博 士 ( 地 球 環 境 科 学 ) 二 橋 創 平 学位論文題名
h/Ielting processes of the Antarctic sealce: Importance of heat input through open water
(南極海における海氷融解過程:開水面から入る熱の重要性)
学位論文内容の要旨
海氷 の融 解過 程に 関する研究は、主に北極海の 多年氷域とその氷縁域で行われ、そこで は ある 程度 理解 され ている。多年氷域では、海氷 は主に表面から融解し、基本的には大気 と 海氷 表面 問の 熱収 支で決まることが幾っかの研 究から示されている。一方季節海氷域、
特 に典 型的 な季 節海 氷域である南極海は、発散場 であるため開水面の割合が大きいという 特 徴が ある 。開 水面 は、通常積雪の存在する海氷 表面に比ベ、アルベドが非常に小さい。
そ のた め定 性的 には 、まず短波放射が開水面から 海洋上層に吸収され、その熱により海氷 が 側面 と底 面か ら融 解する過程が重要であると考 えられている。っまり南極海の海氷融解 過 程を 考え る場 合、 海氷と海洋を結合させて考え ることが本質的になる。しかしながら、
こ のよ うな 結合 系と しての理解は、数値実験に基 づぃたものはあるものの、データ解析に 基づぃた定 量的な議論は殆んどなされていなぃ。
南極 海に おけ る海 氷融解過程を定量的に理解す るため、本研究でほまず熱収支解析を行 っ た。 各熱 フラ ック ス の計 算に は、 経験 式な らびにバルク式とECMWF客観解析データを用 い た。 海氷 域全 体の10年間 分の 気候 値か ら、 海氷 の融 解が 最も 藍ん な12月の大気からの net heat inputは海氷表面で〜0W/rrr、海洋表面で〜十150W/m2であった。砕氷艦しらせに よ る現 場観 測の 気象 データを用いて計算を行って も同様な結果になった。従って南極海の 海 氷融 解期 は、 開水 面では大気から正の大きな熱 フラックス(主に日射による)があるの に 対 し 、 海 氷 表 面 で は 熱 の や り 取 り が 非 常 に 小 さ い こ と が 確 か め ら れ た 。 もし大気 から開水面を通って海洋上層ヘ入る熱によってのみ海氷が融解するなら、[海氷 融解率]∞ [開水面から海洋上層ヘ入る熱](=[海洋表面でのnetheatinput]x[開水面の 割合])と いう単純な比例関係が成り立っはずである。このような関係が見られるかを人工 衛 星(DMSPSSM/I)に よる 海氷 デー タと 熱収 支解 析を用いて調べた。南極海の海氷域全域 に おけ る10年聞 分の 気候値から、開水面を通って 海洋上層ヘ入る熱は、海氷の面積減少に 必 要な 融解 潜熱 と同 等であった。各年、各海域で 調べたところ、海氷融解率の変動は開水
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面から海洋上層ヘ入る熱の変動によく対応していた。詳しく見ると、海氷の融解が11月頃 から始まり12月にピークを迎えるという大局的な変動は、大気場の熱的外力(海洋表面で のnet heat input)が決定しているが、より短期間の変動や年々変動は、開水面の割合が 支配要因になっていた。
海氷―海洋結合系の視点から南極海の海氷融解過程を調べるため、1999年1月の夏季南 極ロス海で、米国砕氷船R/V NathanielB.Palmerのin―take systemにより観測された 海洋上層の水温,塩分データと、ビデオカメラにより観測された海氷密接度データを用い て解析を行った。その結果、海氷野内部ではある空間スケール(20ー30km)平均で見ると、海 氷密接度は水温と負の相関、塩分と正の相関関係になった。この関係は、昭和基地沖での 結果(Ohshima et al,1998)と良く一致し、開水面から入る熱によってのみ海氷が融解す ると簡略化した海氷―海洋結合モデルからも説明された。人工衛星に搭載されたマイクロ波 放射計による海氷密接度データとオーストラリアの砕氷船R/V Aurora Australisならび に砕氷艦しらせにより観測された9年間分の海洋上層のデータを用いて同様な解析を行つ たところ、海洋上層のデータが得られた南極海のほば半分の海域でロス海と同様な関係が 見られた。
前述の熱収支解析から、大気からのnet heat inputが最大になるのは12月であり、海 氷の有無により、海洋上層に入る熱はオーダーが1〜2異なることが示される。加えて12 月は海氷分布の年々変動が最も大きい月でもあるので、この時期に大気から開水面を通っ て海洋上層中に入る熱は、年により大きく異なることになる。もしこの熱のアノマリーが 海に記憶されるなら、次の結氷期にも影響を及ぼす可能性がある。20年間分の人工衛星 (Nimubus―7SMMRならびにDMSP SSM/I)による海氷密接度データを用いて12月の海氷密 接度アノマリーと次の結氷期(4月)のものと比較したところ、両者の空間分布はよく一 致した。その相関係数は、ほば南極海全域で正であり、特に強い相関を示す海域があった。
この結果は、融解期における海氷の多少が、海洋上層ヘ入る熱の多寡を生み、それが海に 記憶されて海氷が一度消滅した後、結氷期の海氷分布に反映されることを示唆している。
以上の結果から、南極海では大気から開水面を通って海洋上層ヘ入る熱(主に短波放射)
が海氷融解の主な熱源であり、この開水面から入る熱は海氷の後退と前進の変動を説明し 得る最も重要な要因であることが示唆された。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 教授
若土 池田 大島 山内
正曉 元美 慶一郎
恭(国立極地研究所)
学位論文題名
Melting processes of the Antarctic sealce: 工 mportance of heat input through open water
(南極海における海氷融解過程:開水面から入る熱の重要性)
海 氷の融 解過 程に関する研究は、主に北極海の多年氷域とその氷縁域で行われ、
そこ ではあ る程 度理 解さ れてい る。 多年 氷域で は、 海氷 は主 に表面 から 融解 し、
基本 的には 大気 と海 氷表 面間の 熱収 支で 決まる こと がい くっ かの研 究か ら示 され てい る。一 方季 節海 氷域 、特に 典型 的な 季節海 氷域 であ る南 極海は 、発 散場 であ るた め開水 面の 割合 が大 きいと いう 特徴 がある 。開 水面 は、 通常積 雪の 存在 する 海氷 表面に 比ベ 、ア ルベ ドが非 常に 小さ い。そ のた め定 性的 には、 まず 短波 放射 が開 水面か ら海 洋上 層に 吸収さ れ、 その 熱によ り海 氷が 側面 と底面 から 融解 する 過程 が重要 であ ると考えられている。っまり南極海の海氷融解過程を考える場合、
海氷 と海洋 を結 合さ せて 考える こと が本 質的に なる 。し かし ながら 、こ のよ うな 結合 系とし ての 理解 は、 数値実 験に 基づ いたも のは ある もの の、デ ー夕 解析 に基 づいた定量的な議論はほとんどなされていなかった。
ま ず本研 究で は、 南極 海にお ける 海氷 融解過 程を 定量 的に 理解す るた め、 熱収 支解 析を行 った 。そ の結 果、海 氷の 融解 が最も 盛ん な12月の 大気か らの 正味 の熱 のインプットは海氷表面で〜0 W/m2、海洋表面で〜+150 W/m2と見積られ、南極海 の海 氷融解 期で は、 開水 面では 大気 から 正の大 きな 熱フ ラッ クス( 主に 日射 によ る) がある のに 対し 、海 氷表面 では 熱の やり取 りが 非常 に小 さいこ とが 確か めら れた 。もし 大気 から 開水 面を通 って 海洋 上層ヘ 入る 熱に よっ てのみ 海氷 が融 解す るなら、[海氷融解率]と[開水面から海洋上層へ入る熱]の間には比例関係が成り 立っ はずで ある 。本 研究 では、 この よう な関係 がお おむ ね成 り立つ こと を人 工衛
星(
DMSP SSM/I
)による海氷データと熱収支解析から明らかにした。南極海の海 氷域全域における気候値から、開水面を通って海洋上層へ入る熱は、海氷の面積 減少に必要な融解潜熱と同等であり、また海域や年による海氷融解の違いや変動 特性も、開水面から海洋上層へ入る熱の変動によってよく説明できることが示さ れる。さらに申請者は
1999
年1
―2
月の夏季南極口ス海での米国砕氷船R/V NathanielB
. Palmerによる観測に日本人としてはただ1
人参加し、海氷融解過程に関わる観 測を行った。その結果、海洋上層の水温,塩分と海氷密接度の間にはある空間ス ケール(20ー30km)平均で見ると特徴的な関係があることを見出した。この関係は、開水面から入る熱によってのみ海氷が融解するとした簡略化した海氷―海洋結合 モデルから説明されることを示した。さらに、人工衛星による海氷密接度データ とオーストラリア及び日本の砕氷船による海洋上層のデータからも同様な結果が 導き出されることを示し、この特徴的な関係は南極海一般のものであることを提 示した。
前述の熱収支解析から、大気からの正味の熱のインプットが最大になるのは12 月であり、海氷の有無により、海洋上層に入る熱はオーダーがl〜2異なることが 示される。加えて
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月は海氷分布の年々変動が最も大きい月でもあるので、この 時期に大気から開水面を通って海洋上層中に入る熱は、年により大きく異なるこ とになる。もしこの熱のアノマリーが海に記憶されるなら、次の結氷期にも影響 を及ぽす可能性がある。本研究では、20年間分の人工衛星による海氷密接度デー タを用いて12月の海氷密接度アノマリーと次の結氷期(4月)のものと比較し、両者の空間分布が非常によく一致することを示した。この結果は、融解期におけ る海氷の多少が、海洋上層へ入る熱の多寡を生み、それが海に記憶されて海氷が 一 度 消 滅 し た 後 、 結 氷 期 の 海 氷 分 布 に 反 映 さ れ る こ と を 示 唆 し て いる 。
以上、申請者の研究は、南極海では大気から開水面を通って海洋上層へ入る熱
(主に短波放射)が海氷融解の主な熱源であることを、はじめてデータから定量 性をもって明らかにしたものである。さらに、本研究は開水面から入る熱が海氷 の後退と前進の年々変動を説明し得る最も重要な要因であることも示唆している。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者として誠実かつ熱心であ り、大学院課程における研鑚や取得単位なども併せ申請者が博士(地球環境科学)
の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。