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小指の痛みと運動の法則

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Academic year: 2021

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小指の痛みと運動の法則

著者 熊谷 正朗

雑誌名 プラントエンジニア

巻 45

号 10

ページ 78‑79

発行年 2013‑10

URL http://id.nii.ac.jp/1204/00000188/

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Plant Engineer Oct.2013

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 その日、「いったぁぁ」という叫び声とともに 私は部屋でうずくまりました。激痛の走った右 足の小指を見ると、真っ赤な血が。ご想像のと おり、視界の外にあった、子ども用の椅子を思 い切り蹴っ飛ばした、というありがちな事故で す。さすがに血が出るほどということは経験な く、翌日も歩き方のバランスがずれていました。

 さて、小指をぶつけると、なぜ痛いのでしょ う。もちろん、体のどこをぶつけても痛いのは 痛いのですが、こと足の小指は、普通に歩いて いる程度でぶつけてもつらいです。もっとも、

普通に歩いていてぶつけるのはそこくらいかも しれませんが。生体的な面については専門家の 解説に任せるとして、ここではメカ的な面から 見てみましょう。

 この惨事の力学的解釈は「衝突」です。たとえ ば、片足で立って、もう一方の足の小指を柱な どにぐりぐり押しつけたとしても、爪が割れた り流血したり、ということはありません。一つ には、人間の制御系がこういう動作を自動的に 抑制するということもありますが、そもそも、

自立した状態では足先にそれほど大きな水平方 向の力をかけられません。そのため、小指にか かった力は、静的な力ではなく、歩いていると いう運動の中での動的な力です。

 衝突とは、運動中の物体が別の物体に当たり、

その速度が変わる現象です。高校物理では、運 動量保存の法則や跳ね返り係数などとともに説 明されます。衝突の前後で速度が変わるのは、

何らかの力が働いたからです。運動の法則では  作用する力=質量×加速度

 加速度=時間当たりの速度変化

です。運動中の物体が、最終的に速度ゼロになっ て止まるとします。ある程度時間をかけてやん わり止まれば、時間当たりの速度変化である加 速度は小さくなります。その結果、その速度変 化に必要な力は小さくなります。逆に、一瞬で 速度がゼロになるような場合は、この力はかな り大きなものになります。ガラスのコップを固 い床に落とすと簡単に割れますが、放り投げた としても手でキャッチすれば割れません。

 小指にかかった力はまさにこの力で、歩行中 に振り出した脚が持っていた速度を短時間で止 めたことによります。根拠が薄い、いい加減な 計算ですが、

 脚 1 本 10kg  脚の移動速度 1m/s

 時間 1 / 20 秒(0.05 秒)で停止

とすると加速度は 20m/s2、かかる力は 200N

(約 20kg 重)とでます。それが数ミリ四方の小 指の先だけに作用したわけですね。

 これは衝突を例にしていますので極端です

小指の痛み 運動の法則

身の回りに見つける 雑学

第 7 回

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Plant Engineer Oct.2013

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メカトロニクス

が、この速度変化に必要な力を慣性力といい、

動くものをつくるときには常に頭に置いておく 必要があります。ものの速度を急激に変化させ ようとすると、この「質量×加速度」分の力は必 ず必要になります。「ぶつける」は論外としても、

生産設備で速度を上げようとすると加減速が急 になります。この場合、メカへの負担と、その 駆動をするアクチュエータの負担を運動パター ンから算出する必要があります。

 この慣性力を低減するには「急な加速をしな い」ことが重要で、そのために装置の運動パター ンとして、徐々に速度をあげ、一定の速度にし て最後に減速する「台形加減速」などが使われま す。あらかじめ加減速を低めに押さえることで 必要な慣性力が減ります。ただし、台形加減速 では、加速や減速の開始と終了で慣性力が急に かかり、急に力が抜けます。この急な力の変化 は装置の振動を誘発することがあります。これ を避けるには力のかかり方をなめらかに、つま り加速度の変化(加加速度・ジャークと呼ばれ ています)もなめらかにする必要があり、より 高級な S 字加減速などが用いられます。

 この慣性の法則の別の応用例としては、イガ 付きの栗でのキャッチボールがあります。もち ろん、イガは痛く、飛んできたものを普通に受 けたら短時間で大きな減速の力が必要になるの

で手に刺さります。一方、キャッチの瞬間に栗 の速度と手先の速度を合わせてゆっくり減速す るようにすれば、力が小さくなるのでなんとか なります。

 と、いうようなことを、足を沈めないように しつつお風呂に浸かりながら考えていたのです が、それと同時にもう一つ思っていたことは、

「なぜ足の小指があるか」ということです。生き 物は進化の過程で、使い道のないものは退化し ていくといいます。足の小指も普段の活動では 役立っている気がしなく、歩行という観点でも 安定性の向上に役立っている気がしません(親 指あたりはとても重要)。では、何のためかと いうと、もしかすると「ぶつけるために存在」し ているのかもしれません。小指がなければ、結 局は足をぶつけることになりそうです。なので、

「最悪は壊れてもかまわない」という前提のバン パーで、かつ「あちこち衝撃が入って問題が起 きるからぶつけるんじゃない!」というシステ ム警告を発するための部位なのではないかと。

ただのバンパーなら痛みの感度を落としておけ ばいいわけですから。考えすぎですかね。

※いろいろと危ないですので、今回の話の内容 は試してみないことをお勧めします※

KUMAGAI MASAAKI

東北学院大学 工学部 機械知能工学科 教授

熊谷正朗

東北学院大学工学部 教授/仙台市地域連携フェロー(ロボットメカトロ系担当)。2000 年東北 大学大学院工学研究科修了、博士(工学)。同大助手を経て、03 年より東北学院大学講師、助教 授、准教授、13 年より教授。ロボメカ系開発を専門とし、メカの設計からマイコンやサーバの ソフト開発までを行う。「基礎からのメカトロニクス講座」や地域企業訪問も実施中。

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