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1. 部会について
「北海道湿地コンソーシアム(Hokkaido Wetland Consortium)」は,北海道における湿地の主流化のための 湿地の分野横断的研究と,湿地の保全再生,持続的利用および CEPA 活動に関わる協働取り組みを推進する ことを目的に発足した.メンバーは道内の主要な湿地関連ネットワークであるウェットランドセミナー,釧 路国際ウェットランドセンター,北海道ラムサールネットワーク,石狩川流域 湿地・水辺・海岸ネットワー ク,北海道外来カエル対策ネットワーク,北海道環境財団の代表者または担当者で構成されている. 構成員(学会員):牛山克巳(宮島沼水鳥・湿地センター,部会代表),山田浩之(北海道大学),吉田 磨(酪 農学園大学),矢部和夫(札幌市立大学),櫻井善文(株式会社ドーコン),菊地義勝(釧路国際ウェットラ ンドセンター) 構成員(非学会員):鈴木 玲(石狩川流域 湿地・水辺・海岸ネットワーク代表),小西 敢(北海道ラムサー ルネットワーク代表),更科美帆(北海道外来カエル対策ネットワーク),内山 到(北海道環境財団)
2. 2020 年度の活動
2.1 「北海道湿地フォーラム~シッチスイッチ~」の開催
北海道における湿地の主流化をテーマとした標記フォーラムを 2020 年 10 月 24 日と 25 日に札幌市民交流 プラザにて開催した.新型コロナウイルス感染症対策のため大幅に入場者を制限せざるを得なかったものの, 延べ 110 名を超える参加があり,YouTube によるオンライン配信では一か月で 1,100 再生を超えた.要旨集 などは特設サイト(https://www.hokkaidoramsarnetwork.com/hokkaido-wetland-forum)にアーカイブしている. ・エクスカーション 篠路福移湿原と夕張川の幌向再生地を訪問した.篠路福移湿原は札幌市内に残る最後のボッグで,市内唯 一のカラカネイトトンボの生息地として知られるが,原野商法の対象となり,熱心な市民活動にも関わらず, 今では不法に大規模な埋め立てが行われている.夕張川では,北海道開発局の河川事業として高水敷の泥炭 採掘跡地でボッグの再生が行われており,市民との協働取組を目指している.対照的なふたつの湿原を訪問 し,参加者にアンケート調査を行った. ・サイエンスセッション 「湿地の自然と生きもの」と「湿地と人・社会」をそれぞれテーマとしたサイエンスセッション A と B, 「湿地のミライ」をテーマとした総合サイエンスセッションを行い,最後に「シッチスイッチ宣言」を採択 した.2020 年度部会報告(北海道湿地コンソーシアム)
牛山克巳
日本湿地学会北海道湿地コンソーシアム部会長/宮島沼水鳥・湿地センター 牛山克巳 mwwc@dune.ocn.ne.jp湿地研究Wetland Research Vol.11, 93-96(2021)
94 牛山克巳 サイエンスセッション A「湿地の自然と生きもの」 北海道の湿地の過去・現在・未来 冨士田裕子(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園) 道内湖沼の環境保全 三上英敏(北海道立総合研究機構エネルギー・環境・地質研究所) 海洋沿岸域湿地の生物多様性と生態系サービス 仲岡雅裕(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター 厚岸臨海実験所) 湿地に生息する昆虫たちとその保全 大原昌宏(北海道大学総合博物館) サイエンスセッション B「湿地と人・社会」 生物多様性と災害,そして感染症の先に見えるもの 中村太士(北海道大学大学院農学研究院) 漁業と環境~農業と漁業から始まった流域連携~ 新谷哲也(網走川流域の会) SDGs と北海道の湿地 金子正美(酪農学園大学環境共生学類) スイッチはどこ? 吉中厚裕(酪農学園大学環境共生学類) 総合サイエンスセッション「湿地のミライ」 鼎談 島谷幸宏(九州大学大学院工学研究院),冨士田裕子,中村太士 グラフィックレコーディング 宇都幸那(北海道大学) シッチスイッチ宣言(2020 年 10 月 25 日採択) 1. 湿原,湖沼,河川,海岸,浅海域などの「湿地」は,長い歳月をかけて形成された独特な生態系であり, 多様な生きものを育むだけでなく,北海道特有の景観をつくり,農業や漁業,観光やレクリエーション,防 災と減災,教育と文化,気候の調整から日々の生活用水の供給まで,広く道民の暮らしと経済を支えています. 2. 様々なめぐみをもたらしてくれる湿地ですが,北海道ではこれまで広大な面積の湿地が失われてしまい ました.そして,今も残された湿地の消失と劣化が進行しています.かつて北海道に満ちていた生きものの にぎわいは消え,私たちの生活と生産活動を支える「湿地のめぐみ」にも影響が及んでいます. Fig. 1 サイエンスセッションの様子.
95 3. 湿地の未来は,北海道に暮らす私たちの未来,そして地球の未来です.湿地の減少と劣化というトレン ドから,社会全体として湿地を守り育み,そのめぐみを将来に渡って享受できるように SWITCH(転換)す ること,「シッチスイッチ」が必要です. 4. 湿地はつながっています.湿地は,山から海までさまざまな環境と水を通じてつながり,生きものを通 じて湿地同士つながっています.多様なめぐみを通じて,湿地は多くの人とつながっています.シッチスイッ チは,さまざまな境界を越えて,湿地をとりまく地域全体,そして北海道全体で取り組む課題です. 5. 湿地の価値と魅力,現状と課題については,まだまだ多くの人に伝わっていません.これらを適切に把握し, 効果的に伝えることが,まず重要です.そして,多くの賛同者のもとで,共通のビジョンを持ち,北海道に おける湿地の主流化を進めることが肝要です.シッチスイッチは,北海道の自然,暮らし,産業を守ります. 私たちはシッチスイッチすることを宣言します. ・エンターテインメントセッション エンターテインメントを通じて湿地の魅力と価値を広く市民に届けるため,小橋亜樹さん(クリエイティ ブオフィスキュー),アップダウン(吉本興行)らとともに,歌やコントを交えた舞台を行った.この中で, 北海道放送による「今日ドキッ!トークライブ こちら HBC 報道部」の公開収録も行った. ・ポスターセッション 湿地における調査研究活動だけでなく,市民団体,企業,行政などによる湿地の保全や再生,教育や普及 啓発,観光や商品開発の取り組みなど,様々な活動や取り組みの発表の場となるオンラインのポスターセッ ションを行った.以下の調査研究活動の発表については「日本湿地学会北海道湿地コンソーシアム部会研究 発表」と位置付け,その業績を認定した. 1:人工水域は農地景観において湿地性植物の多様性に寄与するのか? 豊島楽子(北大農学院)・森本淳子 (北大農学研究院)・中村太士(北大農学研究院) 2:釧路湿原ハンノキ林拡大の要因の解明 堀岡和晃(株式会社ドーコン) 3:【第 2 報】徳富南湿原の概要 齋藤 央(新篠津ツルコケモモを守る会),水島未記・表 渓太(北海道博 物館),首藤光太郎(北海道大学総合博物館),小川貴由樹・森 紘隆(北海道大学農学院林産製造学研究室) 4:魚類遠隔モニタリングシステムの開発 山中登生(北海道大学院農学院)・山田浩之(北海道大学大学院 農学研究院) 5:幌向湿原におけるボッグ再生実現のための湿原の水環境観測研究 岡野臣泰,吉田 磨,松永 龍,福 角百華,宮川航輝,水野歌乃(酪農学園大学環境共生学類),山田浩之(北海道大学大学院農学研究院),矢 部和夫(札幌市立大学デザイン学部) 6:宮島沼のマガン 45 年の記録 牛山克巳(宮島沼水鳥・湿地センター) 7:大沼での協働における協議会の役割 吉田浩平(大沼ラムサール協議会) 8:ドローン画像を用いた機械学習によるマガンの自動カウント 野村隼平・小川健太(酪農学園大学)・牛 山克巳(宮島沼水鳥・湿地センター) 9:宮島沼における研究および今後の展望について 嶋内智久・佐々木蒼太・片岡大基・竹田美流・永沢圭吾・ 坂尾知洋・藤田美由貴・狩野愛惠・木内拓海・中谷暢丈(酪農学園大学・農食環境学群) 10:雁・白鳥の中継地およびタンチョウ繁殖地としての千歳川遊水地 佐藤ひろみ(日本鳥学会) 11:外来種アズマヒキガエルの効率的な捕獲とは?石狩市での取り組み 更科美帆(リンクアス)・髙橋惠 美(石狩市環境保全課) 2020 年度部会報告(北海道湿地コンソーシアム)
96 ・エキシビション 北海道開発局,石狩川流域 湿地・水辺・海岸ネットワーク,北海道ラムサールネットワークなどによるパ ネルや生態展示等の展示会を行った.