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Jour. Geol. Soc. Japan, Vol. 122, No. 3, p , March 2016 doi: /geosoc Magma-discharge rate and geochemica

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Academic year: 2021

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(1)

Magma-discharge rate and geochemical evolution during the pumice-eruption stage of Akagi

Volcano, NE Japan.

赤城火山軽石噴火期のマグマ噴出率と組成の変化

Abstract

Akagi Volcano, a large composite volcano located on the volcanic front of NE Japan arc, consists of older and younger ones. The latter is subdivided into the volcanic-cone-building stage (ca. 220–150 ka) erupting voluminous andesite lava flows, the pumice-eruption stage (ca. 150–44 ka) ejecting many andesite-dacite pumice falls and pum-ice flows, and the post-caldera stage (44–30 ka) effusing rhyolite lava domes. Geochemical correlations between pumice flow and pumice fall deposits have improved our understanding of the eruptive histo-ry of the pumice eruption stage, using a new magma-discharge time-step diagram. After the effusive volcanic-cone-building stage, the magma-discharge rate had temporally declined until the vigorous pumice-eruption sub-stage (ca. 60–44 ka). Geochemical features of trace element abundance suggest that the products of Akagi Volcano were generated by interactions between mantle-derived magma and lower-crustal materials, along with amphibole fractionation. The contributions of the crustal melt to the generation of felsic magma was grater during the pumice-eruption stage than during the volca-nic-cone-building stage. Increases in the magma-discharge rate ap-pear to have corresponded to the injection of voluminous mantle-de-rived magma into the lower crust.

Keywords: Akagi Volcano, magma discharge rate, step diagram, pumice flow, caldera

山元孝広

Takahiro Yamamoto

* 2015年913日受付. 2016年223日受理. * 産業技術総合研究所地質調査総合センター活断 層・火山研究部門

Geological Survey of Japan, AIST, Higashi 1-1-1 Central 7, Tsukuba 305-8567, Japan Corresponding author; T. Yamamoto, t-yamamoto@aist.go.jp

©The Geological Society of Japan 2016 109

は じ め に 火山活動の可能性評価のためには,対象とする火山の活動 履歴を可能な限り定量的に把握しておく必要がある.高頻度 で噴火を繰り返す桜島火山などを例外とすれば,ほとんどの 活火山は表面的な活動を停止しており,活発なもので数十 年,多くのもので数百∼数千年の休止期間を挟んで噴火が繰 り返されているのが実態である.そのため,地球物理学的な 観測による現状把握だけでは,対象とする火山が将来どのよ うな規模のどのような噴火を起こし得るのか判断することは 出来ない.火山活動の長期的な活動評価の基礎データとして は,火山噴出物の地質学的検討による噴火規模の定量化と噴 出年代の特定が重要で,マグマ噴出量階段図として示される マグマ噴出率の変動パターンから将来の噴火規模の可能性を 評価することが求められている.日本の主要な活火山のマグ マ噴出量時間階段図については既存文献情報をもとに取りま とめ公開しているものの(山元

, 2015

),使用した文献情報に は不十分なものが多く,全ての活火山について信頼性の高い 活動履歴情報が整備できている状況にはない.そのため,今 後も精度の高い噴火履歴調査を積み重ねていくことが求めら れている.また,噴出率の変動パターンが,マグマ供給系の どのような変化に対応しているのか,その成因を理解するこ とも合わせて重要であり,そのためにはマグマの化学組成変 化についても理解を深めておく必要がある. 赤城火山は,群馬県北東部に位置する東西

20 km

,南北

30 km

におよぶ大型の成層火山で,東北本州弧南端の火山 フロント上に位置している(

Fig. 1-1

).火山活動は

50

万年 前以降から始まり,成層火山体の形成から山体崩壊,厚い溶 岩流や溶岩ドームの流出,プリニー式噴火による降下軽石や 軽石流の噴出,山頂カルデラの形成へと至る多様な火山活動 を行い,約

3

万年前にマグマ活動を終えている(守屋

, 1968,

1970;

竹本

, 1998a, b;

高橋ほか

, 2012

).このような火山活 動推移は多くの島弧の成層火山と共通するものであり,赤城 火山は島弧火山の典型的な発達過程を示すと考えられている (守屋

, 1983

).また,火山の発達過程に対応して,大局的に は噴出物の

SiO2

量と

K2O

量が増大し,特に爆発的噴火の 卓越する活動後期には親子関係のない苦鉄質と珪長質のマグ マの混合が顕著になっている(高橋ほか

, 2012

).このように 赤城火山は火山の長期的な発達過程を理解する上での代表事 例であることから,成層火山体の形成から山頂カルデラ形成 へと至る噴火履歴の再検討と定量化を行い,噴火様式の変化 に対応したマグマ噴出率とマグマ組成の時間変化を明らかに

(2)

する.具体的には,これまで未解決であった山体を構成する 軽石流堆積物群(竹本

, 1998a;

高橋ほか

, 2012

)と遠方のプ リニー式降下軽石堆積物群(鈴木

, 1990;

山元

, 2012; 2013a

) の対比を,火山ガラスの主成分化学組成分析結果から行って いる.これにより,

15

万年前以降の噴火履歴の定量化が可 能となった.さらに軽石の微量成分元素化学組成から珪長質 マグマの成因について考察する. なお,露頭地点の一覧,火山ガラスの化学組成,軽石の全 岩化学組成,軽石流堆積物の等層厚線については

Appen-dix1

2

3

4

からダウンロードされたい. これまでの研究

1

.火山形成史 赤城火山形成史の全体像を初めて示したのは守屋(

1968;

1970

)で,古期成層火山形成期/新期成層火山形成期

/

中央 火口丘形成期の

3

つのステージを提案した.守屋によると 古期成層火山形成期は前期/中期/後期に区分され,中期ま でに形成された大型の苦鉄質の成層火山体がその末期に山体 崩壊(梨木岩屑なだれ)を起こした後,後期に中間組成の高粘 性の溶岩が流出して火山体を再生したとされている.新期成 層火山体形成期になると,珪長質火山活動に様式が変化し, 多くのプリニー式降下火砕物と軽石流が噴出し,最終的に山 頂に南北

4 km

,東西

2 km

,面積

7 km

2のカルデラが形成 され,中央火口丘形成期には,鹿沼降下軽石の噴出とカルデ ラ内の溶岩ドーム(地蔵岳・小こ沼の溶岩)の形成が続いた.この 守屋の赤城火山形成史の大枠は,一部修正を加えられながら も,その大枠は引き継がれている.例えば竹本(

1998a

)や高

Fig. 1. Index map of Akagi Volcano and cross-sections of dVp perturbations through Akagi Volcano, using tomography date of Nakamura et al. (2008). The 40-km-depth horizontal (1) and vertical (2) perturbation images were constructed using the Visualization System for Subsurface Structures (AIST, 2009). Red and blue colors in the cross-section show low- and high-velocity regions, respectively. White colors in the cross-section indicate an absence of images due to low accuracy. Red tri-angles in 1 are Quaternary volcanoes. Purple circles in 1 and 2 are hypocenters. Red solid and broken lines in 2 are the Moho and Conrad discontinuities. PaS and PhS in 2 are the Pacific and Philippine Sea slabs, respectively.

Fig. 2. Distribution of pumice fall deposits ejected from Akagi Volcano. Numerals are thickness of contour lines in centimeter. See Table 1 for names of the tephra layers. Modified from Yamamoto (2012, 2013a).

(3)

橋ほか(

2012

)も古期成層火山形成期/新期成層火山形成期 /中央火口丘形成期の

3

つのステージに分けるが,竹本や 高橋ほかは古期

/

新期の境界を梨木岩屑なだれに置いてお り,この点で守屋の層序とは異なっている.本報告でも古期 成層火山・新期成層火山の区分を用いるが,その区分は竹本 (

1998a

)や高橋ほか(

2012

)にしたがっている. 新期成層火山形成期後半の軽石流堆積物については,守屋 (

1968, 1970

)では十分に区分されていなかったものの,竹 本(

1998a, b

)によるテフラ層序の検討の結果,下位から糸 井・不動・棚たな下した・藤木・輪わ久く原ばら・大胡・年とし丸まるの軽石流堆積物 が認定されている(非軽石流を除く).本報告でもこの軽石流 堆積物の層序を踏襲するが,年丸軽石流堆積物の更に上位に 未記載の軽石流堆積物を確認し,南な雲ぐも火砕流堆積物と新定 義した(後述).守屋(

1968, 1970

)は新期成層火山形成期末 に赤城湯ノ口降下軽石に引き続いてガラン石質火砕流が噴出 して山頂のカルデラが形成されたとしたが,本報告ではこの 考えを採用しない.すなわち,守屋のガラン石質火砕流堆積 物は成因・層序の異なる

3

つの堆積物に細分されるされる べきである. 赤城火山から噴出した最近

20

万年間の降下軽石堆積物の 層序については,鈴木(

1990

)により確立され,下位から水 沼降下軽石群・行川降下軽石群・湯ノ口降下軽石・鹿沼降下 軽石に区分されている.このテフラ層序に問題がないことは 山元(

2012, 2013a

)で再確認され,個々のテフラの噴出年 代,分布(

Fig. 2

)や噴出量が再検討されている.その結果, 下位から,赤城折口原(約

15

万年前),赤城水沼

9–10

(約

14

万年前),赤城水沼

8

(約

13

万年前),赤城水沼

7

(約

12

万年前),赤城水沼

6

(約

10

万年前),赤城水沼

5

(約

9

万年 前),赤城水沼

4

(約

8

万年前),赤城水沼

3

(赤城追貝

;

7

万年前),赤城水沼

2

(約

6

万年前),赤城水沼

1

5.8

万年 前),赤城行川

2

5.2

万年前),赤城行川

1

5.1

万年前),赤 城湯ノ口(

5.0

万年前),赤城鹿沼(

4.4

万年前)降下軽石の噴 火年代が与えられた(

Table 1

).

2

.地下構造 赤城火山噴出物の岩石学的研究を行った

Kobayashi and

Nakamura

2001

)は,沈み込んだ太平洋スラブの直上にフィ リピン海スラブの重なる特殊な地下構造により生じた水に富 む初成マグマの形成が,本火山のマグマ形成プロセスには重 要と考えていた.このモデルは,地震学的に検出されたフィ リピン海スラブの先端が赤城火山の直下付近にまで想定され ていたこと(例えば

Ishida, 1992

)が根拠となっていた.し かし,その妥当性については赤城火山を含む関東地方の地震 波速度構造に関する近年の研究(弘瀬ほか

, 2008; Nakajima

et al., 2009

など)から再検討する必要があろう.

Fig. 1-2

は活断層データベース(産業技術総合研究所

, 2009

)で出力し た相模トラフから赤城火山を通過する

dVp

地震波速度構造 である.速度構造データは

Nakamura, M. et al.

2008

)を 用いている.関東地方の地下には,青色の高

dVp

で示され る相模トラフから沈み込んだフィリピン海スラブ(

PhS

)が赤 城火山方向に上面深度を下げながら沈み込む構造が存在し, 深度

110 km

前後でその下位にある同じく高

dVp

の太平洋 スラブ(

PaS

)にぶつかっている.重要な点はフィリピン海ス ラブの高

dVp

領域が赤城火山の直下まで達していないこと で,同様の速度構造は赤城火山を通過する

Nakajima et

al.

2009

)の北東

南西断面(原著

Fig. 7

B

断面)でも確認 できる.関東地方のフィリピン海スラブ上面の地震波速度構 造の詳細を検討した弘瀬ほか(

2008

)でも,スラブ上面が推 定できるのは赤城火山手前の深度

90 km

までである.

Fig.

1-2

の緑色線は弘瀬ほか(

2008

)の上面深度を太平洋スラブ 上面(水色線)まで外挿したものであるが,両線の間隔は赤城 火山の直下では

10 km

にまで狭まっている(

Nakajima et

al., 2009

).しかしながら,速度構造から見る限り,この鋭 角の狭い領域に,より厚く固いフィリピン海スラブの先端が 押し込まれているとは判断できない.また,

Kobayashi

and Nakamura

2001

)が考えたような太平洋・フィリピン 海両スラブからの流体の供給は,

Nd

Pb

同位体の兆候か ら,地震学的に両スラブの存在が確認されている中部日本の 両白地域では明瞭に確認されている(

Nakamura, H. et al.,

2008

).しかし,その同位体兆候は赤城火山を含む那須地域 の火山には僅かで(

Nakamura, H. et al., 2008

),物質科学 的にも赤城火山のマグマの成因にフィリピン海スラブの大き な寄与は考えにくい.

Fig. 1-2

の速度構造が示すもう一つの重要な点は,背弧 側から斜めに上昇する赤色の低

dVp

領域が地殻下面にぶつ かる場所の最前面に赤城火山が位置していることである.こ のような低速度構造と火山の関係は東北本州弧に特徴的に見 られるものであり(

Zhao et al., 1992

など),

150

200 km

の深度でのスラブ起源流体の放出と太平洋スラブの沈み込み に よ る 反 流 で 生 じ て い る(

Iwamori, 2007;

長 谷 川 ほか

,

2008

).すなわち,赤城火山のマグマをもたらしたウェッジ マントルの構造は東北日本弧の他の火山群と特に違いがある わけではない. 赤城火山噴出物の層序 本報では新期成層火山を以下のユニットに区分して地質図 (

Fig. 3

)を作成した.古期成層火山噴出物の分布に関しては, 基本的に守屋(

1968

)にしたがっている.ただし,守屋 (

1968

)の古期成層凝灰亜角礫層群の分布には,一部修正を 加えている.新期成層火山については,新期成層火山溶岩・ 火砕岩と火山麓扇状地

1

堆積物からなる火山体形成期,不 動軽石流堆積物から鹿沼降下軽石堆積物までの軽石噴火期, 山頂の赤城カルデラ内に溶岩ドームが形成された後カルデラ 期に細分される.

1

.新期成層火山溶岩・火砕物 本溶岩・火砕物は,ラシラシ沢溶岩・利りへい平じゃ茶屋や溶岩・黒くろ 檜び山やま溶岩等(守屋

, 1968, 1970

)からなる古期成層火山体の 南西に形成された新期の成層火山体を構成するもので,両者 の間には大きな地形的なギャップが存在する.すなわち,古 期と新期の成層火山体の間には梨木岩屑なだれを発生させた 山体崩壊(守屋

, 1968, 1970

)があり,これにより大きな不整 合が生じている.新期の主火山錐を構成するのはクラヤミク ボ溶岩群・荒山溶岩・川口川溶岩等で,鍋なべ割わり山やま溶岩・舟ヶ

(4)

原溶岩・枡形山溶岩・鈴ヶ岳溶岩等は側火山として噴出した (守屋

, 1968, 1970

).地質図(

Fig. 3

)に示した溶岩の分布は, 基本的に守屋(

1968

)にしたがっている.溶岩のほとんどは 安山岩で,デイサイトを伴っている(高橋ほか

, 2012

).ま た,新期成層火山の形成開始時期は高橋ほか(

2012

)に従い,

22

万年前以降とする.一方,守屋(

1968

)では,荒山(

Fig.

3

A

)の南山腹斜面が古期成層火山体の一部(古期成層凝灰 亜角礫層群)に区分されている

.

しかし,この斜面を構成す る土石流堆積物は榛名八崎テフラを挟んだ層厚

5 m

前後の 風成層に被覆されるだけで,古期成層火山体被覆層に期待さ れる

22

万年前以前のテフラの存在は確認できない.した がって,本報告ではこの堆積物を梨木岩屑なだれ堆積物より も若い次の火山麓扇状地

1

堆積物と考えている.

2

.火山麓扇状地

1

堆積物 守屋(

1968, 1970

)の新期成層火山形成期の石質火砕流堆 積物群と成層凝灰亜角礫岩層を合わせたものにほぼ相当し, 北東部を除く山体の山麓部を構成する.利根川沿いの河岸で

100 m

前後の層厚を持つ.山頂部を構成する新期成層火山

Table 1. List of tephra units in this study. Bt = biotite; Cpx = clinopyroxene; Cum = cummingtonite; Hb = hornblende; Opx = orthopyroxene. a) Geshi and Oishi (2011); b) Aoki et al. (2008).

(5)

の溶岩・火砕物と同時異相で,その縁辺相を構成する.安山 岩礫からなる土石流堆積物や高密度洪水流堆積物が卓越する が,小田川・下田沢火砕流堆積物と呼ばれる小型の石質火砕 流堆積物群(高橋ほか

, 2012

)を伴っている.また後述する糸 井軽石流堆積物も本火山麓扇状地の構成層である.

3

.糸井軽石流堆積物 本堆積物は,昭和村糸井の阿あ岨ぞ岩の最上部を構成し,火山 麓扇状地

1

の土石流堆積物を整合で覆っている.地層名は, 竹本(

1998a

)による.この軽石流堆積物の存在自体は新井 (

1962

)や守屋(

1968

)にも記載されており,新井(

1962

)は 棚下軽石流と同時期のものと考えていた.ただし,この対比 は竹本(

1998a

)のテフラ層序から成り立たない.本堆積物は 結晶片に富む火山灰基質を持った非溶結の軽石火山礫凝灰岩 からなり,模式地での層厚は

13 m

である.軽石の岩質は, 普通角閃石含有斜方輝石単斜輝石安山岩

デイサイトであ る.その分布範囲は,北北西山麓から北西山麓である(

Fig.

3

).分析試料の

ITO-01

は阿岨岩を流れ落ちる

3

本の沢の うち最も北の沢(

Loc. 7

)で採取した.

Fig. 3. Geological map of Akagi Volcano. Numerals are locality numbers. A = Arayama; J = Jizodake; K = Kono crater lake; O = Ono crater lake; PFD = pumice flow deposit.

(6)

4

.不動軽石流堆積物 西山麓の渋川市赤城村棚下の不動堂付近に,局所的に分布 し,火山麓扇状地

1

堆積物を覆い,かつ棚下火砕流堆積物 に覆われる.地層名は,竹本(

1998a

)による.地質図(

Fig.

3

)では,分布は省略している.火山灰基質の多い非溶結の 軽石火山礫凝灰岩からなり,模式地での層厚は

10 m

である. 軽石の岩質は,普通角閃石含有斜方輝石単斜輝石安山岩

デ イサイトである.分析試料

FUD-01

は不動堂裏の沢沿い (

Loc. 2

)で採取した.

5

.棚下軽石流堆積物 渋川市赤城村棚下の棚下不動の滝が懸かる岩壁を構成して いる.地層名は,新井(

1962

),守屋(

1968

)による.本堆積 物は西山麓の火山麓扇状地

1

を削り込んだ谷地形を埋め立 てており,その層厚は約

100 m

で,そのうち中央部の

50 m

厚が溶結している.上下の非溶結部は軽石凝灰角礫岩 からなり,特に下部は径

30 cm

を超える軽石に富む.軽石 の岩質は,普通角閃石含有斜方輝石単斜輝石安山岩

デイサ イトである.分析試料

TAN-LO

は不動の滝,滝壺下(

Loc.

3

)の下部非溶結相から,

TAN-UP

は滝上の林道沿い(

Loc.

4

)の上部非溶結相から採取した.後述する分析結果で示す ように,下部の方が上部よりも

SiO2

量に富んでいる.

6

.藤木軽石流堆積物 地層名は竹本(

1998a

)による.西山麓,渋川市赤城村北赤 城山から南原の火山麓斜面の表層部を構成し,その層厚は

8 m

以下である.地質図(

Fig. 3

)では,分布は省略している. 最下部に軽石火山岩塊

火山礫が濃集し,反対に上部は明瞭 に成層した軽石火山礫混じりの淘汰の悪い火山灰からなる. 軽石の岩質は,普通角閃石斜方輝石安山岩

デイサイトであ る.北赤城山では棚下軽石流堆積物を覆うが,南原では明瞭 な土壌層を挟んで火山麓扇状地

1

堆積物を覆っている.ま た,直上には黒雲母を含む結晶質火山灰があり,これは立山

D

テフラに対比されている(竹本

, 1998b

).分析試料の

FJK-01

は南原(

Loc. 8

)の最下部から採取した.

7

.輪久原軽石流堆積物 地層名は竹本(

1998a

)による.北山麓,沼田市利根町輪久 原の火山麓扇状地

1

よりも一段低い河川段丘の表層を構成 する.非溶結の軽石火山礫凝灰岩

火山礫凝灰岩からなる. 軽石の岩質は,普通角閃石含有斜方輝石単斜輝石安山岩

デ イサイトである.防災科学技術研究所の統合化地下構造デー タベースのボーリング資料を参照すると,輪久原での最大層 厚は

35 m

である(柱状図

20100311-100003-00186

).分 析試料

WAK-01

は,輪久原(

Loc. 12

)で採取した.西山麓 の渋川市赤城村藤木でも,棚下軽石流堆積物よりも一段低い 地形面を構成する非溶結の軽石流堆積物があり,

WAK-02

として採取している(

Loc. 5

).後述するように両試料の火 山ガラスの組成は一致する.

8

.大胡軽石流堆積物 南山麓,前橋市大胡付近の荒砥川沿いに模式的に露出する 本堆積物を,新井(

1962

)は大胡軽石流と呼んでいる.模式 地付近は下限不明で

15 m

以上あり,最大径

45 cm

の円磨 軽石が部分的に濃集したフローユニットの明瞭な,岩片支持 で結晶片に富む粗粒火山灰基質を持つ非溶結の軽石火山礫凝 灰岩

火山礫凝灰岩からなる.軽石の岩質は,普通角閃石含 有斜方輝石単斜輝石安山岩である.前述の統合化地下構造 データベースの上武道路のボーリング資料を参照すると,南 山麓の末端部でも約

6 m

の層厚がある(柱状図

20100311-100553-00014

等).分析試料

OGO-01

は,南山麓の前橋 市富士見町皆沢(

Loc. 11

)で採取した.南山麓の大胡軽石流 堆積物直上には黒雲母・普通角閃石・斜方輝石を含む結晶質 火山灰があり,これは大山倉吉テフラに対比されている(竹 本

, 1998a

).また,新井(

1962

)は粕川村湯ノ口で本軽石流 が湯ノ口降下軽石堆積物を覆うとして記載しているが,この 火砕物は岩片支持で安山岩粗砂の基質を持つ土石流堆積物で ある.付近の前橋市三夜沢(

Loc. 14

)では湯ノ口降下軽石堆 積物の下位に大胡軽石流堆積物が確認でき(

Fig. 4

),新井 (

1962

)の層序は間違いである. 大胡軽石流堆積物の相当層は,南東および西山麓にも分布 している.南東山麓の桐生市本宿(

Loc. 17

)には,塊状で結 晶片に富む粗粒火山灰基質に最大径

25 cm

の円磨軽石を含

Fig. 5. Outcrop photograph of the lag breccia facies (LB) of the Ogo Pumice Flow Deposit (PFD). Loc. 10.

Fig. 4. Outcrop photograph of the Ogo Pumice Flow De-posit (PFD), Yunokuchi Pumice Fall DeDe-posit (UP) and overlying debris flow deposits (Volcanic fan 2). Loc. 14.

(7)

む軽石流堆積物が,層厚約

50 m

で露出している.分析試料

OGO-03

は同地点で採取した.西山腹の渋川市深山では層 厚約

70 m

の軽石流堆積物が露出し,複数層準に石質岩片の 濃集相が認められ,特に最上位のものが最も粗粒で厚い (

Loc. 10

).この岩相は岩片支持で軽石混じりの粗粒火山灰 基質を持つ塊状の火山角礫岩で,最大径

70 cm

前後の石質 岩片に富んでいる(

Fig. 5

).石質岩片の形は亜角礫で,顕著 に角が落ちている.基質には軽石片が普通に含まれており, 塊 状 軽 石 流 相 と 漸 移 し,典 型 的 な ラ グ 角 礫 相(

Walker,

1985

)と判断できる.守屋(

1968, 1970

)がガラン石質火砕 流とした堆積物の一部は,彼の地質図から判断して,このよ うなラグ角礫相に相当している.ただし深山(

Loc. 10

)で採 取した漸移する軽石流相の試料

OGO-02

の火山ガラスの組 成は典型的な大胡火砕流のものであり,守屋(

1968, 1970

) の考えたようなより上位にあるガラン石質火砕流の層準に対 比されるものではない.

9

.年丸軽石流堆積物 渋川市赤城町狩野の東の林道沿いに模式的に露出し,ここ から沼尾川左岸の藤木集落の乗る緩斜面を構成する.この緩 斜面は,前述の棚下・輪久原・大胡軽石流堆積物が構成する 緩斜面よりも更に低い.守屋(

1968

)は,渋川市赤城村深山 を流れる沼尾川沿いの軽石流堆積物群を年丸軽石流堆積物と 呼んでいた.その後,竹本(

1998b

)はこのうちの年丸集落の 西に分布する堆積物のうち最上部にあるもののみを年丸火砕 流と再定義している.狩野の林道沿い(

Loc. 1

)の本堆積物 は,基質支持で中粒砂基質を持つ非溶結の軽石火山礫凝灰岩

火山礫凝灰岩からなり,最大径

35 cm

の円磨された軽石を 多く含んでいる.軽石の岩質は,普通角閃石含有斜方輝石単 斜輝石安山岩

デイサイトである.また,層厚は約

5 m

であ る.分析試料

TOS-01

は狩野(

Loc. 1

)で,

TOS-02

は上流 の深山(

Loc. 9

)で採取した.

10

.南雲軽石流堆積物 渋川市赤城町長井小川田の沼尾川左岸に模式的に露出し, 南雲小学校が乗る緩斜面を構成する.地層名は新称で,東山 麓の桐生市大間々町本宿の川口川左岸にも同じ堆積物が露出 する.西山麓の沼尾川では層厚

2.6 m

以上で,逆級化層理 をもつ非溶結の軽石火山礫凝灰岩からなる.結晶片に富んだ 極粗粒砂基質を持ち,円磨された

10 cm

以下の軽石と

5 cm

以下の石質岩片をまばらに含んでいる.軽石の岩質は,普通 角閃石含有斜方輝石単斜輝石安山岩

デイサイトである.西 山麓の川口川沿いでは,層厚

4.2 m

以上で,侵食された大 胡軽石流堆積物を覆っている.その岩相は,基質支持で塊状 の非溶結の軽石火山礫凝灰岩で,最大径

22 cm

の円磨軽石 を含んでいる.さらに基底部には,

34 cm

厚で,最大径

4.2 cm

の降下軽石堆積物を伴っている.分析試料

NAG-01

は西山麓の渋川市長井小川田(

Loc. 6

),

NAG-02

は東山麓 の桐生市本宿(

Loc. 16

)の軽石流堆積物から採取した.

11

.伽が藍らん火砕堆積物 赤城カルデラ南縁を横切る粕川源流部のゴルジュである銚 子の伽藍の最上部を構成する.本堆積物は,守屋(

1968

)が 記載したように,銚子の伽藍の中段を構成する湯ノ口降下軽 石堆積物をほぼ整合的に覆っており,その層厚は

15

20 m

である(

Fig. 6

).また,その岩相は最大径

30

40 cm

の安 山岩火山岩塊や火山礫を主体とする岩片支持で塊状の火山角 礫岩で,弱く溶結している.基質には火山灰がほとんどな く,岩片間には隙間が空いている.守屋(

1968, 1970

)は本 堆積物をガラン石質火砕流堆積物と呼び,山麓表層部を構成 する石質安山岩に富む火砕堆積物と同じものと考えた.しか しながら,山麓部の“ガラン石質火砕流堆積物”は,前述した 大胡軽石流堆積物のラグ角礫相や,後述する火山麓扇状地

2

の土石流堆積物であり,山頂部の火砕堆積物とは同じもので はない.また,山頂部の火砕堆積物の岩相は,降下堆積物の 火口近傍相に特徴的なものであり,火砕流と呼べるものでは ない.

12

.火山麓扇状地

2

堆積物 大胡軽石流噴火前後から成長した火山麓扇状地堆積物で, そのほとんどは榛名八崎テフラ噴出前に離水している.安山 岩礫や軽石礫からなる土石流堆積物や高密度洪水流堆積物で 構成されている.特に南山麓の粕川沿いでは湯ノ口降下軽石 堆積物を覆って厚い扇状地堆積物が発達しており(

Fig. 4

), 山頂部での伽藍火砕噴火に対応して土砂の二次移動があった ものとみられる.

13

.後カルデラ期溶岩 赤城カルデラ内に噴出した小沼溶岩(

Fig. 3

K

)と地藏 岳溶岩(

Fig. 3

J

)からなる.岩質はどちらも流紋岩である (高橋ほか

, 2012

).小沼からの噴出物の上位には姶良

Tn

テ フラがあるので(竹本

, 1998a

),約

3

万年前にはマグマの噴 出が停止している. 火山ガラス・軽石の化学組成分析

1

.分析試料と分析手法 山体を構成する軽石流堆積物と山麓からより遠方へと広 がった降下軽石堆積物の対比を行う目的で,堆積物を粉砕し

Fig. 6. The Yunokuchi Pumice Fall Deposit (UP) and the overlying Garan Pyroclastic Deposit (GPD) exposed at the Choshi-no-garan cliff. Loc. 13.

(8)

て得られた火山ガラスの主成分分析を行った.両堆積物は軽 石噴火で発生する異なる運搬・定置の産物で,本来はセット として形成されたと考えられるが,両者の層序関係を直接確 認できる露頭が山体周辺で確認できる露頭がほとんどないた め,その対比は未解決の問題としてこれまで残されてきた. 軽石流堆積物の分析試料については,前章の層序記載に既に 示している.降下軽石堆積物の分析試料については,赤城水 沼

5

降下軽石よりも上位の堆積物は,桐生市水沼(

Loc. 18;

Fig. 7

)で採取した.この露頭は,坂田・中澤(

2010

)がテフ ラ層序の詳細を記載した地点と同一である.赤城水沼

6

降 下軽石よりも下位の堆積物については,山元(

2012, 2013a

) で層序が確立されている栃木県中央部から福島県南部(

Fig.

7

)で採取した試料を分析した.赤城折口原降下軽石につい ては,元々は鈴木(

1992

)により那須火山東山麓で給源不明 の遠方からのテフラとして記載された粗粒の軽石火山灰であ るが,その分布と主成分組成から判断して,今回赤城火山起 源と考えた. 火山ガラスの主成分分析は(株)古澤地質に依頼し,エネル ギー分散型

X

線マイクロアナライザー(

EDX

)を用いて測定 された.

EDX

測定手法は及川ほか(

2005

)に準じており,

4

μ

m

四方の範囲を約

150 nm

のビーム径にて走査させてい る.火山ガラスの微小領域の主成分分析ではガラス中の微斑 晶の存在が問題となるが,湯ノ口降下軽石堆積物の

GAP-01

に微斑晶が認められた以外は,清澄な火山ガラスを分析 している.各堆積物の本質火山ガラスの分析結果は,総量を

100%

に再計算した

SiO2

量で

70.2

79.0 wt.%

と幅広く, かつ堆積物毎に固有の値を持つ特徴を示している(

Fig. 8

). 降下軽石堆積物の火山ガラスは

GAP-01

を除くと概ね問題 のない値が得られている.これに対し軽石流の火山ガラスで は総量の平均が

90%

前後と低く,水和による変質が進んだ

試料もある(

FJK-01, WAK-01, TSO-02, NAG-02

).例え ば

WAK-01

TOS-02

は, 同 じ 軽 石 流 の

WAK-02

TOS-01

にくらべ

Na2O

量が少なく,

NAG-02

NAG-01

よりも

K2O

量が少なくなっている.測定結果の詳細は

Appendix 2

を参照されたい. 軽石流堆積物については,良好な試料が得られなかった不 動・藤木軽石流を除き,径

10 cm

以上の新鮮な軽石から削 り出した中心部分について全岩化学組成分析を行った.分析 は

Activation Laboratories

社に依頼し,主要元素および

Sc

V

Ba

Sr

Y

Zr

については

Thermo Jarrell-Ash

Fig. 7. Stratigraphic columns of eolian deposits including pyroclastic fall deposits at Locs. 15, 18, 19, 20, 21 and 22. See Table 1 for names of the tephra layers. T = thickness of the tephra unit in centimeters. D = average maximum diameter of grains of the tephra unit in centimeters. Arrows indicate the positions of the analyzed samples. Modified from Yamamoto (2012, 2013a).

(9)

ENVIRO II ICP

,これら以外の微量成分については

Per-kin Elmer SCIEX ELAN 6000 ICP-MS

で測定されてい

る.軽石試料の灼熱減量は,いずれも

3.5%

未満に収まって いる.測定結果の詳細は

Appendix 3

を参照されたい.

2

.軽石流・降下軽石堆積物の対比 各堆積物の上下関係や広域テフラとの層序関係および鉱物 組成を組み合わせると,火山ガラスの主成分の特徴による軽 石流堆積物と降下軽石堆積物の対比は容易である.すなわ ち,北西山麓に分布する最も下位の糸井軽石流は,他の軽石 流よりも

SiO2

量が少なく(

70.2

74.7 wt.%

),かつ若干

K2O

量も少ない特徴を持っている.同様の主成分の特徴を 持つテフラは赤城折口原降下軽石のみであり,

SiO2

量の幅 は狭いものの(

73.0

74.5 wt.%

),他の主成分含有量も良く 一致している(

Fig. 9

.

この降下軽石堆積物の上位には

13

万年前の燧ヶ岳田頭テフラ,

14

万年前の飯縄上樽

a

テフラ (

Table 1

)が重なり(

Fig. 7

),層序学的に

15

万年頃の噴出 物と考えられる.

MIS 6

を示すこの年代は,糸井軽石流を 含む火山麓扇状地

1

の形成年代(竹本

, 1998b

)と良く一致し ており,両者を対比することに問題はない. 立山

D

テフラの下位にある不動・棚下・藤木軽石流につ いては,特に棚下軽石流の

SiO2

量が

76.4

78.8 wt.%

と 他よりも組成幅が大きなことに特徴がある(

Fig. 10

).同様 の

SiO2

量を持つテフラは赤城水沼

8

降下軽石で

77.0

78.5 wt.%

と良く一致している.赤城水沼

9–10

降下軽石と も組成がかなり重複するが,このテフラの

SiO2

量は

75.0

78.0 wt.%

と棚下軽石流のそれとは若干ずれている.赤 城水沼

8

降下軽石の噴出年代は汎世界的海面変化との関係 から

MIS 5e

の最初期と特定されており(山元

, 2013b

),棚 下軽石流の層序的位置とも矛盾しない.さらに上位の藤木火 砕流の

SiO2

量は

77.3

78.0 wt.%

にまとまるが,その組 成範囲は赤城水沼

7

降下軽石の

77.2

78.0 wt.%

と重なり, 他の主成分でもある程度一致している(

Fig. 11

).

Na2O

Fig. 8. K2O versus SiO2 diagram for volcanic glass shards in all pumice flow deposits (PFD) and pumice fall deposits of younger Akagi Volcano.

(10)

は藤木火砕流のほうが若干少ないが,これは試料(

FJK-01

) の変質のためとみられる.赤城水沼

7

降下軽石の噴出年代 は汎世界的海面変化との関係から

MIS 5e

5d

境界付近の

12

万年前と特定されており(山元

, 2012

),藤木軽石流の層 序的位置と矛盾しない.棚下火砕流・赤城水沼

8

降下軽石 の下位にある不動火砕流と赤城水沼

9–10

降下軽石は

SiO2

量の組成幅が異なるものの,不動火砕流の組成は赤城水沼

9–10

降下軽石の組成内に包含されるので(

Fig. 9

),対比が 不可能な訳ではない.不動火砕流を確認しているのは西山麓 の

1

露頭であり,そもそもここから採取した

FUD-01

が噴 火堆積物の全体を代表しているのかどうかも明らかではな い.本報では積極的な証拠には欠けるものの,不動火砕流は 赤城水沼

9–10

降下軽石と対比可能であることを指摘してお く. 大山倉吉テフラの直下にある大胡軽石流は,南山麓 (

OGO-01

),南東山麓(

OGO-02

),西山麓(

OGO-03

)の試 料とも,

SiO2

量は

75.4

76.8 wt.%

の範囲に収まり,他の 軽石流とは組成範囲がずれている(

Fig. 8

).広域テフラとの

Fig. 9. TiO2, CaO, Na2O and K2O versus SiO2 diagrams for volcanic glass shards in the Itoi Pumice Flow (ITO), Fudo Pumice Flow (FUD), Origuchihara Pumice Fall (OrP) and Mizunuma 9-10 Pumice Fall (MzP9-10).

Fig. 10. TiO2, CaO, Na2O and K2O versus SiO2 diagrams for volcanic glass shards in the Tanashita Pum-ice Flow (TAN), Mizunuma 9-10 Pumice Fall (MzP9-10) and Mizunuma 8 Pumice Fall (MzP8).

Fig. 11. TiO2, CaO, Na2O and K2O versus SiO2 diagrams for volcanic glass shards in the Fujiki Pumice Flow (FJK), Mizunuma 7 Pumice Fall (MzP7) and Mizunuma 6 Pum-ice Fall (MzP6).

(11)

関係から,この軽石流は赤城水沼

3

2

1

降下軽石に対比 されることが期待されるが,このうち主成分が最も良く重な るのは

5.8

万年前に噴出した赤城水沼

1

降下軽石である(

Fig.

12

).したがって,この両者は対比されよう.地形的に藤木

軽石流と大胡軽石流の間にある輪久原軽石流は,北山麓 (

WAK-01

)と 西 山 麓(

WAK-02

)の 試 料 と も,

SiO2

量 は

76.2

77.5 wt.%

の範囲に収まる(

Fig. 8

).輪久原軽石流の

Na2O

量と

CaO

量はやや分散するが,これは前述のように

WAK-01

の試料がやや変質しているためである.上下の軽 石流との対応関係からは,輪久原軽石流は約

9

万年前の赤 城水沼

5

降下軽石もしくは約

8

万年前の赤城水沼

4

降下軽 石に対比されることが期待されよう.赤城水沼

4

降下軽石 の試料には,

SiO2

量と

K2O

量の異なる

3

つの火山ガラス が混在するが,最も数の多い

SiO2

77 wt.%

前後の本質 物は,輪久原軽石流との重なりが良い(

Fig. 13

).また,赤 城水沼

5

降下軽石も

SiO2

量の組成幅が狭いものの,輪久原 火砕流の組成範囲内にあり,対比の可能性を否定するもので はない.輪久原軽石流がどちらかの降下軽石に伴うものであ

Fig. 12. TiO2, CaO, Na2O and K2O versus SiO2 diagrams for volcanic glass shards in the Ogo Pumice Flow (OGO), Mizunuma 3 Pumice Fall (MzP3), Mizunuma 2 Pumice Fall (MzP2) and Mizunuma 1 Pum-ice Fall (MzP1).

Fig. 13. TiO2, CaO, Na2O and K2O versus SiO2 diagrams for volcanic glass shards in the Wakubara Pum-ice Flow (WAK), Mizunuma 5 Pumice Fall (MzP5) and Mizunuma 4 Pumice Fall (MzP4).

Fig. 14. TiO2, CaO, Na2O and K2O versus SiO2 diagrams for volcanic glass shards in the Toshimaru Pum-ice Flow (TOS), Nagumo PumPum-ice Flow (NAG), Namekawa 2 Pumice Fall (NM2) and Namekawa 1 Pum-ice Fall (NM1).

(12)

ることは確実で,本報では積極的な証拠ではないものの組成 範囲の類似性のみから,赤城水沼

4

降下軽石に対比してお く. 大胡軽石流の上位にある年丸軽石流と南雲軽石流は,大山 倉吉テフラの上位にある赤城行川

2

1

降下軽石に層序学的 に対比されよう.主成分も年丸軽石流は赤城行川

2

降下軽 石と南雲軽石流は赤城行川

1

降下軽石と良く一致しており (

Fig. 14

),同一噴火の産物と考えて問題はない.特に年丸 軽石流・赤城行川

2

降下軽石の

SiO2

量は

73.0

74.0 wt.%

と他の軽石流・降下軽石とはハーカー図で異なる領域にある ため,その対比はより確実である. 噴出物のマグマ体積 マグマ噴出量の時間変化を明らかにするために,各軽石流 堆積物のマグマ噴出量を見積もる必要がある.軽石流堆積物 は,谷地形を埋めて分布するものとして等層厚線図(

Ap-pendix 4

)を作成して計測するが,西山麓の利根川や南東山 麓の渡良瀬川沿いではその大半が侵食で失われている.そこ で川沿いの火砕流到達域の推定では,堆積物の良く保存され ている南山麓や北山麓の分布を参考にしている.すなわち, 南山麓の大胡軽石流の先端部と北山麓の輪久原火砕流の先端 部は,地蔵岳頂上上空

200 m

での噴煙柱崩壊を仮定すると,

ど ち ら も エ ナ ジ ー コ ー ン モ デ ル(

Sheridan and Malin,

1983

)で見かけの動摩擦係数が

0.15

の位置にあるので,東・ 西山麓にも同じ動摩擦係数で分布したものと仮定している. また比較的規模の大きな棚下・年丸火砕流も同程度の動摩擦 係数で分布し,規模の小さな糸井・不動・藤木・南雲軽石流 はより大きな動摩擦係数で分布したもとの推定した.軽石流 堆積物の密度については,非溶結のものが

1200 kg/m

3,溶 結部が

2300 kg/m

3として

,

各堆積物のマグマ体積を見積 もっている(

Table 2

).溶結部を伴うのは棚下軽石流のみで, 堆積物のうちの半分が溶結しているものとしている.新期成 層火山体をつくる溶岩・火砕岩についても,山頂カルデラ内 に台地状の溶岩があったものとし,谷地形を埋めて等層厚線 図を作成し,全体の密度が

2300 kg/m

3と仮定してその体積 を見積もっている(

Table 2

). 降下軽石堆積物のマグマ体積については,山元(

2012,

2013a

)の値をそのまま採用している(

Table 2

).手法として は,各テフラの火口近傍の堆積物層厚が測定できていないた め,

Legros

2000

)の各等層厚線と等層厚線が囲む面積の関 係から体積を推定する簡便法を用いている.この方法は一つ の等層厚線の面積から全体積の最小値を与えるもので,降下 火砕堆積物全体の等層厚分布が把握できていない場合にも用 いることが可能である.また,真の体積は

Legros

2000

)の 最小値の数倍以内であることが多い.この

Legros

2000

)の 簡便法は,

Pyle

1989

)の手法を拡張したものであるが,信 頼性の高い結晶法適用例の平均値を用いる

Hayakawa

1985

)の 経 験 則 と 結 果 的 に 算 術 式 の 形 は 同 じ で あ り,

Legros

法最小体積は

Hayakawa

法体積の約

1/3

となる. 考 察

1

.赤城カルデラの形成 守屋(

1968, 1970

)は,新期成層火山の山頂部にある長径 約

4 km

,短径約

2 km

のカルデラについて,カルデラ壁の 最上位に“ガラン石質火砕流堆積物”(本報告の伽藍火砕物) があることから(

Fig. 6

),この噴出後に形成されたものと考 えていた.しかし,この伽藍火砕物は安山岩粗粒降下堆積物 が溶結してできたアグルチネートであり,その定置にカルデ ラ形成前の山頂側山体の存在が必要なわけではない.また, カルデラ壁の崩落・後退は普通に起こりえる現象であり,現 在の地形的な交差関係のみから,伽藍火砕物の噴出とカルデ ラ形成を結びつけることには無理があろう.

Table 2. Dense-rock equivalent volumes of the eruption units from younger Akagi Volcano. Data for the pumice falls are taken from Yamamoto (2012, 2013a).

(13)

伊豆大島や三宅島のような玄武岩質成層火山に伴うカルデ ラを別とすると,通常のカルデラは大規模な軽石流を伴う珪 長質マグマの爆発的噴火時に形成されている.それゆえ,軽 石流噴火が頻発した赤城火山でもいずれかの噴火時に今の赤 城カルデラにほぼ匹敵するものが形成されたと考えるのが妥 当であろう.噴火の規模でみると約

5.8

万年前の大胡軽石流 噴火が最も大きく,古期山体が地形的障害となる北山麓を除 いて,カルデラの周囲に最も広く分布している.また,その 総マグマ体積は

2 km

3と,赤城のような小型のカルデラ形 成噴火としては妥当な量である(

Geshi et al., 2014

).しか も,大胡軽石流は他の軽石流とは異なり,石質岩片に富むラ グ角礫相を伴うことが特徴となっている.大胡軽石流の最上 部に発達するこの岩相の存在は,噴火の末期に山体が大きく 破壊されるイベントがあったことを示唆しており,カルデラ 形成と関連付けることができる.当然ながら大胡軽石流噴火 以前の爆発的噴火でも大型の火口地形は形成されたであろう し,大胡以降の年丸・南雲軽石流噴火でもカルデラの拡大は 起きた可能性もある.しかし,大胡以外の軽石流のマグマ体 積はより少なく,赤城カルデラの大枠を形成したものとして は大胡軽石流噴火以外に候補は考えにくい.一方,最後の爆 発的噴火の噴出物である赤城鹿沼降下軽石は,その最小マグ マ体積が

2 km

3であり(山元

, 2013b

),大胡軽石流噴火より も噴出量が大きかったものとみられる.しかし,この降下軽 石噴火は軽石流を伴っておらず,かつ赤城カルデラ内にも降 下火砕物として定置している(守屋

, 1968

).つまり,鹿沼降 下軽石噴火では,大規模な噴火にもかかわらずカルデラは形 成されていない.おそらく,噴火時のマグマ噴出率の大小が 軽石流発生やカルデラ形成に関係しているものとみられる が,詳細は別の機会に議論することとする.

Fig. 16. Rb/Y, Ba/Y and Zr/Y versus SiO2 diagrams for pumice in the Itoi (ITO), Tanashita (TAN), Wakubara (WAK), Ogo (OGO), Toshimaru (TOS) and Nagumo (NAG) Pumice Flows.

Fig. 15. Magma-discharge time-step diagram for younger Akagi Volcano since 250 ka.

Fig. 17. Sr/Y versus Y for diagrams pumice in the Itoi (ITO), Tanashita (TAN), Wakubara (WAK), Ogo (OGO), Toshimaru (TOS) and Nagumo (NAG) Pumice Flows (adakite discrimination boundaries are from Castillo, 2006).

(14)

2

.赤城火山のマグマ噴出率の時間変化 新期成層火山体の形成開始は

22

万年前以降と推定されて おり(竹本

, 1998a;

高橋ほか

, 2012

),本報告でもこれに従 う.この推定の根拠は,火山体が四あずまやすがだいら阿管平

2

テフラ(大石

,

2009

)よりも上位にあるとする層序関係によっている.ただ し,大石によると同テフラの噴出時期は約

24

万年前である ので,形成開始時期の推定には数万年の幅があろう.一方, この火山体の形成完了は,火山麓扇状地

1

の最上位にある 糸井軽石流の噴出時と考えており,その年代は約

15

万年前 となる. 新期成層火山体のマグマ体積は,

2

×

10 km

3である.同 様な安山岩溶岩流を主体とする大型の火山体は,東北日本弧 の火山フロント沿いで最も数の多い火山体のタイプであり, その体積も周辺火山のものと同等で,ややその噴出率は大き かったものとみられる.例えば高原火山の

30

15

万年前に 形成された成層火山体のマグマ体積は約

2

×

10 km

(伴ほか3

,

1992;

山元

, 2012

),那須火山の

21

8

万年前に形成された 南月山山体は約

1

×

10 km

(伴・高岡3

, 1995

),磐梯火山の

35

?∼

25

万年前に形成された赤埴

櫛ヶ峰山体は約

1

×

10 km

(山元3

, 2012

),安達太良火山では

25

20

万年前に 形成されたステージ

3a

の山体(藤縄・鎌田

, 2005

)は

8 km

3 (梅田ほか

, 1999

)である.やや地理的に離れるが妙高火山の

15

7

万 年 前 に 形 成 さ れ た 第 Ⅱ 活 動 期 の 山 体 も

1.5

×

10 km

(早津3

, 2008

と,赤城火山の事例と同等である. 火山体形成期に引き続く軽石噴火期では,

15

4.4

万年前 に総量で

9

×

10

0

km

3のマグマが噴出している.降下軽石堆 積物については最小体積を採用しているので真のマグマ総量 はこれよりも少々大きかったと予想されるが,それでも軽石 噴火期全体のマグマ噴出率は火山体形成期を大きく超えるこ とはないであろう(

Fig. 15

).さらに詳細にみると,マグマ 噴出率は約

12

万年前の水沼

7

軽石噴火以前(

P1

)と,約

10

万年前の水沼

6

軽石噴火から約

7

万年前の水沼

3

軽石噴火 まで(

P2

),約

6

万年前の水沼

2

軽石噴火から約

4.4

万年前 の鹿沼軽石噴火まで(

P3

)でマグマ噴出率に違いがあり,赤 城カルデラの形成が起こるサブ活動期

P3

の前に噴出率が一 旦減少する特徴が指摘できる.同様な噴出率の低下は,マグ マ噴出量が一桁大きいものの歴史時代にカルデラ噴火を起こ したインドネシアのタンボラ火山やリンジャニ火山でも確認 されており,大型の成層火山形成期からカルデラ噴火へと至 る火山の特徴である可能性がある(高田・古川

, 2014

).同様 な傾向は,同じ東北日本弧の十和田火山でも成層火山形成期 からカルデラ形成期に起きている(工藤ほか

, 2011

).

3

.赤城火山のマグマ組成の変化 赤城火山全体の全岩化学組成を検討した高橋ほか(

2012

) は,古期および新規成層火山で時代と伴に低

K

系列から中

K

系列のマグマへと

K2O

量が増えると伴に,

SiO2

量も増 える組成変化を明らかにしている.また,高橋ほか(

2012

) は,

K2O

量の増大と連動して

Rb/Zr

比,

Rb/Y

比,

Rb/Ba

比,

Ba/Y

比,

Zr/Y

比などの液相濃集元素比も増大するこ と,珪長質マグマ自体にも微量成分等でほぼ平行な複数の組 成変化トレンドが認められ起源の異なるものがあることも示

している.今回実施した軽石試料の全岩化学組成分析でも, 火山体形成期の糸井軽石流と軽石噴火期の火砕流では,後者 の方が

Rb/Y

比,

Ba/Y

比,

Zr/Y

比が明らかに大きく(

Fig.

16

),高橋ほか(

2012

)の結果を支持している.

Sr/Y

比でみ ると前者は通常の島弧珪長質火山岩,後者はアダカイト (

Castillo, 2006

)との中間的な位置にプロットされる(

Fig.

17

).また希土類元素パターンでも糸井軽石流に比べ軽石噴

火期の火砕流は中希土と重希土に乏しい特徴がより顕著であ る(

Fig. 18

).ただし,後述するように

Kobayashi and

Na-kamura

2001

)が示した赤城火山噴出物の

Sr–Nd–Pb

同位 体の特徴は下部地殻に由来することを示し,また,

Fig. 1

で示したように赤城火山は典型的なアダカイト噴出場のよう なスラブの部分溶融(例えば

Kay, 1978

)が期待できる造構 場にはない.

Fig. 16

Fig. 17

の微量成分の違いは,軽石 噴火期の火砕流が

Y

に枯渇していることに原因があり,こ のことは希土類元素パターンとも調和的である. テフラの対比のために分析した降下軽石堆積物の火山ガラ スの化学組成を時系列で並べると,軽石噴火期のより詳細な マグマ組成の変化が見えてくる(

Fig. 19

).図中の

K

値は, 異質火山ガラスを除いた分析値を直線回帰して求めた

SiO2

量のおおよその中央値である

75 wt.%

での

K2O

量である. また,前述のように軽石流堆積物の分析結果には試料自体に 問題のあるものがあるので,全て回帰計算からは除外してい る.斑晶の化学組成は分析していないが,いずれの軽石も斜 長石・輝石と少量もしくは微量の角閃石からなる組合せは同 じである.また,斑晶量は

10%

以下の折口原・鹿沼軽石を 除くと,他は全て

20%

前後で大きな違いはない.湯ノ口降 下軽石の斑晶鉱物を詳細に検討した堀尾・海野(

1995

),

Umino and Horio

1998

)は,結晶量の多いマッシュ状のマ グマ溜まりに新たなメルトが直前に注入され噴火に至ったプ ロセスを明らかにしている.同様のプロセスは湯ノ口軽石噴 火以外の斑晶量の多い軽石噴火でも起きていた可能性が高 く,斑晶を除いた火山ガラス組成はむしろ噴火前に注入され たマグマの特徴を代表していよう.降下軽石堆積物火山ガラ スの

SiO2

量分布と,

K

値の時系列変化はほぼ連動しており,

K

値の上昇が軽石噴火期に

3

回繰り返されていることが明 らかである.しかもこの組成変化のパルスは,マグマ噴出率 の違いで認識される

P1

P2

P3

Fig. 15

)のサブ活動期と 一致している.すなわち,

P1

P2

P3

の境に当たる水沼

6

軽石と水沼

2

軽石は明らかに

SiO2

量と

K

値が低く,マグ マ供給系がリセットされることでサブ活動期が切り替わって いる.

Sr–Nd–Pb

同位体を検討した

Kobayashi and Nakamura

2001

)によると,赤城火山噴出物全体は同位体的に極めて 肥沃であり,その同位体組成変動はマントル由来マグマと下 部地殻物質の

2

成分混合を示している.ただし,下部地殻 物質の混合自体は東北日本弧フロント沿いのほとんどの火山 に認められる現象で,他よりも肥沃な赤城火山噴出物の特徴 は下部地殻同位体組成の地理的な違いを反映したものである (

Kimura and Yoshida, 2006

). さ ら に

Kobayashi and

(15)

ターンを,下部地殻物質の同化作用と

H2O

に富んだマグマ と輝石との反応による角閃石分別で説明し,同化率/分別率 の比が

1.0

に近いことを示している.本報の分析結果と比較 すると,糸井軽石流の希土類元素パターンは

Kobayashi

and Nakamura

2001

)の示した高い同化作用を被ったマグ マの元素パターンと良く一致しているのに対して,糸井以外 の軽石流はこれよりも更に中・重希土が枯渇した元素パター ン を 示 し て い る(

Fig. 18

).

Kobayashi and Nakamura

2001

)の結果との違いは,彼らが山体を構成する溶岩試料

を主に分析しているのに対して,本報では山麓に分布する軽 石流に特化して分析した噴火様式の違いを反映している.

Beard and Lofgren

1991

)などの下部地殻物質の溶融実験 を参考にすると,中・重希土の更なる枯渇には,マグマから

の角閃石分別の効果だけでなく,高

H2O

条件下での部分溶

融により角閃石が溶け残る効果も大きかったであろう.むし ろ,

Fig. 18

の希土類元素パターンは島弧で形成される珪長 質マグマとしては一般的なものとされている(

Bachmann

and Bergantz, 2008

).また,

Sisson et al.

2005

)が示した

ように下部地殻角閃岩の部分溶融で

K2O

に富む珪長質メル トが生産可能であり,赤城火山軽石噴火期の

K

値の変動は, 下部地殻部分溶融メルトの関与の程度を反映しているものと 考えられる.特に,サブ活動期の開始時に

K

値が低下する ことは地殻融解の熱源であったマントル由来マグマの寄与が 一次的に高くなったことの現れであり,下部地殻へのマグマ の大量貫入を契機にマグマ噴出率などの活動様式の変化が起 きたことを示唆している.軽石噴火期の後,カルデラ内には 地蔵岳・小沼溶岩が噴出して約

3

万年前に赤城火山のマグ

マの噴出が終了する.

Kobayashi and Nakamura

2001

)に よるとこの後カルデラ期の流紋岩溶岩は,赤城火山の中では 同位体的に枯渇したものであり,それ以前の噴出物とは異な り地殻との同化作用の影響が小さい.このことは,赤城火山 の活動末期になると,下部地殻を溶融させるのに十分な量の マグマがマントルから供給されなくなり活動停止に至ったも のと解釈されよう.なお,本報告で明らかにした

K

値の変

動は,

Kobayashi and Nakamura

2001

)が既に示している 新期成層火山体の同位体比変動と対比される可能性がある. 今後の課題として,層序が確立できた軽石噴出期の各噴出物 に対してマルチ同位体システマティクスを適用することによ り,島弧における珪長質マグマの形成ダイナミクスに関して 具体的な制約を与えることができるかもしれない. ま と め

1

)赤城火山の新期成層火山の活動後半(軽石噴出期)に相 次いで噴出した軽石流堆積物と降下軽石堆積物の対比を,火 山ガラスの化学組成から行った.その結果,糸井軽石流は

15

万年前の赤城折口原降下軽石に,不動火砕流は約

14

万 年前の赤城水沼

9–10

降下軽石に,棚下軽石流は約

13

万年 前の赤城水沼

8

降下軽石に,藤木火砕流は約

12

万年前の赤 城水沼

7

降下軽石に,輪久原軽石流は約

8

万年前の赤城水 沼

4

降下軽石に,大胡軽石流は約

6

万年前の赤城水沼

1

降 下軽石に,年丸軽石流は

5.2

万年前の赤城行川

2

降下軽石 に,南雲軽石流は

5.0

万年前の赤城行川

1

降下軽石に対比 されることが明らかとなった.このうち,最も規模の大きな 大胡軽石流の噴火で山頂の赤城カルデラが形成されたと考え られる.守屋(

1968, 1970

)が赤城カルデラ形成に関与した と考えた“ガラン石質火砕流”は

3

つの異なる堆積物に再区 分されるが,このうち明らかに火砕流として定置したものは 大胡軽石流のラグ角礫相である.

2

)約

22

15

万年前に形成された新期成層火山体の体積 は,山麓の小規模な火砕流を除いて

2

×

10 km

3

DRE

と見

Fig. 18. Chondrite-normalized REE patterns for pumice in the Itoi (ITO), Tanashita (TAN), Wakubara (WAK), Ogo (OGO), Toshimaru (TOS) and Nagumo (NAG) Pumice Flows. The normalizing values are from McDonough and Sun (1995). The hatched area shows the range of REE pat-terns for the calk-alkaline rocks of Akagi Volcano from

Kobayashi and Nakamura (2001). Fig. 19. Temporal variations in SiO2 and K-values of vol-canic glass shards in pumice fall deposits of younger Aka-gi Volcano. K-values indicate the abundance of K2O at SiO2 = 75.0 wt.%.

(16)

積もられた.引き続くマグマ噴出率は,

15

6

万前の低マ グマ噴出率期を経て,

6

4.4

万年前に噴出率が急上昇して カルデラ形成に至ったことが明らかになった.

3

)噴出率の違いで認識できる軽石噴火期のサブ活動期に 対応して,火山ガラスの

SiO2

量,同一

SiO2

量に対する

K2O

量に変動が認められる.また,軽石の微量元素成分組 成の特徴は,

K2O

量の高い珪長質マグマほど下部地殻部分 溶融メルトの関与が大きいことを示している.明らかになっ たマグマ組成の変化は,下部地殻へのマグマの大量貫入を契 機にマグマ噴出率などの活動様式の変化が起きたことを示唆 している. 謝 辞 本研究は,原子力規制庁からの受託研究において実施した 「平成

26

年度火山影響評価に係る技術的知見の整備」の成果 の一部である.研究の実施に当たっては,規制庁担当者に日 頃からご支援を頂いている.査読者である岡山大学小林桂 さん,茨城大学長谷川健さんのご指摘は,原稿の改善に大 いに役立った.ここに感謝いたします. 文 献 阿久津純(Akutsu, J.), 1955, 宇都宮周辺の関東火山灰層と河成段 丘.宇都宮大学学芸学部研究論集(Bull. Fac. Educ.

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Fig.  2 . Distribution of pumice fall deposits ejected from  Akagi Volcano. Numerals are thickness of contour lines in  centimeter
Table  1 . List of tephra units in this study. Bt = biotite; Cpx = clinopyroxene; Cum = cummingtonite; Hb = hornblende; Opx
Fig.  3 . Geological map of Akagi Volcano. Numerals are locality numbers. A = Arayama; J = Jizodake; K = Kono crater  lake; O = Ono crater lake; PFD = pumice flow deposit.
Fig.  4 . Outcrop photograph of the Ogo Pumice Flow De- De-posit (PFD), Yunokuchi Pumice Fall DeDe-posit (UP) and  overlying debris flow deposits (Volcanic fan 2)
+6

参照

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