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中  井  弘  一

An Inquiry into Teaching English in English at Senior High Schools

Hirokazu Nakai

抄    録

 高等学校新学習指導要領(2008)で、「英語の授業は英語で行うことを基本とする」と明 示された。以来 2013 年度施行を前に「英語の授業は英語で」に関して、学校現場や英語 教育関係者の間で賛否両論が渦巻いている。こうした状況を踏まえてか、文部科学省は学 習指導要領解説(2010)で、「状況に応じて英語で行う」と当初の意気込みからはやや後退 した解説を公表した。「英語の授業は英語で」という指導形態への議論は、「コミュニケー ションを重視して英語でやるべきだ」「文法・読解を踏まえた日本語でやることが必要だ」 との対立的な軸足に論点を置いた主張が多い。本稿では、「英語の授業は英語で」に到る 背景を考察し、学校現場の現状を踏まえながら、この指導形態にどう向き合うべきかをホ リスティックに論考する。 キーワード: 英語の授業は英語で、言語学習の条件、タスク学習、ことばの教育、英語の 未来 (2010 年 9 月 27 日受理)

Abstract

The New Course of Study - Foreign Language & English (2008) declared that teaching in English should be standardized in English classes at senior high schools. Since then, it has brought on active debates over its pros and cons among teachers of English and educationalists concerned with English education. After all, MEXT has given a slight change in its policy of teaching English in English in Practical Guide on the New Course of Study -Foreign Language & English (2010). The debates have been mainly based on two views, "Communication in English should be made much of," and "Teaching in Japanese are indispensable in understanding grammar and reading comprehension." This paper explores the background of this proposal, "Teaching English in English," and discusses holistically how we should cope with the proposal considering the actual teaching situations at senior high schools.

Key words: teaching English in English, conditions for language learning, task-based learning, language learning, the future of English (Received September 27, 2010)

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1. はじめに

 経団連が 2000 年に「グローバル化時代の人材育成について」という意見書を発表した。 その中で、経団連は産業競争力の観点から「英語力の不足」を憂い、とくに「聞く・話す といった英会話力」、実用的な英語力の強化を求めた。英語等のコミュニケーション能力 の強化が必要であるとし、「小・中・高校においては、英会話を重視した英語教育に一層 の力を入れるべきである」、「生徒が生きた英語に直接触れる機会をできるだけ多く創ると ともに、英語によるディベート、英語劇、外国人との交流など、授業に対して創意工夫を 凝らす必要がある」などと訴えた。  こうしたことなどを受けて文部科学省(2003)は、「英語が使える日本人の育成のための 行動計画」において英語教育政策の戦略構想を示し、「英語の授業は英語で行う」に関し て次のように発表した。「英語が使えるようになるためには、文法や語彙などについての 知識を持っているというだけではなく、実際にコミュニケーションを目的として英語を運 用する能力が必要である。(中略)、文法訳読中心の指導や教員の一方的な授業ではなく、 英語をコミュニケーションの手段として使用する活動を積み重ね、これを通して、語彙や 文法などの習熟を図り、‘聞く'‘話す'‘読む'‘書く'のコミュニケーション能力の育成を図っ ていく指導の工夫が必要である。こうした指導を効果的に行っていくために、教員は、普 段から主に英語で授業を展開しながら、生徒や学生が英語でコミュニケーションを行う場 面を多く設定することが重要である」と発表した。  この指導構想を下に、法的拘束力を持つ新学習指導要領外国語・英語(2008)において、 第 3 款英語に関する各科目に共通する内容等の4で、「英語に関する学科の各科目につい ては,その特質にかんがみ,生徒が英語に触れる機会を充実するとともに,授業を実際の コミュニケーションの場面とするため,授業は英語で行うことを基本とすること。その際, 生徒の理解の程度に応じた英語を用いるよう十分配慮すること」と公示された。   これに対して、学校現場では、「学校によってはアルファベットの b と d が区別できな い生徒がいるのに」「大学入試が現状のままで、高校の学習指導要領だけを改変すること は教育の現場を混乱させるだけ」「教員の英語力や生徒の理解度はばらつきが大きい」「苦 手意識を持った生徒が、ますます英語から離れてしまう」などと、文部科学省の学校現場 の実状認識不足を指摘し、実行不可能であるとの悲観的な意見が交わされてきた。  この「英語の授業は英語で行う」施策は、英語教育において議論を呼び起こした。ただ、 新聞紙上、教育誌等に見られた争論では、その論点が「コミュニケーション重視」と「文 法・読解指導重視」とを対立的に捉えて展開される傾向が見られた。デューイの『経験と 教育』(市村尚久訳 2004)に「人間というものは、極端な対立をもって、物事を考えがち である。このような考え方は、中間的なものがあるという可能性を認めようとはせずに、 あれかこれかという見地からの信念が定式化されたものである」とある。確かに、議論は ある特定の要素を取り出して論じるとわかりやすいが、論題の他の要因や要素を認識しな いで 2 元的に判断するものではないと思われる。したがって、本稿では、「英語の授業は

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英語で」に到る背景を考察し、学校現場の現状を踏まえながら、高校英語科教員がこの指 導形態にどう向き合うべきか、その理念をホリスティックに論考する。

2. 「英語の授業は英語で」の背景

 これまでの学習指導要領では英語を通した授業の必要性を説いても、「英語の授業は英 語で」を義務化することはなかった。今回文部科学省が強い方針に踏み出したのは、和訳 や文法解説に終始する傾向にある英語教育への反省もあるだろうが、やはり前述の経団連 の意見書などの財界からの「実用的な英語力の習得」という強い要望が底流にあったもの と思われる。  日本人がこれまで英語をどう学んできたのかの振り返りについては、大谷(2010)は日 本における異言語教育の歩みを、「英語教育 40 年(親英・反英)周期の往復運動」として 考察している。幕末から明治 6 年森有礼「英語国語化論」日本国憲法発布までの「親英」 時代、日清・日露戦争に勝利し国力をつけた時期の「反英」を最初の周期とし、以降この 周期をくり返した。先の戦時中には否定された英語教育も戦後日米会話手帳で爆発的に英 語時代に、そして日本経済の海外進出時代の動向、"Japan as number 1"の日本経済絶頂期 の「反英」からバブル経済の崩壊、現代に到るまでの「親英」を直近の 40 年周期と大谷 はとらえている。日本の国力の繁栄「反英」・低迷衰退「親英」がこの周期と大きな関わ りを持っている。  江利川(2008)の収集による神田乃武賛助・石川辰之助著の『正則独習英語教本』(1906 年)の裏表紙には、「英語は二十世紀の世界通語、之を解せざる者は二十世紀の人にあらず」 とある。現在の英語教育がおかれた状況を鑑みると、「二十世紀」を「二十一世紀」と入 れ替えてもそのまま言えるような状況である。  この周期の一環として 1975 年に始まった平泉渉・渡部昇一の英語教育大論争では、外 国語教育の効率・成果の低さを「学習意欲の低さ」や「受験英語の程度の高さ」「不効率 な教授法」を要因と考え、大学入試から英語を外すことや中学校の英語教育は実用上の知 識として中学 1 年終了程度にとどめ、高校においては志望者のみに外国語教育を課し集中 訓練を行うことを提唱した平泉氏に対し、渡部氏は学校英語に知能開発の意義を認め、教 室でできることをきちんとやらせるべきとした。当時、二人のそれぞれの立場は、「実用 英語」VS「教養英語」と対立的に捉えられた。  そして現在、産業界では、非外資系会社において英語を社内公用語にしようとしている 会社がある。楽天社長の三木谷氏は朝日新聞 globe(2010)において、"No English, no job." を掲げ、「世界中で様々な集まりがあるのに、日本の技術者は英語ができないという理由 で行かなかったり、英語だからといって文献も読まなかったりする。それじゃあダメです。 2 年以内に、うちの社員は 100% 英語でコミュニケーションできるようにする」と、英語 でコミュニケーションができる必要性を力説している。

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一般アンケートで、英語公用化賛成 26%反対 74%、「公用化は国際競争力を高めることに つながるか」に対しては yes—35%、no—65%という日本人労働者の意識調査結果もある。  さて、今回の学習指導要領の改訂で意識されたことの一つに隣国の英語教育がある。韓 国では、日本の文部科学省にあたる教育人的資源部の施策により、1997 年小学校 3 年生 以上に英語教育が導入され(年間最小 68 時間、週平均 2 時間)、2008 年度からは小学校 1年生から英語の授業が行われるようになった。また、「英語の授業は英語で」にも取り 組んでいる。    韓国においては、英語が大手企業などへの就職のためには必要不可欠であり、国際化 の社会に生きるためには必要であるという考え方が定着しているようである。松本(2007) のソウル特別市の中学校(189 名)、一般高校(186 名)、外国語高校(167 名)各 1 校と、 蔚山ウルサン広域市の芸術高校 1 校の学生(82 名)、計 624 名を対象とした質問紙調査に よると、質問「英語ができれば、社会的な成功を収めることができると思うか」に対する 回答は表1のとおりである。「非常にそうだ」「そうだ」を併せると、高校においては 70 ~ 80%とかなり英語の必要性を意識している。韓国における英語教育熱は日本を遙かに 凌ぐものである。  グローバリゼーションが「英語化」「脱日本」とも解釈される中で、日本が世界だけで なくアジアからも孤立して進化するガラバゴス化現象を回避するためにも、英語でコミュ ニケーションする力の育成に重点を置いた指導方針がこれまで以上に強く求められている 時代に今はあるようである。

3. 「英語の授業は英語で」に関する争論

 2008 年 12 月 22 日、2013 年度新入生から実施する高校の学習指導要領改訂案が発表さ れて以来、学校現場や英語教育関係者の間で賛否両論が起こった。  朝日新聞「耕論」(2009 年 2 月1日)の「英語で授業できるの?」において、松本茂立 教大教授、中西千春氏国立音大准教授、ダニエル・カールの 3 氏の意見が載せられた。今 回の学習指導要領作成の中心的な役割を担われた松本氏の意見は新学習指導要領を解説す 表 1 「英語ができれば、社会的な成功を収めることができると思うか」に対する回答 (単位:%)   非常にそうだ そうだ 普通 そう思わない まったく そう思わない 中学校 19 45 23 10 3 一般高校 28 53 13 5 1 芸術高校 23 47 26 4 0 外国語高校 18 56 21 5 0 全体 22 51 20 6 1 松本(2007)をもとに作成

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る立場であるので、氏の意見は「英語の授業は英語で」を明記した英語教育改善意図や根 拠を示すものと考えられる。松本氏の主な主張は、  文部科学省が昨年 12 月に発表した高校の学習指導要領の改訂案で「英語の授業は 英語で行うのが基本」とされて、話題を呼んでいる。私は中央教育審議会の外国語専 門員として改訂に向けた検討をしてきたが、主眼は「英語で授業」ではない。高校英 語の中核をなす英語Ⅰと英語Ⅱの授業を、生徒が主体になって活動するものに変えよ う、ということだ。 これまでの授業は、先生が説明し、生徒は聞いているだけ。あ るいは、生徒に和訳させ、先生が直す。(中略)50 分かけて読むのは半ページ。生徒 は試験に備えて和訳を覚える。これでは進学しても社会に出ても、使い物にならない。 野球部の部員が、イチローのビデオを見て監督の解説を聞くだけで、打撃練習や紅白 試合をしないのと同じだ。(中略)  生徒の理解度を心配する声もあるが、日本語による授業でもわからない生徒はいる。 習熟レベルが低い生徒に英語で授業を行っている高校があるが、学力試験の結果が伸 びているケースが少なくない。(中略)いまだに「文法中心か、コミュニケーション重 視か」という対立軸をあげる人がいる。もうやめにしませんか。どちらも大事だし、 相互に関連したものなのだから。(中略)  高校におけるコミュニケーション重視の英語授業とは、英会話の授業ではない。日 本語を介さずに大量の英文を読むのが基本となる。  「英語の授業は英語で」の学習指導要領への明記の意図は、「主眼は英語で授業ではない」 とあるように直接な回答は示されていない。氏の意見の主旨は、現状で見られる先生主導 の英語の授業を生徒主体の活動にすること。学ぶ量が少なすぎること。日本語を介さず大 量の英文を読むことである。中学・高校で扱われる英語は言語活動である。したがって言 語活動の主体は生徒であり、学習の主体が生徒であるということを踏まえた意見であると 考えられる。  これに対して、寺島(2009)は『「英語で授業」のイデオロギー 英語教育が亡びるとき』 で痛烈に松本氏批判を展開した。まず、「主眼は英語で授業ではない」に対し、発表され た学習指導要領には、どの英語科目の冒頭部にも、「言語活動を英語で行う」と明記して あるのに、主眼ではないと無視することがどうしてできるのか、無責任である。次に、「高 校の現場は和訳一辺倒ではない」。「打撃練習と紅白戦」は同じではない。「捕球練習」の ような基礎練習あってこそ「紅白戦」ができるのであって、いきなりやらせることはでき ない。中学校の英語の教科書は 4 技能を統合した内容になっている。統合した教科内容で 十分な学習効果が得られたとは言い難い現実がある。高校の英語から「リーディング」「ラ イティング」などを廃止して「コミュニケーション英語 I」のように統合し科目を設定し ても学習効果が上がるとは言い難いなどの批判を行っている。  確かに松本氏が「主眼は英語の授業は英語ではない」と発言するには、学習指導要領上 明記されていることに対する丁寧な説明が必要である。ただ、本記事が文部科学省の直接 の回答でないことと、朝日新聞記者の編集によるものなので、それ以上のことはわからな

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い。ここで大切な問題は現状の認識とその解決への方向性であると思われる。寺島が松本 氏に指摘している、「日本語でもわからない生徒に英語で行えば一層わからなくなる」と いう意見はそのとおりである。しかし、英語力向上の観点からすれば、どちらにしても英 語力向上への解決が見られないかぎり、この意見は強い反論には到らないと思われる。  近々においては、朝日新聞「争論」(2010 年 8 月 4 日)「これでいいのだ 学校英語」に おいて、「授業は英語ですべきか、生徒にとってよい点は、教師は対応できるのか」を論 点に記者がインタビューを通してまとめた、松本茂氏の「英語で表現してこそ身につく」 と大津由紀雄氏(慶応大学教授)の「文法・解釈・作文が能力を築く」との二氏の主張を 同じ紙面に掲載して「争論」扱いにした記事が編集された。  松本氏はここでも、「通常の英語の授業でも、教師が生徒に訳させたり構文や文法の説 明をしたりで終わり、という学校は少なくありません。50 分の授業で話すのはほとんど 先生、しかも大半が日本語、読むのは教科書の半ページ。これでは英語の力もつくはずも ないでしょう」と述べている。松本氏は、学習指導要領の改定のポイントは、先生の役割 と教え方を変え、授業を生徒中心のコミュニケーション活動の場にすることとして、「生 徒は教科書に載っている英文などを読んで 、 考えて、英語で自分の意見を言う。英語で互 いに質問し 、 答える。英語で議論をする、あるいは自分たちで調べて発表する。意見や感 想を書く。これが教室におけるコミュニケーション活動です」と意見を述べている。  これに対して、『危機に立つ日本の英語教育』などの著者でもある大津氏は、「私は『コ ミュニケーション重視の英語教育』とか、『英語の授業は基本的に英語で』というのは間 違っているし、危険だと考えています。なぜ間違っているか。皮肉なことですが、子ども たちにコミュニケーション力がつかないからです」と述べている。大津氏は、英語との接 触は質も量も限られているので、外国語としての英語の仕組みを意識的に、意図的に「学 習」していく必要があるとし、「そこで必要になってくるのが英文法、英文解釈、英作文 の‘3点セット'です。せっかく日本語という母語があるのだから、英語の文法や構文といっ た仕組み、解釈の仕方、英語への訳し方について、日本語で教えた方が生徒には伝わるし、 効率もいい」と主張している。  松本氏は昨年の記事内容とほぼ同じ論調である。大津氏の‘3 点セット'の必要性は、記 載記事が不十分であるため、なぜリスニングなどを含まないその 3 点セットが必要に到る のかは残念ながら明確でない。大津(2009)氏は『危機に立つ日本の英語教育』において、 国の「戦略構想」は学校英語教育のあり方を英語運用能力に対する社会的要請という観点 だけから規定しようとしていると断じている。そこに問題があり、「コミュニケーション」 という得体の知れない怪物の横行により、学校教育におけることばへの気づきを基盤とし た言語教育の必要性が凌駕されていると述べている。  両氏の英語教育に対する根底にある考え方は記載されずに、対立するように掲載された 紙面の構成上、紙上で争論を行っているように読めるが、実際はその場で二氏が討論した ものではない。したがって、それぞれの主張がかみ合って意見を交換されてはいない。記 者が読者にわかりやすくインパクトを与えるために、対立するような体裁記事にしたと思

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われる。こうした争論で見られるパターンは、図 1 のように「文法解説中心」「コミュニケー ション重視」を単純に対立化させることである。  確かに、来日する全 ALT オリエンテー ション(東京)で配布されていた The JET Programme(2000)に お い て も、 こ の 2 項目を対立的に扱っている。その日本の 英語教育解説書には、文法訳読授業法ク ラスは、「・教師は知識の源泉である。・ 教師は教室の前で講義する。・授業の中 心は、教師の言うことにある。・教師が ほとんど話をする。・生徒たちは非常に受け身である。・間違いは常に訂正される。・正し い文法と発音が指導の目的である」と説明されており、一方、コミュニケーションを目的 とする語学指導法は、「・教師は授業を盛り立てたり管理したり生徒たちにやる気を起こ させたりする。・教師は動き回る。・教室は活動に応じて椅子や机を並べ替える。・授業では、 生徒たちが参加することに重点が置かれる。・生徒たちがほとんど話す。・生徒たちが話し、 授業に貢献する。・間違いはコミュニケーションの妨げになるような場合のみ訂正される。・ 文法と発音はコミュニケーションを補助するものである」と説明され、ALT には後者の指 導法を薦めている。  しかしながら、英語教育はそのように単純なものではない。文法理解とコミュニケーショ ンは英語教育の道のりであって目的到達地ではない。松本・大津両氏はその道のりのあり 方を述べているのであって、本質的な対立を持つものではない。ここに、明治以来の日本 の英語教育の不幸があり、大谷の「親英」「反英」の周期をくり返すたびに、2 元対立的 に考え「実用」か「教養」かという、似たような議論が何度もくり返されてきた。

4. 「英語の授業は英語で行う」を実践する学校現場の現状

 賛否両論は一旦おき、ここでは、学習指導要領にある「英語の授業は英語で行う」を実 施するには、誰が「英語で行う」のか、教員と生徒の両面からその実態を捉え、また、使 用される教材は「英語で行われるものか」、英語そのものが今後どのように扱われていく かなど、様々な要素や要件を考える。

4. 1 「英語の授業は英語で行う」教員の現状

 文部科学省が中学校 10,029 校、高等学校 3,170 校に行った中学校・高等学校英語教育改 善実施状況調査結果概要(2008)によると、英語の授業での英語の使用状況は図2のとお りである。  中学校においては、「大半を英語を用いて行っている」「半分以上は英語を用いて行って いる」と答えた割合は、いずれの学年においても約 3 分の 1 となっている。4 技能が統合 図1  文法解説中心・コミュニケーション重視を 対立意立項目にした英語授業での英語使用

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された中学校の教科書を使っていても、英語を使用する授業は必ずしも多くない。  高等学校になると、オーラルコミュニケーション(OC)Ⅰの授業では、授業中に半分以 上英語を用いると答えた割合が、国際関係(語学含む)の学科・コースで 79.3%、普通科 で 54.6%となっている。これに対して、英語Ⅰでは授業での英語の使用が半分以下と答え た割合が国際関係で 66.0%、普通科で 88.5%となっており、両科目の英語の使用状況は全 く異なる結果を示している。リーディング、ライティングの授業では普通科では英語の使 用が半分以下と答えた割合が約 95%に及ぶ。  4 技能を統合的に扱う中学校での「英語の授業は英語で行う」実態からすれば、高校で いきなり全ての英語科目で「英語で行う」には無理があるように思われる。ただ、OC Ⅰ の授業実態から見れば、科目によっては十分可能とも思われる。  韓国の「英語の授業は英語で行う」状況はどうであろう。教員の意識はどうなのか、奥 野(2008)の英語教育革新方案政策参考資料(韓国教育人的資源部:2006 年 11 月)によると、 2006 年 6 月の英語授業現況調査で、高等学校では、週あたり1時間以上英語で授業進行 が 18.5%、英語と韓国語併用で 66.4%、主に韓国語で授業進行は 15.1%となっている。英 語で授業ができる英語教師現況では表2のとおりである。 図 2 教員が授業で英語を使用する状況調査 単位:% 英語教育改善実施状況調査結果概要(2008)より作成

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 本調査での「英語で進行する英語授業」は、「教授・学習に必要な基本的な意思疎通(授 業進行、難しい文法説明等を除く内容説明等)を英語で行う等、教師・学生間の英語での 意思疎通を重要視する英語授業を指す。一般的に授業の 80%以上を英語で進行する授業 をいう」としている。  「英語の授業は英語で行う」に関して、韓国の教員の意識が高いことがわかる。日本語 と英語との言語間距離と韓国語と英語との言語間距離を比較するとそう異ならない程度と 思われる。アメリカ国防総省外国語学校(Defense Language Institute)は、アメリカ英語母 語話者にとっての外国語難易度レベルとして、アラビア語、中国語、日本語、韓国語が並 んでカテゴリーⅣ(最高難度)に扱っている。これから考えると、何が韓国と日本の「英 語の授業は英語で行う」の差を生んでいるのか。それは生徒の英語への学習意識や社会的 な環境も大きく影響していると思われる。  

4. 2 「英語の授業は英語で行う」生徒の現状

 あらゆる学びについて言えることだが、目的・目標が明確である方が学習意欲は高まる。 目標設定理論の観点からすると、目標の明瞭性が高いと、はっきりとした期待や確実な行 動を方向付けることができ、実現に向けたパフォーマンスが引き出される。また、目標の 困難度に比例して動機づけられ、困難な目標に懸命に取り組むことで高い成果をあげるこ とができる。  日本青少年研究所(2007)の「高校生の意欲に関する調査」で、「偉くなること」につい て日本の高校生は「責任が重くなる」「自分の時間がなくなる」 と感じ、米国の高校生は「自 分の能力をより発揮できる」「周りに尊敬される」 、中国の高校生は「自分の能力をより 発揮できる」「責任が重くなる」 、韓国の高校生は「周りに尊敬される」「自分の能力をよ り発揮できる」と回答し、「偉くなりたいか」という問に対して「偉くなりたいと思う(強 くそう思う) 」の回答は、日本 8.0%、米国 22.3%、中国 34.4%、韓国 22.9% であった。生 活意識についても、日本の高校生は「暮らしていける収入があればのんびりと暮らしてい きたい」 米国の高校生は「一生に何回かはデカイことに挑戦してみたい」 、中国の高校生 は「やりたいことにいくら困難があっても挑戦してみたい」 、韓国の高校生は「大きい組 織の中で自分の力を発揮したい」と 4 カ国の比較調査からみると、日本の高校生は「のん びり」が目標になっているようである。豊かな消費社会の中で、「競争意識」も失われて いるようである。調査によると、最近の子どもは「なぜ勉強しなければならないのですか」 表 2 英語で授業ができる英語教師現況 (2006 年 4 月) 単位:%   小学校 中学校 高等学校 計 週あたり1時間以上英語で授業進行 39.2 55.0 50.5 49.8 英語と韓国語併用 56.8 44.0 45.6 47.3 主に韓国語で授業進行 4.0 1.0 3.9 2.9 奥野(2008)の英語教育革新方案政策参考資料(韓国教育人的資源部:2006 年 11 月)

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と大人に問うようになったという。このような状況で、強い目的意識を持った学習は望み にくい。  緑川(2006)の Benesse 教育研究開発センター『東アジア高校英語教育 GTEC 調査 2006』 によると、日韓高校生の国内での英語使用経験比較は表 3 のとおりである。  日常的に「読む」「聞く」「話す」「書く」の領域で調査を行ったものであるが、韓国の 高校生の方が、圧倒的に英語が日常生活に入り込んでいる。こうした日常生活の状況の差 異は、「鶏と卵」の関係で英語教育の効果か、生徒の意欲なのか、どちらが先とは言えな いが、英語教育と密接な相乗効果を持っていると考えられる。生徒の学習意識が「英語の 授業は英語で行う」学習環境を生み出す効果を持っていることは間違いない。日本では、「英 語の授業は英語で行う」学習環境で、日常生活に英語が入り込んでいない生徒の学習意欲 を高める工夫に努めなければならない状況がある。  また、緑川は同調査で、英文日記やハガキやカードを書くことは、韓国では 73.8%と 58.5%、日本では 22.5%と 18.7%という非常に大きな差異が見られるが、ライティングの 能力については、GTEC for STUDENTS の調査結果から韓国の高校生の力は日本の高校生の 力にはるかに及んでいないこともわかったと指摘している。韓国の英語教育ではスピーキ ング・リスニング能力育成が強調され、日本のように「まとまった英文」を書く活動が韓 国の教科書には見られず、ライティングについては十分な指導がされていないということ である。  確かに、韓国のように生徒の英語への意識の高いことは、「英語の授業を英語で行う」 好条件である。それは彼らを取り巻く韓国社会の時代的ニーズが生徒の意識を高めている と考えられる。したがって、生徒の意識そのものを問題にするのでなく、施策的に着実に 高めていくことが、日本の英語教育の基盤としての位置づけに必要と思われる。 表 3 日韓高校生の国内での英語使用経験(技能別) (単位:%)     (n=3,700)日本 (n=4,019)韓国 読む 英語で書かれた説明書を読む 32.0 77.6 教科書以外の英語の本を、自分から進んで読む 27.4 76.1 英語で書かれたインターネットのホームページやブログなどを読む 20.9 79.4 英語で電子メールやハガキ、手紙を受け取って読む 17.9 58.2 英字新聞を読む 14.1 60.8 聞く テレビ・ラジオで英語音声のニュースを聞く 27.3 60.6 英語で天気予報を聞く 8.6 54.1 話す 英語で道を尋ねられて答える 24.5 76.7 書く 英語で日記を書く 22.5 73.8 英語でハガキやカードを書く 18.7 58.5 『東アジア高校英語教育 GTEC 調査 2006』 Benesse 教育研究開発センター(2006)より作成

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4. 3 「英語の授業は英語で行う」教材の現状

 初等中等教育においては、検定教科書が主たる教材と決められている。現在、英語表記 のみで日本語表記がゼロという教科書は見られない。新学習指導要領に基づく 2013 年度 以降の教科書はその形態を変えるであろう。「英語の授業は英語で行う」の指導方針は、 戦略構想にあるように、「英語が使える日本人の育成」に基づくものである。  「英語が使える」という観点から、現在のライティングの教科書を見ると、そのほとん どが grammar-based になっている。時制の使い方、助動詞の使い方などを軸としたライティ ングの練習問題編集となっている。また、ほとんどの教科書が下記の一部の例のように、 英文とその訳文が併記されているか、日本文に対応する英文が併記されているかの様式で 編集されている。

例 1 Genius English Writing 大修館 現在時制

1.I often stay up very late. ▶ 私は遅くまで起きていることがよくあります。

2. The early bird catches the worm. ▶ 早起き野鳥は虫を捕まえる。(早起きは三文の得)

ことわざ

例 2 Provision English Writing 桐原書店 主張する

1.私の意見は電力消費を減らさなければならないということです。   My opinion is that we must reduce the consumption on the issue. 関係代名詞

1.今の日本は、第二次世界大戦前の日本と違います。   Japan is not what it used to be before World War II.

 英文のアウトプットを目的とするライティングの教科書が、日本語をもとに直接英文に 変換するような指導に基づく活動を行う形態になっているものが多い。教員にとって指導 しやすいことと、生徒にとっても日本語があるので安心ということがあるのではないかと 推測される。クリエイティブなライティング活動を中心とする教科書はその指導が難しい と学校現場が受け付けず販売部数が伸びないので、結果、従来からある日英併記が教科書 様式になっているのかも知れない。  このような指導形式でライティング活動を学んだ生徒は、大学生になっても日本語を直 接、日本語感覚で英文にする傾向が強い。本学の学生にも表 4 のような英作文例が見られ る。

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 話し言葉ではその場で何度かやりとりができるのでコミュニケーションとして構わ ないかもしれないが、書き言葉としては問題がある。日本語からライティングをすべ きか、英語で発想しライティングを行うべきか、日常言語能力(Basic Interpersonal Communication Skills= BICS)に 終 始 す る の で な く、 認 知 学 習 言 語 能 力(Cognitive

Academic Language Proficiency= CALP)の域まで育成することをめざすなら、双方の言

語の違いを認識することが必要で日本語は欠かせない。しかしながら、日本語感覚の英文 を書かせることになりうる日本語による指導は両刃の刃となる。したがって、「英語の授 業は英語で行う」ための教材は、相当工夫されたものになる必要がある。

4. 4 「英語の授業は英語で行う」としての英語とその未来

 日本人にとっては学習する英語は第 二言語でなく外国語である。Cummins (1980)図 3 のモデルが提示するように L1 と L2 の BICS には開きがある。これ は言語間の距離を示すものである。前 述のように、日本語と英語には相当な 言語間の距離がある。共通の基底に なっている母語を含めた CALP を活用 しなければ L2 にたどり着けない。なお、 この図 3 はモデルであって、水面上に描かれる三角形も同じ大きさであり距離感を感じな いが、実際、様々な言語を比べると、英語と日本語の距離は相当ある。これは英語教育の 根幹に関わるものである。日本人にとって、現在L2ではなく、FL(外国語)としての英 語は水面上どれくらいの大きさで、またその輪郭はどうなっているのかを検討する必要が ある。  世界共通語と言われる英語は、母語人口としては、8 億 8 千 5 百万人の中国語が1位で、 表 4 学生の英文例 伝えたいと思われる日本文 学生の英文 伝えたい英文

私の家族は 4 人です。 My family is four people. There are four people in my family.

彼女は疲れやすい。 She is easy to be tired. She gets tired easily. けれども彼らは多く理由で

働く事ができない In spite of they cannot work for a lot of reasons. However, they cannot work owing to a lot of reasons. い わ ゆ る「 ワ ー キ ン グ プ

ア ー」 の 問 題 が 日 本 で 拡 がっている

Problem of the poverty called "working poor" is expanding in Japan.

W h a t w e c a l l "w o r k i n g p o o r" h a s g ive n r i s e t o public discussion in Japan. "Working poor" is becoming a great problem in Japan.

図 3  The dual iceberg representation of bilingual Proficiency (Cummins, 1980)

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母語人口 4 億人で 2 位である。しかしながら、インターネットでの使用言語は Internet World Statsによると、4 億 9580 万人とトップである。世界で出版されている書籍の言 語別割合も、英語が 28.0%、中国語 13.3%、ドイツ語 11.8%で英語使用がトップである (Graddol1997)。  また、Graddol(1997)は英語話者数の未来を図4のよ うに推定している。L2 としての英語話者数が、L1 とし ての話者者より上回り、外国語として英語を話す人の数 はそれより遙かに多い。すると、日本人にとってのL2・ FLである英語は図 3 に当てはめると、L2の三角は相 当大きなものであると同時に、外国語としての英語使用 者の影響を受け、その輪郭も明瞭でなく常に大きく変わ る要素をはらんでいることになる。  Newsweek(2010 年 6 月 30 日)に、「英語じゃなくて Globish」という特集記事がある。語彙も表現もシンプ ルなグロービッシュ=簡易型英語が世界の新たな共通 語になるという内容である。Jean-Paul Nerriere (IBM 元

幹部)の命名による Globish の the communication of the future としての特徴は、  ・Communicate in English, using only 1500 words.

 ・Employ simple, but standard grammatical structure.

 ・Learn enough pronunciation and spelling for 1500 words only.

 ・ Provide a tool for leading a conversation in business or as a tourist, anywhere in the world.  ネリエールは、「日本 IBM にいた 90 年代、英語が母語でない人が話す英語のほう が、英米人よりずっとうまく韓国人や日本人の顧客と意思疎通を図れると気づいた」 (Newsweek2010)と述べている。  これは、今後英語教育がめざす方向を考えていく上で非常に示唆的なことである。ただ、 新学習指導要領では、単語は現行より 500 語多い 1800 語を指導し、中・高で計 3000 語に なり、78 年改定時の水準に戻り、中国や韓国とほぼ同程度になった。社会のニーズの反 映なのか、振り子のように揺り戻しが起こった。世界で実際に英語を使う人の言語状況か ら考えられるように、少ない語彙で簡単な文法を扱う方が「英語」は習得しやすい。学習 指導要領上の「英語の授業を英語で行う」という指導理念には、全体的な整合性が今後さ らに検討されることにならざるを得ない状況である。

5. 学習理論からの考察

 ここまで現状をもとに「英語の授業は英語で行う」ことについて述べてきたが、ここか らは学習理論の観点から「英語の授業は英語で行う」を考察する。考察の観点としては、「英 図 4 英語話者数の今後

David Graddol(1997). The Future of English. The British Council, 山岸 (訳)『英語の未来』(1999)

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語で英語の授業を行えば英語力が付くのか」で ある。  まず、教室言語として英語にも、二つのタイ プがあると考えられる。英語を4学ぶことに主眼 を置いた「学習言語」と、英語で4学ぶという content-basedにした「使用言語」である。松本 氏が述べる「ディスカッションやディベート、 プレゼンテーションを行う」は使用言語として の英語の運用である。  言語習得は、Krashen(1988)が提唱したように input が重要な役割を果たすことには異 論を唱える人はいないだろう。ただ、input だけで言語は習得できることはない output を 伴ってこそ、言語は習得される。教員が話す英語を聞くだけ、与えられた教材を読むだけ では、言語習得は望めない。試行錯誤をくり返す output は、思考の過程で段階的に目標 言語を通して考えることによって習得に近づいていくと考えられる。したがって、「英語 の授業を英語で行う」ことは、英語力を高めるための必要条件となり、英語を学習言語ま たは使用言語として output の活動を行うことが授業で求められる。  ただ、外国語を学習するということは、その言語でのコミュニケーションに必要な規則 の体系を習得することで、その学習プロセスは段階的なものである。  図6のように、山岸他(2010)は、学習技能の他、教材や授業者という学習発展プロセ スを促進する要素からなる外国語(英語)教育における学習発展プロセスの一例を提起し ている。「わかる⇄できる⇄わかる→使ってみる(表現する)」のプロセスを全て英語で行 うことが言語習得に効果的と言えるだろうか。現在、授業でよく見られる進行は、「PPP アプローチ(Presentation, Practice, Production)」、つまり「理解→練習→使用」の学習順 序が一般的である。そして、学校現場ではこの最初の 2 段階で日本語による文法シラバス が取り入れられることが多く、最後の使用段階が切り離され、目標言語の使用にわずかの 時間しか当てられない場合が多い。そのため、実際の授業では、1 時間に進む学習量が教

図 6 外国語(英語)教育における学習発展プロセス例 (山岸他 2010:234) 図 5 教室言語としての英語

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科書半~1ページ(20 行程度)になると同時に、授業が教員の解説に終始することが少な くない。ここが、生徒の活動が少ないと松本氏の指摘するところである。  大津氏が主張するように、文法の理解なしに L2 やFLは理解できない。Canale(1983) は、コミュニケーション能力を構成する四つの要素として、1 文レベルなら正しい文が書 ける、また正しい音声ルールで話せる「文法能力(grammatical competence) 」、1文以 上の文をつなげて、意味のある、わかりやすいメッセージ伝達をする「談話能力(discourse Competence)」、 言 語 使 用 に お け る 適 切 さ に 資 す る「 社 会 言 語 能 力(Socio-linguistic Competence)」、そしてコミュニケーションの効果を高めたり、不十分さを補ったりする 「方略的能力(Strategic Competence)」のコミュニケーション・ストラテジーをあげている。 本学の学生にも前述のように「文法能力」が不十分なため適切な一行の英文を書くことが できないことがある。着実な「文法能力」を身に付けることは重要なことであり、大津氏 の指摘のように、「日本語」で解説する方が「英語」の説明より分かりやすく認知される であろう。

 ただ、Canale & Swain(1980)は、"The primary goal of a communicative approach must be to facilitate the integration of these types of knowledge for the learner, an outcome that is not likely to result from overemphasis on one form of competence over the others throughout a second language programme."と、外国語学習のためのプログラムにおいて、他の能力と の比較でひとつの能力を過度に強調するようでは、こうした狙いも実現しにくくなるとし ている。

 近年、英語教科指導法で注目されている task-based learning は、exercise を通してでは なく、task を通して学習す る方法である。PPP アプロー チを通して教員が教え込む のではなく、task を通して 生徒自らが英語を使うこと によって英語力の習得が進 むという学習方法である。 Nunan(1989)は task の フ レームワークとして、Goals, Input, Activities, Teacher Role, Learner Role, Settingsをあげ ている。  同じく task-based learning を 提 唱 す る Willis(1996) は、言語学習の条件を図7 に ま と め て い る。 そ の 必 須条件として3つ掲げ、多

図 7 Conditions for Language Learning (Willis 1996)

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量にしかも理解可能なインプット「目標言語に触れること」、意味のやりとりをするた めに「目標言語を使用すること」、聞いたり読んだり話したり書いたりする「動機」と している。そして望ましい条件として、言語形式の「指導」をあげている。不可欠な 条件は全て学習者である生徒の活動である。学習の主体者は生徒である。したがって、

input→ intake → output の流れにおいて、生徒が一方的な input を受けるのではなく、

taskの実行者として他の生徒や教員との interaction を通して、英語を習得していくこと

が望ましい。それによって、英語を使うという機会を増やすことができる。それには task の工夫が必要である。

 Skehan(1998)はタスクの要件として次の事柄をあげている。  ・ Meaning is primary.

 ・ Learners are not given other people's meaning to regurgitate.  ・ There is some sort of relationship to comfortable real-world activities.  ・ Task completion has some priority.

 ・ The assessment of the task is in terms of outcome.

task-based learningは、言語形式に焦点を当てその正確な知識の獲得や学習した言語形式 がどれだけ正確に使うことができたかより、伝達する意味内容に焦点を当て言語能力は活 動の中で発達するとし、task としたコミュニケーション課題がどこまで達成できたかを優 先する指導法である。将来必要となるかもしれない言語形式の知識をいつの日かに備え て学んでいくという指導法より、意味に焦点があり深い読み取りや解決すべき現在の task を扱うこの指導法の方が、動機付けにもなり英語力を育成することができると思われる。 その際、教室言語の使用は前頁の図 8 のように考えられる。英語の授業において日本語を 排除するものでないが、英語で行うにはこの task-based learning の指導法を活用すること が望まれる。  本章考察の観点としての「英語で授業を行うと英語力がつくのか」の参考資料として、 筆者も本学で担当している二つの科目(2 年制 Topic Studies I, 4 年制 Theme Studies II)の 授業アンケート結果を示す。2 年生履修のこれらの科目は、4 技能を統合的し、英語によ るコンテンツベースの授業を展開するクラスで、日本人教員も英語話者教員と同様に授業 は英語で行うことになっている。昨年の 2009 年度の授業アンケートで、日本人教員が担 当しているクラスを抽出した集計結果が表5である。

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 2 年制大学では、advanced のクラスの結果が Intermediate のクラスの結果よりかなり の差異が見られるが、4 年制大学では、両者に顕著な差異は見られない。2 年制・4 年制 大学とも 75%以上の学生が「英語力がついた」と回答している。質問紙による学生の自 己評価としては、「英語で授業を行うと英語力がつく」と言える。  大学生の授業アンケート結果をそのまま高校生の場合に当てはめることはできないが、 「英語で行うべきか」「日本語で行うべきか」に課題があるわけでなく、どのような目的で どのように授業をデザインしていくかが課題となると考えられる。

6. まとめ

 「英語の授業は英語で行う」を、文法訳読式 vs コミュニケーション重視を下に議論する ものではない。争論にある松本氏、寺島氏、大津氏の意見はそれぞれの指導方法であり、 それぞれが絶対であるというものでもない。文法を十分理解することは英語学習の必要条 件であり、日本語で説明した方が分かりやすい。ただ、それだけで終わるとその場の理解

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に留まって実際に使えるかどうかまではわからない。task を取り入れた活動も必要である。  和泉(2009)は、イマージョン教育でのインプット理解を促す方法として Echevarria の 工夫を紹介している。これらは「英語で授業を行う」において必要な工夫である。  ・ 話すスピードを落とす。  ・ ポーズを長くして、生徒に言語処理の時間を与える。  ・ 明瞭な発音で、誇張したイントネーションで話す。  ・ 重要な単語やフレーズを強調したり、繰り返したりする。  ・ 頻繁に使われる語彙を多用し、スラングや熟語をあまり使わない。  ・ 同じ単語や文、またはセンテンス ・ パターンを繰り返し使う。  ・ 言い換えを多用する。  ・ 具体例を使う。  ・ 意味を説明する定義を使う。  ・ 同義語を使う。  ・ 母語にある目標言語からの借用語など生徒が既に知っていそうな単語を使う。  ・ 視覚的に訴える教材を多用する。  ・ ジェスチャーや顔の表情を豊かに使う。  ・ 生徒が既に知っていることや、生徒の経験と結びつけて、新しい学習内容を提示する。  ・ 授業の最初に、先行オーガナイザーとして,その日の学習目標を提示し、板書しておく。  ・ 複雑な内容は、噛み砕いて順々に紹介する。  ・ 個人作業やグループ活動を行ったり、宿題を与えたりする際は , まず模範となるモデ ルを示して、何が期待されているかをはっきりさせる。  ・ 授業の展開に予測可能なパターンを作る。  ・ 児童 ・ 生徒同士で理解を確認し合う時間を設ける。  ・ 教室や廊下に役立つ単語やフレーズなどを示すポスターを貼り、機会あるごとにそれ を授業でも活用する。  こうしたスキルも必要であるが、何よりも教材をしっかり読み込みどう扱うことが大切 なのか事前に十分考える教材研究が一層 必要となる。リーディングを主眼にした 授業では、図9の例のような授業構成の ポイントを踏まえ、どのような活動をど う行うかしっかりとした授業デザインを することにより、「英語で行う」「日本語 で行う」を目的に応じて考えることが望 まれる。  文部科学省(2010)は、全体を見通し た上での議論を活発化する前に、「英語 の授業は英語で行うことを基本とする」 図 9 Reading での英語力の育成

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の反響の大きさに、当初の意図をトーンダウンさせた。「(前略)言語活動を行うことが授 業の中心となっていれば, 文法の説明などは日本語を交えて行うことも考えられる。(中略) 授業のすべてを必ず英語で行わなければならないということを意味するものではない。英 語による言語活動を行うことが授業の中心となっていれば , 必要に応じて , 日本語を交え て授業を行うことも考えられるものである」 これによって一連の争論は収まるのかもしれ ない。しかしながら、これでは施策としての本質的な解決にはなっていない。本来は、授 業のデザインのあり方や教員が英語の授業に臨む基盤となる指導の考え方についてホリス ティックな議論が必要である。  言語学習条件の大きな要件である、授業 における「動機」の高め方一つをとって も、何が根本的に大切なことかをしっかり 見極めて、どう指導するかを検討すべきで ある。「興味を惹く問いかけ」が動機を高 める一番の要因とするなら、たとえば図 10 のようにその考え方をもとに、英語による 問いかけ、日本語・英語による回答などの taskを考えていくことが必要ではないだろ うか。  まとめとして、以下の 3 項目を検討したうえで、大津氏も指摘されたように、日本語の すばらしさと英語の論理性・多様性を熱く語る「ことば」の教育者として、生徒が活動の 主体となるような授業を英語で行うことが大切であると考える。 1.教材が英語として面白い(英語表現の特性・日本語との違い)   ・十分な教材の読み込み、背景知識    ・理解を促進し深める問いかけ活動の準備 2.教材理解促進とその場に応じたナマのやりとり・問いかけ   ・ 付属音声教材等の提示にとどまらない、生徒の反応を捉えた教員自身のことば、わ かりやすい解説や図解    ・学習の雰囲気・学習意欲を高める授業コミュニケーション 3.生徒が活動する→ task の設定・工夫   ・指導目的・目標に応じた英語を使う task 臨機応変のグループ活動   ・生徒自身が言語形式をフィードバックできる exercise も取り入れる 引用・参考文献

Canale,.M., & Swaine, M. (1980).Theoretical Bases of Communicative Approaches to Second Language Teaching and Testing , Applied Linguistics, 1

Cummins, J. (1998). The Construct of Language Proficiency in Bilingual Education. In Current Issues in Bilingual Education. James Alatis ed. Georgetown Univ. Roundtable.

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図 3  The  dual  iceberg   representation  of  bilingual Proficiency (Cummins, 1980)
図 5 教室言語としての英語
図 8 英語学習の条件要素の教室言語
図 10 動機を高める指導デザイン

参照

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