198 コミュニ ケ ーシ ョン 障 害 学 Vol. 24 No. 3 2007. 12. コ ミュ ニケ ー シ ョン 障 害 学 24, 198-202 (2007)
■教 育講演1
アル ツハ イ マ ー病 の正 しい理 解 と脳 活 性 化 リハ ビ リテ ー シ ョ ン:
言語聴覚士の新たな活動領域を創ろう*
山 口 晴 保 **
Correct Understanding of the Alzheimer's Disease and Brain Activating Rehabilitation for Developing New Field of Speech Therapists*
Haruyasu YAMAGUCHI** アル ツハ イマ ー病 の病 態 解 明が進 み, βタ ンパ クと タウ タ ンパ クの異 常蓄 積 を防 ぐ方法, す なわ ち根 本 的治 療薬 の 開発 が進 め られて い る. また, 脳 の可塑 性 や廃 用の研 究 が進 み, 認 知 症 に な って も早 期 で あれば脳 活性 化 リハ ビ リテ ーシ ョン (リハ) が望 まれ る. 脳活 性化 リ ハの 原則 は, (1)快刺激 が笑顔 を生 み意欲 を高 め る, (2)褒め るこ とがや る気 を生 む, (3)会話 が 安心 を生 む, (4)役割 を演 じる ことが生 きがい を生 む, で あ る. 認知機 能 その もの を高 め よ う とす るので な く,「認 知症 が あ って も前 向 きに楽 しく生活 で きる こと」 を 目標 に して い る. 認知 症 に なって も, 笑 顔 に対 して微 笑 み返 す能 力 は最 後 まで保 たれて い る. 患者 の脳 はセ ラ ピス トの脳 に出会 う ことに よって 変化 (進化) す る. 同 時 にセ ラ ピス トの脳 も患者 の脳 との 出会 い で進 化す る. コ ミュニ ケ ー シ ョン障 害の プ ロで あ る言 語聴 覚士 にこ そ, 認知症 の脳 活 性 化 リハ に参 入 して頂 きた い.
Key Words: Alzheimer's disease, dementia, rehabilitation, reminiscence therapy, communication 1. 序 論 認知 症 (痴呆), 特 に アル ツハ イマ ー病 (アル ツハ イ マ ー型 認知 症) に代 表 され る変 性型 の認 知症 は, 原 因不 明で発 症 を防 ぐ手 だてや 治療 法 は ない と長年 考 え られ て きた. しか し, アル ツハ イ マー病 の病態 はか な り解 明 され, 治 療法 の 開発 が進 んで い る. アル ツハ イマ ー病 で は, 脳 血管性 病変 や廃 用 ・食事 な どの ラ イフ スタ イルが 発症 や進 行 に影響 を与 え る ことが わか り, 予防 に光 が 見 えて きた. よ って, 認知 症 と診断 され た ら治療 はな い とい う時 代 か ら, リハ ビ リテ ーシ ョン (リハ) が求 め ら れ る時代 に な りつ つ あ る. 本 稿 で は, 認 知症 の過 半 数 を 占め るアル ツハ イマ ー 病 の病態 理 解 を礎 に して, 認知機 能 が低 下 して不安 や 困難 に苛 まれ てい る方 に求 め られ る脳活 性 化 リハ (山 口, 佐土 根, 松沼, ほか, 2005) を概説 す る. 2. ア ル ツ ハ イ マ ー 病 の 理 解 1906年, ドイツの 医師 Alzheimer が, 51歳 で発症 し, 著 しい記憶 障 害 な ど を示 す症例 を学会 報告 した. この 症例 の脳 を調 べ る と, 老 人斑 と神 経原 線維 変 化 とい う 病 変 が顕 微 鏡 で見つ かっ た. それ か ら100年, 老人 斑 は, 神 経組 織 に βア ミロ イ ドといわ れ る βタ ンパ クの塊 が 異 常 に溜 まっ た もの と判 明 した.「 βタ ンパ ク前 駆体 」 とい うア ミノ酸 が700個 く らいつ なが った大 きな タ ン パ クが, 細胞 膜貫 通部 付近 でBACEと γセク レ ターゼ *本 稿 は 第33回 日 本 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 障 害 学 会 学 術 講 演 会 (2007年6月23日, 横 浜) に お け る 教 育 講 演1の 要 旨 で あ る. **群 馬 大 学 医 学 部 保 健 学 科 (〒371-8514 群 馬 県 前 橋 市 昭 和 町3-39-15). Gunma Univeristy, School of Health Sciences (3-39-15 Showa-machi, Maebashi, Gunma, 371-8514, Japan)
山 口: ア ル ツ ハ イ マ ー病 の 正 しい 理 解 と脳 活 性 化 リハ ビ リテ ー シ ョン 199 とい う2つ の酵素 によ って2カ 所切 断 され ると, 40ア ミノ酸程 度 の小 さな断 片で ある β タンパ クが産 生 され る. この βタ ンパ クは, 誰 の脳 で も毎 日産生 され て い る が, 通 常 は産生 を分 解 力 が上回 るの で, 蓄 積 しない. と ころが, 40歳 を過 ぎる と分 解 が産 生 を下 回 り, 余剰 の βタ ンパ クが老人 斑 と して蓄積 し始 め る. ただ し, 誰 で も40歳 か ら溜 ま り始 め るわ けで は な く, 蓄積 し始 め る 年齢 には個 人差 が大 きい. 40歳 代 で は5%く らい, 50 歳代 で は15%, 60歳 代 で は30%と 加 齢 とと もに増 え, 90歳 代 で は90%と, 高齢 になれ ば誰 の脳 に も老人 斑 が 出 て く るよ うにな る (Braak, Braak, Bohl, 1996). 蓄積 開 始年 齢 の大 きな個 人 差 に最 も大 きな影響 を与 え るの はア ポ リポ タンパ クE (ApoE) 遺伝 子 多型 で あ る (玉 岡, 2007). 血 液 の 中で コ レステ ロール 運搬 役 のApoE には遺伝 子 多型 (い くつ かの タイプ) が あ り, 多 くの 日 本 人 は3型 (ApoE3) の遺伝 子 を両親 か ら受 け継 いで い るが, 両 親 か ら も らう2本 (1対) の うちの 一つ が4型 だ と, ApoE3/4と な り, 脳 β タ ンパ ク異 常 蓄 積 が ApoE3/3の 方 に比 べ て20年 ほ ど若 い年 齢 か ら始 まる. つ ま り, アル ツハ イマ ー病 発症 年 齢 には, 生 まれ つ き も つ 遺伝 子 が大 き く影 響す るが, 後述 す る ライ フス タ イ ル も影 響 を与 える. この βタ ンパ クの異常 蓄 積 で ある老人 斑 は, 徐 々 に 出現 範 囲 を拡 げ, 密度 を高 め て, 10年 もす る と大脳 全 体 に拡 が ってい く. す る と, 今 度 は神経 細胞 の 中 に タウ タ ンパ クが異常 に蓄積 す る. これ が不 溶性 の線 維 塊 を 形成 す ると, Alzheimer 神 経原 線維 変化 とな る. タ ウタ ンパ ク は神 経細 胞 の突 起 の先 まで溜 ま り, 神経 ネ ッ ト ワ ークの ダ メー ジ を もた らす. こ う して βタ ンパ ク異 常 蓄積 が始 まって20年 く らい経 つ頃 には大脳 皮質 全体 に多数 の 老人 斑 が あ り, 神 経 原線 維変 化 もか な り拡 が り, アル ツハ イ マー病 を発症 す る (山口ほ か, 2005). 脳 に は 「余力 」が あ るので, 少 しく らい病 変 が出 て も認 知 症 には な らない. アル ツハ イマ ー病 の脳 病変 が始 ま っ て もしば らくは無症 状 で あ り, アル ツハ イマ ー病 一歩 手前 の状 態 「軽度 認知 障害 」 を経 て, 発 症 す る. アル ツハ イマ ー病 は, 脳老 化 の究極 の姿 で あ り, 120 歳 まで生 きれば, 誰 の脳 に も老 人斑 が あ り, そ して大部 分 の方 が アル ツハ イ マ ー病 を発 症 してい ると推 測 され る. そ こまで生 き延 び られれ ば だが. 3. ア ル ツハ イ マ ー病 ら し さ を 示 す 症 状 まず, アル ツハ イマ ー病患 者 との会 話 を示す(山 口, 2007). 特 徴 的 な取 り繕 い を理解 してほ しい. Q1 どん な料理 が得 意 ですか? (料理 の具 体 名 を質問 す るが) A1 どん な料理 で も在 る材料 で作 りますか ら. (野菜妙 め, エ ビ フラ イな ど料 理名 の具 体 的 な名 詞 は出ず, 笑顔 で うま く取 り繕 う. 他 に, 主 人 は何 で も好 きです か ら, や, あ り きた りの もので す, な ど, あ ま り悩 まず にす らっ と答 え るの が特 徴.) Q2 食 材 の買 い物 は どなた が? A2 近 くの スーパ ー に私 が行 きます. (実際 は行 って い ない が, 考 えず に嘘 で も平 然 と答 え るのが特 徴. 脳 血管 性 認知 症 だ と思 考 が鈍麻 で悩 ん で時 間 がかか る.) Q3 何 か生 活 で困 る こと は? A3 まあ歳 で すか ら, 多少 はあ り ます が困 りませ ん. (病態失 認 的態 度 と取 り繕 い) この方 の生活 の 実態 は, 料理 す ると鍋 を こがす, 魚焼 きを忘 れて黒 煙 がモ ウモ ウ と出 るな どエ ピソー ド多数 新 しい冷 蔵庫 を購 入 して冷蔵 室 と冷 凍室 の場 所 が入 れ 替 わ った ら, 野 菜 を最下 段 に あ る冷 凍室 に入れ て食 べ られ な くして しま う. アル ツハ イ マ ー病 の 中核症 状 は, 記憶 障 害 と見 当識 障害 で, 発 病す る と, 一見 病識 が ない よ うな態度 を取 る (病態失 認 的態度).「困 るこ とは ないか」とたず ね て も, 「何 もない」と答 え る. 買 い物 に行 けな くな ってい て も, 平 然 と 「私 が行 ってい る」と答 える. これ は, 自分 の病 気 を隠 す よ うな態度 なの で, 取 り繕 い とい われ る. アル ツハ イマ ー病 にな る と, 記 憶障 害や 見 当識障 害, 実 行機 能 障害 を背 景 に, 日々の生 活 で失敗 を重 ね, 自分 で も自 分 の能 力 が失 われ てい くこ とに気 づ く.「何 も困 る こ と は ない」と答 え る背 景 には, 不 安 や喪失 感 が ある. 自身 の失敗 を認 めた くない とい う気持 ちが, 逃避 行動 と し て取 り繕 いや病 態失 認 的態 度 を生み 出 して い る. 4. 脳 活 性 化 リハ ビ リテ ー シ ョ ン総 論 脳 活性 化 リハ ビ リテ ーシ ョン (リハ) に用 い る手法 は さま ざまで も, (1)仲間 と一緒 に (コ ミュニ ケ ーシ ョンが 安 心 を生 む), (2)楽しく頭 と体 を使 う (快刺 激 が意欲 を 引 き出す), (3)役割 を演 じる (生 きがい や 自信 とな る) こ と を通 じ, た とえ認知症 とい う不 自由 が あって も, 認知 症 高齢 者 が前 向 きに生 き よ うと し, 生 活機 能 が 向上 す る こ とが, 脳 活性 化 リハ の原則 で あ り目的 で ある (山口 ほか, 2005). 認知 症 の方 の認知 機 能 を高 めよ うとす る ア プロ ーチ は, な かな か効果 が得 られ な い. しか し, 脳 活 性 化 リハ は認 知機 能 その もの を高 め よ う とい うもの で はな く, 快刺 激 や役割, コ ミュニ ケー シ ョンを通 して 意欲 を高 め, 生活 機能 (ADLやQOL) を向上 させ る こ
200 コ ミュニ ケ ーシ ョン障 害 学 Vol. 24 No. 3 2007. 12. とを 目的 と して い る. 脳活 性 化 リハ では, 初 期認 知症 の 進 行 防止 や発 症予 防 に効 果 が期待 され るが, 進 行 した 認 知症 には効 果 が期待 で きな い. 脳活 性 化 に用 い られ る代表 的 な手 法 につ いて, 以 下 に解説 す る. これ らの手 法 の効 果 につ いて は, (1)記憶 を 含 めた認知 機 能, (2)うつ や 易怒性 な ど心理 症状, (3)排徊 な どの行動 障 害, (4)ADL, (5)QOLと い った さま ざまな 視 点 か ら評 価 され る. 5. 脳 活 性 化 リハ ビ リテ ー シ ョ ン 各 論 5. 1 回想 法 筆 者 らは, 古 い生 活 道具 や遊 具 な ど を使 う作 業 回想 法 を脳活 性化 リハの 中心 に取 り入 れて い る (山口 ほか, 2005). 例 えば, 高齢 者 に と って は懐 か しい タ ライ と洗 濯板 を使 い, 若 い リハ ・介護 ス タ ッフに使 い方 を教 える とい う役割 を演 じて も らう (図1). いつ もは介護 を受 け る側 で あ る認 知 症 高 齢 者 が先 生 役 に な り, ケ ア ス タ ッフに使 い方 を教 える. この立場 の逆 転 が, 認知 症高 齢 者 に役割 を与 え, 元 気 にす る. さらに, 洗濯 板 か ら子 供 の服 → 子育 て→ 苦労 話 と往 時 を しのぶ話 題 が盛 り上 が り, 生 き生 き と生 活 して いた 時代 を振 り返 る ことで 自分 の歴 史 を確 認 し, 高齢 者 が 自信 を取 り戻す. 作業 回 想 法 の実 施例 で は, 若干 の認 知機 能 向上 や 引 き こ もり の防 止 な どの効 果 がみ られ る. 筆者 らはデ イケ ア利 用 の認 知症 高 齢者 に作 業 回想 法 に よる介 入 を行 い, 記 憶 や意 欲 の向上 が得 られ た. また, この ような介 入 を行 う と, ケ アス タ ッフの意識 が向上 し, 利 用者 とケア ス タ ッ フの交 流 が高 ま り, 施 設全 体 に よい結 果 を もた らした (Yamagami, Oosawa, Ito, etal., 2007).
5. 2 現 実 見 当 識 訓 練 と学 習 (認 知 刺 激) 現 実 見 当 識 訓 練 は, 日付 ・季 節 ・居 場 所 な ど現 実 の 情 報 を 伝 え て 見 当 識 を 高 め る方 法 で, 欧 米 で は cognitive stimulation therapy と して, 地 図 や カ ー ドな ど を 用 い た 認 知 刺 激 も行 わ れ る (Holden, Woods, 1994). 軽 症 者 で は, 認 知 機 能 を高 め る効 果 が み られ る. しか し, 認 知 症 が 進 行 し て既 に 過 去 の 世 界 に 生 き て い る 認 知 症 高 齢 者 で は, 現 実 世 界 に引 き戻 そ う とす る現 実 見 当 識 訓 練 に よ っ て 混 乱 が 深 ま る結 果 に な る こ と も あ る. 本 邦 で は 川 島 ら が, 音 読 と簡 単 な 計 算 に よ る 学 習 療 法 は 前 頭 葉 機 能 を 高 め, 認 知 症 の 進 行 を遅 らせ る と し て 奨 め て い る (Kawashima, Okita, Yamazaki, et al., 2005). この よ う な 認 知 刺 激 の 介 入 を行 う と き, 学 習 そ の も の の 効 果 よ り も, 学 習 介 助 者 の 役 割 が 大 き い.「 す ご い! 100点 」な ど と褒 め ち ぎ り, 学 習 者 に対 して 情 熱 を も っ て 接 す る学 習 介 助 者 の 熱 意 が 認 知 症 高 齢 者 に伝 わ り, 認 知 機 能 が 高 ま る効 果 が 大 きい の で あ る. 学 習 そ の も の よ り も, 誰 か が 褒 め る, 喜 ん で く れ る とい う こ と の ほ う が, 認 知 症 高 齢 者 を元 気 に す るの にず っ と有 効 で あ る. 5. 3 楽 しい 交 流 脳 は 人 と交 わ る こ と に よ っ て 活 性 化 す る. 逆 に 誰 と も話 さ な い で い る と退 化 す る. 疫 学 調 査 で, 社 会 的 な 接 触 が 認 知 症 の 予 防 に 有 効 だ と示 さ れ た (図2). 独 身 で 独 居, 友 人 も 家 族 も訪 ね て こ な い 高 齢 者 が 認 知 症 に な る 割 合 は, 家 族 が 同 居 して い て 友 人 も 多 数 の 高 齢 者 に 比 べ て8倍 も高 い とい う (Fratiglioni, Wang, Ericsson, etal., 2000). 人 間 は, 他 人 と の 会 話 中, 相 手 の 表 情 や 仕 草 な ど を 全 て 自 分 の 頭 の 中 で 真 似 て い る (ミ ラ ー ニ ュ ー ロ ン系). 実 際 に は 動 か な い が, 運 動 命 令 を出 す 運 動 野 の 直 前 ま で が働 い て, 脳 の 中 で 相 手 の 仕 草 を再 現 して い る. こ の 働 き に よ っ て, 相 手 の 気 持 ち が わ か る (推 し量 る だ け だ が). 人 と接 す る と き は, 絶 えず 相 手 の 反 応 を 見 な が ら脳 を フ ル に働 か せ て 対 応 す る. そ して 脳 が 活 性 化 され る. 快 刺 激 は脳 の 中 で ドパ ミン 放 出 を高 め る. す る と, 覚 醒 レベ ル が 上 が り (目 が 覚 め), 学 習 能 力 や 記 憶 力 が 向 上 す る. 昔 は ヒ ロ ポ ン な ど と い う覚 醒 剤 が 流 行 っ た が (戦前 は 薬 局 で 入 手 可 能), 覚 醒 剤 は脳 の ドパ ミ ン再 吸 収 を押 さ え て シ ナ プ ス で の ドパ ミ ン濃 度 を高 め る 薬 剤 な の で, 習 慣 性 (依存 性) が 問 題 と な る. 快 刺 激 は ドパ ミン の 放 出 そ の もの を 高 め る の で, 健 全 な 脳 の 刺 激 ・活 性 化 に な る. 人 間, 楽 しい こ とで な い と長 続 き し な い. 参 加 者 が 楽 しい だ け で な く, ス タ ッ フ も一 緒 に 楽 しい 介 入 方 法 (ア ク テ ィ ビ テ ィ ー) が 望 ま れ る. 図1 作 業回 想法 で使 うタ ライ と洗 濯板 認知 症 高齢 者 が スタ ッ フに使 い方 を教 え る先 生 役 にな る こ と で, 立 場 が逆転 し, 元気 にな る. ま た, 作 業 を通 して 自分 が輝 い てい た頃 を思 い出 し, 自信 を取 り戻 す.
山 口: アル ツハ イ マ ー病 の正 しい理 解 と脳 活性 化 リハ ビ リテ ーシ ョン 201
5. 4 身 体 活 動
身 体 活 動 (運動 を含 む) は, 認 知 機 能 を高 め, 認 知 症 の 予 防 に も 有 用 と い う報 告 が 多 数 あ り, メ タ分 析 で も 有 効 性 が確 立 し て い る. Rovio, Kareholt, Helkara, et al.
(2005) は, 1972∼1982年 に フ ィ ン ラ ン ドで 行 わ れ た 疫 学 調 査 (CAIDE study) の 対 象 者 の 中 か ら ラ ンダ ム に抽 出 した2,000名 を対 象 に, 約20年 後 の1998年 に 再 調 査 を 行 っ た. 解 析 で き た1,447名 (平 均 約70歳) で 中 年 期 (50歳 頃) の 余 暇 の 運 動 習 慣 と 認 知 症 発 症 リ ス ク を, 年 齢, 学 歴, 病 歴, 血 圧, 喫 煙, ApoE 遺 伝 子 型 な ど諸 条 件 で 補 正 を して 検 討 した. す る と, 運 動 (20∼ 30分 以 上 の 運 動 で, 息 が 切 れ て 汗 が 出 る程 度 の 運 動) を 週2回 以 上 行 っ た群 で は, そ れ 以 下 の 不 活 発 群 に 比 し て認 知 症 の 発 症 リス ク (オ ッズ 比) が0.47と 半 減 して い た. ア ル ツ ハ イ マ ー 病 の 発 症 リス ク は さ ら に低 く, 約 1/3の0,35に な っ て い た. さ らに ア ル ツ ハ イ マ ー 病 を 早 く発 症 す る ApoE 4遺 伝 子 保 有 者 で は, ア ル ツハ イ マ ー 病 発 症 リス ク の オ ッ ズ 比 が 約1/4の0.24と な り, 中 年 期 余 暇 運 動 習 慣 が と て も有 効 だ と い う結 果 が示 され た. 中 年 期 に お い て 余 暇 に行 う 中 等 度 以 上 の 運 動 習 慣 (週 2回 以 上) が, 高 齢 期 (20年 後) の 認 知 症 発 症 を 予 防 す る 効 果 を疫 学 的 に示 し た 研 究 で あ る. こ の 研 究 で は, 余 暇 に行 っ た 楽 し い 運 動 で あ る点 が 重 要 で, い わ ば 義 務 と して の 活 動 で あ る 肉 体 労 働 で は 認 知 症 を 予 防 す る 効 果 が な い とい う. 動 物 実 験 で は, 記 憶 に 関 与 す る海 馬 神 経 細 胞 の 新 生 (海 馬 で は神 経 細 胞 が 少 しず つ 生 まれ 替 わ る) が, 運 動 で 加 速 さ れ て 神 経 細 胞 数 が 増 え, 同 時 に 記 憶 が よ くな る こ とが 示 さ れ て い る. ま た, 加 齢 と と も に脳 に β ア ミ ロ イ ドが 溜 ま る トラ ン ス ジ ェ ニ ッ ク マ ウ ス で は, 広 い ケ ー ジ に廻 り車 や トン ネ ル を 入 れ て 楽 し く運 動 で き る 豊 か な 環 境 で 飼 育 す る と, 脳 β ア ミロ イ ド沈 着 が 抑 制 され る (Lazarov, Robinson, Tang, et aL. 2005). 運 動 で 脳 の ア ル ツ ハ イ マ ー病 変 の 形 成 が 抑 制 され る こ とが 動 物 実 験 で 示 さ れ た の で あ る. 身 体 を 動 か す こ と は, 脳 の 健 康 維 持 に 重 要 だ とい え よ う. 6. お わ り に 楽 し く体 を使 い, ま た, 楽 し く会 話 し人 と 交 わ る 中 で 役 割 を演 じ る こ と が, 認 知 機 能 や 生 活 機 能 を 向上 させ る. 脳 活 性 化 リハ の 原 則 は, (1)快刺 激 が 笑 顔 を生 み 意 欲 を高 め る, (2)褒め る こ と が や る気 を生 む, (3)会話 が 安 心 を生 む, (4)役割 を演 じ る こ と が 生 きが い を生 む, で あ る. 脳 活 性 化 リハ で は認 知 機 能 そ の も の を 高 め よ う と す るの で な く,「認 知 症 が あ っ て も前 向 き に 楽 し く生 活 で き る こ と」 を 目 標 に し て い る. (作 業) 回 想 法 や 学 習, 芸 術 療 法 な ど さ ま ざま の 手 法 が あ る が, 大 切 な 点 は, ど ん な 手 法 を 用 い る か で は な く, 快 刺 激, 褒 め る, 楽 し い コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン, 役 割 に よ っ て 笑 顔 とや る 気 を引 き 出 す こ が で き る か ど うか で あ る. た と え認 知 症 を発 症 し て も, あ き らめ な い で 脳 活 性 化 リハ を行 え ば, 認 知 症 の 進 行 を 遅 らせ る可 能 性 が あ る. 廃 用 を極 力 減 ら し, 脳 病 変 進 行 よ り も脳 活 性 化 を 大 き く す れ ば, 進 行 に傾 い て い たバ ラ ン ス を, 維 持 ∼回 復 へ 傾 くバ ラ ン ス に修 正 で き る可 能 性 が あ る. 従 来, 老 人 斑 は 一 度 形 成 さ れ る と消 失 す る こ と は な く, ず っ と 増 え 続 け る と考 え られ て き た. しか し, ワ ク チ ン療 法 や, 食 事 ・運 動 な ど の ラ イ フ ス タ イ ル が 脳 病 変 そ の もの の 進 行 を抑 制 す る可 能 図2 社 会的 接触 が認知 症 リスク を低 減 ス トッ ク ホ ル ム で75歳 以 上 の 高 齢 者1,203名 を 対 象 と した 疫 学 調 査. リ ス ク が 独 身 ・ 独 居 で1.9倍, 子 ど も な しで1.4倍, 友 人 ・親 戚 な し で1.6倍 に増 加 す る.
202 コミュニ ケ ー シ ョン 障 害 学 Vol. 24 No. 3 2007. 12. 性 が示 され て い る. アル ツハ イマ ー病 の病 態 を正 し く 理 解 し, 発症 して もあ きらめ ない で早期 か ら リハ に取 り組 む ことが肝 要. 進行 して か らで は リハ の効 果 は望 め ない. 人 間 の コ ミュニ ケ ーシ ョンは, 非 言語 手 段 が大部 分 を占め てい る. 脳活 性化 リハ は, 認 知症 にな って も保 た れ て い る ミ ラー ニ ュ ー ロ ン系 を活 用 す る. 認 知 症 に な って も, 笑顔 に対 して微 笑 み返 す能 力 は最後 まで保 たれ て い る. 患 者 の脳 は セ ラピ ス トの脳 に出会 う こと に よっ て変化 (進化) す る. 同時 に セ ラピス トの脳 も患 者 の脳 との 出会 い で進 化す る. コ ミュニ ケ ーシ ョン障 害 の プ ロで ある言語 聴覚 士 に こそ, 認 知症 の脳 活性 化 リハ の セ ラ ピス トと して活 躍 して頂 きた い と願 い, 教 育講 演 の機会 を頂 い た. 新 た な職域 と して, 皆 様 の新規 参入 を期 待 して い る. 文 献
Braak, H., Braak, E., Bohl, J. Age, neurofibrillary
changes, Aβ-amyloid and the onset of Alzheimer's disease. Neuroscience Letters. 210,
87-90 (1996).
Fratiglioni, L., Wang, H. X., Ericsson, K., et al. Influence
of social network on occurrence of dementia: a community-based longitudinal study. Lancet. 355,
1315-1319 (2000).
Holden, U. P., Woods, R. T. Reality Orientation: Psychological approach to the confused eldery.
Edinburgh, Churchill Livingstone, 1986. (川 島 み ど
り 訳. 痴 呆 老 人 の ア セ ス メ ン ト と ケ ア ー リ ア リ テ ィ ー ・オ リ エ ン テ ー シ ョ ン に よ る ア プ ロ ー チ. 東 京, 医 学 書 院, 1994, p. 107-112).
Kawashima, R., Okita, K., Yamazaki, R., et al. Reading aloud and arithmetic calculation improve frontal function of people with dementia. Journal of
Geron tology A. 60, 380-384 (2005).
Lazarov, O., Robinson, J., Tang, Y. P., et al. Environmental enrichment reduces Aβ 1evels and amyloid deposition in transgenic mice. Cell.120, 701-713 (2005).
Rovio, S., Kareholt, L, Helkara, E. V., et al. Leisure-time physical activity at midlife and the risk of dementia and Alzheimer's disease. Lancet Neurology. 4, 705-711 (2005).
玉 岡 晃. ア ポEと Alzheimer 病: ア ポEの 分 子 病 態 と 疾 患 発 症 機 序. 医 学 の あ ゆ み. 220, 431-438 (2007). Yamagami, T., Oosawa, M., Ito, S., et al. Effect of
activity reminiscence therapy as brain-activating rehabilitation for elderly people with and without
dementia. Psych ogeria trics. 7, 69-75 (2007). 山 口 晴 保. ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症: 予 防 を め ぐ る 最 近 の 話 題. 調 剤 と 情 報. 13, 1454-1458 (2007). 山 口 晴 保, 佐 土 根 朗, 松 沼 記 代, ほ か. 認 知 症 の 正 し い 理 解 と包 括 的 医 療 ・ケ ア の ポ イ ン ト-快 一 徹! 脳 活 性 化 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン で 進 行 を 防 こ う-山 口 晴 保 (編). 東 京, 協 同 医 書 出 版, 2005.