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Vol.68 , No.2(2020)078石田 一裕「西方諸師の六修説について――特に防護修の成立背景について――」

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Academic year: 2021

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西方諸師の六修説について

―特に防護修の成立背景について―

石 田 一 裕

1

.はじめに

『發智論』智蘊他心智納息は,他心智を分析する一節である.ここでは,まず 他心智が修所成慧を自性とする智であり,修の果であると説明される.節の最後 に,この修が「過去法,未来法,現在法をどのように修するのか」という問いの もとに考察される.この三世の法と修の関係は,実践的な観点から分析されてい る.ここでは,それぞれの修の働きに名称を付す分類はなされない.『大毘婆沙 論』は当該箇所の注釈を始めるにあたり,修を得修・習修・対治修・除遣修の四 種に分類する.その後に,西方諸師の六種の修を紹介している.六種の修とは四 種の分類に,防護修と分別修を加えたものである.四修説と六修説については, 渡辺1954や河村1974において,カシミール有部とガンダーラ有部の学説の相違 点の一つと指摘され,これを踏まえつつ楠(2009)は得修・習修を中心に研究を 進め,四修説と六修説についての記述が有部論書にどのように表れているかを紹 介している.しかし,六修説の成立については不明瞭な点が残されている.本稿 ではこの六修説の成立,特に防護修について考察を行う. 2

.防護修の定義と根拠となる経典

『大毘婆沙論』は防護修に三度言及する.まずそれを確認しよう. ①防護修とは,謂わく諸根を防護するなり.『契経』に「この六根において,善く調伏し, 善く覆藏し,善く守護し,善く攝し,善く修し,能く後樂を招く」と説くが如きなり1) ②防護修とは,即わち是れ根を修するなり.『契經』に説くが如し『若し六根に於いて善く 調え,善く覆い,善く防ぎ,善く護り,善く修する者は能く後樂を引く』と2) ③防護修とは,根を修するを謂う.説くが如し,『是くの如き六根を善く調え,善く護り, 善く守り,善く防げば,能く當來の樂受の異熟を感ず』と3) これらによれば防護修とは諸根を防護すること,あるいは根を修することであ

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り,その根拠は経典に求められている.引用される経典は若干の相違があるが, ほぼ同一のものと指摘できよう.『倶舎論』智品では外国諸師(bāhyābhidharmikā) の六修説が紹介される.これは上述した四修にsaṃvarabhāvanāとvibhāvanabhāvanā を加えたものである4).『倶舎論』はこの二つを合わせて「防觀修」5)と訳してい る.これにより『大毘婆沙論』の防護修の原語がsaṃvarabhāvanāであると推測で きる.『阿毘曇心論經』智品の「戒修」や『阿毘曇甘露味論』雑品の「律儀修」 も防護修の異訳といえるであろう. 次に防護修の根拠となる経典について考察しよう.上に紹介した『大毘婆沙 論』が引用する経典のうち②③は,『国訳一切経』対応箇所の において,『雑阿 含経』第11巻の第279経に該当すると指摘される6).『倶舎論』も同様である7) また本庄(2014b)も同経典,ならびに対応するSNの当該箇所を示している8) これらの先行研究は,『雑阿含経』第279経が『大毘婆沙論』『倶舎論』に引用さ れる経典であると指摘する点で一致している. 3

.防護修と根律儀

防護修の典拠となる経典が『大毘婆沙論』『倶舎論』で一致していることが明 らかになった.防護修についてはAKVyが根律儀との関連を指摘し,櫻部・小 谷・本庄(2004)は『倶舎論』業品の第十八偈を参照する資料として提示してい る9).『倶舎論』業品では三種の律儀をあげ,それとは別に根律儀と意律儀に言 及する.この二つは経典所説の律儀として提示される.根律儀の典拠となる経典 ([4017]10))を,本庄2014bにおいて参照すると,防護修の典拠として用いられる ものとある程度の一致が見られる. またこれらと同様の経典が『倶舎論』根品で,有為の四相の典拠として引用さ れている.本庄(2014a)は,これが『声聞地』の「第一瑜伽処」の根律儀と関係 することを指摘する.「第一瑜伽処」の根律儀については矢板(2003)によって考 察がなされ,阿含・ニカーヤと「第一瑜伽処」の関係についても言及されてい る.また阿部(2005)は同箇所についてSaundarananda,『中阿含経』「馬邑経」と の比較を行い,さらに「第一瑜伽処」,Saundaranandaと『集異門足論』との接点 を提示している.これらの研究は『声聞地』や『倶舎論』における根律儀が,阿 含・ニカーヤの教説に依拠し,発展したことを示している. 防護修の語はいわゆる六足論また『發智論』に見出すことができず,定義の変 遷を明らかにすることはできない.しかし,根律儀,さらにはその根拠となる諸

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経典と防護修がどのような関係があるかを考察することで,この成立についての 一端が明らかとなろう.

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.防護修の成立背景

AKBhは防護修の典拠をṣaḍ imānīndriyāṇi sudāntāni yāvat subhāvitāni11)と経典か

ら引用している.漢訳では『倶舎論』が「於六根善防,善護乃至廣説」12)であ り,『 舎釋論』は「是六根已善調伏,已善修」13)となっている.上記に紹介し た『大毘婆沙論』の引用①(漢訳原文)の「於此六根,善調伏,善覆藏,善守護, 善攝,善修」,また②(漢訳原文)の「若於六根善調,善覆,善防,善護,善修」 と比較すると(省略されたと想定される部分に下線を付した),『 舎釋論』とよく合 致していることがわかる.『倶舎論』は中間部分ではなく,後半部を省略したの であろう. 防護修に関係する経典を考察する前に,引用②,③における「根を修する(修 根)」というその定義に着目しよう.この修根という語は,防護修の定義以外で は『大毘婆沙論』根蘊根納息(第142巻)に「聖修根」として見出すことができ る.この語は経典の引用部に含まれる.出典に該当する経典は『雑阿含経』第 282経,対応するニカーヤはMNの第152経Indriyabhāvanā-suttaである.この経 典は,その名の通り,根の修習を説くものである.根の修習(indriyabhāvanā)と定 義される防護修(saṃvarabhāvanā)が,経典に基づいた説であることが理解できる. そして『雑阿含経』第282経には「若有於此五句,心4善調伏,善關閉,善守護, 善攝持,善修習,是則於眼,色無上修根」(T2, 78b17–19)と修根について述べら れている.これは五句において14)心がよく調伏され,乃至,よく修習されるこ とで根を修することができるという意味で,善調伏以下の記述は防護修の典拠と なる『雑阿含経』第279経と同様の記述である.『雑阿含経』は有部系統とみな され,また防護修ならびに修根の定義とされる二つの経は極めて近くに位置して いる. さて,本庄2014a; 2014bに依拠して,防護修に関係する経典を確認したい.本 庄2014bではAKBhの当該箇所の経を[7010]と番号付けしている.これと類似 するものとして,管見の限りでは[2065][4017][9006]の三つを挙げることが できる.本庄の研究では,先行研究を踏まえこれらの経典と対応する漢訳阿含を 示しているので,それも確認しておこう. [2065]『雑阿含経』第275経 [4017]漢訳対応の指示なし

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[7010]『雑阿含経』第279経 [9006]『雑阿含経』第 1170経,第1171経『増 一阿含経』第8経 上記の内,[4017]を除き,基本的に『雑阿含経』に対応する経を見出すこと ができる.注意すべき点は,『雑阿含経』に同定される三つの経が,先行研究に よって明らかにされた有部の相応阿含において,すべてが第二 である六入処 (ṣaḍ āyatana) に含まれることである.すなわち,根の修習や調伏,あるいは守 護といった記述が相応阿含でまとまって説かれているのだ.これらの記述をもと に『声聞地』「第一瑜伽処」にみられる根律儀についての説示や,『集異門足論』 に説かれる「護根門」が形成された.『大毘婆沙論』や『倶舎論』における防護 修を説明する経典は,根律儀の根拠となる経典と類似するものである.西方諸師 は,これらの経典を背景に,防護修の存在を主張したと推測できる. 5

.防護修の取り扱い

西方諸師が,根律儀や護根門に関連する経典を背景に,防護修を説いた可能性 をこれまで論じてきた.しかし,カシミール有部にとって防護修は独立して説く べき修ではなかった.防護修を説く文献は,一貫してこれが対治修に含まれると する.『大毘婆沙論』における防護修の初出個所は,防護修と分別修を提示した 後に以下のように述べている. この國の諸師は「後の二種は,すなわち是れ対治〔修〕と除遣修の攝なり.故に一切の修 には唯四種のみ有り」と説く15) このような主張は,『倶舎論』にも確認できる.そこでは,この主張がカシ ミール有部のものとされている.AKVyは,防護修と分別修が対治修と除遣修に 含まれるとしながらも,両者が両者に含まれるとして支障はないとする16).ま た『大毘婆沙論』根蘊一心納息では,「眼根乃至意根を修せずと説くが如き,云 何が眼根を修せざるや」17)と『發智論』本文を引用し,以下のように注釈する. 修に四種有り.謂わく,得修,習修,対治修,除遣修なり.具さに辯ずること智蘊の如 し.今は後の二修に依りて論を作すなり18) ここでは『發智論』における六根の修が注釈される.『大毘毘婆沙論』はこの 修を対治修と除遣修によって説明し,防護修と分別修には言及しない.その中で は「若し眼等の諸根の対治道が已に生ぜば,名けて根を修すと為す.此れ対治修

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に依りて説くなり」(T27, 788a28–29)と述べられ,根の修が防護修ではなく,対治 修によるものとされている.この記述からも,防護修が対治修に含まれるもので あることが理解できる. 『順正理論』になると,防護修と分別修は説かれず,四修のみが説かれる.対 治修と別に防護修を説く必要がないということであろう.『順正理論』は対治修 について「身等の法に於て能治を得するが故に,所治の身等を対治修と名づく. 故に身等に於て対治を得する時,即ち說いて名けて身等を修すと為す.餘の有漏 法の類も亦應に然るべし」(T29, 745c2–4)と述べる.これは『大毘婆沙論』の「若 し身・戒・心・慧に於いて対治道が已に生ずれば,名けて身を修し,乃至慧を修 すと為す.此は対治修に依りて説くなり」(T27, 641a16–18)を継承したものと推測 できる.すでに『大毘婆沙論』において対治修が身や根を含めた有漏法に対する 修であることが提示されている.『順正理論』はそれを引き継ぎ,さらに対治修 の内容の一部をなす防護修を別に説かないのである. 6

.まとめ

阿含に起源をもつ根についての諸説は,『声聞地』「第一瑜伽処」の根律儀や 『集異門足論』の護根門として発展していく.本稿において防護修が説かれる必 然性は明らかにできなかった.しかし,根律儀の典拠となる経文を背景として, 西方諸師は修の一つとして防護修を説いた.『大毘婆沙論』では,すでにその機 能が対治修の一部であると考えられていた.『倶舎論』も一つの説として防護修 を紹介するが,対治修に含まれるというカシミール有部の説も提示している. 『順正理論』は四修のみを紹介している.これは,防護修が対治修の機能の一部 であるからであろう.一方,西方諸師は対治修に属するものとはいえ,経に基づ き,防護修を説いたと考えられる.ここには西方諸師の経典を重視する態度が表 れていると指摘できよう. 1)『阿毘達磨大毘婆沙論』智蘊他心智納息T27, 545a24–25.   2)『阿毘達磨大毘婆沙論』 定蘊緣納息T27, 824b4–5.   3)『阿毘達磨大毘婆沙論』見蘊念住納息T27, 944b4–5.    4)AKBh 411.   5)T29, 140a11–12.   6)『国訳一切経』 曇部15,206, 18; 同16, 283, 53.   7)『国 訳 一 切 経』 曇 部26下,380, 193.   8) 本 庄2014b, 818.    9)AKVy 640. 櫻部・小谷・本庄2004, 112.   10)この番号は本庄2014a; 2014bによるも のである.  11)AKBh 411.   12)T29, 140a13.   13)T29, 291a8–9.   14)五 句とは可意,不可意,可意不可意,不可意可意,可意不可意可不可意の五種のこと.   15)T27, 545a25–26.   16)AKVy 640. 櫻部・小谷・本庄2004, 112.   17)『發智論』

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当該箇所は「如說不修眼根.乃至身根.云何不修眼根乃至身根」(T26, 998c25–26)となっ ており,意根については「如說不修意根.云何不修意根」と述べる.『大毘婆沙論』のこの 個所では,意根までを含む形で経典の語として引用し,「云何不修意根」以下については 注釈を施す形となっている.おそらく『發智論』の子の引用は『雑阿含経』第282経であ る.これは「修根」を論じる経典である.「修根」は防護修の定義の一つであり,それが防 護修を含む概念である対治修によって解釈されている.このことから,この経典は防護修 成立の大きな根拠であることが推測される.  18)T27, 788a23–24. 〈一次資料・略号表〉 『中阿含経』 『中阿含経』T1, no. 26 『雑阿含経』 『雑阿含経』T2, no. 99. 『發智論』 『阿毘達磨發智論』T26, no. 1544. 『大毘婆沙論』『阿毘達磨大毘婆沙論』T27, no. 1545. 『倶舎論』 『阿毘達磨倶舎論』T29, no. 1558. 『 舎釋論』 『阿毘達磨 舍釋論』T29, no. 1559. 『順正理論』 『阿毘達磨順正理論』T29, no. 1562.

AKBh Abhidharmakośabhāṣya of Vasubandhu. Ed. P. Pradhan. Tibetan Sanskrit Works Series 8. Patna: K. P. Jayaswal Research Institute, 1967.

AKVy Sphuṭārthā Abhidharmakośavyākhyā by Yaśomitra. Ed. U. Wogihara. Tokyo: Sankibo Buddhist Book Store, 1971.

MN Majjhima-Nikāya. SN Saṃyutta-Nikāya. 〈参考文献〉 阿部貴子 2005「 声聞地 の成立背景をめぐる一考察― 第一瑜伽処 とSaundarananda の比較を通して―」『智山学報』54: 235–259. 河村孝照 1974『阿毘達磨論書の資料的研究』日本学術振興会. 楠宏生 2009「アビダルマ仏教における修について」『現代と親鸞』18: 2–26. 櫻部建・小谷信千代・本庄良文 2004『倶舎論の原典研究 智品・定品』大蔵出版. 本庄良文 2014a『倶舎論 ウパーイカーの研究』訳 上,大蔵出版. 本庄良文 2014b『倶舎論 ウパーイカーの研究』訳 下,大蔵出版. 矢板秀臣 2003「 声聞地 根律儀 節における分別(vikalpa)について」『成田山仏教研 究所紀要』26: 151–185. 渡辺楳雄 1954『有部阿毘達磨論の研究』平凡社. (平成31年度科学研究費補助金「若手研究(B)漢訳仏教文献によるガンダーラ仏教研究」 (課題番号17K13332)による研究成果の一部) 〈キーワード〉 説一切有部,西方諸師,防護修,根律儀,四修 (大正大学非常勤講師,博士(仏教学))

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