• 検索結果がありません。

真正ラベンダー精油のストレス緩和効果 -歯科診療時のストレス緩和に向けて-

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "真正ラベンダー精油のストレス緩和効果 -歯科診療時のストレス緩和に向けて-"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

緒 言

 近年,アロマテラピーは補完・代替医療1)として注目 され,患者のリラックス効果に期待ができるといわれて いることから,様々な医療現場で活用されている.アロ マテラピーで期待できる効果として,抗不安作用,鎮静 作用の他に,医療従事者の緊張を和らげたり,医療従事 者と患者,家族間のコミュニケーションの促進を図るこ とも可能とされている1).医療現場において,特に歯科 診療室では歯の切削音や振動,歯科材料の独特な匂いな どが,患者の不安・不快を助長する要因になっていると いわれている2).そのため,本来歯科治療を受けるべき 人が治療に対して不安・緊張を抱えていることで,口腔 疾患が悪化するまで放置してしまうケースも考えられる. 患者の歯科治療に対する不安を軽減することを目的とし て,主に笑気吸入鎮静法や静脈内鎮静法などが用いられ る.しかし,これらを使用するにあたっては,高価な器 材や設備が必要となるうえに,これらの方法自体が患者 にとってストレスとなる場合も考えられる.また,禁忌 症があるため全ての人に適応できるとは限らない3).そ こで,一般の歯科診療において,手軽で簡便に患者のス トレスを緩和できる方法を提案できるよう,本学では 歯科におけるアロマテラピーの教育・研究を行ってき た4-6).手軽にどこの歯科診療室でも活用できるアロマテ ラピーを用いることで,患者の不安を軽減できれば歯科

真正ラベンダー精油のストレス緩和効果

-歯科診療時のストレス緩和に向けて-

Stress relieving effect of lavender (Lavandula angustifolia ssp.

angustifolia

) essential oil

– Medical aromatherapy for stress relief during dental treatment –

諸田 聖佳,筒井 紀子

1)

MOROTA Seika, TSUTSUI Noriko

1)

調査研究 内 容 要 旨  歯科診療時に発生する音や匂いなどが,患者の不安を助長する要因となっている.そこで,歯科 診療への応用に向けたアロマテラピーの研究として,真正ラベンダー精油の香りによるストレス緩 和効果を検討した.女性 16 名を対象とし,真正ラベンダー精油の香りを嗅ぐ群(ラベンダー群)と 無香の群(コントロール群)に分けた.ラベンダー群は,10 分間の前半安静(前半安静)開始から 10 分間の後半安静(後半安静)後まで 1,000 倍希釈した真正ラベンダー精油の芳香浴下で行った. 超音波スケーラーによる 2 分間のポケット洗浄をストレス負荷とし,調査前・前半安静後・ストレ ス負荷直後・後半安静後に唾液アミラーゼ活性,血圧,脈拍数などの生理的反応を測定した.調査 前後における対象者の気分・感情を POMS2 日本語短縮版(POMS2)で測定した.ラベンダー群は, 真正ラベンダー精油の香りに関する質問紙調査を行った.  ラベンダー群の生理的反応が有意に低下し,POMS2 の「怒り-敵意(AH)」,「疲労-無気力 (FI)」,「緊張-不安(TA)」の 3 項目で,有意に得点が減少した(p < 0.05).ラベンダー群全員が 真正ラベンダー精油の香りを肯定的にとらえていた.  真正ラベンダー精油の芳香成分と香りの嗜好性によって,対象者のストレスが緩和されたと考え られる.歯科診療において,真正ラベンダー精油の芳香浴を行うことは,患者のストレス緩和とし て有用ではないかと考えられた. キーワード アロマテラピー,真正ラベンダー精油,ストレス緩和   日本歯科大学新潟短期大学専攻科 歯科衛生学専攻   The Nippon Dental University College at Niigata,

Major of Dental Hygiene

1)日本歯科大学新潟短期大学 歯科衛生学科

  The Nippon Dental University College at Niigata, Department of Dental Hygiene

(2)

への受診に繋がり,歯科疾患の早期発見・早期治療に貢 献できるのではないかと考えられる.  そこで,本研究は歯科診療への応用に向けたアロマテ ラピーの研究として,鎮静効果があることで広く知られ ている真正ラベンダー精油(以下ラベンダー精油)を用 いて,香りによる歯科予防処置時のストレス緩和効果を 検討することとした.歯科診療で頻繁に使われる超音波 スケーラーの音や振動によるストレスが,ラベンダー精 油の香りによって緩和されるかどうか調査するため,ヒ トの血圧,脈拍などのバイタルサイン,唾液アミラーゼ 活性および心理検査などの客観的・主観的データから, ラベンダー精油のストレス緩和効果を明らかにすること を目的とした.

対象および方法

1.対象と倫理的配慮  研究対象者(以下対象者)は,日本歯科大学新潟短期 大学歯科衛生学科 2019 年度 1 年生 6 名,3 年生 2 名,専 攻科生 8 名(平均年齢 20.4 ± 1.43(SD),女性)の合計 16 名とした.対象者には,事前に研究の概要,趣旨を口 頭と書面で十分に説明を行い,同意を得た上で署名して もらった.なお,本研究は日本歯科大学新潟短期大学倫 理審査委員会による承認(承認番号 NDUC-81)を得て実 施した. 2.精油と器材  ラベンダー・アングスティフォリア(学名:Lavandu-la angustifolia ssp. angustifolia,ロット番号:BLAH133, フランス産,PRANARŌM 社)精油を用いた(表 1). 1,000 倍希釈のラベンダー精油は好まれやすい濃度7) あることから,本研究ではラベンダー精油を精製水(健 栄製薬株式会社,大阪)で 1,000 倍希釈し,ディフュー ザー(吉野石膏販売株式会社,東京)に入れて芳香を拡 散させて芳香浴を行った.また,ラベンダー精油を使用 する対象者との比較として,精油を使用しない無香の状 態で行う対象者をコントロール群とした. 3.生理的反応の測定 1)血圧と脈拍数  ストレスの変化による血圧の変動を調査するため,電 子血圧計(テルモ株式会社,東京)を用いて,対象者の 収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍数を測定した. 2)唾液アミラーゼ活性  唾液アミラーゼ活性は,血漿ノルエピネフリン濃度と 相関が高いことが知られており,ストレス評価における 交感神経の指標として利用されている8)ことから,唾液 アミラーゼモニター(ニプロ株式会社,大阪)を使用し た.測定は,説明書に記載されている方法に準じ,専用 のホルダー付きチップを使用した.チップのシート部分 を舌下部に入れて 30 秒間唾液を採取した後,本体内に セットして唾液アミラーゼ活性を測定した. 4.気分の変化に関する測定  POMS2 日本語短縮版成人用(以下,POMS2)を用い て,対象者の現在における気分,感情の状態を測定した. 本研究では,ヒトの気分の「怒り-敵意(AH)」,「混乱 -当惑(CB)」,「抑うつ-落ち込み(DD)」,「疲労-無 気力(FI)」,「緊張-不安(TA)」,「活気-活力(VA)」 の 6 尺度を用いて計 35 項目に回答してもらった. 5.ラベンダー精油の香りに関する調査  ラベンダー群を対象に,「香りについての調査」を調査 終了後に行った.調査内容は,ラベンダー精油の香りに 関する嗜好性とその理由,リラックスの有無などについ てである. 6.調査手順  対象者の群分けは,芳香浴としてラベンダー精油を使 用する「ラベンダー群」,無香の「コントロール群」の 2 群とし,無作為に分けた.試験室は 27℃に設定し,空 調で空気を対流させて精油の香りが均等に届くように配 慮した.対象者が着座する椅子と歯科ユニットをパー テーションで仕切り,椅子があるスペースを待合室と想 定した(図 1).コントロール群においては,試験室に 残ったラベンダー精油の香りが影響することが考えられ るため,コントロール群を先に実施するよう,調査の順 序に配慮した.ラベンダー群は,1,000 倍希釈した精油を ディフューザー本体内に入れ芳香拡散し,調査終了後ま で芳香拡散した状態で行った.調査開始前に,対象者の 血圧,脈拍,唾液アミラーゼ活性などの生理的反応およ び POMS2 を用いて対象者の気分尺度を測定した.対象 者のプリストレスを緩和するため,対象者には私語をし 表 1 使用したラベンダー精油の成分 (添付されていた成分分析表を一部抜粋) 成分 株式会社健草医学舎による成分分析表示 芳香成分類 芳香分子 割合(%) リナロール その他 4.57 36.34 酢酸リナリル その他 4.34 32.61 モノテルペンアルコール エステル モノテルペン炭化水素 3.08 5.08 Cis-β-オシメン その他 セスキテルペン炭化水素 βカリオフィレンその他 3.583.47

(3)

ないように開眼した状態で 10 分間安静座位を保つように した(以下,前半安静).前半安静終了後に生理的反応を 測定した.測定後,対象者は歯科ユニットへ移動し,水 平位の状態で超音波スケーラーによる全顎のポケット洗 浄を 2 分間行い,機器使用時に発生する音や振動をスト レス負荷とした.ストレス負荷直後,歯科ユニット上で 対象者の生理的反応を測定した後,対象者は待合室と想 定したスペースに戻り,椅子に着座した.着座後,対象 者は私語をしないように開眼した状態で 10 分間安静座位 を保つようにした(以下,後半安静).後半安静後,生理 的反応および気分尺度を測定した.調査終了後,ラベン ダー群についてはラベンダー精油の香りに関する質問紙 調査を行った(図 2). 7.データ分析  血圧,脈拍数,唾液アミラーゼ活性については,調査 前,前半安静後,ストレス負荷直後,後半安静後の数値 を比較するため,対象者における同一の経時的変化を, 対応のある一元配置分散分析を行い,被験者内因子の効 果が有意であった場合には Sidak 法による水準間の多重 比較検定を行った.コントロール群とラベンダー群の比 較は,2 群の分散の有意差の有無によって Welch の方法, もしくは Student の t 検定により母平均の差の検定を行っ た.POMS2 は,調査前と後半安静後の得点を比較する ため,同一群の調査前後の比較には Wilcoxon の符号付 順位和検定を用い,コントロール群とラベンダー群の比 較には Mann-Whitney の U 検定を用いて分析した.

結 果

 16 名の対象者における血圧,脈拍数,唾液アミラーゼ 活性および POMS2 の得点を比較分析した.  ラベンダー群の収縮期血圧は,調査前と比較して後半 安静後は有意に低下していた.また,ストレス負荷直後 は,コントロール群と比べて有意に高く,後半安静後は 有意に低下していた.一方,コントロール群は,ラベン ダー群と同様に調査前と比較して後半安静後は有意に低 下していた(図 3a).拡張期血圧では,ラベンダー群の 調査前と比較して前半安静後と後半安静後は有意に低下 していた(図 3b).脈拍数は,ラベンダー群とコントロー ル群ともに調査前と比較し,ストレス負荷直後は有意に 減少し(図 3c),ラベンダー群の後半安静後は有意に減 少していた(図 3c).唾液アミラーゼ活性については, 有意差が認められなかった(図 3d).  POMS2 では,ラベンダー群における AH,FI,TA の 得点が有意に減少した(図 4a,d,e).  調査終了後,ラベンダー群 8 名を対象に実施した「ラベ ンダー精油の香りに関する質問紙調査」については,対 象者全員が「とても好き」,「やや好き」と回答しており, 否定的な回答はみられなかった(図 5).また,香りにつ いての自由記述式の感想では,「リラックス」,「慣れた香 り」,「なじみのある香り」などのコメントがみられた(図 5).また,対象者の 87%(7 名)がリラックスして処置 を受けることができたと回答し,リラックスできなかった 者は 13%(1 名)であった(図 6).リラックスできた理 由としては,「ラベンダー精油の香りで眠くなっていた」, 「処置よりも香りに集中できた」,「歯科医院をイメージさ せる香りではなかった」などが挙がっていた.また,「リ ラックスできなかった」と回答していた者は,「緊張のた めにリラックスできなかった」と回答していた(図 6).

考 察

 歯科診療の環境を良好にし,患者が安心して歯科治療 に臨めるよう,我々は歯科医院の環境づくりの一提案と

*室温は27℃に設定 *空調で空気を対流させて精油の香りが届くように配慮 歯科用ユニット ディフューザー 超音波スケーラー 診療室を想定 待合室を想定 図 1 環境設定(待合室および診療室を想定) 芳香浴(ラベンダー精油) *コントロール群は芳香浴なし 前半安静 (10分間) 後半安静(10分間) 始 終 【ストレス負荷】 ポケット洗浄 (2分間) ※1 測 定: ① 血 圧 ② 脈拍数 ③ 唾液アミラーゼ活性 ※1 POMS2 ※1 ※1 ※1 POMS2 ※2 ※2 ラベンダー精油の香りに 関する質問紙調査 (ラベンダー群のみ) 図 2 調査手順

(4)

して本研究を行った.そこで,鎮静効果があるといわれ るラベンダー精油を用いて,ヒトの生理的反応,心理 的変化および香りの嗜好性の関係性を調査した.鎮静作 用があるラベンダー精油に多く含まれる芳香成分のリナ ロールは,交感神経と相反関係にある副交感神経を優位 にさせ,副腎髄質からのカテコールアミンの分泌を抑制 させることが報告されている9,10).今回に関しては,ラ ベンダー群の生理的反応が調査前と比較し,有意に低下 あるいは減少していたことから,ラベンダー精油に含ま れる芳香成分の作用によるものではないかと考えられる. さらに,ラベンダー群全員がラベンダー精油の香りを肯 定的にとらえていたことも影響したのではないかと考え られる.好きな香りの精油を用いた芳香浴によって,血 圧と脈拍数が有意に低下する11)といわれていることか ら,本研究においてはラベンダー精油に含まれる鎮静作 用のある芳香成分と香りの嗜好性による相乗効果があっ たのではないかと考えられる.しかし,ラベンダー群の ストレス負荷直後は,コントロール群と比較して収縮期 血圧が有意に高かった.これは,対象者の緊張によって 交感神経が優位に働いたと思われるが,その後のラベン ダー精油の芳香成分によって血管拡張や心拍出量の減少 が起こり,血圧の低下と脈拍数の減少につながったと考 えられる.歯科処置前の内容予告は,患者のストレスに 影響する12)といわれていることから,本研究の対象者 においてもその影響があったのではないかと思われる. 研究前に対象者へ本研究の趣旨について説明するにあた 0 2 4 6 8 10 12 14 16 ス d 唾液アミラーゼ活性 0 20 40 60 80 100 120 調査前 a 収縮期血圧 0 20 40 60 80 100 120 調査前 b 拡張期血圧 0 20 40 60 80 100 c 脈拍数 前半 ストレス 後半 安静後 負荷直後 安静後 前半 ストレス 後半 安静後 負荷直後 安静後 調査前 前半 ストレス 後半 安静後 負荷直後 安静後 調査前 前半 トレス 後半 安静後 負荷直後 安静後 * (mmHg) (回/分) (mmHg) (kIU/L) コントロール群 ラベンダー群 ** * * * * * * * ** p < 0.01 * p< 0.05 ・対象者の同一の経時的変化の比較には対応のある一元配置分散分析 (被験者内の因子の効果が有意であった場合にはSidak法による水準間の多重比較検定) ・コントロール群とラベンダー群比較には 2 群の分散の有意差の有無によって Welch の 方法もしくは Student の t 検定により母平均の差の検定を行った 図 3 対象者における生理的反応の変化 (a 収縮期血圧,b 拡張期血圧,c 脈拍数,d 唾液アミラーゼ活性)

(5)

り,ストレス負荷として超音波スケーラーを用いたポ ケット洗浄を行うことを説明している.処置内容の予告 が緊張の緩和に役立つか否かは,対象者の性格に影響さ れる12)といわれることから,本研究の対象者個々の性格 の違いによって,処置内容の予告で緊張が緩和された者 と,そうでない者がいたと考えられる.したがって,歯 科診療においてアロマテラピーを効果的に活用するには, 患者の性格などを含めたパーソナリティを把握したうえ で,患者個々に合わせた対応も重要であると考えられ る.また,対象者の性格の違いの他に,処置内容の経験 の有無が影響しているのではないかと考えられる.スト レスが生体にかかると自律神経の恒常性が乱れ,交感神 経が優位になり副腎髄質からカテコールアミンが分泌さ れる13).このカテコールアミンが血管や心臓に作用する ことで血管収縮や心拍出量の増加を招き血圧が上昇する といわれる.さらに,ラベンダー群を含めて対象者全員 が超音波スケーラーによるポケット洗浄の予防処置が未 経験であったことが,ストレスの要因となった14)と考え られる.しかし,コントロール群の収縮期血圧はラベン ダー群よりも低い傾向であり,対象者の性格や処置の未 経験が影響したとは断言できない.今回は対象者数が 16 名で 2 群 8 名ずつの少数であったことから,今後は対象 者数をさらに増やして検討したいと考えている.  コントロール群における収縮期血圧の後半安静後は, 図 4 対象者における心理的反応の変化(POMS2)

(a 怒り-敵意 (AH),b 混乱-当惑 (CB),c 抑うつ-落込み (DD),d 疲労-無気力 (FI),e 緊張-不安 (TA),f 活気-活力 (VA)) ひげの上端と下端は最大値と最小値を示す) コントロール群 ラベンダー群 * p< 0.05 0 5 ・Wilcoxon の符号付順位和検定(同一群の調査前後の比較) ・Mann – Whitney の U 検定(コントロール群とラベンダー群の比較) 10 15 20 25 調 査 前 調 査 後 a 怒り-敵意(AH) * 0 5 10 15 20 25 調 査 前 調 査 後 b 混乱-当惑(CB) 0 5 10 15 20 25 調 査 前 調 査 後 c 抑うつ-落ち込み(DD) 0 5 10 15 20 25 調 査 前 調 査 後 d 疲労-無気力(FI) * 0 5 10 15 20 25 調 査 前 調 査 後 e 緊張-不安(TA) * 0 5 10 15 20 25 調 査 前 調 査 後 f 活気-活力(VA)

(6)

調査前よりも有意に低く,脈拍数のストレス負荷直後は 調査前よりも有意に減少していた.ラベンダー精油によ る芳香浴がなかったにも関わらず,収縮期血圧の低下と 脈拍数の減少がみられたことについては,処置前後の待 ち時間の確保が関連しているのではないかと考えられる. 待ち時間の中で患者は受付から診察までの時間が一番苦 痛で,我慢できる待ち時間は歯科では 15 分以内が多いと いわれている15).本研究では,プリストレスを取り除く ために 10 分間の前半安静と後半安静の時間を設けたこと で,対象者のストレス緩和に有用であったのではないか と考えられる.患者の待ち時間におけるネガティブな感 情に対し,アロマテラピーの効果を利用した嗅覚へのア プローチ16)が行われており,外来では避けることが難し い患者の待ち時間を快適にすることで,患者サービスと 医療の質の向上に期待できると考えられる.本研究の結 果から,患者のストレス緩和として治療前後の待ち時間 は不要ではなく,むしろ必要な時間なのではないかと考 えられる.  唾液アミラーゼに関しては,ストレス負荷がかかる と交感神経が亢進し,分泌が増加すると報告されてい る17).特にストレス負荷中や負荷直後に顕著な増加がみ られ,ストレス負荷がなくなり,リラックス状態になる と減少するといわれている.しかし,今回の研究結果で は,コントロール群およびラベンダー群で有意差は認め られなかった.今後さらに検討したいと考えている.  POMS2 に関しては,ラベンダー群の AH,FI,TA で後半安静後,点数が有意に減少し,コントロール群で は有意差が認められなかった.これに関しても,ラベン ダー精油に含まれる芳香成分のリナロールの作用による ものではないかと考えられる.金子らの研究18)では,ラ ベンダー精油は鎮静系の精油のため,対象者の POMS 得点が有意に減少し歯科矯正時の歯痛緩和に対して有効 であると報告している.したがって,本研究の結果から も患者の歯科診療に対するストレス緩和として,ラベン ダー精油は大いに活用できるのではないかと考えられる. さらに,ラベンダー精油の他に覚醒系といわれるペパー ミント精油による歯痛緩和の有効性に関する報告18)や, 精油をブレンドすることで香りの嗜好の偏りが少なくな り,近年のアロマテラピーの研究では精油単品ではなく, 数種類をブレンドした研究が多い傾向である19-22).した がって,歯科診療の内容や患者の香りの嗜好性なども考 慮し,精油の特性を利用したブレンドで芳香浴を効果的 に行えるのではないかと考えられる.  本研究のラベンダー群全員が,ラベンダー精油の香り を肯定的にとらえており,香りに関して「なじみのある 香り」,「嗅いだことのある香り」,「慣れた香り」である と複数の回答がみられた.これについては,香りの単純 接触効果23)が影響しているのではないかと考えられる. 繰り返し刺激に接触すると,その刺激に好意的態度を形 成するようになる24)といわれており,嗅覚刺激において も単純接触効果があることが報告されている23).本研究 においても,ラベンダー精油の香りについて「過去に嗅 いだことがある香り」のキーワードがみられたことから, ラベンダー精油の香りに対する否定的なコメントが少な かったのではないかと考えられた.したがって,今後歯 科診療などの現場でアロマテラピーを応用するにあたり, とても好き 75 % やや好き 25 % やや嫌い,とても嫌い0 % ラベンダー精油の香りに対する嗜好性 ラベンダー精油の香りに対する感想(( )内は人数を表す) ・いい香りだった(1) ・リラックスできた(1) ・なじみのある香りだった(1) ・とても安心して眠くなった(1) ・昔から嗅いでいた香りだった(1) ・「柑橘系が良いな」と少し思った(1) ・慣れた香りだったため好感をもてた(1) ・今までラベンダーの香りを嗅ぐ機会がなかったが,今回嗅いで 好きになった(1) 図 5 ラベンダー群の香りに関する調査結果① できた 87% できなかった 13% リラックスできたあるいはリラックスできなかった理由 リラックスして処置を受けることができたか(ラベンダー群) (( )内は人数を表す) ・緊張した(1) ・いい香りだった(2) ・ラベンダーの香りで眠くなっていたため(1) ・香りがあるので処置よりも香りに集中することで恐怖心などが 和らいでいたから(1) ・歯科医院をイメージさせるにおい(ユージノールや薬)では なかったから(1) ・ラベンダーの香りを嗅いでいると眠くなる気がしたため, リラックスできたのかなと思った(1) ・鼻で呼吸している時に時々アロマの香りがしたから(1) 図 6 ラベンダー群の香りに関する調査結果②

(7)

患者の香りに対する嗜好性についても考慮し,精油を選 択することが望ましいと考えられる.また,ラベンダー 精油以外にも柑橘系の香りは男女問わず人気が高く,精 神を安定させ,気分を明るくする作用を持ち合わせてい る25).そのため,精油を選択する際には,好まれやすい 香りを選び,かつ各種精油に含まれる芳香成分の特性を 考慮した方法も利用できると思われる.以上のことから, アロマテラピーは患者に受け入れやすい歯科環境をつく る方法として大いに活用できると考える.ただし,日本 では精油が「雑貨」として市場に出回っているため,粗 悪な精油も売られていることから,成分の添加や除去な どを一切行っていない 100%天然の「品質が確かな精油」 を見極めることが重要である.したがって,アロマテラ ピーを行う際は,精油の安全性も考慮して精油の化学成 分がどのようなバランスで含まれているか,組成を提示 したケモタイプ(Chémo =ケミカル,化学的な)の精油 を使用することが望ましい4)  アロマテラピーの方法の 1 つである芳香浴は,患者への 応用だけでなく,医療従事者の心身の疲労緩和として活用 できる26)といわれている.医療現場においては,チーム で連携し,より良い医療を患者に提供することが求められ る.したがって,医療従事者のストレスマネジメント27) としてアロマテラピーを活用すれば,スタッフ間の良好な コミュニケーションづくりに繋がり,さらには患者と医療 従事者のラポール形成に寄与できるのではないかと考え られる.歯科医療においてアロマテラピーが導入されるこ とにより,患者と医療従事者双方にとって良い効果が期待 できる.今後も歯科診療への応用に向けたアロマテラピー の研究に取り組んでいきたいと考えている.

結 論

 歯科診療室を想定した環境において,ラベンダー精油 の香りによって対象者のストレスが緩和されたことが示 唆された.そのため,通常の歯科診療においても,患者 のストレス緩和を目的としたラベンダー精油の芳香浴は 活用できると考えられる.歯科医療従事者は,患者を第 一に考えたうえで,患者が安心して診療に臨めるように 待合室や診療室などの環境に配慮することが重要である. したがって,歯科診療の環境づくりの手段としてアロマ テラピーは大いに活用でき,さらに医療従事者のストレ スマネジメントとして利用することで,より良い医療を 患者へ提供できることに繋がるのではないかと考える.  本研究に対し開示すべき COI 関係にある企業などはな い. 文 献 1) 今西二郎:メディカル・アロマセラピー,日本補完代替医 療学会雑誌,1(2):53-61,2004. 2) 住吉智子,佐野富子,田邊義浩,野田 忠:小児の歯科恐 怖に関する研究~切削音と歯科恐怖との関係~,小児歯科学 雑誌,42(5):680-688,2004. 3) 山根源之,齋藤 力,覚道健治,窪 寛仁,坂下英明ほか: 最新歯科衛生士教本 顎・口腔粘膜疾患 口腔外科・歯科麻酔, 第 1 版,医歯薬出版,東京,194-197,2014. 4) 筒井紀子,宮崎晶子,佐藤治美,土田智子,原田志保ほか: 歯科衛生士教育におけるメディカルアロマセラピーの教育効 果,日本歯科衛生学会雑誌,6(2):25-41,2012. 5) 筒井紀子,五十嵐香織,福井佳代子,桑島治博,今井あ かね:クロモジ精油のストレス緩和効果(第 1 報)―歯科診 療時のストレス緩和に向けて―,日本歯科衛生学会雑誌,11 (2):73-84,2017. 6) 筒井紀子,佐藤律子,三富純子,宮崎晶子,佐藤治美ほか: 臨床実習中における歯科衛生士学生のアロマセラピーによる ストレス緩和の有用性,日本歯科衛生学会雑誌,12(2):62-74,2018. 7) 山西優一郎,小谷依子,久保浩子:暮らしのなかへの匂い と癒し,日本アロマセラピー学会誌,8:11-16,2009. 8) 中野敦行,山口昌樹:唾液アミラーゼによるストレスの評 価,バイオフィードバック研究,38(1):3-9,2011. 9) 新島 旭:アロマセラピーの生理学的基礎,日本アロマセ ラピー学会誌,6(1):13-21,2007. 10) 由留木裕子,鈴木俊明:ラベンダーの香りと神経機能に関 する文献研究,関西医療大学紀要,6:109-115,2012. 11) 井上セツ子:夜勤看護師に行う芳香療法のリラクゼーショ ン効果,日本アロマセラピー学会誌,15(1):7-11,2016. 12) 尾崎 卓:歯科処置直前の内容予告は患者のストレスに影 響する,口腔病学会雑誌,77(1):59-66,2010. 13) 岡田尚志郎,山口奈緒子:ストレスによる血中カテコール アミン遊離・分泌の中枢性調節,内分泌・糖尿病・代謝内科, 49(4):322-327,2019. 14) 韓 在都,毛利 亘:唾液アミラーゼ活性値から見た介護 実習のストレスに関する研究,共創福祉 13(2):9-15,2019. 15) 真鍋恭弘:臨床の現場から 待ち時間に対する患者意識調 査について,医報とやま,1368:8-10,2004. 16) 山口はる奈:精神外来における芳香浴法の効果 患者およ び家族に対するアンケート調査を用いて,日本精神科看護学 術集会誌,56(1):326-327,2013. 17) 萩野谷浩美,佐伯由香:ストレス評価における唾液αアミ ラーゼ活性の有用性,日本看護技術学会雑誌,10(3):19-28,2012. 18) 金子知生, 大塚麻衣,飯田順一郎:歯科矯正治療時の歯痛 緩和に対するアロマテラピーの有用性,アロマテラピー学雑 誌,17(1):31-38,2016.

19) Lee Jeong Hoon, Seo Eun Kyung, Shim Jae Soon, Chung Sung Pil: The effects of aroma massage and foot bath on psychophysiological response in stroke patients, Journal of Physical Therapy Science, 29(8): 1292-1296, 2017.

20) 吉武将司,猿渡裕子,荒牧真功,西本潤子,河野光伸:ア ロマセラピーが認知機能,睡眠状態へ及ぼす影響,金城大学 紀要,16:109-116,2016. 21) 松本紗知恵,多保田佐知子,佐藤涼子,黒田光代,光永  篤ほか:大腸内視鏡検査時のアロマテラピーの効果の検証, 関東消化器内視鏡技師会誌,22:7-9,2015. 22) 仲村夏美:病院での終末期がん患者に対してアロマトリー トメントの試み,aromatopia,24(6):60-64,2015. 23) 庄司 建,田口澄恵,寺嶋有史:香りの単純接触効果,日 本味と匂学会誌,12(3):279-282,2005.

(8)

Journal of Personality and Social Psychology Monograph Supplement, 9(2): 1-27, 1968. 25) 溝口 尚:芳香療法への誘い,日本歯科先端技術研究所学 会雑誌,12(3):145-147,2006. 26) 井上セツ子:夜勤看護師に行う芳香療法のリラクゼーショ ン効果,日本アロマセラピー学会誌,15(1):7-11,2016. 27) 山本加奈子,木村恵美子,柴田麻由子:看護師のストレス に対するリラクセーション技法を用いたセルフケアマネジメ ント,青森県立保健大学雑誌,16:1-11,2016. Corresponding author・指導者への連絡先 筒井紀子 TSUTSUI Noriko 日本歯科大学新潟短期大学歯科衛生学科 〒 951-8580 新潟県新潟市中央区浜浦町 1 - 8 TEL:025-211-8163 FAX:025-267-1510 E-Mail:[email protected]

参照

関連したドキュメント

LPガスはCO 2 排出量の少ない環境性能の優れた燃料であり、家庭用・工業用の

全国の緩和ケア病棟は200施設4000床に届こうとしており, がん診療連携拠点病院をはじめ多くの病院での

であり、 今日 までの日 本の 民族精神 の形 成におい て大

モービル SHC 624 、626 、824 、825 昭和シェル石油㈱ シェル ターボオイル GT. 表6

機器製品番号 A重油 3,4号機 電源車(緊急時対策所)100kVA 440V 2台 メーカー名称. 機器製品番号 A重油 3,4号機

(A)エクストラバージンオリーブ油:これは、特に加工前のオリーブの取扱い又は加工中及び

導入以前は、油の全交換・廃棄 が約3日に1度の頻度で行われてい ましたが、導入以降は、約3カ月に

機器製品番号 A重油 3,4号機 電源車(緊急時対策所)100kVA 440V 2台 メーカー名称. 機器製品番号 A重油 3,4号機