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出産直後の母子接触と「母と子の絆」II

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出産直後の母子接触と「母と子の絆」II

Early and Extended Mother-Neonate Contact

and "the Maternal-Infant Bonding" II

ⅢEar

l

y and Ext

e

nde

d Co

nt

ac

t

効 果 を見 出 して い ない研 究

l Svejda,M.J.etal.(1980)の研究

合衆国のDenver大学 のSvejda らは,30組 の母子をル ーチ ン ・ケア群 (15組 ),と extr a-contact群 (15組 )に ランダムに振 り分け,early contact効果を検討 している。 母親は中流下層階級に属 し,以下 の基準 に該当 す るものが対象とされている。 ・初産婦 ・妊娠中絶や流産の経験がない ・年齢17-30歳 ・妊娠中の異常がない ・経腹分娩で異常がない ・計画的なbreast-feeding 乳児の選択基準は, ・満期産 ・アブガ一 ・スコア8-10(1分および 5分) ・生得的奇型がない ・誕生時また出産後に病気や感染症に曜患 して いない さらに,母∃乱 父親,乳児の人口学的な特性や出 産に関する条件に も,ルーチ ン・ケア群 とextr a-contact群 とに差がないよ うに配慮 されて い る。 母親-の研究参加の依頼は,分娩室への入室時 になされてお り,研究の目的は,生後1日半の新 生児の行動の観察と,この観察期間中に母親 と新 生児とが一緒にす ることを観察す ることであると 説明されている。母親にはcontact条件 につ いて の情報も,この研究の目的がmaternalbondingに 関するものであることも話 されて いない。また, これまでの研究では,異 ったcontact条件 の母親

Yasushi Ohyabu

が病室内に同時に存在することがみ られたが ,こ の研究ではそうしたことがないように注意 されて いる。 ルーチ ン ・ケア群の母親は,出産後に分娩室の ベ ビーベ ッドにいる乳児を見 ることができた し, 分娩室か ら手押 し車で運ばれ る間に短時間 (5分 以下),衣服で くるまれた乳児を抱か されている。 母 場 もガ ウ ンを 着 て い た の で,skin-to-skin contactやbreast-feedingをす ることはできなか っ た。乳児は新生児室に移されてお り,4- 6時間 後に最初の授乳のために母親の もとに連れて こら れている。授乳時間は約30分であった。15名の父 親の うち13名が出産に付 き添 ってい る。

extraく:OntaCt群の母親では ,会 陰切 開の縫合 後すなわち分娩後約25分の時点 で,分娩台の上 で 乳児を受け取 り,15分間のskin-to-skincontact が行 われている。12名の父親がその場 にお り,父 親 と母

以外には, 1名の看護婦だけが分娩室の 奥で援助のために控えていた。母親 はその後す ぐ に自分の部屋に移され ,ガウンを着て ,さらに45 分間の接触をプライヴェイ トに行 って いる。 この 場面には,13名の父親が同伴 してい る。その後 , 乳児 は新生児室に移された。extra-contact群の 母親 は,4時間毎に 1回90分 のbreast-feedingを してお り,ルーチ ン ・ケア群よ りも毎回1時間長 く接触させ られている。 したが って ,出産後

3

6

時 間までに,extral:OntaCt群の母親 はルーチ ン ・ ケア群よりも,約10時間多 く接触 したことになる のである。 看護婦がextraく:OntaCt群の母親 とルーチ ン ・ ケア群の母親とに接す る頻度 と時間 は,両群に差 がないようにされている。 母子の観察は,分娩後

3

6

時間前後 (レンジ :

3

2

-40時間)にVTRで行われ ,観察場 面は10分間

-3

1

(2)

-の イ ンタ ラ ク シ ョ ン 場 面 と15分 間 のbreast -feeding場面であ った。観 察 され た行 動項 目は , イ ンタ ラク ション場面が16項 目,breast-feeding 場面が12項 目で (表12) ,15秒毎に行 動の有無が チ ェックされている。 データの分析は,@ 28種類の個 々の行 動項 目を 用いる場合 と,(9 個々の行動項 目のセ ッ トか ら構 成 された4種類のカテ ゴ リーを使用 した場合 とに 分けて行われて いる。 ところが ,結果は,どち らの場合で も両群間に 有意差のあるものが見出 されて いない。有意差が み られたのは,性別に分 けてcontact条件 を比 較 した場合だけであり

,

10分間のイ ンタ ラク シ ョン 場 面で のtalksto femalesが early contact群 に多い こと,touchesfemalesと enfacemales

は逆 にル ーチ ン ・ケ ア 群 に多 い こ と , そ して

affectionategroupの ス コアがearly contactの 女児に多いことが見出 されてい る。 こ う した結 果か ら, Svejdaらは ,母 子 のearly contactが母親行動に効 果を及 ぼす とい う仮説 は ほとん ど支持 されず ,結 果のい くつか は過去 の報 告に一致 しないものとな っていると指摘 している。 したが って,early contact効 果の普遍性 には疑 問があ り,こうした研究 問の差異 を説 明す る要 因 を確定す る必要性を強調 してい るO 2)Craig,S.etal.(1982)の研究 合 衆国 のテキサ ス にあ るTe汀el川1立 病 院 の

Craigらは,earlyand extended contactが母子 関係 に望ま しい影響を与 え るメカニズム と して , 母子 の接触量の増加が ,乳児の行 動 に対す る母親 の知覚を変えることにあ るのではないかと推測 し, そ の 仮 説 の 妥 当 性 をBroussard,E.R.が 開 発 し たNeonatal Perceptionlnventory (NPI)

を用いて検討 している。乳児に対す る母親 の初期 の良好 な知覚的評価は,母子の イ ンタ ラク シ ョン に肯定的なサイクルを生 じさせ る方 向に働 き,ま た,そ うしたサイクル は ,乳児の虐待 や無視が頻 繁に生 じる低社会経済階層の家族に最 も有 効に働 くことにな ると考え られ るか らで あ る。 対象 とされた母規は ,経腔分 娩で子 ど もを出産 した初産婦であ り,乳児 は健康 な新生 児 と評価 さ 蓑12 観察行動項 目の平均頻度 (From Sve]'daetal.1980) MeanFrequencies Extra Routine Measures Contact Care

10.Minhteraction Affectionategroup:

Touches Looksat Smilesat Talksto Rocksa Hugs Kisses Enface 7 0 7 0 3 3 7 7 0 6 4 6 1 1 2 0 9 3 5 4 1 1 7 3 7 3 0 3 3 0 6 7 6 9 0 3 1 6 8 3 4 4 3 -1 Tota1 37.06 35R34 Proximltymaintaininggroup:

Rocksa 3.00 1.13

Cradles 9.87 10.53 Propsshoulder 1.07 1.

0

0

Total 13.94 12.66 Miscellaneousdiscretemeasuresb:

Comfortcries 2.07 Jiggles 2.00 Propsagainstlegs 1.20 Liesacrosslegs .53 Talkstoothers .40 Looksatothers 1.80 0 3 3 0 0 0 2 5 5 4 8 6 BreastFeeding Affectionat冶grOllP: Touches 8.20 Looksat 19.87 Smilesat 2.47 Talksto 6.40 Rocks 1.60 Tota1 38.54 Caretakinggroup:

Jiggles 2.73 Burps 1.53 Stimulatessuck 2.87 Nipplein/out .47 Tota1 7.60 7 7 7 3 3 4 6 8 3 5 6 9 3 5 1 1 3 0 0 0 7 2 6 2 1 3 1

Miscellaneousdiscretemasures: Talkstoother 1.20 .87 Looksatothers 2.20 1.60 Smilesatothers 1.00 .87 a "Rocks'is considered appropriate in affectionategroupandproximltymaintainlnggroup.

b-Smilesatothers"waseliminatedfrom analysisbecauseoflowpersentageofagreement betweenscorers.

(3)

れて いる。表13は,extracontact群 とル ーチ ン 君の母子の特徴を示 したものであ る。 ル ーチ ン群では,誕生 した乳児は毛布で くるま れた母親に短時間 (10分以下 )わたされ ,その後 す ぐに新生児室Gとっれていかれている (平均身体 接触時間 :女児3.5分 ,男児2.9分 )0 extracontact群では ,出産後す ぐに母親の胸 の上で母子の肌が触れ合わ され ,その上か ら毛布 がかけられた。やがて ,母親は毛布で くるまれた 乳児を抱いて回復室に移動 して いる。その後 ,約 1時間,母子の肌 と肌との触れ合いが もう一度 も たれている (平均身体接触時間 :女児51.3分 ,男 児56.6分)0 表13ルーチン群 とextracontact群の母子の特徴 (From Craigetal.1982) 以後は,両群ともに4時間ごとの授乳のたびに 新生児と接触 している。 なお,extracontactを与えた母親 には,他の母 親 とは違った取 り扱いを受けていることが分 らな い よ うに されて い る。 extracontact効 果 の 検 討 は ,生 後1カ月 時 (レンジ :25-30日)に家庭訪問によ ってお こな わ れ,NPlとKlausら (1972)が用 い た2種 類 の質問を母親に している。さ らに ,母親に依頼 し て ,この家庭訪問後4日間に生 じた 4種類の取 り 扱 いに困る乳児の行動 (spit up. refused the

bottle,fussedwithabowelmovement,awoke atnigh t)の出現頻度 を記録させているo

Routinecontact ExtracolltaCt Female Male Female Male (n-13) (n-13) (n-12) (∩-ll) Maternalage(yrs) 18.5(1.9) Race Black White Latin MaritalStatus Single Married Separated Education(yrs) Fatherpresent 6 7 0 ll.1(2.1) 7 Grandmotherpresent 8 19.8(3.0) 18.9(1.9) 18.7(1.7) * 7 3 2 7 4 4 4 1 3 pnHt2 1 l Hl U 6 7 5 0 0 5 7 1 -1.、■tn Ht 0 2nl■H-7 7 5 1 1 7 7 日 リ 5 5 1 10.4(1.7) 6 6 Meperidineduringlabor (mg) 53.9(38.0) 65.4(26.1) 29.2(31.7) 52.3(30.5) Birthweigh t(g) 3222(525) 3335(332) 2963(362)1 3462(363) Apgarscores lmin 8.6(0.6) 8.7(0.6) 8.5(0.5) 8.4(1.0) 5min 9.2(0.4) 9.1(0.3) 9.0(0) 8.9(0.3)

*OnesubjectwasFilipino.

MearlValuesarepresented withoneS.D.inparentheses,Integerswhicharenotfoll ow-edbyanumberinparenthesesrepresentthenumberofinfantsofaglVenClassification.

(4)

結果をみ ると,ル ーチ ン群 とextracontact群 とにNPIの評定 に有意差が な く,母 親が 知覚す る自分の子 どもの評価に両群で違いがなか ったの である (表14.15)。また,Klausらが用いた質問 に対す る回答 に も両群問 に有意差が な く,Klaus らの結実と矛盾するものとなって いる (表16)04 種類の取り扱いに困る乳児行動の出現頻度 もまた, 両群で有意差のあるものはみ られていない (表17)0 ただ し,性差をみると,wakingatnight以外 の 行動の出現は両群ともに女児の方 に多い ことがわ か る。 したが って,Craigらは出産 直後の1時間 の extracontactが母親の乳児に対す る知覚に影響 す る事実を見出せなかったことになる。 しか し, Craigらは慎重に も,母親の乳児に対す る感情 と 母子 の イ ンタ ラクシ ョンが,NPIで 測定 しうる 母親の知覚に変化を及ぼす ことな く影響 され うる 可能性 を指摘 している。またKlausらが母親のア タッチメン トを測定するために用い,earlyand extendedcontact群とコン トロール 群 とに有意 差 を見出 した 2つの質問と同 じ質問に対す る回答に 有意差を見出せ なか ったことにつ いては,Klaus らのcontact時 間 が16時 間 で あ る の に 対 し , Craigらの ものが1時間 しかなか った ことによ る ものか もしれないと述べている。

Craigらは,earlyandextendedcontact効 果 の評価につ いて非常に慎壇であ り,その効果を否 定す るような論述は していない。 しか し,この研 究 もearlyandextendedcontact効果を少 くと も 出産後1カ月の時点では見出せ ないでい る。

earlyandextendedcontactに効 果を 見出 し て いない研 究 と して は, これ らの 研 究 以 外 に Curry,M.A.H(1979),Gerwitz,J.L.(1979). Taylor,P.M.etal.(1979)な どの 研 究 が 存在す る (Lamb,1983)

0

表14 母親による自分の乳児と平均的乳児との比較 (From craigetal.1982)

Routinecontact Extracontact Female Male Female Male Lessdifficult Asdifficult Moredifficult 8 9 9 1 1 0 4 2 2 蓑15 NPlの平均スコア (From Craigetal.1982)

Routinecontact Extracontact Female Male Female Male

(n-13) (n-13) (∩-12) (n-ll) Ownbaby 15.1(3.7) 15.7(3.7) 15.3(4.4) 15.6(3.9) Averagebaby 18.9(4.2) 17.2(3.1) 18.7(2.6) 18.0(2.2)

(5)

蓑16 Klausらの質問項 目に対 す る母親 の反応の平均

(From Craigetal.1982)

Routinecontact Extracontact

Female (n-ll)

Male Female Male (n-ll) (n-ll) (n-ll)

Ques

t

ion 1* 2.1(1.0) 2.2

(

0.

8)

2.4(1.0) 2・2(0・8)

Qu es

t

i

o

n2* *

1.

5(

0.

8)

1.9

(

0.

8)

1.5(1.4) 2・1

(

0.

8)

*

Haveyougoneoutsinceyourbabywasborn?Howdidyoufeel?Scores:1)Didyounot wanttoleave;2)Worriedaboutinfantwhileout;3)Thoヮght about theinfantwhile out;4)Feltgoodwhileout.

辛*

Whenthebaby criesandhasbeenfedandhisdiapersaredry,Whatdoyoudo? Scores;1)Alwayspickhim up;2)Tendtopickhim up;3)Tendtolethim cry; 4)Alwayslethim cry.

MeanvaluesarepresentedwithoneS.D.inparentheses.

1

7

取り扱いに困る乳児行動の出現頻度

(From Craigetal.1982)

Behaviors Routinecontact Extracontact

Female Male Female Male (∩-6) (n-8)

(

∩-3

)

(∩-7)

Spittlngup 4.7(4.3) 3.4(1.8) 9.7(5.8) 2.3(1.6)

Bottlerefused

3.

3(

3.

7) 2.1(2.8) 6.7(7.0) 4.4(2.8)

Fussinesswithbowelmovement 6.2(5.6) 3.1(2.8)

1

0.

7(

4.

2)

2二9(1.9)

Wakingatnight 5.8(2.6)

7.

1(

2

.4) 5.7(2.9)

6.

9(

3.

7)

MeanvaluesarepresentedwithoneS.D.inparentheses.

Earl

y andExt

ende

dCont

act

研 究 の評 価 と問題 点

earlyandextendedcontactが 母 親行 動 に及 ぼす効果 を検 討 した研究 は,Lamb(1983)によ れば20以上 あ るとされ ,本 稿で も11の研 究 を詳細 に紹介 して きた。これ らの研究結 果 を見れ ば明 ら か なよ うに,earlyandextendedcontact効果 の

有効性 は非常 に不確定 な もの といえ る。あ る研 究 は1年以上 もの長期にわた る効 果を主 張す るの に 対 し,別 の研究では出産後36時間で の効果が否定 されている。 なぜ研究結果 に このよ うな大 きな差 が生 じるのだ ろうか。それ を知 る主 要 な手 段 は , 各研 究で用い られ た研究方 法を吟味す ることで あ る。本稿で各 研究 を一つず つ詳 しく記述 して きた のは ,研究間での研究方法 の差異を 明確 に して お きたか ったが ためであ る。 さ らに , いまひ とつ 垂

(6)

要な問題が残されている。 それは研究者が研究を 進めてい く上で立脚 している信念 ともい うべ き も のである。研究結果の解釈は,この研究者が持つ 信念に左右 されやすいばか りでな く,研究結党そ のものにも影響する可能性が皆無なわけでもない。 ここでは先ず,Klausらの主張の背景にある動 物の母子関係を対象に した研究結果や ,未熟児の 母班行動の障害を扱った研究の再検討か ら始めて みたい。そ してその後 に,earlyand extended contact研究が もつ問題点を指摘 していきたい。 1) 動物行動学の知見 出産後の人間の母親が ,乳児に対 して急速に アタッチメントを形成す るという広 くいきわたっ た信 念 (Sluckin,W.etal.1983)紘 ,人 間 の 母親行 動が 妊娠中や分 娩 時 の ホル モ ンの 影 響 (hormonaltrigger)によ り生物学的に誘発され るとす る考え方に立脚 している。そ して ,母親が このホルモ ンの影響によって母業見らしく振るま う 間に新生児と接触すれば.母親行動は一層容易に 確立 され,より好ま しい反応をす るようになると みなされる。こうした考え方は,雷歯頬の母親行 動におけるホルモ ン決定因に関す る研究 と,有蹄 類において母 親の子 ど もの受け入れ に短期間の sensitiveperiodが存在す るとい う報告 に基づ い ている (Lamb,1983)0 たとえば,- ムスターでは子 ど もに対す る母親 行動が ,処女,妊娠中の雌,授乳中の雌になるに つれて増加す ることが知 られて いる (Richards, M.P.M .1966b)0 Rosenblatt,J.S.(1969) は,ネズ ミの新生児が母親行動をひきだすのに必 要な時間の長さが,妊娠 していない雌よ りも妊娠 している雌で短 く,さらに妊娠 している雌で も出 産の時期に近づ くほど短 くなること,子宮切開に よって妊娠が終結されるとその潜時が減少 し,良 つ手術の時期が分娩時期に近いほどその減少塁が 大きいこと,また出産直後の雌か ら採取 された血 覚を妊娠 していない雌に注射す ると,母親行動発 現の潜時が減少することを見出 している。 さらに Rosenblatt(1975)紘,ネズ ミの出産 時 と出産 後の行動を観察 し,ホルモ ンと環境上 の出来事の 両者が ,母親行動の開始とその持続に影響す るこ とを指摘 している。第一に,出産前 と出産直後の ホルモ ンが母親行動を発現 させ ,巣作 り,乳汁分 泌,乳児の養育行動を促進 させ る。第二に.環境 側の出来事 ,つまりネズ ミの子 ど もの未熟さ,千 どもの晴乳刺激がさらに適切な母 親行動をひき出 す ことになるのである。そ してネズ ミでは ,この 母親行動の発達が,出産後4日間の うちに形成 さ れ,この間に出会 った未熟なネズ ミの存在 と行 動 が母親の子 ネズ ミに対す る行動を変容 してい くと されている。 有蹄頬の場合には,山羊 と羊 とい う非常 に密接 な 関 係 に あ る動 物 を 研 究 対 象 に して い る 。 Herbert,M.etal.(1982)に よ れ ば , こ う し た有蹄頬の母親が急速に自分の子 ど もを認知 し, 受け入れる現象はmaternalimprintingと呼ばれ ていた。また雌山羊と雌羊は ,自分の子を匂 いに よ って 再 認 す る と考 え られ た た め olfactory imprintingと呼ばれた りもした。 しか しその後 の研究は,このmaternalolfactoryimprinting という考え方を放棄させている。その理由を以下 に記 しておきたい。 初期 の研 究 を 見 る と,Collias,N.E.(1956) 紘,山羊と羊の新生児を出産直後 に母親か ら分離 している。分離期間が45分以 内で あれば,その子 どもは再び母親に受け入れ られたが ,それ以上 に なると,ほとん どの子ど もが母親か ら角で突かれ て拒絶され ,見ず知 らずの子 どものよ うに取 り扱 われたとされている。 また,Hersher,L.etal.(1958) は , 出 産 後

5-

10分の母子接触をすれば,山羊の母親が 自 分の子どもを特定化するのに十分であ ると してい る。

しか し,Hersheretal.(1963a.b)はその 後の研究で ,雌山羊や雌羊が見知 らぬ子山羊や子 羊を養子に した場合や,異 った種の子 どもを養子 に した場合を検討 し.いずれ も数 日間の強制的な 接近がなされると,安定 した養子 関係が確立 され たことが見出されたのである。 Klopfer,P.H.et al.(1964)紘 , 出 産 後 に 一時間ほどの間,母子の分離が山羊でなされると, 母親はその子を拒絶す るよ うにな り,他方 .出産 後の5分間ほどの接触が ,その後の3時間の分離 休験にうち勝ち,拒絶を防止す ることになるとみ

(7)

な している。Klopferらは,母山羊の子 ど もに対 す るアタッチメン トをolfactoryimprintingによ るものとみな したのである。 と こ ろ が 最 近, Gubernick,D.

J

. et al. (1979)は,出産後に自分の子 ど もと5分間一緒 にされた母山羊で も,見知 らぬ子山羊が生 みの母 親 と8時間以上接触 していないな らば ,自分 の子 どもとその見知 らぬ子 どもとを区別す ることに失 敗す ることを見出 して いる。 さ らに Gubernick (1980)は,もし子山羊が生みの母親 と長い間一 緒にいないならば,母山羊はどんな見知 らぬ子山 羊で も受け入れることを指摘 している。この こと は ,母 山 羊 は 子 山 羊 自体 に 対 す るmaternal imprintingによって子山羊を受け入れるのではな く,む しろ子山羊に他の母山羊か らつ け られた ラ ベル (maternallabelling)の有無によってその 受け入れを決定 しているようにみなせ るのであ る。 しか し,子山羊が他の母山羊か ら拒絶 され ,自分 自身の母親か らは受け入れ られ るために,その子 山羊が母親 と一緒にいることが必要な時間は,い まだ不明であるとされている。なお ,母山羊が与 え るラベルは,母山羊が子山羊をなめたり,晴乳 したりすることか ら生 じることが ,最新の実験的 研究によって確認されている (Gubernick,1981)0 したがって最近のこうした研究か ら,第一 に, 有蹄頬では母親の子 どもに対す るアタッチメ ン ト が当初考え られていたはど急速に発達せず ,母 と 子 の拝の形成のための厳密な臨界期が存在 しない こと,第二に少 くとも山羊では,母親の子 ど もを 受け入れる能力は,子 ど もに他の山羊の匂 い,あ るいは ラベルがないことに依存 してお り,出産後 の雌山羊に拒絶行動や頭で突 き放す行 動をひきお こすのは,他の山羊の匂いであ ることが知 られて きたのであ る (Sluckin,etal.1983)。 このよ うに,母親行動の決定因と してホルモ ンが作用 し た り,母子 の拝の形成にsensitiveperiodが存在 す るのは,む しろ例外的であ るか もしれないので あ る(Lamb,1983)

0

ところで,仮に留歯頬や有蹄類に母子の拝を発 生 させ るsensitiveperiodが存在す ると して も, そのsensitiveperiodが人間の母子関係を説明す る材料 としてどの程度 ,適用できるのか とい う疑 問が残 されよ う。sensitiveperiodの必要性 は. 子 どもの特徴やその種の社会的な生 態によって左 右 される親行動の特徴に依存す ると考え られ るか らである。 ネズ ミの家族は,別々の巣や穴 に住み ,一年に

5-6

回,一度に多 くの子を出産す る。その母親 行動は非常にステ レオタイプ化 されてお り,どの 子 に対 して も差別な く応答す る。母親は個々の子 ネズ ミを識別 しているようには見えない し,特異 な拝を形成す るふ うで もない。 有蹄薫別ま群をな して生活を し,一年に一度の生 殖期に一頭だけの子ど もを出産す る。子 どもは非 常に早熟で,出産後す ぐに立ちあが り移動す るこ とができる。そ うした状況では,母 と子 の識別を 促進させ る強い圧力が働き,母親は 自分の子に選 択的に対応 し,他の子の受け入れを拒絶す ること によ り,安定 した母子の結びつ きをた もとうとす ることが考え られる。 これに対 し,霊長類,特に人間の新生児の運動 能力の発達は遅 く,母親が長期間養育せ ざるをえ ない留巣性の特徴を有 している。 したが って ,育 蹄類のように母親が自分の子 ど もを短期間に認識 し,他の子 と区別するようにさせ る圧力は生 じそ うにない。また,系統発生の段階が 高 くなるにつ れて,生得的にプログラムされた行動型の重要性 が低下 し,環境か らの学習による行 動の獲得が重 要になって くることはよ く知 られて いる。非常に ステ レオタイプ化 された行動をす る竃菌類や有蹄 類 とは異なり,複雑で柔軟性に富む人間の親行動 が,hormonaltriggerや生得的に構造化 された行 動パ ターンに厳密にあるいは決定的 に依存 してい るとは考え られないのである (Lamb,1983)0 以上のように,人間の母親に子 ど もに対す るア タ ッチ メ ン トを形成す るsensitiveperiodが あ る とす る理論の背景にある動物研究の知見に,巌近 になって疑義を もた らすよ うな実験結果が出現 し て いること,そ して仮 に動物にsensitiveperiod があ るに して も,生活形態が大 き く異な り.想像 力を発達させ .自己自身を も対象化 して眺め,自 己変革さえ可能な人間に,その事実 をそのまま当 てはめて考えることには慎重であるべ きであろう。

(8)

2)

母子分離 と母親行 動の障害

母と子 の群の形成の失敗と して .子 ど もの虐 待 (abuse)や 無視 (neglect) はど典 型 的な例 はないであ ろ う。KlausやKennellは ,こ う した 虐待や無視をひきお こす 原因と して ,出産後の母 子分離体験があるとみな している。 この主張の根 拠には出産後に長期の母子分離を余儀な くされ る 未熟児や- イ リスク児に,虐待 され るケースが多 くみ られるとす る研究知見が存在す る。確かに多 くの研究が ,新生児期の長期の母子分離は,未熟 児に対する母親のアタッチメントの形成を妨害 し, 未熟児に対する不安感や応答性の欠 如を もた らす と報告 している(e.g.Barnett.C.R.etal.(1970))0 当然のことなが ら,未熟児か ら分離 され た母親 に生 じる状況を考えてみ ると,様々なアタ ッチメ ン ト形成に不利な条件が存在す る (Seashore,M. J.1981)。た とえば ,未熟児か ら分 離 され た母 親は,限 られた視覚的接触以外のすべての接触が 不可能になる。また視覚的接触があって も,母親 が乳児の応答性 ,特に母親か らの働きかけに対す る応答性を観察できる程度は非常に限定 されざる をえ な い。Robson,K.S.(1967)が ,母子 の ア タッチメ ン トの発達 に重要であると した eye-t o-eyecontactはほとん どできない し,母親が期待 していた母親 らしい役割行動の遂行 も妨害 され る ことになるか らであ る。 こうした悪条件が ,母親の役割をひきうける準 備を心理的に最 もよ くす る時期に生 じることを考 えれば,母親行動に様 々な悪影響が発生す ること を予想 して も不思議で はない。Seashore,(1981)

は,母子分離が母親に与える影響 と して ,ス トレ スを処理す る能力の低下 ,乳児に対す る関心 と責 任感の低下 ,乳児を養育する能力に対す る自信の 低下を指摘 し,さらにその結果と して,乳児に対 するアタッチメ ン ト行 動の低下 ,乳児に与え る刺 激の減少 ,乳児を養育す る技能の低下を予想 して いる。

Lynch,M.A.と Roberts,J.(1977) は ,. 虐待された50名の子 ど もの出産記録を調べ ,これ らの子 どもたちの21名が集中治療室に入院 してい たことを見出 している。一方 ,虐待を受けなか っ た子ど もたちでは,5名 しか集中治療室に入院 し て い た ものが い なか った ので あ る。Lynchと Robertsは,集中治療室に入れ られ た新生児の母 親が正常な拝を形成 しそこな ったのだ とみな して い る 。 ま たLeifer,A.D.et al.(1972)ら ,母子 分配された未熟児の母親

2

2

名 と,母子分離された が集中治療室への入室が許され ,クベース内の未 熟児を養育 した母親22名を比較 した ところ,前者 では,養育の放棄が2名 ,離婚が 5名み られたの に対 し,後者では,離婚が1名だけであ ったと し ている。こうした結果か ら,彼 らは少数例ではあ るが,母子の初期分離が正常 な母親行動 と夫婦行 動を非常にそこなうことにな る場合 のあ ることを 示唆 している。 しか し最近,こうした新生児期の母子分離 とそ 後の母親行動の障害とに一義的な因果関係がある とす る主張には疑問が呈されてい る。次 にこうし た研究をい くつか見ておきたい。

Cater,J.Ⅰ.とEaston,P.M.(1980) は ,

80の虐待児の事例を検討 し,新生 児 との接触の欠 如がその後の虐待とまった く関連 していないと論 じてはいないが ,母子関係をそ こな う他のス トレ ス要因 (不安定な家庭環境 ,精神 医学的障害 ,親 の未熟さ) もまた虐待の重要な先行 要因 と して注 意されるべ きであると主張 してい る。

Collingwood,J.と Alberman,E.(1979) は,母子分離された低出生体重児 とコン トロール 群とを比較 して ,障害された母子 関係 と集中治療 室での入院期間との間に関連性を見出 してお らず, このことは低出生 と新生児期の母子分離以外の要 因が障害された母子関係の原因 と して存在す る可 能性を示 していると述べている。

Egeland,B.と Vaughn,B. (1981) 紘 , 千 どもの虐待 と無視といった母親行動の障害の有無 と母と子の秤の形成を妨害する要因 (未熟児出生 , 母子分離をひきおこす周産期の障害 ,母親の病院 退院後の乳児の入院期間)との関係をブ ロスペク テ ィヴに検討 した。その結果 ,虐待や無視が認め られた 「不 適切 なケ ア群」 と認め られ なか った 「適切なケア群」との問には ,未 熟児出生や周産 期の問題といった出産直後の母子 接触を制限す る 条件に差がみ られず ,子 ど もの虐待や無視あ るい は誤った子 どもの取 り扱いの原因 と してそ う した 条件があるとす る見解を支持す る証拠 はまった く

(9)

ないと述べている。

Rode,S.S.etal.(1981) は , 未 熟 児 あ る い は出産時の健康上の問題のために ,集中治療室 に 約4週間収容され ,母子分離 された子 ど もの2歳 時 のAinsworth Strange Situation Tec h-niql誉参R% 結果を分析 して い る.その結 果,B 群が24名中17名 (70.8%),A群が3名 (12.5%), C群が4名 (16.7%)とな り、 これ は非 分 離 群 の ものと差がない結果であるとしている。 したが っ て,2歳児の母親に対す るア タ ッチメ ン トパ ター ンに分離群と非分離群に違いがみ られないといえ, このことは両群の母親の子 ど もに対す る行動 に, 子 ど ものアタッチメ ン トパ ター ンに影響す るよ う な差がないことを推測させ るのであ る。 このよ うに,新生児期の母子分離 とその後の母 親行動の障害 との間に一義的な関係がない とす る 研究を見て きたが ,両者に関係を見出 して い る研 究 に して も,新生児集中治療室に収容 された母親 のすべてが ,母親行動に障害をお こ して いるわけ でな く,多 くの子 ど もが虐待や無視を受 けて いな い ことは確実である (Egeland,1981)0 す ると母親行動に障害をひきお こす原因 と して は ,母子分離体験だけでな く,それ以外の要因 と も相互 に影響を及ぼ しあ って い ることが考え られ る。た とえば,乳児の出産以 前か ら存在す る母親 のパ ーソナ リテ ィ特性が ,拝 の形成能力やその後 の母親行動に影響す るであろ うことは容易に推測 できる。また,そうした母親は産前の配慮に欠 け, そのために未熟児や障害を受 けやす い乳児を産む 可能性が高 くなることも考え られ よ う (Egeland, 1981)

0

Egeland,(1981)は , 自発 的 に産前教 育 プ ロ グラム (midwifeprogram)に参加 した母親に, 虐待や無視 といった母親行動の障害を示す ことが 少 ないことを見出 してお り,こう した母親は ,年 長者が 多く,教育水準が高 く,健康度 にす ぐれ , 子 どもの誕生に高い関心 を示 して いた ことが指摘

されて いる。

また

,

LeidermanとSeashore(1975)は ,乳 児の性 ,出生順位,家族の社会経 済的階層 ,乳児 の行動が母親の行動 に大 きな影響を与え ることを 見出 してお り,RobsonとKumar(1980)は ,母 親の子 どもに対す る愛情の開始を遅 らせ る要因 と して

,

11歳以前の父親 との別離 ,妊娠および妊娠 の身休的徴候 に対す る否定 的態度 ,妊娠36過まで に胎児を一個の人間と して知覚できない ことをあ げて いる。 もし上記 した様々な要因が ,母親の子 ど もに対 す る態度や行動に影響力を もつ とすれ ば ,未熟児 の虐待や無視 とい う母親行動 の原 因 と して ,初期 の母子分離体験があまりにも強調されすぎ,その他 の要因の影響力をなおざりに して きた感があ るよ うに思われる。確かに,未 熟児 との分離は家族 シ ステムにス トレスを与え ることにはな るが ,その 母子分離体験 は家族 システムの性質 と相互 に影響 しあ うことも確かであ り,また未 熟児 と母親 との ア タッチメン トは,その後の両者の相互作 用の過 程 全体 の産物 (Rode,etal.(1981) )で あ る と いえよ う。 母子間の崩適な群あ るいはアタ ッチメ ン トの発 達 は,乳児や母親や家族が もつ 多 くの要 因によ っ て影響 され,新生児期の母子分離体験 はそ う した 要 因の無視すべ きではない一つの要 因であ るにす ぎないという冷 静な見方が必要 な時期 に来てい る よ うに思われ る。

3) EarlyandExtendedContact研究 自体の問題

(1)再現性の問題

本稿で先にearlyandextendedcontact効

果を扱 った研究を見てきたが ,それ らの研究 は同 一 または類似 した評定項 目を使用 してい るに もか かわ らず ,一致 した結果を見出せて いない。一年 以上 もの長期的効果を見出 して いる ものか ら,出 産後36時間での効果を否定 している研究まであ り, 研究結果の再現性には,非常 に大 きな疑 問が残 さ れ るのであるC, 具体的に一例をあげれば,Hales,etal.(1977) の研究結果で は,earlycontact群 と コ ン トロー ル群で母親行動 と して重視 され るenface行動 の 出 現 頻 度 に 有 意 差 が み られ た の に 対 し , deChateauとWiberg (1977a)で は有 意差が み られて いない。どち らの研究 も長期効果を指摘 し て いる ものではあるが ,詳細に見てみ るとこう し た差異 が しば しば存在す るので あ る。

(10)

Lamb(1983)が指摘す るよ うに , も しearly andextendedcontactが母親に何 らかの重要な生 物 学 的 変 化 を 誘 発 さ せ る な ら.early and extendedcontactを扱 った研究間には ,もっと一 貫 した結果を期待 してよいよ うに思われ る. t2)評定項目の妥当性の問題 母と子の群の強さを評定す るために現在使 用されている項目の多くは,証明された妥 当性 よ りも,仮定 された妥当性に基づ いてお り,そ うし た評定項目を用いたデータか らひき出された結論 には注意が必要である。 たとえば,early contact群の母親がル ーチ ン 群 と比較 して ,よ り多 くの smiling と en face lookingを した とい う事実は,彼女 らの母子関係 の将来や,子どもの発達についての結論をひさだ しうる もので はな い。現在 の ところ,en face lookingが実際に母親のアタッチメン トの指標で あ る と確 定 で き る デ ー タ は な い の で あ る (Smeriglio,V.L.1981)。ま た de Chateau とWiberg(1977a)が評定項 目と して採用 してい る母親の姿勢 も,母親のアタッチメ ン トの指標 と して妥当かどうか疑問である。 Smeriglio(1981)は,母親のアタ ッチ メ ン ト の妥 当性に関す る限界の一例 と して,Klaus と Kennell(1976)によって取 りあげ られた 検診中 の母親行動についての評定項目の例をあげている。 KlausとKennellは ,検 診中 に,母親が立 って 見 守 り,乳児の泣きをなだめ る行動をすれば ,そ う しない母親 と比較 して,よ り高いアタッチメン ト を示す証拠であるとみな している。 したが って , earlycontact群でそ う した行 動得点が 高い こ と は,より高いアタッチメン トを示す証拠だ とされ たのである。 しか し,別の解釈 も可能であろう。 た とえ ば early contact群 の 母 親 は ,early c。ntactとい う経験の過程か ら,乳児の医療的ケ アに何が必要とされるかを学習 したことにより,あ るいは病院環境の暖かな雰囲気の知覚や支持的な 医療スタッフとの親近感により,こうした行動を より多 く取 ったとも考え られるのである。そ うで あればこうした母親行動は望ま しい ものであるか もしれないが,それが乳児に対す るアタッ≠メ ソ トを反映しているとは必ず しもいえないであろう。 -40-こうしたアタッチメン ト評定項目の妥 当性 につ いては,初期のアタッチメン ト評定項 目の成績が その後の評定項目の成績 とどの程度 相関す るか と いう予測的妥当性の検討によって ,吟味 され る必 要があろう。 また妥当性分析の もうひとつの方法 と して ,アタッチメン トを反 映す ると考え られ る 評定項 目間の相関の検討 も必要であ ろ う。 明確な結論を主張す る前に,母 と子 の群が客観 的に定義され,体系的に測定され, さらに母 と子 の群を反映す る母親行動をブ ロスペ クテ ィヴに観 察することが,今後の課題 と して残 されていると いえよ う。

(3)earlyandextendedcontact以外 の 条件の問題 いか な る病 院環 境 の も とで early and extendedcontactを受けたかによって ,母親の行 動は異ったものになることが予想される。 しか し, 多 くの研究が,contact条件につ いて は考 慮 して いて も,病院環境の性質については注意を払 って いない。医療 ,看護スタッフが,contact群の母 親が特別に取 り扱われていることを知 っている場 合に,スタッフのその知識が母親 との交渉に影響 していないことを保証 している研究 はほとん どな いのである。さらにcontact群の母親が,contact を受けていない母親と接触すれば ,自分 たちを特 別に扱われていると感 じるのは確実であろう。 early contactに 長 期 効 果 を 見 出 して い る KlausとKennellらの研 究で は,early contact を受けた母親と受けなかった母親 とは隣あ った部 屋にいたので,earlycontact群の母親 は, 自分 が特別な注意を受けていたことを知 っていたはず で あ る。 また,Hales,etal.(1977)で は , 母 親 はベ ッ ドが7つ あ る部屋に ,deChateauと Wibergの研究では 4つあ る部屋 に いた とされて い る (Svejdaeta1.1980)。こ う した状 況 も母親 の扱われ方が比較されやす く,その比較か ら生 じ る特別に扱われているとい う感 じはcontact群 の 母親の行動に影響することが考え られるのである。 さらに,KlausとKennellらの研 究で は ,同 じ 看護婦がcontact群の母親とコ ン トロール群の母 親の世話を してお り,contact群に は新 しい革新 的な母子接触の機会を与え ,コ ン トロール群には

(11)

ル ーチ ンのケアをするよ うに指示 されていた。看 護婦たちは両群の母親に異 った行動を して いるこ に気がつかないか もしれないが ,実際には異 った メッセージを送っていた可能性は十分予想で きよ う (Yogman,M.W.1981)0 一万

,2

人部屋にお り,どち らの母親 も同一の contact条件になるよ うに し,観察項 目の評定 者 がどち らの群の母親を評定 しているかわか らない よ うに配慮 され たSvejda,etal.(1980)の研究 では,earlyandextendedcontact効果はまった

く見出されていないのであ る。 Seashore(1981)が指摘す るよ うに, こ う し た研究では,病院での母親 と乳児の経験のすべて が考慮されねばな らないであろう。異 った集団を 研究 してい るだけでな く,母 と子 は異 った病院環 境にいるのであ り,それが earlyandextended contact効果 と相互に影響 しあうか らである。 次に,母親の条件を検討 してみ ると,Klausと Kennellらは,都市に住む低社会経 済階層 の黒人 の母親にearlycontact効果を見出 して い るが , Lozoff,B.etal.(1977) は ,そ う した低 社会 階層の母親にearlycontact効果が顕著 に出現す る と述べ て い る。 しか し,彼 女 らにみ られ る earlycontact効果が,母子の群 の強 ま りを本 質 的に反映す るものなのか,それ とも,それは母親 の自尊心を改善 し,間接的に母親のケア能力を高 めたにすぎないのかは不明である。

Svejda,etal.(1980) は ,early contact 効果をほとんど,あるいはまった く見出 していな い研究の母親の共通点 として ,中流階層に属 して いること,12年以上の教育を受けていること,既 婚であること,産前教育を受講 していること,分 娩中に父親の付添いがあることをあげている。ま た,母親が出産計画を もって子 ど もを産んだか否 かによ って も,earlycontact効果 に差があ る こ とも知 られている (Grossmann,K.etal.1981)0

こうした事実は,earlycontact効果の一般性 が限定されざるをえないことを示 してお り,early contactがすべての母親に決定的な意味を もつ も のではないこと,そ して生物学的に決定 され た効 果を もつ もので もない ことを教えて くれて い る

(Svejda,etal.1980,Lamb,1983)

0

人 間 の 母親 と子 ど もの拝 の形 成にsensitive preiodがあるという主張を裏づける確かな事実は, これまでの議論か ら,動物研究 によって も,未熟 児の母親行動の研究によって も,またearlyand extendedcontact研究によって も見出 されていな いと結論 してよいように思われ る。人間を対象に した養子研究を見て も,養母 と養子 とに血のつな が りがな く,彼 らの問に,何週間,何 ヵ月間 ,と きには何年という時が失われていよ うとも,養母 が実母よりも劣 っていることを示唆 している事実 はないのである (Herbert,etal.1982)0 もちろん,このことは,新生 児期のearlyand extendedcontactがある状況下のある種の母親た ちに効果を与える可能性を否定するものではない。 しか し,その効果を生み出す メカニズ ムは,ほと んど明 らかになってはいないといって よかろう。 緒言で も触れたように,現代社会 に広 く行 きわ たっている出産直後の母子分離や ,未 熟児の隔離 保育 に対 して見直 しを もとめ ,出産直後の母子関 係をよ り自然で人間的な ものにす ることを促進 さ せ たKlausとKennellの功績は大 きい。母親に新 生児のケアを楽にさせ ,育児に対す る有能感を発 揮させ るように しようという病院の配慮は,母子 の拝の発達にポジティブな影響を もつ ことに疑い はない。 しか し.もう一方で ,何 らか のやむをえ ない事情で出産直後に母子分離をせ ざるをえない 母親 に,KlausとKennellらの主 張が いたず らな 不安感を醸成するおそれのあ ることを念豆副こおい て お か ね ば な ら な い。 early and extended contactの重要性についての拡大解釈は,未熟児 , 帝王切開児,養子 といった子 ど もたちを育ててお り,長期の母子分離休験を有す る母親 の疑惑感を 強め ,不当な罪悪感を生 じさせ ,かえ って母子関 係を歪めて しまうおそれがあるか らである。また, 現在の病院管理の もとで健康な母子の群を発達 さ せて いる多 くの母親に,出産直後の母子接触の欠 如が母子の拝をあや うくさせ ることを ほのめかす ことにも注意 して ,有害な不安感を抱 かせないよ うにす る配慮 も必要であろう。 最後に,人間が生物であ り,その行 動の背後に 生物 と しての特徴を根強 くもっている ことは間違

(12)

いない。人間行動を坪解する環要な立脚点 と して 生物学的アプローチが必要であり,そ こか らの知 見は人間の行動を把握 してい く手掛 りを今後 ます ます提供 してい くことになろう。 しか し,一方で 人間は,精神を もった生物として特異な存在で も ある。たとえば,自分 自身を対象化 してながめ, 他者の 自分についてのイメージを気にかけ,自己 評価するのは,人間に固有な精神的働きといえよ う。そこか ら様々な人間らしい振舞いが誕生 して くるのであろう。生物学的決定か らの 自由の拡大 (そこにも生物学的プロセスが働いているとい う 議論は もちろん可能である)が,人間の進化の過 程であるとすれば,生物 としての人間と精神的存 在 としての人間,この両者の間にどのよ うな掛け 橋を構築す ることができるか ,それはまさに古 く て新 しい問題であるといえよ う。本稿で取 り上げ た母親の養育行動に及ぼす earlyandextended contact効柴に関す る議論は,人間の中で最 も生 物学的存在に近い新生児と,精神を石す る存在で ある母親との相互作用を対象としているだけにこ うした掛け橋を考えてい くうえで ,非常に興味深 い研究領域として注目されてよいように思われる。 (荏 )

Ainsworth Strange Situation Technique Ainsworthが開発 した子 どもの母親に対す るアタッチメン トを評価す る方法。A群は 母親 との接近 ,接触を回避す る回避群,B 群は健全なアタッチメ ン トを形成 している 正常群,C群は母親 との接近 ,接触を強 く 求めるが,一方で母矧 こ怒 りや反抗を も示 す ア ンビバ レン ト群を示 して いる。 文 献

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表 1 7 取り扱いに困る乳児行動の出現頻度 ( Fr om Cr ai ge tal . 1 9 8 2 )

参照

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