日本マーケティング・サイエンス学会研究大会報告要約
若手研究者発表セッション <報告①> 「製品デザインにおける価値基準の変化と消費者評価の関係」 キム スンジン・多田 伶(大阪大学大学院) 製品が市場に参入するとき,優位な地位を得るため,企業は製品のアイデンティティを確立す る必要がある。製品デザインは企業がブランドを消費者に認知させるうえで,重要な製品属性 の 1 つである。本研究は製品の形状と機能の統合体として製品デザインを捉え,日本国内のデザ イン賞に注目しながら,企業と消費者が互いに製品デザインをどのように評価し,両者の評価が 市場環境とどのように連動しているのかを検討した。 本研究はブランド論の知見を応用し,「アイデンティティ」と「イメージ」という 2 つの概念を 用いて,製品の認知構造を分析する。企業側と消費者側の認知構造は一致するときが理想的な状 態であると考えられているが,さまざまな市場環境の影響を受け,両者は必ずしも一致すると限 らない。そこで,本研究は企業と消費者の相互作用が生じる場としてデザインに注目し,リサー チクエスションとして,「企業のアイデンティティと消費者のイメージの間における不一致度は 動的に変化し,それらの不一致度に関係する市場環境要因は存在するのか」を設定した。 デザインに対する企業と消費者の不一致度を検討するため,グッドデザイン賞を分析対象とし て用いた。日本のグッドデザイン賞は世界的なデザイン賞の 1 つであり,受賞作品に対する企業 のアイデンティティと審査コメントが公開されている。先行研究を踏まえて,消費者のイメージ については審査委員の評価を代理指標とした。多言語トピックモデルを用いて,アイデンティティ とイメージについてトピックの単語出現確率を求め,その出現確率の差を算出することで,企業 と消費者の不一致度を検証し,社会環境変数との相関分析を行った。その結果,企業と消費者の 不一致度が変化すると示され,関連のある社会環境変数が発見された。分析結果を踏まえ,不一 致度の要因について考察し,不一致度に対応する企業の戦略について議論した。第108回研究大会報告要約
(2020年12月 5 〜 6 日,オンライン開催)
<プロジェクト報告 A 1> □新しいデータと競争環境の下でのマーケティング・サイエンス研究部会 「ランダムに割り当てられた広告を用いた動画視聴の広告効果について」 星野崇宏(慶應義塾大学),藤本凌太朗・慶野有輝(慶應義塾大学大学院) 本研究では無作為割り当てによる配信が行われている広告についての大規模データをもとに, 広告の単純接触効果や摩耗効果を調べた。具体的には ABEMA の番組宣伝の一部が無作為に配信 されていることを利用し,当該サービスの番組宣伝の効果を当該番組の視聴有無をアウトカムと して測定する。これにより,どのような番組でどのようなタイプの視聴者に対していわゆる広告 の最適フリークエンシーが何回であるかが分かり,現状行われている無作為な配信に比べてより 広告効果を高めることが可能になる。但し,しばしばオンラインサービスでの無作為化において 問題になるように,ここでも配信は当該サービス利用に対して行われており,個人ごとに無作為 化が行われているわけではない。そこで,利用者の当該サービス利用回数の分布を用いることで, 配信有無の因果効果を推定する。その結果,実際に有効フリークエンシーがほとんどの番組にお いて存在することがわかった。そこで,視聴有無のロジットを広告接触回数の二次関数とし,そ の係数が番組カテゴリーや利用者の属性やこれまでの当該サービス利用頻度によって説明される 階層モデルを用いた分析を行った結果,利用回数が多いほど一般に有効フリークエンシーが増え るなどの結果が分かった。これにより,より効果的な番組宣伝が可能になることが期待できる。 今後の課題としてはさらに多くの番組宣伝についてこの分析を行って一般化することと,介入実 験を行うことである。 <プロジェクト報告 A 2> □顧客価値創造のためのコミュニケーション研究部会 「スマホアプリのプッシュメッセージを活用したモバイルクーポン効果検証」 中岸恵実子・三浦諒一・佐藤 伸(CCC マーケティング㈱) 寺本 高・鶴見裕之・本橋永至(横浜国立大学) デジタル広告の市場規模は年々拡大しているが,その一方で消費者にとって情報過多になる懸 念があり,消費者が情報を受け入れやすいタイミングに合わせた,適時・適切な配信が必要だと 考えられる。そのような状況の中,先行研究では消費者の意思決定プロセスの各段階に対して, 効果的な操作変数を捉える議論は十分行われてこなかった。そこで本研究では,消費者の注目= プッシュメッセージの開封に対し,配信時間と時間関連メッセージ(以下時間 MS)による刺激の 効果検証を行った。 スマホアプリのプッシュメッセージにおいて,配信時間 3 種類(9:30 / 13:30 / 17:30)×時間 MS の有無の合計 6 割付で実験を行った。時間 MS は,9:30配信は「今日も一日頑張りましょう♪」, 13:30配信は「午後も頑張りましょう♪」,17:30配信は「今日も一日お疲れ様です♪」とした。各 割付の対象者はそれぞれ8, 600名前後で,性別,年齢や普段の購買状況が均質になるようにした。
時間 MS は各時間帯で異なる文言を提示するが,分析時に 1 つの変数として扱って問題ないかを 検証するため,事前に各時間帯の挨拶としての合致度をアンケート調査し,それぞれの合致度に 差がないことを確認した。 この実験結果からロジスティック回帰でモデルを構築した。目的変数は 3 時間以内の開封有無, 説明変数は,配信時間,時間 MS 有,配信時間×時間 MS の交互項,年齢,過去のアプリプッシュ 開封数とした。その結果,配信時間は非有意,時間 MS は負に有意,年齢と過去開封数は正に有意, 時間 MS と配信時間の交互項は正に有意となった。このことから,配信時間帯とその時間帯に因 んだ挨拶をセットで伝えることは,開封のフックとして有望であると考えられる。今回は消費者 の意思決定プロセスの中で「注目」について検証したが,今後「購入意図」や「購入」についても 研究を進めたい。 <プロジェクト報告 A 3> □ Web コミュニケーション・データのマーケティング活用研究部会 「オンライン・レビューの有用度に与える感情要素の影響分析」 馮超禹(横浜国立大学大学院),鶴見裕之(横浜国立大学) 2020年の新型コロナウイルス感染拡大により世界各国の EC 化率が高まりつつある。McKinney によると米国の EC 化率は2019年が19%だったのに対して,2020年第 1 クオーターは34%となっ ている。本研究では,利用が広まりつつある EC の商品レビューに着目して研究を行った。 レビューは顧客が購入を決定するのを支援できる一方,大量のレビューを読むことで認知的コ ストは向上する(Park and Lee 2009)。レビューに対する「役にたった」という情報は,潜在顧客の 購入決定に自信を持たせる(Sussman and Siegal 2003)。この「役にたった」というクリックが蓄積 され,そのレビューが上位に表示されるシステムは優れたシステムである。しかしながら「役に たった」というクリックが蓄積され,ランキングシステムで処理されるまでには時間がかかる。 例えば,まだクリック蓄積がない状態で潜在的に有用性の高いレビューを上位に表示できれば, 顧客の認知負担を削減し,潜在消費を刺激できる。以上の事から良い EC 環境を作るためにも, どのようなレビューが消費者に役立つかを理解することが不可欠である。
そこで,本研究では Felbermayr and Nanopoulos(2016)等を参考にレビューの感情要素が,その レビューの有用性に影響を与える要素を分析した。特に「感情」だけではなく「感情×トピック」 の相互作用がレビューの有用性に与える影響を分析した。データは Shopify app store の Web アプ リに対するレビュー 292, 029件である。トピックは Latent Dirichlet Allocation(LDA)により 8 ト ピックを,感情要素は NRC lexicon に基づき 8 つの感情を抽出した。それらの交互作用項が「役 にたった」件数に与える影響を負の 2 項回帰モデルで分析した。結果,同じ感情でも,トピック が異なる場合にレビューの有用性に与える影響は異なることが明らかになった。このことから消 費者がどの様なレビューを有用と感じるかを知るには「感情」だけではなく「感情×トピック」の 相互作用に着目した分析が重要である,との結論に達した。
□マーケティングの統計的モデリング研究部会
「Product Embedding For The Large-scale Disaggregated Sales Data」 李 銀星・照井伸彦(東北大学) データ科学の発展と共に,多くの分野では大規模なデータ解析が加速している。マーケティン グ分野でもビッグデータを用いた研究が進んでいる中,高次元の商品数に関する大規模な購買履 歴および消費者属性情報をより効果的に活用するモデリング手法の開発が求められている。本研 究では最新の機械学習手法を発展させることにより,高次元スパース性を持つ ID-POS データを 用いて店舗内全商品を対象としたマーケティングモデルを提案する。 具体的には,自然言語処理分野で開発された高次元データ分析手法である Item2Vec および LDA2Vec を拡張し, 1 )割引,プロモーション,祝日などのマーケティング変数環境を考慮した リコメンデーションシステム, 2 )消費者属性を用いた消費者異質性の階層構造,を取り込んだモ デルを提案した。これにより,店舗の全商品を用いた同時購買予測の精度の向上のみならず,消 費者の行動パターンの要因分析によるモデルの解釈性の向上も同時に実現する。 実証分析として,1, 476人の消費者に関する一店舗 2 年間のレシートデータ(56, 630件)を用い てモデルを学習し,1, 000人分のテストデータの予測精度評価を行った。結果として,マーケティ ング環境および消費者異質性の階層構造は共に予測精度を多く改善し,リコメンデーションモデ ルとして高い性能を示した。さらに階層モデル分析から,「年齢が高い,家族数が多い,パート タイム職」の消費者は,マーケティング環境の影響を多く受け,「家族数が少ない,フルタイム職」 の消費者は,自身の要因とする購買行動をとる,など実務に有用な知見も得られた。今後の課題 として,商品,消費者およびマーケティング環境の特徴量を活かし,ベクトル演算などによるよ り実用的なマーケティングへの応用研究などが挙げられる。 <プロジェクト報告 A 5> □市場予測のための消費者行動分析研究部会 「シングルソースデータを利用した消費者インサイトの発見」 中原孝信(専修大学) 深層学習による画像認識や自然言語処理を用いた機械翻訳などの応用技術は目覚ましい発展を 遂げている。一方で,現状では深層学習によって得られたモデルは解釈が困難であり,人が意思 決定に介在するようなタスクでは深層学習の適用は少ない。本研究は,マーケティング活動にお ける意思決定の支援を想定し,実用的で解釈性を高めるためのモデル構築を行うことを目的に, パターン拡張クラスタリングによる目的変数の設定とグラフ研磨による特徴量抽出を実施した。 パターン拡張クラスタリングでは,単純な正例と負例を目的変数にしたモデル構築ではなく, 正例の消費者群から類似する特徴を持つ消費者をクラスタリングする。そして,負例の消費者群 からは,正例と同様の特徴を持つ消費者を割り当て,負例クラスタを構築する。つまり, 2 つの クラスタは,正例と負例で異なるが類似する特徴を持つ消費者群を対象にモデルの構築が可能と なる。このことによって,正例と負例を分ける単純で当たり前のルールではなく,意外性のある
ルールの抽出が期待される。次に説明変数については,グラフ研磨というグラフのクリーニング 方法によって,より関係性の強い構造をクラスタとして抽出した。本研究で利用した説明変数は, Web サイトの閲覧やテレビ番組の視聴であり,グラフ研磨を適用したクラスタリングでは,サス ペンス系の番組クラスタや,ニュース番組のクラスタなど,意味解釈が可能なクラスタを構築す ることができていた。 最終的なモデルは,野村総合研究所の Insight Signal アカデミーパック2014年を利用し,旅行意 向の有無(H. I. S または JTB を利用する旅行)を対象にモデルを構築した。そして,グラフ研磨の 有無による精度の改善と,意味解釈が可能なモデルが構築できた。特に,ツアー旅行への意向が ない消費者は,JR 東日本の大人の休日倶楽部や e 航空券 . com などを閲覧しており,自ら割引きっ ぷや安いチケットを求めている行動が明らかになった。 <プロジェクト報告 A 7> □消費者行動とマーケティング意思決定の研究部会 「消費者の小売業態間での店舗選択行動の分析」 里村卓也(慶應義塾大学),佐藤栄作(千葉大学) 小売業態間での市場のオーバーラップとオンライン化が進展している現在において,小売業 者・卸売り業者・メーカーにとっては消費者の小売業の業態選択行動を理解することが重要とな る。そこで本研究では消費者による小売業態の業態選択行動モデルの提案と業態横断の購買パネ ルデータを用いた実証分析を行う。 本研究では業態選択を買い物費用最小化の行動として定義する。また消費者は店舗選択におい て買い物リストを作成し,その買い物リストの商品を購入することを目的として,業態を選択す るという,買い物リスト・アプローチ(Bell et al. 1998, Briesch et al. 2009)を採用する。また消費 者は買い物において店舗の訪問に必要な業態に固有の固定費用と購入商品によって支払う費用が 変わる変動費用との合計を買い物費用として考えるものとする。このうち固定費用は店舗までの 出向費用,機会費用,心理的費用等によって決定される費用である。変動費用については,購入 アイテム数もしくは販売価格から計算される購入金額という客観的変動費用,あるいは消費者が 持つ各カテゴリーの主観的価格から計算される主観的変動費用を考える。 業態横断の購買パネルデータを用いた実証分析では,食料品の購買に着目し,スーパーマーケッ トとコンビニエンスストア間での業態選択行動の分析を行った。最初に 1 )カテゴリーに関係な く購買個数だけが問題となる購買個数モデル, 2 )各カテゴリーの購買個数が問題となるカテゴ リー個数モデル, 3 )カテゴリー別の平均価格から算出した合計金額が変動費用となるカテゴリー 価格モデル,の 3 つのモデルについてデータへのあてはまりを比較し,カテゴリー個数モデルが 採択された。カテゴリー個数モデルから,業態間での固定費用の差,業態ロイヤルティの固定費 用の影響度が得られた。さらに業態間でのカテゴリー別の主観的変動費用の差が得られ,業態選 択の起点となる目的カテゴリーを特定することもできた。
□マーケティングにおけるイノベーションとコミュニケーションの研究部会 「消費者の e クチコミ情報探索,情報処理と発信行動の解明」 馮 昕(慶應義塾大学大学院) 本研究は消費者の e クチコミ情報探索,情報処理と発信行動の一連のプロセスを解明するため に,「消費者発話プロセスモデル」を提案し,このモデルの中の「デコーディング」と「エンコーディ ング」プロセスを中心として,二段階の実証研究を行った。 「デコーディング・プロセス」において,以下の仮説を設定する。 仮説 1 :e クチコミ情報を獲得するための探索コストがクチコミ情報内容に対する記憶度に正の影 響を及ぼす。 仮説 2 :e クチコミ情報を獲得するための探索コストがクチコミ情報内容に対する推論的理解度に 正の影響を及ぼす。 また,「エンコーディング・プロセス」において,以下の仮説を設定する。 仮説 3 :e クチコミ情報内容に対する記憶度が発信したい e クチコミの抽象度に負の影響を与える 仮説 4 :e クチコミ情報内容に対する推論的理解度が発信したい e クチコミの抽象度に負の影響を 与える。 本研究は架空の民間スポーツジムのサイトを用いたオンライン調査を行った。第一段階では, 情報探索コストが低い参加者は,クチコミサイトでジムの名前ボタンを見つけ,クリックしたら, クチコミ情報内容が全部表示された。情報探索コストが高い参加者は検査欄にキーワードを入力 して検査することが要求され, 4 回検索行動を行ってはじめて,全てのクチコミ情報内容を閲覧 することができる。その後,e クチコミ内容に対する記憶度と推論的理解度を測定した。第二段 階では,心理言語学の理論を参考して作成した八つの抽象度の異なる e クチコミメッセージ(正 負それぞれ四つ)を選択してもらった。仮説検証の結果,探索コストがクチコミ情報内容に対す る記憶度と推論的理解度に与える正の影響(仮説 1 と仮説 2 )とクチコミ情報内容に対する記憶度 が発信したい e クチコミの抽象度に与える負の影響(仮説 3 )が支持された。クチコミ情報内容に 対する推論的理解度が発信したい e クチコミの抽象度に与える負の影響(仮説 4 )が棄却された。 <プロジェクト報告 A 9> □ ID-POS データのマーケティング活用研究部会 「品揃え変更の来店行動とカテゴリ購買生起への影響」 佐藤栄作(千葉大学) 品揃えは,価格やセールスプロモーションとともに小売店舗における顧客の購買行動に影響を 及ぼす重要な要因の 1 つである。しかしながら,これまでに行われてきた品揃えの影響に関する 研究では矛盾する結果が示されるなど,いまだその影響メカニズムについて十分な解明がなされ ているとは言えない。また,これまでの品揃えに関する研究は,来店頻度や客単価,カテゴリ購 買生起など,購買意思決定プロセスの特定の段階を対象として行われてきており,それらを統合 して影響を評価した研究は行われていない。そこで本研究では,品揃え変更の影響を考慮した来
店間隔とカテゴリ購買生起の統合モデルを提案し,スーパーマーケットの ID-POS データに適用 する実証研究を行っている。 本研究の実証分析では,事例としてヨーグルト・カテゴリを取り上げている。分析の結果,た とえば購買経験のあるアイテムの削減が来店間隔を延ばし,カテゴリ購買生起確率を低下させる 方向に作用する傾向があることや,カテゴリ内の製品属性水準間での品揃えアイテム数が均一化 するほどカテゴリの魅力が低下し,そのことが来店間隔を延ばしカテゴリ購買確率を低下させる 傾向にあることなど,品揃え変更施策が来店間隔とカテゴリ購買生起の双方に影響を及ぼす可能 性のあることが確認された。この分析結果に基づけば,少なくともヨーグルトの品揃え施策はカ テゴリ購買についてのみでなく,来店行動への影響にも注意を払う必要があるという実務的示唆 が得られる。ただし本研究で得られた傾向は,商品カテゴリ間で異なることが容易に想像される ため,他のカテゴリでの実証研究をさらに進めていくことが今後の課題の 1 つとなっている。 <プロジェクト報告 A10> □消費者・市場反応の科学的研究部会 「期間限定セールが消費者の購買意図に与える影響」 三富悠紀(高崎経済大学),阿部 誠(東京大学) 昨今,様々な販売チャネルにおいて期間限定セールが実施されている。期間限定セールの対象 となっている商品について,消費者が購買を検討するにあたっては「期間限定」と「値引き」の影 響を受けると考えられる。しかしながら,Inman, Peter, & Raghubir(1997)は「期間限定」と「値引き」 が購買意図に影響を与えるという指摘をしている一方で,Devlin, Ennew, McKechnie, & Smith, (2007)では「値引き」は影響を与えているが,「期間限定」は影響を与えていないと指摘している。 そのため,「期間限定」と「値引き」が購買意図に与える影響については明確になっていないと言 える。そこで本研究では時間圧力(Time pressure)の影響を考慮して,「期間限定」と「値引き」が 購買意図に与える影響を明らかとすることを試みる。時間圧力(Time pressure)の影響を考慮する 理由としては,期間限定セールが「値引きを行う期間が企業によって制約されている」と捉えら れる為である。 期間限定の有無と値引き率( 5 %と20%)を操作したスニーカー関するシナリオを用いたアン ケート調査を実施し,スニーカーに対する製品関与度合,消費者の知覚した時間圧力の強さ,商 品に対する知覚価値,購買意図を測定した。スニーカーに対する製品関与の高低を考慮した多母 集団同時分析を実施した結果,次の 2 点が明らかになった。①スニーカーに対する製品関与の高 い消費者は期間限定と値引きの手がかりから時間圧力を知覚している。②スニーカーに対する製 品関与の高い消費者において,知覚した時間圧力が直接,購買意図に正の影響を与えるだけでは なく知覚価値を介して間接的に購買意図に正の影響を与えている。今後の研究課題としては,期 間限定の長さや期間限定の表現を変更した場合や極端な値引き率の場合を考慮した調査を行う必 要があると考えられる。
□消費者行動の学際的研究部会
「色相に基づく製品陳列が消費者の態度に与える影響」
河股久司(早稲田大学大学院),守口 剛(早稲田大学),Hokjin Kwak(Drexel University) 本研究では,青や赤など色味を示す色相に着目し,色相に基づく陳列が消費者に与える影響を 検討した。色相に基づく配色には,隣り合う 2 色の色相差が小さい類似色相配色と色相差の大き い補色色相配色がある。これらの配色はどちらも好ましいと言われており,類似色相配色が馴染 みのある配色である一方で,補色色相配色は独自性が高く,躍動感がある配色である。本研究で は,これら 2 つの色相に基づいて陳列された広告の影響を検討するが, 2 種類の配色の好ましさ を調整する役割として,広告に掲載される製品デザインの典型性にも着目をする。デザインの典 型性が高い製品も低い製品も消費者には好ましく,典型性が高い製品は馴染みのある形状をして いる一方で,典型性が低い製品は,典型性が高いデザインの製品に比べてあまり馴染みがない。 そこで,本研究では配色とデザインがもたらす「馴染み」に焦点を当て,配色と製品デザイン の典型性の一致がもたらす効果を検証した。Study1a では, 2 種類の配色と,製品デザインの典型 性が異なる 2 種類の製品を用い,配色と製品デザインの典型性の一致がもたらす効果をみた。そ の結果,製品デザインの典型性が高い製品では類似色相配色で陳列した広告を,典型性が低い製 品では補色色相配色で陳列した広告を魅力的である判断した。また,Study1b では,広告に掲載 されている製品に対する購買意図も質問したところ,広告への魅力と同様の傾向を確認した。 Study2では,上記のような広告を掲載する企業のイメージ,特にブランドエキサイトメントに 与える影響を検証した。結果,革新性が高い企業において,デザインの典型性が低い製品を広告 しているときに,配色の効果が現れ,類似色相配色で陳列した広告よりも補色色相配色で陳列し た広告のときに,広告を掲載しているブランドに対するエキサイトメントが高いことが明らかに なった。 <プロジェクト報告 B 1> □市場に関する研究部会 「リードユーザーの類推による潜在的市場機会の特定」 石田真貴(関西学院大学大学院),西本章宏(関西学院大学) 本研究は,商業的魅力のある新製品を生み出すには,標的市場に存在するリードユーザー(以 下,LU)よりも,標的市場に対する類推距離が遠距離の周辺市場に存在する LU が生み出す新製 品のアイデアを活用する方が有益であることを示した。LU とは,大多数の消費者よりもトレン ドの最先端にいることから数か月後,数年後に市場で顕在化されるニーズに既に直面しており, それらを解決してくれる新製品に対して高いベネフィットを期待している特徴をもつユーザーの ことをさす(von Hippel 1986)。標的市場とは問題解決策を生み出したい市場のことであり,周辺 市場とは標的市場と同様の問題や顧客ニーズを共有しながらも製品属性や顧客などは異なる別の 市場のことである。類推距離とは,標的市場と周辺市場の概念的距離のことであり,互いに共通 する属性の数によって定義される。標的市場と周辺市場の間に共通する属性が多いほど近距離で
あり,少ないほど遠距離である。既存研究では,標的市場内において LU は一般ユーザー(以下, GU)よりも新製品開発に有益な存在であることは多くの研究で明らかとなっている。しかしなが ら,標的市場の LU ではなく,周辺市場にいる LU を活用することの有益さに着目した研究は未 開拓である。 本研究では,標的市場の LU が生み出す新製品のアイデアよりも,類推距離が遠距離の周辺市 場の LU が生み出すアイデアを活用する方が商業的魅力のある新製品開発に有益であること示し た。また興味深い発見として,類推距離が遠距離の周辺市場にいる GU は,標的市場の LU より も商業的魅力のある新製品開発に有益であることが明らかとなった。LU は市場で稀有な存在で あることから特定することは実務上大きな課題である。しかしながら,本研究では,標的市場に 対する類推距離が遠距離の周辺市場を特定することができれば,LU でなく GU でも商業的魅力 のある新製品を生み出すことが可能であることを示唆した。 <プロジェクト報告 B 2> □ブランド・マネジメント研究部会 「質的比較分析によるブランド評価」 豊田裕貴(法政大学大学院),木戸 茂(法政大学イノベーションマネジメント総合研究所) 本研究は,部会として JIMS101から研究テーマとして設定している「質的比較分析を活用する ことによるブランド・マネジメントにとって資する分析方法の構築」の一部として位置づけられ る。これら研究の基本にある問題意識は,「交互作用を含む複雑なブランド評価構造を明らかに する」ことにある。この課題に対しては機械学習系の手法のからのアプローチも期待されるが, 知見を得るためにはある程度大量のデータが必要になるという課題が残る。さらに実務への応用 を考えると,多ブランド,多頻度でこれら大量のデータを収集することによるコスト上の問題も あり,より小規模なデータから知見を得られる方法が期待される。 これらの点に鑑み,豊田(JIMS101)豊田・小川・木戸(JIMS102),豊田(JIMS104),豊田・木戸 (JIMS105)では,小・中規模データでの複雑性へのアプローチが可能になる質的比較分析(QCA) を用いて,ブランド評価構造を明らかにする方法を構築してきた。そして課題として残っていた ① QCA によって得られたブランドが選好されるために満たしておくべき評価項目の十分条件間 の評価,ならびに②十分条件と消費者を対応付ける方法論の構築の二点にアプローチするのが本 研究の目的である。 これら目的に対して,コーヒーショップ T 社についてのブランド評価調査データへの適用とそ こから得られる課題を検討した。具体的には,ブランド評価データに csQCA を適用し,ブラン ド選好を得るための十分条件と考えられる要素の組み合わせ(主項)を抽出する。その上で,それ ら主項の出現傾向を主成分分析にて縮約することで,十分条件間の位置関係と回答者との対応付 けを可能にした。その結果,主張すべきブランド属性という視点から顧客(回答者)をセグメンテー ションすることができ,ターゲットに合わせたブランド戦略を判断するための情報を得ることが
□学実ブリッジ部会フェーズ 3 研究部会 「ブランドの状況と成功と失敗を分けるマーケティング戦略パターン」 石田泰浩(㈱ゴーガ解析コンサルティング),山中正彦(㈱ KSP-SP) マーケターは,自社ブランドのカテゴリーだけでなく,他カテゴリーの成功や失敗事例を参考 にし,有効な戦略を模索している。そうした中で,カテゴリーを横断する知見の整理が求められ るが,カテゴリー横断的にマーケティング戦略を構成するマーケティング施策パターンに関する 定量的な研究はあまりなされていない。 そこで本研究では,金額シェアを向上させるマーケティング施策パターンをカテゴリー横断的 に明らかにすることを目的とする。具体的には目的変数を金額シェアの変化量,説明変数をマー ケティング施策投下の変化量,状況変数としてブランドが属するカテゴリー,カテゴリー内シェ アの順位とする決定木モデルを構築した。対象とするブランドは食品・飲料の主要19カテゴリー の上位ブランド,対象とするマーケティング施策は TV 広告,店頭プロモーション,ライン拡大, リポジショニングの 4 つとした。 分析の結果, 4 つの成功施策パターンが得られた。 1 つ目はヨーグルトや野菜ジュースのよう な成長期のカテゴリーにおいてみられた施策パターンで,健康志向のユーザー層のみならずマス 層への普及を促すリポジショニング+ライン拡大を合わせた,「新規顧客獲得のためのライン拡 大強化」である。 2 つ目は,最も多くのブランドで見られた施策パターンで,マス層への普及を 促すリポジショニング+ラインの絞り込み+テレビ広告の増加を行う,「製品強化・広告」, 3 つ 目は, 3 位以下ブランドで見られた施策パターンで,簡便かつ健康志向の高いニッチな層への新 ブランドでの「製品の差別化戦略」である。 4 つ目は,トップブランドで見られた施策パターンで, 簡便層からマス層へのリポジショニング+ラインの絞り込み+価格戦略を合わせた,「トップブ ランドの店頭プロモーション重視」で,有効な戦略パターンは,カテゴリーの成熟度とブランド の順位による状況により変わり,安易なライン拡大の危険性が明らかになった。 <プロジェクト報告 B 4> □マーケティングのデータ分析とモデリング・アプローチ研究部会 「プラットフォームの転換と高価値ユーザーの移行タイミング」 リュ ボスル(立命館アジア太平洋大学),勝又壮太郎(大阪大学) 本研究は,プラットフォームの世帯交代における初期採用者と後期採用者の価値を再検討する。 フィーチャーフォンゲームからスマートフォンゲームへ移行するユーザーを中心にコミットメン トと移行時期を測定し,時間とお金を多く投資する高価値ユーザーほど次世代への移行しにくい ことを確認する。データは,フィーチャーフォンとスマートフォンのゲーム利用状況の月次調査 を行い,デバイスの保有状況とゲームプレイ状況,課金額のデータを用いる。既存研究では高知 識・高関与の消費者ほど次世代プラットフォームへ早く移行すると考えられるが,本研究では高 価値ユーザーほど次世代への移行が遅いことを明確にする。 そのため,以下の仮説を検証する。
仮説 1 . 前世代プラットフォームのコンテンツへのコミットメントが高い人ほど次世代プラット フォームへの転換は遅い 仮説 2 . 前世代プラットフォームのコンテンツに対するコミットメントが高い人ほど次世代プ ラットフォームのコンテンツへのコミットメントも高い 仮説 1 の理論的背景としては,コミットメント・エスカレーション理論とスイッチングコスト が,仮説 2 の理論的背景としては類似プロダクト・カテゴリーに関する研究が考えられる。仮 説 1 の検証のためには Cox 比例ハザードモデルが用いられ,仮説 2 の検証には Type II Tobit モデ ルが用いられる。仮説検証の結果,仮説 1 と 2 は支持され,前世代プラットフォームのコンテン ツへのコミットメントが高い人ほど,次世代プラットフォームへの移行が遅く,移行後にも高く コミットする傾向が見られた。通常の普及研究では,プラットフォームの転換において初期参入 者が先端層であり,市場価値があると考えられるが,本研究は後期参入者が高価値ユーザーであ る可能性を示唆する。 <プロジェクト報告 B 5> □コンテンツとコミュニケーション研究部会 「NMF による日経 ID 属性分類」 佐藤邦弘・栃山 健(㈱日経リサーチ),山内秀樹・山本真吾(㈱日本経済新聞社) 日経電子版の上部に掲載する記事を選定するために,読者を記事の閲読傾向の違いから分類し, 時間帯による訪問者の特性の違いを明確にしたいという課題があった。そこで,まずは日経 ID の会員属性と記事のメタ情報の共起パターンをネットワークで可視化することで特徴的なパター ンを細かく把握した。次に,可視化した情報を要約するためにネットワークの元データである会 員属性x記事属性の特徴量行列を NMF(Non-negative Matrix Factorization:非負値行列因子分解) によって,共通の因子で分類した。この分類によって「どのような人」が「どのような記事」を好 む傾向があるかを定量的に分類・計測でき,当初の目的である時間帯別の訪問者傾向の違いも明 確になった。 今回行ったように人属性x行動属性の関係性を①ネットワークで細部まで可視化して探索的な 理解に繋げてから,次に② NMF で要約することでセグメント別の理解と施策に繋げた方法は汎 用性が高く,幅広いシーンで活用できることが期待できる。 一方,今回は人単位ではなく属性単位で行列分解をしたため, 1 人が複数の分類に所属する結 果となった。この結果を One To One のリコメンドに繋げるには,ルールベースで似通った分類 を作る必要がある。そのため,今後は NTF(Non-negative Tensor Factorization:非負値テンソル因 子分解)など,属性分類と整合性をとり 1 人 1 分類に割り当てる方法を検討したい。また,行動 の背景にある心情を理解するため,アンケートデータとマージした結果への適用を探りたい。
□社会問題とコミュニケーション研究部会 「消費者のサステナブル志向の特徴とその変遷」 西尾チヅル(筑波大学),石田 実(東洋大学) 国連で SDGs が採択されて以来,マーケティング活動においても SDGs との関係を示し,企業 価値の向上につなげようとする取組みが増大している。環境や社会のサステナビリティを企図し たマーケティングを展開するためには,消費者のサステナブルな価値構造を的確に捉え,その構 造的な変化や特徴を理解する必要がある。本研究では,著者らが Ray らと共に開発したサステナ ブル価値尺度(Nishio, Ishida & Takeuchi 2014)を用いて,その特徴や変容の有無を捕捉する。本尺 度は,サステナブルな文化や社会に関与しているカルチュラル・クリエイティブ(Ray & Anderson 2000)をターゲットとしており,「エコロジー志向」「キャリア志向」「フェミニズム」「 精神性」「経済的成功志向」「グローバルな経済成長志向」 から構成される。本研究では,本尺度 を日本の消費者を対象に,2006年以降,今日に至るまで 5 時点間(2006年 9 月,2010年12月, 2011年 7 月,2012年 2 月,2019年 3 月)で測定したデータを用いて,①サステナブルな価値の下 位志向の概念の等価性および尺度の信頼性,②各志向に対する社会環境要因や個人差要因の影響 を統計的に分析した。その結果, 6 つの志向は東日本大震災後の2012年 2 月期の調査データを除 き,時点間で概念や尺度の等価性,弁別妥当性等を充足していることを確認した。一方で,2012 年 2 月期のみ,「エコロジー志向」「フェミニズム」「グローバルな経済成長志向」「経済的成功志 向」「精神性」の他,社会のために役に立ちたいという「社会貢献志向」が導出された。Lasso 回 帰分析の結果,これらの志向には,東日本大震災の被災経験,寄付やボランティア活動経験が影 響していることが明らかになった。しかも,このような東日本大震災の影響は震災直後(2011 年 7 月期)では見られず,2019年には元の価値構造に戻っていることも確認された。今後,さら に分析を深めて,これらの影響の特定化と価値構造の変容の特徴を解明したい。 <プロジェクト報告 B 8> □東アジアの消費者行動とマーケティング戦略研究部会 「観光地における住民態度に関する研究」
鎌田裕美(一橋大学),Monica Chien(The University of Queensland)
本研究は,観光地の住民の観光に対する態度について,知覚インパクトを通じて明らかにする ことを試みたものである。 住民の協力がなければ,観光振興は難しい。観光分野では,観光開発やイベントに対する住民 態度の研究蓄積がある。正負の知覚インパクトと態度の関係を表すモデルが多く,知覚ベネフィッ トが知覚コストを上回る(下回る)場合,住民は観光振興に協力的(否定的)であることが示されて いる。本研究では,正負の知覚インパクトと観光開発へのサポートの関係に,正負の知覚インパ クトに影響する変数として community commitment,回答者が観光客の場合に現地に受け入れても らえるかを聞いた resident xenophobia, economic dependence on tourism, community participation を設 定し,共分散構造分析を行った。調査対象の兵庫県豊岡市は2005年に 1 市 5 町が合併し,各地域
で観光の特色がある。また,2020-2030年度の「豊岡大交流ビジョン」では,観光を交流と捉え なおし,住民と観光客の交流を通じて魅力を高めることを目指している。本研究では,2019年12 月~ 2020年 1 月に豊岡市民にアンケート調査を実施してデータを取得し,上述のモデルにより 分析した。その結果,economic dependence on tourism, community commitment, community participation が正の知覚インパクトにプラスに影響し,resident xenophobia, community participation が負の知覚 インパクトに影響することがわかった。観光開発へのサポートに知覚インパクトが影響しており, 正の知覚インパクトが負の知覚インパクトを上回った。分析結果から,経済的便益を認識できる ようにし,コミュニティへの関わりを促すことで知覚インパクトができ,サポートにつながる可 能性が見られた。 今後は,豊岡市内の地域別の分析,インタビュー調査を通じたモデルの改良を試みる。最終的 に,自治体や DMO の政策に実務的示唆を与えることを目標とする。 <プロジェクト報告 B 9> □コンテンツ & キャラクター・マーケティング研究部会 「with コロナ時代のご当地キャラ活用価値− DX で可能なこと,困難なこと−」 野澤智行(法政大学大学院) ご当地キャラ・ゆるキャラは,2020年のコロナ渦でリアルイベントが軒並み中止されるなかで, ①ご当地キャラの接点として,SNS や動画配信への反応と影響力が増大 ②動画配信によるオンラインイベントへの課金は,未だにリアルイベントより抵抗が大 ③ SNS や動画配信により,ファンが地域外にも拡大 などの現象が起こっていると考えられる。そこで今回は,上記の 3 つの観測事実を仮説として, 2019年と2020年の個別キャラ Twitter 公式アカウント 6 - 9 月発信量&内容,および2020年 9 月 実施の「キャラクター定量調査」のデータを用いて,これらの仮説を検証した結果,以下の傾向 を明らかにした。 ① コロナ禍のイベント自粛・中止で全般にご当地キャラの Tweet 数が減少する一方,「いいね!」 などファンの反応は減っていない。自治体として求められる情報や,キャラ運営側のパーソナ リティをうかがわせる内容への反応が良好。 ② ご当地キャラによる動画配信のメリットは理解されているものの,従来のリアルイベントと比 べて課金への抵抗はコアファンでも大きい。 ③ 2013年-2020年の地元都道府県内外での「好意度」を使って,29キャラを「全国区」「準全国区」 「ローカルスター」「準ローカルスター」「人気限定」の 5 クラスターに分類したところ,いず れも接点因子の「LINE・動画サイト」,ファン意識・行動変容因子の「SNS・動画享受」は,地 域内外による有意差がみられなかった。 今回の分析で,Tweet 数が多いだけではファンの広がりや地域活性化への影響が期待できず, 量より質が重要なことが明らかになった。どんな Tweet で反応が高まるのか,テキストマイニン
□マーケティングの計算社会科学研究部会 「パンデミックとパニック購買─購買履歴,メディア接触と心理尺度の統合的分析」 中野 暁(㈱インテージ),赤松直樹(明治学院大学),水野 誠(明治大学) パニック購買とは,災害等の外生的なショックによるネガティブな感情や社会的影響によって 引き起こされる消費者行動である。この行動の研究は古典的な消費者行動理論が必ずしもあては まるわけではないがゆえに,消費者行動研究の一つのニッチな領域に置かれている。しかしなが ら,COVID-19のように長期的に災害の影響が続く現代の環境下では,この現象の理解を進める ことが災害時の人々の健康維持,政府の政策立案,小売業の安定供給等,様々な面で重要である。 本研究は COVID-19を実証事例として(1)時間軸の中でどのようにパニック購買が起きたのか (2)誰がパニック購買をしているのかを明らかにすることを目的としている。具体的にはパニッ ク購買の行動的及び心理的な理論背景を踏まえた上で潜在クラスモデルを用いた消費者セグメン テーションを行った。 本研究では日本の日用消費財市場において2020年 2 月から 4 月の間に政府の介入タイミングに 応じた 2 つの一時的な購入増加の波があることを示した。この購入増加に関連していた商品カテ ゴリについて,個人レベルでの買い増し程度を指標化し,セグメンテーションを行った結果, 5 つ の消費者群が特定された-強い不安を伴うパニック購買者,弱い不安を伴うパニック購買者,経 験豊富なショッパー,非買い増し者,合理的買い増し者。また,それらのセグメントに関係する デモグラフィックス,サイコグラフィックス,メディア利用行動の特徴を明らかにした。結果と して,不安を伴う買い増しを行うパニック購買者は, 2 つの買い増しの波のうち,第 1 波時に多 く買い増しをしている人であることがわかった。また,本研究で識別されたパニック購買者は約 22%程度であった。すなわち,必ずしも市場の大部分の人達がパニック購買をしているわけでは ない。したがって,この人達が過度に不安を感じて一時的に大量の商品を買い占めることがない ような施策を立案することが実務的には重要だと考えられる。 <プロジェクト報告 B11> □顧客データからの深い知見発見プロジェクト研究部会 「健康選択において価格プロモーション効果が生じる条件とその際の内的メカニズム」 赤松直樹(明治学院大学),中野 暁(㈱インテージ) 本研究では,健康に配慮した商品の選択(健康選択)において価格プロモーション効果が生じる 条件とその際の内的メカニズムについて分析した。商品特性(例:快楽/健康)を考慮したプロ モーション効果に関する既存研究では,快楽性の高い商品の選択(快楽選択)の方が,健康選択よ りも,顕著なプロモーション効果が示されている。そのため,快楽選択に着目した研究は活発に 行われており,プロモーション効果が生じる際の内的メカニズムについて共通のフレームワーク が指摘されている。簡潔に言えば,消費者は,快楽選択のプロモーションに接触することで,快 楽選択を行う「理由」を見出し,これによって快楽選択に対する罪悪感を減少させ,選好を高め る傾向が示されている。
一方,健康選択(実用選択)においても,価格プロモーション効果(値引効果)が確認されている。 しかしながら,上記した理由から,既存研究では快楽選択の比較対象として実用選択を位置づけ た分析が主であり,値引効果が生じる際の内的メカニズムについては十分に議論がなされていな いのが現状である。また,健康選択に対して消費者が罪悪感を抱くことは想定しにくいため,快 楽選択を想定した内的メカニズムでは説明が困難である。 本研究では, 2 つのシナリオ実験と購買パネルデータの分析から,健康目標に対する動機づけ が低い消費者(健康意識が低い消費者)の場合には,健康選択の値引が,当該選択を行う理由を明 確にし,このことが快楽選択に対する罪悪感を強調させ,結果として,健康選択の選好を高めて いる点を確認した。 JIMS インタラクティブセッション 【JIMS ベストポスター賞】 「Variety seeking な行動がプラットフォームサービスの継続利用に与える因果効果の理解」 打出紘基(慶應義塾大学大学院),星野崇宏(慶應義塾大学) 行動経済学やマーケティングの文脈で研究されてきた概念の一つに Variety-Seeking(VS)があ る。多様性を求める消費者の行動特性を指す(Kahn, 1995)。
本研究では近年利用が広まる Twitter, Instagram, TikTok 等のプラットフォームサービスにおけ るユーザーのデジタルコンテンツ消費意思決定に VS な行動が見られるのかを分析した。分析に 際しては,pixiv というイラスト SNS のデータを使用し,VS の度合いを表すためユーザーが閲覧 する作品のベクトル同士の距離を用いた。作品ベクトルは作品に対するユーザーの趣味嗜好を表 す。 VS がプラットフォームサービスの継続利用に与える効果は, 1 )作品閲覧数が増えるほど,閲 覧中の作品の属性に飽きを感じ,次閲覧する作品との距離が遠くなる効果, 2 )距離の遠い作品を 閲覧することで,飽きが刺激され,直後の離脱率が低くなる効果,の 2 つが挙げられる。それぞ れの効果について分析を行った結果, 1 )セッション終盤では,作品閲覧数の増加と次閲覧する作 品との距離の間に正の相関が見られ, 2 )推薦作品の中から次閲覧する作品を選択する場合, 4 作 品目以降は距離の遠い作品を閲覧するほど直後の離脱率が下がった。また,距離が離脱に与える 影響に 2 次関数を仮定したところ,距離が遠ければ遠いほど離脱率は下がった。 分析結果に基づき,低確率で VS を利用した距離の遠い作品を推薦する介入実験を行った。提 案手法は,閲覧中の作品との距離が離れた作品を推薦しつつ,ユーザーとの距離は近くなるよう に推薦作品の距離の離し方を制御する。介入実験の結果,提案手法は既存の距離が近い推薦と比 べ推薦作品クリック率が2. 0pt 上昇した。VS を考慮することはプラットフォームサービスを利用 するユーザーを理解する上で重要である事が実証された。
「在庫情報と IDPOS を用いた希少性効果の研究」 坂本浩明(慶應義塾大学大学院),星野崇宏(慶應義塾大学) 希少性とは商品の価値を規定する原点であり,入手困難性の知覚によって生じる。タイムセー ルや在庫切れなど,希少性には様々な形があり,人が希少なものを欲する傾向は希少性効果と呼 ばれている。本研究では,希少性の一つの形である,「小売店における商品の棚残数」に注目し, それが商品選択行動に与える効果の検証を行った。先行研究では,棚残数の希少性効果が PC 上 のバーチャル店舗などで実験的に検証され,棚残数が少ない方が商品選択確率が高くなることが 示されていた。しかし,棚残数を把握することの難しさなどから,実際の購買における棚残数の 効果の検証は未だ行われていない。 そこで本研究では,IDPOS データ,発注数(在庫)データ及び棚カメラ(棚を 1 時間おきに撮影 したカメラ)の写真を用いることで,購買機会毎の各商品の棚残数を計算し,実店舗での実際の 購買行動における棚残数による希少性効果を検証した。分析対象商品はブリック牛乳とし,分析 のモデルには条件付きロジットモデルと入れ子ロジットモデルを用いた。また,棚残数の共変量 である時間帯をダミー変数として考慮したモデルや,固定効果モデルでも分析を行った。 結果として,棚残数が少ない方が商品選択確率が高くなることが明らかになった。条件付きロ ジットモデルでは棚残数の係数は負で有意となった。つまり,棚残数は選択確率に負の影響を及 ぼすことがわかった。IIA 条件は不成立であったが,入れ子ロジットモデルで再度分析を行い, こちらも係数は負で有意となった。時間帯を考慮した分析でも同様に係数は負で有意となり,個 人の特定できるレコードに絞って分析した固定効果モデルでも,有意ではないものの係数は負に 推定された。この結果は,先行研究で実験的な環境で示されていた,「棚残数が少ないほど選択 確率が高くなる」という結果を実際に行われた購買行動へと拡張できるということを示してい る。 【JIMS 審査員特別賞】 「寄付行動に社会の目が与える影響:間接互恵性,陰徳の志向性, エシカル行動の包括的な規定要因を通じた検討」 水師 裕(筑波大学大学院) コロナ禍を背景として,経済的被害を被った人々への寄付手法としてクラウドファンディング が注目されている。クラウドファンディングでは,寄付者の名前が公表されることで寄付金額を 増額させる取り組みがみられるが,実際にその効果があるのかについてシナリオ実験を通じて検 討を行った。これを検討するにあたり,進化生物学における間接互恵性理論(Nowak & Sigmund, 2005),エシカル行動(倫理的行動)の包括的規定要因に関する先行研究(西尾・石田,2014),「善 行は隠れて行うべきである」と考える「陰徳の志向性」(cf. 大平,2019)の視点を導入した。分析 の結果,寄付者が名前を露出することにより,(1)寄付金額が増加する傾向がみられること,(2) 陰徳の志向性と有効性評価(当該寄付を通じた問題解決の有効性への主観的評価)から支払い意向 金額への正の影響が弱くなることなどが示された。