入判例研究
V
土地賃借権の無断譲受人による土地の使用が賃借意思に基づく
ものではないとして賃借権の時効取得が否定された事例
昭 和 五 三 年 一 二 月 一 四 日 最 高 裁 第 一 小 法 廷 判 決 ( 昭 和 五 三 年 制 第 七 一 九 号 建 物 収 去 土 地 明 渡 請 求 事 件 ) 民集三二巻九号一六五八頁││棄却 土 口群
充
岡
︹ 事 実 ︺ A は 地 主 X( 原告・被控訴人・被上告人)の先々代から土地を賃借し、その地上に数棟の建物を所有していた。その土地の範囲は、 昭 和 三O
年ごろには明神前の土地と呼ばれていた吹田市垂水町にある約一一一二三坪であった。昭和一二二年分の右土地の地代は年二ハ 八 七O
円として支払われた。ところが、昭和三ゴ了一二四年分の地代については、 X が 年 二OO
一六円に増額して請求したので、 A はこれを支払わなかった。そこで、 X は 、 A に 対 し 、 昭 和 一 二 五 年 二 月 三 日 付 翌 四 日 到 達 の 内 容 証 明 郵 便 で 、 右 土 地 の 昭 和 一 一 一 一 一 了 三 四年分地代四OO
一 一 一 一 一 円 を 同 月 一O
日までに支払え、支払わない場合には X A 間の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。そ の 後 同 月 一 七 日 に 到 り 、 A は 一 五0
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円(昭和三四年分と表一否のみを弁済供託した。 一 方 、 B は、昭和三四年五月四日に A からその所有建物のうち本件建物とその敷地である本件土地の賃借権を譲り受けた。建物 については同月七日に所有権移転登記がなされたが、右賃借権譲渡については X の承諾を得なかった。昭和三六年六月頃、 B は X第2巻3号一-88 に対し賃借権譲受につき承諾を求めた。しかし、 X はこれを拒否し、かつ B の前主である A の賃借権は賃料不払による契約解除で 既に消滅しているから建物を収去して土地を明渡してくれと申入れ、同年七月一一一一日付一六日到着の内容証明郵便で同趣旨を通知 し た 。 こ れ に 対 し 、 B は昭和三六年八月一一一日に昭和三五年一月から昭和三六年七月までの地代(月額一一一六円)を弁済供託した。 そ の 後 、 B は、昭和三六年八月から同四五年三月までは月額一一一六円、同四五年四月から同四七年四月までは月額八一
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円の割合 で弁済供託を行なってきた。昭和田八年七月三日 B が死亡したので、その夫 V H ( 被告、控訴人、上告人)およびその子 VHUL( 上)が相続により本件建物の所有権を承継取得し、本件土地を占有している。また、 v H は昭和三五年ごろから本件建物に居住し、 本件土地を占有している。そこで、 X は、本件土地に対する所有権に基づき、 v u i v H に対しては本件建物を収去して本件土地の明 渡しを求めるとともに、昭和四三年二月一日から右土地明渡ずみにいたるまで一ヵ月金四O
五O
円の割合による賃料相当額の損害 金 の 支 払 い を 求 め 、 V H に対しては本件建物から退去して本件土地の明渡しをなすべきことを求めた。 こ れ に 対 し 、 LivH は以下のような抗弁を提出した。すなわち、付 A か ら B への賃借権譲渡につき X の承諾があったこと、同本 件土地の賃借権を時効取得したこと、日 X の権利につき失効の原則の適用があること、同仮りに V H i v H に本件建物収去土地明渡義 務があるとしても、建物買取請求権行使による代金債権について、同時履行の抗弁権および留置権を行使しうること。 第一審(大阪地裁昭和五一年九月一一一日)は、損害金額については一部認容にとどまったが、 X が 勝 訴 し た 。 原審(大阪高裁昭和五三年二月二八日)も、認定事実からして B の弁済供託は﹁本件土地の賃借権を適法に取得したという意思 で﹂なされていないという理由で、土地賃借権の時効取得の抗弁をしりぞけた。また、建物買取請求権行使の抗弁も、昭和三五年 二 月 一O
日限り﹁ X と A の賃貸借契約は、後者の債務不履行によって解除されたものというべきである﹂という理由で、これを否 定しもらの控訴を棄却した。¥ こ れ に 対 し 、 v H らは次のような理由で上告した。 一一付、土地賃借権の時効取得について、﹁右建物質受当時以前は本件土地の地代支払は X と A 聞においては毎年末に一年分を年払 いの方式で支払うことの約定があったことから、昭和三四年五月六日までは右 A が本件建物の所有権を有し、且つ、借地権を有し ていたところより、昭和三四年分につき A 名義で昭和三五年二月一七日に弁済供託されたものであり、 B としては、右の供託以前 に A に地代交付をした段階で本件土地の賃借権を適法に取得したという意思を有し、賃借意思の客観的表現行為をなしたというべ き で あ る ﹂ 。一 ハ 口 、 権 利 濫 用 の 抗 弁 を 採 用 し な い こ と に つ き 理 由 不 備 の 違 法 が あ る 。 二、原審には明らかな事実の誤認がある。 ︹ 判 旨 ︺ ﹁ 上 告 理 由 一 一 け に つ い て 、 原審が適法に確定したところによれば、八円本件土地は A が X から賃借し、その地上に本件建物を所有していたところ、昭和三四 年五月四日 V H らの被承継人 B が A から本件建物とその敷地である本件土地の賃借権を譲り受け、そのころその引渡を受けたが、右 賃借権の譲渡については X の承諾を得なかった、同 B は右賃借権の譲受後も X に賃料を支払ったことはなく、昭和三五年六月頃 X に賃借権譲渡の承諾を求めたが拒絶せられ、かえって A の賃料不払によってすでに同人との賃貸借契約は解除ずみであるとして本 件建物の収去と本件土地の明渡を求められた、日開 B はその後昭和三六年八月二一日にいたって始めて同三五年一月以降の賃料とし て月一一二ハ円の割合による金員を弁済供託し、以後毎月又は数ヵ月分をまとめて弁済供託しをている(ただし、昭和四五年四月か ら は 月 八 一
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円に増額。)、というのであり、右認定の事実関係の下では、 B が 前 記 昭 和 一 一 一 四 年 五 月 以 降 賃 借 意 思 に 基 づ い て 本 件 土 地の使用を継続してきたものということはでさないから、原審がもらの賃借権時効取得の抗弁を排斥したのは正当であり、論旨は 理 由 が な い 。 同 一 位 及 び 二 に つ い て 、 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙一不の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法 はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができな い ﹂ 。 裁判官全員一致の意見で上告を棄却。 ︹ 評 釈 ︺ 一本判決が出されてから、すでに一O
年余りが経過した。本判決で重要な論点とされた賃借権の時効取得の法律構成について は、後で述べるようにすでに昭和四三年一O
月八日の最高裁判決においでほぼ確立され、本判決以後も最近の最高裁判決(最判昭 和 六 二 年 一O
月八日民集四一巻七号一四四五頁)にいたるまでその法律構成が踏襲されてきている(判例の展開については、五十 川直行﹁土地賃借権の時効取得付﹂法政研究五二巻一号六八頁以下を参照)。しかしそのような法律構成が現実にはどのような機能第2巻3号一-90 をもっているのかという点については、いわゆる信頼関係理論のような賃貸借契約に特殊な債務不履行と解除の構成などとの関連 をふまえながら、一般的な時効制度のもつ意味を個々の事実関係の中で検討する必要があろう。この点について本判決は、なお考 察に値する論点を含んでいると思われる。以下では、まず本判決の法律構成を分析し、ついで当該の事実関係との関連でその法律 構成のもつ意味をさぐってみたい。 二最高裁判所判例集によれば、本判決は﹁土地賃借権の無断譲受人が、土地の引渡を受けながら賃貸人に賃料を支払ったこと がなく、また、賃貸人に賃借権譲渡の承諾を求めたが拒絶され、かえって譲渡人との賃貸借契約は既に解除ずみであるとして土地 の明渡を求められ、その後にいたって賃料の弁済供託を開始したなど、判示の事実関係のもとにおいては、譲受人が賃借意思に基 づいて土地の使用を継続したものということはできず、賃借権の時効取得を認めることはできない﹂としたものとされている。
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そこで、まず土地賃借権の時効取得に関する従来の判例を簡単にふりかえってみよう。この問題に関するリ l ディング・ケー スとされるのは、的最高裁昭和田三年一O
月八日判決(民集二二巻一O
号一二四五頁。評釈としては、可部恒雄︹最高裁判所判例 解説︺法曹時報一二巻六号二二二頁、遠藤浩・民商法雑誌六O
巻六号九O
四頁、新関輝雄・﹁土地賃借権の時効取得﹂名古屋大学 法政論集四九号一一一八頁、野村豊弘・法学協会雑誌八七巻一号一二O
頁)である。事案は以下のようである。すなわち、昭和一二 年 ご ろ 、 X は 、 Y の父でありその代理人である A から、第一・第二・第三の土地を一括して賃借したとし、予備的主張として、賃 借権の時効取得の主張をなした。これに対し Y は 、 A が代理権を有しないこと、および、 A が賃貸した土地は第一の土地のみであ るとし、全土地の明渡しを請求したというものである。判旨は、原審が第二の土地について賃借権の成立を否定したことを是認し たうえで、﹁土地賃借権の時効取得については、土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かっ、それが賃借の意思に基づく ことが客観的に表現されているときは﹂民法一六三条により時効取得が認められるとした。そして、原審が第一・第二の土地につ いて賃借権の時効取得を否定した点に関し、﹁ X が土地使用の対価として Y に賃料を支払って来たことは(土地の範囲は別として﹀ 争いがないというのであるから、原判示のように X において賃借権享受の意思がなかったとするには当然なんらかの理由を要する ところである﹂として原判決を破棄差戻しており、賃借意思の認定について賃料支払いを重視するかのような表現をしている。次 に、制最高裁昭和四四年七月八日判決(民集二三巻八号二ニ七四頁。評釈としては、奥村長生・法曹時報二二巻二号三六四頁、中 井美雄・民商法雑誌六二巻六号九九三頁、森孝三・法律時報四二巻七号一六八頁、加藤雅信・法学協会雑誌八七巻九・一O
合併号 九九八頁)は、土地の無断転貸借の場合に転借入 Y が地主 X の承諾があったという抗弁とともに賃借権の時効取得を主張した事案において、判例的を引用し﹁この法理は、他人の土地の継続的な用益が、その他人の承諾のない転貸借にもとづくものであるとき にも、同様に肯定することがでさる﹂とした。そして、け最高裁昭和四五年一二月一五日判決(民集二四巻二二号二
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五二具。評 釈としては、野田宏・法曹時報二三巻七号一六二五頁、新関輝夫・民商法雑誌六五巻五号七八八頁)は、 X が Y から寺院内の土地 を賃借し継続的に占有し賃料を支払ってきたが、その賃貸借契約は法令違反で無効なものであったという事案において、判例的制を 引 用 し 、 X らは﹁賃貸借契約を締結し、爾来これに基づき平穏・公然に本件各土地を占有して、一O
年ないし二O
年を経過し、そ の 間 Y に約定の右賃料の支払いを継続してきたというのであり、この主張のような事実関係は、証拠上も窺うに難くないのであっ て、右事実関係が認められるならば、前示の賃借権の時効取得の要件において欠けるところはないものと解される﹂として時効取 得を認めた。その後、同最高裁昭和五二年九月二九日判決(判例時報八六六号一二七真、金融・商事判例五三六号一八頁)は、 X 所有の土地につき、なんら処分権をもたない A か ら Y が右土地を賃借し、その契約に基づき右土地を継続的に占有し、 A に対し賃 料を支払ってきたという事案において、判例的を引用し、 Y の X に対する土地賃借権の時効取得を認めた。これとほぼ同時期に、 肺最高裁昭和五二年一O
月二四日判決(判例時報九一五号、金融・商事判例五一ニ六号二八頁)は、土地賃借権の時効取得を否定し た。土地賃借入 A がその所有する地上建物を Y 会社に現物出資したが賃料は A 名義で支払われていた。ところが、その建物の所有 権をめぐって A と Y 会 社 に 粉 争 が 生 じ 、 Y も地主 X に賃料を提供したところ、 X は A を賃借入と認め賃料を受領し Y の賃料提供を 拒絶したので Y は供託を続けてきたという事案について、判旨は、判例的を引用し、賃借意思の客観的表現がないとしたのである。 以上から明らかなように、土地賃借権の時効取得は可能であり、その要件として①土地の継続的占有という外形的事実と②賃借 意思の客観的表現を要するということは、判例上ほぼ確立している。学説上も、賃借意思の客観的表現の具体的内容についての検 討が現在の課題としてとらえられている(半田正夫︹本件評釈︺判例タイムズ四一一号一八頁、この点を認めながら、やはり時効 取得の可否自体を問題とせざるをえないとするもの、石田喜久夫︹本件批評︺民商法雑誌八一巻五号六八五頁﹀。 助次に、本判決の法律構成を分析し、従来の判例との関連を検討しよう。 本判決の法律構成は次のようである。①本来土地賃借権が時効取得しうるものか否かという点については、これを肯定するとい う前提に立っている。そして、②時効取得の要件も明示していないが、土地の継続的占有を前提として賃借意思の有無を問題とし ている。③その賃借意思の有無は土地の占有開始時について判断し、④かつ客観的事実から意思を認定する。⑤その際賃料の支払 いないし供託の事実を重視している。第2巻3号一-92 以上のような本判決の構成は、従来の判例に対してどのように位置づけられるか。 この点、上記①②③④という判断の枠組については、上述判例的以降の流れの上に位置づけられる。本判決がとくに①②の点に ついて明示しなかったということは、これらの点に関する従来の判例理論を当然の前提としているということであろう。また、⑤ の時効取得の起算点については、これを動かしえない、つまり占有開始時とするという判例(大判昭和一三年五月七日、最判昭和 三五年七月二七日)を承継するものと言える。⑤の賃借意思の客観的表現についてはかならずしも明確ではないが、賃料の支払い ないし供託の事実を重視するのが従来の最高裁判例の傾向であり、本判決も同様の立場をとっている。 以上から明らかなように、土地賃借権の時効取得の法律構成という点から見れば、本判決は、従来の判例の傾向をほぼ受継ぐも の で あ る 。
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ただ、理論的に問題がないわけではない。本判決において、賃借意思がないとされた理由は、 B が A から借地権を譲受けてか らほぼ二年間 X に賃料を支払っていなかったという点である。しかし、このような構成をとると、時効の起算点を動かさないとい う前提に立っていることとの関係で、占有開始時に賃借意思が認定されない場合、たとえその後に二0
年間供託を続けても時効取 得しえないことになってしまう。本件に即していえば、 B が昭和三六年八月から二0
年間供託を続けても、当初昭和一二四年五月か ら二年余り賃料を支払っていなかったがために、いったん明渡請求をしてからこ0
年開放置していた X が勝訴するという結果にな る(この点を指摘するものとして、石田・前掲評釈六八九頁)。従って、この賃借意思の有無というレベルではなく、この点をゆる やかに解して、問題を善意・無過失の有無(時効期間)のレベルで処理してもよいのではないかと思われる。あるいは、時効の起 算点を動かさないとしても、民法一八五条を類推適用し、 B の供託時から賃借意思を認めることも可能ではなかったか。ただ、こ こに述べた問題は、賃借意思の客観的表現としていかなるものを要するかという論点と関連しており、なお検討を要する問題であ る(この点について、篠原弘志・判例評論八四号七五頁、杉山修﹁不動産賃借権と時効取得﹂判例タイムズ一O
三 号 コ 一 八 七 頁 以 下 新 関 ・ 前 掲 法 政 論 集 二 ニ 二 頁 、 参 照 ) 。 一ニ法律権成に関する以上の考察からみれば、本判決は従来の判例理論をほぼ受継ぐものということになろう。しかし、本判決 をその具体的事実および事実と法律構成との関連という視点から見ると、そこには別の問題が含まれているように思われる。ω
まず、本件では A B 間で借地権の譲渡があったことは争いがない。従って、 X か ら B に 土 地 明 渡 請 求 が あ れ ば 、 B としては自 己の土地占有が適法なものであることを主張することになろう。その際、 B ハ HL ら)は、① X に明示ないし黙示の承諾があったという主張をしている。しかし、②承諾がなかったとしても、その無断譲渡が X A 聞の信頼関係を破壊しないものならば、結局 B の地位は承諾があった場合と同視される(最判昭和三九年六月一二
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自 民 集 一 八 巻 九 九 一 一 具 、 星 野 英 一 円 借 地 ・ 借 家 法 ﹄ ( 昭 和 田 四 年 、 有斐閣︺三七八頁﹀という主張も可能であった。特に本件の場合、地主 X の立場からみて、賃借物の用法の点では、土地の賃貸借 であり建物所有が目的なのだから A と B が入れ替っても問題はない。また、 B は、弁済供託をしているのであるから、賃料の支払 能力の点でもほぼ問題はないであろう。それ故、無断譲渡であっても、信頼関係を破壊するにはいたらないとする可能性は十分に あったと考えられる。にもかかわらず、本件ではこの点が争点とならなかった。しかし法律論的には以上①②の主張が否定され、 B の 占 有 は X に対し不法なものであると確定した上で、土地賃借権の時効取得を問題とすべきではなかったかと思われる。もちろ ん、被告側︿もら)が上記②のような抗弁を提出しなかったという事情もあるが、疑問の残る点である。ω
同様の問題は、建物買取請求権に基づく留置権ないし同時履行の抗弁権行使の主張を否定した点にも存在する。この点につき、 原審は次のように判示し、最高裁もこれを是認した。すなわち、 X は 、 A に 昭 和 三 三 ・ 一 一 一 四 年 分 地 代 を 年 二OO
一 六 円 ( 以 前 は 一 六 八 七O
円)に増額して詰求したが、 A はこれを支払わなかった。そこで、 X は 、 昭 和 一 二 五 年 二 月 四 日 に 、 右 地 代 を 同 月 一O
日 ま でに支払わない場合賃貸借契約を解除する旨を通知した。ところが、 A は同月一七日にいたり昭和三四年分として一五O
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円 を 供託したにすぎない。それ故、 X A 間の賃貸借契約は A の債務不履行によって解除されており、 B は建物買取請求権を行使しえな いとした。しかし、①昭和三つ了コ一四年分地代について X A 聞で増額が争われていたこと、および、② v u らの上告理由によれば、 その地代は毎年末に一年分を支払うことになっていたので、 A は二回支払わなかったにすぎないこと、③ X の 解 除 の 期 限 が 一 一 月 一O
日であり、同月一七日には二応弁済供託をしていることなどの事実からすれば、 X の解除を有効とすべきであったかどうかも検 討の余地があろう。判例も、以前は賃料不払の場合を民法五四一条によって処理していた(大判昭和八年七月一一一日法律新聞三五八 六号二三貝)が、近時ではこの場合も﹁信頼関係﹂破壊の有無を考慮するという傾向を示している(最判昭和三九年七月二八日民 集 一 八 巻 一 一 一 一 一O
頁、同四三年六月二一日判例時報五二九号四六頁)。このような﹁信頼関係﹂に基礎を置く考え方に立てば、本件 認定事実を前提としても、本判決と同じ結論になったかどうかは疑問である。あるいは、少なくとも本判決の法律構成は、この点 に関し不十分であったと言えるのではなかろうか。ω
以上の考察から本件をとらえなおしてみると、本件の実質的論点は、土地賃借権の時効取得よりも、むしろ賃借権譲渡に関す る承諾の有無、﹁信頼関係﹂破壊の有無、および賃料不払による解除の有効性という点であったと思われる。過去の判例を見ても、多くの場合賃借権の適法な取得が認められないときの予備的主張として土地賃借権の時効取得が主張されるという事実が示すよう に、賃貸借契約の有無、賃借権の譲渡および転貸借の有効性等の問題が、時効取得の問題の前提をなしている場合が多い。それ故、 このような場合には、当該事実が賃貸借関係の枠内で処理されるべきか、あるいは、時効制度にもちこまれるべきものかを検討す ることが重要な問題となろう。結果として、時効制度により処理される問題であったとしても、まず賃貸借関係をめぐる論点を十 分に吟味する必要があったと思われる。この点で本判決は、被告側の抗弁のあげ方にも問題はあるが、事実関係とその法律構成と の関連に不明瞭なものを残している。