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公共的議論はなぜ難しいのか (一) (秩序としての混沌 -- インド研究ノート 第18回)

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公共的議論はなぜ難しいのか (一) (秩序としての

混沌 -- インド研究ノート 第18回)

著者

湊 一樹

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

218

ページ

39-40

発行年

2013-11

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003594

(2)

●インドの高齢化問題

  「 新 興 国 」 と い う イ メ ー ジ が 強 いこともあり、インドに高齢化の 影がひたひと忍び寄っているとい う事実は、あまり知られていない のではないだろうか。実際には、 インドの人口全体に占める高齢者 の 割 合 は 着 実 に 上 昇 を 続 け て お り、 政 府 機 関 に よ る あ る 推 計 で は、 ( イ ン ド の 統 計 で 高 齢 者 と 定 義される)六〇歳以上の人口比率 は二〇二一年には一〇%を超える と予想されている(図 1)。   この数字だけをみると、六五歳 以上が全人口の約四分の一を占め ている日本の現状とは、比べるべ くもないように思えるかもしれな い。しかし、インドで進行しつつ ある高齢化は、依然として根強く 残る貧困とも関連しながら、社会 全体に差し迫った課題を突きつけ ている。その背景にあるのが、年 金や健康保険などの社会保障制度 がインドでは十分に整備されてい ないという問題なのである。   例えば、社会保障制度の不備に よってもたらされるひとつの帰結 として、かなりの年齢に達してか らも、収入を得るために働き続け る 人 が 多 い と い う 点 が 挙 げ ら れ る。二〇一一年に七つの州で行わ れたサンプル調査によると、一年 間に六カ月以上働いている六〇歳 以上の高齢者の割合は、男性だけ に限ると約三分の一にまで達して いる。また、年代別では、六〇代 で二五%、七〇代で一二%、八〇 代以上で六%という結果が示され て い る( 参 考 文 献 ①、 三 二 〜 五 ペ ー ジ )。 さ ら に、 イ ン ド の 平 均 寿命(男性は六四歳、女性は六七 歳)が低いことを考えれば、これ らのデータから高齢者の置かれて いる状況の厳しさが、よりはっき り と 浮 か び 上 が っ て く る の で あ る 。

 貧困対策はすべて

「ばらまき」なのか

  二〇一三年八月一九日付の朝日 新聞に「アジア成長の限界」と題 する特集企画が掲載され、インド が直面する高齢化の問題が取り上 げ ら れ た( 参 考 文 献 ② )。 こ の 記 事のなかで、高齢者層への公的支 援の貧弱さを示すいくつかのエピ ソードに続いて、高齢化に対応す る た め の 施 策 が 行 わ れ な い 理 由 が、次のように説明されている。   一億人を超えようという高齢者 向 け の 施 策 を 充 実 し よ う と す れ ば、財政負担が増えるのは避けら れない。しかし、インドの財政状 況 は 厳 し い。 ( 中 略 ) 財 政 を 圧 迫 しているのは貧困対策。その代表 例が、食料と燃料、肥料の補助金 だ。一〇年度の実績では、三つの 補 助 金 を 合 わ せ、 歳 出 全 体 の 一 九 % に あ た る 一 兆 五 三 九 六 億 ル ピー(約二兆四三〇〇億円)が使 われた。貧しい人々からみれば、 穀物や灯油などを安く手に入れる ことができる恩恵だ。同時に、政 治家にとっては、支持獲得に欠か せない「ばらまき施策」になって いる。国民会議派を中心とする現 政権は、来年とみられる総選挙を にらんで、食料補助金を拡充する 「 食 糧 安 全 保 障 法 案 」 を 準 備 し て い る。 ( 中 略 ) 政 府 の 雇 用 政 策 は、農村部での現金収入を生み出 す 公 共 事 業 な ど が 中 心。 「 世 界 最 大の民主主義国家」の政治家たち は、 「 貧 困 対 策 」 を 大 義 名 分 に、 1961 1971 1981 1991 2001 60歳以上の人口比率(左軸) 平均寿命(右軸) 2011 2021 (%) (歳) 12 9 6 3 0 80 60 40 20 0 (出所)60 歳 以 上 の 人 口 比 率 は CentralStatisticsOffice2011. Situation Analysis of the Elderly in India(http://mospi.nic. in/mospi_new/upload/elderly_in_india.pdf)、平均寿命は 世界銀行のデータベース(http://data.worldbank.org/) を基にして、筆者作成。 (注)60 歳以上の人口比率の破線部分は、推定値に基づいている。 図 1 インドの 60 歳以上の人口比率と平均寿命

インド研究ノート

湊 一樹

秩序としての

混沌

第18回

公共的議論はなぜ

難しいのか

(一)

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アジ研ワールド・トレンド No.218 (2013. 11)

(3)

目先の人気取り政策をやめない。   つまり、貧困対策という名目で 行 わ れ る 選 挙 目 当 て の「 ば ら ま き」によって財政が著しく圧迫さ れてしまうため、必要性が高いは ずの高齢者向けの政策に十分な予 算が振り向けられていないという のである。確かに、冒頭でも触れ たように、多くの高齢者が厳しい 生活を強いられているのは事実で あり、今後ますます高齢化が進ん でいくことを考えれば、高齢者層 への公的支援により多くの支出を あてる必要があるという点に疑問 の余地はないだろう。   さらに、政府によって打ち出さ れる様々な貧困対策に、次の選挙 へ向けて票を掘り起こそうとする 明確な意図が込められていること も否定できない事実である。例え ば、前記の引用でも指摘されてい るように、インド国民会議派を中 心とする統一進歩連合政権が主導 した「国家食糧安全保障法案」に は、目前に迫る総選挙をにらんで の人気取りという側面があること は明らかである(なお、この新聞 記 事 が 掲 載 さ れ て か ら 二 週 間 後 に、 同 法 案 は 両 院 を 通 過 し て い る )。 ま た、 引 用 の 後 半 部 分 で 名 指しされている「マハートマー・ ガンディー全国農村雇用保証法」 という農村部を対象にした雇用政 策が実施されることになった経緯 についても、政治的思惑が重要な 役 割 を 果 た し た と す る 見 方 が 強 い 。   しかし、たとえこれらの点を考 慮に入れたとしても、先に引用し た記事にはきわめて大きな違和感 が残る。なぜなら、各種の補助金 政 策 や 農 村 部 で の 雇 用 事 業 に、 「 ば ら ま き 施 策 」 と か「 人 気 取 り 政策」というレッテルをあまりに も安易に貼り付けているからであ る。

●レッテル貼りの問題点

  では、この記事の内容には、具 体的にどのような問題があるのだ ろうか。主に、次の二つの点を指 摘することができる。   第一に、個々の政策の具体的な 中身やその効果(特に、どのよう な階層に便益をもたらしているか という点)を検討しないまま、す べてを無駄遣いであるかのように 決め付けている。例えば、制度が 十分に機能していないとか、深刻 な 汚 職 が み ら れ る と い う よ う な 様々な問題を抱えながらも、食糧 配給制度と農村雇用保証事業は、 貧困層の生活向上にある程度の効 果を挙げていることが、様々な研 究 に よ っ て 明 ら か に さ れ て い る (参考文献③、④) 。しかし、その 一方で、肥料に対する補助金のよ うに、肥料の製造会社や肥料をよ り多く消費する大規模農家に大き な恩恵をもたらすような政策につ いては、貧困対策としての役割は か な り 限 定 的 で あ る と 考 え ら れ る。このように、様々な補助金を 十把一絡げにして非難することに は 、 大 き な 疑 問 符 が 付 く の で あ る 。   第二に、経済合理性が乏しいに もかかわらず、特定の税金につい て減免などの特例措置が採られて いるため、税収が大きく損なわれ ている可能性があることに一切触 れていない。インド財務省の資料 によると、様々な税金の減免措置 によって失われている税収の合計 額は、二〇一一年度で五兆三〇〇 〇億ルピー(一ルピーは約一・六 円)以上にも達すると推定されて い る( 参 考 文 献 ⑤ )。 も ち ろ ん、 このような「隠れた補助金」がす べて経済合理性に欠けるというわ けではないが、インドの現状を考 えれば、貧困対策よりも確実に優 先されるべきであると言い切るこ とは難しいだろう(参考文献③、 九〇ページ) 。いずれにしろ、 「隠 れ た 補 助 金 」 に 言 及 す る こ と な く、貧困対策だけを槍玉に挙げる ような議論の仕方は、到底妥当な ものとはいえないのである。 ( み な と   か ず き / ア ジ ア 経 済 研 究 所   在デリー海外派遣員) 《参考文献》 ① U n ite d N a tio n s P o p u la tio n  F u n d 2 0 1 2 . R ep or ts o n t h e S ta tu s of E ld er ly in S el ec t-ed States of India, 2011. ( h tt p :/ / in d ia . u n fp a . org/?publications=5828 ) ②  「アジア成長の限界―人口増加 国のわな・上」朝日新聞、二〇 一三年八月一九日。 ③ D rè ze , Je a n a n d A m a rt y a S e n 2 0 1 3 . A n U n c e rt a in Glory: India and Its Contra -dictions, Allen Lane. ④ K h er a, R ee tik a (e d .) 2 0 1 1 . T h e B at tle f or E m p lo ym en t Guarantee, Oxford Universi -ty Press. ⑤ G o ve rn m en t o f In d ia 2 0 1 3 . R ev en u e F or eg on e u n d er th e C en tr al T ax S ys te m : F in an -c ia l Y e a rs 2 0 1 1 -1 2 a n d 2 0 1 2 -1 3 . (h ttp :// in d ia b u d g-et .n ic .in /u b 2 0 1 3 -1 4 /s ta tr ev -for/annex12.pdf)

秩序

としての

混沌

インド研究ノート

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アジ研ワールド・トレンド No.218 (2013. 11)

参照

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