Ⅰ はじめに(問題の所在)
企業の経済活動がますますグローバル化し て い く 中 で,会計基準 が 国際財務報告基準 (International Financial Reporting Standards:
IFRS)に統合されていく方向に動いている. わが国の上場企業は,すでに IFRS の任意適用1) が認められているので,採用する会計基準を選 択することが可能である2).IFRS は,2005 年 から EU 域内で強制適用となって以来,米国や アジア諸国でも様々な対応が模索されており, わが国でも,IFRS の導入方法について最もふ さわしい対応が検討されている3). このような,企業の経済活動とともに会計基 準がグローバル化していく状況の中,わが国で も IFRS を含めた会計教育の重要性が高まって きている.これは,後述するように IFRS をは じめとする,国際的な会計基準に関連する検定 試験の受験者数の増加などから,そのニーズを 確認することができる.会計基準がグローバル 化の道を進んでいく以上,会計教育についても IFRS を含めた内容での本格的な検討が必要と なる.職業会計士における資格取得前,資格取 得後などでは,国際的な水準での教育がすでに 検討4)されているが,大学等の一般的な教育は, 各国の教育制度,慣習や文化などに大きく影響 を受けるので,会計基準よりも統一することは 困難であろう.現状のアカデミック教育におけ る,IFRS の取り扱いについては,各国,各大 学または各教育担当者等に多くの部分が任され ているのが実情である.アカデミック教育にお いても,国際的な水準での質的・量的な教育制 度の拡充を図る必要性がある5)と思われる.特 に,グローバル企業を多く有しているわが国が, 欧米やアジア諸国に会計教育で後れを取るわけ にはいかない. 以上のように世界的に IFRS が普及し,わが 国でもニーズが高まっているが,会計教育の出 発点である基礎段階の整備がされず,上辺だけ の基準の習得になってしまっては,かえって教 育の質が低下してしまう.このようなことのな いように,今こそアカデミック教育の展開につ いて本格的な研究を進めていかなければなら ない.2010 年,日本会計研究学会内において, 「IFRS の教育に関する研究」というテーマで スタディ・グループが形成された6).このスタ
現代会計の基礎概念と IFRS の会計教育
加 藤 美 樹 雄
1)東京証券取引所に上場する企業では,2012 年 3 月期 ま で に 5 社(日本電波工業,HOYA,住 友商事,日本板硝子,日本 た ば こ 産業)が IFRS を適用している. 2)現在では,米国で資金調達を行っている企 業は,米国会計基準を採用することも可能である. 3)詳細は,企業会計審議会(2012)を参照のこと. 4)国際会計士連盟(IFAC)の 国際会計教育基 準審議会(IAESB)が代表的である. 5)五十嵐(2010)では,IFRS をコア・カリキュ ラムに入れることと,IFRS の基本的な考え方の教 育が必要であることをわが国のアカデミックの課 題として提起している. 6)2011 年 9 月に中間報告,2012 年 8 月に最終 報告という計画になっている.ディ・グループの中間報告では,職業会計士等 における資格取得前教育や資格取得後の倫理教 育のみならず,高等教育機関のアカデミック教 育についても取りあげられている点で先行研究 と考えられる. 本稿では,まず検定試験の受験者データなど から,IFRS に関するニーズを確認し,会計教 育研究の必要性を検討していく.次に,現代会 計における基礎概念を整理し,わが国の伝統的 な会計基準における基礎概念と,IFRS に内在 する基礎概念との相違による会計教育の課題を 取りあげ,問題点を提起していくこととする. Ⅱ 国際的な会計基準に関する検定試験の ニーズの増加と受験者の多様化 会計基準が経済状況の変化や国際化への加速 によってめまぐるしく動いている中,わが国で も,国際的な会計基準に関する検定試験のニー ズが増加している.検定試験のニーズが増加す るということは,受験者数7)が増加すること はもちろんであるが,検定試験が新設されるこ とも,そのニーズの表れである.次に,検定試 験の受験者数の増加または新設と受験者の多様 化について,国際的な会計基準に関する検定試 験の受験者データから分析を行っていくことと する. 1.BATIC について BATIC は,東京商工会議所主催 の 英文会計 検定試験である.試験は公式テキストから出 題されるが,そのテキストは,米国会計基準 (U.S.GAAP)を 中心 に 構成 さ れ,会計処理 に ついて IFRS と U.S.GAAP との間に大きな差異 がある場合には,IFRS の内容についてもテキ ストに組み込まれている. 2001 年 に 開設,年 2 回 の 実施 で,2005 年 か ら 2011 年まで受験者数の推移は,表 1 のとおり である.わが国では,2002 年 4 月以降,米国会 計基準での連結財務諸表の開示が認められてい る.また,2005 年の欧州での IFRS 強制適用, 2006 年 の 米国財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board: FASB)と国際会計 基準審議会(International Accounting Standards Board: IASB)による会計基準の具体的な差異解 消の合意,さらには,2007 年の IASB とわが国 の 企業会計基準委員会(ASBJ)と の 差異解消 の合意などを背景8)に,2005 年以降の受験者は 増加傾向にある.これは,伝統的な日本商工会 議所主催簿記検定と比較しても増加の割合は高 くなっていることが分かる(表 1). また,受験者の内訳も多様化していることが 図 1 の受験者の構成グラフからわかる.2011 年の受験者のうち 17.9% が,大学等(高校・専 門学校を含む)の学生である.また,BATIC 受験者数が増加しても,過去 5 年の大学等の学 生の受験者の割合は表 2 に示すとおり,平均 16.5% となっており,学生の国際的な会計基準 に対する関心の高さが窺える. 2.IFRS に関する検定試験について イ ン グ ラ ン ド・ウェール ズ 勅許会計士協会 ( The Institute of Chartered Accountants in
England and Wales: ICAEW)が,IFRS の 広範 な知識と理解力を測ることを目的として,IFRS Certificate(以下, “IFRS 検定”と い う)を 運営 している.わが国でも 2009 年 12 月より,IFRS 検定の日本語試験(第 1 回検定試験)が開始さ れた.2010 年の受験者数 786 名,2011 年は震 災 の 影響(第 6 回検定 は 中止)で 受験者数 が 658 名と減少したが,わが国でもグローバルな レベルでの IFRS に対するニーズがあることが 7)検定試験 は,申込者数 と 実受験者数 で 数値 は通常異なるが,本稿では申込者数を受験者数と して看做す. 8)2006 年 2 月に FASB,IASB の両者が合意し た 覚書(MOU)や,2007 年 8 月 の ASBJ と IASB の東京合意である.
75 現代会計の基礎概念と IFRS の会計教育(加藤) わかる. IFRS 検定 ウェブ サ イ ト の 2012 年 3 月 の 第 10 回 IFRS 検定受験者の資格保有状況の資料に よると,簿記検定などに関する資格の保有者が 約 6 割であるのに対して,これらの資格を保有 していない者の受験者が約 4 割である(図 2). わが国の大学等の会計教育では,簿記から始 まる伝統的な教育が多く実施されている.特 に,検定試験との結びつきが強く,会計教育の ステップアップと並行して,日本商工会議所等 の簿記検定もステップアップしていくというシ ステムが確立している.これは,複式簿記の基 本的仕組みや記帳方法から始まり,企業の大き さやその目的に応じた財務諸表の作成方法を学 んでいくというものである.このように,わが 国の伝統的な会計教育は,財務諸表の作成者の 視点に立っていることが特徴である9). IFRS 検定の受験者では,簿記検定などの資 格を保有していない者が約 4 割も受験してお (577) 表 1 BATIC と日本商工会議所簿記検定の受験者数の増加の割合 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年 BATIC 受験者数 3,666 4,256 4,586 5,236 6,417 6,568 6,342 指数※ 100.0 116.1 125.1 142.8 175.0 179.2 173.0 日商簿記 受験者数 559,639 571,667 604,322 651,170 713,333 725,115 625,517 指数※ 100.0 102.1 108.0 116.4 127.5 129.6 111.8 ※各検定とも 2005 年の受験者数を基準とした指数 出所 : 東京商工会議所検定試験情報(BATIC)*,日本商工会議所検定試験受験者データ(簿記)** * http://www.kentei.org/batic/index.html#data 2012.7.25 アクセス.BATIC は年 2 回実施(7 月と 12 月)で,受験者データは, 各年の 7 月と 12 月の合計数である. ** http://www.kentei.ne.jp/bookkeeping/news/data.php 2012.7.25 アクセス.日商簿記検定は年 3 回実施(6 月,11 月,2 月) なので,受験者データは,各年度 6 月~2 月の受験者数の合計となっている.さらに,各年度とも 1 級~4 級の受験者数の合計である. 図 1 BATIC 受験者の構成(2011 年) 9)一ノ宮(2008)は,わが国の大学での教育は, 財務諸表作成プロセスを主体とした会計制度や会 計理論の教育がメインであることが多いが,卒業 後は,財務諸表を利用しても作成する機会は多く ないと述べている. 3.4% 14.5% 1.4% 17.2% 2 3% 2.3% 27.4%
2011
受験者の保有資格
BATIC
4.3% 7.4% 1.1% 4.4% 2.0% 12.3% 2.3% 資格なし 38% 資格あり 62% 表 2 過去 5 年の大学等の学生の BATIC 受験割合 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年 17.0% 15.5% 17.1% 14.8% 17.9% 出所 : 東京商工会議所検定試験情報(BATIC) http://www.kentei.org/batic/index.html#data 2012.7.25 アクセス76 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 4・5 号(2013 年 1 月) り,わが国の伝統的な会計教育である作成者の 視点による会計スキルとは無関係に受験可能で あることがわかる.また,現行の概念フレーム ワーク の 財務報告 の 目的10)は,財務諸表 の 利 用者11)(特に,現在及び潜在的な投資家)の視 点に立っている.このことからも,財務諸表の 作成者の視点に立った会計教育のみでなく,利 用者の視点に立った会計教育についても展開の 必要性を感じるのである. 3.ビジネス会計検定試験について わが国でも財務諸表の作成者の視点から実施 される簿記検定に加え,財務諸表の利用者の視 点から実施される検定試験が,ビジネス会計検 定試験として設置された.ビジネス会計検定試 験は,大阪商工会議所が主催する財務諸表の理 解力に関する検定試験である.この試験は,財 務諸表に関する知識や分析力を問うもので,財 務諸表が表す数値を理解し,ビジネスに役立て ることに重点を置いている.2007 年 9 月に新 設され,2012 年 3 月までにすでに 10 回実施さ れている. 簿記検定が,企業の一会計期間における取引 や経済的事象を「正規の簿記の原則12)」によっ て,財務諸表を作成していく部分までを基本的 に試験範囲としているのに対して,ビジネス会 計検定試験は,報告された財務諸表から企業の 状況を推測または分析し,投資などの情報とし て利用するという部分を試験範囲としている. つまり,簿記検定が財務諸表の作成者側,ビジ ネス会計検定が財務諸表の利用者側の試験範囲 となっている(図 3). わが国の会計教育では,誘導法による財務諸 表の作成が重要視され,インプット情報からの 教育が重要な部分となっているが,財務報告の (578) 3.4% 14.5% 1.4% 17.2% 2 3% 2.3% 27.4%
受験者の保有資格
4.3% 7.4% 1.1% 4.4% 2.0% 12.3% 2.3% 資格なし 38% 資格あり 62% ※保有資格の内訳(複数回答あり) ・公認会計士 ・米国公認会計士 ・公認内部監査人 ・日商簿記 1 級,2 級,3 級 ・BATIC ・証券アナリスト 図 2 第 10 回 IFRS 検定の受験者の保有資格 出所: IFRS 検定試験 受験者情報 http://www.ifrs-kentei.com/exam_result/data.php 2012.7.25 アクセス 10)FASB/IASB の共同フレームワーク (ASBJ 訳)では,「現在の及び潜在的な投資者,融資者及 び他の債権者が企業への資源の提供に関する意思 決定を行う際に有用な,報告企業についての財務 情報を提供することである(par. OB2)」というよ うに利用者側の視点となっている. 11)伊藤(2004, p. 3)で は,財務諸表 の 利用者 は広範囲で多様であり,その具体例とし,株主,潜 在的投資家,銀行,債権者,証券アナリスト,取引 先企業,ライバル企業,買収企業,税務当局,監督 官庁,労働組合,経営者,消費者団体,学生,会計 監査人などを挙げている. 12)黒澤(1982, pp. 30─31)では,「誘導法によ る貸借対照表および損益計算書の作成手続は,正 確な会計帳簿から企業の財政状態および損益の状 況の表示としての決算報告書を導き出す方法であ り,これが正規の簿記の原則の建前とするところ である」と説明している .77 現代会計の基礎概念と IFRS の会計教育(加藤) 目的が示している13)ように,財務諸表の利用 者の視点により,報告されたアウトプット情報 から,企業の取引や経営者の誘因を推定したり する力も必要となってきている. 4.米国での初期段階における会計教育 米 国 で も 会 計 学 の 初 期 段 階 ( The First Course in Accounting)の教育においては,財 務諸表の作成者と同じように,財務諸表の利 用者についても明確にすべきである旨の文書 が公開されている.米国会計学会(AAA)は, 1989 年に職業会計士の質,会計教育の方法,大 学での教育方法,グローバルな教育改革などの 検討を目標に,会計教育改革委員会(Accounting Education Change Commission: AECC) を 設 立 し た.そ の AECC に お け る 1992 年公表 の ス テート メ ン ト14)「会計学 の 初期段階 の 目的 (objective of the first course in accounting)」 では,「通常,会計学の初期段階では,初級会計 学 (introductory accounting)でなく,会計学入 門 (introduction to accounting) となるべきであ る.そして,財務諸表の作成方法と同様に意思 決定と関連する会計情報の利用についてもコー ス内で明確にされるべきである」 と述べられて いる. また,会計学 の 初期段階 の 会計教育 で は, AECC (1992)の結論において,「会計学の初期 段階は,学生が将来職業会計士になるか,会計 職とは無関係な会計情報の利用者となるのかと は関係なく,すべての者にとって大変重要であ る.大学教員は,本ステートメントを考慮すれ ば,これらの学生のニーズに対応することがで きる.そして,現代の経済状況の中で会計に関 する幅広い規則を認識することを喚起させ,学 生が職業選択する際の手助けとなるであろう」 とされ,財務諸表の作成者,利用者にとらわれ ず,幅広く会計の知識を導入していく必要性を 説き,学生が職業選択する際のよい手助けとな ると主張されている. Ⅲ 会計基準と会計実務,会計教育の関係 企業会計原則 の 前文 に「企業会計 の 実務 の 中に慣習として発達したものの中から,一般 に公正妥当と認められるところを要約したも の・・・」とあるように,わが国の会計基準の 基本となる企業会計原則は,帰納的アプローチ (the inductive method)に よって 成立 し て い
(579) 13)Barth (2011)は,IFRS を 教 え る 際 に は, 「まず初めに一般目的財務報告の目的を教えるべき」 と主張している. 14)本 ス テート メ ン ト は,会計学 の 初期段階, 会計学の初期段階の重要性,会計学の初期段階の目 的,教育方法,大学の教員,結論の 6 部から構成さ れている. 出所:大阪商工会議所 ビジネス会計検定 2012 パンフレットより 図 3 簿記検定とビジネス会計検定の関係 ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )
るような文面が見られる15).帰納的アプローチ とは,実際に行われている会計処理の諸方法を 観察し,その中からよりいっそう一般的または 共通的なものを抽出することによって会計基準 を設定する方法である.現在のわが国では,企 業会計原則だけで包括することができない事象 の会計処理を中心に,企業会計基準委員会より 会計基準が公表されており,これら会計基準の 設定又は改定が会計実務に与える影響について は,すでに多くの研究がなされている . これに対して,概念フレームワーク16)に基 づいて会計基準が設定されるようになると,会 計実務と会計基準との関係が帰納的アプローチ とは大きく異なってくる.概念フレームワーク は,「財務会計および財務報告の本質,機能お よび限界を規定する相互に関連する基本目的な らびに根本原理の総合的な体系17)」であり,首 尾一貫した会計基準を導き出すと考えられて いる.このように,概念フレームワークから 首尾一貫した会計基準を設定していく方法を 演繹的アプローチ(the deductive method)と い う.演繹的 ア プ ローチ で は,会計実務慣行 とは切り離されて18),概念フレームワークにも とづいて会計基準が設定されていくため19),そ の設定された会計基準の背景や趣旨をよく理解 するための基礎概念を教育していく狭義の会計 教育(education)と,設定 さ れ た 会計基準 を 実務で最大限活かしていくための基準の習得 (training)を分割して会計教育を考えていく 必要があると考える(図 4). 武田(2006)は,企業会計原則と概念フレー ムワークとの違いについて,前者は会計行為の 「エントリー・フェーズ(入口の 「記録」 局面) からのアプローチをとるのに対し,後者は会 計行為の「エグジット・フェーズ」(出口にお ける 「情報」 のもつ機能の局面)からアプロー チする点にあると述べている.つまり,概念 フレームワークは,「情報」の持つ機能である, 意思決定支援機能 や 契約支援機能20)を 出発点 として,そこから首尾一貫した会計基準が導出 されるのである. 以上のことから,演繹的アプローチによって 会計基準が設定されるようになると,基準の習 得とは一線を画した会計の基礎概念や概念フ レームワークの教育方法を確立していく必要性 を感じるのである.このように,会計の基礎概 念や概念フレームワークを重視して教育を展開 していくことにより,将来また会計基準が変わ ろうとも,学生はその基準に自ら対応し,さら に新たな基準の形成にも寄与していくような能 力が,育成されることになると考える. 近年のめまぐるしい会計基準の公表,改定並 びに IFRS との差異解消などにより,わが国で も会計教育の見直しや教科書の改訂に追われて いるという現状である.このような状況の中, 新基準や IFRS の習得などに会計教育のウェイ トが置かれ,その結果,狭義の会計教育の質, 15)企業会計原則 は,戦後 の 1949 年 に 主 と し て米国をモデルに導入されたもので,その当時の わが国の実務慣習を実際どれくらい取り入れたか は疑問である. 16)FASB は, 財務会計諸概念 に 関 す る ス テート メ ン ト (Statement of Financial Accounting Concepts: SFAC)と し て,1978 年 に No. 1「財務 報告の目的」を公表,IASB の前身となる IASC で は 1989 年に 「 概念フレームワーク 」 を公表,わが 国においては,討議資料「財務会計の概念フレーム ワーク」として,2004 年 7 月企業会計基準委員会か ら公表された.なお,米国におけるフレームワーク の地位は,U.S.GAAP の中では下位となっている. わが国でもあくまで討議資料となっている. 17)SFAC 第 2 号『会計情報 の 質的特徴』の 前 書き(平松他 [訳] 2002,p. 47). 18)一部会計実務慣行と会計基準が切り離され ないような項目もある.例えば,フレームワーク では,負債と資本の定義が区別されているが,実 務ではあいまいなものが存在する. 19)Tweedie(2007)では,IFRS は,最小限の 原理原則の規定のみしか与えられないので,「概念 フレームワーク」と密接に結びついていると主張 している. 20)意思決定支援機能と契約支援機能について は,須田(2000, pp. 22─24) を参照のこと.
79 現代会計の基礎概念と IFRS の会計教育(加藤) つまり基礎概念の教育が低下してしまうことの ないようにしなければならない. Ⅳ 会計教育における基礎概念の重要性について 1.英国の代表的なアカデミック教育での取り 組み 英国の大学ランキング21)で上位に位置し, かつ学部にアカウンティング・コースやビジネ ス・スクールを置く,代表的な London School Economics(LSE),Imperial College London (ICL) ,Warwick 大学 に お け る IFRS に 対 す る取り組みについて概観する.この 3 校に共通 していることは,IFRS や国際会計基準を科目 名称にした講義はなく,初期段階においては, IFRS を基本とした講義が展開されるというこ ともない.しかし,補助教材として国際会計に 関連する書籍をテキストとして用いており,講 義内で主の教科書を補足している22).例えば, ICL のアカウンティングに関する基礎科目で は,補助教材 と し て Mongiello(2009)23)が 使 用されている.このテキストの内容は,IFRS での年次報告書の概要,IFRS による 4 つの財 務諸表(貸借対照表,損益計算書,キャッシュ・ フロー計算書,持分変動計算書)の内容とそれ で表示される情報の狙い,最後に年次報告書の 解釈と分析の仕方が説明されており,これによ り初期段階においても,IFRS に触れることが 可能となる.また,齊野(2011, p. 6)によると, LSE の 財務諸表分析(Financial Accounting, Analysis and Valuation)の講義では,IFRS に 準拠した財務諸表が用いられており,当該財務 諸表を理解するための IFRS に関連した教材24) が採用されている. 英国では 2005 年のヨーロッパ規制によって, 最も早い段階からすべての上場企業の連結財務 諸表に対して IFRS が強制適用されているが, IFRS に関連する講義は個別に設置されてはい ない.IFRS を主導している英国においても, 会計教育の基礎段階において,IFRS を詳細に 21)http://en.wikipedia.org/wiki/Rankings_of_ univesities_in_the_United_Kingdom の “The Complete
University Guide” において,LSE は 2 位,ICL は 4 位,
Warwick は 6 位である.そ の 他 の 上位校 は,1 位 Cambridge 大学,3 位 Oxford 大学,5 位 Durham 大学の総合大学である.2012. 9. 25 アクセス 22)Warwick 大学の初期段階の講義 “Introduction to Finacial Accounting_IB1240” で使用されている教 科書 Thomas et al.(2012)では,「PART1:会計学 のフレームワーク」において,テキスト内の関連性 の高い IFRS 基準について概略を示している. 23)本テキストは,次の URL から無料でダウン ロード可能である.http://bookboon.com/uk/student/ finance/basics-of-international-financial-reporting 2012.9.25 アクセス
24)LSE の コース 概要 に よ る と,Palepu et al. “Business Analysis and Valuation: IFRS Edition”, Thomson (2010)が紹介されている.詳細は,次の URL を参照のこと.http://www.lse.ac.uk/resources/ calendar/courseGuides/AC/2012_AC330.htm 2012.9.25 アクセス * ここでいう「会計基準の習得」とは,学生などに対するケース・スタディや実務家向けのブラッシュ・アップ講習などを含む, 企業実務での具体的な会計処理方法を含意している. 図 4 基礎概念の会計教育(education)と会計基準の習得(training)* ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) (581)
教育していくことには懐疑的である.さらに, LSE の 会計学部(Department of Accounting) の ニュース レ ター(Issue 1 2009/10)で は, IFRS に限らず,規則(基準)自体の教育よりも, 基礎概念の学習が重要であることを次のように 表明している. 財務会計でいえば,「LSE アプローチ」は常に,学生 は自分達の利益のために現行の規定(法律や基準)を 学ぶべきではないという立場をとってきた.こうした 知識は,学生が職業会計士としての資格を得るまで, または金融機関などにおいてキャリアポジションに到 達するまで有用でなく,規定があまりに速く変化する 現在では無意味である以外にない.代わって我々は, 基礎概念や変化の説明および影響に焦点を置いている. これは,学生が自分達の生涯を通じて継続する将来の 変化という問題に向き合う能力を身につける最善の方 法になるであろう. (一部省略) LSE では,規則そ れ自体の詳細を教育するのではなく,本学の伝統すな わち基礎概念や会計の変化をもたらした制度的枠組み に関する批判的な論評や討論を今後とも継続していく Richard Macve (スタディ・グループ研究資料,齊野[2011]を一部抜粋) Macve(2009/2010)は,学生 が 会計専門職 に就く前に変化の激しい現行基準に関する知 識を身につけることは有用でないとして,LSE における伝統的な会計教育を推し進めることを 強調しているのである. 2.会計教育における基礎概念の必要性 IFRS の導入を踏まえた現在の状況の中で, 会計教育について考察していくと次の 2 つの理 由から会計の基礎概念を導出する必要性がある と考える. 第 1 の理由は,LSE での教育方針にも見ら れたが,会計ルールの変化の速さによる基準の 習得のみに追われることなく,変化の激しい時 こそ,基礎概念の理解の充実をはかるべきであ るということ,また,財務報告の目的が,投資 家をはじめとする利用者の視点に立っていて, その財務諸表の利用者である利害関係者は,会 計専門家とはいえない立場の者が多くなってい るという点で,基礎概念を導出しこれに基づい た教育方法の展開を考察していく必要があると いうことである. Beaver(1981, 序章ⅰ)では,20 世紀後半の 米国における会計制度の大変革期25)において, 基礎概念の必要性について次の 3 点をあげてい る. ① 財務報告の規則や基準がいまだかつてない ほどの速度で増え続けている.その結果, その規則や基準を網羅的に扱うことがます ます困難になっていること. ② 各ルールが効力を有している期間が,最近 は短くなっている.その結果,現在の規制 のメニューを示しても,すぐに時代遅れに なってしまう恐れがある. ③ 会計専門家でない,あるいは会計専門家を 志望していない多くの人々が財務報告制度 に重大な関心を抱いていることである.こ うした会計専門家以外の人々も,ある程度 の水準を超えた知識を修得することの必要 性を感じている.なぜならば,彼らは財務 報告の作成者または利用者として,ある いは規制当局者として何らかの形で財務報 告制度に関わることになるだろうからであ る. こ の よ う に,Beaver(1981)で は,規則 や 基準よりも基礎概念に重点を置いた教育を推進 する理由を 3 点あげて,手続き的な説明が教育 の主となってしまうことのないように警告して いる. 25)黒澤(1982 序章 p. 3)は,1980 年前後 に, FASB や SEC によって制定される会計諸基準や会 計規則が膨大な量に上っていること,それが年を 追って加速度的に増加しつつあり,しかも新旧交 替して速やかに変化しつつあることなどをあげ, Beaver はこれを一種の会計革命にほかならないと 指摘したと述べている.
81 現代会計の基礎概念と IFRS の会計教育(加藤) 第 2 の理由は,IFRS は原則主義の会計基準と なっており,抽象度の高い会計基準となってい るため,様々な場面で財務諸表の作成者である 経営者自身の判断力が必要になる.また,財務 諸表の利用者も,経営者がどのようなタイミン グで,どのような金額を認識したかのかなどの 分析力について学んでいかなければならない26). 橋本(2009)は,「判断力,思考力,分析力, 表現力を身につけることは,細則主義に慣れ親 しんできたわが国にとって,喫緊かつ最大の課 題である」として,財務諸表作成者,利用者双 方の判断力などが不足しているという問題を提 起している. 国際会計教育研究学会(The International Association for Accounting Education and Research: IAAER)27)の 会長 で あ る Donna L. Street は日本での講演28)の中で,「IFRS は原 則主義の基準であり,指針や細かい規則等が存 在しないので,IFRS を適用する際には判断が 必要になる.したがって,学生は IFRS 適用の ための判断をいかに下すのかについて学ばなけ ればならない.」つまり,学生は,IFRS を暗記 しているだけは何の役にも立たず,原則の意味 内容を理解することが必要となると述べてい る.そして,学生に判断行使を教育するために は, a. 基準設定にかかる IASB の審議過程を教 育すること,b. 基準設定に際して,採択されな かった代替案がどうして採択されなかったのか の理由を説明することの 2 点を挙げ,その上で 実務,すなわちケースを学習する教育方法が適 切であると主張している. わが国でも,徳賀(2011a)は会計ルールの 解釈が困難になった時,あるいは会計ルールに ないような新しい事象が出現した時には,より 上位の概念(基礎概念など)に遡って思考する 判断力の必要性を次のように説いている. 現実世界の事象には,細かく見れば事象の数ほどの 種類があり,また,絶えず新しい事象が発生するので, 経営者や会計専門職が,確信をもって「あるべき会計 処理」を答えられない場合は少なくない.そのような 場合にも,会計実務において結論を永遠に先送りする という選択肢はないので,一定の時間内で何らかの結 論を下し,それが正当である理由を示さなければなら ない.現行の会計基準やその解釈書では事象の解釈が 困難な難問にぶつかった時,あるいはルールにない新 しい事象にぶつかった時,より上位の(抽象度の高い) 概念(原則,基礎概念,会計観,または制度趣旨)へ遡っ て判断をするという思考態度が必要となってくる. (徳賀,2011a 下線は筆者) 以上のように Donna の講演や徳賀(2011a) からもわかるように,会計教育の質を高めるた めには,会計の基礎にある概念を重要視して, 判断力を身につけるような会計教育を展開する ことが必要と考えられるのである. Ⅴ 基礎概念を説明するための会計モデルの構築 1.IFRS の特徴からの基礎概念の考察 IFRS の 代表的 な 特徴 と し て,演繹的 ア プ ローチ,原則主義,包括利益,公正価値評価重 視,経済的単一体説等が取りあげられる29)が, これらが特徴点ということは,現行のわが国の 会計基準を構成する基礎概念で表現されないも のであるということを意味している.これら IFRS の特徴と対置されるものは,演繹的アプ 26)Schipper (2009)で は,財務諸表 の 作成者 (Financial statement preparation) 側 と 財務諸表 の 利用者(Financial statement analysis/use) 側 の双方の判断力(judgments)の必要性が強調され ている. 27)1984 年 8 月に設立された,会計のための教 育と研究に関する組織である.KPMG などの資金 協力によって運営されている. 28)2010 年 2 月 21 日 に 東京八重洲口 サ ピ ア タ ワーにて開催,会計大学院コアカリキュラム全国検 討会主催「高等教育機関における会計教育課程─講 演とパネルディスカッション─」,Donna の演題は 「IFRS 会計判断をどのように教えるのか」である. 29)平松(2011, p. 19)では,これらの特徴に加え 「政治的影響を受けやすい」の計 6 点をあげている. (583)
ローチに対して帰納的アプローチであり,原則 主義に対して細則(規則)主義,包括利益に対 して純利益(資産負債利益観に対して収益費用 利益観),公正価値評価重視に対して取得原価 評価重視,経済的単一体説に対して親会社説で ある.このうち,演繹的アプローチと帰納的ア プローチについては,会計実務との関係からⅢ 節でその概要は示した.また,原則主義と細則 主義については,原則主義における会計基準が, 基礎概念を理解することの重要性をより高める ことになることも前節で述べたとおりである. さらに,経済的単一体説と親会社説については, 連結のみの特別な概念であるので,本稿の基礎 段階での会計教育の視点から考察していくため の議論からは切り離す30)こととする. よって,本節では包括利益と公正価値評価重 視という 2 つの特徴をヒントに基礎概念を考察 していくこととするが,これら 2 つの特徴点は, 関連性がとても強くなっている.まず,包括 利益の定義をわが国の概念フレームワークから 確認すると,「特定期間における純資産の変動 額のうち,報告主体の所有者である株主,子会 社の少数株主,及び将来それらになり得るオプ ションの所有者との直接的な取引によらない部 分をいう31)」である.つまり,包括利益は期首 と期末における,資産,負債の差額概念である 純資産の一期間の変動額(資本取引を除く)で あるということが確認できる.よって,包括利 益を表示することにより,貸借対照表と包括利 益計算書のクリーンサープラス関係が成立する のである. これら,IFRS の特徴をヒントとして会計モ デルを明確にすることが,IFRS を理解するう えでの重要な手掛かりを与えてくれるものと期 待される.そこで,本稿では包括利益と純利益 という視点から会計が利益を導く過程と,公正 価値評価重視と取得原価評価重視という視点か ら,企業の経済価値を誰が推定して表現してい るのかについて,会計モデル化して示していく こととする. 2.スタディ・グループによる基礎概念を導出 する方法 大学等 に お け る 教育 は,富田(2011a, p. 2) では,「対象の本質や特徴といったものを考え させ,それをなんらかの方法で教授するもので ある」と述べ,「対象の本質や特徴を示しつつ, 限られた時間で教育するには,二極(二項対立 的図式)を示し,両極との比較を示す中で,対 象が相対的にどのような位置づけになるのかを 明確にしつつ,対象の本質や性質,そしてその 内容を説明する方法」を取りあげている.そし て,IFRS 教育における基礎概念を導出するた め,スタディ・グループでは,二極を示す方 法として,2 つのアプローチを示している.第 1 は,企業が獲得した利益をどのように計算し ているのかという視点から,「資産負債利益観」 と「収益費用利益観」を対置させる「利益観か らのアプローチ32)」であり,第 2 は,どの側面 から企業を表現しているのかという視点から, 「投資計算を基礎とする会計モデル」と「収支 計算を基礎とする会計モデル」を対置させる「会 計モデルからのアプローチ33)」である.本稿に おいても,この二極を示す方法により,対置す るモデルを検討していくこととするが,その際 に,対置する二極のうちの一極は,IFRS のよ うに公正価値評価の適用範囲が拡張され,当該 拡張がどのようなモデルを想定したものなのか を表現するものでなければならない.そのた め,スタディ・グループで示された対置モデル 30)IFRS は連結ベースでの適用が多く,経済 的単一体説または親会社説は,包括利益やその他 包括利益における利益概念に関わってくると思わ れるが,本稿では初期段階の会計教育に焦点をあ てるため,考察の範囲から除く. 31)討議資料「財務会計の概念フレームワーク」 第 3 章 財務諸表の構成要素 8 32)詳細は,山田(2011)を参照. 33)詳細は,富田(2011b)を参照.
83 現代会計の基礎概念と IFRS の会計教育(加藤) では,IFRS を理解し,会計教育を展開する手 助けとなるためには,次の点でいくつか問題が あると考えられる. まず,第 1 の対置である「利益観からのアプ ローチ」は,財務諸表のボトムラインとなる利 益をどのように導くかという点から,包括利益 を導く資産負債利益観(ストック・ベース)か, 純利益を導く収益費用利益観(フロー・ベース) という二極を対置することによって比較検討を おこなっている.このように,利益をどのように 計算しているのかという視点で,この 2 つのア プローチを比較していくのは無理が多い.ストッ ク・ベースの利益観では,資産・負債の評価で あるストックを重視し,その結果として自動的 に算出されたものが包括利益であり,そもそも包 括利益を計算することを目的としているわけで はない.これを,伝統的な収益・費用という期 間損益計算のフローを重視し,そこから期間利 益である純利益を算定表示することを目的とし たものとは,目的観が大きく異なるからである. また,徳賀(2011b, pp. 4─5)は,「収益費用 利益観は実務からの帰納であり,資産負債利益 観は経済学から演繹された理論モデルを,実現 可能性を制約条件として具体化したものである ので,実務における便宜性,あるいは経済学の 土俵で両者を対置して比較することはできな い34)」と主張している.つまり,両者は実務に おける実践型としても,会計理論における理念 型としても比較は困難なのである. 次に,第 2 の対置である「会計モデルからの アプローチ」であるが,富田(2011b, pp. 1─2) は,対置する会計モデルを,企業を投資の集合 体として捉えるモデルと,企業を委託財産の集 合形態と考えるモデルという 2 つのモデルを構 築し両者の基礎概念を説明している.この富田 (2011b)の会計モデルでは,企業の出資者で ある株主の立場から,企業を投資の集合体と捉 えたり,委託(受託ではなく)財産の集合形態 と表現したりしている点が特徴である.このよ うに,企業を投資対象と捉えたり,財産の委託 先と捉えることは,投資家などの財務諸表の利 用者の視点のみが強調され,基礎概念を体系的 に説明していくには偏向がある. わが国の伝統的な会計教育から基礎概念を考 察していくには,あくまで財務諸表の作成者, 利用者の両者を捉える会計モデルを体系化し, 説明していく必要があると考える.そこで,徳 賀(2011a)では,一部のストックを市場価格 で評価し,フローの認識に資産・負債ストック の価値変動の裏付けを与えて,その評価差額を 期間利益に反映するもの(会計利益モデル)と ストックの公正価値評価を推し進めて純資産簿 価によって経済価値を示すことを目指すモデル (純資産簿価モデル)を示し,現代会計の基礎 概念を整理している.本稿ではこのモデルを参 考に, IFRS の教育を展開する上で説明に必要 な二極のモデルとして示していくこととする. なお,伝統的な収益費用利益観(フロー・ベー ス)は,徳賀(2011a)のいう「会計利益モデル」 で あ り,「対応」の 概念 に よ り 期間的 に 純利 益を算定するモデルである.本稿では,徳賀 (2011a)を参考に,「投資家に企業価値を推定 させるモデル」として表現していくこととする. また,資産負債利益観(ストック・ベース)よ りも,徳賀(2011a)が理念型として明確であ ると示した「純資産簿価モデル」は,会計利益 に替わり,資産,負債の市場価格と経営者の推 定する使用価値によって推定された純資産簿価 が投資意思決定のための情報となる.このよう に,公正価値評価を推し進めていくモデルを, 本稿では,「経営者に企業価値を推定させるモ デル」として表現していくこととする. いずれのモデルも経営者の判断や見積りが会 計数値に組み込まれるが,両者の違いは,経営 者の判断や見積りが会計数値に組み込まれる程 34)ただし,徳賀(2011b)では比較に必要な範 囲で抽象化した両モデルを同一平面上で比較するこ とは可能であり,FASB(1976, pars. 34─42)やその 他多くの研究はこれを行っていると述べている. (585)
84 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 4・5 号(2013 年 1 月) 度とその手法にある.IFRS では,保有目的を 考慮しない金融資産・負債の公正価値オプショ ンの採用や非金融資産(事業用資産)の再評価 モデルの容認など,経営者が予測する部分の割 合が多く,その手法としても将来キャッシュ・ フローの現在価値を積極的にオンバランスして いこうとするなど,IFRS では経営者自身が公 正価値で評価する部分が多くなっている. 3.投資家に企業価値を推定させるモデル 「投資家に企業価値を推定させるモデル」は, わが国の伝統的な基礎概念から表現されるモデ ルである.期間損益計算からのフローの認識を 主とし,一部の金融商品を市場価格で評価して, その評価差額を期間損益に反映していく.この モデルでは,財務諸表の作成者は,取引が記録 されている帳簿などから会計の処理の原則及び 手続き(発生主義などの変換システム)により, 当期純利益を算出して財務諸表等によって報告 する.財務諸表の作成者である経営者は,一般 に公正妥当と認められた会計処理の原則及び手 続きの範囲内で,企業活動を表現するのにより 適した方法を採択し,利用者に対して伝達して いこうとするものである. これに対して,財務諸表の利用者(主として 投資家)は,報告された情報をもとに,安全性, 収益性,成長性などの分析を行い,様々な意思 決定に役立てる.また,利益情報,分配情報, キャッシュ・フロー情報などをインプット情報 として,投資家自身の責任において企業価値を 推定していく35)のである.つまり,このモデ ルでは,投資家自身に企業価値を推測させるモ デルであると表現することができる.財務諸表 の作成者は,財務諸表によって利益情報等を利 用者に報告するまでが責任範囲となる.そして, 投資家などの財務諸表利用者は,その報告され た利益情報等から,各種分析や企業価値の推定 などを,様々な手法を使って自身にとって有効 な情報に変換するのである(図 5). 現行のわが国において作成されている財務諸 表を表現するのは,このモデルであり,討議資 料「財務会計の概念フレームワーク」において も,これを象徴するような記述が見られる. 財務報告はさまざまな役割を果たしているが,ここ では,その目的が,投資家による企業成果の予測と企 業価値の評価に役立つような,企業の財務状況の開示 にあると考える.自己の責任で将来を予測し投資の判 断をする人々のために,企業の投資のポジション(ス トック)とその成果(フロー)が開示されるとみるの で あ る.(企業会計基準委員会[2006] 討議資料「財 務会計の概念フレームワーク」第 1 章序文,下線筆者) 財務諸表を作成していくということは,「経 済主体(企業あるいは企業グループ)の活動や 事象を主として貨幣額によって測定・伝達する プロセスである(伊藤,2004, p. 2)」が,完全 に企業の状況を表現することはできない.一般 に,財務諸表の作成者である経営者と利用者で 企業全体の価値を指す場合と株主価値を指す場合 とがあるが,フロー情報から株主価値を評価する モデルとして,割引配当モデル(DDM),割引キャッ シュフローモデル(DCFM),残余利益モデル(RIM) を例としてあげている. 35)秋葉(2011, pp. 74─75)では,企業価値とは, ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) 図 5 企業価値を推定するまでのイメージ図 (586)
85 現代会計の基礎概念と IFRS の会計教育(加藤) ある投資家の間には,情報の非対称性が存在す るといわれている.期間損益計算(フロー)の 結果として導き出された純利益では,財務諸表 の作成者である経営者が,環境の変化に対応し て経営戦略を変化させたり,利益を平準化しよ うとするなど,財務諸表の利用者である投資家 から,経営者の裁量部分が見えないことや財務 諸表の企業間比較が困難になるという問題点が 挙げられている. それでは,期末に市場価格などで公正価値測 定が可能なストックは公正価値で測定し,市場 価格等で公正価値測定が困難なストックは,経 営者自身に企業の将来キャッシュ・フローを予 測させ,それをオンバランスしていこうとする 試みが,次のモデルである.つまり,「投資家 に企業価値を推定させるモデル」では,将来 キャッシュ・フローの予測を,利用者が行って いたが,このうち,多くの部分を経営者自身に やらせてみれば36),企業間の比較や投資の判断 が容易になるのではないかということで考えら れたものである. 4.経営者に企業価値を推定させるモデル 「経営者に企業価値を推定させるモデル」は, 経営者がストックの公正価値評価を推し進め て,純資産簿価によって経済価値を示していこ うとするモデルである.前述したとおり,現在 の会計基準は,複数の会計理論が混在している ため,当期純利益と包括利益の両方が表示され ているが,このモデルからは期首と期末の純資 産の差額である包括利益のみが表示されること になる.このモデルでは,期中の取引や経済的 価値の変動などから,経営者が期末にストック の公正価値評価を推し進めて,可能な限り期末 における企業価値を予測して表現していこうと するものである.つまり,財務諸表の利用者が 行う変換システムのうち,人的資源や企業競争 力などの推定不能な部分以外は,財務諸表の作 成者である経営者に変換させ,それを情報とし て提供させるという試みである(図 6). このモデルが出現した背景には,一般的な投 資家が増大し,アナリストや情報提供機関など による情報のコストを削減しようと試みたこと や,当期純利益でなく企業価値の変動による利 害関係者との契約方法の開発(ストック・オプ ション,資本コストなど)があげられる.また, これらの要因に加え,公正価値を測定するため の将来価値の計算技術の発展,情報の適時性(四 半期情報)と 正確性,市場 の 整備(政府規制, 参加者の一般化など)が背景にあると考えられ る.さらには,投資の環境における前提条件で ある,a. 投資家(情報提供機関や投資代行機関を 含める)は互いに競争して財務情報を収集・解 釈しようとする,b. 経営者は互いに競争して投 資家の資金を得ようとするため,財務情報を投 資関係者に提供しようとするインセンティブを もつ,という 2 点が国境を超えたグローバルな 市場で成立している37)ということもあげられる.
36)SFAC No. 7 par. 32 では,経営者自身による 最善の見積りが有用な理由が挙げられている. ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) 図 6 経営者が企業価値を推定するモデルのイメージ図 (587) 37)Barth (児島 [訳], 2009)は,長期的には, 資本だけでなく,グローバルな資本市場において, 情報と人の移動がより自由になり,人々が国家間 を自由に動くことが可能になると主張している.
このモデルの問題点は,公正価値評価は,金 融資産については将来の正常利益を示すが,非 金融資産(事業用資産)で は 将来 の 正常利益 + 自己創設のれんが先取りされてしまう(徳賀, 2011b, p. 9).例えば,売却目的の資産は現在出口 価値で測定されるが,使用目的の資産は使用価 値で測定され,その使用価値には,自己創設の れんの見積値が含まれてしまっているのである. IFRS では,自己創設のれんの計上は認めて いないものの,公正価値評価の拡大により到達 する方向を示しているものは,当該「純資産簿 価モデル」である.現在の IFRS では,経営者 自身に企業価値の多くの部分を推定させようと するモデルであるといえる.つまり,図 5 の企 業価値を推定するまでの過程のうち,作成者の 変換する割合が利用者の変換する割合より多い 状況を作り出そうとしているのである. IFRS は,財務諸表の作成者である経営者に よって,できるだけ将来の情報を提供させよう とするモデルのため,経営者による見積りや判 断が増大する.そのため,財務諸表の作成者側 と利用者側に存在した情報の非対称性に加え て,情報の信頼性におけるリスクが増大するこ とになる.IFRS が公正価値評価の範囲をます ます拡大させて,純資産簿価モデルに近づいて いくと,財務諸表の作成者と利用者の間に情報 リスクが増大し,情報コストが増加する結果と なるであろう38). Ⅵ 2 つの会計基準による会計処理 1.会計基準を構成する基礎概念の相違と会計 処理 IFRS と現行のわが国の会計基準では,利益 観や公正価値評価の適用範囲の多少により,そ れぞれの会計基準を構成する基礎概念に相違が 見られるため,会計処理にも相違が現れること がある.次に,日本基準を構成する基礎概念を 「基礎概念 J」,IFRS を構成する基礎概念を「基 礎概念 I」として,この 2 つの基礎概念の相違 による会計処理の問題点を考察していく. 現在のわが国では,IFRS の適用が認められ ている現状からもわかるように,基礎概念も混 在している状況である.このように,複数の会 計基準が存在する現行の会計制度では,異なる 会計基準を適用することによって,異なる会計 処理が導びかれるケースもあれば,異なる会計 基準を適用しても同じ会計処理となるケースも ある.次にそれぞれのケースの適用例をあげて 確認することにする. 図 7 で示す通り,事象 X は適用する会計基 準の基礎概念に照らしあわせた結果,基礎概念 J によっても,基礎概念 I によっても同じ会計 処理が導びかれるケースである.一方,事象 Y は適用する会計基準の基礎概念に照らしあわせ た結果,基礎概念 J によると会計処理 Yj が行 われ,基礎概念 I によると会計処理 Yi が行わ れるケースである. 2.異なる会計基準でも会計処理が同じとなる 事象 X の具体例 ⑴ 売買目的有価証券の評価差額 日本基準では,発生主義の原則により,すべ ての費用及び収益は,その支出及び収入に基づ いて計上し,その発生した期間に正しく割当て られるように処理しなければならない.ただし, 未実現収益は,原則として当期の損益に計上し てはならない39).売買目的の有価証券は,売買 における市場が整備されており,いつでもそ の市場価格にて売買することが可能である.さ らに売買することについてなんら制約がないな ど,実現の概念を少し拡大して実現可能概念と 39)企業会計原則 損益計算書原則 1A
38)Ginny et al.(2012, p. 17)では,IFRS の 問 題点としてすでに取りあげている.また,トモ,ス ズキ(2012, p. 189)は,欧州での IFRS アドプショ ンを推進した企業の資本市場における先行研究を 整理した結果,資本コストの削減感は特に見られな く,一部企業では自国基準を適用するよりも資本コ ストが上昇した企業もあると指摘している.
87 現代会計の基礎概念と IFRS の会計教育(加藤) することで,時価による評価とその評価差額を 当期の損益として認識するという会計処理が行 われる. IFRS では,売買目的金融資産または金融負 債は,公正価値の変動により損益を計上する目 的をもって保有しているものなので,当然なが ら期末における公正価値により時価評価が行わ れる.市場における公正な評価額(市場価格) には,様々なリスクや期待値がすでに織り込ま れており,反証のない価値となる.したがって, 時価をもって期末の評価額として計上し,その 評価差額は発生した年度の損益に含められる40). これは,日本基準と IFRS では,適用する会計 基準によって,実現概念(フロー)における評 価差額と公正価値評価(ストック)における評 価差額では,基礎概念に相違はあるが,結果と しての会計処理に相違はない. ⑵ 開発費の資産計上 日本基準では,将来の期間に影響する特定 の費用41)として,繰延経理されるものである. 収益費用対応の原則から資産計上され,その後, 将来の効果の発現する期間にわたって,合理的 に費用配分される.つまり,繰延資産としてオ ンバランスが認められるものであるが,実際は 効果の発現する期間を予想することは困難であ り,かつ長期間になることも不確実性が高まる. 現行のわが国の会計基準では,原則はその発生 した期間の費用として認識されるが,開発費を 繰延経理することも認められており,この場合 には,5 年以内のその効果の及ぶ期間に均等額 以上を費用として配分しなければならない42). 日本基準と IFRS の開発費の定義は異なるが, 同質の部分での会計処理を考えると,IFRS で は,資産は「将来の経済的便益が企業に流入す ることができる資源」であり,このうち無形資 産は「物理的実体のない識別可能な非貨幣資 40)IAS39 par. 55 41)企業会計原則 注解 15 42)企業会計基準委員会実務対応報告第 19 号 3 会計処理 ⑸ J J I I X Y Xji Yi Yj *徳賀(2011a)では,基礎概念と会計処理とは必ずしも 1 対 1 の関係にはなく,同じ基礎概念に基づいても異なる会計処理が 正当化されうる場合がある一方,異なる基礎概念に基づいても同じ会計処理が正当化される場合があるとして説明されているが, 本稿では,具体的な会計処理の相違点を説明する上で,異なる基礎概念において行われる会計処理に焦点を当て図表化した. 図 7 会計基準の基礎概念と会計処理との関係図* (589)
産」43)である.開発費については,無形資産の 要件を満たし,信頼性をもってその原価を測定 できる場合には資産計上が強制される.その後, 耐用年数が確定できない場合には,償却をせず に毎期減損テストが実施される.IFRS が適用 され耐用年数が確定できる場合には,繰延資産 か無形資産かという表示区分の差はあるが,開 発費がオンバランスされ,償却されていくとい う会計処理に差はない.つまり,対応原則によっ て繰延経理されてオンバランスされるものと, 資産の要件を満たすことによりオンバランスさ れるものとの概念上の相違はあるが,資産計上 される点での会計処理の差はない. ⑶ 有形固定資産の減価償却 日本基準では,減価償却とは取得原価の費用 配分の原則によって,各事業年度に費用として 配分することである.有形固定資産は,当該資 産の耐用期間にわたり一定の減価償却の方法に よって,その取得原価を各事業年度に配分しな ければならない44).このように,日本基準にお ける減価償却の目的は,取得原価の費用配分で ある. これに対して,IFRS の減価償却の目的は, 経済的便益が企業によって消費されるパターン を反映する方法で減価償却をしなければなら ない45).さらに,IFRS では固定資産の再評価 モデルが認められるなど,あくまで有形固定資 産価値の認識という論理が先行しており,貸借 対照表価額の決定が費用計算よりも優先される (高田橋,2012).つまり,日本基準では,減価 償却により費用計算がまず行われ,その累計額 を取得原価から控除された価額をもって貸借対 照表価額が決定される.しかし,IFRS では貸 借対照表の論理が先行し,その結果,有形固定 資産に関する費用項目が確定するのである.こ のような IFRS の理論によると,減価償却と減 損損失は同質となってしまい,取得原価を基準 とする日本基準との解釈に差異があるが,耐用 年数や残存価額を基本とした減価償却計算要素 に相違はなく,結果としての会計処理は同様と なる. 3.異なる会計基準によって会計処理も異なる 事象 Y の具体例 ⑴ その他有価証券の評価差額 日本基準では,未実現収益は原則として,当 期の損益に計算に計上してはならない46)ので, その他有価証券は,売買における市場が整備さ れているものでも,その市場において売却する ことには事業上の制約があるものもあるので, 時価による評価差額をただちに当期の損益とし ての認識することは,利害関係者の判断を誤ら せるおそれがある.よって,貸借対照表では時 価で評価されるが,その評価差額は当期の損益 として認識せずに,売却などにより実現するま で「評価・換算差額等 (そ の 他包括利益)」と して純資産の部に置かれる. IFRS では,日本基準でいうその他有価証券 (売却可能金融資産)のうち,当初認識時に公 正価値で測定し,その変動を損益として認識す る金融資産として指定したもの(公正価値オプ ション)は,いつくかの制約条件のもとに毎期 公正価値を測定し,その変動を損益として認識 することができる47).このように,公正価値オ プションは,実現概念を重視する日本基準では, 認められない会計処理であり,貸借対照表にお ける評価を重視する IFRS とは,会計処理に相 違が現れる. ⑵ 無形資産の償却と減損損失の認識 日本基準では,無形固定資産は取得原価の費 用配分の原則によって,各事業年度に費用とし て配分する.無形固定資産は,当該資産の有効 期間にわたり一定の減価償却の方法によって, 43)IAS38 par. 8 44)企業会計原則 貸借対照表原則 5 45)IAS16 par. 48 46)企業会計原則 損益計算書原則 1A 47)IAS39 par. 9
89 現代会計の基礎概念と IFRS の会計教育(加藤) その取得原価を各事業年度に配分しなければな らない48).このように,日本基準における無形 固定資産の償却の目的は,有形固定資産と同様 に取得原価の費用配分である.無形固定資産の 有効期間は,当該資産の収益獲得または費用削 減の効果により決定されるが,のれんなど有効 期間が長期にわたる場合は,最長 20 年で償却 が行われる. ただし,当該無形固定資産に減損の兆候があ る場合には,減損損失を認識し,一定の要件の もとで帳簿価額を減額する.その後の帳簿価額 は残存耐用年数にわたって引き続き減価償却が 行われる.これは,取得原価基準のもと,過大 となった帳簿価額を減額し,損失を将来に繰り 延べないために行われる臨時的な簿価の切り下 げである. これに対して,IFRS では無形資産の当初認識 時に,耐用年数が確定できるかできないかを検 討し,確定できる場合には償却を行うが,確定 できない場合には償却をしない49).これは無限 を意味するものではなく,貸借対照表価額の決 定が費用計算よりも優先される IFRS では,耐 用年数が確定できないものを無理に費用配分額 するのではなく,毎期減損テストを行い,当 該帳簿価額と回収可能価額とを比較することに よって,資産の価値減少を費用として認識する のである. ⑶ 固定資産の当初認識と減損の戻し入れ 取得原価評価を重視する日本基準では,当初 は取得原価で認識され,減価償却の手続きによ りその取得原価は耐用年数にわたり費用配分さ れる.期末における貸借対照表価額は,次年度 以降に費用として配分される未償却残高であ る.時価による売却を目的とするものではない ので,期末に時価評価による再評価は認められ ていない.ただし,減損の兆候がある場合には, 割引前の将来キャッシュ・フローを見積り,そ の測定結果が帳簿価額を下回った場合のみ,正 味売却価額や使用価値の測定が行われ,回収可 能価額まで帳簿価額が減額され,その減損損失 を認識する. 当該有形固定資産の取得時には,投下資本を 上回る回収額が見込まれるからこそ投資が行わ れるのであって,帳簿価額<使用価値となるの が当然の状況である.使用価値が帳簿価額を上 回っている部分がのれん価値であって,実現さ れるまではのれん価値に相当する収益の認識は 行われない.ただし,投資原価の回収が見込め なくなった場合に,過大となった帳簿価額を減 額する減損処理は行われるが,減損テストにお いて相当程度確実な場合に限って減損損失の認 識が行われる50)ので,減損損失の戻し入れは 行われない.フローの対応関係を重視する日本 基準では,損失を将来に繰り越さないために行 われる臨時的な簿価の減額処理であり,有形固 定資産の評価益は認めていない. IFRS では,当該有形固定資産の取得時には, その後の測定として取得原価モデルまたは再評 価モデルを選択し,有形固定資産の種類ごとに 適用する必要がある.再評価モデルは,帳簿価 額=再評価額となるように,帳簿価額を増減さ せるものであり,資産の帳簿価額が再評価の結 果増加した場合,その増加額を「再評価剰余金」 等の科目で処理する51). また,最後に減損損失が認識されたとき以降 に,回収可能額の見積りに変化があった場合に は,過年度に認識された減損損失の金額を上限 に戻し入れを行わなければならない52). このように,IFRS では再評価や減損の戻し 入れなど,ストックの評価を重視し,有形固定 資産の評価益を認めているという点で会計処理 が大きく異なるオプションがある. 48)企業会計原則 貸借対照表原則 5 49)IAS36 par. 89 50)企業会計基準適用指針第 6 号 「固定資産 の 減損に係る会計基準の適用指針」 134 項 51)IAS16 par. 39 52)IAS36 par. 114 (591)