訪問看護の利用促進につながる因子 ~訪問看護の利用率が異なる2つの地域の一般住民の意識調査から~
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(2) 民族衛生 第 83 巻 第 1 号 2017 年 1 月. 3. ある)は,平成 15 年 69.0% 7),平成 22 年 78.0% 2). Ⅰ.緒言. と報告されている.また,和気ら 8)が行った高齢. 要介護認定者は平成 12 年には 218 万人であった 1). 者を対象とした調査では,在宅介護サービスの認. が,平成 25 年には 564 万人と増加している .平. 知が高い場合,その利用意向を高めることに関係. 成 22 年度の内閣府による介護保険制度に関する世. していると報告されている.徐々に訪問看護の認. 2). 論調査 では,在宅介護に関する意識について,. 知度は高まっているが,その利用人数は訪問介護. 自分自身が介護を受けたい場所は「現在の住まい. と比較すると少ない状況である.訪問看護や訪問. で介護を受けたい」が 37.3%と最も多く,家族の. 介護の利用に影響を及ぼす因子について,専門職. 場合も「現在の住まいで介護を受けさせたい」が. である保健師を対象にした鈴木ら 9)の調査では,. 38.6%と最も多い.そして「現在の住まいで介護. 在宅介護サービスの導入が困難な事例の場合,生. を受けたい」と答えた中で, 「家族と外部の介護. 活の変化に対する抵抗,親族の理解・協力の不足. サービスを利用したい」は 73.8%と報告されてい. が影響していると報告されている.また吉江ら 10). る.このような現状から,2013 年社会保障制度改. の保健師を対象とした調査でも,高齢者在宅介護. 革国民会議報告書 3)によれば,医療・介護分野の. の対応困難事例として介護意欲の低さ,他人が家. 改革について「病院完結型から地域完結型へ」 「医. に入ることへの抵抗感があると報告されている.. 療から介護へ」 「病院・施設から在宅へ」という 3. 更にチェら 11)の訪問介護と訪問看護を利用してい. つの方向性が示されている.この一端を担う訪問. る本人やその介護者を対象とした調査では,訪問. 看護は,自宅療養を希望されているがん末期,難. 看護の利用を促進する因子として,利用に対して. 病,認知症等の療養者や家族のセルフケアの維持. 抵抗感が少ない傾向であったと報告されている.. 向上,精神的支援等を通して,安心した在宅生活. これらの調査は専門職である保健師,利用中の人. を医療の面から支える専門職として期待される役. や介護者を対象とした調査であり,在宅介護サー. 割は大きいと考える.. ビスを利用したことがない住民の考えを聞いた調. このような役割を担っている訪問看護の利用者. 査は見当たらない.加えて在宅介護サービスでは. 数は,平成 12 年 20 万人,平成 23 年 31 万人と増. ないが,平井ら 12)の要介護認定を受けていない. 3). 加している .しかし在宅介護サービス(訪問介. 65 歳以上の人を対象にした調査では,自宅の近く. 護の利用者数平成 12 年 44 万人,平成 23 年 108 万. に介護予防に関連する施設がある方が,施設の利. 人)と比較すると利用数は少ない 4).その中で T. 用率が高いと報告されている.これらの文献 9∼12). 県は人口 10 万人あたりの訪問看護事業所数(全国. から在宅介護サービスを利用する背景には,認知. 平均 6.8 ヶ所)が 3.5 ヶ所と全国で最下位の事業所. 度のみならず介護に対する考え方,ライフスタイ. 5). 数 である.更に,訪問看護の利用が多いと推測. ル,更には地理的利便性も影響する可能性がある. される高齢者において,T 県の高齢者人口千人あ. と考えるが,これらの項目は主に専門職や現在の. たりの訪問看護利用者実数は 8.0 人で,全国で下. 利用者の調査のみに留まっている.しかし現在の. 位 5 番目である.訪問看護利用者実数が全国 1 位. 高齢化社会や多様な価値観を鑑みこれから先の将. の N 県は人口千人あたり 22.0 人であり,県毎に大. 来を考えると,専門職や現在の利用者だけでなく,. 6). きな差があると報告されている .このようにわ. これから介護を担う可能性が高い年代の方々の訪. が国は訪問看護利用者数に地域差があると考えら. 問看護に対する認知や利用に関する顕在化されて. れる.. いない意識を知ることが,これから先の訪問看護. 訪問看護の認知度に関する調査研究を見てみる. の利用を推進するための一助となると考える.. と,介護保険制度に関する世論調査が実施されて. そこで本研究では訪問看護の利用率が高い N 県. おり,その中で訪問看護の認知度(聞いたことが. と低い T 県において,まだ訪問看護の利用経験が.
(3) 民族衛生 第 83 巻 第 1 号 2017 年 1 月. 4. なく,これから介護を担う可能性が高い 40 歳∼. 名を調査の対象とした.. 59 歳の一般住民を対象に,訪問看護に関する意識. . の比較を通して訪問看護の利用促進につながる因. 4.調査項目. 子を見出すことを目的として調査を実施した.こ. 1)個人属性,介護サービスの認知について. の調査により,訪問看護の利用率の高い地域で生. 年齢,性別,職業また介護保険の対象となる. 活するこれらから介護を担う年代の方々の意識を. 介護サービスの認知状況は, 「知っている」 「知. 知ることで,将来に向けた訪問看護の適正な利用. らない」の 2 択とした.. 拡大に向けて具体的な認知行動や啓発活動への示. 2 )訪問看護に関する知識の認知について. 唆を得ることができると考える.. 「訪問看護という言葉は聞いたことがあるか」 は,有無の 2 択とした. 「聞いたことがある」と. Ⅱ.研究方法. 回答した方に対し,訪問看護に関する知識とし. 1.対象者. て利用条件,利用に関する具体的な手続き,訪. インターネットリサーチ会社(株:マクロミル). 問看護内容 等についての認知は, 「知ってい. の登録モニター(公募で登録された調査専用モニ. る」 「知らない」の 2 択とした.. ター,2014 年 1 月の時点で約 115 万人)から抽出. 3)将来,両親又は親族が介護状態になった時の. された,N 県と T 県に住む 40 歳∼ 59 歳の人で,. 意向について. 調査に同意が得られた 206 名を対象者とした.除. 対象者全員に,訪問看護に関する説明文(図 1). 外条件として①医療及び介護職に従事している人,. に目を通していただいた後に,訪問看護に関す. ②本人及び家族が訪問看護の利用経験がある人,. る回答を求めた.将来,両親又は親族が介護状. とした.. 態になった時の意向として,訪問看護の利用の 意向,施設入所の意向 等があるかは,有無の 2 択とした.. 2.調査期間 2014 年 1 月 29 日∼ 1 月 30 日に実施した.. 4)介護に関する考え,ライフスタイル,地理的 利便性について. 3.調査方法. 「自宅でできるかぎり介護したい」 「介護は家. 調査はインターネットリサーチ会社に委託して実. 族やきょうだいで分担したい」 「介護は長男夫婦. 施した.インターネットリサーチ会社は事前登録し. が担うのが当然である」 「入院や通院の病院まで. ている個人情報から,T 県と N 県に住む 40 歳∼. の距離がある」 「住居近くの訪問看護事業所を認. 59 歳の 8040 名から,医療及び介護職に従事して. 知している」等は, 「はい」 「いいえ」の 2 択と. いるもの,本人及び家族が訪問看護の利用経験が. した.. ある人を除外した 2276 名を抽出した.その対象者. . に順次 Web 画面上の調査票「訪問看護の意識に関. 5.データの解析. するアンケート」を電子メールに添付して配信し. T 県と N 県の訪問看護という言葉を聞いたこと. た.電子メール及びアンケートの冒頭に「医療・. があると回答した人を対象に,訪問看護に関する. 介護職の方,訪問看護の利用経験がある方は除外. 知識の認知状況について県別のクロス集計を行っ. となる」ことを明記し,対象者のみが回答するよ. た.次に,両親又は親族が介護状態になった時に. うに促した.対象者 200 名を調査の目安とし,. 訪問看護の利用意向ありと利用意向なしに分けた. 208 名の調査に同意が得られた時点で調査票の配. ものと,介護に対する考え,ライフスタイル,地. 信を終了とした.その内 2 名の自由記載欄に過去. 理的利便性とクロス集計を行った.検定はFisher s. の訪問看護の利用の記載があったため除外し,206. exact test を行い有意水準は両側 5%とした.これ.
(4) 民族衛生 第 83 巻 第 1 号 2017 年 1 月. 5. 以下の説明文をお読みになって,以下の質問にお答えください. 訪問看護とは以下のようなサービスとなります. ・看護師が自宅まで来てくれて受けるケアである. ・訪問看護の利用者は赤ちゃんからお年寄りまでの幅広い年齢層の人である. ・介護保険で要介護や要支援の認定を受けている人は,訪問看護サービスを利用できる. ・訪問看護の利用を開始する場合,ケアマネジャー,主治医,直接訪問看護ステーションにまず 相談する. ・病状や障害の健康管理を行う. ・療養生活に関する相談,認知症や終末期等の支援を行う. ・服薬管理(正しい服薬への支援,副作用への対応等)を行う. ・日常生活への援助(清拭,入浴,身だしなみ介助等)を行う. ・栄養管理(栄養状態の異常への対処や食事指導等)や排泄管理(排尿や排便の異常への対処等) を行う. ・医療処置管理(在宅酸素療法,インシュリン注射, 人工肛門,床ずれ等の管理方法や異常へ の対処方法等)の相談や支援を行う. ・障害の状況に合わせて,生活に即した家庭でできるリハビリテーションを行う. ・社会資源活用(車いすやベッドのレンタル,通所介護や訪問介護等への介護サービスの導入等) の相談や支援を行う. ・介護をしている家族の相談や支援(介護の困りごと,介護方法の指導,精神的支援等)を行う ・1 回の訪問毎に利用料金(介護保険の場合:1 割負担で 450 ∼ 1200 円位)が発生する. 以上を踏まえ,質問にお答えください.. 図 1 訪問看護に関する説明文. らの解析には SPSS 21.0 を使用した.. であった.家族形態は子供と核家族が 79 名,職業. . は会社員・役員が 69 名と最も多かった(表 1).. 6.倫理的配慮 本調査はインターネットリサーチ会社(株:マ. 2.介護サービスの認知状況. クロミル)に委託して調査を実施した.対象者へ. 介護保険の対象となる在宅サービスを認知して. の研究目的や調査方法の説明は Web 上で行い,イ. いる(複数回答)と答えた順で多かったのは,訪. ンターネットリサーチ会社の規定(対象者の個人. 問介護 130 名・通所介護 114 名・訪問入浴 101 名. 情報及び自由意志の保障,等)に基づいて実施し. であった.また,いずれも知らないと回答したも. た.調査の回答終了後に「送信」をクリックする. のは 61 名であった(表 2).これらの認知状況に. ことで研究協力の同意を得たものとみなした.研. T 県と N 県で有意差はなかった.. 究者は個人情報が解らないように加工したデータ をインターネットリサーチ会社から受け取った. 尚,本調査は国際医療福祉大学倫理審査の承認(承 認番号:13-Io-148)を得て実施した.. Ⅲ.結果. 3.訪問看護に関する知識の認知度 訪問看護という言葉を聞いたことがあると,191 名 (T 県 97 名,N 県 94 名)92.7%が答えていた.訪 問看護という言葉を聞いたことがあると回答した T 県 97 名,N 県 94 名に対し,訪問看護に関する知. 1.対象者の属性. 識の各項目について「知っている」 「知らない」の. 分析対象は 206 名で,T 県 103 名,N 県 103 名. 2 群に分け T 県と N 県の比較を行なった(表 3) ..
(5) 民族衛生 第 83 巻 第 1 号 2017 年 1 月. 6 表 1 対象者の概要. 性別 家族形態. T 県(n=103) n(%). N 県(n=103) n(%). 男性. 52(50.5). 52(50.5). 女性. 51(49.5). 51(49.5). 一人暮らし. 13(12.6). 5( 4.9). 夫婦二人暮らし. 13(12.6). 21(20.4). 自分と子供. 11(10.7). 7( 6.8). 子供と核家族. 36(35.0). 43(41.7). 両親と 2 世代同居 . 17(16.5). 10( 9.7). 子供や両親と 3 世代同居. 10( 9.7). 10( 9.7). 3( 2.9). 7( 6.8). 会社員・役員. 34(33.0). 35(34.0). 自営業. 15(14.6). 20(19.4). 公務員. 6( 5.8). 5( 4.9). 団体職員. 2( 1.9). 0( 0.0). パート,アルバイト. 16(15.5). 13(12.6). 専業主婦(主夫). 20(19.4). 21(20.4). 0( 0.0). 1( 1.0). 10( 9.7). 8( 7.8). その他 職業. その他 無職. 表 2 介護保険の対象となる主なサービスの認知 (複数回答) T 県(n=103). N 県(n=103). 訪問介護. 62. 68. 訪問入浴介護. 45. 56. 訪問看護. 43. 50. 訪問リハビリテーション. 23. 32. 夜間対応型訪問介護. 8. 10. 通所介護. 57. 57. 通所リハビリテーション. 47. 49. 短期入所生活介護. 33. 37. 福祉用具の購入補助・貸与. 33. 40. 住宅改修費の支給. 27. 27. 居宅介護支援. 12. 11. いずれも知らない. 30. 31 (単位 : 人).
(6) 民族衛生 第 83 巻 第 1 号 2017 年 1 月. 7. 表 3 T 県 N 県における訪問看護に関する知識の認知度との関係 ※訪問看護という言葉を聞いたことがある人のみ回答 T県 全体(n=97) n(%). N県 全体(n=94) n(%). p. 看護師が自宅へ来て受けるケア. 知っている 知らない. 85(87.6) 12(12.4). 86(91.5) 8( 8.5). 0.480. 新生児から高齢者まで利用できる. 知っている 知らない. 16(16.5) 81(83.5). 18(19.1) 76(80.9). 0.707. 介護保険の認定を受け利用できる. 知っている 知らない. 69(71.1) 28(28.9). 68(72.3) 26(27.7). 0.874. 利用開始の方法. 知っている 知らない. 52(53.6) 45(46.4). 65(69.1) 29(30.9). 0.037. 病状や障害の健康管理を行う. 知っている 知らない. 50(51.5) 47(48.5). 58(61.7) 36(38.3). 0.189. 認知症や終末期の支援を行う. 知っている 知らない. 43(44.3) 54(55.7). 44(46.8) 50(53.2). 0.772. 服薬管理を行う. 知っている 知らない. 32(33.0) 65(67.0). 41(43.6) 53(56.4). 0.139. 日常生活の援助を行う. 知っている 知らない. 60(61.9) 37(38.1). 57(60.6) 37(39.4). 0.883. 栄養管理や排泄管理を行う. 知っている 知らない. 48(49.5) 49(50.5). 53(56.4) 41(43.6). 0.385. 医療処置管理の支援を行う. 知っている 知らない. 29(29.9) 68(70.1). 42(44.7) 52(55.3). 0.037. 生活に則したリハビリテーションを行う. 知っている 知らない. 36(37.1) 61(62.9). 38(40.4) 56(59.6). 0.658. 社会資源活用の相談や支援を行う. 知っている 知らない. 31(32.0) 66(68.0). 38(40.4) 56(59.6). 0.232. 家族の相談や支援を行う. 知っている 知らない. 41(42.3) 56(57.7). 42(44.7) 52(55.3). 0.772. 利用料金. 知っている 知らない. 37(38.1) 60(61.9). 26(27.7) 68(72.3). 0.128. *. *. (*:p<0.05, **:p<0.01;Fisher s exact test). T 県と N 県共に 60%以上の割合で「知っている」. 知っている人が多く有意差があった.. 項目は「看護師が自宅に来て受けるケア」 「介護保. これらの訪問看護に関する知識の情報の入手先. 険の認定を受け利用できる」 「日常生活の援助を行. は, マ ス メ デ ィ ア 73 人(37.8%), 親 戚 36 人. う」の 3 項目であった.また T 県と N 県の訪問看. (18.7%) ,友人 30 人(15.5%)の順に多かった.. 護内容の認知度は「利用開始の方法」 「医療処置管. また,情報の入手先に T 県と N 県で有意差はな. 理の支援を行う」において,T 県に比べ N 県が. かった..
(7) 民族衛生 第 83 巻 第 1 号 2017 年 1 月. 8. 4.訪問看護に関する説明文を初見後の訪問看. 言葉を聞いたことがある」と回答した人の T 県と N 県の人数はほぼ差がなかったが,高齢者人口千. 護の利用意向 対象者全員(206 名)に対し,訪問看護に関す. 人あたりの訪問看護利用者実数は T 県 8.0 人,. る説明文に目を通した後に,訪問看護の利用意向. N 県 22.0 人と差がある 6).このことから訪問看護. に関して回答するよう求めた.将来,両親や親族. 利用者実数の差は,訪問看護という言葉を認知し. が介護状態になった時,訪問看護の利用意向あり. ている以外の様々な要因による影響があると推察. は 161 名(T 県 84 名,N 県 77 名)78.2%,利用. され詳細な分析が必要と考えた.そこで,訪問看. 意向なしは 45 名(T 県 19 名,N 県 26 名)21.8%. 護に関する知識の認知状況(表 3)を詳しく分析. であり,訪問看護の利用意向の有無に T 県と N 県. すると, 「看護師が自宅に来て受けるケア」 「介護. では有意差はなかった.. 保険の認定を受けて利用できること」 「日常生活へ. . の援助」と訪問看護に関する知識の概観は,T 県. 5.訪問看護に関する説明文に目を通した後,T 県. と N 県とも多くの人が認知している割合が高いも. N 県における訪問看護の利用意向と「介護に関. のの,その他の業務の詳細については認知の低さ. する考え」 「ライフスタイル」 「地理的利便性」. が伺えた.従って訪問看護に関する概観を認知し. との関係. ていることと,訪問看護利用実数の差とは関係が. 「介護に関する考え」 「ライフスタイル」 「地理的. 低い可能性が示唆された.. 利便性」の各項目について,将来両親や親族が介. 「利用開始の方法」についての認知を見てみる. 護状態になった時,訪問看護の利用意向あり群 T. と,訪問看護利用人数が多い N 県で認知している. 県 84 名,N 県 77 名,利用意向なし群 T 県 19 名,. 割合が高いことが推察された.訪問看護の利用開. N 県 26 名に分けて関係を見た(表 4).T 県は訪. 始の方法を認知していることは,在宅療養を開始. 問看護の利用意向の有無と「地理的利便性」の項. する時にそのサポートの 1 つとして「訪問看護」. 目である「入院できる病院までの公共交通機関が. が浮かび,利用を開始する手続き行動にスムーズ. 少ない」等の 4 項目においては,訪問看護を利用. に移れることで,利用に繋がっていると考える.. したい人は利用したくない人に比べ「はい」と回. また「医療処置管理の支援を行う」に関しても,. 答している人が多く有意差があった.N 県は訪問. N 県で認知している割合が高いことや,在宅での. 看護を利用したい人は「介護に関する考え」の項. 介護サービス自体に馴染みがあり「医療処置管理」. 目である「自宅でできる限り介護したい」と回答. への理解が高かったのではないかと推察された.. している人が有意に多かった.更に「ライフスタ. 医療処置管理の支援ができることを認知している. イル」の項目である「親の介護は長男や長男の嫁. ことは,自宅で療養中もしくは入院中に医療処置. が担うのが当然である」と回答している人は有意. が必要な状態になっても,地域でサポートするシ. に少なかった.. ステムが整っていることを認識できることであり,. Ⅳ.考察 1.訪問看護の認知状況. 訪問看護の導入に結びつきやすいと考える.訪問 看護を実際に利用した方々は「利用開始の方法」 「医療処置管理の支援を行う」を知る機会に恵まれ. 訪問看護の認知状況については, 「訪問看護」と. ると考えるが,今回の調査は N 県 T 県共に訪問看. いう言葉は 92.7%が知っていると回答しており,. 護の利用経験がない方々を対象にしている.それ. 平成 15 年 69.0% 7),平成 22 年 78.0% 2),と比較す. にも関わらずこのような差が見られるのは,N 県. ると,地域住民への認知度は高まっていると考え. が訪問看護に関する知識の一部である「利用開始. る.. の方法」 「医療処置管理の支援を行う」に関する認. 訪問看護の認知度については「訪問看護という. 知の啓発活動を,若い年代の人々に対しても積極.
(8) 地理的利便性. ライフスタイル. 介護に対する考え. 42(50.0) 42(50.0) 67(79.8) 17(20.2) 16(19.0) 68(81.0) 55(65.5) 29(34.5) 25(29.8) 59(70.2) 55(65.5) 29(34.5) 40(47.6) 44(52.4) 60(71.4) 24(28.6) 19(22.6) 65(77.4) 17(20.2) 67(79.8) 31(36.9) 53(63.1) 26(31.0) 58(69.0) 40(47.6) 44(52.4) 27(32.1) 57(67.9) 34(40.5) 50(59.5) 27(32.1) 57(67.9). はい いいえ はい いいえ はい いいえ はい いいえ はい いいえ はい いいえ はい いいえ はい いいえ はい いいえ はい いいえ はい いいえ はい いいえ はい いいえ はい いいえ はい いいえ はい いいえ. 自宅でできる限り介護したい. 家族やきょうだいで介護負担を分担したい. 家族以外の介護の手を借りることは後ろめたい. 介護費用を負担する経済的余裕がない. 訪問サービスで家に他人が入ることに抵抗がある. 自宅より施設で介護を受けてもらいたい. 困り事を家族以外の他人に頼ることができない. 日頃から親戚の付き合いは少ない. 親の介護は長男や長男の嫁が担うのが当然である. 親の介護は女性の役割である. 在宅で親の介護をしているという体験談を聞く. 入院できる病院まで車で 30 分以上かかる. 入院できる病院まで公共の交通機関が少ない. 通院できる病院まで車で 30 分以上かかる. 通院できる病院までの公共の交通機関が少ない. 住まいの近くに訪問看護ステーションがある. 利用したい n(%). 1 ( 5.3) 18 (94.7). 2 (10.5) 17 (89.5). 0( 0.0) 19(100.0). 2 (10.5) 17 (89.5). *. 8(30.8) 18(69.2). 10(38.5) 16(61.5). 5(19.2) 21(80.8). 11(42.3) 15(57.7). 8(30.8) 18(69.2). 9(34.6) 17(65.4). 4(15.4) 22(84.6). 9(34.6) 17(65.4). 19(73.1) 7(26.9). 16(61.5) 10(38.5). 18(69.2) 8(30.8). 12(46.2) 14(53.8). 18(69.2) 8(30.8). 4(15.4) 22(84.6). 18(69.2) 8(30.8). 7(26.9) 19(73.1). N県 利用したくない n(%). 0.251. 0.365. 0.224. 0.371. 0.812. 1.000. 0.775. 0.020 *. 0.800. 0.264. 0.356. 0.354. 0.620. 0.580. 0.149. 0.022 *. p. :p<0.01;Fisher s exact test). **. 35(45.5) 42(54.5). 39(50.6) 38(49.4). 25(32.5) 52(67.5). 41(53.2) 36(46.8). 27(35.1) 50(64.9). 28(36.4) 49(63.6). 16(20.8) 61(79.2). 10(13.0) 67(87.0). 58(75.3) 19(24.7). 37(48.1) 40(51.9). 44(57.1) 33(42.9). 27(35.1) 50(64.9). 57(74.0) 20(26.0). 17(22.1) 60(77.9). 65(84.4) 12(15.6). 42(54.5) 35(45.5). 利用したい n(%). ( :p<0.05,. 0.021 *. 0.016 *. 0.003 *. 0.004 *. 0.261. 0.284. 4 (21.1) 15 (78.9) 3 (15.8) 16 (84.2). 0.183. 0.767. 0.581. 1.000. 0.191. 0.178. 0.600. 0.531. 0.360. 0.204. p. 1 ( 5.3) 18 (94.7). 5 (26.3) 14 (73.7). 15 (78.9) 4 (21.1). 9 (47.4) 10 (52.6). 9 (47.4) 10 (52.6). 9 (47.4) 10 (52.6). 11 (57.9) 8 (42.1). 5 (26.3) 14 (73.7). 13 (68.4) 6 (31.6). 6 (31.6) 13 (68.4). T県 利用したくない n(%). 表 4 T 県 N 県における親や親族が介護状態になった時の訪問看護の利用意向と,介護に対する考え,ライフスタイル,地理的利便性との関係. ※訪問看護の説明文を読んだ後に回答. 民族衛生 第 83 巻 第 1 号 2017 年 1 月 9.
(9) 民族衛生 第 83 巻 第 1 号 2017 年 1 月. 10. 的に取り組んできたためではないかと推察される.. の間(表 4)には,訪問看護利用実数の多い N 県. N 県は 1980 年代から在宅ケアを推進してきた こ. で利用意向がある人は,自宅でできる限り介護し. とや,人口 10 万人当たりの就業保健師数が 69.5. たいと考えている人の割合が高かった.吉江ら 10). 人 14)と全国で 2 番目に多い地域であることから,. の調査においても,高齢者の在宅介護を困難にし. 在宅介護を始めとする訪問看護等への利用に関す. ている事例では,介護意欲の低さがあると報告さ. る周知や支援活動が多く行われ,日々の生活に在. れている.このことからも,介護に対する意欲は. 宅介護が溶け込み,訪問看護に関する知識の理解. 訪問看護の利用に繋がる因子であり,自宅での介. が深まったのではないかと考える.しかし,T 県. 護意欲の低さは利用を阻害する因子の 1 つと推察. と N 県で訪問看護に関する知識の情報入手先には. される.また,N 県は全国に先駆けて訪問介護サー. 有意差はなかったことを鑑みると,N 県では特別. ビスの導入 15)が行われた地域であることや,生活. な周知や支援活動と認識されておらず,訪問看護. に根ざした地域医療として,1980 年に病院に地域. の利用経験がない方々にも訪問看護に関する知識. ケア室をつくり在宅ケアを推進し,更に福祉との. が自然に認知されていったものと推察される.そ. 連携あるいは地域づくりを行ってきたと報告され. してこのような風土や文化が育まれたことが,訪. ていること 13)から,在宅介護を受け入れる価値観. 問看護の利用に結びついていった可能性が示唆さ. や文化が自然に育まれ,訪問看護の利用意向や新. れるが,これらに関しては今後も詳しく調査をす. たな介護サービスの導入に少なからず関係してい. る必要があると考える.. る可能性が推察された.. 以上のことから,訪問看護の概観のみを認知し. 次に訪問看護の利用意向と「ライフスタイル」. ているだけでは訪問看護の利用に関係していると. との間(表 4)には,訪問看護利用実数の多い. 13). は言い難く,本調査から訪問看護に関する知識の. N 県で利用意向がある人は,親の介護は長男や長. 「利用開始の方法」「医療処置管理の支援を行う」. 男の嫁が担うのが当然ではないと考えている人が. を認知していることが利用を促進する因子として. 多かった.つまり「親の介護は長男や長男の嫁が. 重要と推察された.そのため訪問看護の利用促進. 担うのが当然である」と認識していることは訪問. のためには,利用促進因子である「利用開始の方. 看護利用の阻害因子となっている可能性が示唆さ. 法」 「医療処置管理の支援を行う」を容易に認知で. れた.日本では長子相続制の伝統により,親の介. きるように,訪問看護ステーションだけでなく医. 護を長男の妻の役割とする文化的慣習が今も広く. 療保健福祉,行政機関,地域活動を巻き込みあら. 実践されていると報告 16)があり,地域によってこ. ゆる年代を対象にした啓発活動が求められると考. のような慣習は異なるとも報告 17)されている.そ. える.この啓発活動が進むことで,長い年月の先. して N 県は夫婦共働きの割合が高く 18),訪問介護. には地域全体の風土や文化が変化し,訪問看護の. サービスの長い歴史 15)や,地域医療の推進 13)が行. 適正な利用が広がると示唆された.. われていることから,親等の介護が必要な状態に. 2.将来,親や親族が介護状態になった時の訪問. なっても,長男夫婦以外の親族や介護サービスの 協力を得ていくという考え方が根付いている地域. 看護の利用意向 訪問看護に関する説明文に目を通した後,訪問. であることが推察された.これらのことから,訪. 看護の利用に関する回答を求めた.将来,親や親. 問看護の利用促進を考える場合,その地域の親の. 族が介護状態になった時の訪問看護利用意向につ. 介護を長男の妻の役割とする文化的慣習,在宅. いては T 県 N 県の割合にほぼ差がなかった.しか. サービスや地域医療の歴史等を鑑み,利用促進の. し,T 県と N 県の訪問看護利用者実数は大きな差. ための方策を多方面から検討することが重要であ. 6). があることが報告されている .. ると考える.. 訪問看護の利用意向と「介護に対する考え」と. 次に訪問看護の利用意向と「地理的利便性」と.
(10) 民族衛生 第 83 巻 第 1 号 2017 年 1 月. 11. の間(表 4)には,訪問看護利用実数の少ない. での基礎資料となると考える.. T 県で利用意向がある人は,入院や通院のための. 今後の課題として,より多くの一般住民を対象. 公共の交通機関の不便さや,車で 30 分以上かかり. に,訪問看護に対する意識やその利用につながる. 遠いと感じている人,住まいの近くに訪問看護ス. 原因に関する研究を行い,訪問看護の利用促進を. テーションがあると認知している人の割合が多. 図る方法を明らかにしていく必要がある.. かった.そのため,医療機関まで不便と感じてい. Ⅴ.結語. る T 県においては「地理的利便性」が訪問看護の 利用促進につながる 1 つの因子と推察された.こ. 本研究は 40 歳∼ 59 歳の一般住民を対象に,訪. れらのことから T 県においては訪問看護が,日頃. 問看護の利用率が高い N 県と低い T 県における訪. から不便に感じている医療の代替や在宅介護の支. 問看護に関する意識調査を踏まえ,訪問看護の利. 援となることをアピールすることで,訪問看護の. 用促進につながる因子を見出すことを目的に調査. 利用促進につながるのではないかと考える.しか. を実施し,以下のことが明らかとなった.. し,N 県は「地理的利便性」差がなかったので利. 「訪問看護」という言葉は 92.7%が認知してお. 用促進の本質的な因子ではないと推察される.. り,T 県と N 県では認知状況に差はなかった.訪. 以上のことから,訪問看護の利用を促進する因. 問看護に関する知識である「利用開始の方法」 「医. 子として「自宅でできる限り介護したい」という. 療処置管理の支援を行う」を認知している場合に,. 想いが重要であり,利用を阻害する因子として「親. 訪問看護の利用促進につながる可能性が高いこと. の介護は長男や長男の嫁が担うのが当然である」. が推察された.また,将来,親や親族が介護状態. という考え方が見出された.自宅で介護したいと. になった時の訪問看護利用意向については,T 県. いう気持ちと他人に手伝ってもらうという柔軟な. と N 県の割合にほぼ差がなかった.しかし, 「自. 考え方を持ち合わせることが訪問看護の利用に結. 宅でできる限り介護したい」という考えや「親の. びついていくことが示唆された.そのため,介護. 介護は長男や長男の嫁が担うのが当然である」と. 意欲を高める関わりや家族間の役割意識の変革が. 考えていない場合が,訪問看護の利用促進につな. 重要であると考える.そして,訪問看護の適正な. がる可能性が高いことが推察された.. 利用が広がることで専門職による支援が充実し,. . 療養者自身の健康の維持向上や介護者の負担の軽. 本研究を実施するにあたり,ご協力いただきま. 減につながり,社会全体の健康な姿に 1 歩近づく. したインターネットリサーチ会社のモニターの皆. と考える.. 様に深く感謝いたします.尚,本研究の一部は第 4 回国際医療福祉大学学会学術大会で発表した.. 3.研究の限界と今後の課題 本研究の限界として,調査対象者はインターネッ トリサーチ会社にモニター登録している特定の集 団であり,訪問看護を含む医療に対する知識レベ ルに偏りがあったり,情報リテラシーに長けた集 団であったりする可能性が考えられる.また一時 点の横断調査であるため,訪問看護の利用促進に つながる因子を言及するには限界がある.しかし, これまで十分に把握されていなかった一般住民の 訪問看護に対する意識やその利用につながる因子 が示唆され,今後,訪問看護の利用促進を図る上. 文 献 1)一般財団法人 厚生労働統計協会編集.2014/2015 国民衛生の動向.東京都.一般財団法人 厚生労 働統計協会.2014 年.第 61 巻第 9 号.265. 2)平成 22 年度介護保険制度に関する世論調査.厚生 労働省. http://survey.gov-online.go.jp/h22/h22-kaigohoken/ index.html(2015 年 11 月 6 日) 3)平成 25 年社会制度改革国民会議報告書.社会保障 制度改革国民会議 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokuminkaigi/ pdf/houkokusyo.pdf (2015 年 11 月 6 日).
(11) 12 4)平成 12 ∼ 23 年介護サービス施設事業所調査.厚 生労働省. http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/24-22-2c.html (2015 年 11 月 9 日) 5)平成23年介護サービス施設事業所調査.厚生労働省. http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/ service11/(2015 年 11 月 9 日) 6)平成 22 年度 介護給付費実態調査.人口動態調 査.平成 23 年度中医協資料 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001u o3f.../2r9852000001uo71.pdf (2015 年 10 月 16 日) 7)平成 15 年度高齢者介護に関する世論調査.厚生労 働省. http://sur vey.gov-online.go.jp/h15/h15-kourei/ index.html(2015 年 11 月 9 日) 8)和気純子,浅井正行,和気康太,他.介護保険制 度施行 5 年後の高齢者の介護サービス認知と利用 意向 全国調査(2005 年)のデータ分析を通し て. 厚生の指標,2007;第 54 巻 第 15 号:1 ∼ 7. 9)鈴木浩子,山中克夫,藤田佳男,他.介護サービ スの導入を困難にする問題とその関係性の検討. 日本公衆衛生誌,2012;第 59 巻第 3 号:139 ∼ 150. 10)吉江悟,高橋都,齋藤民,他. 同居家族が問題の 主体となる高齢者在宅介護の対応困難事例の現状 長野県 A 市の行政保健師へのインタビューから. 日本公衆衛生誌,2004;第 51 巻 第 7 号: 522 ∼. 民族衛生 第 83 巻 第 1 号 2017 年 1 月 529 11)チェジョンヒュン,村嶋幸代,堀井とよみ,他. 訪問看護とホームヘルプサービスの利用に影響を 及ぼす要因.日本公衆衛生誌,2002; 第 49 巻 第 9 号:948 ∼ 957 12)平井寛,近藤克則.高齢者の町施設利用の関連要因 分析 介護予防事業参加促進にむけた基礎的研究. 日本公衆衛生誌,2008;第 55 巻 第 1 号:37 ∼ 44. 13)長野大学産業社会学部編.信州の地域医療と福祉. 長野県.郷土出版社.1996 年.140-201 14)平成 26 年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概 要.厚生労働省. http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ eisei/14/(2016 年 5 月 21 日) 15)糸川嘉則総編集.看護・介護・福祉の百科事典第 2 版.東京都.朝倉書店,2009 年.366 16)山本則子.家族とジェンダー.家族看護学研究, 2001;第 6 巻 第 2 号:158 ∼ 163. 17)遠藤倫生.日本資本主義の地域構造 人類学的下 部構造からみた生産と消費.岡部光明研究会研究 報告書,2003;7 ∼ 9 18)平成 24 年就業構造基本調査.総務省統計局. http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/(2015 年 7 月 9 日) (受稿 2015.11.26;受理 2016.9.6).
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