大学における教員のキャリア教育に対する関心と評価
-学内FD研修で使用したOPPシートの記述から-
原 瑞 穂* 要 旨 本調査の目的は、現在実施している大学におけるキャリア教育の授業内容と改善の試みを報告するこ とにより,大学の教員がキャリア教育に対してどのような関心を持っているのか,また,授業評価や改 善に関してどのような意識や課題を抱えているのかを検討することであった。具体的には,本学の学内 FD 研修において1回講義用 OPP シートを使用し,その記述内容から教員の意識と課題を検討した。FD 研修では,アクティブ・ラーニングとOPPA(One Page Portfolio Assessment)1)を導入したキャリア教育の授業内容と授業評価への取り組みと効果を紹介し,各教員の感想や意見をOPP シートへ記述する形式 をとった。その結果,教員はキャリア教育に関する関心はあるものの情報が不足していること,授業改 善に対する必要性を意識しているが,業務の煩雑さやクラスの受講人数の多さが障害になると考えてい ることが明らかになった。また,OPPA 導入に関して,有効性は理解するが教員の手間と学生の記述内 容への信頼性などの問題を感じており,汎用化には多くの課題があることが示された。 キーワード : 大学,キャリア教育,授業改善,OPPA 1.問題と目的 1999 年の中央教育審議会答申「初等中等教育と高等 教育との接続の改善について」2)で「キャリア教育」と いう文言が初めて登場して以降,大学では様々な取り組 みがなされてきた。中央教育審議会答申「今後の学校に おけるキャリア教育・職業教育の在り方について」3)で は,キャリア教育の定義を「一人一人の社会的 ・ 職業的 自立に向け,必要な基盤となる能力や態度を育てること を通して,キャリア発達を促す教育」と定め,「より効 果的な活動となるためには,各学校における到達目標と それを具体化した教育プログラムの評価の項目を定め, その項目に基づいた評価を適切に行い,具体的な教育活 動の改善につなげていくことが重要である。」と,キャ リア教育に対しても具体的なプログラムとそれに対する 評価方法の設定,実施と改善を示している。このような 中,同年,大学設置基準に「大学は,当該大学及び学部 等の教育上の目的に応じ,学生が卒業後自らの資質を向 上させ,社会的及び職業的自立を図るために必要な能力 を, 教育課程の実施及び厚生補導を通じて培うことがで きるよう,大学内の組織間の有機的な連携を図り,適切 な体制を整えるものとする。」の条文4)が追加され,4 月から大学・短大におけるキャリア教育が義務化される こととなった。この改訂に伴い,キャリア教育は全ての 教育段階において必要な科目とされることになった。 このように大学にまでキャリア教育が求められる理由 として,第四次産業時代の到来,AI による職業の変化 などの社会情勢の急激な変化とともに,若者自身の能 力の低下5)や職業観,キャリアに対する意識の未熟さ などにも要因があるとされる3)。このような若者の変化 は,大学教育にも少なからず影響を及ぼしている。生徒 化された大学生の問題6)7)はどの大学でも抱える課題 であり,多くの大学で,学生の主体的な学びをどう引き 出すのかという問題に対する方策を模索しているのが現 状であろう。 大学における学びは,専門的な知識の習得が最も重要 な目的ではあるが,社会人として働くためには専門知識 技術を活かす人間力が必要であり,大学生活の中で同様 に身につけるべき重要な資質・能力である。2006 年に 経済産業省が提唱した社会人基礎力の3つの力「考え抜 く力,前に踏み出す力,チームで働く力」は,人生 100 年時代,AI 時代,第四次産業革命の下,必要とされる 力を再検討され,「新・社会人基礎力」が 2018 年2月に 示された8)。これは,「これまで以上に長くなる個人と 企業・組織・社会との関わりの中で,ライフステージの 各段階で活躍し続けるために求められる能力とされ,こ れに「何を学ぶか、どのように学ぶか、どう活躍するか」 という新しい3つの視点を加えたものであった。従来の 3つの能力を発揮するにあたって,目的,学び,組み合 わせのバランスを図ることが,自らキャリアを切り開い ていく上で必要であるということである。つまり,若者 に求められる力は不変であるが,人生 100 年時代,第四 次産業革命の下で生き抜き活躍し続ける人材になるため には,若者自身が自ら選択し,体験し,活躍する方法を 考え行動を続けることが求められているのである。 以上のように,大学におけるキャリア教育は,学生が 今後の人生を「どう生きるか」を考える大切な機会であ り,初年次の科目として変化の激しく長期にわたる職業 人生を柔軟に生き抜いてゆく基盤を築くためにも重要な 機会であると考える。そこで本調査では,大学における キャリア教育の報告を通して,キャリア教育に対する教 * 山梨大学 キャリアセンター
員の知識と理解,意識について検討することとした。 キャリア教育が学生にとって重要な科目であることを 述べてきたが,実際に運用されているキャリア教育の内 容が,果たして学生に対し効果的に提供されているのか という問題がある。文部科学省の第1期教育振興基本計 画(2008)9),第3章「今後5年間に総合的かつ計画的 に取り組むべき施策」では,これまで教育施策において はPDCA サイクルの実践は必ずしも十分でなかったと し,今後は施策によって達成する成果(アウトカム)を 指標とした評価方法へと改善を図っていく必要があるこ と,各施策を通じてPDCA サイクルを重視し,より効 率的で効果的な教育の実現を目指す必要があることが示 されている。しかし,それから5年後,2013 年の第2 期教育振興基本計画10),第1部Ⅱ「我が国の教育の現状 と課題の第1期計画の総括と今後の方向性」の中で,教 育課題が依然として指摘される要因の例として,どのよ うな成果を目指すのか,どのような力の修得を目指すの かといった明確な目標が設定され,その取組の成果につ いて,データに基づく客観的な検証を行い,そこで明ら かになった課題等をフィードバックし,新たな取組に反 映させる検証改善サイクル(PDCA サイクル)が,教育 行政,学校,学習者等の各レベルにおいて,必ずしも十 分に機能していなかったと指摘されている。大学の教育 に対する授業改善や教育評価に対する意識の向上も重要 な課題であると言える。 以上のように,教育の目標設定と効率的かつ効果的な 教育の実現のための評価方法とは何か,という問題に対 して明確な答えがないのが現状である。2011 年から義 務化された大学におけるキャリア教育に関してもこの改 善サイクルは求められるものであるが,カリキュラム内 容の妥当性,評価制度の構築など様々な課題を抱えつつ も明確な方向性や具体的な方策の提案にまで至っていな い。キャリア教育のプログラムや各々の授業アンケート やオリジナルのルーブリック評価などは行われていて も,その内容は教員に任されており、標準化は難しい状 況ではある。学部学科の少人数クラスの授業などでは, 学生一人ひとりへの対応によりきめ細かな指導が可能で あるが,全学共通科目や一般教養などの 100 人~ 300 人 クラスの授業では,個々の学生への丁寧な対応は困難を 極める。受講生の授業への取り組みや意識の変化を早期 に把握しながら授業改善を図ることが,大人数クラスの 授業では必要になる。そこで本調査では,本学のキャリ ア教育における授業評価と授業改善の試みを紹介し,そ の内容をもとに授業改善に対する教員の意識変容を探る こととした。 本学の全学共通教育科目は,人間形成科目部門,語学 教育科目部門,教養教育科目部門,自発的教養科目部門 にそれぞれ区分して開設されている。人間形成科目部 門は「生活と健康Ⅰ・Ⅱ」「大学基礎・キャリア形成科 目」「国際理解科目」の科目から構成され,「大学基礎・ キャリア形成科目」に,「人間形成論」・「大学生のエン プロイアビリティ論」・「キャリア形成のための作文演 習」・「キャリア形成論」・「大学生のための言語表現」・ 「消費生活論」・「こころの健康づくり」・「大学生のため の情報表現論」・「e- ラーニングを用いた自主学習」が 設けられている。この内「キャリア形成論」については, OPPA 使用によりメタ認知育成を通じて学生の自己効力 感の向上が事例により確認されている(原,2018)11)。 また,クラスを編成する学生と授業効果との関連性につ いて量的な検証を行い,OPPA を使用した学生において 有意な授業効果が得られたことが報告されている(原, 2019)12)。 このようなOPPA 使用による大学のキャリア教育の授 業評価へ影響や,アンケート調査の量的分析による学生 の心理的変化をFD 研修で報告し,参加者が日頃の授業 を振り返ることで,授業改善に対する自身の意識レベル の把握やFD 研修を通じた意識変容に繋げることは有意 義であると考える。以上の背景により,本研究では,本 学の教職員を対象にOPPA を使用したキャリア教育の授 業改善への取り組み事例を示し,教職員のキャリア教育 に対する知識理解と意識を把握すること,また,取り組 み事例を通じた教職員の授業改善に対する意識変容への 影響と課題を明らかにすることを目的とした。 2.方法 2.1 実施方法 2.1.1 研修の概要 研修名 平成 30 年度第4回全学教育FD 研修。 実施時期 平成 31 年1月 21 日(月曜), 15 時 30 分~ 17 時。 実施場所 本学,大村記念館。 研修の趣旨 平成 29 年度の山梨大学優秀教育受賞内 容について,取り組みを紹介した。 参加者 本学の教職員。 2.1.2 調査時期 平成 31 年(2019)1月 21 日。調査対象は,FD 研修 に参加した 21 名であった。 2.1.3 調査対象者 未提出者3名を除いた 18 名(男性 18 名,女性3)を 分析対象者とした。平均年齢はおおよそ 50 歳前後,所 属ごとの内訳は表1に示す。 表1 調査対象者内訳
2.1.4 調査方法 FD 研修では,振り返りに OPPA(堀,2013)1)を導入 している「キャリア形成論」の授業評価について紹介し た。OPPA は,毎回授業後に振り返りを書かせるもので ある。他のポートフォリオと異なる点は,一枚の用紙 に 15 回分が収まる構成になっていることである。振り 返りの記録の積み重ねにより,学生は自己評価を通して メタ認知を育成し自己効力感を13)向上させることがで き1),自己の発達を自ら管理し成長する意識を持たせる ことができると考える。 FD 研修の実施にあたり,参加者のキャリア教育へ の関心と授業改善への意識及び課題に対する考え,ま た,研修の参加による意識変容を明らかにするために OPPA1)を使用した。研修は1回のみであるため,研 修1回分のOPP シートを作成した。OPP シートは堀 (2013)1)を参考にして作成し,作成者による表記等の 指導を受けた上で使用の了解を得た。OPP シートの使 用説明とOPPA の概要説明は研修内で行った。また,今 回のOPPA の使用目的は,主に参加者の授業改善への意 識の把握と自己評価,および研修担当者自身の自己評価 とした。OPPA の構造と機能の概要(堀,2013)1)より, OPPA で期待される事項としては,素朴概念の顕在化と 意識化,思考や認知過程の内化,内省,外化,自己評価 による変容の確認と価値づけ,自己評価によるメタ認知 能力の育成などが挙げられる。研修の最初に「受講前」 を,最後に「受講後」と「受講前中後」「自由記述」へ の記述を実施した。所要時間は5~10 分程度であった。 研修中に大切だと思ったことはメモ欄に書くように指示 した。使用した1講義用OPP シートを図1に示す。 2.1.5 倫理的配慮 記録内容は,個人が特定できない形で報告等に使用す ることを説明した。調査協力をもって同意が得られたと 判断することもつけ加えた。記録内容は研修後回収した。 3.結果 研修で使用した「1講義用OPP シート」の記述内容 を分類した。内容の抽出は,「受講前:あなたは,大学 の授業改善にとって大切なことについてどう思います か,自由に書いてください。」,「講義後の疑問点など, あれば書いてください。」,「受講後:あなたが,大学 の授業改善にとって大切なことについてどう思います か。」,「受講前・中・後をふり返って,大学の授業改善 に対する考え方はどう変わりましたか。そのことについ て,あなたはどのように思っていますか。考えたこと, 感じたこと,感想など,何でも構いませんから自由に書 いてください。」,「講義に対して思ったこと考えたこと, 自由に記述してください。」の6つを対象にした。抽出 は,受講者の考え,感じたこと,感想などが表出してい ると判断される表現を対象にした。複数のカテゴリーへ 重複した表現は,筆者の価値観が入るのを避け,できる だけ受講者の考えに忠実に分類するために,いずれかの カテゴリーに分類した。受講者の意識や思いが表出され ていないと判断したものは除外したため,受講者の記述 の全てを分類したものではない。受講者 21 名中提出さ れた 18 名のOPP シートの全てを対象にして,KJ 法を 援用して分類を行った。文章表現は原則として受講者の 表記のまま転記したが,内容に影響がない範囲で省略な どを行っている。結果を項目ごとに示す。以下,カテゴ リーごとの内容を【】を大カテゴリー,[] を中カテゴ リー,「」を小カテゴリー,記述を<>で示す。 3.1 受講前 「あなたは,大学の授業改善に とって大切なことについてどう思 いますか,自由に書いてください。」 については,41 件の記述が抽出さ れ,2つの大カテゴリー,4つの 中カテゴリー,16 の小カテゴリー に分類された。 まず,大カテゴリー【授業改善 に対する意識】(30 件)は中カテゴ リーとして [教員の授業改善に対 する方策](16 件),[学生に対する 方 策](14 件 ) が 得 ら れ た。 中 カ テゴリー [教員の授業改善に対す る方策] の小カテゴリーとして「準 備の必要性」(3件),「改善への方 策」(3件),「学生の特徴への対応」 (2件),「アンケート結果の反映」 (2件),「授業内容の検証」(2件), 「教員の記録を活用」(1件),「根 拠の必要性」(1件),「改善の継続」(1件),「教員の意識」 (1件)が得られた。中カテゴリー [ 学生に対する方策 ] の小カテゴリーとして「学生の理解度の把握」(4件), 図1 1講義用OPPシートの例(裏表印刷 A4版)
「学生の意欲喚起」(4件),「全員の質的保障」(4件),「学 生ニーズの見極め」(2件)が得られた。大カテゴリー【主 体的な学びの取入れ】(11 件)は,中カテゴリーとして [学生の主体性を育成する態度](9件)と [相互作用の 必要性](2件)が得られた。中カテゴリー [学生の主 体性を育成する態度] の小カテゴリーとして「自主的な 学びの必要性」(5件),「実践的授業形態」(4件),[相 互作用の必要性](2件)が得られ,[相互作用の必要性] は小カテゴリー「相互作用の必要性」(2件)が得られ た。 受講前の記述から,教員は自身の授業内容への工夫や 受講学生の把握など,自身の授業改善への態度とともに 学生への配慮の必要性を感じていること,学生の主体的 な学びを引き出すための具体的な方策を模索する姿勢が あることが示された。特に授業の質の保証や授業改善が 独断的にならないために根拠が必要であることなど,大 学全体の授業改善の在り方についての記述も見られた。 学生の主体的な学びにはアクティブ・ラーニングの取り 入れを考える記述がみられ,教員の他に若い職員の記述 に多く表れていた。また,大学の「教員が授業は研究と 並んで重要な仕事だと理解しておくこと」という指摘も あった。以上のように,全体的に授業改善の必要性と改 善に向けての意識が高く,学生により良い効果がある授 業を目指す意識が高いことが示された。表2に分類結果 と受講者の記述例を示す。 表2 「受講前」の記述のカテゴリー分類結果
3.2 受講中 3.2.1 研修中大切だと思ったことのメモ 「今日の講義の中で,一番大切だと思ったことを書い てください。」については,43 件の記述が抽出され,6 つの大カテゴリー,10 の中カテゴリー,21 の小カテゴ リーに分類された。 まず,大カテゴリー【キャリア教育の知識と現状の 理解】(20 件)は中カテゴリーとして [キャリア教育に 関する情報](11 件),[本学の現状](9件)が得られ た。中カテゴリー [キャリア教育に関する情報] の小カ テゴリーとして「キャリアに関する情報」(6件),「社 会人基礎力」(5件)が得られた。中カテゴリー [本学 の現状] の小カテゴリーとして「学生の現状の認識」(5 件),「2年生のキャリア形成不安」(4件)が得られた。 大カテゴリー【OPPA への反応】(17 件)は,中カテゴ リーとして [OPPA 論の肯定的理解](10 件),[OPPA の 使用方法](3件), [OPPA への労力 ](2件),[OPPA による個々の対応](2件)が得られた。中カテゴリー [OPPA 論の肯定的理解] の小カテゴリーとして「メタ 認知の育成」(2件),「自己評価の重要性」(2件),「自 己変容の過程」(2件),「OPPA の効果を認識」(2件), 「可視化の重要性」(1件),「自己理解から成長へ」(1 件)が得られた。中カテゴリー [OPPA の使用方法](3 件)の小カテゴリーとして「教員の関わりの程度」(2 件),「教員の態度」(1件)が得られた。[OPPA への労 力] からは「OPPA 使用の労力への不安」(2件),[OPPA による個々の対応] からは「個々の学生への対応」(1 件),「学生の反応を見る」(1件)の小カテゴリーがそ れぞれ得られた。大カテゴリー【研修内容への関心】(2 件)は,中カテゴリーとして [自尊感情向上](2件) と小カテゴリー「自尊感情向上プログラム」(1件), 「自尊感情」(1件)が得られた。大カテゴリー【改善に 必要な取組】(2件)は,中カテゴリー [必要な取組](2 件)と小カテゴリー「学生のレベルに対応」(1件),「主 体的な取組」(1件)が得られた。大カテゴリー【改善 の限界】は中カテゴリー [改善の限界](1件),小カテ ゴリー「改善の限界」(1件)が,大カテゴリー【不明】 (1件)は中小カテゴリーともに不明の内容が得られた。 受講中大切だと思ったことのメモについては,単なる メモ欄に使用したと考えられるケースもあったが,興味 関心の深さや知識不足の内容への確認ための記述である と想像されたため,参加者全員を同様に分類した。 研修中の記述内容からは,授業改善そのものを記述し た内容はごく少なかった。47%を占めていたのが,キャ リア教育の知識と現状の理解に関するものであった。特 に,「そもそもキャリアとは・・・」といった内容から キャリア教育の義務化,高い就職率と離職率,学生が身 につけるべき基礎力の変化など,社会情報や社会人基礎 力の記述が多く見られた。このことから,大学教員のキャ リアやキャリア教育に関する情報不足があるのではない かと考えられる。また,本学のキャリア教育の現状に関 する記述も多く,特に2年次のキャリア教育の抜けに関 する記述が多く見られた。この結果より,教員は,本学 のキャリア教育やキャリア支援の体系に関する知識を十 分には持っていないと推察される。また,学生の現状に 関しては,生徒化された学生像と本学の学生の問題点 を想起していた。OPPA への反応も 40%と多かったが, OPPA については大きくはまとまらず多くの項目が抽出 された。これは,教員の個々の課題に照らし合わせなが ら重要であると考えた点が記述に表れているのではない かと考えられる。全体にOPPA に関する興味関心が現れ ており,肯定的な記述が多かった。一方,OPPA の使用 方法に対する疑問点や授業後のコメント記入や評価など の労力がどの程度になるのかという不安,学生個々への 対応の重要さと煩わしさの両側面と捉えられる記述が見 られた。また,少数ではあるが,改善に必要な取り組み 方の記述や年度ごとにかわる学生に対する授業改善への 限界を感じている記述,プログラム内容の自尊感情への 対応に興味を示すなど様々な内容が見られた。全体的に, 研修中はキャリア教育の背景や本学のキャリア教育の体 系,学生の能力低下に対する関心の高さがうかがえた。 また,OPPA に関する新たな情報収集の確認や疑問点な ど,OPPA に対する関心の高さとともに,労力の大きさ への不安など,教員それぞれの課題が見えてくる内容で あった。表3に分類結果と受講者の記述例を示す。 3.2.2 研修中の疑問点 「講義後の疑問点など,あれば書いてください。」につ いては,13 件の記述が抽出され,4つの大カテゴリー, 7つの中カテゴリー,11 の小カテゴリーに分類された。 まず,大カテゴリー【授業改善法に対する疑問】(7 件)は中カテゴリーとして [研究分析に関するもの](3 件),[効果に関するもの](2件),[学生効果の疑問](2 件)が得られた。中カテゴリー [研究分析に関するもの] の小カテゴリーとして「事例に関する疑問(1件),「量 的分析に関する疑問」(1件)が得られた。中カテゴリー [効果に関するもの] の小カテゴリーとして「授業効果 の数値化」(1件),「改善方法への疑問」(1件)が得ら れた。中カテゴリー [学生効果の疑問] の小カテゴリー として「学生効果への疑問」(1件),「コミュニケーショ ンへの疑問」(1件)が得られた。大カテゴリー【自身 の課題】(4件)は,中カテゴリーとして [各層の学生 への対応](3件),[肯定的反応](1件)が得られた。 中カテゴリー [各層の学生への対応] は小カテゴリーと して「消極的学生の対応困難さ」(2件),「各層への対 応の葛藤」(1件)が得られた。大カテゴリー【改善へ の困難さ】(1件),【プログラム内容】(1件)は中カテ ゴリー、小カテゴリーともに同じ内容が得られた。 研修中の疑問点に関して,教員から,事例による根拠 や量的分析の解釈への疑問をはじめ,授業効果の報告内
容を確認できるものの要求や学生の変化に対する疑問な ど,様々な疑問点が挙げられた。教員自身への課題につ いては,消極的な学生への対応方法やそもそも対応すべ きかなどの葛藤,報告内容からヒントを得たと考えられ る記述も見られた。しかし,やはりここでも授業改善へ の困難さの記述が見られた。教員は個々の学生の分析の 必要性や,履修による就学不良の減少分析など,分析方 法への意見や授業改善に対する疑問,授業改善の困難さ などに疑問を持っており,より良い改善策に対する意識 が高いことが示された。表4に分類結果と受講者の記述 例を示す。 表3 受講中に大切だと思ったことのカテゴリー分類結果
3.3 受講後 「受講後:あなたが,大学の授業改善にとって大切な ことについてどう思いますか。」については,29 件の記 述が抽出され,4つの大カテゴリー,7つの中カテゴ リー,18 の小カテゴリーに分類された。 まず,大カテゴリー【授業改善への意見】(19 件)は 中カテゴリーとして [授業改善への意欲](14 件),[授 業改善の困難さ](4件),[OPPA 導入について ](1件) が得られた。中カテゴリー [授業改善への意欲] の小カ テゴリーとして「個人にあった内容の工夫」(5件), 「振り返りの取り入れ」(4件),「学生の把握」(2件), 「具体的な課題」(1件),「相互作用の工夫」(1件),「授 業の質の保証」(1件)が得られた。中カテゴリー [授 業改善の困難さ] の小カテゴリーとして「多忙による困 難」(1件),「仕組みの問題」(1件),「理想と現実の差」 (1件),「授業内容ごとの対応の困難さ」(1件)が得ら れた。中カテゴリー [OPPA 導入について ] の小カテゴ リーとして「OPPA 導入への問題」(1件)が得られた。 大カテゴリー【理想的な授業への意識】(5件)は中カ テゴリーとして [あるべき授業の姿](5件)が得られ, 小カテゴリーとして「理想とする授業イメージ」(4件), 「教員自身の態度の反省」(1件)が得られた。大カテゴ リー【講義に対する感想】(4件)は,中カテゴリーと して [今後の授業への思い](2件),[講義への感想](2 件)が得られた。中カテゴリー [ 今後の授業への思い ] の小カテゴリーとして「授業改善に評価法が必要」(1 件),「教員の心構え」(1件)が得られた。中カテゴリー [ 講義への感想 ] の小カテゴリーとして「授業改善の方 法を知った」(1件),「学生の変容の記録がよい」(1件) が得られた。大カテゴリー【混乱】(1件)は中カテゴリー として [混乱した](1件),小カテゴリー「方法がわか らなくなった」(1件)が得られた。 受講後の記述から,教員は授業改善への意識が高く具 体的な方策を思案していること,理想とする授業へのイ メージを明確に持っており,反省とともに授業改善への 意欲が高いことが示された。しかし,一方で多忙であっ たり,改善の手法がわからず模索中であること,クラス サイズの問題,個々の学生を見る難しさなど,授業改善 への高い意欲を持ちつつも,業務の多忙さやシステムの 問題など,理想と現実のギャップに悩まされている状況 であることが明らかになった。表5に分類結果と受講者 の記述例を示す。 3.4 受講前・中・後 「受講前・中・後:受講前・中・後を振り返って、大 学の授業改善に対する考え方はどう変わりましたか。そ のことについて、あなたはどのように思っていますか。 考えたこと、感じたこと、感想など、何でも構いません から自由に書いてください。」については,16 件の記述 が抽出され,5つの大カテゴリー,6つの中カテゴリー, 11 の小カテゴリーに分類された。 まず,大カテゴリー【授業改善への可能性】(9件) は中カテゴリーとして [自己評価の重要性の理解](6 件),この小カテゴリーとして「振り返りの重要性を認識」 (3件),「学生と教員の双方の利点」(2件),「普段考 えていることの根拠になった」(1件)が得られた。中 カテゴリー [ 改善への積極的な意見](3件)は小カテ ゴリーとして「具体的な課題の発見」(1件),「学生の 表4 受講中の疑問点のカテゴリー分類結果
反応への対応」(1件),「テンプレート化への期待」(1 件)が得られた。大カテゴリー【OPPA 使用に対する躊 躇】(2件)は中カテゴリーとして [授業改善への困難 さ](2件),小カテゴリーとして「手間がかがる」(1 件),「改善は困難」(1件)が得られた。大カテゴリー【変 化なし】(3件)と【分析への疑問】(1件)は,中カテ ゴリー,小カテゴリーともに同じ内容が得られた。大カ テゴリー【その他】(1件)は中カテゴリーとして [質 問が広すぎる](1件),小カテゴリーとして「質問が広 すぎる」(1件)が得られた。 表5 受講後のカテゴリー分類結果 受講前・中・後の変化の記述から,授業の振り返りと して自己評価をさせることや自己理解の大切さなど,授 業改善への積極的な意見が得られ,テンプレート化への 期待もあった。さらに,普段考えていることの根拠になっ たなどの肯定的な意見も見られた。一方で,効果は理解 できるが手間や労力を考えると現実的には困難であると いう意見や,これだけの報告では授業改善に対する意識 の変容は得られなかったなどの現実的な評価もあった。 表6に分類結果と受講者の記述例を示す。 3.5 自由記述 「講義に対して思ったこと考えたこと,自由に記述し てください。」は,6件の記述が抽出された。[ねぎら い] (3件,50%),[興味] (2件,33%),[助言] (1 件, 17%)3つが中カテゴリーとして抽出され,小カテゴリー もそれぞれ同様であった。表7に分類結果と受講者の記 述例を示す。
3.6 受講前以外の全記述のまとめの分類 これまでの内容をまとめて,受講前以外の記述を分類 した。その結果,107 件の記述が抽出され,5つの大カ テゴリー,13 の中カテゴリー,26 の小カテゴリーに分 類された。 まず,大カテゴリー【授業改善関連】(43 件)は,中 カテゴリーとして [具体的な授業改善方法のイメージ] (15 件 ),[授業改善に必要な事柄](14 件 ),[授業改善 に対する意見](14 件 ) が 得 ら れ た。[具体的な授業改 善方法のイメージ] は小カテゴリー「授業改善に必要 表6 受講前・中・後の変化のカテゴリー分類結果 表7 自由記述のカテゴリー分類結果 なこと」(13 件),「目指す授業の形」(2件)が得られ た。中カテゴリー [授業改善に必要な事柄] は小カテゴ リーとして「学生に応じた内容」(5件),「講義内容の 改善」(4件),「振り返りの重要性」(3件),「自己評価 の重要性」(2件)が得られた。中カテゴリー [授業改 善に対する意見] は小カテゴリーとして「授業改善の困 難さ」(8件),「学生の問題」(4件),「改善への障害」 (2件)が得られた。大カテゴリー【OPPA 関連】(25 件)は,中カテゴリーとして [OPPA 論への肯定的理解] (22 件 ),[OPPA 論への否定的意見](3件)が得られ
た。中カテゴリー [OPPA 論への肯定的理解] は小カテ ゴリーとして「OPPA の理解」(10 件),「OPPA の効果 の認識」(7件),「OPPA の使用方法」(3件),「OPPA への期待」(2件)が得られた。中カテゴリー [OPPA 論への否定的意見] は小カテゴリーとして「OPPA に費 やす労力」(3件)が得られた。大カテゴリー【キャリ ア教育関連】は中カテゴリー [キャリア教育の知識と関 心](14 件),[学生の現状](6件)が得られた。[キャ リア教育の知識と関心] は小カテゴリー「キャリアの知 識」(10 件),「本学のキャリア教育」(4件)が得られ, 中カテゴリー [学生の現状] は小カテゴリーとして「学 生の問題点」(5件),「学生の能力への疑問点」(1件) が得られた。大カテゴリー【講義内容関連】(17 件)は, 中カテゴリー [講義の感想](5件),[分析方法につい て](4件),[ねぎらい](3件),[変化なし](3件), [助言](2件)が得られた。中カテゴリー [講義の感想] は小カテゴリーとして「講義内容について」(4件),「混 乱」(1件)が,中カテゴリー [分析方法について] は小 カテゴリーとして「分析方法」(3件),「授業効果の数 値化」(1件)が得られた。中カテゴリー [ねぎらい] は小カテゴリーとして「ねぎらい」(3件),中カテゴ リー [変化なし] は小カテゴリーとして「変化なし」(1 件),中カテゴリー [助言] は小カテゴリーとして「助 言」(1件)がそれぞれ得られた。 受講前以外の記述の総合分類では,授業改善関連のも のが 40%,OPPA 関連のものが 23%,キャリア教育関 連のものが 19%,講義内容関連ものが 16%,その他が 2%であった。このことから,授業改善に対する教員の 意識の高さがうかがえる結果となった。また,本学の キャリア教育の授業改善に使用しているOPPA への関心 も高かった。学生の現状にかかる問題に意識が高く,講 義内容への記述も多かったことから,キャリア教育とそ の背景に対する関心は高いと考えられる。OPPA に関し ては肯定的な理解が多かったが,教員の労力などへの不 安や業務負担の側面から導入には積極的ではないことも 記述内容から明らかになった。参加者の中には授業評価 のテンプレート化を望む声もあり,大学全体で共有でき る評価ツールを開発できれば理想的であろう。「変化な し」は3件程度あったものの,授業改善に対して改めて 考える情報提供の場になったのではないかと考える。表 8に分類結果と受講者の記述例を示す。 3.7 受講者の受講前と後の変化 教員の日頃の授業改善への意欲やOPPA に対する関心 の強さが得られたものの,1時間程度の研修では受講に よる意識の変化はさほど見られなかった。そこで,意識 の変化を便宜的に5段階に分けて,受講者一人ひとりの 変化を数値化して検討した。「変化なし」を0点,「別の 方法がある」を1点,「混乱した」を2点(混乱=意識 に何らかの働きかけがあったと判断した),「意識の変 化があった」を3点,「意識の変化とイメージ化」を4 点,「意識の変化とその具体的方策がある」を5点とし た。分析対象者は,受講前の記述がない者と受講なし(途 中参加)の者3名を除いた 15 名であった。結果として, 変化なしが3人,別の方法があるが0人,混乱したが1 人,意識の変化があったが4人,意識の変化とイメージ 化が5人,意識の変化とその具体的方策が2人であった。 合計点は 44 点,平均は 2.93 であった。全体に意識の変 化が見られたとは言えないが,意識の変化が見られた者 から具体的な方策までを考えた者が合計 11 名であった。 このことから,研修に参加した教職員の授業改善への意 識の変容は想定以上に高かったことが示された。 表8 授業前以外の記述全体の分類結果
4.考察 4.1 教員のキャリア教育に対する理解と意識 本調査より,教員はキャリア教育に関する情報や知識 が少ないことが推察された。OPPA には,学生の学習へ の態度の問題,学生対応への工夫や苦慮などを日ごろか ら感じていることが記述されていたが,個人的に抱える 問題とキャリア教育を必ずしも関係づけているとは言え ず,無気力な学生や問題を抱えている学生の背後にキャ リアの問題がありうるという意識を持つことが必要であ ると考える。学生が何のために学ぶのか,どんなふうに 生きたいのか,そのために今何をすべきなのかなどを考 えることによって,大学で学ぶ意味や意義を感得できる のではないだろうか。 教員は,本学の学生の全体像を把握し,その特性を踏 まえた対応を考える必要があると考える。また,学生の 学びに向かう姿勢や学力向上を考えるにあっては,まず 教員に対して何らかの方法で学生の現状やキャリア教育 の必要性に関する情報提供の機会を設けることが有効な 手段であろう。大学として最低限度の共通理解は必要で ある。さらに言えば,解決への方策として,カリキュラ ムの構築と共有化ができれば理想的であろう。 4.2 授業改善に対する意識 授業評価や改善に対する教員の意識は高かった。受講 前の記述からも各教員が授業に対する積極的な関わりを 持とうと努力するとともに,そのための課題も抱えてい ることがわかる記述が見られた。受講後の記述は受講前 とさほど変化がないように思えるが,詳しく見ていく と,より現実的に問題を捉え具体的な方策を考える内省 とも思われる記述が見られた。受講前は、全体をとらえ る授業改善の方法が多く見られたのに対し,受講後は学 表9 受講前後の個人内比較 生一人ひとりに対する視点に変化していた。それゆえ、 受講後の記述内容が授業改善に対する障害などへと移行 し、より具体的な課題や問題点へと意識が変化したと考 えられる。このことから,研修により授業改善に向けた 意識変容が見られたことが示唆された。 以上のことから,教員は,個々の教育について意欲的 に教育に取り組んでいる一方で,そのための困難性も抱 えていること,また,それらが共有されないまま個々の 悩みや問題のまま終わってしまう可能性があることが推 察された。この状況を少しでも改善するためには,個々 の悩みや問題を共有できる「場」を設け,目的や方向性 を示し,お互いに助け合う仕組みづくりが非常に重要で あると考える。記述にもあったような授業改善のツール 作成やテンプレート化は、教員間の情報共有・情報提供 の手段として有効であろう。 4.3 今後の課題 キャリア教育を議論するためには,教員に対するキャ リア教育の定義や目的,大学の現状などに対する情報提 供の機会が必要であることが課題として明らかになった ことは,この度の研修でOPPA を使用した意味があった と言える。この度の研修で得られた情報をいかに活用す るかが今後の課題である。本学のキャリア教育の在り方 や体系について議論するためには,第一段階としてキャ リア教育,キャリア支援などの内容の違いなどに対する 共通の理解が必要であろう。そして,初年次のキャリア 教育の重要性の周知と,その後の学部学科の授業へつな ぐ方法などの課題を議論することが重要である。また, 各学部で行われているキャリアに関する授業科目を整理 し,共通科目としてのキャリア教育と学部におけるキャ リア教育の内容を検討し,継続的な学びになるようなカ リキュラムを構築することが求められる。
謝辞 この度,FD 研修において OPP シート記入に快くご協力 下さいました先生方に,心から感謝申し上げます。 参考文献 1) 堀哲夫(2013).教育評価の本質を問う 一枚ポー トフォリオ評OPPA 論 東洋館出版社 2) 文部科学省(1999).中央教育審議会答申初等中等 教育と高等教育との接続の改善について (答申) 3) 文部科学省(2011).中央教育審議会答申「今後の 学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方につ いて」 4) 文部科学省(2011).大学設置基準の改正 第 42 条 の2 5) ベネッセ(2014).高大接続に関する調査 6) 新立慶(2010).大学生の「生徒化」論における批 判的考察 教育論叢,第53 号,67-75. 7) 伊藤茂樹(1999).大学生は「生徒」なのか――大 衆教育社会における口頭教育の対象―― 駒沢大學 教育 8) 経済産業省 産業人材政策室(2018).人生 100 年時 代の社会人基礎力について(平成 30 年2月) 9) 文部科学省(2008).第1期教育振興基本計画 10) 文部科学省(2013).第2期教育振興基本計画 11) 原瑞穂(2018).キャリア教育におけるOPPA 論の 効果 山梨大学教育学部紀要 第 27 巻,237-256. 12) 原瑞穂(2019). クラスごとの学生の違いとキャリ ア教育の効果―OPPA 論による自己評価を使用して ― 山梨大学教育学部紀要 第 28 号
13)Bandura. A.(1977)Self-efficacy:Toward a Unifying Theory of Behavioral change.Psychological Review. Vol. 84, No.2, 191-215.