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保育者が子どもとわかり合おうとする関係構築プロセスに関する研究<要約>

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Nagoya City University Academic Repository

学 位 の 種 類 博士 (人間文化) 報 告 番 号 甲第1769号 学 位 記 番 号 第31号 氏 名 上村 晶 授 与 年 月 日 令和 2 年 3 月 25 日 学位論文の題名 保育者が子どもとわかり合おうとする関係構築プロセスに関する研究 論文審査担当者 主査: 上田 敏丈 副査: 野中 壽子, 谷口 由希子

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保育者が子どもとわかり合おうとする

関係構築プロセスに関する研究

【要旨】

2019 年度 博士論文 提出日 2019 年 11 月 12 日 名古屋市立大学大学院 人間文化研究科 人間文化専攻 指導教員 上 田 敏 丈 准教授 学籍番号 154801 氏 名 上 村 晶

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本研究は、相互主体的関係に着目した鯨岡(2006,2011)の関係発達論に依拠しながら、 保育者の子ども理解を「保育者が子どもとわかり合おうとする関係構築プロセス」という 視座から問い直し、複線経路・等至性アプローチ(TEA)を用いながら、保育者の熟達化 に応じた関係構築プロセスの差異や、子どもとわかり合おうとする際の見とり・判断根拠・ 背景要因などがどのように異なるのかを、短期・中期・長期スパンの 3 つのレベルから明 らかにすることを目的した。 第1 章では、従来の子ども理解研究に関する概念整理を行った。特に、子ども理解の視 点・方法に関する知見整理を通じて、子どもの表面的側面・内面的側面・文脈的側面・継 続的側面などの多様な側面に着目して情報収集をしていること、また、子どもとの客観性 の有無や他者との共有の有無によって、客観的アプローチ・相互的アプローチ・共有的ア プローチなどの方法に類別されることが見出された。その上で、保育者と子どもの関係性 の視座から子ども理解を捉える必要性や、保育者が子どもとわかり合おうとする関係構築 プロセスに焦点を当てる必要性について言及した。 第 2 章では、本研究が依拠する質的研究法として複線径路・等至性アプローチ(TEA) について述べた。特に、発生の三層モデル(TLMG)を踏まえて、保育者の見とりから子ど もに関する新たな価値や信念が生成されていく内化・外化プロセスや、多様な価値変容の 様相を明確にできる可能性について述べた。また、子どもとの関わり合いの中で互いにわ かり合おうとする関係の実感の程度を、同時並行的に捉える Parallel-TEM を通して、保育 者が子どもとわかり合おうとする関係構築プロセスを可視化していく意義に言及した。 第 3 章では、本研究の予備調査的位置づけとして、子どもとわかり合えたか否かの判断 根拠が、保育者の熟達化に応じてどのように異なってい るのかを明らかにした(研究 A)。 166 名の保育者への無記名式質問紙調査を実施し、保育者の熟達化区分に応じて子どもと わかり合えたか否かの判断根拠を明らかにした結果、保育者の熟達化に伴い、保育者主観 的思考優先の関係性から、徐々に子どもと共にわかり合おうとする関係性の中で判断する ことが見出された。また、保育者の熟達化に応じて、保育者自身が子どもの立場に立って 捉え直したり感じ取ったりするような“子ども側への入り込み”が徐々に可能になること が推測され、保育者と子どもの関係性を捉える視座が変容しつつあることが示唆された 。 第 4 章では、“子どもとわかり合えない”と感じやすい 3 歳以上児の異年齢保育に携わ る初任保育者に着目し、子ども理解のゆきづまりの構造や諸要因を明らかにする(研究 B) と同時に、初任保育者がわかり合おうとする関係を構築する際の重要な転機と要因を解明

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した(研究 B’)。3 名の初任保育者のゆきづまり場面を、TLMG を踏まえて TEM で分析し た結果、表面的理解・判断に基づくゆきづまり、個と集団のバランスに基づくゆきづまり、 本児理解の的確さに対する自信欠如に基づくゆきづまりが見出された。また、二者関係内 要因、他児・集団要因、初任期特有要因、個人内要因などの多様な要因がゆきづまりに影 響を及ぼしていたと同時に、本児のネガティブな見とりだけでなくポジティブな見とりも ゆきづまりを生じやすいことが明らかになった。さらに、1 名の初任保育者に焦点を当て、 TLMG を踏まえて TEM で分析した結果、1 年を通じてゆきづまりを克服していく中で多様 な葛藤や戸惑いが見出されると同時に、子どもへのわからなさから生じた「わかりたい」 と切望する意思が関係構築の転機になることや、感情制御の困難さ・保育者個人の成育歴 や過去体験に基づく価値観などが関係構築を阻む要 因となることも見出された。 第5 章から第 7 章では、保育者の熟達化に応じて、子どもとわかり合おうとする関係構 築プロセスを明らかにすると同時に、そのプロセスに及ぼす重要な要因を見出した(研究 C/D/E)。同系列法人に勤務する初任期・若手期・中堅期の各 1 名の保育者と 2 歳児の 1 年 間の関わり合いに焦点を当て、Parallel-TEM で分析した結果、関係構築プロセスは、①関 係構築手探り段階、②関係疎遠・葛藤・非手応え感などが生じる迷走・非確信段階、③関 係促進の転機が生じわかり合えてきた実感を有する関係促進萌芽段階、 ④わかり合えた実 感を抱く相互的理解段階、の概ね 4 つの段階を経ていることが見出された。 その上で、第5 章では、初任保育者と 2 歳児の関係構築プロセスに影響を及ぼす要因を 明らかにした(研究 C)。本児発信の行為が一貫性を帯びていても、理由や原因を探索する か率直に受容するかなど初任保育者の“受け止め方の差異”がその後の関係構築を左右す ること、初任保育者の“自信のなさ”には初任期特有要因と個人内要因に由来する 2 種類 の自信のなさが潜在していることが見出された。また、保育者と子どもを取り巻く人的環 境の変化は、初任保育者にとって多様な混乱や葛藤が生じる関係構築途上の阻害要因とな る一方、子どもとわかり合おうとする関係を構築していく意識を奮起する促進要因として も作用していることが明らかになった。 第6 章では、若手保育者(2 年目)と 2 歳児の関係構築プロセスに影響を及ぼす要因を 明らかにした(研究 D)。その結果、子どもがわからないからこそわかろうとする“子ども へのわからなさに由来する尊重志向性”や、本児発信に対する受信的関わりや感情共有な どが関係構築を促進する上で重要であることが見出された。また、関係構築途上で直面し た様々な障壁が、丁寧な状況判断や次なる手立てを検討するなどの省察を深める契機とな

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りうることや、園内で見られた可視的情報だけでなく各家庭での姿など非可視的情報にも 目を向ける視点を徐々に有し、視野を拡充しながら情報収集していることも見出された。 第7 章では、補佐的立場や職位異動など多様な働き方が想定される中堅期の保育者の中 で、年度途中の担当者変更を経験した中堅保育者(7 年目)と 2 歳児の関係構築プロセス に影響を及ぼす要因を明らかにした(研究 E)。中堅保育者は、子どもとわかり合おうとす る際に、本児視点や俯瞰的視点など多角的・包括的に子どもを捉えながらわかり合おうと していること、また、年度途中の担当者変更というクラス環境変化は、保育者と子どもに 葛藤の共鳴を引き起こすと同時に、担当保育者としての転機と専門職としての転機を併せ た重層的転機となりうることも明らかになった。さらに、新たな関係構築を試みようと新 たな目標(二次的等至点)を設定したとしても、すぐに価値変容に至ることが難しいこと や、保育者と本児の狭間で作用し合う“二者関係内要因”だけでなく、職場内で互いにわ かり合おうとする園風土など保育者と本児を取り巻く“実践コミュニティ要因”も、わか り合おうとする関係構築を促進する遠因となることが示唆された。 第8 章では、子どもとわかり合おうとする関係の促進に着目し、保育者の熟達化に応じ た価値変容の特徴を解明すると同時に、その際の判断根拠や背景要因の差異を明らかにし た(研究 F)。2 歳児との関わり合いを 1 年間担当・追跡した 11 名の保育者(1-15 年目) を対象に、子どもとわかり合おうとする関係が促進した関係促進転機場面と、わかり合え た実感を確信として抱いたわかり合えた確信生起場面に着目し、TLMG を踏まえて TEM で分析をした。特に、関係促進転機場面からわかり合えた確信生起場面へ至るプロセスに 着目した結果、保育者の熟達化に伴い“わかり合い”を捉える視座に質的な差異が生じて いたことが見出された。初任・若手期の保育者は“保育者視座”から“保育者-本児相互 関係視座”への転換が見られた反面、中堅前期の保育者は“保育者-本児相互関係視座” から捉えることを概ね基盤としていた。また、中堅後期の保育者は “本児視座”を経由し てから改めて“保育者-本児相互関係視座”に立ち返った上で、わかり合えた確信を抱い ていた。同時に、わかり合いが生じる際の判断根拠は、どの経験年数の保育者にも “本児 変化根拠”が顕在化した一方で、初任・若手期は、外在する他保育者と本児の関係性を手 掛かりに比較する“他者比較根拠”など、外部他者との比較を判断根拠にしながら信憑性 や妥当性を見出そうとしていたが、中堅前期では、比較対象とする他者が園内の他保育者 から保護者へ変化すると同時に、接触通底などの“相互共有的根拠”が見られ始めること、 さらに中堅後期には、“本児視点的根拠”が顕在化することが明らかになった。加えて、こ

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れらの背景要因として、クラス環境変化や安心的園風土などの“実践コミュニティ要因” が見出されたと共に、経験年数を重ねるにつれて“保育者特性自覚化”や“本児本質への 信頼”なども関係促進の誘因として作用しており、“わかり合い”の質的変化には、熟達化 に応じた判断根拠や背景要因の差異が影響していることが示唆された。 終章では、前章までの知見を総括し、総合考察を行った。特に、保育者が子どもとわか り合おうとする関係構築の視座から捉えた子ども理解の新たな示唆として、わかり合おう とする基盤となる実践コミュニティを踏まえた上で、望遠鏡的理解、直視応答的理解、俯 瞰協働的理解の 3 つのフェーズを通じた『共有世界拡大モデル』を提案すると同時に、本 モデルに依拠した子ども理解に関する保育者研修の在り方について提言した。最後に、保 育者の子ども理解とは、①保育者と子どもが協働的に“わかり合い”を紡ぎ出す能動性を 有した絶え間ないプロセスであること、②熟達化に伴い保育者が子どもとわかり合おうと する関係性が変容しつつ深化していくこと、③保育者と子どもを取り巻く多様な文脈に開 かれた開放的な理解であること、の 3 点が本研究から得られた意義として見出された。

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