要な役割を行っていると考えられ、休眠芽形 成 過 程 に 種 子 休 眠 と 同 様 な 機 構 が 働 い て い る こ と が 示 唆 さ れ る 。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
喜久田 中嶋 岩間 幸田
嘉郎 博 和人 泰則
学位論文題名
PHYSIOLOGICAL AND MOLECULAR BIOLOGICAL STUDIES ON DORMANCY
IN Agrostis capillarisL ●CV .HIGHLAND
( ベ ン ト グ ラ スAgrostis capillarisL・ハ イ ラ ンド の 休 眠 に 関 す る 生 理 学 的 お よ び 分 子 生 物 学 的 研 究 )
本 論 文 は 、 図 28、 表10、 引 用 文 献196を 含 み 、6章 か ら な る 総 頁 数131の 英 文 論 文であ る。別に 参考文 献6編 が添えら れてい る。
本 論文 は 、 多年生牧 草が凍結 や乾燥 等の生存 に不適 当な環境 条件を 乗り切る ために休 眠 芽 を 形 成す る と考え 、その生 理学的 機作の解 明を試 みている 。休眠芽 の形成 や休眠芽 に含 ま れ る 栄養 分 が不十 分になる と次年 度の牧草 の生産 量が落ち る。この ように 牧草にお いて 休 眠芽の 形成機構 を調べ ることは 農業上重 要な問 題である 。
(1) コモンベ ン卜グ ラスAgrostis capillarisL.cv. Highlandの無菌培養系を確立した。
無 菌 種 子 を5週 間23℃16時 間 日 長 で 培 養 し た 植 物 体 を 、 根 の 付 け 根 か ら0.7〜1cmの と こ ろ で 葉 身 を 切 除 レ 、 そ の 株 の 基 部 を べ ン チ ル ア デ ニ ン1 mg/lを 含 むMS培 地 で4週 間 培 養 、 分 げ つ さ せ た 後 、 形 成 し た 芽 が 伸 長 す る か ど う か 調 べ 、 休 眠 を 確 認 し た 。
(2) 一 般 に 乾燥 ス ト レス に よ り植 物 ホルモ ンであ るアブシ ジン酸 が誘導さ れると考 え ら れ て いる 。 浸透圧 調整剤と してス ーク口ー スとマ ニ卜ール を用いて 乾燥ス 卜レスが 成長 や 休 眠 芽形 成 に お よぽ す 影 響を 調 べ た。 スーク ロース の濃度が0.26Mま で増加さ せると 植 物 体 の 成長 は 促 進 され る 。 しか し0.44M以上の濃 度では 成長は停 止する が、休眠 芽の形 成 が 増 加 した 。 マニト ールは植 物体の 分げっを 促進す るが、休 眠芽の形 成は起 こらず、 生重 や 乾 重 は減 少 した。 このこと から、 休眠芽の 形成は 乾燥スト レス及び 浸透圧 の上昇だ けに よ るもの ではない と考え られる。
(3) 植 物 の 成長 は ア プシ ジ ン 酸に よ って抑 えられ るが、休 眠芽形 成の誘導 はアブシ ジ ン 酸 と0.26Mのス ー ク ロー ス を 加え た と きのみ促 進され た。従っ て、休 眠芽形成 はスー ク
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口ースとアブシジン酸の相互作用によって起きると考えられる。休眠芽誘導条件で形成し た休眠芽は、いかなる人工気象条件(温度、日長)でも萌芽しなかったが、長日条件下で 10 ‑4MのACC(1一amino cy clopropane‑l‑carboxylic acid)を含む0.26Mスークロース 添加培地中に培養したときのみ萌芽した。
(4) 休眠芽の誘導により多年生の牧草の主要な貯蔵物質であるフラクタン含量を測定 した結果、スークロースの度を高めると総フラクタン含量と高分子のフラクタンの蓄積が 見られた。しかし萌芽に伴って急激に減少している。このように、休眠芽では萌芽と異な ったフラクタン構成で、ネオケストース、ケス卜ースやネストースなどが顕著である。
(5) 休 眠芽誘導 を行った株 の基部及 び形成した休眠芽には16 kDaの蛋白質の明瞭 な増加が見られた。この蛋白質は種子形成時に発現するデハイドリン(dehydrin)蛋白質と 考えられる。また休眠芽誘導条件下で特異的な発現を示す遺伝子を検出するために、ディ ファレンシャルディスプレーを行った。得られた特異的クローンの塩基配列の相同性の検 索の結果、3ク口ーンのアプシジン酸やストレスで誘導される遺伝子、3クローンのヒート ショック蛋白質、および耐凍結糖蛋白質クローンなどの他、未知の遺伝子15ク口ーンを 検出した。
(6) 休眠芽と種子休眠との関連を調べるため、種子休眠に関与する以下の3種の遺伝 子の休眠芽形成過程での発現について検討した。分離したa18は釆本科のデハイドリン 遺伝子と高い相同性を示レ、これらの遺伝子に特徴的なりジンリッチの配列を含んでいた。
VPl (VIVIPAROUS)はトウモロコシの穂発芽突然変異株のーっとして発見された遺伝 子であ るが、ベ ントグラス の実生よ ルゲノムDNAを抽出しPCRを行いVPl‑Iikeクロー ンを得た。さらに休眠と高い関連性が指摘されているアンチオキシダン卜蛋白質のペルオ キシレドキシン(peroxiredoxin)遺伝子の発現の検討を行った。これら3種の遺伝子は休眠 芽誘導条件下で発現し、8週間後の休眠芽において高い発現が確認された。また休眠芽の ACCによる休眠打破に伴い消失した。このことはこれらの遺伝子が休眠芽形成に重要な 役割を行っていると考えられ、休眠芽形成過程には種子休眠と同様な機構が働いているこ とが示唆される。この成果は、学術的にも高く評価されるとともに、禾本科牧草の培養や 品種改良技術の発展に寄与するところが極めて大きい。よって、審査員一同は、最終試験 の結果とあわせて、本論文の提出者ジャムサランウンダルマーは博士(農学)の学位を受 けるのに十分な資格があるものと認めた。
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