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表現力を育てる小学校社会科学習指導の工夫 ―協同学習と「なりきり活動」を取り入れた資料活用能力の育成を通して―

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表現力を育てる小学校社会科学習指導の工夫

―協同学習と「なりきり活動」を取り入れた資料活用能力の育成を通して―

須 田 恵 美・山 口 陽 弘・石 川 克 博

群馬大学教育実践研究 別刷

第34号 147∼156頁 2017

群馬大学教育学部 附属学校教育臨床総合センター

(2)
(3)

表現力を育てる小学校社会科学習指導の工夫

―協同学習と「なりきり活動」を取り入れた資料活用能力の育成を通して―

須 田 恵 美

1)

・山 口 陽 弘

2)

・石 川 克 博

2)

1)太田市立生品小学校

2)群馬大学大学院教育学研究科教職リーダー講座

Social

Studies

Classes

for

Developing

the

Schoolchildrens

Self-Expression

Ability

at

Elementary

School

:

Through

Active

Use

of

Materials

Introducing

Cooperative

Learning

and

Role

Playing

Emi

SUDA

1)

,

Akihiro

YAMAGICHI

2)

,

Katsuhiro

ISHIKAWA

2)

1)Ota Municipal Ikusina Elementary School

2)Professional Degree Course, Program for Leadership in Education, Gunma University

キーワード:教職大学院、協同学習、なりきり活動、社会科

keywords : Professional Degree Course, Program for Leadership in Education, Cooperative learning , Role Playing, Social Studies as a school subject in Japan

(2016年10月31日受理) 1 問題 (1)各種調査の結果から  児童の実態をとらえるために、①特定の課題に関す る調査(社会)②ぐんまの子ども基礎・基本習得状況 調査(社会)③置籍校における平成27年度全国学力・ 学習状況調査(国語)の調査を抽出し、課題を分析し た。③の調査については、社会科における調査ではな いが、複数の資料を関連させ自分の意見を述べる調査 問題は社会科の学習と重なる部分が多いため、児童の 実態をとらえることができると考えた。  ①の調査からは、「調べた事実と自らの知識・経験を 結びつけて問題の解決策を考え、それを標語に表現す る問題」など、「自ら考え記述する」活動に6年生が課 題をもっていることがわかった。②について群馬の子 どもの小学校社会科における正答率は62点と実施し た他の教科に比べると最も低かった。特に通過点が低 かったのは、複数の資料から情報を読み取り、それら を関連させて、資料から分かることについて正しく述 べているものを資料から選ぶ問題であった。本調査か ら、本県児童に継続して問題になっているのは、「単独 もしくは、複数の資料から情報を読み取ること、自分 の考えを表現すること」であることがわかった。③の 調査においても、「指定された資料から、必要な情報を 取り出したり、読み取ったりすることができない」と いう、社会科と同様の課題がみられた。 (2)学習指導要領から  これらの課題を受けて、小学校学習指導要領社会科 (文部科学省,2008)においても、「社会編」の中で、 授業における言語活動を通して以下の4点を一層重視 することを求めている。 ・社会的事象に関心をもって、進んでかかわること ・社会的事象の意味や働きを多面的・多角的に考えるこ と 群馬大学教育実践研究 第34号 147∼156頁 2017

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・公正に判断できるようにすること ・社会的見方や考え方が次第に培われるようにすること  社会科における言語活動とは、「習得すべき知識、概 念や技能を明確にし、各種資料を効果的に活用し、社 会的事象の意味などを解釈したり事象の特色や事象間 の関連を説明したりする(文部科学省,2008)」ことで ある。  学習指導要領から、社会科の授業において重要なの は、調べたことをもとに児童が言葉で表現する活動を 通して理解を深めていくことだとわかる。児童の実態 上の課題から、上記のような重点目標を児童が達成し ていくには、指導者が日々の授業の指導法を工夫しな がら児童の課題を克服していく必要がある。 2 本研究の仮説  本研究では、協同学習の原理と「なりきり活動」を 活用した授業の中で、児童が資料活用方略身に付け自 ら考え適切に表現できるようにする。また、指導者が それを適切に評価する授業を実践し、その有効性を検 証する。 3 本研究における課題解決に向けた手立て (1)資料活用方略  先行研究などから、社会科において児童の表現力を 育成するためには、資料の有効活用が重要であること が指摘されている。「資料を読み取って、表現すること ができない」課題を解決するためには、児童が具体的 な資料活用方法を知ることが有効である。各種資料を 読み取るための技能的な側面に注目した、具体的な資 料活用方法を「資料活用方略」とした。具体的な資料 活用方略を「資料を①比較する、②関連付ける、③資 料活用をもとに歴史人物になりきる(なりきり活動)」 とした。これらの活動を児童に意識付けながら実践を 重ね、資料活用能力を身に付けさせ表現できるように することを目的とした。 (2)自分の言葉で伝え合う学習  「自分の考えを表現することができない」という課 題から、児童が自分たちの考えを伝え合う方法を知る ことが必要だと考えた。表現力を高めるためには、表 現し合う場を設定すること、お互いの意見を言い合え る環境があることが重要であることが先行実践等でも 明らかになっている(吉永他,2008;小西,2010)。 そこで言語活動を充実させ、表現力を育成するために 「協同学習の原理」を取り入れ学習を進めならが、児 童が表現する力を身につけられるようにする。 (3)表現を具体化する「学習の構造化」  実際の授業において、資料活用方略を用いて児童が 学習する際に、何を資料から取り出し、表現し、伝え 合うのかという「学習のめあてと内容」を指導者が具 体的に設定しておく必要がある。学習内容を構造化さ せることにより、学習のめあてと内容を指導者が的確 に設定でき、各単元が「問い」と「答え」の関連で構 成されるようになる。それぞれの単元において、児童 に捉えさせたいことを児童自身に表現させる活動を積 み重ねていくことによって、社会科がわかるようにな り、表現力がついていくと考える。 (4)表現力育成のための段階的指導  本実践研究では表現力「記述・解釈・説明・判断」 の4つの要素(文部科学省,2008)を岩田・米田(2008) を参考に表1のように設定した。社会科において読解 力を育成し、表現力を育成するために、各単元でそれ らの要素を指導者が意識し児童が資料をもとに表現活 動をしていくことが、児童の表現力を高めるための手 立てとなる。 (5)ルーブリックの作成「歴史博士のルーブリック」  本実践研究では、「歴史博士のルーブリック」という ものを作成し、予め評価基準(ルーブリック)を児童 に示し具体的な表現方法を児童が学びながら学習を進 めていけるようにした。図1は、筆者が作成したルー ブリックの一例である。 表1 表現力の段階的指導

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 上記のルーブリックを示したのは、単元「世界に歩 み出した日本」において、「陸奥宗光になりきって、自 分の実績を国民に説明しよう」という課題だった。本 課題に対し、児童が記述するときに、ただ「なりきる」 だけではではなく、「自分の願いや働きを、資料を根拠 にして書く」必要がある。児童は、本ルーブリックに よって根拠をもとにして書かないと、歴史博士になる ことができない。このルーブリックに沿って指導者が 授業後評価することで、児童の「考えたことの、言語 などによる表現力」が適切かどうかを児童と共通の基 準で評価することができる。また、表現活動の前に教 師がルーブリックを児童に示すことで、児童は自身の 表現の自己評価と振り返りができるという利点がある。 (6)ポートフォリオ評価「こつこつカード」  本実践研究では、児童が単元を貫いた学習ができる ような手立てとして、一枚ポートフォリオ(日部・山 口・石川,2012)を参考にした「こつこつカード」(図 2)を作成した。  本カードは年間を通して同じ形式で行うことで、児 童の表現力を書く活動に慣れさせながら高めることが できる。また児童がそのポートフォリオを見返すこと で、学習の振り返りができることにも特徴がある。  授業では、まず単元を貫く課題を解いていく概念探 求型の授業設定する。次に「学習の構造図」(構造図に ついては、P5.図9参照)を活用し、中心概念との 間にある具体的概念の問いに対する説明を各小単元で 帯活動として行っていくことで、基礎となる用語や語 句を獲得できるようにする。最後に、その関係を児童 が再構成し自己や他者に学習事項を説明することで中 心概念を獲得していく構造である。 4 本実践の研究構想図  本実践研究では、協同学習と「なりきり活動」を中 心に児童の資料活用能力を育成しながら表現力を育 て、児童が根拠や理由を明示して自分の考えを説明で きるようにすることを目的とする(図3)。 5 授業実践の概要  本実践研究は、太田市のC小学校において、筆者が 社会科を担当する6年生3クラス(104人)を対象に 行った(表2 全実践は、本文参照のこと)。実践と課 題を解決する手立てを繰り返し考えながら、児童の表 現力の育成をめざした。C小学校は、教科担任制であ り、筆者は5年生と6年生の社会を担当した。 表現力を育てる小学校社会科学習指導の工夫 149 図3 研究構想図 図1 歴史博士のルーブリックの一例 図2 こつこつカードとポートフォリオ評価

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 本学年の児童は、グループ活動などに習熟しておら ず、自分の意見を考えられない、発言できない児童が 各学級に多数いる。そのような児童に対する手立てと して、まずペア活動を授業に取り入れながら相談しあ うことで自分の考えを伝えることに抵抗感をなくして いった。またノート指導を徹底し、学習者がわかりや すく見やすい板書を、指導者が意識して行う必要があ る。友だちの意見や、わかりやすい板書、ノート作成 が、下位層の児童に自分の意見を考える手掛かりにな るようにしていきたい。 (1)実際の授業の流れと児童の反応 【学習内容について】  実際の授業例として、7月の授業実践例を以下に示 す。 実践2 単元名「3人の武将と天下統一」  本単元の内容は、戦国大名の群雄割拠の状態から豊 臣秀吉が全国を統一した後、江戸幕府が政治を行った 時代に至るまでの時期のうち、キリスト教の伝来、織 田・豊臣の天下統一、江戸幕府の始まりを具体的に調 べることを通して、戦国の世が統一され身分制度が確 立し武士による政治が安定したことが分かるようにす ることをねらいとしている。学期当初、ペアで意見を 交換しあったりグループで活動し話し合ったりするこ とに抵抗を感じる児童が多かった。そのため、学級活 動でグループで鉛筆会議(図4)や協同型ゲーム(「わ くわく動物園」)(図5)を行うことで、友だちと話し 合う経験を積み重ねていった。このような活動を続け ていくことで、協同で話し合い意見を出し合うことの よさに気づいたり友だちと意見を交換することに楽し さを見い出すことができたりする児童が多くなってき た(図6)。  本単元では、単元の初めに「織田がつき、羽柴がこ ねし天下もち、座りしままに食うは家康」という歌を 紹介し、まとめの段階で「この歌の意味を説明できる ようにしよう」という単元を貫く課題を設定した。第 図4 学活 鉛筆会議「3組のいいところ」 表2 実践全体の流れと各実践における課題 図5 学活 「わくわく動物園」 図6 学活後の児童の感想例

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1時間目に、「長篠の戦い図屏風」を「歴史博士の目で じっくりと見よう」という指示のもと、児童は付箋を 使いながら気付いたことを資料に貼っていった。その 後付箋に書いたことをもとにグループで話し合いなが ら、「戦国大名が自分たちの支配する土地を守るための 勢力を争う時代」になったことを読みとる活動を行っ た。第2時間目に「長篠の戦い図屏風」と「江戸図屏風」 の資料を比較し、学習問題をつくる活動を行った。あ る児童は、2つの資料を比較することで、3人の武将 の働きが戦乱の時代から江戸時代の安定した時代に関 係していることに気づき、3人の武将の功績を調べて いけば戦乱の時代が収まった理由がわかるのではない だろうかという学習問題をたてることができた(図7)。  図8は、本単元における「なりきり活動」をまとめ た児童のワークシートである。  児童は、本単元の歴史人物の業績について、インタ ビューに答える形(なりきり)でまとめた。児童が歴 史的人物になりきってインタビューにまとめる中で、 歴史博士のルーブリックを参考にしながら、最終的に 児童に獲得させたい具体的知識(図9 知識の構造図 より)がそのインタビューの答えの中にまとめられて いることが必要である。  指導者は、獲得させたい具体的知識から逆向きに授 業を設計し、資料等の教材を児童に読み込ませ児童が 自身で考えてインタビューに答えられるような授業設 計を行った。  信長の業績を学習する際には、「信長さんは、天下統 一をめざしてどのようなことを行ったのですか。」とい う質問に対し、児童は安土桃山の資料から町や人々の 様子を読みとったことや、南蛮貿易の資料や教科書の 資料を活用しながらルーブリック(図10)に沿って信 長になりきってインタビューの答えを書くことができ た(図11)。 (2)手立てについての考察 ○資料活用についての工夫についての考察  本時は、想像図「安土桃山の城下町」を主要な資料 として「人々の様子」「町の様子」の2つの視点から観 表現力を育てる小学校社会科学習指導の工夫 151 図9 本単元の学習の構造図 図8 児童のワークシート 図7 児童のワークシート例

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察させ必要な情報を読みとらせることに時間をかけ た。視点を分けて読みとらせたことにより、児童は資 料の隅々まで各視点に沿った情報を探すことができ、 めあてから外れることのない情報を引き出すことがで きていた。本資料から、南蛮人の存在に気づいた児童 もいた。そこで、南蛮貿易の資料と関連させて情報を 読みとらせることができれば(例えば城下町資料の外 国人と南蛮貿易の資料の南蛮人が同じ服装をしている など)、より効果的に資料を活用しながらの授業が進め られたと考える。本資料から読みとらせたかった歴史 的事象は、「楽市楽座」である。戦乱の時代にあっても、 城下町の賑やかさに児童が気付けることが重要である。 教科書の本文も重要な資料である。本時では、児童が 資料から読みとった情報を教科書の本文をもとに、全 体で歴史的事象について確認していった。段階を追い ながら、児童が複数の資料から歴史的事象を読み取っ たり、資料と本文を関連づけながら説明したりできる ような力をつける授業を実践していく必要がある。  授業者側の課題として、資料活用を通して児童に情 報を読みとらせる際の時間配分がある。授業者が時間 配分を誤ると、その後の説明活動や発表の授業時間の 確保が難しくなってしまう。決められた時間の中で資 料から情報を取り出すことを、授業者と児童が意識し ながら授業を進めていく必要がある。本時では、2つ の資料から情報を読みとることに重点を置いたが、段 階を追って関連させる資料を複数にしていき、資料活 用の力を付けさせていきたい。 ○説明活動を取り入れた授業実践についての考察  授業に「こつこつカード」を毎回取り入れているた め、児童は授業後に効率的にめあてに沿ったまとめが できるようになってきた。「歴史博士のルーブリック」 の効果も大きく、児童のアンケートから「何を書くの かがわかるので、迷わずに書くことができる」「授業後 に毎回先生が歴史博士になれたかを評価をしてくれる のでうれしい」という肯定的な記述が多くみられた。 毎回の授業スタイルを教師と児童が共有することに よって、児童の表現する力がついてきていることを、 児童の記述からも確認することができる。授業の初め にワークシートで歴史博士になった代表児童に説明を してもらったり、授業中にペアで説明活動を行ったり しながら情報を共有することも効果的で、次第に児童 の説明に対する抵抗感がなくなってきている。  児童の力がついてきたところで、複数の資料から読 み取りをさせたり、資料と本文を関連付けた読み取り をさせて説明させたりする時間を設けることで、学習 内容習得が深まっていくことを全員の児童に実感させ ていくことが今後の課題である。 ○「協同学習法」を取り入れた授業実践についての考察  4月当初と比べると、11月の課題研究授業では、説 明活動や学び合いの活動に児童の構えが身についてき た。学級活動などを通じて、協同的に話し合うという ことを、積み重ねていったことが効果的だったと思わ れる。筆者が担任する6年3組の児童の記述では、実 践1の評価で歴史博士だった児童が14人だったのに 対して、実践4では、21人の児童が歴史博士として評 価することができた。また、4月当初には白紙で提出 をしていた児童T君も、本研究の指導法を通じて授業 を行っていくことで、めあてに沿った記述が次第にで きるようになってきた(6効果の検証参照)。 6 効果の検証 (1)全国学力学習状況調査との比較  資料を有効的に活用した表現力の向上を見取るた め、平成27年度、本学年で正答率が低かった国語のA 図10 本時のルーブリック 図11 児童の「なりきり活動」記入例

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問題と平成21年度の「目的に応じて資料を読み,分 かったことを的確に書く」設問と比較した(表3)。「言 葉の使い方」に関する資料を読み取り、年代ごとの割 合から分かることを書くという問題の正答率全国平均 45.1%に対し、本校の児童は70%の正答率であった (表4)。4月の学力調査では無回答だった児童も、表 から設問に対する割合を考え、設問に沿った表現活動 ができるようになっていた。また、社会科の資料活用 問題と類似問題「目的に応じて収集した資料を関連付 ける」でも、実践後は全国比を上回る成果がみられ、 社会科の学習の成果が資料を活用して表現するという 国語の表現力育成にも成果があったことがわかった。 (2)アンケートの結果  協同学習に関するアンケートを4月と11月に実施 した。表5は、「自分でわからない問題があってもグ ループで話し合えば解決できると思うか」という問い に対し、4月で「少し思う」だった児童32名また、「思 わない・まったく思わない」児童4名が「思う」に上 昇していることを表している。また、表6は「それぞ れの意見をもちよってグループで意見をまとめること ができるか。」という問いに対し、「少しできる・でき ない」だった児童33名が「できる」に上昇しているこ とを示している。アンケートの結果から、協同学習の 有効性に児童が気付き、自分達の学習に生かせるよう になってきていることがわかった。 表現力を育てる小学校社会科学習指導の工夫 153 表3 平成27年と平成21年のA問題の正答率比較 「目的に応じて資料を読み,分かったことを的確に書く」設問 表4 平成27年と平成21年のA問題の正答率比較 「言葉の使い方」に関する資料を読み取り年代ごとの割合 から分かることを書くという設問 表5 アンケート結果1 アンケート1「自分でわからない問題があっても、 グループで話し合えば解決すると思うか」 表6 アンケート結果2 アンケート2「それぞれの意見をもちよって、 グループで意見をまとめることができるか」

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(3)ワークシートの記述より  図12は、筆者が担当する児童(T児)の4月からの こつこつカードへの記述内容の変容である。T児は、 学習に集中することや課題を友だちと相談したり考え たりすること、ワークシートに自分の考えを記述する ことなどに課題があった。4月では事実のみを記述し ていた本児は、協同学習法を活用した話合いや資料活 用方法を知ることにより資料から読み取った内容を自 分で解釈し、説明できるようになった。(2)のアンケー トでもT児は4月当初、協同学習の有効性について 「まったく思わない、できない」と回答していたが、 事後アンケートでは「思う、できる」と、考え方も変 化し、学習課題への取り組みや協同学習法の活用の成 果がみられた。 7 考察 (1)成果 ①協同学習と「なりきり活動」を取り入れた授業の有 効性  協同学習やこつこつカードを用いた「なりきり活動」 などの実践を積み重ねていくことにより、児童は次第 に、短時間でめあてに沿った説明ができるようになっ た。図13は、11月のA評価の児童のこつこつカード例 である。授業中の話合い活動も経験を重ね、児童が個 人の意見を友だちと話し合った後、再度個人で考える という授業スタイルを積み重ねていくことが個人の表 現力を高めることにも繋がった。  こつこつカードでは、90%程度の児童がめあてに 沿った記述ができるようになってきている。児童の表 現力育成に、協同学習や「なりきり活動」が効果的で あったと言える。 ②児童の表現についての有効性  実践を積み重ねていく中で、児童は歴史博士のルー ブリックにそって資料から根拠をさがし、自分の思い や考えを確実に説明できるようになってきている。授 業中、歴史博士のルーブリックを見ながら、自分の記 述を見直している児童も多く、根拠をもってめあてに 沿った表現をすることに学習の構造化、こつこつカー ド、歴史博士のルーブリックは効果的であったと考え る。 ③他教科への転移  転移とは、ある場面で学習したことを、別の場面で 生かすことである。本実践研究の成果が他教科・領域 に活かされている例として、学力テストの結果以外に 11月に実施した総合学習の「修学旅行新聞づくり」が 挙げられる。児童は役割を決めて相談しあい、それぞ れの意見を司会がまとめながら、新聞作成を行うこと ができていた。発表を11月下旬の授業参観日に行った が、児童は多数の保護者が参観している中でも堂々と 新聞記事を発表することができていた。社会科での学 習の積み重ねが、他の教科に有効的に働いた例である。 図13 「なりきり活動」を取り入れた児童の記述例 図12 T君のこつこつカードの記述

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(2)課題 ①協同学習法の活用について  4月から協同学習法を用いて実践を行う中で、児童 が学習の経験を積むことで、ペアやグループで話合い や意見をまとめていくことに一定の習熟が見られた。 しかし、グループでの話し合いにはまだ意見のまとめ 方などに課題が残る。図14のような話型や図15のよう な協同学習を促進させる教室掲示をして年間で授業を 実施したが、学年間教科間で連携して低学年のうちか ら取り組むことで、児童の表現力の向上はより確かな ものになるだろう。 ②「なりきり活動」について  児童の知名度が高く、情報が共有されている歴史人 物については「なりきり活動」で成果が大きくめあて に沿った適切な記述が多数見られた。今後は、児童の 情報量が少ない歴史的人物に対しても知識活用を上手 にしながら「なりきり活動」ができるようにしていき たい。「なりきり活動」で知識を活用できるような、知 識定着の仕方にも力を入れていく必要がある。 【主要参考・引用文献】 有田和正(1986).子どもの「見る」目を育てる国土社 有田和正(2002).調べる力・考える力を鍛えるワーク―社会科 の基礎・基本学力をつける明治図書 有田和正(2012).授業づくりの教科書 社会科授業の教科書 〈5・6年〉さくら社 ベネッセ教育開発センター(2006).ベネッセ発 親子で伸ばす 「本物の学力」角屋重樹監修 福田誠治(2008).全国学力テ ストとPISA2006∼未来への学びにむけて∼ アドバンテー ジサーバー 群馬県教育委員会(2014).はばたく群馬の指導プラン pp.28-30. 石川克博(2013).理論と実践をつなぐために 佐藤浩一(編著) 学 習 の 支 援 と 教 育 評 価―理 論 と 実 践 の 協 同―北 大 路 書 房  pp.270-282 市川伸一(1993).学習を支える認知カウンセリング ブレーン 出版 市川伸一(2000).勉強法が変わる本 心理学からのアドバイス  岩波ジュニア新書 市川伸一(2014).社会認識力を育てる 市川伸一(編著)学力 と学習支援の心理学 北大路書房 pp.149-62 岩田一彦・米田 豊(2008).「言語力」をつける社会科授業モデ ル 小学校編 明治図書 ジョンソン、D.W./ジョンソン、R.T./ホルベック、E. J.(2010)学習の輪 学び合いの協同教育入門 二瓶社 日部貴博・山口陽弘・石川克博(2012).「わかる授業により児童 の学習意欲を高める社会科学習指導―授業間のつながりに着 目した振り返り活動の工夫を通して―」群馬大学教育実践研 究,29,201-210. 河田節尾(2010).「考える力」と「表現する力」を育てる社会科 授業構成―第6学年歴史「新政府による政治」授業づくりを通 して―日本教材文化事業財団研究紀要 39号習得・活用・探求 型学力の育成と評価の理論  http://www.jfecr.or.jp/publication/pub-data/kiyou/h22_39/ t1-5.html 北 俊夫(2011).社会科学力をつくる知識の構造図―何が本 質かが見えてくる教材研究のヒント 単行本 明治図書 北 俊夫(1995).小学校思考力・判断力 北尾倫彦(編著)社 会科の思考力・判断力を育てる 図書文化 北 俊夫(2014).平成27教 内容解説資料A 3916 社会科 「知識の構造図」と教科書 国立教育政策研究所(2006).特定の課題に関する調査(社会) 今回の調査結果と指導改善の具体策 P.66 国立教育政策研究所(2008).特定の課題に関する調査(社会) 結果のポイント pp.1-4. 国立教育政策研究所教育課程研究センター(2012).評価規準の 作成、評価方法等の工夫改善のための参考資料 小学校 社 会 教育出版株式会社 小西英生(2009).社会科における、資料を読み取り、自分の考 えをもつための指導の工夫―学習ハンドブックを活用した実 践例― 京都市総合教育センター平成20年度研究紀要 表現力を育てる小学校社会科学習指導の工夫 155 図14 教室掲示 話型 図15 教室掲示資料

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小西英生(2010).社会科における思考力・表現力の育成をめざ して―思考・表現活動を通して、多面的に考察する力をはぐく む指導の実際―京都市総合教育センター平成21年度研究紀要 松下佳代(2007).パフォーマンス評価―子どもの思考と表現を 評価する 日本標準ブックレット 文部科学省(2008).小学校学習指導要領解説 社会編 東洋館 出版社 文部科学省(2007).言語力育成協力者会議 第8回配布資料  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/ 036/shiryo/07081717/004.htm 森坂実紀人・山口陽弘・石川克博(2013)「造形的な見方」を身 に付ける図画工作科の鑑賞の指導の工夫―パフォーマンス課 題とルーブリックを取り入れた授業の試み―群馬大学教育実 践研究 中田正弘(2015).シリーズ∼社会科授業をつくる∼7.「問い」 の構造を意識して45分の授業を展開する 東書Eネット  http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/downloadfr1/htm/esdf1800. htm ネットワーク編集委員会(編集)(2012).授業づくりネットワー クNo.4―協同学習で授業を変える!(授業づくりネットワー ク No.4) 学事出版 佐伯 胖(1975).「学び」の構造 東洋館出版社 佐藤浩一(編 著)(2013).学習の支援と教育評価―理論と実践の協同 北大 路書房 佐藤浩一(2014).学習支援のツボ 北大路書房 澤井陽介(2012).「思考力・表現力」を育てる 社会科の授業づ くり 光文書院Vプレス vol.12,pp.13-15. 澤井陽介(2012).「社会科における思考力・判断力・表現力を高 める指導方法の工夫」 平成24年度 小学校・中学校社会研修 講座  www.city.okayama.jp/contents/000137296.pdf 関根廣志(2013).教師力を向上させる50のメッセージ 学事出 版 志水宏吉(2013).公立小学校の挑戦―「力のある学校」とはな (すだ えみ・やまぐち あきひろ・いしかわ かつひろ) にか 岩波ブックレット(No.611) 反橋義明(2008).説明につながる豊かな情報の獲得 岩田一彦・ 米田豊編著「言語力」をつける社会科授業モデル 明治図書  pp.58-64 杉江修治(2011).協同学習入門―基本の理解と51の工夫 ナカ ニシヤ出版 田村 学・黒上晴夫(2013).教育技術MOOK 考えるってこう いうことか!「思考ツール」の授業ムック 小学館 寺嶋正和(2009).思考力をはぐくみ、社会的な見方・考え方を 高める小学校社会科学習 過程の工夫 平成20年度熊本県立 教育センター派遣国内留学生研究概要 pp.1-2.  http://sakura1.higo.ed.jp/edu-c/kokuryu/h20pdf/03.pdf 東京書籍(2015).新編 新しい社会6上 東京書籍 東京書籍(2015).新編 新しい社会6上 教師用指導書 研 究編 東京書籍 中央教育審議会報告(2006).「審議経過報告」 2006.2.13 犬塚美輪(2014).言語活用力を育てる 市川伸一(編著)学力 と学習支援の心理学 北大路書房 pp.97-112 山口陽弘(2013).第8章【理論編】ルーブリック作成のヒント ―パフォーマンス課題とポートフォリオ評価 佐藤浩一編著  学 習 の 支 援 と 教 育 評 価―理 論 と 実 践 の 協 同 北 大 路 書 房  pp.200-201 山口陽弘(2013).理論と実践をつなぐために 佐藤浩一(編著) 学 習 の 支 援 と 教 育 評 価―理 論 と 実 践 の 協 同 北 大 路 書 房  pp.283-98 山下博典(2007).資料を読み解き、自ら考えを深める子どもの 育成をめざして 京都市総合教育センター 平成18年度研究 紀要 吉永鈴子・濱田良彦・川上繁美・平尾健吾(2008).「PISA型『読 解力』向上を目指した指導の工夫」に関する研究 熊本県立教 育センター平成19年度研究紀要―第36集―,pp.24-43. (本稿は、第一筆者によるH27年度群馬大学教職大学院の課題 研究論文の一部を抜粋し、加筆修正したものである。)

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