Nagoya City University Academic Repository
学 位 の 種 類 博士 (医学) 報 告 番 号 甲第1742号 学 位 記 番 号 第1239号 氏 名 夏目 まこと 授 与 年 月 日 令和 2 年 3 月 25 日 学位論文の題名
Placental growth factor is a predictive biomarker for ramucirumab treatment in advanced gastric cancer
(胃癌に対するラムシルマブ療法の予測因子の同定)
Cancer Chemotherapy and Pharmacology. 2019; 83: 1037-1046
論文審査担当者 主査: 瀧口 修司
論 文 内 容 の 要 旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 【目的】 胃癌は世界において 5 番目に多い悪性疾患であり、癌関連死第 2 位である。2015 年に胃癌に ラムシルマブが承認され、現在、切除不能進行・再発胃癌の治療における二次化学療法の標 準治療として、ラムシルマブ(RAM)+パクリタキセル(PTX)併用療法が推奨されている。
RAM は、ヒト型 VEGFR2 モノクローナル抗体である。VEGFR2 は、vascular endothelial growth factor (VEGF)ファミリーの中で最も血管新生に関わっている因子であり、RAM は VEGFR2 を 抑制することでリガンドの結合をブロックし、腫瘍の形成を抑える。 RAM 療法は、奏功例が限られ、また高価なことから有用なバイオマーカーが必要とされて いるが、現在までに胃癌に対する RAM 療法の治療効果を予測するバイオマーカーは同定され ていなかった。胃癌に対する RAM 療法の効果予測バイオマーカーを同定することを研究の目 的とした。 【方法】 2015 年 8 月から 2018 年 8 月までの間に、当院で RAM+PTX 併用療法または RAM 単独療法を行 った切除不能進行・再発胃癌 26 例の胃癌組織標本(内視鏡生検標本 13 例、手術標本 13 例) を使用し、腫瘍組織中の RNA 発現と RAM 療法の効果との関連性を検討した。また、胃癌細胞 (MKN45,MKN74)と微小血管内皮細胞(HMVEC)を使用し、in vitroにおいて、微小血管内皮 細胞の運動能をみる EC recruitment assay と血管内皮の管腔形成をみる Tube formation assay を行い検討した。
まず胃癌細胞に対して、siRNA を用いて placental growth factor(PlGF)をノックダウンし、 siNT(non-target) 胃癌細胞, siPlGF 胃癌細胞を作成した。次に transwell を用いて top chamber に微小血管内皮細胞を、bottom chamber に作成した siRNA 導入胃癌細胞を敷き、RAM の存在下・非存在下で共培養を行い、EC recruitment assay を行った。さらに siRNA 胃癌細 胞の培養液を用いて微小血管内皮細胞の tube formation assay を行い、in vitro での血管 新生能を評価した。 また、胃癌症例から収集した尿を使用し、ELISA で尿中の PlGF 濃度を測定した。 【結果】 RAM 治療に対する奏功例と非奏功例:各 2 例ずつの胃癌組織標本を使用し、24 種類の VEGFR 関連因子の発現を検討したところ、RAM 非奏功例において、5 種類の血管新生遺伝子 (PlGF,SEMA3F,VEGFA,PLXND,SEMA3B)が高発現を示した。次に進行胃癌に対して RAM 治療を行 った 26 例を用いて、それらの 5 因子発現の追加検討を行ったところ、腫瘍組織中のPlGF高 発現例では、PlGF低発現例と比較し、全生存期間(P =0.046)および無増悪生存期間(P =0.016) の有意な短縮をみとめた。全奏効率は、PlGF低発現群で 50%、PlGF高発現群では 0%であっ た。一方、患者背景因子は、PlGF低発現群・高発現群の両群間で差を認めなかった。以上の 結果から、胃癌細胞組織中のPlGF高発現が RAM 治療耐性の予測因子になると考えられた。少 数例のため有意ではないものの、尿中の PlGF 濃度と胃癌組織中の PlGF 発現との間に正の相
関を認めた。
次に、胃癌細胞と微小血管内皮細胞を用い、in vitro における RAM 療法による血管新生
阻害効果と PlGF 発現との関連性を調べた。EC recruitment assay では、siPlGF 胃癌細胞と 比較し、siNT 胃癌細胞との共培養において、RAM による血管内皮細胞の運動能抑制効果は有 意に低下した。同様に tube formation assay でも、siPlGF 胃癌細胞と比較し siNT 胃癌細胞 との共培養において、RAM による血管内皮細胞の管腔形成阻害効果は有意に低下した。以上 の結果から、基礎実験においても胃癌細胞中の PlGF 発現により、RAM による血管新生阻害効 果が低下することが示唆された。 【結論】 VEGF ファミリーの 1 つである PlGF の胃癌組織中の発現の解析により、RAM の治療効果を予測 できる可能性が示唆された。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
論文審査の結果の要旨
【背景】胃癌は世界において 5 番目に多い悪性疾患である。現在、本邦では切除不能進行・再発
胃癌の治療における二次化学療法の標準治療として、ラムシルマブ(RAM)+パクリタキセル(PTX) 併用療法が推奨されている。RAM はヒト型 VEGFR2 モノクローナル抗体であるが、RAM 療法は奏効 例が限られ、また高価なことから有用なバイオマーカーが必要とされている。これまでに胃癌に 対する RAM 療法の治療効果を予測するバイオマーカーは同定されていなかった。 【目的】胃癌に対する RAM 療法の効果予測バイオマーカーを同定することを研究の目的とした。 【方法・結果】2015 年 8 月から 2018 年 8 月までの間に当院で RAM+PTX 併用療法または RAM 単独 療法を行った切除不能進行・再発胃癌 26 例の胃癌組織標本(内視鏡生検標本 13 例、手術標本 13 例)を使用し、腫瘍組織中の mRNA 発現と RAM 療法の効果との関連性を検討した。さらに、胃 癌細胞と微小血管内皮細胞を使用し、in vitroにおいて種々の血管新生アッセイを行い検討し た。RAM 治療に対する奏効例と非奏効例各 2 例ずつの胃癌組織標本を使用し、24 種類の VEGFR 関 連因子の発現を検討したところ、RAM 非奏効例において 5 種類の血管新生遺伝子が高発現を示し た。全 26 例の追加検討により、腫瘍組織中のPlGF高発現例では低発現例と比較し、全生存期間 (P =0.046)および無増悪生存期間(P =0.016)の有意な短縮をみとめた。全奏効率はPlGF低 発現群で 50%、PlGF高発現群では 0%であった。また、胃癌細胞と血管内皮細胞の共培養系に おいて、RAM はin vitro血管新生の抑制効果をみとめたが、胃癌細胞中の PlGF をノックダウン することにより RAM の血管新生阻害効果は増強した。少数例のため有意ではないものの、尿中の PlGF 濃度と胃癌組織中のPlGF発現との間に正の相関を認めた。 【考察】以上の結果から、胃癌細胞組織中のPlGF高発現が RAM 治療耐性の予測因子になり、基礎 実験においても胃癌細胞中の PlGF 発現により、RAM による血管新生阻害効果が低下すると考えら れた。 【結語】胃癌組織中のPlGF発現を解析することにより、RAM の治療効果を予測できる可能性があ ることが示唆された。 【審査内容】主査の瀧口教授からは、①奏効率の評価方法、評価不能病変に対する評価方法につ いて、②他の癌腫における PlGF の発現について、③今後の企業との共同研究の可能性、今後の 研究の方向性をなどにつき計7項目の質問があった。第一副査の高橋教授からは、①PlGF 発現 量をΔCT=12 により 2 群に分けているが、この cut off 値はどのように設定したのか、②PlGF 発現が高い症例は低い症例に比較して血管密度は高いのか、③コンパニオン診断について、など 計8項目にわたり質問がなされた。第二副査の飯田教授からは、①胃癌細胞における VEGFR1 の 発現について、②胃癌細胞の siRNA における transfection の導入効率について、③AKT など ERK 以外の VEGF シグナルの下流経路について、など計 10 項目にわたり質問がなされた。これらの質 問に対し、一部返答に窮することもあったが、おおむね満足すべき回答が得られ、学位論文の主 旨を十分理解していると判断した。本研究は、胃癌組織中の PlGF 発現を解析することにより、 RAM の治療効果を予測できる可能性があることを見出し、胃癌に対する RAM 療法におけるバイオ マーカーとしてのPlGFの意義を明らかにした。 よって、これらの新しい知見を報告している本論文の筆頭著者は博士(医学)の学位を授与する に相応しいと判断した。 論文審査担当者 主査 瀧口修司教授 副査 高橋 智教授、飯田真介教授