<論文>現実事象を幾何学化して問題解決を行う教材の開発―プロジェクターの台形補正機能を題材として―
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(2) 現実事象を幾何学化して問題解決を行う教材の開発. ったように表現を変えて表すことである(太田,2010;. の感得」「長期的な展望を持った『数学的活動』の具体. 松原・川村・太田,2015) .. 化」「事象の変化のとらえ方を豊かにする『展開』の方. 三つ目は,空間において基準点と基準の方向をいろい. 法の活用」といった意義があるとして,数学第一類にお. ろなところに映して考えることである.例えば,地下鉄. ける問題場面が共通な教材を「事象の数学化」の視点か. の改札から地上の出口までの方向がわからなくならない. ら分析し,問いの構成を以下の三つに分類している.. ように,地上に基準点を置いてそこまでの方向を考える. ①同じ問題に対して異なる解決方法を用いることによっ. ことが挙げられる(島田,1990).. て方法自体が洗練されることを感得できる構成. 後述するが,本教材における幾何学化に関する思考と. ②条件・仮定が変更されることによって豊かな数学的内. しては,光源を点光源と考え 1 点で表すこと,光線を 4. 容の出現を意識できる構成. 本の直線でかき表すこと,スクリーンを平面として表す. ③実験・実測が用いられることによって数学的表現や結. ことなどの単純化・理想化が挙げられる.. 論を再吟味できる構成. ②数学的解決を現実世界の場面で解釈する段階 数学的処理を行ったのち,その解をそのまま解決の結. 本研究では,三つの観点を参考にしながら,本教材の 扱い方を考察する.. 果とすると, 現実事象の解決結果としては不十分である. 数学的に解決した後は,数学的な解をそのままにするの. 4.台形補正の仕組みについての数学的解釈. ではなく,現実場面で解釈し直す活動が期待される.例. (1)台形補正の仕組みを理解する活動. えば,山の情景を地図から距離と高低差を用いて計算し. プロジェクターの仕組みを簡単にとらえると,映した. 求める問題では,その後に山の位置関係を言葉で表した. いもの(今回は長方形とする)の後ろから光を当てて(図1),. り,絵に表現し直したりすることで解釈し直している(本. その影をスクリーンに映しているものと考えることがで. 田・西村,2005).またそれ以外に,課題解決の途中にも,. きる.本稿ではこの映したいものを「デバイスの映像」,. 例えば,仮定の設定をどうするかなど,現実世界に戻っ. スクリーンに映る像を「スクリーンの映像」とする.. て考察する場面も考えられるため,現実世界と数学の世. まず,デバイスの映像とスクリーンが平行な場合を考. 界を常に行き来することが期待される.. える.このとき,光源を長方形 ABCD の対角線の交点を. ③解決を修正する段階. 通る長方形 ABCD の垂線上に置く.図 1 はその状態で. 数学的に解決したあとで,その結果が現実世界に適し. おいたときにできるス. ているかを確かめることが重要である.例えば,震源の. クリーンの映像までを線分. 深さを初期微動継続時間などから計算などで求める場合. で結んだものである.線分. には,実際に計算をして求めた後に発表されている数値. で結ぶと事象は. と照らし合わせて,解決方法が妥当であったかなどを検. 四角錐 O-EFGH というこ. 証することが挙げられる(太田,2010).このことにより,. とができ,スクリーンに映. 数学的な解決が現実事象を解決する際に有効な手段とな. る映像は四角錐の底面であ. りうることを実感するとともに,解決の段階で現実とそ. るといえる.このとき,. ぐわない結果が出ている場合は,予想とのずれが生じる. デバイスの映像とスク. こととなり,問題解決の思考を促進してくれるものであ. リーンが平行であるこ. ると考えられる.. と,光源の位置がデバ. (2)複数の単元での取り扱い方について. イスの映像の対角線の. 本教材は,どこか一つの単元に焦点を当て使用するこ. 交点を通る垂線上であ. ともできるが,複数の単元にまたがって使用することも. ることから底面の四角. 考えられる.. 形 EFGH は長方形と. 戦時中に発行された中等数学教科書「数学 第一類・. なる.しかしプロジェ. 第二類」では,複数の学年にわたって問題場面が同一の. クターはたいていの場. 教材が用いられている.田中(2008)は,「数学の有用性. 合,図 1 のように平行 教育デザイン研究. 図1. 図2. 第 10 号(2019 年 3 月). 23.
(3) 現実事象を幾何学化して問題解決を行う教材の開発. に設置することはなく,上方に少し傾けて使用する(図 2).. このように,デバイ. すると,スクリーンへの光の当たり方が変わる.プロジ. スの映像の形を台形. ェクターを上方に少し傾けるとは,長方形 ABCD の辺. に変形させることで,. AB をスクリーンから遠ざけ,辺 CD をスクリーンに近. スクリーンに映る形. づけるような動作である.したがって,図 1 の四角錐 O-. が長方形になるよう. EFGH の辺 GH より光源側に辺 G’H’,辺 EF より光源. にする機能が,台形補正である.. と反対側に辺 E’F’をとることとなり,E’F’>G’H’となる. (2)デバイスの映像を変形させる活動. ことから等脚台形 E’F’G’H’が,図 2 のように,スクリー. ①相似を用いて. ンに映ることとなる. この, 台形に映ってしまう映像を, 図3. 図6. 実際に元の長方形に対して, 上底をどのくらい短くし,. 元の長方形に戻す機能が台形補正である.この,台形に. 下底をどのくらい長くすればよいのかということについ. なった映像を長方形に戻す方法として,デバイスの映像. て考察する.. を台形にすることでスクリーンに映る映を長方形に変形. 図 7 で考察していく.. させる方法が挙げられる.この方法による台形補正の仕. OB=OC=1 とおく.. 組みは以下の通りである.. また,スクリーンま. 図 2 の台形 E’F’G’H’を図 3. での距離の遠くなる. の長方形 IJKL に補正する. 方である OF’=m,. ことを考える.光の筋が映. 距離が短くなる方である. し出したいものの角を通り, スクリーンに当たる部分が. 図3. 図7. OG’=n とおく.ここまで表したところで,図 8 で(元の 長方形の辺):(補正後の台形の上底),図 9 で(元の長方形. 長方形 IJKL となればよいため,長方形 IJKL から,光. の辺):(補正後の台形の下底)を求めることができると考. 源まで光の筋をかき(図 3:辺 OI,OJ,OK,OL),それに合. えられる.実際の図と式は以下のとおりである.. わせて映したい長方形自体を変形させればよい.下から 見た図は次の図 4,図 5 である.. まず,図 8 を用いて考察を行う.図 1 の状態でスクリ ーンに光があたる部分であるEF までの光源O からの距 離を OE=OF=ℓ,上方向に傾けた特に光がスクリーンに 当たる部分である E’F’ までの光源 O からの距離を OE’=OF’=m とする. EF//E’F’より, △OAB∽△OE’F’であるから,. 図 4 上から見た図. 図 5 下から見た図. 図4では,元の長方形の辺よりも内側を光の筋が通っ ており,新しく辺 MN を作る必要があることがわかる. 下から見た図では元の長方形の外側を光の筋が通ってい るため,より長い辺 PQ を作る必要がある. 最後に,デバイスの映像の部分だけを取り出して確認. OE:OE’=EF:E’F’=ℓ:m 台形補正では,スクリーンに 映る画像が E’F’から IJ の大き さに縮小される.IJ=EF=ℓであるから,. 上から見た図. ℓ. IJ= 𝐸𝐸 ′ 𝐹𝐹 ′ 𝑚𝑚. と表すことができる.. をすると,PQ>(元のデバイスの映像の大きさ)>MN と. よって,E’F’を IJ に縮小するために. なる.また光源が元のデバイスの映像としている長方形. ことから AB を 1 とすると MN に縮小. の対角線の交点と元のスクリーンの映像の対角線の交点. するには. を結んだ直線の延長線上にあることから,線対称な図形. 図8. ℓ 𝑚𝑚. ℓ 𝑚𝑚. 倍すればよい. 倍すればよい.…(a). 次に,図 9 の考察を行う.図 1 の状態でスクリーンに. になるといえるため,図 6 のように四角形 MNQP は等. 光があたる部分である GH までの光源 O からの距離. 脚台形となることがわかる.. OG=OH=ℓ,上方向に傾けた特に光がスクリーンに 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 24.
(4) 現実事象を幾何学化して問題解決を行う教材の開発. 当たる部分である G’H’まで. プロジェクターを持ち上げる角度を. の光源 O からの距離. ∠SOX=θ. OG’=OH’=n とする.. さらに,光源 O からスクリー. G’H’//GH より,. ンまでの距離を①同様. △OG’H’∽△OGH であるから,. OR=m, OW=n, OZ=ℓ. OG’:OG=G’H’:GH=ℓ:n. とする. また OS はスクリーンを. 台形補正では,スクリーンに 映る画像が G’H’から KL. 図9. 立てる平面のため,. 図11. の大きさに拡大される.. ∠OVR=90°. KL=GH= ℓであるから,. このとき,三角比を用いて OV を. m,n,ℓで表す.. ℓ. KL= G′H′. OV = 𝑚𝑚cos(𝜃𝜃 + 𝛼𝛼). 𝑛𝑛. OV = 𝑛𝑛 cos(𝜃𝜃 − 𝛼𝛼). と表すことができる. よって,G’H’を KL に拡大するために. ℓ 𝑛𝑛. すればよい.…(b) よって(a),(b)より元の長方形を 1 とすると 上底が. 𝑚𝑚. ,下底が. ②三角比を用いて. ℓ 𝑛𝑛. OV = ℓcos 𝜃𝜃. 倍すればよ. いことから CD を 1 とすると PQ に拡大するには. ℓ. Z. ℓ 𝑛𝑛. 倍. これより,ℓを m,n で表すことができるので. ℓcos 𝜃𝜃 = 𝑚𝑚 cos(𝜃𝜃 + 𝛼𝛼). になればよい. 同様にして. 上方に傾けた角度によって,どんな大きさの台形にす ればよいか,ということが表せないか考える. まず上方向に傾ける際の傾け方に関して,光源を中心. その状態から上に傾けていくため,光源を含む水平面(ス. の中点を通り光源を含む平 面の作る角度がプロジェク 同様にして. 図 10 図 10 の△ORS を取り出して考察する. それはつまり,. (下底) =. 図10 の四角錐を点F’の方向から△ORS に垂直な視点で. をかくといった図の変換を行って図をかくことが必要で ある.この時,点 S は E’F’の中点 R から E’F’に垂直に下 した直線と点 O を含みスクリーンに垂直な平面(スクリ ーンが立っている平面)の交点とする.プロジェクターの 光が出る角度を ∠ROX=∠YOX=α. ℓ. ℓ. 𝑚𝑚. ,下底=. 𝑛𝑛. 𝑚𝑚 cos(𝜃𝜃 + 𝛼𝛼) cos 𝜃𝜃 (上底) = 𝑚𝑚 cos(𝜃𝜃 + 𝛼𝛼) = cos 𝜃𝜃. 角度であるとする.. あるが,相似を用いた考えと同様に,立体図から平面図. 𝑛𝑛 cos(𝜃𝜃 − 𝛼𝛼) cos 𝜃𝜃. になればよいことから. と,デバイスの映像の縦幅. 投影図的に見たときの図をかいて考察するということで. ℓ=. (上底)=. クリーンと直行する平面). ターを上方向に傾けた時の. 𝑚𝑚 cos(𝜃𝜃 + 𝛼𝛼) cos 𝜃𝜃. (2)より,元の長方形を 1 としたとき. として傾けるものとする.次に角度の表し方に関して, デバイスの映像とスクリーンが平行な状態を 0°とする.. ℓ=. cos(𝜃𝜃 − 𝛼𝛼) cos 𝜃𝜃. 5.教材の分析 (1)本教材を扱う単元についての分析 学習指導要領で定める指導内容を参考に,本教材をど の単元で取り扱うことができるかについて分析を行う. 分析に当たっては,本教材を解決する際に必要となる知 識を考察し,その知識が指導される単元を抽出していく こととする.単元と学年は学習指導要領解説(2008)を参 考にする.分析結果は表 1 の通りである.. 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 25.
(5) 現実事象を幾何学化して問題解決を行う教材の開発. 表 1 本教材を解決する際に必要となる知識とそれに関. 決に関しては,相似を用いた解決を踏まえて取り組む課 題であるため,中学校第 3 学年以上で扱う必要があると. 連する単元・学年 必要な知識. 扱う単元. 学年. いえる.相似を用いた解決と三角比を用いた解決は求め. (1) 四角錐(見取図含む). 空間図形. 中1. ることは台形の上底と下底の辺の比であり,解決の結果 をスクリーンまでの距離で表すか,プロジェクターを持. 立体の切断面 投影図. 空間図形. 中1. ち上げる角度で表すか,という違いとなるため,二つが. (2) 投影図. 空間図形. 中1. 必ずしもこの順番で並ぶ必要はないが,三角比を用いて. 相似な図形. 中3. 解決する際には相似を用いて表した比の式を用いる必要. 平行線と比の性質. があるため,相似を用いた解決のために必要な知識は,. (3) 立体の切断面 三角比(sin,cos). 三角比. 数Ⅰ. 台形補正の仕組みを理解する活動に関しては,中学校 第 1 学年の空間図形の単元から取り扱うことができる内 容である.考察の際に必要となる知識として,まず,錐 体の知識がある.小学校で習う立体図形としては,立方 体, 直方体に加え, 三角柱や円柱といった柱体があるが, 錐体に関して扱うのは中学校が初めてである.本研究で 取り扱うプロジェクターの仕組みは,光の筋をかき表す 事で四角錐ととらえることができる.そのため,四角錐 の図形に関する学習を行った後に取り組む事ができる課 題である.また,図形のかき表し方の技能として,小学 校で既習の見取り図に加え,中学校第 1 学年で学習する 投影図の見方も利用する場面がある.さらに,プロジェ クターの台形補正がされない場合に,台形が映し出され てしまうことを理解することは,立体図形の切断面の形 を捉える問題だということができるが,切断面に関する 学習は現在指導内容からは外れている.しかし,前指導 要領では 1 学年に位置づけられていたことに加え,幾何 学的に表現することが理解の手助けになることが期待で きるため,中学校第 1 学年の空間図形の単元に位置づけ ることが可能である. デバイスの映像の形を変形させる活動の相似を用いた 解決に関しては,中学校第 3 学年で扱うことができる内 容である.台形補正の仕組みを理解する活動に取り組ん だ上での考察場面となるため中学校第 1 学年以上の課題 であるといえるが,ここでは特に中学校第 3 学年の相似 な図形の単元で学ぶ平行線と比の性質を用いて,台形の 上底と下底の辺の比を求めることになる.したがって, 中学校第 3 学年の相似な図形の単元に位置づけることが 可能である. デバイスの映像を変形させる活動の三角比を用いた解. 三角比を用いた解決のためにも,必ず必要となることが いえる.またここでは特に,プロジェクターを傾ける角 度を変数とするため,変数θを用いて三角比で表す必要 がある.したがって,高等学校数学Ⅰの三角比の単元で の扱いとなる. (2)数学的モデリング能力を育成することができる教 材であるかという観点からの分析 数学的モデリングの段階として本研究では①数学化の 段階 ②数学的解決を現実世界の場面で解釈する段階 ③解決を修正する段階 に焦点を当てるが,プロジェク ターの台形補正の仕組みを数学的モデリングの過程に沿 って解決を行うとき,どのような考え方が要求されるか を,以上の段階ごとに抽出していく. ①数学化の段階 台形補正の仕組みについて考察する際に,事象の中に 四角錐を見出すことが重要である.四角錐を見出すため には,実際には見えない線である光線を図にかき表すこ と,さらにそれを理想化して図形をみなすことが要求さ れる.台形補正の仕組みは,四角錐の切断面ととらえて 解決を行うことができるが,かき表した線を,単に補助 線として捉えるか,それとも四角錐とらえるかで,切断 面を考えるという思考につながるかが左右されるといえ る. また,台形補正の仕組みを数学的に解釈した際に使用 した図は 11 種類である.このことから,1 種類の図の表 現のみでは解決が難しいことがわかり, 見取図のほかに, 様々な方向から見た投影図,さらには,切断面を表す平 面図なども必要となるため,一方向からの事象の観察の みならず,様々な向きから見たり,それを図の表現を変 えてかき表したりすることが必要となるといえる. さらにデバイスの映像を変形させる活動では実際にプ ロジェクターを傾けたときの状況について考察する中で, 図 7 や図 11 のような,断面図や投影図をかくことが要 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 26.
(6) 現実事象を幾何学化して問題解決を行う教材の開発. 求される.実際の事象は,プロジェクターを上方向に傾. 「同じ問題に対して異なる解決方法を用いることによっ. ける動きであるが,図にかき表す際にはプロジェクター. て方法自体が洗練されることを感得できる構成」. を傾ける(四角錐自体を上方に傾ける)のではなく,スク リーンを設置している水平面を下方向に傾けることでプ. 本教材では,三つの解決方法が学年進行とともに取り 扱われることになる.. ロジェクターを上方向に傾けた「ことにする」という発. 一つ目は,見取図に補助線をひき,図的に解釈する解. 想の転換をすることが,図 7 や図 11 のような図をかく. 決方法である.これに関しては,中学校第 1 学年の空間. ために要求される考え方である.このような図は,より. 図形の単元で扱うことができる.このことにより,台形. 簡潔であると同時に,傾ける前の状況と比較しやすい図. であることが視覚的に理解することができる. それゆえ,. であるといえ,解決の手助けになると考えられる.. 幾何学的に論証することがさらなる課題として設定でき. ②数学的解決を現実世界の場面で解釈する段階. る.. 得られた数学的な解決の結果は数式であるため,その. 二つ目は,平行線と比の関係を用いて台形の上底と下. 文字や数字がプロジェクターの構造でいうとどこに当て. 底の辺の比をプロジェクターからスクリーンまでの距離. はまるのかを考えることが必要となる.また数学的な解. を用いて求める解決方法である.上記で課題として設定. 決を現実世界の場面で解釈することは,数学的処理を行. されていた幾何学的な論証が可能になるとともに,実際. った後のみではなく,処理を行っている途中にも必要で. に台形補正の補正幅を求めることができるようになる.. ある.具体的には,デバイスの映像の変形について相似. 三つ目は,プロジェクターを傾けた角度を計測し三角. を用いて解釈する際,スクリーンまでの距離を文字でお. 比を用いて台形の上底と下底の辺の比を求める解決方法. き,比を求めるが,どこを文字でおくかは,現実場面に. である.結果としては中学校第 3 学年と同様に台形補正. 立ち返る必要がある.実際の場面で求めることができな. の補正幅が求められるが,その導き方が異なる.台形補. いような部分を文字でおき,解決をしたとしても,実際. 正の仕方が少なくとも 2 通りあることがわかり,問題状. の事象の解決とは言えない.したがって数学的な解決の. 況に応じて長所短所を比較考察することが可能になる.. 途中にも,解決していることを現実事象の中で解釈する. このように,同一の問題を異なる手法を用いて解決す. ことが必要となる.. ることにより,解決の精度,並びに解決の多様性が理解. ③解決を修正する段階. できるとともに,各単元で用いた数学的手法のよさを感. まず,台形補正の仕組みを考える場面において,実際. 得することができる.. のプロジェクターを用いて,本当に台形に映るのか,と いうことを検証することが考えられる.この場合,数学. 6.実際の指導に向けた教材の具体化. 的な考察の段階では台形に映ると予想しているが,台形. 分析をふまえて,プロジェクターの台形補正の仕組み. 補正機能によりすぐに長方形に補正され,予想とずれが. に関する教材について育成されうる数学的モデリングに. 生じるため,検証結果をもって,修正する活動にもつな. おける見方・考え方を明確化するため,教材の具体化を. がる.さらにデバイスの映像を変形させる活動では実際. 行う.併せて,生徒へ向けた問いの設定と使用する教具. に長さや角度を計算式にあてはめ,厚紙等を台形に切り. の考察も行う.. 投影することで,長方形に補正することができたかどう. (1)中学校第 1 学年:空間図形. かの検証ができる. (3)複数の学年で扱う際の取り扱い方について 扱うことのできる学年についての分析により, 学年は,. 問 1 長方形の厚紙の後ろから光を当てると,どのよ うな影がスクリーンにできるか.スクリーンに対す. 中学校第 1 学年から高等学校第 1 学年にまたがることが. る光の当て方を変えると,影の形はどうなるか.. わかった.どこか一つの学年に焦点を当てることもでき. 問 1 では,プロジェクターの仕組みを概略的に説明し. るが,ここでは複数の学年にまたがって,問いがどのよ. た後で,プロジェクターの簡易模型として長方形の厚紙. うに深化していくのかに着目して分析を行うこととする.. を使用した実験を行う.生徒は,生活経験をもとに予想. 分析の観点としては,下記の点に焦点を当てて行う(田. する段階を経て,実際に実験し,その予想を確かめるこ. 中,2008).. とになる.その際,スクリーンに映る長方形の大きさが 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 27.
(7) 現実事象を幾何学化して問題解決を行う教材の開発. 長方形の厚紙とスクリーンの距離に依存することに気づ. 2 次元である平面図形の対応関係に注意することが要求. き,その距離の変化を視覚化して表すために実際には見. される.次元を変換する力は,幾何学化を行う際の重要. えない線である光線をかくことになる.そして,光線と. な考えの一つである.. スクリーンに映る長方形を合わせて四角錐として理想化. 教具に関しては,透明な素材で作成した四角錐にひも. して捉えることにつながる.さらに,スクリーンに映る. を巻くことで切断面の図形を考察することのできる模型. 四角形が四角錐を切断することで得られる図形であると. を使用する.立体の模型を用いて空間をとらえることで. 同定することにより,四角錐の切断面の形を考察するこ. 問 3 の思考の中で最も重要な平行線と比の性質の考えに. とになる.その結果,切断面の形が台形であると予想す. 必要な平行線が見やすくなる.また,立体模型を手に取. ることが期待される.このような活動をする中で,事象. り考察することで,いろいろな方向から見ようという視. を自分で理解したり他者に伝えたりすることが要求され,. 点の移動をする考えが出やすくなる.つまりここでの立. 幾何学化が促進されることになる.その後,実験を通し. 体模型は,立体から平面図形を抜き出して考察する考え. て切断面が台形であることを確かめることになる.. 方を促進させるものである.. 教具に関しては,図 1 が再現できるようなプロジェク. (3)高等学校:三角比. ターの簡易模型(長方形の厚紙の後ろから,懐中電灯を当. 問 4 プロジェクターを上に θ だけ傾けたとき,台形の. てるなど)を使用している.実際のプロジェクターをここ. (上底):(下底)はどう表すことができるか.. で使用すると,状況によっては台形補正機能が働き,意 図した活動が行えない.また,アクリル板等で作成した. この問いを解決する際に重要となるのは図 11 をかく. 四角錐の模型を使うことも考えられるが,この時点で使. ことである.この図は事象を四角錐に理想化してみたと. 用すると,幾何学化されたものを提示することになって. きの側面図であるが,この図をかくためにはまず事象を. しまうため,この時点での使用は避けるべきである.. 四角錐として理想化して捉えることが必要である.この. 問 2 実際のプロジェクターの映像は,どのように台 形を長方形に補正しているか. 問 2 では,実際にプロジェクターを使用して実験して みる.実際にプロジェクターを作動させると台形補正機 能が働き,一瞬,問 1 の解決で得たような台形が映るも. 幾何学化は問 1 の段階ですでに行っているものである. そして,角度を用いて表すためにこのほかに様々な方向 から空間をとらえ,側面図を平面にかき表すという,視 点の変更や,それに伴う図の変換の力が要求される. 教具としては問 2 同様に透明な素材で作成した立体模 型を用いることが挙げられる.(図 12,13). のの,すぐに長方形に変形されてしまう.ここで,台形 が長方形に変形されることに驚きを感じるとともに,ど のように台形を長方形に変形しているのかという新たな 問いが設定される. そこで,問 1 で用いた図 2 の見取り図をもとに長方形. 図 12. 図 13. の厚紙の形を台形に変形することで,スクリーンに映る. 透明な素材で作成することにより見取図をかくよりも正. 図形が長方形に変形されることを考察する.. 確に, かつ立体的に観察を行うことができることに加え,. (2)中学校第 3 学年:相似な図形. 裏側の状況が見えるため,立体の中腹部分にひいた補助. 問 3 台形補正機能で,映したいものである長方形を台. 線も見ることができる.補助線に関しては,ひもや色テ. 形に変形させるとき,(上底):(下底)がいくつになる台. ープを模型に巻き付ける(図 14,15)ことで,見取りに補. 形にすればよいか.. 助線をひく変わりに状況を考察するための図を作成する ことができるため,想像が難しい状況でも理解を促すこ. ここでは主に,横から見た図や,角錐を切断した図を. とができる.. 取り出して平面で考察し,それを空間に戻して解決して いく.空間図形を平面図形で考察するために,次元の変 換の力が求められる.その際,3 次元である空間図形と 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 28.
(8) 現実事象を幾何学化して問題解決を行う教材の開発. 異なる単元(中学校第 1 学年の空間図形,第 3 学年の相 似,高等学校の三角比)における異なる手法を用いて解決 することにより,解決の精度,並びに解決の多様性が理 解できるとともに,各単元で用いた数学的手法のよさを 感得することができる教材を開発することができた. 図 14. 図 15. 問 4 で重要になるのは,前述のとおり図 11 のような 事象を真横から見た状態の図でとらえることである.そ. 今後の課題としては,実践授業を行い,期待する活動 が見られるか,同一の問題場面を用いた問いの構成が有 効か,などを検証することが挙げられる.. のため,まず立体模型を用いてプロジェクターを水平状 態(デバイスの映像がスクリーンに平行な状態)から上方. 引用・参考文献. 向に傾けることの状況を把握する.そして様々な方向か. 本田千春・西村圭一(2005).空間思考の育成を目指す. ら状況を観察することにより,傾けた角度(変数θとな. 授業に関する研究 ~地図から風景をスケッチする. るもの)をとる場所が水平状態のときの平面と現在の水. 教材を用いて~,日本数学教育学会誌,87(7),pp.. 平面とが作る角であることを理解することができる.. 13-20.. また, 立体模型を横から投影図的に見ることで図11 の. 飯 島 康 之 (1987) . 数 学 的 モ デ ル 化 に お け る. △ORY が示されていることに加え,三角比を用いて解. geometrization について,日本数学教育学会数学教. 決する際に重要になる(△ORV が直角三角形になるた. 育論究 VoL47・48,pp.27-30 .. め)線分 RV のうち,線分 RW の部分を示してくれてい る.この模型観察を通して,図 11 のような図をかくこ とができ,この図をかくことで三角比の問題として数学 的に処理を行うことができる.. 池田敏和ほか(2010).数学教育学研究ハンドブック,東 洋館出版社,pp.272-282. 松原敏治・川村栄之・太田伸也(2015).空間における 位置のとらえ方 ―南半球から見た太陽の動きを題 材として―,秋期研究発表大会集録,48,pp.257-. 7.知見と今後の課題 本研究ではプロジェクターの台形補正の仕組みを教材 化するにあたって,三つの観点から分析を行った. 本教材を扱う単元として,中学校第1学年の空間図形 の単元,第3学年の相似な図形の単元,高等学校の数学 Ⅰにおける三角比の単元が特定された. どのような数学的モデリング能力を要求される教材で あるかということに関して, 以下の考え方が特定された.. 260. 文部科学省(2008).中学校学習指導要領解説 数学編, 東洋館出版. 文部科学省(2009).高等学校学習指導要領解説,数学編, 東洋館出版. 西村圭一(2008).数学的モデル化を遂行する力の育成を めざす教材の開発 -事象の幾何学化に焦点を当て て-,教材学研究,19 巻,pp.171-178.. ①数学化の段階:光線を直線としてかき表すことを通し. 太田伸也(2010).地震の震央・震源を求める問題から. て,事象を四角錐として理想化して捉えること.様々な. 空間図形の問題へ -『三角錐の頂点から底面への. 方向から事象を見たり,次元を換えて表現したりするこ. 垂線の足の求め方』を中心に-,日本数学教育学会. と.. 誌,92(3),pp.2-9.. ②数学的解決を現実世界の場面で解釈する段階:数学的. 島田茂(1990),教師のための問題集,共立出版,. 解決を行う際,どこを文字でおくか,現実に即して考え. 田中義久(2008).『数学 第一類』における問題場面が. ること.解決したことをプロジェクターの構造でいうと. 共通な教材に関する事象の数学化の視点からの分析,. どこに当たるのかを解釈すること.. 日本数学教育学会誌,90(1),pp.12-25.. ③解決を修正する段階:結果をもとに模型等を作成して 検証を行い,解決と検証結果とのずれから修正箇所を見 出し,修正を行うこと. 複数の学年での取り扱い方に関しては,同一の問題を 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 29.
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