51-1
角形断面を有する C F T 短柱のせん断性状に関する実験的研究
1. 序 柱のせん断スパン長さ a と柱のせい D の比 a/D(せん 断スパン比)が 1.0 以下のコンクリート充填鋼管(CFT) 極短柱では,曲げ耐力に達することなくせん断破壊す る現象が正方形断面については崎野らの研究1),円形断 面については中原らの研究2)によって実験的に示されて いる.201 3 年以降,実験資料の得られていない長方形 断面を有する CFT を対象に,せん断破壊実験が実施さ れてきた3)4).これらの研究では,実験より得られた最 大耐力を「コンクリート充填鋼管構造設計施工指針」5 ) (CFT 指針)により算定した終局せん断耐力による評価 を試みた.その結果,実験耐力を,強軸方向の場合 12‐ 23% 過大に,弱軸方向の場合 5‐12% 過小評価しており, 大きくばらつく結果となった . 本研究では上記で過大評価となった長方形の強軸試 験体の更なる実験資料を得るために同様の実験を行っ た.また,強軸試験体,弱軸試験体の中間的な性状を 示すと考えられる正方形断面試験体も作成し,実験を 実施した. 2. 実験 2.1 試験体 試験体の形状を図 1 に示す.図中に示した斜線部が 破壊対象部である.試験体の両端には軸力を伝達する ためのエンドプレートを溶接している.エンドプレー 富松 輝彦 図 2 加力時の変形状況 加力梁 I ビーム A l B C l D a a 表 1 試験体一覧 l h l D B 図 1 試験体形状 トの片方には充填コンクリート打設用の打設孔を,また 両方に軸力を導入するための PC 鋼棒を通す孔をそれぞ れ 4ヶ所設けている.この試験体に上部の加力梁から荷 重をかけて,図 2 に示すように逆対称変形を与える実験 を行う. 2.2 実験計画 試験体の諸条件を表 1 に示す.実験変数は,形状(150 × 175,200 × 100,150 × 150)および軸力比(0.10‐0.25 の 範囲)とし,せん断スパン比はすべての試験体で 0.6 と した.鋼管は STKR400 を使用した. 2.3 材料 充填コンクリートは,4 週強度で 36MPa となるように 調合した.充填コンクリートの諸元を表 2 に示す.シリ ンダー圧縮試験の結果は 48.9MPa であった. 鋼管 STKR400 の力学的性質を表 3 に示す.表の値は鋼 管の長辺側のロール方向より切り出した試験片の引張 試験から求めたものである.降伏強度はR150,R200,S150 それぞれ 380MPa,391MPa,403MPa であった. 2.4 実験方法 図 - 3 に示す大野式を参照した装置を用いて逆対称変 形を与える加力を行った.図 - 4 に加力時の断面力図を 示す.試験体に取り付けたシリンダー状の支点を回転さ せることで正負交番載荷を行った.支点を回転させる 際,試験体を吊り上げる必要がある.この際,反曲点位 R150-15-P 0.15 R150-15 0.15 R150-20 0.20 R150-25 0.25 R200-15 0.15 R200-20 0.20 R200-23 0.23 S150-10 0.10 S150-15 0.15 S150-20 0.20 軸力比N/N0 582 0.6 150 150 4.23 33.5 180 1600 551 0.6 200 100 4.30 23.3 240 1600 582 0.6 全長L (mm) 支点間距離l (mm) せん断スパン比 a/D 150 75 3.04 24.7 180 1600 試験体 柱せいD (mm) 柱幅B (mm) 板厚t (mm) ウェブ幅厚比 B/t 試験体高さh (mm)51-2 置を一定にするため試験体の中心を吊り上げている. 軸力は PC 鋼棒を介し,500kN 油圧ジャッキにより導 入し,せん断力は 5MN 試験機を用いて載荷した.軸力 は図 3 中のエンドプレートに取り付けたロードセル 4.b で測定した. 図 5 に試験体に貼付けたひずみゲージの位置および 変位計の測定位置を示す.ひずみゲージは,試験体の 柱頭・柱脚部分の上下端 4ヶ所に 1 軸塑性ゲージをウェ ブ部分中央に 3 軸塑性ゲージを表裏両側 2ヶ所に貼付し た.試験体の柱頭・柱脚部の 1 軸塑性ゲージは,この 部分における曲率を算出して,試験体の反曲点位置を 求めることを目的とし,3 軸塑性ゲージの値からは試験 体中央部における鋼管のせん断応力の測定を目的とし ている.変位計は試験体の高さ中央位置での水平変位, 鉛直変位を表裏の両側 2 ヶ所で測定した. 載荷プログラムを図 6 に示す.縦軸 R は柱の水平変 位を柱の内法高さで除した部材角である.載荷は変位 制御で行い,変位振幅を部材角で± 0.01rad,± 0.02rad を それぞれ 3 サイクルずつ,± 0.03rad を 1 サイクルずつ, 計 14 サイクルの載荷を行った.以降,処女載荷方向を 正側載荷,その反対を負側載荷と呼ぶことにする.R150‐ 15‐P 試験体のみ正側に単調載荷を行った. 3. 実験結果 本章では軸力比 0.15 の試験体の実験結果について述 べる. 3 .1 荷重 - 変形関係および破壊状況 実験より得られたせん断力 Q と部材角 R 関係を図 7 に 示す.図中の○点は鋼管がせん断降伏した点を,△点 は実験の最大せん断力を示している.鋼管の降伏の判 定には,以下の von Mises の降伏条件式を用いた. 2 2 2 2 1 1 2 2 3 12 s s s s s e (1) ここで, s1:横方向垂直応力, s2:軸方向垂直応力 s12:せん断応力, e:相当応力 である.相当応力 eが鋼管の降伏応力に達した点で鋼 管がせん断降伏したと判定した. 以下に各試験体の実験経過と破壊性状を示す.R150‐ 15‐P は R=0.015rad で鋼管がせん断降伏し,R=0.042rad で最 大耐力を発揮し載荷を終了した.R150‐15 は R=0.02rad 負 側 1 回目で鋼管がせん断降伏し,R=0.03rad 正側 1 回目で 最大耐力に達した.なお,R150‐15 は載荷中に,ウェブ 部に貼付し た 3 軸塑性ゲージでの測定が不良であった ため,降伏判定には片側の 1 枚の測定値のみ用いてい る.R200‐15 は R=0.02rad 正側 1 回目で鋼管がせん断降伏 し,その後同一サイクルで最大耐力に達した.S150‐15 は R=0.02rad 正側 1 回目で鋼管がせん断降伏し,同一振幅 図 3 加力装置 ( 1 ) 試験体 ( 2 ) 5 M N 試験機 ( 3 ) 加力梁 ( 4 ) ロードセル ( 5 ) 5 0 0 k N 油圧ジャッキ ( 6 ) P C 鋼棒 ( 7 ) I ビーム (2) (4.a) (3) (1) (4.b) (5) (6) (1) (7) 図 6 載荷プログラム 図 5 試験体のゲージ貼付位置および変位計の測 変位計位置 ゲージ貼付位置 表 3 鋼管の力学的性質 表 2 充填コンクリートの諸元 M 図 2 h Q 図 4 断面力図 A V VB VC VD 2 h Q Q 図 Q -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 0 2 4 6 8 10 12 14 R(×10-2rad.) サイクル数 試験体 降伏強度 (MPa) 降伏ひずみ (%) 引張強度 (MPa) ヤング係数 (GPa) 降伏比 R150 380 0.27 443 194 0.86 R200 391 0.31 466 177 0.84 S150 403 0.30 474 170 0.85 呼び強度 圧縮強度 (MPa) ヤング係数 (GPa) スランプフロー (cm) 空気量 (%) 36 48.9 36.7 46 1.8
51-3 の負側 1 回目で最大耐力に達した. いずれの試験体においても溶接の破断や鋼管の亀裂 は観測されなかった.R150‐25,R200‐15 およびR200‐20 試験体は,鋼管中央部のせん断降伏より,柱頭・柱脚 部の 1 軸ゲージの引張降伏が先行していた.その他の 試験体は,柱頭・柱脚部の降伏より,鋼管中央部のせ ん断降伏が先行していた. 写真 1 に R200‐15 の実験後の加力点位置の様子を示す. 写真 1 より,フランジの加力点位置で大きな局部変形 が生じている.この変形の影響が,柱頭・柱脚部の降 伏が,試験体中央部のせん断降伏に先行した原因と考 察している.R150‐15‐P と R150‐15 を比較すると繰返し の影響により,耐力が 7% 低下している. 写真 2 に,R200‐20 のウェブ面における充填コンクリー トの破壊状況を示す.充填コンクリートに斜めひび割 れが生じていることから,内部コンクリートはせん断 破壊を起こしたものと想定される.写真 1 に示した局 部変形およびに写真 2 示した斜めひび割れはすべての 試験体で観測されている. 3. 2 試験体の軸方向ひずみ 実験より得られた軸方向ひずみ -部材角 R の関係 を図 8 に示す.図中の○点,△点は図 7 のせん断力 Q‐ 部材角 R 関係中の点と対応している.試験体の軸方向 ひずみは,3 軸塑性ゲージの材軸方向の表裏 2 枚の値の 平均値とした.なお,R150‐15 は片側の 3 軸塑性ゲージ が測定不良であったため,片側のみの値としている. 各試験体ともに,載荷プログラムの進行に伴い,鉛直 ひずみの累積量が大きくなっていくことが確認された. R150‐15 と R200‐15 を比較すると,軸方向ひずみの累積 量が大きくなっており,軸方向ひずみの縮み量も大きく なっている.S150‐15 はせん断降伏が観測される以前は, 軸方向ひずみが進展していない . 加力時における試験体の反曲点位置および a/D を表 4 に示す.これらは,試験体中央部がせん断降伏した時の 柱頭・柱脚 1 軸ゲージから算出した曲率の按分から求め ている.表 4 より,本年度実施した試験体の降伏時のせ ん断スパン比は,計画時の 0.6 を上回り大きくばらつく 結果となった . 4 . 実験値と計算値との比較 CFT 指針を参照し算定したせん断力 Q -軸力比 N/N0の 相関曲線上に,実験より得られた試験体の最大耐力 Qmax をプロットしたものを図 9 に示す.図中の実線は CFT 柱 のせん断耐力 Qsuを,細い実線は,無筋コンクリート柱 のせん断耐力cQsuを,破線は終局曲げ耐力 Qbuを,○点 -500 -400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400 500 Q(kN) (No.9)(No9) (R150-15-P) (R150-15)(No.9)(No9) -500 -400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400 500 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 Q(kN) (No.9)(No9) (R200-15) R(×10-2rad.) 図 7 各試験体のせん断力Q -部材角 R 関係 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 (No.9) R(×10-2rad.) (No9) (S150-15) 写真 2 充填コンクリートの 破 壊 状 況 写真 1 加力点位置 (R150-15) (R150-15) -0.8 -0.7 -0.6 -0.5 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0 ε(%) (R150-15-P) 図 8 各試験体の軸方向ひずみε - 部材角 R 関係 -0.8 -0.7 -0.6 -0.5 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 (R200-15) ε(%) R(×10-2rad.) -4 -3 -2 -1R(×100-2rad.)1 2 3 4 (S150-15) 表 4 反曲点位置 試験体 反曲点位置a(mm) a/D R150-15-P 128 0.85 R150-15 120 0.80 R150-20 121 0.80 R150-25 147 0.98 R200-15 138 0.69 R200-20 145 0.72 R200-23 154 0.77 C150-10 137 0.91 C150-15 148 0.98 C150-20 121 0.81
51-4 は実験最大耐力 Qmaxをそれぞれ表している.CFT 柱のせ ん断耐力および終局曲げ耐力は,鋼管柱と無筋コンク リート柱の耐力を一般化累加することで求めている. なお,無筋コンクリート柱のせん断耐力はアーチ機構 を仮定し算定している. 図 9 より,すべての試験体の実験最大耐力は終局曲 げ耐力に達しておらず,また,実験後に充填コンクリー トに斜めひび割れが観測されたことから,試験体の実 験最大耐力はせん断破壊により耐力が決定したものと 推定される . 表 5 に実験より得られた試験体の最大耐力と C F T 指 針により算定した終局耐力および実験値と計算値の比 を示す.せん断余裕度 Qsu/Qbuは R150 試験体で 0.73,R200 試験体で0.72,R75試験体で0.56,S150 試験体で0.58となっ ている. R150 試験体,R200 試験体はすべて実験耐力が CFT 指 針により算定した終局せん断耐力に達しておらず,R150 試験体については平均で 16%,R 200 試験体については 平均で 25% 程度,指針式は実験耐力を過大評価してい る.一方で,ウェブの面積比から,弱軸と強軸試験体 の中間的な性状を示すと考えられる S 試験体はすべて実 験耐力が終局せん断耐力を上回っており,平均で 8% 程 度,過小評価している. 本試験体はずれ止めを有しておらず,アーチ機構で仮 定した圧縮束より浅くなる可能性があり,これにより耐 力評価の精度が大きくばらついたものと考えられる.耐 力評価にあたっては,ダイアフラムを有する試験体で同 様な実験を行う必要があると考えられる.これに関する 検討は今後の課題とする. 6. まとめ 本報では,長方形および正方形断面を有する CFT 柱に 繰返しせん断力を載荷する実験を実施して,その破壊性 状と終局耐力の評価法について考察を行った.得られた 結論を,以下に列挙する. 1) R150‐25,R200‐15 および R200‐20 を除く全ての試験 体は,鋼管のせん断降伏が曲げ降伏より先行して観 測された.柱頭および柱脚の軸方向のゲージの降伏 が先行して観測された理由は,写真 1 で示した局部 変形の影響と考えられ,これらの試験体についても 破壊モードはせん断であると判断される. 2) 長方形断面試験体に強軸曲げとなる方向にせん断力 を載荷した R150 シリーズと R200 シリーズの最大耐力 は,CFT 指針5)により算定した終局せん断耐力を下回 り,それぞれの平均誤差は 16% と 25% となった.一 方で,正方試験体である S150 シリーズの最大耐力は CFT 指針の終局せん断耐力を平均で 8% 上回った. 3) 本試験体はずれ止めを有しておらず,アーチ機構で 仮定する圧縮ストラットより実験時は浅くなる可能 性がある.これが耐力評価の精度が大きくばらつく 原因となったと考えられる. < 参 考 文 献 >
1 ) 崎野健治 , 石橋久義: Experimental Studies on Concrete Filled Square Steel Tubular Short Columns Subjected to Cyclic Shearing Force and Constant Axial Force, 日本建築学会構 造系論文報告書 , 第 353 号 pp.81-91,1985.7 2 ) 中 原 浩 之 , 津 村 竜 次 : コ ン ク リ ー ト 充 填 円 形 鋼 管 短 柱 の せ ん 断 挙動 に 関 す る 実 験 的 研 究 , 日本 建 築 学 会 構 造 系論 文集 ,Vol.79,No.703,pp.1385-1393,2014.9 3 ) 中 原 浩 之 , 富 松 輝 彦 : 長 方 形 断 面 を 有 す る C F T 柱 の せ ん 断 性 状 に 関 す る 研 究 , コ ン ク リ ー ト 工 学 年 次 論 文 集 , vol.37,No.2,pp.1033-1035.2015.7 4 ) 富 松 輝 彦 , 中 原 浩 之 , 窪 寺 弘 顕 : コ ン ク リ ー ト 充 填 鋼 管 短 柱 の せ ん 断 破 壊 を 観 察 す る た め の 予 備 的 実 験 , 日 本 建 築 学会研究報告九州支部 , 第 54 号 ,pp.573-576,2015.3 5 ) 日本建築学会:コンクリート充填鋼管構造設計施工指針 ,2008. 図 9 せん断力 Q - 軸力比 N / N0関係 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 0 100 200 300 400 500 600 700 800 R150 N/N0 Q (kN) 0 100 200 300 400 500 600 700 800 R200 Q (kN) 0 100 200 300 400 500 600 700 800 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 Q (kN) S150 N/N 0 表 5 実験耐力と計算耐力の比較 試験体 Qmax(kN) Qsu(kN) Qbu(kN) Qsu/Qbu Qmax/Qsu ave. R150-15-P 242 266 365 0.73 0.91 R150-15 224 266 365 0.73 0.84 R150-20 214 269 370 0.73 0.80 R150-25 217 270 371 0.73 0.80 0.84 R200-15 391 503 693 0.72 0.78 R200-20 382 507 700 0.72 0.75 R200-23 368 508 702 0.72 0.73 0.75 S150-10 488 443 762 0.58 1.10 S150-15 483 450 781 0.58 1.07 S150-20 489 455 793 0.57 1.08 1.08 cQu sQu Q su Q max Q bu