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発達障害のある子どもを育てる母親の経験における成長感とその関連要因─PTG(Posttraumatic Growth)の観点から─

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永原 康裕 *・佐田久真貴 **

発達障害のある子どもを育てる母親の経験における成長感とその関連要因

─PTG(Posttraumatic Growth)の観点から─

 本研究では,インタビュー調査によって,発達障害のある子どもを育てる母親の経験における成長感と その関連要因を明らかにし,発達障害のある子どもを育てる過程が母親にどのように経験され,影響した かを探索的に検討した。その結果,本研究に参加した全ての母親が,PTG(Posttraumatic Growth)の下 位カテゴリーと共通した成長を実感していた。成長感へ導いた要因として,コーピングでは,母親やその 周囲の人が子どもに支援的な関わり方をすることを通して,子どもの問題を解決するといった積極的な問 題焦点型コーピング,同じ境遇にある親仲間や信頼できる支援者に話を聴いてもらう,子どもを成長や懸 命に生きる姿といった肯定的な視点で捉えるといった積極的な情動焦点型コーピングが有効である可能性 が示唆された。ソーシャルサポートでは,家族や同じ境遇にある親仲間,辛い状況に陥った時に必ず助け てくれる支援者からのサポートが有効である可能性が示唆された。 キーワード:発達障害,母親,PTG,コーピング,ソーシャルサポート Ⅰ.問題と目的  歴史的に見ると,発達障害のある子どもを育て る母親の研究は,Olshansky(1962)の慢性的 悲嘆説のように,養育上の困難や悲嘆,ストレス といった否定的な解釈が主流だった。障害のある 人間は社会の重荷であると考えられ,その人と共 に暮らす家族は不幸であるという考え方が一般的 であった。母親の心理的側面に関する研究の多く は,その養育上の困難さを実証することに焦点を 当てている(阿尾, 2014)。もちろん,発達障害児・ 者やその家族が抱える困難さを実証する研究は, 行政・福祉制度の必要性を訴える上で,意義深い ものである。しかし,発達障害児・者やその家族 が諸制度を活用するにあたっては,「スティグマ」 (藤井, 2000)という大きな障壁があり,利用に ためらいを感じたり,肩身の狭い思いを経験した りする人がいるという現状がある。  近年の研究では,発達障害のある子どもを育て る母親として生きることができた経験に,肯定的 な意味や自己成長があったことを報告する母親が 存 在 す る こ と が 知 ら れ て い る(Hastings and Taunt, 2002)。母親たちが発達障害のある子ども に出会うことができたからこそ得られたかけがえ のない気づきや成長感を発信したことは,障害と 共に生きていく家族に力強い支えを与えただけで なく,現在困難な状況にいる家族に希望を与える ことにつながったと考えられる。そして,発達障 害のある子ども自身の存在を肯定することにもつ ながったと言える。共生社会の実現が叫ばれる今, 人々が障害の有無によって分け隔てられることな く,誰もが尊重される「真の共生社会」を築くた めには,彼らとの出会いの肯定的な面を捉え,広 く発信していくことが重要ではないだろうか。ま た,母親たちが自らの子育ての経験から成長感を 得ていく過程を聴き取ることを通して,養育で生 じる困難への向き合い方(コーピング)や必要な ソーシャルサポートを把握することにもつながる と考えられる。しかし,本邦では,母親の成長感 とその関連要因について検討した研究は少ない。  臨床心理学の領域では,困難な状況に直面した 人々が,様々なストレスを経験しながらも,それ *  京都市発達障害者支援センター「かがやき」 ** 兵庫教育大学発達心理臨床研究センター

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場所を調査参加者と著者双方の合意の上で決定し た。  4.調査手続き   半構造化面接によるインタビュー調査を1人に つき1回実施した。面接は,開(2006)を参考に, 著者が作成した質問項目に沿って行われた。まず, 子どもの発達や行動上の問題に気づいたきっかけ について尋ねた。次に,子どもが障害の診断を受 けた時,どのようなことを感じたのか,そして, 診断を受けた後,どのようなことに苦しんできた のか,苦しいときにどのように対処したか(コー ピング),苦しいときに何が支えとなったか(ソー シャルサポート)を尋ね,時系列に沿ってこれま でを振り返った。調査参加者が面接に慣れてきた ところで,PTGについて触れる質問を行った。  5.分析方法   各調査参加者の逐語記録の内容を「子どもの発 達や行動上の問題への気づき」,「子どもが障害の 診断を受けた後に体験した苦悩」,「コーピング」, 「ソーシャルサポート」,「熟考」,「PTG」,「PTGへ導 いた要因」,「障害のある子どもを授かったことか ら悟ったこと」の8過程に分類し,母親間の共通 性や相違性について検討した。  6.倫理的配慮   本研究は,兵庫教育大学倫理審査委員会の承認 を得て実施された(承認番号:第2018−40号)。 Ⅲ.結果  1.Aさんの語り   (1)子どもの発達や行動上の問題への気づ き: 子どもが1歳過ぎの頃,私は,子どもの姉 が利用する児童館に,子どもを連れ添って通って いた。児童館には子どもと同じくらいの年齢の他 児童も通っており,私は,他児童と比較する中で, 子どもの行動が特異であるように感じた。そこで, 子どもが1歳半のときに,病院を受診したところ, 子どもに発達障害の診断が下った。私は,子ども の特異な行動の理由を理解すると同時に,大きな 心理的衝撃を受け,しばらくの間は,何をしてい ても涙がこみ上げてきた。 と向き合う結果,成長していく過程を表す概念と して,PTG(Posttraumatic Growth)が知られて いる(宅, 2016)。PTGは,他者との関係,新た な可能性,人間としての強さ,精神性的変容,人 生への感謝といった領域にもたらされることが知 られており(Tedeschi and Calhoun, 2004),海 外の先行研究では,発達障害のある子どもを育て る母親が高いPTGを経験していることが示唆され て い る(Strecker, Hazelwood, and Shakespeare-Finch, 2014)。しかし,本邦では,母親の成長感 についてPTGの観点から検討した研究は見当たら ない。母親の成長感とPTGとの関連を明らかにす ることは,臨床心理学におけるPTG研究の知見を 発達障害児・者の家族支援に援用する上において, 重要な役割を果たすことが期待される。  そこで本研究では,インタビュー調査によって, 発達障害のある子どもを育てる母親の経験におけ る成長感とその関連要因について,PTGの観点か ら検討し,発達障害のある子どもを育てる過程が 母親にどのように経験され,影響したかを明らか にすることを目的とした。 Ⅱ.方法  1.調査時期   2019年10月から2019年11月までであった。  2.調査参加者   発達障害のある子どもを育てる母親6名であっ た。調査参加者は,近畿地方で活動している発達 障害児・者の親の会の代表者を通じて研究協力を 依頼され,研究の主旨を理解した上で協力の意思 を示した者である。各参加者とその子どものプロ フィールをTable 1にまとめた。  3.調査場所   調査参加者の希望を確認し,落ち着いて話せる 2 る(宅, 2016)。PTG は,他者との関係,新たな 可能性,人間としての強さ,精神性的変容,人生 への感謝といった領域にもたらされることが知ら れており(Tedeschi and Calhoun, 2004),海外の先 行研究では,発達障害のある子どもを育てる母親 が高いPTG を経験していることが示唆されてい る (Strecker, Hazelwood, and Shakespeare-Finch, 2014)。しかし,本邦では,母親の成長感につい てPTG の観点から検討した研究は見当たらない。 母親の成長感とPTG との関連を明らかにするこ とは,臨床心理学におけるPTG 研究の知見を発達 障害児・者の家族支援に援用する上において,重 要な役割を果たすことが期待される。 そこで本研究では,インタビュー調査によって, 発達障害のある子どもを育てる母親の経験におけ る成長感とその関連要因について,PTG の観点か ら検討し,発達障害のある子どもを育てる過程が 母親にどのように経験され,影響したかを明らか にすることを目的とした。 Ⅱ.方法 1.調査時期 2019 年 10 月から 2019 年 11 月までであった。 2.調査参加者 発達障害のある子どもを育てる母親6 名であっ た。調査参加者は,近畿地方で活動している発達 障害児・者の親の会の代表者を通じて研究協力を 依頼され,研究の主旨を理解した上で協力の意思 を示した者である。各参加者とその子どものプロ フィールをTable 1 にまとめた。 3.調査場所 調査参加者の希望を確認し,落ち着いて話せる 場所を調査参加者と著者双方の合意の上で決定し た。 4.調査手続き 半構造化面接によるインタビュー調査を1 人に つき1 回実施した。面接は,開(2006)を参考に, 著者が作成した質問項目に沿って行われた。まず, 子どもの発達や行動上の問題に気づいたきっかけ について尋ねた。次に,子どもが障害の診断を受 けた時,どのようなことを感じたのか,そして, 診断を受けた後,どのようなことに苦しんできた のか,苦しいときにどのように対処したか(コー ピング),苦しいときに何が支えとなったか(ソ ーシャルサポート)を尋ね,時系列に沿ってこれ までを振り返った。調査参加者が面接に慣れてき たところで,PTG について触れる質問を行った。 5.分析方法 各調査参加者の逐語記録の内容を「子どもの発 達や行動上の問題への気づき」,「子どもが障害 の診断を受けた後に体験した苦悩」,「コーピン グ」,「ソーシャルサポート」,「熟考」,「PTG」, 「PTG へ導いた要因」,「障害のある子どもを授 かったことから悟ったこと」の8 過程に分類し, 母親間の共通性や相違性について検討した。 6.倫理的配慮 本研究は,兵庫教育大学倫理審査委員会の承認 を得て実施された(承認番号:第2018-40 号)。 Ⅲ.結果 1.A さんの語り (1)子どもの発達や行動上の問題への気づ き: 子どもが1 歳過ぎの頃,私は,子どもの姉 が利用する児童館に,子どもを連れ添って通って いた。児童館には子どもと同じくらいの年齢の他 児童も通っており,私は,他児童と比較する中で, 子どもの行動が特異であるように感じた。そこで, 子どもが1 歳半のときに,病院を受診したところ, 子どもに発達障害の診断が下った。私は,子ども の特異な行動の理由を理解すると同時に,大きな 心理的衝撃を受け,しばらくの間は,何をしてい ても涙がこみ上げてきた。 (2)子どもが障害の診断を受けた後に体験 した苦悩: 子どもは,じっとしていることがで

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めてくれたり,私の両親も同様に可愛いと言って 認めてくれた点で,自分は恵まれていたと思う。   (8)障害のある子どもを授かったことから 悟ったこと: 子どもに障害があってもなくても 可愛いと思えること,子育てを面白がること,楽 しむことは大切であると思う。子どもが小さい頃 は大変だと思っていたけれども,過ぎてしまえば, 本当にあっという間で,一緒に過ごしてきてよ かった,小さい頃に色々としてあげてよかったと 思う。  2.Bさんの語り   (1)子どもの発達や行動上の問題への気づ き: 子どもがショートスリーパーであったこと から,育児の難しさを感じた。他児の話を聞くと, 子どもが短い時間しか寝ないことは少ないらしく, 異変を感じた。また,ミニカーを延々と並べたり, 発語も遅かった。私は子どもを初めて育てていた ため,こんなものなのかなと思っていたが,毎日 がしんどかった。その後,一般の幼稚園に入園し た。その幼稚園に定期的に巡回に来る臨床心理士 から「すぐに診察を受けられるようにした方がい い」と言われ,年少の12月に,発達検査と診察 を受けた。そこで,発達障害の診断が下った。子 どもの障害が分かったときは,とても安 した。 自身の育て方が間違っているのではなく,この子 が生まれながらにして持っている特性なのだと思 うことができた。子どもに診断が下りたことを通 して,子育てを家族や他者に手伝ってもらえるの だと思ったときに,良かったと思った。   (2)子どもが障害の診断を受けた後に体験 した苦悩: 子どものこだわりの強さに悩まされ た。最寄り駅から電車に乗って出かける際は,駅 のエレベーターの昇り降りを繰り返すルーティン を行わないと電車に乗ることができなかった。私 は子どものこだわりに付き合い続けていたので, 時間通りに出発できないことが多々あった。   (3)コーピング: 我が子の場合,発達障 害の特性のため,善悪を判断すること,場の空気 を察知することが難しく,子どもの特性から起こ るトラブルの種を摘むことが必要であった。その   (2)子どもが障害の診断を受けた後に体験 した苦悩: 子どもは,じっとしていることがで きず,絶えず動き回っていた。私は,落ち着きの ない我が子を追いかけたり何処かに連れて行った りすることに奮闘し,精神面よりも体力面におい て,疲労を感じていた。また,子どもと会話が噛 み合わないことにも,困惑していた。そして,子 どもの問題に追われるあまり,姉の育児にまで手 が回らないことを気がかりに感じていた。   (3)コーピング: 子どもが診断を受けた後, 1歳2歳という早い時期から,幼稚園,療育園, 母子通園施設などの機関にひと月の半分は通うこ とにより,家庭で私と子どもの2人だけで籠もる ことがなく,外に出るように心がけていた。母子 通園施設では,子どもの躾を親に代わって先生に してもらったり,助言をもらったりしていた。す ると,徐々に指示が入るようになり,年々落ち着 いてきているように感じている。   (4)ソーシャルサポート: 子どもたちは 年齢が上がるにつれて,親の手を借りなくとも指 示に従えたり,姉弟で一緒に遊ぶことができるよ うになったりするため,子どもに支えられている のかもしれない。   (5)熟考: 子どもと出会うことがなければ, 一生知り合うことがなかったであろう人たちとの 出会いがあって,世界が広がったり,深く色々と 考えたりするようになったと感じている。療育園 で出会った他児の母親たちの中には,子どもの成 長を見守り,その子自身の良いところや伸びたと ころを見つけて,褒め合ったりできる人が多い。 私自身も,こうした出会いを通して,少しでも子 どものできるところを見てあげることができるよ うになった。   (6)PTG: 今があって本当に良かったと 思う。子どもに障害があっても,子どもは可愛い と思える。子どもを受け容れられることそれ自体 が成長なのだろうか。   (7)PTGへ導いた要因: 産まれた瞬間に 可愛いと感じたため,最初から受け容れていたよ うに思う。また,主人が素早く病院の段取りを決

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う。偉そうに聞こえるかもしれないが,それくら いの気持ちで生きていた方が幸せな気がする。  3.Cさんの語り   (1)子どもの発達や行動上の問題への気づ き: 子どもが2歳くらいの頃,言葉が出ない, 表情が乏しい,視線が合わない。また,色々なと ころを歩き回って常に追いかけている状況で,落 ち着いて生活することができず,異変を感じた。 3歳の頃,健常児の兄の子育てと比較して,発語 の遅れは明らかであったため,今後言葉が出ない のではないかと不安になり,知り合いに頼んで, 児童相談所を紹介してもらった。3歳4か月の頃, 児童相談所に併設されている診療所を受診し,自 閉症の診断を受けた。   (2)子どもが障害の診断を受けた後に体験 した苦悩: 家に帰ってから,主人に子どもが自 閉症の診断を受けたことを伝えたところ,主人は 怒り,取り合ってくれなかった。主人の身内から は,母親がおかしいと言われた。1番苦しんでい るのは,母親である私なのに,酷いと思った。ま た,精神科医の先生から「これはお母さんの育て 方のせいではありません」と言われたときは ショックだった。育て方の問題であるならば,誰 かに託せばよくなると思っていたが,育て方の問 題ではないことを知り,将来への不安が強くなっ た。   (3)コーピング: 信頼できる人たち(親 の会の会員,作業所の職員)に話すことや,問題 を一緒に解決することを常にしてきた。また,親 の会が主催する学習会に専門の先生を招き,困っ たことがあった際は学習会で先生に相談すると必 ず参考になる助言をいただけた。   (4)ソーシャルサポート: 小学校入学ま で通っていた療育園の園長先生が心の支えだった。 混乱の中で子育てをしているときに1番初めに 「大丈夫」と言ってくれた。その先生は,「しんど いもうだめって思った時にいつでも夜中でもいい から私に電話してきて」と言ってくれた。実際に 夜中にかけたことはないが,いつでも頼ることが できる存在がいるだけで頑張ることができた。ま ため,なるべく明確に指示を伝えてあげることを 心掛けていた。その方が子どもが後々生きやすく なるだろうと思った。   (4)ソーシャルサポート: 主治医の先生 を全面的に信頼し,何か困ったときは主治医の先 生に相談したら絶対大丈夫と思って育ててきた。 学校の先生も我が子が困っているときになんとか してやりたいと思って,動いてくださっている。 また,親の会では,母親同士で集まって話をする 場に参加し,情報収集を行うこともあった。   (5)熟考: 子どもを通して,自分が育ち 直すチャンスを得たと捉えている。そう思うと幸 運なのかもしれない。自分が今まで受けてきた子 育ての原則,目指している人物像,全てを取り払 い,全く違う人生を歩んでいる。   (6)PTG: 人に助けてもらう事は恥ずべ きことではないことを学んだ。何でもできなけれ ばならないということはない,みんな得意不得意 があり,スーパーマンを目指す必要はない,でき なくてもいいから,できるところを伸ばすことが 大切である。そのことを知れただけでも,子ども が私のところに生まれてくれた意味だと思う。   (7)PTGへ導いた要因: 私自身,空気を 察知して,先回りして,気の利いたことをするこ とを求められる生き方,育てられ方をしてきた。 子どもを産んですぐの頃は,そのような感じのま まだったけれども,子どもに障害があることで, 1人で育てるのは難しいと言ってもらえたから, 何事もそれでいいかもと徐々に思えるようになっ たことは良かったなと思う。   (8)障害のある子どもを授かったことから 悟ったこと: 自分ひとりで抱え込まないことが 幸せにつながるのかなと思う。できませんや助け てくださいをためらいもなく言えることが大事で あると思う。意外と助けたいと思ってくださって いる人は多い。誰かに貢献できることが幸せな気 持ちにつながるのだとしたら,お互いに誰かに貢 献し合えるような感覚を味わえる経験ができるこ とが幸せなのかなと思う。「助けて」と言うこと で意外と誰かの幸せに貢献できているのかなと思

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コミュニケーション能力に欠けていたり鈍いとこ ろがあったと思う。2歳時検診の時に発達の遅れ があるということで児童相談所に行き,療育を受 け始めた。療育に通い始めたけれども,他の子た ちは喋れるようになるのにうちの子は喋れないの で,これはただ単に言葉が遅いだけじゃないなと 段々思ってきた。3歳位からパニックを起こすよ うになったり,自傷行為を起こしたり,私への暴 力もあって,親子で傷だらけという時期があった。 5歳半の時に受診して,自閉症の診断を受けた。   (2)子どもが障害の診断を受けた後に体験 した苦悩: カラーだった世界が全部色を失って しまったような受け止めきれないくらいの絶望感, この先私たちに何一つ幸せなんて訪れないと思っ た。一体どうして私たち親子にという気持ちが払 拭できない。自分の子どもに障害があるというこ とを受け入れられないという感じだった。   (3)コーピング: 1番大切な事は子ども が安全に過ごせる環境を整えることだから,何が 起こってもそのために自分ができることは何かを 常に考えるようにした。子どもから出た言葉や行 動を全部データに採ったところ,子どもの発する 言葉が全て質問だと分かった。子どもは常に不安 を感じているのだと知り,きちんと情報を与えて あげることで不安を解消することを心掛けた。   (4)ソーシャルサポート: 何が支えになっ たかを考えたこともなかった。子どものことが大 切だから何があっても絶対逃げることなく運命共 同体で絶対自分が支えるという思いだった。誰か に支えられる間もなく,何ができるかって思うか ら,支えなんてないかもしれない。   (5)熟考: 自分が当たり前に親から受け 継いできた事がどんなにありがたいことだったの か,脳も正常に機能しているということがどれだ けありがたいことなのかと思う。そして,たとえ 何かできなくても真面目に精一杯生きているとい うことがどれだけ尊いかということに気がついた。 結果だけではないところでの価値に気がついた。   (6)PTG: 人間関係がシンプルになった。 障害のある子どもの母親とは付き合いづらいと思 た,子どもが診断を受けたときの無理解に対する 悔しさにも支えられた。ここで挫けてしまえば, その無理解を肯定することになってしまうと思っ た。そうではなくて,自分が強くなり,家族を守 ることで,1番身近な夫を理解者にすることが私 の課題であると思った。そして,実家の母や弟は 何も言わずに,ただひたすらに支えてくれた。   (5)熟考: 子どもの障害が分かったとき から,この子を育てることが私の人生の意味だと 思ったし,今でも思っている。人間関係を作って こない子なので,私が作らないといけない。だか ら,この子のおかげで,子育ても濃いし,人間関 係も濃い。健常児ばかりの子育てではこういう感 じではなかっただろうなと思う。   (6)PTG: 今,ヘルパーの仕事をしてい るが,その仕事がとても楽しいし,障害のある子 どもを育てた経験がとても活かされている。利用 者の中には,子どもが障害を持ってしんどい母親 もいる。自分の身分は明かせないが,その母親の 気持ち,何を感じているのか,何を求めているか がわかる。だから,寄り添えているかなという気 持ちを勝手に抱いている。   (7)PTGへ導いた要因: 今しんどいかも しれないけどきっと大丈夫,絶対楽しいよという 気持ちがあるからだと思う。だから笑顔でいれる。 かわいそうやなぁなんて思えない。例えばこれを 経験しなかったらかわいそうなお母さんやなって 思っていたかもしれない。そんなことないよって やっぱり自分が思っているから,そのお母さんを 心から応援したくなる。   (8)障害のある子どもを授かったことから 悟ったこと: 何もないことが幸せではないとい う感じはしている。困難の中で一生懸命生きてい くというのも1つの幸せだと思う。しんどいこと にも取り組めるところに幸せを感じられてエネル ギーをもらえる。  4.Dさんの語り   (1)子どもの発達や行動上の問題への気づ き: 次男は赤ちゃんの時から泣かない子で,お となしい子かなと思っていた。言葉も遅く,少し

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した苦悩: 問題行動が多くあったため,姑から の当たりが強く,「親戚の集まりに出ないでくれ。」 と言われたことは,精神的に辛かった。また,子 どもの兄の友人の親から,「あそこの子は変だ」と 陰口を叩かれたことが1番辛かった。   (3)コーピング: 療育施設の先生は子ど もを預かっている間に親を集めて講義をしてくれ た。そこで色々教えてもらったり,困っているこ とを質問したらそれに答えてくれたことが1番大 きかったと思う。それと,一緒に療育している親 仲間と大変さを分かち合える場があったことは貴 重だったと思う。   (4)ソーシャルサポート: 親の会。色々 と経験している先輩の母親からアイデアをもらえ ることがとても助かった。   (5)熟考: 子育てに無我夢中で取り組み, 自分のことを全然してこなかった。また,子供を 育てるのもしながら,主人の親の介護が必要に なったときに二重介護の時期もあったので,自分 のことを考える時間がなかった。   (6)PTG: あれだけしんどいことをやっ てきたのだから,多少のしんどいことは一つひと つできるのかなと思える。子育てを通して,自分 自身を強くしてもらい,自信につながっていった。 あの子がいたから知り合えた人もいっぱいいた。 それは,すごく貴重なことをさせてもらえたと思 う。その点では,すごく感謝している。   (7)PTGへ導いた要因: 理由は自分では わからないけれども,気がついたら変わっていた。 それは日々の積み重ねだと思う。気がついたら自 信のある自分がいた。   (8)障害のある子どもを授かったことから 悟ったこと: 私の子どもに生まれてくれる運命 だったのだなと思う。  6.Fさんの語り   (1)子どもの発達や行動上の問題への気づ き: 1歳半検診で医師から「この子は自閉的傾 向の特性を持っているからこのまま放って置くと 自閉症になる」と言われた。私自身は自閉症がど のようなものであるか全く知らなかったので, う人は,「何にでも理解できるお母さん」と世間一 般に思われている人でも近寄ってこない。だから 友達を選ばなくなる。本当に自分の味方になって くれる人だけが近寄ってきてくれる。あと,自分 で自分のことが嫌いだったけれども今は自分のこ とを大好きになった。私自身は,元々器用な人間 でそつなくこなすことが得意だったから,1つの ことに何も努力ができなくて,何事にも一生懸命 になれなくて,何かをやるけれどもすぐ飽きてし まって,人生がつまらなかった。けれども,一生 懸命にならざるを得ない状況になったので,一生 懸命やるしかないってやっている自分がいつの間 にか頑張っていると思えるようになった。   (7)PTGへ導いた要因: 子どもが小中学 校の時は,そんな風な気持ちになれてなかったか もしれない。でも高等部を卒業するときにはそん な気持ちになれていたので,きっかけがあったか らというよりも,徐々にかなと思う。あの子が成 長することがすごく喜びだし,自分が支えている ようで実はあの子のためにいろいろがんばってき たことに支えられている。   (8)障害のある子どもを授かったことから 悟ったこと: 人生は選べないということ。だか ら,それを嘆いても仕方がないから,目の前にあ ることを解決できることだったらやってみるかな という感じで,なるようにしかならないから今で きることをできる範囲で気が向けば頑張るという 感じでいいのではないかと思う。  5.Eさんの語り   (1)子どもの発達や行動上の問題への気づ き: 歳上の兄がいたので,1歳になる前後の時 に遅さは気づいてた,1歳半検診で遅いですと言 われ,毎月保健所に通ってくださいと言われたと きに,上の子のときはそんなことなかったので, 異変をはっきり感じた。子どもが2歳のころ,児 童相談所からケースワーカーを紹介してもらった。 そこから,児童精神科医の先生のところに繋がり, 3歳時に自閉症の診断を受けた。そのときはとて もショックであった。   (2)子どもが障害の診断を受けた後に体験

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がしたから,そのように思える。   (8)障害のある子どもを授かったことから 悟ったこと: 苦労もしたけれども,楽しみもさ せていただいた。今回インタビューがあって,色々 と聞かれて思い出しながら話したけれども,今か ら振り返ってみると大変なこともあったけれども, 楽しいことや面白いこともあった。 Ⅳ.考察  1.子どもの発達や行動上の問題への気づき  子どもの問題に気づく時期として,先行研究(夏 堀, 2001)では,1歳半から2歳までの時期が示 されており,本研究に参加した母親の多く(事例 A,事例C,事例D,事例E,事例F)が同様であっ た。また,気づいたきっかけとして,多くの母親 が「他児との比較」(事例A,事例B,事例D),「きょ うだいとの比較」(事例C,事例E)を通して,発 達や言葉の遅れを感じたことを挙げていた点も, 先行研究(藤澤・野中, 2011)と一致していた。 診断を受けた際の気持ちとしては,本研究の結果 から,肯定と否定の両面的な気持ちが存在するこ とが示唆された。PTGの理論モデル(Tedeschi and Calhoun, 2004)では,「信念や世界観を揺る がすような破壊的な出来事」がPTGの引き金とし て必要不可欠であり,それが前提条件になるとさ れる(宅, 2016)。つまり,経験した当人がその 出来事をどのように受け止めたかという「主観的 体験」が重要であり,世界観が崩壊する出来事に つながるかどうかは個人差がある。母親の語りか らは,子どもが障害の診断を受けたことを前向き に捉える向きもあることが示されており,発達障 害のある子どもを育てる母親の全てがPTGのプロ セスをたどるものではないことを示唆している。  2.子どもが障害の診断を受けた後に体験した 苦悩  母親が体験した苦悩として,①多動や限定され た興味,コミュニケーションの障害などによる養 育上の難しさ(事例A,事例B,事例E,事例F), ②子どもの特異な行動に対して家族や周囲から理 解を得ることの難しさ(事例C,事例E),③子ど 色々な病院を巡ったけれども,私と子どもを囲ん で,モルモットを見るような感じで的外れな質問 の内容を受け,嫌な雰囲気だった。私自身よりも 子どもが大変だと思ったため,病院巡りをやめた。 問題に気づいてはいたが,私も主人も自閉症の何 たるかを全く勉強もせずに過ごしてきた。   (2)子どもが障害の診断を受けた後に体験 した苦悩: 子どもが夜中に起きて声出しながら 部屋中を 徊していたことである。そのときは, 私自身,睡眠障害に悩まされた。   (3)コーピング: 趣味は大切かなと思う。 親が元気でなかったら子どもは大変だと思う。そ れと,私自身がストレスで血管が詰まり,40日 余り入院していた時,主人がフレックスタイムで 働いてくれたり,子どもの兄の同級生の母親や地 域の人が家の様子を見に来てくれたりして,子ど もをどこにも預けることなく,家から通所施設に 通わせることができたときは助かった。あと,我 が家の場合は,子どもの障害をオープンにし,地 域の人に知ってもらえるようにしていた。   (4)ソーシャルサポート: 家族。主人の 場合,子煩悩で,休みの日には,子どもを連れて 外出してくれる。その間,私は好きなことをでき るため,楽に過ごすことができ,とても感謝して いる。あと,小さいときは,子どもの兄が世話を してくれたことも大きかった。   (5)熟考: この子がいるからどうのこう のとか,何か神様から与えられた試練とか,そう いうことを感じたり考えたりしたことはない。   (6)PTG: 許容範囲が広くなった。「まあ ええやん」とか,「そういうこともあるわな」とい う風に,物事を見られるようになった。かつては 「なんでこんなこと言うの」と思っていたところ でも,「いろんな人がいるんだな」と思えるように なった。私もどこかで許してもらっているだろう し,仕方がないなと思える。   (7)PTGへ導いた要因: 子どもを見てい たり,親の会に入っていろんな子のことを見聞き したりすると,普通の子でもいろんな子がいるの と一緒で,自閉症にもいろいろあるなという感じ

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たことの有益な側面を見出していることが明らか になった。一方で,2人の母親(事例E,事例F)は, 子育ての経験を通して,人生の意味や目的につい て考えたことは「ない」と回答した。その理由と して,日々の子育てに奮闘し,様々な養育上の問 題への対応を迫られる中で,自らの生涯を省みる 時間的・精神的余裕はないことが語られた。この ことから,意味づけは個人差の大きい体験である ことが示唆された。  6.PTG  本研究に参加した全ての母親が,他者との関係 (事例B,事例D,事例E),人生への感謝(事例A, 事例D),人間としての強さ(事例E),新たな可 能性(事例B,事例C,事例F)といった,PTGの 下位カテゴリーと共通した成長を実感していた。 他者との関係では,同じ境遇にある親や支援者と の出会いや,他者を必要とすることを受容できる ようになったことが挙げられた。人生への感謝で は,かつての自分とは異なる新しい自分との出会 い,我が子との出会いに対する感謝の気持ちが語 られた。人間としての強さでは,困難な子育てを 乗り越えることを通して,自信をつけ,強くなる 母親の姿が窺えた。新たな可能性では,母親が自 らの子育ての経験を活かし,他の発達障害児やそ の母親への支援を行うヘルパーとして成長した姿 や,人々が多様な存在であることに対する理解が 深まった様子が見られた。これらの結果から,先 行研究と同様に,発達障害のある子どもを育てる 母親は高いPTGを経験している可能性が示唆され た。  7.PTGへ導いた要因  PTGを実感できた理由として,「夫や実父母」(事 例A)からの支えや,「1人で育てるのは難しいと 言ってもらえた」(事例B)ことを挙げる母親が 存在したことから,家族や周囲の人からのソー シャルサポートを知覚することが,母親の変容に 寄与している可能性が示唆された。先行研究では, 発達障害のある子どもを育てる母親に対するソー シャルサポートは,障害受容を高める効果がある こと(石本・太田, 2008),また,PTGとソーシャ もの将来に対する不安や絶望感(事例C,事例D), などが挙げられた。これらの苦悩は,先行研究(湯 沢・渡邊・松永, 2007)で挙げられたASD児を育 てる母親のストレス要因と一致している。このこ とから,本研究に参加した母親が語った苦悩は, 発達障害のある子どもを育てる母親の多くが直面 する内容であると考えられる。  3.コーピング  全ての母親が,役割分担(事例A,事例C,事 例D,事例F),情報収集(事例A,事例C,事例E), 計画立案(事例B,事例D)のような積極的な問 題焦点型コーピングを使用していた。この結果か ら,母親やその周囲の人が子どもに支援的な関わ り方をすることを通して,子どもの問題を解決し ていくことが,母親のストレスを軽減させること につながっていると考えられる。また,カタルシ ス(事例C,事例E)のような積極的な情動焦点 型コーピングを使用している母親も存在したこと から,同じ境遇にある親仲間や信頼できる支援者 に話を聴いてもらうことは,母親のストレス軽減 に功を奏していると言える。  4.ソーシャルサポート  「親の会」を挙げた母親が複数名存在すること から,先行研究(湯沢ら, 2007)と同様に,同じ 境遇の親からのサポートが有効である可能性が示 唆された。母親が親の会に属することは,子育て のロールモデルを獲得し,子どもの将来の見通し を立てることにつながっていると考えられる。  また,フォーマルなサポート源として,事例Bは, 「主治医」を挙げ,困ったときは主治医に相談し たら絶対に大丈夫だと思って育ててきたことを 語った。また,事例Cは「療育園の園長先生」を 挙げ,いつでも頼ることができる存在がいるだけ で頑張ることができたと語った。両者の語りは, 大変辛い状況に陥った時に必ず助けてくれる支援 者の存在が,母親の子育てに対する自己効力感を 高めている可能性を示唆している。  5.熟考  本研究に参加した6人の母親のうち3人(事例A, 事例B,事例C)は,障害のある子どもを授かっ

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藤澤 亜弥・野中 弘敏(2011). 障害児を持つ親 の障害受容過程及びそれに伴う困難―質問紙 調査を通して― 山梨学院短期大学研究紀要, 31, 126-144.

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とソーシャルサポートとの関連 昭和女子大 学生活心理研究所紀要, 10, 119-129.

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The feeling of growth and related factors in mothers who raise children with

developmental disorder

―From a viewpoint of PTG (Posttraumatic Growth)―

Yasuhiro Nagahara*, Maki Sadahisa**

*Support Center for Persons with Developmental Disabilities, Kyoto City

**Center for Development and Clinical Psychology, Hyogo University of Teacher Education

In this study, we focused on the feeling of growth and related factors in mothers who raise children with developmental disorder by interview survey. The results showed that all mothers had feeling of growth which is in common with the subcategory of posttraumatic growth (PTG). In addition, it was suggested that there were two types of coping related to the feeing of growth. One was active problem-focused coping in which mothers and people surrounding children solve children’s problems by involving supportively. The other was active emotional-focused coping. For example, talking with mothers whose children have similar disorder and/or with trusted friends, or seeing their children from positive points of view such as their growth and/or how hard they try to live their lives. Furthermore, it was suggested that there are social supports related to the feeling of growth. One’s family and other parents whose children have same disorder, and dependable supporters are indicated as effective social supports. Key Words : developmental disorder, mother, PTG, coping, social support

参照

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