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食・農クラウド「Akisai」とセンサネットワークの活用

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食・農クラウド「

Akisai

」とセンサネットワークの活用

渡邊

勝吉

a)

Take Advantage of the Food and Agriculture Cloud “Akisai” with the Sensor

Network

Katsuyoshi WATANABE

†a)

あらまし 日本の農業は,これまでベテラン生産者の「経験と勘」に支えられて発展してきた.近年のクラウ ド・コンピューティングの急速な進展を後押しに,ICT の活用が立ち遅れていた農業分野においても,より迅速 に,容易に,そしてコストを抑えながらシステムを利用できる環境が出来上がってきた.本論文では,富士通が 提供している食・農クラウドサービスを取り上げて,その機能と活用事例について,特にセンサネットワークの 観点から紹介し,今後の課題や方向性について述べる. キーワード 食・農クラウド,農業クラウドサービス,クラウド・コンピューティング,Akisai

1.

ま え が き

農業は,食料の供給,雇用,自然環境の維持など多 面的な機能を果たしている.しかし日本では,高齢化 が進み,耕作放棄地も拡大の一途をたどっている.ま た,海外に目を転じれば,農業に必要な水不足の進行, 農地の砂漠化,人口増大,富裕層の拡大による食料需 要が拡大する一方,飢餓に直面する人々が増加するな ど,世界規模での食・農問題への対応が喫緊の課題で ある. 日本の農業は,これまでベテラン生産者の「経験と 勘」に支えられて発展してきた.「経験と勘」からデー タに基づいた精密農業を目指した技術開発が関係機関, 企業等で行われてきたが,実際の農業現場への普及と なると,なかなか思うように展開できずにいるのが現 実である.ICTの活用が立ち遅れていた理由は,ハー ドとソフト両面で現場において使える端末が少なかっ たこと,ICTの投資対効果や投資回収計画が明確でな かったこと,農業生産には予測不可能な要素が多数あ り,「経験と勘」に頼らざるをえない部分が存在してい ることなどが考えられる. しかし,近年のクラウド・コンピューティングの急 富士通株式会社ソーシャルイノベーションビジネス統括部,東京都

Social Innovative Business Division, Fujitsu Limited, 1–17– 25, Shinkamata, Ota-ku, Tokyo, 144–8588 Japan

a) E-mail: [email protected] 速な進展を後押しに,ICTの活用が立ち遅れていた 農業分野においても,より迅速に,容易に,そしてコ ストを抑えながらシステムを利用できる環境が出来上 がってきた. 本論文では,富士通が提供している食・農クラウド サービスを取り上げて,その機能と活用事例について, 特にセンサネットワークの観点から紹介し,今後の課 題や方向性について述べる.

2.

食・農クラウド『

Akisai

(秋彩)』

2. 1 Akisaiの概要

富士通は『FUJITSU Intelligent Society Solution

食・農クラウドAkisai(秋彩)』という名称で,経営, 生産,販売という切り口から,露地栽培,施設栽培, 果樹栽培,畜産分野をトータルにサポートする様々な サービスを提供している[1].Akisaiのコンセプトを 図1に示す.生産現場でのICT活用を起点に生産・流 通・消費者をバリューチェーンで結び,豊かな食の未 来へICTで貢献するためのサービス群である.サー ビス体系を図2に示す. 経営という視点では,農業法人などの経営管理(会 計・税務申告等)の効率化と高度化を支援するサービ スを経営形態,経営規模に合わせて数種類用意して いる. 生産という視点では,生産者や流通業者のマネジメ ントを行う機能を農業生産管理SaaSとして提供して

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図 1 食・農クラウド『Akisai』のコンセプト [2] Fig. 1 Concept of the food and agriculture cloud

“Akisai”.

図 2 食・農クラウド『Akisai』のサービス体系 [3] Fig. 2 Service system of the food and agriculture

cloud “Akisai”. いる.これらを利用することにより,生産性向上,高 品質/ブランド化対応,人材早期育成,4定(定量・定 時期・定品質・定価格)調達を実現し,食のブランド 強化や収益改善に貢献することを目指している.ま た,温室に特化したサービスとして施設園芸環境制 御SaaS,畜産農家向けの牛歩SaaSや肉牛生産管理 SaaS,サンプリング採取した土壌を分析した結果から 施肥設計を行う土壌分析施肥設計SaaSなどが商品化 されている. 販売という視点では,6次産業化として加工原料の 調達から加工品としての販売業務を支援するサービス を提供し,更に大量の農産物の集出荷を効率良く行う サービスを提供予定である. 2. 2 農業生産管理サービス 生産者側の生産・作業・収穫・出荷の計画と実績を 管理,集計・分析し,農業の経営・生産・品質の見え る化とPDCAのマネジメントを行う生産マネジメン ト機能や,多数の契約生産者と連携し,食品加工・卸・ 図 3 農業生産管理サービスの利用イメージ [4] Fig. 3 Use image of the agricultural production

man-agement service. 小売・外食などの企業向けマネジメントを行う集約マ ネジメント機能を農業生産管理SaaSとして提供して いる.生産者が使う農業生産管理とクラウドシステム のイメージを図3に示す. クラウドを活用した農業生産管理は,三つのブロッ クから成り立っている.生産現場では,日々の生産活 動から生まれる様々な情報を収集することが起点とな る.農地の状態や作業の状況を圃場に設置した各種セ ンサやカメラ等で自動的にセンシングすることや作業 実績,生産履歴,生育情報などの気付きをスマートフォ ンやタブレットなどの携帯端末を使って入力すること により,データを活かした農業経営が実践できるよう になる.現場での入力システムは,作業環境や作業者 のストレスを考えると,できるだけ簡単に行える方 が望ましい.バーコードやRFID(Radio Frequency Identification)などの電子標識,音声認識などを使う 方法が既に実用化されている[5].また,携帯端末に 内蔵されているGPS位置情報や加速度センサなどを 組み合わせて使うと,より一層現場での入力が便利に なる. データセンタは,ネットワークでつながっているイ ンターネット上にあり,通常,サービス提供者が運用 管理を行っている.ここでは,利用者から上がってく る様々なデータを蓄積管理し,利用者のアクセス権限 などを加味しながらデータ表示する機能が提供され る.また,外部の情報提供サービス(地図,気象,市 況,土壌図など)とインターネット上で接続して組み 合わせて使用することで,例えば,位置情報を地図上 にプロットして無駄を見つけたり,天気予報に合わせ て作業計画を変更したり,競合産地の生育状況を予測

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して対策を立てたりすることが可能となる.更に,農 業試験場や大学研究機関,農業コンサルティング会社 などに情報の一部を公開することで,これまで時間の かかっていた病害虫判断や様々な分析をスピーディに 行うことができる. データ利活用場面は,データを活かした農業経営の 実践部分であり,生産現場の作業管理,圃場,作物栽 培,収穫,出荷販売,原価などのデータなどを用いて 見える化し,作業の振り返りや経営分析,経営判断, 次の計画立案の最適化に活かすことである.農業経営 を向上させるためには,圃場・作付けごとの損益計算 をリアルタイムに算出またはシミュレーションにより 結果を予測し,過去の失敗経験を踏まえて,改善のた めの手段を講じることが重要である.実績データの活 用は,人材育成にも有効な手段である. 2. 3 圃場ネットワーク ICTを活用した営農支援において欠かせないものが, センサデータの活用である.圃場に設置したセンサは, 3G/LTEなどの回線で直接データセンタにデータ伝送 されることもあるが,電波強度や通信料金などの課題 もあるため,免許不要な無線システムで圃場内の複数 センサ情報をセンサネットワークで集約し,そこから データセンタにアップロードする方法が用いられてい る.免許不要な無線システムとしては2.4/5GHz帯の 無線LANやBluetooth,ZigBee,微弱無線,特定小 電力などを使うことが一般的である. スマートネットワーク技術は,設定不要でネットワー クを自動構築でき,障害発生の際にも自己修復し,周 囲のネットワーク環境変化に適応する自律分散型ネッ トワーク技術であるが,この技術ブランド名を富士通 では「WisReed」と呼んでいる[6].このWisReedを 導入することで,広範なエリアで数多くの通信機器や センサの利用が求められる分野において,これら機器 の導入・運用の負担を大きく軽減し,柔軟に大規模ネッ トワーク網を構築できる. 例えば,基地局1台で,1,000ノード以上の大規模ア ドホックネットワーク網を自律的に形成することがで きるため,従来に比べて必要な基地局数を大幅に削減 する事が可能となる.更に,基地局の増設により,通 信品質を安定させつつ更なる拡張も容易である.また, ネットワークや機器の障害発生時あるいはトラヒック 増大時にも,個々のノードが自律的に他の迂回経路を 選択し,通信を修復・維持することができるため,よ り柔軟なネットワーク構築が可能となる. 図 4 施設園芸サービスの利用イメージ [9] Fig. 4 Use image of the horticulture service.

ネットワークが充実し,農業分野での見える化が進 んでも,単純にデータを収集するだけでは不十分であ る.次のステップとして,収集したデータをどのよう に活用していくかが大きな課題となる.これまでベテ ラン生産者の「経験と勘」に支えられてきた判断と, 実際にセンサによって収集したデータとの間にどのよ うな関係性があるのかを導き出すことが必須である. カメラ・温度センサを使って,24時間,10分間隔で, ブドウ農園の開花から収穫までの4か月間データ収集 し,データ分析しただけでも,ブドウの収穫時期の色 素の度合いや病虫害の発生予察に使えたという実績報 告[7]もあるので,何をどの程度センシングするか,利 用目的に合わせて取捨選択し,最適化していくことが 重要である. 2. 4 施設園芸サービス Akisaiの中で,施設園芸をサポートするものとして, 施設園芸SaaSと環境制御装置を用意している.施設 園芸サービスの利用イメージを図4に示す.施設園芸 SaaSとは,温室とクラウドをインターネットで繋ぐこ とにより,従来,温室やローカルエリアネットワーク内 でしか対応できなかった「温室の環境設定・モニタリン グ・データ確認・遠隔温室コントロール」などの機能を, インターネット環境から利用可能とする仕組みである. 温室側の計測,制御を行うハードウェアとしてUECS

(Ubiquitous Environment Control System)[8]準拠 の環境制御装置を用意している.UECSは施設園芸用 のオープンな情報通信規格であり,UECSに対応する ことで,各社の機器が手軽に利用でき,利用者の幅も ぐっと広がる.インターネットとの親和性も高く,小 規模から大規模まで様々なタイプの計測や制御が実現 できる. UECSで利用する通信文のことをCCM(Common Correspondence Message:共用通信子)と呼び,ネッ

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表 1 データ送信用 CCM の例

Table 1 Examples of data transmission for the CCM.

トワーク上に流れるCCMの授受によって情報のや りとりを行う.CCMのデータ送信例を表1に示す. <DATA>タグの中にデータ種別,部屋番号,系統番 号,通し番号,値を埋め込み,UDPパケットとしてブ ロードキャストすることで,情報を流すシンプルな構 成である.CCM識別子は,屋外気象計測センサ,室 内気象計測センサなどの計測器系ノード,暖房機,天 窓,換気扇などの制御機器系ノード,手動操作スイッ チ,コンソールなどの操作・コントロール系ノードに 大きく分類され,その中でノード種類ごとに記号が定 義されている.製造会社が異なっても,同じ機能をも つノードを同種の機器として認識するための予約語 である.更にノードによっては,機器動作状態CCM, 制御機器運転状態CCM,遠隔制御指示CCM,遠隔 操作指示CCMなどが定義され,UECS通信規約を使 用する場合には,これらのCCMの実装が義務付けら れている.各ノードは受信したデータ送信CCMの情 報に従って動作するが,矛盾した情報を受信する場合 が想定される.機器の動作モードと優先順位に関する 規約については表2で定義されている.各動作モード 内<DATA>タグの各属性の値,パケット受信時に複 数の相異なるCCMを受信した場合には,情報の有効 期間,ノードの保有するIPアドレスによって優先順 位を決定する. データセンタ側では,常にデータの監視を行ってお り,計測値の異常や通信異常があった場合には,登録 している宛先に通報を行い,どこにいても瞬時に温室 の情報を把握し,遠隔で温室をコントロールすること ができるサービスを提供している.このサービスを利 用することにより,複数の温室を効率的に管理できる ようになり,施設栽培のスタイルの変革や経営規模拡 大を支援するものとして期待している. 表 2 機器の動作モード

Table 2 Operation mode of the apparatus.

図 5 牛歩サービスの利用イメージ [11] Fig. 5 Use image of the cow reproduction support

service. 2. 5 牛の繁殖支援サービス「牛歩」 牛の行動特性を利用して,歩数計を活用した歩数 データの推移で発情時期を検知し,高い授精率で繁殖 させるサービスが牛歩SaaSである.種付けタイミン グの見逃しによる農家の損失を激減させ,かつ,雄雌 の産み分けにも活用でき,農家経営を改善させる.牛 歩サービスの利用イメージを図5に示す.また,この システムにより得られた歩数グラフと受精適期の関係 を図6に示す.発情開始とともに歩数が増加し,発情 から16時間後が受精最適期であり,授精最適期を境 に前半8時間が雌牛,後半8時間が雄牛の出産確率が 高くなる傾向にある.産み分けについては,過去の実

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図 6 歩数グラフと受精適期の関係 [11] Fig. 6 Steps graph and relations of the fertilization

proper time. 績から,約70%の実現成果が報告されている[10].

3.

データの活用事例

2.で述べたサービス内容であるが,本章では実際の 利用効果事例を紹介する. 3. 1 安定収益の確保に向けて 農業では,生産前に作成する作付け計画(いつ,ど こに,どんな作物を作るか)の良し悪しが生産に影響 し,利益を大きく左右する.安定収益を得るには,売 上・コストを把握して収益が最大になるような作付け 計画を作成することが重要であるが,営農規模が大き いほど作付け計画は複雑化し作成が難しくなる.例を 挙げると土地の空き状況・日照条件・土壌情報・連作 状況・農薬使用状況,農地ごとの人件費,農業機械の 稼働率などがある. 管理システムに,作付け計画に必要な情報を集約し, 経営者が容易に判断できる形式で提示することで,経 営者が早く正確な意志決定で最適な作付け計画を行う ための支援につながると考えた.そこで,機械的な判 断が可能な内容は事前処理(例えば土壌の作付け適性 判定や連作判定など)を行った上で人の可読性の高い 形式で提供する作付けシミュレーション機能搭載の実 験を行った.また,作業者や農業機械の適切な配置に ついても短時間での計画を可能とするリソースシミュ レーション機能の実験も行った. 結果として,キャベツ(夏まき・年内獲り作型)収 量・売上の前年比30%アップを達成した.更に毎年の 実績を蓄積することで,作付け計画を年々改良するこ とが可能になると考えられる. 3. 2 農産物の安定供給のために 同じ作物でも生育条件の違いから作付けごとに生育 状況は異なり,施すべき作業(適期作業)も異なる. そのため日々の生育状況や土地・気象などの環境情報 を把握して適切な判断を行い,適期作業を行う必要が ある.しかし,作業指示伝達不足から作業ミスが発生 するなどのヒューマンエラーが多く発生している.適 期作業を行えないと,収穫遅れや,防除漏れによる品 質不良などが発生し,結果として気象や病虫害などの 自然現象と同様の事態をフードチェーン全体にもたら す.この「適期作業の難しさ」に焦点を当て,人的要 因によるミス低減に関する課題を抽出し,ICTを活用 した支援策を紹介する. 農地の数が多く広範囲にわたる生産者では,農地の 管理が複雑多岐にわたり,農地の見回り作業の漏れと 見回り情報共有の漏れが発生しやすく,このため適切 な時期に適切な作業を十分行えず生産量減少の一要因 となっていた.実証実験に協力いただいたある農業生 産法人では農地数は300以上あり,農地間の移動の回 数が多く,1日に多数の農地を見て回るため,一つ一 つの細かい状況はとても覚え切れなかった.このよう な条件下では,見回り担当者の見回り管理負担が大き く,状況の把握が困難となる.また情報量が多いため 組織のメンバ間での共有する情報に齟齬が発生しがち となる.このため見回り結果を基に決める作業の漏れ が発生し,これにより収穫や除草などの適期実施が遅 れて結果的に収穫量の減少,収穫時期の遅れ,品質の 低下を招いていた. 見回りの負担が大きい問題に対し,今見回るべき農 地の把握と,見回り状況を基にやるべき作業を組織全 員で共有できると,人的要因によるミス低減に役立つ のではないかと考え,携帯電話を利用した機能を考案 し,農作業管理システムに実装した.本システム機能 は見回った農地を担当者がもつ携帯電話などのGPS 情報から自動的にシステムに集約する.集約した情報 を基に見回るべき農地を示すことで見回り漏れの防 止を可能とした.また見回り状況に応じて決めるアク ションと進捗状況もシステム上で共有できるようにし, 作業の漏れを防止できるようになった. 3. 3 人材育成に向けて 組織的な営農集団では,経験豊富な熟練者数が少な く,経験の浅い(ノウハウを継承していない)若手だ けで現場作業を行うことも多い.そのため現場で問題 が発生した場合,判断や対応を間違えて作業の遅延や

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ミスを起こすこともある.様々なケースを想定し,若 手が経営・生産ノウハウを共有する環境を作ることが 重要である. 問題発生時の現場情報をシステムで若手と熟練者が 共有できるようにし,現場にいない熟練者が現場情報 に基づいて判断・指導を行うことで,ノウハウの継承 が可能となり,更にこの熟練者の判断・指導結果を組 織で共有すれば熟練者の一度の指導が全若手に共有さ れることも可能となると考えた. そこで若手が現場で直面する課題の状況を写真やコ メントの形で熟練者と情報共有し,ノウハウも含めて データとして蓄積できるようにした.具体的には携帯 電話で写真を撮影し,コメントを入力,遠地からもリ アルタイムで報告する.現場の負担を最小限にするた め,操作が簡易なスマートフォン・アプリケーション を作成し,農地情報や作付け情報などは自動的に記録 されるよう工夫した.また,日々の作業にとどまらず, 作付け全体についても予定と実績の差を作業や収穫量, 画像情報などから振り返ることを支援する機能を開発 した. いずれの機能も積極的に活用した結果,若手同士 も活発に発言,情報共有するなどコミュニケーション の活性化に役立ち,現場の雰囲気も活気あるものに なった.

4.

今後の展望

これまで述べてきたように,農業分野においても ICT活用が進んできている.本章では,データ収集と データ解析の二つの観点から,今後の展望を述べる. 4. 1 データ収集の課題と展望 2.3で述べたように,何をどの程度の頻度や精度で センシングすれば有効なデータとして利用できるか あらかじめ決めておくことは難しい.これは,栽培品 目,栽培方法,データの利用目的などによって,必要 となるデータが異なるからである.とりあえず,いろ いろな種類のデータを細かく記録してみるということ は,方法論の一つかもしれないが,膨大な時間と費用 がかかる上,本当に使えるデータがとれるのかは疑問 である.参考までに,Akisai施設園芸サービスで収集 しているデータ数を表3に示す.このサービスでは, 5分間隔でのデータ収集,記録を行っており,平均的 な1温室当たりの計測点数,制御点数の合計15点と すると,1温室当たり年間約150万件,1生産者が10 棟の温室を管理しているとすると,年間約1,500万件 表 3 施設園芸サービスの想定データ量 Table 3 Expected data of horticulture services.

のデータが発生することになる.このサービスでは, 最大10万棟の温室管理を想定しているので,年間約 1,500億のデータを管理することになる. また,センシングしたデータの信頼性についても課 題が残る.センサは設置方法によって値が変化し,経 年劣化も想定される.農業現場は劣悪な環境が多いた め,常に設置条件や検定,校正を意識する必要がある が,利用者の意識は千差万別である.2023年には1兆 個のセンサがインターネットに繋がると予測されてい る中で,どのセンサのデータを用いて解析するのか, 信頼性の担保を吟味していかなければならない.更に, 生体のリアルタイムな状態がわかる非破壊センシング 技術の確立も望まれる.これまで間接的に周辺環境か ら推定していたことが,生体を見て非破壊で直接的に わかるようになれば,人間の感覚ではなく,正確に対 処ができるはずである. オープンデータの活用についても積極的に行う必要 がある.利用者が自らの投資や努力で全てのデータを 収集する必要はなく,オープンデータ化されているも のを活用することは,時間やコストを考えると非常に 有効な手段である.利用者が利用しやすい形でのユー ザインターフェースをシステム側に備えることが望ま れる.また,収集したデータのオープンデータ化につ いても前向きに議論する必要があると考えている.利 用者が有料サービスを活用して保存したデータは基本 的にお客様のものであり,自由に利用,公開すること ができない場合が多い.個人情報を取り除き,他者に 利用価値があるものであれば,オープンデータの活用 と引き換えに自らのデータをオープンにすることは必 然である.サービス提供側もこれらを意識し,利用者 にオープン化を促すことが今後求められる. オープンデータ化まではいかなくとも,サービス提 供側の企業の垣根を超えたデータ交換の仕組みについ ても検討や試作が進められている.作物栽培の気づき

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データの情報交換や農業に関係する様々なデータ(農 作業,農薬,作物,環境情報など)の標準化がこれに 当たる[12], [13]. 4. 2 データ解析の展望 食・農クラウドを活用することで,ヒトの行動,モノ やお金の動き,栽培管理データや環境制御データなど, 様々なデータがデータセンタ上に蓄積される.データ センタ上に蓄積された情報は,巨大で複雑なデータ集 合であり,これらのデータを解析することで,新たな 価値を提供しようとする動きが活発である. 大規模データ集合体の傾向をつかむことで「ビジネ スの傾向の発見,収量や品質決定ロジック化,生育予 測,収穫期・収量予測,病害虫発生予察,効率的エネ ルギー活用,リアルタイム状況判断」といった相関の 発見が期待されている. データを様々な角度で分析・予測していくためのア ルゴリズムの研究は日進月歩である.データのもつ意 味を引き出し,そこから新しい知見を得ていくために は,データを分析・評価する人に,分析結果を適切に 提示し,分析者の知識やノウハウを創造していけるよ うなデータの可視化と操作性が必要となる.地図情報 などの基礎情報と分析結果を重ね合わせ,3次元化, 時系列化,断面化など,自由な発想でデータを分析・ 評価できる柔軟な仕組み,情報基盤が必要である.

5.

む す び

本論文では,富士通が提供している食・農クラウド サービス「Akisai」の機能と活用例について紹介した. ICT活用が遅れていた農業分野でも,積極的なICT 利活用が始まりつつある.今後は,様々な大学・研究 機関・企業・団体等と協力しながら,サービスの改善を 図るとともに,ビッグデータ解析等による新しいサー ビスやビジネスモデルを創出し,発展させていきたい. これらの取り組みが,日本や世界の農業発展に寄与し, 安全・安心な食料の安定供給,雇用創出などに役立つ ことを切に願う. 文 献

[1] 富士通,FUJITSU Intelligent Society Solution 食・農ク ラウド Akisai(秋彩),http://jp.fujitsu.com/solutions/ cloud/agri/index.html,参照 Aug. 3, 2016.

[2] 富士通,FUJITSU Intelligent Society Solution 食・農ク ラウド Akisai(秋彩),http://jp.fujitsu.com/solutions/ cloud/agri/index.html#concept,参照 Aug. 3, 2016. [3] 富士通,FUJITSU Intelligent Society Solution 食・農ク

ラウド Akisai(秋彩),http://jp.fujitsu.com/solutions/

cloud/agri/index.html#lineup,参照 April 29, 2016. [4] FUJITSU Intelligent Society Solution食・農クラウド

Akisai農業生産管理 SaaS 生産マネジメント,http:// jp.fujitsu.com/solutions/cloud/agri/production control/product.html#summary,参照 Aug. 3, 2016. [5] 南石晃明,農業人材育成・農業技術継承を支援する,九州 大学,http://www.agr. kyushu-u.ac.jp/lab/keiei/ NoshoNavi/index.html,参照 Aug. 3, 2016. [6] 富士通,スマートネットワーク技術 WisReed スマートグ リッド— Fujitsu Japan,http://www.fujitsu.com/jp/ solutions/business-technology/intelligent-society/ sensor-network/solutions/smartnetwork/wisreed/ index.html,参照 Aug. 3, 2016. [7] 村西 明,高木淳一,杉山 準,西土井健,澤根慎児, 小葉松知行,横尾 郁,“非 ICT 領域へのセンサーネット ワークのチャレンジ,”電気通信,Jan. 2013. [8] ユビキタス環境制御システム研究会,UECS への参画,ユ ビキタス環境制御システム研究会,http://uecs.jp/uecs/ uecs-5.html,参照 Aug. 3, 2016.

[9] 富士通,FUJITSU Intelligent Society Solution 食・農 ク ラ ウ ド Akisai 施 設 園 芸 SaaS・施 設 環 境 制 御 box, http://jp.fujitsu.com/solutions/cloud/agri/uecs/ index.html#summary,参照 Aug. 3, 2016.

[10] 富士通,牛の繁殖支援サービス FUJITSU Intelligent Society Solution 食・農 ク ラ ウ ド Akisai 牛 歩 SaaS, http://jp.fujitsu.com/solutions/cloud/agri/gyuho/ pdf/akisai-gyuho-intro.pdf,参照 Aug. 3, 2016. [11] 富士通,牛の繁殖支援サービス FUJITSU Intelligent

Society Solution 食・農 ク ラ ウ ド Akisai 牛 歩 SaaS, http://jp.fujitsu.com/solutions/cloud/agri/gyuho/ index.html,参照 Aug. 3, 2016. [12] 学術研究・産学官連携推進本部, 補完研究機関| 名古屋大学 学術研究・産学官連携推進本部,名古屋大学,http://www. aip.nagoyau.ac.jp/industry/ict/supplementresearch/ index.html,参照 Aug. 23, 2016. [13] 新戦略推進専門調査会分科会(農業),高度情報通信ネッ トワーク社会推進戦略本部(IT 総合戦略本部),首相官 邸,http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon bunka/nougyou.html,参照 Aug. 23, 2016. (平成 28 年 4 月 29 日受付,8 月 4 日再受付, 12月 14 日公開) 渡邊 勝吉 1990静岡大学・農学部・園芸学科卒.同 年,(株)富士通九州システムエンジニアリ ング(現,富士通九州システムズ)入社. 2012富士通(株)に出向.現在,食・農ク ラウド Akisai の開発に従事.UECS 研究 会副会長.

図 1 食・農クラウド『Akisai』のコンセプト [2]
Fig. 4 Use image of the horticulture service.
表 1 データ送信用 CCM の例
図 6 歩数グラフと受精適期の関係 [11]

参照

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