流星電波観測に見られる
電離層への太陽活動の影響
明星大学理工学部総合理工学科物理学系天文学研究室 14S1-062 星野健太朗1
要旨
以前から、地球が宇宙から受けている影響について興味があり、特に地球近く で発生する天文現象について研究を行ってみたいという気持ちがあった。今回 の研究では、最も身近なものとして太陽から受ける影響について調べてみよう と考えた。明星天文台の流星電波観測のデータと比較のための電離層・太陽観 測の外部データから、地球の電離層が受ける影響・変化について調べる。 研究に用いる観測データは大きく分けて 3 種類あり、明星大学で観測した流星 電波観測データと電離層・太陽について観測した外部データそれぞれ 2 種類を 用いる。電離層・太陽観測の外部データは、太陽活動(主に X 線)から電離層 が受ける影響を調べる。明星天文台のデータは、流星電波観測からのデータを 用いて実際に観測を行ったデータからも太陽活動に関わる影響があるか、また は上記の電離層・太陽観測外部データと類似した結果が得られるかをグラフと ともに考察する。 今回の研究で、流星電波観測データを電離層観測外部データや太陽観測外部デ ータと比較することにより、流星電波観測のノイズが大きく増加した時に、電 離層に大きな変化があった時と一致する部分があったことが分かった。さらに、 その部分は太陽活動が活発になった時と一致していた。結果として、太陽活動 に大きな変化があった時は、電離層の様子に変化が見られ、流星電波観測にも 影響がでることがあることを発見することができた。このことにより、本研究 の目的である電離層への太陽活動の影響についての理解が深まったと考える。2 目次 第1 章 はじめに 1-1 研究の背景、研究の動機 1-2 研究目的 1-3 研究方法 第2 章 流星電波観測データ 2-1 原理 2-2 観測機材 2-3 観測方法・データ処理 第3 章 電離層・太陽観測データ 3-1 観測データ収集方法(太陽観測外部データ NICT と NOAA について) 3-2 データについて 3-3 解析法(プラズマ振動数について) 第4 章 研究の結果 4-1 観測結果 グラフ比較(流星電波観測グラフ、電離層・太陽観測グラフ) 4-2 考察 4-3 得られた知見 第5 章 議論 5-1 過去の卒論や似た研究との比較 5-2 本研究の意味 5-3 本研究の問題点とその解決法 第6 章 まとめ 6-1 流星電波観測データは太陽観測データとして引用可能か 6-2 全体のまとめ、より良い研究にするために 謝辞 引用文献
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第
1 章 はじめに
1-1 研究の背景、研究の動機 本研究では、流星電波観測のデータ及び電離層・太陽観測の外部データを用い て、地球大気(主に電離層)が太陽活動から受ける影響について調べる。流星電波 観測データについては、明星大学天文台に設置されているアンテナと受信機を 用いて実際に観測を行ったデータを用いることにした。電離層・太陽観測デー タについては、NICT(情報通信研究機構)と NOAA(米国海洋大気庁)のものを用 いた。 以前から、オーロラや隕石、デリンジャー現象など地球が宇宙から受けている 影響について興味があり、地球周辺で起こっている天文現象について研究を試 みようと考えた。今回はその中でも特に我々の最も身近にある太陽からの影響 にスポットを当て、太陽活動の変化によって地球や地球大気に及ばされる影響 を研究しようと考えた。この研究では、電離層を主とした地球大気の変化の様 子を調査することで、太陽活動が地球に影響を与えていること、加えてその影 響の詳細について考えていく。また近年比較的手軽に観測が可能になった流星 電波観測を用いて研究を進めることで、個人でも宇宙天気予報のような地球周 辺で発生する天文現象の観測を行うことが可能かということにも言及していき たい。4 1-2 研究目的 電離層に流星が突入する際、電離層中の大気はその摩擦によって電離され電離 ガスとなり電離層中にとどまる。流星電波観測は、地上から発信された電波が その電離ガスに反射されることで再び地上に戻ってきたものを観測する。しか しこの観測は流星から反射された電波だけでなく、様々な電波をノイズとして 観測する。その中には太陽活動が影響していると考えられるものがあり、今回 はそのデータを用いて、太陽から及ぼされる電離層への影響について考えてい きたい。また電離層の動向を観測している NICT や太陽活動を衛星によって観 測しているNOAA から、電離層・太陽観測外部データを引用した。そのデータ からは主に太陽から来る X 線や紫外線の変化が分かる部分を引用し、流星電波 観測データの比較として太陽活動の動向を探る。このようにすることで太陽活 動が電離層をはじめとする地球大気にどのような影響を及ぼしているのかを研 究する。 以上のことから、実際に観測を行った流星電波観測データから太陽活動からの 電離層への影響の有無や、電離層・太陽観測外部データと類似した観測結果が 得られるのか、また流星電波観測データは電離層・太陽活動観測に活用可能で あるかを考察していくことを目的とする。
5 1-3 研究方法 本研究で用いるデータは、流星電波観測データと電離層外部データと太陽観測 外部データの大きく分けて3 種類ある。その 3 種類のデータに関しては下記(第 2、3 章)にて紹介することにする。ここでは、本研究の大まかな流れ、全体の研 究方法について触れていきたいと思う。 研究の大まかな流れとして、一つ目に明星大学天文台流星電波観測データの収 集及びデータの処理を行い、得られたデータをグラフ化し考察していく。また 二つ目にNICT や NOAA からの電離層・太陽観測外部データを収集し、分析を 行い太陽活動の変化並びに電離層への影響を調べる。図 1 のように電波に相当 する短波と X 線や紫外線などのさらに短い波長のデータやグラフを比較するこ とで、太陽活動の動向を調べる。 図1 電磁波の種類と波長(株式会社大同印刷所の資料より引用)
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第
2 章 流星電波観測データ
2-1 原理 流星電波観測の原理 上空で流星が流れた時、大気との摩擦によって流星が流れた大気の周りが電離 され、電離ガスが生じる。その生じた電離ガスに電波が跳ね返されることで、 その信号をアンテナで受信する。 (図 2 参照) 図2 流星電波観測(AstroArts の資料より引用)7 流星によって電離されたガスが反射した電波をアンテナで受信し観測する。 その時流星以外の反応も現れることがあり、データ画面にノイズとして現れる こともある。 ・電離層について 電離層とは、地球大気の中間圏と熱圏の間にある大気の層の一つで、太陽から の紫外線や X 線などの高エネルギーの電磁波によってつくられる。それらの電 磁波が熱圏に入り、周囲にある酸素や窒素などの大気分子を電離(イオンと電子 に分けること)させることで、電離ガス(プラズマガス)の層ができる。これが電 離層となる。 上記した通り電離層は太陽からの電磁波によってつくられるので、高空になる ほど電磁波を多く受け電離されやすくなる。しかし高空では大気密度が低いた め、電離ガスの絶対量は少なくなる。反対に低空では電磁波の影響は少ないが、 大気密度が高いため、ある高度まで電離ガスの量は増えていく。しかし、地表 近くでは、電離されたイオンと電子が再結合しやすくなるという現象が起こる。 そのため電離層は地上からの高度約80-500km につくられることになる。 また電離層は地上に近い方から D 層、E 層、F1 層、F2 層という電離密度分布 による分け方がされている。電離層は電波を透過、吸収、反射するという性質 を持っているため、長波や中波、短波、UHF などの電波を用いることで様々な 通信に応用することもできる。 図3 電離層の電波反射(子供の無線教室の資料より引用)
8 2-2 観測機材 ここでは、実際に観測に使用した観測機材やソフトウェアについて述べる。 各機材のスペック ・アンテナ:comet 社製 CA-52HB 周波数 50-53MHz 利得 50MHz:6.3dBi 2 エレ HB9CV 判角値 約68° アンテナは短波交信用の八木アンテナを流星電波観測用に加工し、福井高専か ら発信されている 53.750MHz の電波を受信できるように設置する向きについ ても調整してある。 ・受信機:アイテック電子研究所製 HRO-RX1a 受信機はアンテナで受信した電波を音声信号に変換し、PC へと出力できるよう になっている。 ・PC:EPSON ノートパソコン ・ソフトウェア MROFFT:流星電波観測用フリーソフト。時刻、周波数、電波強度を 10 分毎 に1 枚の画像データとして出力するソフトである。 HROView:流星電波観測用フリーソフト。MROFFT で出力されたデータの流 星数のカウント、流星痕の時間を記録することなどができる。今回は、その1 枚の画像データのファイルサイズを出力し、Excel データとして記録することに 使用した。
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写真1 アンテナ
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写真3 天文台設置 PC EPSON
11 2-3 観測方法・データ処理 観測方法 明星大学天文台に設置してある観測機材を用いて、福井高専(福井工業高等専門 学校 福井県鯖江市)から発信されている電波を受信する。観測機材には、アン テナ、受信機、PC、ソフトウェアを用いる。福井高専からの電波は 53.750MHz であり、この電波をアンテナで受信する(53.750MHz は電磁波では超短波に当た る)。受信した電波は、受信機によって電波から音信号に変換され PC へ送られ る。PC に送られた信号はソフトウェアを用いてデータとして処理をする。この ときデータは、HROFFT によって 10 分間の記録を 1 枚の画像データとした gif ファイルとしてまとめられ、1 日で 144 枚の gif ファイルを得ることができる。 処理されたデータは、OneDrive によって天文台の PC から天文研究室の PC へ と共有する形をとり、研究室のPC を用いてグラフ作成に必要なデータに処理を する。 データ処理 上記したような、OneDrive で共有した gif ファイルを研究室の PC で処理をし ていく。
処理の仕方として、OneDrive 内の gif ファイルを Cygwin を用いて月ごとにま とめ整理する。整理したgif ファイルは、HROView を用いて 1 枚づつのファイ ルサイズデータに変換する。(以下グラフでは Filesize データと記載する。) このファイルサイズデータは、gif ファイルのファイル量によって大きさが決ま り、ノイズが少ないほど小さく、ノイズが多いほど大きくなる。またファイル サイズの数値はExcel ファイルに変換することができるので、ファイルサイズ データをExcel データに直し、月ごとに並び替えることで 1 ヶ月ごとのファイ ルサイズデータのグラフを作成する。 またグラフを見やすくするために、1 日 144 枚得られる Excel データは 1 日の 平均をとり、Filesize(Average)データに直してグラフを作成した。(図 11 参照)
12 (参考) 通常の流星電波観測データとノイズの多く入ったデータの比較 図 4 通常の流星電波観測データ 2017/11/23 8:10-8:20(このデータでは 8:12 台と8:15 台の 2 回、流星が観測されていることが分かる) 図 5 ノイズの多く入ったデータ 2017/11/19 11:00-11:10(ノイズが多く流星 の判別が不可能、流星データとしては使用することができない)
13 通常、流星観測データは流星の有無を観測するための観測機材、並びにデータ であるので、本来太陽活動の観測を目的としたものではない。 しかし、ノイズの多く入ったデータの中に、太陽活動による影響が含まれてい る可能性がある。したがって、本研究ではその通常の流星観測では使用するこ とができないノイズの入ったデータについても、併せて流星観測データとして 使用した。このようにすることで太陽活動やその影響を受ける電離層の様子を とらえることを目的とした。 この研究によって流星電波観測と太陽活動の相対的な関係をつかむことができ れば、上記したようなノイズデータの再活用や流星観測を用いた太陽活動の観 測、電離層と太陽の関係性について考えられることが期待できると思う。
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第
3 章 電離層・太陽観測データ
3-1 観測データ収集方法(電離層・太陽観測外部データ NICT と NOAA)
使用した外部データの研究機関紹介 ・情報通信研究機構
(NICT:National Institute of Information and Communications Technology) 情報通信技術(ICT)の研究開発の推進や情報通信事業の振興を行う、情報通信分 野を専門とした唯一の公的研究機関。
今回はその観測データの中から、イオノグラム、イオノグラムサマリーの 2 種 類のデータを使用した。
・米国海洋大気庁
(NOAA:National Oceanic and Atmospheric Administration)
天気予報や暴風警報などの気候監視から漁業管理や沿岸復旧などの海洋商業の 支援まで、科学を通して様々な情報を提供している機関。また、それに所属し ている気象衛星の愛称にもなっている。宇宙から海洋まで 9 つの分野に分かれ ており、本研究ではその中の一つである衛星分野のNOAA 衛星のデータを使用 した。NOAA 衛星の情報サービスは、衛星からの観測データをタイムリーに発 信しており、太陽活動や地球環境に関わるデータを見ることができる。 今回はその NOAA 衛星の中の一つである GOES15 衛星のデータを使用した。 GOES 衛星(ゴーズ、Geostationary Operational Environmental Satellite)は静 止気象衛星と呼ばれており、気象だけでなく太陽からの X 線の観測も行ってお り、本研究にはその太陽X線の観測データを使用した。
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3-2 データについて
次に今回電離層・太陽観測外部データとして使用した、NICT と NOAA の GOES 衛星のデータについて詳細を紹介する。 ・イオノグラム(NICT) NICT がイオノゾンデという装置を使って観測をしている日本 4 ヶ所の地点で のデータ。地上から電離層に向けて電波を発信し、電離層から反射した電波強 度を観測することで、その電離層の高度や反射される電波の周波数を観測する ことができる。15 分おきに下図の画像が作成され、左上から順に稚内、国分寺、 山川、沖縄の観測データが表示されている。今回は明星大学に最も近い国分寺 のデータ(図 6 の右上)からグラフを作成した。 この図では縦軸が電波の反射された地上からの高度、横軸が地上から発射され る電波の周波数を表している。 図6 イオノグラム(2017/10/19 09:30)
16 ・イオノグラムサマリー(NICT) 上記のイオノグラムの15 分毎のデータを 4 日分つなげてまとめたもの。1 日や 数日間での電波の跳ね返る周波数の動向を見ることができる。 またサマリー上で詳細を見たい部分をクリックすることで、その部分のイオノ グラムを見ることができるようになっている。 図7 イオノグラムサマリー(2017/09/06-10)
17 ・太陽X 線強度(NOAA GOES15 衛星) NOAA の静止気象衛星である GOES15 衛星によって観測されたデータを用いて 作成された一ヶ月の太陽活動の様子を見ることができるグラフ。この図では4 種類のグラフが並んでおり、上から順に太陽 X 線強度グラフ、陽子数の変化グ ラフ、電子数の変化グラフ、磁気強度グラフとなっている。 今回は太陽X 線について見ていきたい為、一番上の太陽 X 線強度のグラフを用 いた。 グラフの黒線XL は波長 0.1-0.08nm のX線の強度、赤線 XS は波長 0.05-0.4nm のX線の強度を示している。 図8 太陽 X 線強度(2017/09/01-30)
18 3-3 解析法 ・グラフの作成法について 前述したが、イオノグラムサマリーのデータでは、PC 上で見たい部分をクリッ クすることでその時のイオノグラムを確認することができるようになっている。 それを用いて、イオノグラムサマリー上で反射周波数が1日で最も高い部分を クリックし、その時間のイオノグラムに移動しデータを記録することにした。 イオノグラムのデータの読み方 イオノグラムからグラフを作成するにあたり、下図を参考にしてデータの抽出 を行った。下図は NICT の HP から引用したもので、イオノグラムに表れる代 用的なパラメータがいくつか載せられている。このパラメータを参考にして、 受信電波の臨界周波数にあたる fxF2 の先端の部分(下図の赤丸部分)の周波数と その時の電波の反射した高度を記録した。このとき記録したデータが観測され た時間についても併せて記録をとった。 図9 イオノグラムと電離圏パラメータ データ集計の参考にした図(NICT)
19 また太陽活動の影響を最も受けるのは、太陽が出ている日中の時間であると考 えられるので、イオノグラムサマリーにおいても6-18 時頃のグラフの変化を見 て、最も高い反射周波数の部分を探しデータを記録した。 イオノグラムから記録した周波数、時間を基に、プラズマ反射の式を用いて、 時間ごとの電子密度グラフをそれぞれ作成した。(図 12-(1)~(3) 参照)
20 ・プラズマによる反射について 電離層に向けて送られる電波の振動数:ω ある高度の電離層のプラズマ振動数:ω! とすると以下のような性質を示すことが知られている。 ω ≤ ω!:反射 ω > ω!:透過 ここでプラズマ振動数𝜔!は以下のように表される。
ω
!=
n
!e
!ε
!m
(n!:電子密度、e:素電化、ε!:真空の誘導率、m:電子質量とする。) 電子密度n!以外のe、ε!、mは定数なので、 ある高度の電離層のプラズマ振動数ω!は電離されている電子密度n!による。 地上から発信されたある周波数からの電波が反射する条件は 上記した条件で電離密度n!を表すと
𝛚 ≤ 𝛚
𝐩より →
𝐧
𝐞≥
𝛆𝟎𝛚𝐩𝟐𝐦 𝐞𝟐つまりこの条件の時に、電離層は地上からの電波を反射する。
21 ここでそれぞれの定数の値と地上から送られる電波(福井高専、イオノグラム) の周波数をそれぞれ代入し反射が起こる電子密度を計算してみる。 各定数の値を以下のように決める。 真空の誘導率:ε! = 8.854×10!!"(F m) 電子密度:m = 9.109×10!!"(kg) 素電化:e = 1.602×10!!"(C) 地上からの電波の周波数(福井高専):ω = 5.375×10!(Hz) n!≥ 9×10!! m!! 地上からの電波の周波数数(イオノグラム):ω = 0.1~3×10!(𝐻𝑧) n! ≥ 3×10!~3×10!! m!! 上空の電子密度がこの条件の時、電離層は電波を反射する。
22 ・電子密度の高度分布 通常、上空の電子密度は右図のような 分布になっている。 それが太陽かつ層の影響で、電離が進 むと、電子密度のグラフの位置は少し だけ右にずれることになる。 このことは上空の大気が太陽からの X線や紫外線を受けて、電離してしま うことが原因であると考えられる。電 離が進むと、自由に動く電子が増える ので、熱制動放射による電磁波の放出 も増えるはずである。 流星電波観測では、この熱制動放射の 電波成分がノイズとして観測される可能性があると考えられるので、このこと を流星電波観測のFilesize データから探っていきたい。 またイオノグラムでの観測では、図10 の電子密度グラフが右にずれることによ って、地上からの電波を反射する高度が高くなり、それに応じて反射される周 波数も高くなることが考えられるので、イオノグラムのデータから電子密度グ ラフを作成し変化を探っていきたい。 福井高専(流星電波観測) イオノグラム 周波数 ω 53.750MHz(超短波) 1-30MHz(短波) 反射高度 通常、電離層を透過 流星観測時は高度約 100km 高度約 150-800km 電子密度 𝒏𝒆 𝟗×𝟏𝟎𝟏𝟏(𝒎!𝟑) 𝟑×𝟏𝟎𝟖-𝟑×𝟏𝟎𝟏𝟏(𝒎!𝟑) 表 1 イオノグラムと流星電波の周波数と高度 ・太陽X 線(NOAA GOES15 衛星)強度グラフ 図10 電子密度の高度分布 (NICT の資料より引用)
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第
4 章 研究の結果
4-1 観測結果 グラフ比較(流星電波観測グラフ、電離層・太陽観測グラ フ) ここでは、第 2 章で挙げた流星電波観測 Filesize(Average)データグラフ、第 3 章で挙げた電子密度グラフと太陽 X 線強度グラフの 3 種類のグラフを比較して いく。また電子密度グラフと Filesize(Average)データグラフについては、比較 を明確にするために2 つを重ねたグラフを月別と感度別で 2 種類作成した。(※ 感度別は2017/09/21 に図 2 の流星電波観測機材の受信機の受信感度を変えてし まったため、区切りを設けている。) 期間は、2017/08/01-10/31 のグラフを比較することにする。 下記に記載する各グラフ一覧 ・Filesize(Average) データグラフ(図 11-(1)~(3)) ・電子密度グラフ(図 12-(1)~(3)) ●月別 電子密度-Filesize(Average)データ 比較グラフ(図 13-(1)~(3)) (上記の図11-(1)~(3)と図 12-(1)~(3)の 2 種類のグラフを重ね合わせたもの) ●感度別 電子密度-Filesize(Average)データ 比較グラフ(図 14-(1),(2)) ●太陽X 線強度グラフ(図 15-(1)~(3))25 ・明星天文台流星電波観測Filesize(Average)データグラフ 図11-(1)~(3)に 8 月~10 月の流星電波観測 Filesize データの変化の様子を図示し た。局所的に見ると、変動が激しく、ノイズが少なく反応が小さい部分もある 反面、急激に反応が大きくなっている部分もある。大局的に見ると波打つよう な変動をしていることが分かる。 図11-(1) 8 月の流星電波 Filesize データ変化
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図11-(2) 9 月の流星電波 Filesize データ変化
27 ・イオノグラムから作成した電子密度グラフ 図12-(1)~(3)に 8 月~10 月の電子密度変化の様子を図示した。電離層で反射され た電波の周波数からプラズマ反射の式によって導いたグラフ。それぞれの図に 規則性は見られないが、8 月の中旬に 4 回、9 月の上下旬で 2 回、10 月下旬に 1 回ほど電子密度が高くなっている部分が見られる。このことから、そのタイミ ングで太陽活動が比較的活発になっている可能性があると考えられる。 図12-(1) 8 月の電子密度変化
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図12-(2) 9 月の電子密度変化
29 ●月別 電子密度-Filesize(Average)データ 比較グラフ 電子密度の変化とFilesize の変化を見比べるため、図 11-(1)~(3)と図 12-(1)~(3) を重ねた図を作成した。それらを図13-(1)~(3)に示す。 図13-(1) 8 月の電子密度変化と Filesize データ変化の比較 図13-(2) 9 月の電子密度変化と Filesize データ変化の比較
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※なお、9/6 頃はイオノグラムのデータが大きく乱れており、測定は下限と見ら れることから、矢印でこのことを図示した。
31 ●感度別 電子密度-Filesize(Average)データ 比較グラフ 図14-(1),(2)には、8/1~9/20 の期間と 9/21~10/31 の期間における Filesize と電 子密度の相関を見る図を示す。 グラフの傾きを見やすくするため、近似直線を引いてある。 図14-(1) 8/1~9/20 における電子密度(縦軸)と Filesize(横軸)の相関 図14-(2) 9/21~10/31 における電子密度(縦軸)と Filesize(横軸)の相関
32 ●太陽X 線強度グラフ 図15-(1)~(3)に 8 月~10 月の GOES 衛星観測データを示す。 細かい変動があるが、午前中に強度が上がり徐々に下がっていく変動を一日ご とにくり返すように動いていることが分かる。 8 月中旬は長い期間データが不足している部分がある。大きな太陽フレアの発生 した2017/09/06 前後には、その影響からか、激しい変動をしていることが見ら れる。 図15-(1) 8 月の GOES 衛星観測データ
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図15-(2) 9 月の GOES 衛星観測データ
34 4-2 考察 ここでは主に図13-(1)~15-(3)について詳しく考察をしていく。 ・2017/08/01-08/31 (図 13-(1)、図 15-(1)) 図13-(1)について、2 つのグラフを重ねたが類似している点や相対的に変化して いる部分は見られない。図15-(1)については中旬部分が大きく欠けてしまってい る の で 比 較 す る こ と が 難 し い が 、 上 か ら 3 番 目 の 電 子 量 の 図 に お い て 08/20-08/25 にかけての期間が盛り上がった図になっており、図 13-(1)の電子密 度グラフに似ているように思える。 このことから太陽からのエネルギーが増加すると、地球の電離層にも影響が及 び、電離層の電子密度が高くなることから電離層のプラズマ振動数が大きくな り、電離層で跳ね返される電波の周波数も高くなるということが考えられる。 しかしそれがFilesize(Average)には反映されていないことが分かる。 ・2017/09/01-09/30 (図 13-(2)、図 15-(2)) 9 月のグラフ比較では、09/06 に発生した太陽フレアの影響を各グラフで見るこ とが大きなポイントであると考えられる。今回の太陽フレアは、X クラスのフ レアが2 回発生しており、NICT によると 09/06 の 07:50 に X2.2、20:53 に X9.3 もの大きなフレアが発生した。 比較したい図を見てみると、どの図においても 09/06 からの図に非常に激しい 変動が見られる。太陽そのものを観測しているGOES15 衛星からの図 15-(2)に は大きな変化が見られることはもちろん、明星大学で観測している流星電波観 測の図にも、電離層で跳ね返った電波を観測しているイオノグラムの電子密度 の図にも明確にその影響とみられる変動が読み取れる。また図13-(2)において、 9/5、6、7、9 では電子密度の図が、Filesize(Average)の図より凹んだ形になっ ているが、実際は元データのイオノグラムで見るとグラフが振り切れており、 計測不能な状態または激しいノイズによってグラフの値を見ることが難しい状 態によるものとなっている。したがってこの部分は実際さらに大きな値になる ことが考えられるので、図に黄色の上矢印をつけ、Filesize(Average)の図に近 いものなる可能性があることを示した。 全体の図からは、正確に一致した部分を見つけることは難しいが、大規模なイ ベントによる変化については類似した点を見つけることができるとは言えよう。
35 また図 13-(2)の Filesize(Average)の図からも分かるように、太陽活動が電離層 に大きな影響を及ぼしていることが分かる。図13-(2)はノイズのデータであるた め、全てが太陽によるものかは不明であるが、変動している期間がほぼ一致し ていることが分かるので、データが太陽の影響に左右されていることがよく分 かるものになっている。 ※Filesize(Average)データグラフ 後半のグラフ増加の部分(図 13-(2)) 図13-(2)について、後半の部分が徐々に高くなり、その後急激に下がっていると ころがあるのが分かる(図 11-(2)の赤丸部分)。この部分は何かの原因によってノ イズが大きくなり過ぎたために、観測機材である受信機の感度を調節したタイ ミングで一致している。この感度調整のため、このようなデータになってしま ったと考えられる。この期間は活発な太陽の活動がないため、観測地周辺のノ イズがデータに入り込んでしまったものであると考えられる。 また観測機材の感度を調節してしまったため、09/21 を境に異なる感度で観測を 行ったので、感度別の図を図14-(1),(2)として作成した。(詳細は後述) ・2017/10/01-10/31 (図 13-(3)、図 15-(3)) 10 月では、図 13-(3)を見ると 10/04-10/10 や 10/20 前後に Filesize(Average)グ ラフと電子密度グラフに類似した部分が見られる。しかし10 月中旬や 10/25、 10/29 の部分については、図がそれぞれ異なった形になっており、太陽からの影 響を正確には受け取れていないことが分かる。 9 月の図からは類似性を見つけられたが、Filesize(Average)や電子密度の比較か らみる図には不確定な要素が多く入ってしまっていることが分かるものとなっ た。 図15-(3)については、X線強度の部分を見ると、一ヶ月を通して平穏な図になっ ており、太陽フレアなどの大きなイベントの様子を見ることはできなかった。
36 感度別の電子密度-Filesize(Average)データについて(図 14-(1),(2)) 受信機の受信感度を変える前と後で、グラフを前半と後半に分けグラフ10、11 とした。グラフは縦軸を電子密度、横軸を Filesize(Average)としてその分布を 比較してみた。 図14-(1)では近似直線が若干の右上がりになっており、比例関係があるように見 える。このことは、Filesize(Average)であるノイズが増加するとき、電離層で の電子密度も増加していることが分かるので、太陽からの影響という同じ要因 で観測値が変化しているということが考えられる。 図14-(2)で近似直線の傾きはほぼ平らな状態になっていることが分かる。このこ とは、受信機の受信感度を下げたために、細かなノイズが減少してしまい電子 密度が増加しにくかったためであると考えられる。しかし Filesize(Average)は 増加しているので、電子密度とは別のノイズが多かったのではないかと考えら れる。
37 4-3 得られた知見 9 月に発生した太陽フレアによる各図の変化を見て分かるように、大規模な太陽 活動であれば、流星電波観測のデータからその影響を見ることもある程度可能 であることが分かった。流星電波観測のデータに変化が見られたということは、 電離層に何かしらの影響が出ていることを示す証拠になることは確かであると 考えられるので、3-3 で述べたように太陽活動の影響が電離層の電子密度を高め、 多くの電波を放出していると考えられる。そのことが上空の電子密度を高める と同時に、プラズマ振動数も大きくなり、地上からの電波を通常よりも多く反 射させるという影響を及ぼしていると考えられる。 このことは太陽活動が原因で発生するデリンジャー現象の理解にも繋がること であると感じた。また今回は地上からの電波を使って観測したが、電波だけで なく幅広い周波数での観測を行いデータ収集することができれば、さらに面白 い観測結果を得られるのではないかと感じた。 一方、太陽活動が平穏な時には、流星電波Filesize とイオノグラムから求めた 電子密度との変化に相関は見られない。太陽の活動が平穏な時、太陽からのエ ネルギー流入も少ないので電離層の変化は少なく、流星電波観測で受信される ほどのノイズが発生しにくい状態であったということが考えられる。
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第
5 章 議論
5-1 過去の卒論や似た研究との比較 2015 年 鷲田さん卒論との比較 過去の卒業生である鷲田さんの太陽と電離層についての卒論では、過去11 年間 の黒点の様子と電離層との関係性を調べており、実際に黒点のサイクルである 11 年の活動周期で電離層にも変化や周期の乱れについて議論がされていた。 このことから本研究について言えることは、比較するデータ量の少なさが一番 の課題であることが窺える。 鷲田さんの卒論から分かっているように、太陽活動周期と電離層には相関の関 係があることが分かるので、長期間の観測によるデータを用いることで実際の 観測からも同じようなことが言えるのかを考えてみたいと感じた。 5-2 本研究の意味 本研究の意義は、太陽活動が地球に及ぼしている影響を探るために、本来流星 を観測するために行われる流星電波観測と電離層・太陽観測を比較して研究を したことだと考える。比較した図は、ノイズの多さを見る Filesize と電子密度 を見るものであり、一見 2 つには関係が無いように思えるが、どちらも電離層 の状態を観測することによって変化が分かるものになっている。 このことから、本研究で用いた電離層・太陽観測データであるNICT や NOAA のGOES 衛星など、大規模なシステムや観測機器を使用することなく、誰もが 身近に行うことができる観測機材を使って太陽活動について研究が可能である かを考えられたことに意味があったと思う。39 5-3 本研究の問題点とその解決法 ここでは本研究の精度や質を向上させるために、観測の条件やデータの出力方 法、図の作成方法などで、改善すべき点をいくつか挙げていきたい。 ・明星天文台流星電波観測Filesize データの誤差原因 流星電波観測から出力したデータは、流星や太陽活動が原因と思われるノイズ が多く入っているが、アンテナや受信機は周囲の様々なノイズも混合して観測 してしまうことが考えられる。そのようなノイズは、天気や福井高専から明星 大学天文台のアンテナ間を飛行する航空機、周辺地域での工事、電子機器の作 動など多種多様な原因によっても発生してしまうと考えられる。また流星電波 観測本来の目的である流星群など通常よりも多くのノイズが発生してしまう期 間もあると考えられる。そのため Filesize データによって、純粋な太陽活動の 様子の観測に影響が出てしまう問題があると考えられる。 この問題を解決するためには、それぞれの不要なノイズをキャンセルしてあげ ることが必要になると考えられる。上記したいくつかのノイズ原因を分析し、 それぞれのノイズパターンを把握することで、この Filesize データをより純粋 なデータにしていくことが可能であると考える。 ・5-1 でも挙げたように圧倒的に比較するためのデータ量が足りていないことが 分かる。太陽周期である11 年や 24 年単位での活動周期との比較をすることで、 太陽活動と電離層との関係性が明瞭になるだろうと考える。
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第
6 章 まとめ
6-1 電波流星観測データは太陽観測データとして引用可能か 様々なノイズを拾ってしまうので、精度の良いものは得られにくいと考えられ る。しかし2017/09 の Filesize データグラフと太陽 X 線強度グラフからも見ら れるように、太陽活動による影響も確実に含まれているので、ノイズの見極め やキャンセリングを行うことができれば、精度の高いより純粋な太陽活動のデ ータが得られるのではないかと考えた。 本研究の結果からすると、電波流星観測データをそのままの状態で、太陽観測 データとして引用可能することは難しいと考えられる。ただし太陽フレアのよ うな大規模な太陽活動が見られるイベント時には、その影響を観測することが 可能であると考えられる。 6-2 全体のまとめ、より良い研究にするために まず太陽の活動周期と合わせてデータを積み重ねる必要があることを強く感じ た。しかし本研究のような短い期間の観測であっても、大規模な太陽フレアに よる観測結果の一致も見ることができた。このことは確実に太陽活動の影響を 電離層を通してであっても観測することが可能である証明になると考える。 また電波のような短波だけでなく、中波、長波での観測も行ってみたいと考え た。電離層では波長ごとに反射される高度が異なるため、発信する波長を変え ることで、高度別の電離層それぞれの波長の段階に応じた変化を見られること ができると考える。 本研究では、流星電波観測を用いても太陽の影響を考えることが可能であると いうことを確かめることができたと思う。今後このような研究を長期間に渡っ て継続していくことで、太陽と電離層の関係性をさらに深く考えていくことが できると感じた。41