Title
カウンセリング技法を活用した生徒指導法の研究
Author(s)
喜瀬, 乗進
Citation
沖縄大学人文学部紀要 = Journal of the Faculty of
Humanities and Social Sciences(8): 91-96
Issue Date
2006-10
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/6182
<研究ノート>
カウンセリング技法を活用した生徒指導法の研究
喜瀬乗進 1.はじめに 新学習指導要領は、生きる力を育てることをメインにして教科・道徳・特別活動・総合的学 習の4領域で構成されている。私は、生きる力を育てるのに有効な教育活動としてカウンセリ ングの技法を取り入れることを提唱したい。このことは、激しく変わる21世紀の社会を自主 的・主体的にそして創造的に生きる力を子どもたちに育てる取り組みの一つになると考える。 教師の実践を、カウンセリングの理論の面から考える。 2.教育とカウンセリングの関係 カウンセリングは、「言語的・非言語的関わり行動を通して、お互いの認知・感情行動の変 化をもたらす人間関係を学ぶ学問」である。教育の目的を教育基本法では、「教育は、人格の 完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として真理と正義を愛し、個人の価値をたっと び、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行なわれ なければならない」と示している。人格の完成を発達段階に応じて各学校では指導している。 学校は個人を伸ばすのに学級が基礎単位となっている。つまり指導においては、集団が基礎で ありその指導ができないと教師の資質も問われる。 学校におけるカウンセリングは、子どもの発達課題に応えられるものでなければならない。 すなわち「育てるカウンセリング」が求められている。この点は病院におけるカウンセリング とは違いがある。だからスクールカウンセラーは集団も扱える人でなければならない。従って 学校で行うカウンセリングは、教育活動の一環でなければならない。 学校教育では、心理療法のような治療だけではなく、子どもを育てる視点が大きく求められ る。次の3点は、これまでの学校カウンセリングに不足していた点である。 l、問題解決・予防、自己啓発に重点をおいたカウンセリング活動の展開。 2,学校教育カウンセリングは、受動的ではなく能動的であったほうがいい。 3,グループワーク(班活動)で子どもたちの成長を集団の中で図る実践の工夫。 4、子どもたちを民主的な学校づくりの担い手に育てる。 私たち教師は、以上の4点に基づく指導を日常的に実践している。その実践を教育カウンセ リングの立場から理論付けをしていく。教師は、教育実践のプロとして自身と誇りを持って学 校教育活動をすすめて欲しい。私たち教師は、カウンセリングをするのではなく、子どもたち を育てるための教育活動をして給与をもらっていることを自覚する必要がある。 3.教育は子どもの社会化を教えている 子どもたちは、勉強が分かりたい、友達をたくさんつくりたい、スポーツをして体を鍛えた い、歌が歌えて・絵も上手に描きたい・・・等々たくさんの要求を持って登校をしている。そ の要求に応えるために、教師は日常的に実践をいろいろ工夫している。 フランスの詩人のルイ・アラゴンは、「教えるとは、未来を共に語ること。学ぶとは、誠実 を(まこと)を胸に刻むこと」と述べている。カウンセリングも「お互いの成長を促進してい -91-沖縄大学人文学部紀要第8号2006 る営み」である。まさに教育とカウンセリングの方向性は一致している。教師は能動的なカウ ンセリングをしていることを実感すべきである。 教師は、問題を持つ子、気になる子、あるいはリーダーに育てたい子・・・等々さまざまな 子どもに対してその子が相談に来るまで待っているだけではない。教師は、子どもを呼び出し たり、家庭訪問したり、電話をかけたりして積極的に関わっている。このことは育てるカウン
セリングである。カウンセラー室で子どもが来るのを待っているだけのカウンセリングとは違
う教師の行う教育カウンセリングである。つまり教育活動である。このような活動は誰でもや
っていることである。担任は、学級の男女の仲が悪いと班長を呼んで「来週エンカウンターをやろう」と指導をする。Kさんが一人ぼっちのようだけどどうしたのかなと呼び出し相談をす
る。最近は、「勉強をしていないようだけど」と家庭訪問をしてお母さんと相談する。この学
級を「いじめのない楽しい学級」にするためにA君やB子さんをリーダーに育てようと説得を
する教師の活動等々は、これまでのカウンセリングのイメージを変えるものである。むしろカ ウンセリングというよりは、どの教師も実践している教育活動と考えるべきである。私はそんなカウンセリングを育てるカウンセリングと呼び、教師は教育カウンセリングを実
践していると理解している。つまり教育カウンセリングは、教育活動そのものでなければなら ない。その際に論理療法、交流分析、行動療法等のカウンセリングの理論を知っているともっ と効果が上がると思われる。因みに交流分析について簡単に触れておく。交流分析は、アメリカの精神科医エリックバーンが1950年代に提起したもので心の状態
や対人関係を図式や記号を使って説明しているもので精神分析の口語版といわれている。それは4つの分析から成り立ち(1)構造分析、(2)交流分析、(3)ゲーム分析、(4)脚本分
析がある。構造分析では、人間の心を親の心(P)・大人の心(A)・子どもの心(C)の3
つの心で成り立っていると分析し、このP.A・Cを自由自在に使い分けできるのが健全な人
間であるといっている。そしてこのP.A・Cの片寄具合を自己発見するのに便利なのがエゴ
グラムである。人間がどのような交流様式をもつかは各自の人生計画に左右される。この人生
計画は、後天的に潜在意識に植え付けられるもので環境によってつくられる。だから教育が施
されている。 4.教育実践をカウンセリングの理論で考える教育は、科学・文化・芸術などを系統的に教え発展させる任務を担っている。人間関係学的
には社会化を図る指導も教育活動の中には含まれていると解釈できる。その教育活動を円滑に
推進していくためにカウンセリングでは、次のことを指導しているがその事は、教育実践をす
すめていくことと同じであることを理解していただきたい。 1、思考・認知の修正や発展を教えることである。 2、感情(喜怒哀楽)や自分への気づきを教えることである。 3,行動の修正や発展を教えることである。 4,上記の3点を発展させていく観点から教育のシステムにも目を向ける。つまり認知・感情・行動の望ましいあり方を言語的・非言語的教育活動を通して教えること
である。このことは学校の教師ならば実践していることである。つまりカウンリングは、カウ
ンセラーの専売特許ではないことを認識して欲しい。一人の子どもの社会化を育てるのに親・
教師・地域・友人たちがさまざまな関わりをしていることを実感し教育活動にカウンセリング
の技法を活用することで実践が更に深まっていく。 -92-1)思考・認知を修正したり発展を図っている教育実践 教師の教育実践には、カウンセリングの理論にかなっているものが多い。認知の修正を図 ることで行動の修正をした実践事例から考える。 ①役割交換法(ロールプレー)から見える実践 母親が息子の暴力に困っていると担任のところに相談にきた。学級では面倒見のいい子 で級友の信頼もあることを話し、二つの椅子を利用して息子と母親のロールプレーを母親 に指導した。数日後母親は、自分が息子に対する見方を変えると暴力がなくなってきたこ とを告げてきた。 喜瀬のクラスのC君がある日、突然口をきかなくなり担任を拒否した。理由を本人や友 人たちに聞いても分からない。1週間過ぎても二人の関係は変わらない。そこで喜瀬は、 自分の彼に対する気持ちを確かめるためにC君とのロールプレーを一人三役で試みた。な ぜなら喜瀬は,「c君に対して何も悪いことはやっていないので彼から拒否される覚えは ない」という考えがあった。だから一言「ごめん・すまん」という言葉かけをするのに抵 抗があったのでロールプレーを試みた次第である。つまり自分の気持ちに焦点を当てる実 践をした。数日後の授業時、C君に声をかけようとするがこの一言が出ない。「何で俺が 謝らねばならないのか、C君が悪いのに」という声が聞こえてきた。結局何もしないまま 授業を終える。そのようなことを次の週も試みるができない。やっと3週目に一言、「ご めん、君もつらかっただろう」とC君の後ろから声をかけることができた。その2時間後 の給食時間にC君との関係性は回復した。 この背景には「過去と相手は変えられないが未来と自分は変えられる」という人間関係 の原則を示した実践である。この実践は、教師自身に焦点を当てたカウンセリングである が同時に教師として、人間としての成長をはかる実践でもあったと思う。 つまり気持ち・感情を整理して認知の修正を図ることで行動の修正が図られた実践であ る。 ②対決法(コンフロンテーション)から見える実践 社会に受け入れられない子どもの行動には、毅然と対処しなければならない。暴力.い じめ・せびり等の反社会的な行動は中学生であっても許されない。しっかりと指導しなけ ればならない。これはカウンセリングでいう対決法である。カウンセリングは、対決・指 示をしないと思われがちであるが実際は違うのである。毅然とする方法とは、教師が壁に なることである。ここから先は許さんと対処することである。 カウンセリングマインドは、相手を大事にしていることを本気で示すことである。その ためには全教師が一致できる方針を話し合って決めて実践をすることである。 各学校で暴力.いじめ・せびりは許さないと言う実践が多様な形で取り組まれてい る。この対決を通して子どもたちは、暴力.いじめ・せびりは許されないものと認知 を修正し望ましい行動に変わっていくのである。 その他に教育活動に有効なものに内観法がある。 2)感`情(喜怒哀楽)を育て社会化を図る実践 学校で実践されている音楽・美術の芸術教育や構成的グループエンカウンターは、子ども たちの感情を育て人間関係を豊かにさせている。 ①脱感作法から見える実践 これは段階的な指導のことで多くの教師が実践している。学級会の司会や議長指導では、 -93-
沖縄大学人文学部紀要第8号2006 教師がモデリングを示し、次には子どもの側について指導し、最後は自分で考えて会議を 運営できるように育てている。不登校の子どもには、朝になると鞄を担ぐだけから始まり
徐々に玄関、家の外まで、電柱までという具合に登校できるまでに指導した実践も多い。
これは交流分析や行動療法の理論で説明できる。段階的な行動を指導して不安な感’盾を取 り除く教育的な営みでもあることを認識しよう。②合唱・きり絵・コラージュは豊かな感`情が育ち自己有効感を育ている
集団になじめない子どもに声をかけてクラスの合唱に参加させた実践。運動会の全員リ
レーに不登校の子どもが参加できる学級雰囲気を育てた実践。卒業式の壁画を全クラスが分担してつくりあげた実践。自分の気持ちや思いを写真などを切り抜いて張り付けさせる
指導を通して子どもの心を理解しようとした実践。色々な実践で子どもの気持ちを受け止
め暖かく見守っていこうとする教師の姿勢がそこには見える。その実践は、自己有効感を育てる教育カウンセリングの理論であり教育活動である。
③構成的グループエンカウンターで豊かな感情を育てている実践構成的グループエンカウンターは、集団の中でお互いに支え合いながら、信頼関係、感
情交流を深める教育活動である。これは国分康孝教授が提唱し全国的に広まっている感情
交流を育てる有効な教育活動である。これはリーダーが主導権をとっていろいろな演習や
ゲームなどを行いお互いの感情交流を促進させている。参加者のレベルに応じて内容を調
整する。特徴的なところは役割を持つのではなく感情レベルの交流である。エンカウンタ
ーでは、シェアリング(分かち合い)を通して相手の感』情を知ってこちらの認知の修正が
図られる場面がでてくることである。今後の学級づくりには効果的な教育活動である。全 教師が体験することをおすすめする。 3)望ましい行動変容を指導している実践 ①スタディースキルの指導問題解決の仕方や、行動の仕方を具体的に教えることがカウンセリングの行動変容を図
る作業である。勉強の仕方のノウハウを教えることは学校教育では非常に重要である。教
育現場では生きる力を育てるのに有効な理論である。教師は援助者であって指導をしない
方が良いという考えがあるが疑問である。育てるカウンセリングでは、発達段階に応じた
指導や問題解決の仕方を具体的に教えることをスタデイースキルとして取り上げている。
実際各学校ではさまざまな形で実践されている。 ②ソーシャルスキルの指導基本的な生活習慣の確立を図るとして学校では重点的に指導されている。これは社会化
を発達段階に応じて指導することであり、現実原則を教えることであり、カウンセリング
の理論に沿っている。具体的な指導をしていく時に、相手の感』盾・認知の程度を考慮して
行うことはいうまでもないことである。因みにA中学校では、「説得活動」を生徒指導の基本方針に据えている。どの先生でも
「この服装ではいけないよ」と声かけ指導ができるようにした。担任等の指導に応じなけ
れば学年や生徒指導委員会等で指導にあたる等、教師集団が連携してその子をねばり強く
説得する。着替えてこいと問答無用的に指導するのではなく、なぜいけないのか「理由等
を説明して」帰すか、あるいは先生が一緒に家に戻って学校につれてくる。また保護者を
励まし教師と連携することをすすめる。問題傾向のある子どもたちの保護者会を組織し教
師と保護者同士の連携を深める。更に地域との結びつきを深め地域での活動に発展させて
-94-いく。-人のスーパー教師が指導するより大きな効果が上がる。 このような指導も育てるカウンセリングであり、多くの教師が実践している。 ③アサーション(自己主張)スキルの指導 自己主張のスキルである。自分の権利は自分で守ることである。しかし権利の主張をす るときは、相手にも同じ権利があることを認識して主張することを具体的に教えることが 必要である。自己主張ができない子どものために、小グループをつくりそこで主張させて 会議に参加させている二重討議方式やブレーンストーミングなどの指導は、自己主張能力 を育てるのに有効な実践である。高学歴社会の今日、保護者の自己主張の行使が増えるこ とが予想されるので学校も十分な対応ができるように開かれた学校をつくる必要がある。 同時に教師も学習を深める努力がいる。 ④グループワーク(班活動)の指導は教育カウンセリングの重要な柱 集団の中で自己発見や他者発見を通して集団としてのまとまりをつくっていく指導であ る。それには何らかの役割を体験させることが有効である。エンカウンターは、感情関係 が主であるが、グループワークは役割関係が主である。行動変容を図る教育活動では、特 別活動とりわけ学級活動・生徒会活動や行事等の集団活動の指導においてグループワーク のスキルが問われてくる。集団活動の中で個々の役割と仲間たちとの横の関係性を育てる ことで行動の変容を図る゜集団を育てるためには、個々の子どもの学級における友人との 関係や気持ちを教師が知るのは大切である。その有効なアセスメントにQ-u(河村茂雄 教授)の活用を進める。これは学級における居心地(気持ち)を調べるもので学級づくり に非常に役立つものである。 リーダー指導・育成をはじめ学級会や係り活動の指導。異年齢の兄弟学級を組織して運 動会を成功させた取組み。生徒会が主体的に取組んだ卒業式。学級の係活動の活性化等々、 学級の文化活動を育てたさまざまなすぐれた実践がある。 その背景には、グループワーク(班活動)の指導とリーダー指導がある。子どもたちの 自主的・自立的な活動を通して自治の力を育てた実践はたくさんある。教師は、カウンセ リングの理論を知って実践をしたのではない。子どもたちに自己を語らせ他者との関係で 自分を知る指導を日々の活動で教えたのである。つまり教師は、ねらいをもって子どもた ちと対決法を用いたり脱感作法を指導したりしてグループの活性化を図り集団の質を高め るのである。そのリーダーの役割と責任を育てるために学級会等の中で明らかにしてみん なで話し合って決める態度の育成は大事。この指導は、現場の実態に応じて教師のモデリ ングから始まり、、一つずつ教えてリーダーを育てる。その方法はいろいろあるので諸教育 研究団体から学ぶことである。話の是非ではなく相手の話に、相手の気持ちに共感できる 人を育てる。そして自分の気持ちをしっかりと言語化できる人に育てる。さらにその話を 共有できる個人や集団を育てる。 このことはカウンセリングでもあるが教育活動でもある。ここが病院と違って学校 における教育カウンセリングである。 さらに学校と病院の違いは次の点にもある。集団を構成しているメンバーには、リーダ ーが権限と責任を行使するのにふさわしくなければリコールをする権限もあるし、相互 批判関係もあることを指導し、学級集団の自治の力をつけることである。 グループワーク(班活動)を通して集団の凝集性を高め学校の主人公にふさわしい 活動をつくりあげていった実践はみごとなものである.その実践の背景には朝の学活 から帰りの学活までの日常的な取り組みがある。まさにカウンセリングマインドを持 -95-
沖縄大学人文学部紀要第8号2006 った教師の実践である。このことは、国民主権を教える民主主義を体験させる指導で もある。学級役員やリーダーが教師の下請け機関にならないで真に生徒一人一人の利 益を守るリーダーに成長させる指導は、教育カウンセリングでも求められている。こ のような指導は新しいカウンセリングで人間の尊厳と民主主義を教えている。 また、グループワークは、教師集団のありかたにも示唆をあたえている。教育活動を活