オクルーザルアプライアンスの形態により
睡眠時ブラキシズムが大幅に低減した一例
─急傾斜の犬歯誘導付与─
1)北海道大学病院高次口腔医療センター顎関節治療部門, 2)北海道大学大学院歯学研究院冠橋義歯補綴学教室三上紗季
1),山口泰彦
2),斎藤未來
2)A case of sleep bruxism whose bursts were significantly reduced depending on the morphology
of the occlusal appliance: Applying steep canine guidance
1)Department of Temporomandibular Disorders, Center for Advanced Oral Medicine, Hokkaido University Hospital, 2)Department of Crown and Bridge Prosthodontics, Graduate School of Dental Medicine, Hokkaido University
Saki Mikami 1), Taihiko Yamaguchi 2)and Miku Saito 2)
和文抄録:側方運動を抑制する急傾斜の犬歯誘導を付与したオクルーザルアプライアンス(側方抑制スプリント)で治療した 重度の睡眠時ブラキシズム(SB)症例について報告した.患者は,20 歳代女性で,歯ぎしり音を主訴に本院を受診した.SB の臨床診断のもと,当初一般的なスタビリゼーションアプライアンスを用いて治療を行ったが,睡眠時筋電図検査による SB 評価では全く SB 波形数の低減が認められなかった.それに対し,側方抑制スプリントを適用したところ,大幅な SB 波形数の 低減を示した.側方抑制スプリントの長期間の使用によっても,歯や歯周組織,顎関節,筋などに異常は認められず,良好な 経過が得られた.本症例の治療経験から,オクルーザルアプライアンスの形態によっては SB が大幅に低減する場合があり得 ることが示された.ただし,側方抑制スプリントがすべての SB 症例に奏効する保証は今のところなく,睡眠時筋電図検査を 用いた客観的な効果判定を行い,使用継続の適否の判断を的確に行うとともに,歯や歯周組織などに関する慎重な定期観察が 必要と考えられた. キ−ワード:睡眠時ブラキシズム,オクルーザルアプライアンス,犬歯誘導,睡眠時筋電図検査
Abstract:A case of severe sleep bruxism (SB) treated with an occlusal appliance which restrains lateral movement by steep canine guidance is reported. The patient was a female in her 20 years who visited our hospital with a chief complaint of grinding sound of the teeth. Based on the clinical diagnosis of SB, treatment was initially performed using a stabilization appliance with a general form. However, no reduction in the number of SB waveforms was observed in the SB assessment by electromyography during sleep. On the other hand, when an appliance with restrained lateral motion by steep canine guidance was applied, the number of SB waveforms was significantly reduced. Even after long-term use of the appliance, there were no symptoms in teeth, periodontal tissue, temporomandibular joint, masticatory muscles, etc., and a good treat-ment course was obtained. From the treattreat-ment experience of this case, it is suggested that SB can be significantly reduced depending on the morphology of the occlusal appliance. Currently, however, there is no evidence that this form of appliance will be effective in all SB cases. Objective assessment of the effect using sleep electromyography needs to be performed in order to accurately determine the appropriateness of continuation of use. It is also considered necessary to carefully and regularly follow up on the condition of teeth, periodontal tissue, temporomandibular joint and masticatory muscles.
Key words:sleep bruxism, occlusal appliance, canine guidance, electromyography during sleep
症例報告
c. 咬合診査:Overbite 1.5 mm,overjet 2 mm, 咬合接触部位(図 4). d. 画像検査(パノラマ X 線写真)(図 5):歯槽骨 は右下大臼歯部に軽度の骨吸収はみられるが, 強い垂直性の骨吸収がみられる部位はなし.下 顎頭の骨変形は認められない. 6.診断 1) 診断名:睡眠時ブラキシズム (sleep bruxism; SB). 2) 診断根拠:米国睡眠学会の睡眠障害国際分類によ る SB の診断基準4)は,以下の A~C の条件を満 たすものである. A.患者が睡眠中の歯の摩擦音や歯の食いしばり を訴える.またはその自覚がある. B.以下のうち,1 つ以上が認められる. ⅰ)歯の異常な咬耗 . ⅱ)朝,起床時に,下顎の筋肉の不快感,疲労, 疼痛や開口障害が認められる. ⅲ)意図的に歯を食いしばると咀嚼筋が膨れる. C.下顎筋の活動が,現在知られている他の睡眠 障害,身体疾患や神経疾患,薬物使用,または 物質使用障害では説明できない. Ⅰ.はじめに オクルーザルアプライアンス治療は,現在,睡眠時ブ ラキシズム(SB)に対する最も標準的な治療法とされる. その作用として,歯や顎関節などの組織保護については 異論のないところであるが,SB 活動の長期的減少効果 を支持するエビデンスは不十分とする意見は多い1).一 方, SB の形態や顎位によってはオクルーザルアプライ アンスの SB 抑制効果が示された報告2, 3)も一部みられ る.そのため,SB に対するオクルーザルアプライアン スの効果については,まだ未解明の部分が多く,さまざ まなデータの蓄積が必要な状況と考えられる.今回,著 者らは重度の SB 患者に対し,オクルーザルアプライア ンスの形態を通常のスムーズな側方運動が行える犬歯誘 導斜面から,側方運動を抑制する急傾斜(約 70 度)の 犬歯誘導斜面に変更したところ,SB の筋活動が大幅に 低減した症例を経験したので報告する. Ⅱ.症例 1.患者:20 歳代,女性. 2.主訴:歯ぎしり音が気になる. 3.現病歴 12 歳頃から家族に歯ぎしりを指摘されていたが,5 年前から歯ぎしりがひどくなっていると指摘を受け た.1 年前,他の歯科医院を受診し,軟性のオクルー ザルアプライアンスを作製し夜間使用していたが,半 年程度で破損して使用ができなくなったため,自意に て当院を受診した. 4.既往歴 1)医科的既往歴:特記事項なし. 2)歯科的既往歴:歯列矯正(10~14 歳). 5.現症 1)全身所見:特記事項なし. 2)局所所見 (1)顔貌所見:特記事項なし. (2)顎口腔所見(図 1):口腔内は,矯正治療によ り上顎両側第一小臼歯は欠損であった.咬耗は, 上下顎両側中切歯を除くすべての歯に認められた (図 2).特に上下顎両側大臼歯で顕著であり,咬 合面が平坦な状態であった. a. 歯周基本検査(図 3):歯周ポケットはすべて 3 mm 以内.動揺なし. b. 顎関節部の診査:自力無痛開口量 48 mm.関 節雑音なし.開閉口路の偏位なし.両側顎関節, 両側咬筋,両側側頭筋の圧痛なし. 図2 初診時の咬耗状態 咬耗 E E D1 D1 D1 E D1 D1 D1 D1 E E 歯種 8 7 6 5 4 3 2 1 1 2 3 4 5 6 7 8 咬耗 E D1 E E D1 E E D1 E E D1 E 図2. 初診時の咬耗状態 E : エナメル質欠損 D1 : 象牙質露出1/3以下 D2 : 象牙質露出1/3以上 E : エナメル質欠損, D1: 象牙質露出1/3以下, D2: 象牙質露出1/3以上 図3 初診時歯周基本検査 動揺度 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 歯周ポケット 3 3 3 3 2 2 2 2 2 3 3 3 2 3 歯種 8 7 6 5 4 3 2 1 1 2 3 4 5 6 7 8 歯周ポケット 3 3 2 2 2 2 3 3 3 3 3 3 3 3 動揺度 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 図3. 初診時歯周基本検査 図1 初診時口腔内写真
図
1. 初診時口腔内写真
本症例では,家族からの歯ぎしり音の指摘,臼歯部の 咬耗状態,起床時の顎のだるさを認め,上記の SB の臨 床診断基準を満たすため,SB と診断した. 7.治療計画 歯周基本治療,プラークコントロールを行い,SB に よる歯,顎関節への負担の軽減を目的にオクルーザルア プライアンスを製作する.アプライアンス製作後は,歯 周病や歯の破折,顎関節症など SB と関連する症状の発 現や咬合の変化等に注意しながら経過観察を行う予定と した. 8.治療方法およびその経過 初診 1 か月後,側方運動がスムーズに行える標準的な 犬歯誘導を付与した上顎スタビリゼーションアプライア ンス(以下,通常スプリント)を製作した(図 6).使 用後,起床時の顎のだるさが軽減した.使用を継続する と通常スプリントの犬歯誘導部に咬耗がみられた(図7). 初診 2 年 2 か月後,自宅で,通常スプリント装着時と 非装着時の睡眠時筋電図検査を行った.筋電計は,コー ドレスブラキシズム計測システム BMS-601(原田電子工 業株式会社製)を用い,睡眠判定には,マイクロミニ型 アクティグラフ(A・M・I 社製)を用いた.測定部位は右 側咬筋とし,事前に患者自身で設定を行えるよう使用方 法の説明をした.解析は,睡眠時の筋活動波形の中で, 睡眠前に行った最大随意咬みしめ波形の最大振幅に対す る比率(% MVC)が 20 % MVC 以上で,波形持続時間 が 0.25 秒以上の波形を抽出し,睡眠 1 時間あたりの波形 数を算出した.解析の結果,睡眠時の筋活動波形数は,通 常スプリント非装着時では 127.7 回 /h(図 8),通常スプ リント装着時では 119.4 回 /h(図 9)であった.筋電図波 形をみると,一連の反復性の筋収縮である律動性咀嚼筋 図6 通常スプリント装着時の口腔内写真
図
6. 通常スプリント装着時の口腔内写真
図
6. 通常スプリント装着時の口腔内写真
図 7 通常スプリントの犬歯誘導図
7. 通常スプリントの犬歯誘導
図
7. 通常スプリントの犬歯誘導
図4 初診時の咬合接触部位 8 7 6 5 6 7 8 7 6 5 4 5 6 7 ◆ 咬合接触部位 図4. 初診時の咬合接触部位 7 6 5 6 5 4 3 5 6 3 4 5 6 ◆ 偏心運動時のガイド 右側方運動 前方運動 左側方運動 3 1 4 1 2 図5 初診時パノラマX線写真 図5. 初診時パノラマX線写真活動(Rhythmic masticatory muscle activity; RMMA) が認められ,一連の筋活動が長時間継続するものが多く, 長いものでは 100 回以上連続する筋活動が認められた. これは通常スプリント装着時,非装着時にも同様に認め られた(図 8, 9).通常スプリント装着により,SB の筋 活動には大きな変化はないと判断したが,歯,顎関節の 組織保護の目的のために通常スプリント使用の継続を指 示した. その後も,3 か月ごとの定期的な診察で,通常スプリ ントの調整,経過観察を行った.起床時の顎のだるさ, 咀嚼筋の圧痛がみられることもあったが軽度であった. 歯周ポケットの深化や動揺,咬合変化などはみられな かった.徐々に通常スプリントの咬耗が全体に進行し, 通常スプリントの厚さは使用開始時に臼歯部で 1.5 mm であったが,初診 2 年 11 か月後には 0.5 mm となり,破 損の可能性が高くなったため,オクルーザルアプライア ンスを新製することとした.その際,筋電図検査で,一 度始まると長時間継続する RMMA が認められたことを ふまえ,アプライアンスで側方運動を抑制して,SB の 発現を減らすことができないかと考え,急傾斜の犬歯誘 導を付与した形態に変更することとした. 初診 3 年 6 か月後,側方運動を抑制する急傾斜(約 70 度)の犬歯誘導を付与したオクルーザルアプライアンス (以下,側方抑制スプリント)を新製した(図 10).最初 は下顎犬歯の圧迫感が認められたが,その後消失し,起 床時の下顎犬歯の痛みはなく,診察時の打診痛や動揺も 認められず,継続的な使用が可能であった.3 か月ごと の診察を行ったが,側方抑制スプリントの咬耗はごく僅 かで,下顎犬歯の動揺や打診痛はなく,咬合変化もみら れなかった.起床時の顎のだるさ,咀嚼筋の圧痛がみら れることもあったが軽度であった. 初診 5 年 1 か月後,自宅で側方抑制スプリント装着時 と非装着時の睡眠時筋電図検査を行った.筋電計は, BMS-601 を用い,睡眠判定には東芝体動計 NEM-T1(パ ラマテック社製)を用いた.測定部位,解析条件は前回 の測定時と同様とした.解析の結果,睡眠 1 時間あたり 図 8 通常スプリント非装着時の筋電図波形 8 30min6:31 睡 眠 22:21 10sec 最大咬みしめ 通常スプリント非装着時 筋活動波形数(20%MVC以上) : 127.7回/h 図8. 通常スプリント非装着時の筋電図波形 3sec 図 9 通常スプリント装着時の筋電図波形 9 30min6:10 睡 眠 22:23 最大咬みしめ 10sec 通常スプリント装着時 筋活動波形数(20%MVC以上) : 119.4回/h 図9. 通常スプリント装着時の筋電図波形 3sec
の 20 % MVC 以上の筋活動波形数は,側方抑制スプリ ント非装着時では 137.8 回 /h(図 11),側方抑制スプリ ント装着時では 51.4 回 /h(図 12)であった.筋電図波 形をみると,側方抑制スプリント非装着時には,前回の 測定時と同様の長時間継続する RMMA 波形が認められ たが(図 11),側方抑制スプリント装着時には RMMA 図 10 側方抑制スプリント
図
10. 側方抑制スプリント
図
図
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10. 側方抑制スプリント
10. 側方抑制スプリント
10. 側方抑制スプリント
図 11 側方抑制スプリント非装着時の筋電図波形 11 6:05 睡 眠 23:02 30min 最大咬みしめ 10sec 図11. 側方抑制スプリント非装着時の筋電図波形 側方抑制スプリント非装着時 筋活動波形数(20%MVC以上) : 137.8回/h 3sec 11 6:05 睡 眠 23:02 30min 最大咬みしめ 10sec 図11. 側方抑制スプリント非装着時の筋電図波形 側方抑制スプリント非装着時 筋活動波形数(20%MVC以上) : 137.8回/h 3sec 図 12 側方抑制スプリント装着時の筋電図波形 12 睡 眠 最大咬みしめ 30min 筋活動波形数(20%MVC以上) : 51.4回/h 23:00 6:19 側方抑制スプリント装着時 図12. 側方抑制スプリント装着時の筋電図波形 3sec 10sec 12 睡 眠 最大咬みしめ 30min 筋活動波形数(20%MVC以上) : 51.4回/h 23:00 6:19 側方抑制スプリント装着時 図12. 側方抑制スプリント装着時の筋電図波形 3sec 10sec 12 睡 眠 最大咬みしめ 30min 筋活動波形数(20%MVC以上) : 51.4回/h 23:00 6:19 側方抑制スプリント装着時 図12. 側方抑制スプリント装着時の筋電図波形 3sec 10sec波形はみられるものの,その連続性は減少していた(図 12). その後も 3 か月ごとの定期的な経過観察を行ったが, 側方抑制スプリントの使用による影響と考えられる下顎 犬歯の異常や傾斜,移動等の変化は認められず,顎関節 症状の悪化もなかった(図 13).側方抑制スプリントの 咬耗は少なく,使用後 5 年以上破損もなかったが,初診 10 年 8 か月後に犬歯誘導部が破損したため,同様の形 態で側方抑制スプリントを新製した.その後も歯周病の 悪化など下顎犬歯の異常はなく(図 14),現在も側方抑 制スプリントの使用を継続している. 9.治療結果 重度の SB 患者に対して,通常スプリントを製作した が,筋電図検査にて,通常スプリント装着時の睡眠時の 筋活動の回数は非装着時と変化はみられなかった.側方 抑制スプリントに変更したところ,側方抑制スプリント 装着時の筋活動の回数は大幅に低減した.側方抑制スプ リントの継続的な使用の影響と考えらえる症状は発現せ ず,長期的な使用が可能であった. なお,本症例は,夜間ブラキシズムに関する臨床研究 (2005 年度北海道大学大学院歯学研究科・歯学部倫理委 員会承認)の 1 症例であり,患者の同意を得ている. Ⅲ.考察 われわれの過去の研究5)で,ブラキサー 9 名と非ブ ラキサー 9 名の睡眠時の筋活動の回数を比較した研究で は,今回と同じ解析条件での睡眠 1 時間あたりの筋活動 波形数の平均値は,ブラキサー群で 42.1±40.1 回 /h,非 ブラキサー群で 6.7±6.1 回 /h であった.本症例は,ア プライアンス非装着の条件で 127.7 回 /h,137.8 回 /h で あり,ブラキサー群の平均値を大きく上回る筋活動が認 められる重度の SB 患者であった. オクルーザルアプライアンスによる SB への抑制効果 については,一時的な低減は認められるものの,長期的 な使用により,再び SB は元に戻るという過去の報告6) など,抑制効果に否定的な報告がある一方で,間欠的使 用など使用法の違い7)や形態(咬合接触)の違い3),顎 位の違い2)により,低減効果がみられたとする報告も ある.そのため,オクルーザルアプライアンスによる SB への抑制効果については,一概に否定するものでは なく,検討の余地があるものと考えられる. 本症例では,当初通常スプリントを製作し,使用して もらったが,筋活動の回数は非装着時と変化はみられな かった.本症例の筋電図波形をみると RMMA が多く, しかも,一旦始まると長時間繰り返し持続する所見がみ られた(図 8, 9).RMMA は,SB に最も典型的な筋電 図筋活動波形で,いわゆる歯ぎしり(グラインディング) 運動を行っているときにみられる場合が多いとされる. そのため,RMMA 時のグラインディングを持続的に行 うことを何らかの方法で阻害できれば,結果的に SB の 発現回数を減らすことができるのではないかと考えた. そこで,一般的にスタビリゼーションアプライアンスに 付与されるようなスムーズな側方運動が行える犬歯誘導 斜面よりも,斜面をより急傾斜(約 70 度)の斜面とす ることで,側方運動を抑制することとした.その結果, 過去の研究の正常者の平均(6.7±6.1 回 /h)5)まではい かなかったものの,大幅な SB 発現数の低減がみられた. 記録した筋電図波形を観察すると,通常スプリントと側 方抑制スプリントの波形を比較すると,側方抑制スプリ ントでは RMMA が始まっても,通常スプリントほどは 長く繰り返さない所見がみられた.この所見からは,急 傾斜犬歯誘導による側方運動抑制は,SB の発現機序そ のものよりも,発現後の持続性に対する抑制効果をもつ のではないかと推察された. オクルーザルアプライアンスの側方ガイドについて は,日本補綴歯科学会の顎関節症・歯ぎしりに対する口 腔内装置(スプリント)の指針8)では,「前方運動や側 方運動で干渉のないスムーズな運動ができるように調整 図 13 側方抑制スプリント使用 2 年 1 か月後の口腔内写真 図 14 初診 12 年 11 か月後の歯周基本検査 動揺度 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 歯周ポケット 3 3 3 3 2 2 2 2 2 2 2 3 3 3 歯種 8 7 6 5 4 3 2 1 1 2 3 4 5 6 7 8 歯周ポケット 3 3 3 2 3 3 2 2 2 2 2 2 3 3 動揺度 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 図14. 初診12年11か月後の歯周基本検査
顎犬歯の咬頭頂を誤った顎位に規制しないよう注意す る.」と記載があり,新編顎関節症改訂版9)では,「スムー ズな運動を妨げないように作製する」と記載されており, われわれも通常 40~50 度の傾斜の犬歯誘導斜面で製作 し,スムーズに側方運動ができるように調整を行ってい る.それに対して,今回の側方抑制スプリントは,犬歯 誘導が約 70 度で,かつ被蓋を深くして,側方運動を抑 制するように製作した. 豊田10)は,グラインディング運動の許容度が SB 活性 に影響を与えるという仮説を検証するために,上下固定 アプライアンスをグラインディング運動を阻害する目的 で用い,上下分離型で側方運動が可動性のタイプのアプ ライアンスや通常の上顎型スタビリゼーションアプライ アンスと比較する研究を行った.その結果,上下固定ア プライアンスで有意に SB 発現数の低下が認められてい る.ただし,この研究では,他の 2 種類のタイプのアプ ライアンスでも有意に減少効果を認め,装置の種類間の 効果の差はみられなかったため,今回の本症例でみられ た通常スプリントと側方抑制スプリント間の効果の差異 を説明できるものではない.そのほか,グループファン クションと犬歯誘導のアプライアンスの比較を行った論 文11),臼歯ガイドと犬歯誘導のアプライアンスの比較 を行った論文12)があるが,何れも犬歯誘導のアプライ アンスと他の側方咬合誘導方式で同等の効果が得られて おり,犬歯誘導アプライアンスの SB 抑制効果が特に高 いことは実証されていない. オクルーザルアプライアンス全般において,SB の低 減効果については,長期使用での統計的に有意な筋活動 の低減は証明されていない.しかし,症例別にみると, アプライアンス装着時に歯ぎしり筋活動の低減を示す例 がないわけではなく13),すべての症例に効果がないと は言い切れるわけではない14).そのため,患者のアプ ライアンスへの反応の個人差を否定できるものではない と考えられる.本症例の側方抑制スプリントについても 他の形態には反応しないが,特に側方抑制スプリントに は反応するという個人差の存在があったのかもしれな い.今回の症例では低減効果があったが,これをすべて の症例に当てはめることはできない可能性は高い.その ため,使用にあたっては睡眠時筋電図検査による効果の 的確な判定に基づき使用の継続を判断するべきである し,さらに側方抑制スプリントを用いることによるデメ リットの可能性,具体的には,アプライアンスを装着し ても SB が減少しないのであれば,犬歯誘導を急にする ことで,犬歯部への負荷が増え,同部の歯周組織への影 響や,傾斜,移動などが生じる可能性があることを十分 に説明したうえで同意を得て使用するべきと考える. 起床時の筋症状や顎関節症状,咬耗などの臨床所見が用 いられてきた.しかし,歯ぎしり音のないブラキシズム の存在,歯ぎしり音を指摘する同室者がいない場合があ ること,咬耗は過去のすり減りの集積であることなどか ら,臨床所見での SB 評価の正診率は低いとされる15, 16). オクルーザルアプライアンスにより SB が低減したかど うかについても,SB が変わらず持続したとしてもアプ ライアンスの介在により歯ぎしり音は解消する場合が多 いため,音の変化から真の SB の変動を把握するのは難 しい.また,アプライアンス咬合面の咬耗状態から SB の状態を判断する方法も考えられるが,アプライアンス がない状態との比較はできない.そのため,筋電図によ る検査が有用であると考えられている17). 今回の症例で,もし SB の筋活動が側方抑制スプリン トによっても低減しない結果が得られた場合には,その あともアプライアンス治療を継続して行うときのアプラ イアンスの目的は SB 抑制ではなく,組織保護となる. その場合は,SB 時の咬合力を歯列全体に分散させ組織 保護を図る方針となり,急傾斜のガイドよりも,むしろ 傾斜を緩くしてグループファンクションやバランスドオ クルージョンとしたほうが有利と考えられる.このよう に実際の効果に即して治療方針の再検討を行うために も,筋電図検査を用いた客観的定量的なデータは有用で あると考えられた. 前述のように,オクルーザルアプライアンスへの反応 には個人差があり,また,今回の症例のようにアプライ アンスの形態で効果に差が出る例もあることが示された ことから,筋電図検査による評価に基づいた個々の患者 の状態に合わせたテーラーメイドのアプライアンス適用 の判断,アプライアンスの種類の選択の判断が,今後ま すます重要になるものと考えられた. 一般的にアプライアンス使用継続中では経過観察は必 須とされている.特に今回のような側方抑制スプリント では,前述のように犬歯誘導を急にすることで,犬歯部 への負荷が増える可能性はあるため,特に注意深く,慎 重に経過を観察するべきである.本症例でも,当然なが らスプリント使用後も定期的な経過観察を注意深く行っ た.その結果,犬歯部には問題は起こっておらず,経過 は良好であった.今後は,歯周組織等の定期観察を続け るとともに,現在の睡眠時筋活動の状態の把握を筋電図 検査で引き続き確認していく予定である. Ⅳ.まとめ 通常スプリントでは全く SB 波形数が低減しなかった 重度の歯ぎしり患者に対し,側方抑制スプリントを適用
したところ,大幅な SB 波形数の低減が示された.側方 抑制スプリントの長期間の使用によっても,歯や歯周組 織,顎関節,筋などに異常は認められず,良好な経過が 得られた.ただし,この形態のオクルーザルアプライア ンスがすべての SB 症例に奏効する保証は今のところな く,睡眠時筋電図検査を用いた客観的な効果判定を行い, 使用継続の適否の判断を的確に行うとともに,歯や歯周 組織などに関する慎重な定期観察が必要と考えられた. Ⅴ.文献
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