第
2
章 分業と生産活動
● 〇
2.1.1
役割分担と職能
いろいろな資源
「天然資源」・・・土地,石油,森林,水,鉱物など
「物的資源」・・・人間の活動によって生み出される
「人的資源」・・・物的資源を作り出す人間自身
人間の経済活動とは,
資源を利用して新たな(非)物的資源を「
生産
」し,
生産された(非)物的資源を人々に「
流通
」させ,
(非)物的資源の生産によって生み出された付加価値を人々
に「
分配
」すること.
〇●
2.1.1
役割分担と職能
生産活動の多くは個人ではなく
集団・組織的
に行われてい
る.
集団・組織の中で人々が同じ活動を行うわけではない.
集団・組織の中で
個人には固有の役割が与えられている
.
生産活動にあたり,集団・組織内での役割分担はいかにし
て決まるのか?
生産活動における(人的)資源の配分はいかにして決ま
● 〇
チームや組織における役割分担
お笑いコンビの役割分担
ボケと突っ込みという
役割分担
→経済学では「
分業
」という
.
自分が得意とする役割に専念
→経済学では「
特化
」という.
2人の芸人がボケと突っ込みに分業・特化しつつ聴衆を笑わせるとい
うサービスを生産.
役割分担は,状況に応じて変わっていく.
本来のコンビでは突っ込みを担当している人が,大勢のお笑
〇●
チームや組織における役割分担
漫画作品の生産の役割分担
ストーリーを考える.
作画する.
内容をチェックする.
組織やチーム,家庭など少人数の集団では,集団の構成
員がそれぞれ役割分担して集団を機能させている.
分業や専門化,特化は社会全般にわたっても観察される
.
食料を生産する(農家)
モノを作る(製造業)
子供に教育をする(教師)
一人一人は自分の専門とする職能に特化し,人間の生活
に必要な物事のすべてを社会全体で作り出す.
そうして作り出された財・サービスを社会の構成員に提
● 〇
〇●
社会的分業と分配のメカニズム
「自分の専門とする職能に特化し,人間の生活に必要な
物事の全てを社会全体で作り出す」という点に注目する
.
なぜ社会的な分業(役割分担)が生じるのか?
●
2.1.2
生産要素の配分とトレードオフ・機会費用
生産性と追加的費用
1
人の人が自分の作業
時
間を2つの
仕
事にどのように割り
振
ることで,どのような
仕
事がで
き
るかという問題を考える.
生産に用いることので
き
る資源を
生産要素
と
呼ぶ
.
生産要素は作業
時
間(
単位
は日数)のみとする.
具
体
例
として,漫画家が
ストーリーを考える作業
と,
作画作
業
を行い,
1
本の漫画を生産する状況を考える.
● 〇〇
生産性と追加的費用
漫画家
A
の
執筆
活動の
例
1週
間のう
ち6
日間作業することがで
き
るとする.
1話
分のストーリーを考えるのに2日必要であるとす
る.
1話
分作画するのに
3
日必要であるとする.
1単位
(
1話
分)の作業をこなすのに必要な日数を「追
加的費用」
と
呼ぶ
ことにする.
〇●〇
生産性と追加的費用
漫画家
A
の
執筆
活動の
例
1話
分のストーリーを考えるのに2日かかる.
⇒
1
日で考えられるストーリーは
話
分
1話
分の作画を行うのに
3
日かかる.
⇒
1
日で作画で
き
る
量
は
話
分.
1
日
働
いて生産で
き
る生産
量
を「生産性」
とよ
ぶ
ことに
する.
〇〇●
生産性と追加的費用
追加的費用と生産性には
以下
のような
比例
関
係
がある.
生産
量 :
作業日数
=
1 :
追加的費用
=
生産性
:
1
この
比例
関
係
をストーリーと作画の作業に当ては
め
ると,
ストーリー
1話:
作業日数2日
=
ストーリー
話 :
作業日数
1
日
作画
1話 :
作業日数
3
日
=
作画
話 :
作業日数
1
日
● 〇〇〇〇〇
1
週
間当たりの生産
可
能
量
漫画家
A
の
1週
間あたりの
執筆可
能
量
を数
式
で
表現
しよう
.
漫画家
A
の
1週
間に考えるストーリーの
量
とする.
(
単位
は
話
数)
1話
考えるのに2日必要なので,
話
考えるのに必要な日
数は
2
日.
を漫画家
A
の
1週
間に描く作画の
量
とする.
(
単位
は
話
数)
1話
分の作画に
3
日必要なので,
話
作画するのに必要な
日数は
3
となる.
●
数学注)
記号
と
添
え
字
x
や
y
の
右下
にある
A
を
添
え
字
という.
後
で,
他
の人物(
B
や
C
)が
現
れるので,
誰
の作った
ストーリーの
量
()か分からない
⇒
A
を
添
え
字
として
加えてと
表記
している.
ではないので注意.
〇●〇〇〇〇
1
週
間当たりの生産
可
能
量
1
週
間で作業で
き
るのは
6
日.
無駄
なく作業を行うとす
る.
話
分のストーリーを考えるのに必要な日数は
2
日.
話
を作画するのに必要な日数は
3
日
2
日と
3
日の
合計
が
6
日
でないといけない.
•
これを数
式
で
表現
すると
以下
のように
書
ける.
6 = 2
+
3 (2.1)
•
(2.1)
式
を
書き
かえると
次
のようになる.
〇〇●〇〇〇
1
週
間当たりの生産
可
能
量
(2.2)
式
より,
(ストーリーの
量
)を
増
やすと(作画の
量
)が
減
ってしまう
ことがわかる.
具
体的には,もし
= 0
,すなわ
ち1週
間のう
ち
ストー
リーを考えずに作画
だ
けをしていたら→2
話
分の作画
がで
き
る.
ストーリーを考える
量
を
増
やしていくと,その分
作画
する
時
間が
減
る
.その
結
果,
作画
量
も
減
少する
.
〇〇〇●〇〇
1
週
間当たりの生産
可
能
量
(2.2)
式
は,漫画家
A
が作業
時
間を
ストーリーに配分するか
作画に配分するか
という
選択
に
伴
うトレードオフの
関
係
を
表
す.
(2.2)
式
は,漫画家
A
の「
生産
可
能
性フロンティア
」と
呼ば
れる関
係
.
赤線
はこの生産
可
能性フロンティア
を
図示
している.
A
の生
産可能
性フロ
ンティア
3
2
1
0
1
2
3
y
作
画
x
ストーリー
〇〇〇〇●〇
1
週
間当たりの生産
可
能
量
にかかる
係
数
の意
味
を考えてみる.
(ストーリー)を
1
話増
やす
と,
(作画)が
話減
る.
ストーリーを
1話増
やすた
め
の追加的費用は2日.
1
日で作画で
き
る
量
(生産性)は
話
分
.
ストーリーを
増
やすた
め
の2日間を作画に費やしたら,
話
分を作
画することがで
き
たはず.
ストーリーを
1話
考えることで描くことがで
き
なくなった作画の
量
は
話
分.
係
数
は作画
量
で
測
ったストーリーを考えることの機会費
用
.
〇〇〇〇〇●
1
週
間当たりの生産
可
能
量
(2.1)
式
を
以下
のように
書き換
える.
=
(2.3)
y
Aの
係
数
は,ストーリーの
量
で
測
った
作画の機会費用
.
漫画家
A
は2日間でストーリーを考え,
3
日間で作画を
行え
ば
,
6
日間で
1話
分を
完
成させることがで
き
る.
しかし,漫画家
A
は,
1
人で
1
週
間に
1話
しか
完
成で
き
ない(
残
りの
1
日はあまり).
●
2.1.1
絶対優位
と
比較優位
漫画家
B
の
登
場
作画は得意
だ
けど,ストーリー作りは
苦手
.
ストーリー
1話
の追加的費用
4
日
作画
1話
の追加的費用
2日
漫画家
A
と同
様
,
週6
日
働
く
漫画家
B
のトレードオフ
;
B
が考えるストーリーの
量
;
B
の作画の
量
⇔
B B
3
2
x
y
B B
2
4
● 〇
漫画家
B
の
登
場
漫画家
A
のトレードオフ
漫
画家
A
は
1週
間で
1話
の漫
画
を
〇●
漫画家
B
の
登
場
漫画家
B
のトレードオフ
漫
画家
B
も
1
週
間で
1
話
の漫
画
● 〇〇〇
絶対優位
と
比較優位
•
漫
画家
A
と
B
が
協力
し,漫
画家
A
がストーリーに
集
中
すると,
週3話分
で
き
る(点
e
)
•
漫
画家
B
が作
画
に
集
中する
と
週3話分
で
き
る(点
f
)
•
2
人
で
週3話連載
が
可能
にな
る.
•
1人
当たり
1
.
5話分完
成さ
せることがで
き
る.(点
g
)
〇●〇〇
絶対優位
と
比較優位
漫画家
A
と漫画家
B
がコンビを組
む余
地
追加的費用
で
ふ
たりにとって
何
が得意かを
比較
ストーリーの追加的費用 漫画家
A
は2日 漫画家
B
は
4
日
作画の追加的費用 漫画家
A
は
3
日 漫画家
B
は2
日
ストーリー作りは
漫画家
A
の
方
が得意
作画は
漫画家
B
の
方
が得意
〇〇●〇
絶対優位
と
比較優位
漫画家
A
と漫画家
B
がコンビを組
む余
地
機会費用
で
ふ
たりにとって
何
が得意かを
比較
ストーリー
1
話
考えることでで
き
なくなる作画
量
漫画家
A
は
話
漫画家
B
は
2
話
作画
1
話
行うことでで
き
なくなるストーリー
量
漫画家
A
は
話
漫画家
B
は
話
A
の
方
がストーリーを考えることで
失
う作画
量
が少な
い.
B
の
方
が作画することで
失
うストーリー
量
が少ない.
〇〇〇●
絶対優位
と
比較優位
漫画家
A
は
相対
的にストーリー作りが得意.
漫画家
B
は
相対
的に作画が得意.
⇒
漫画家
A
がストーリー,漫画家
B
が作画をするのがよ
さそう.
漫画家
A
が
6
日間
毎
日ストーリーを考え
3話
分作る.
漫画家
B
が
6
日間
毎
日作画を
3話
分行う.
⇒
2人で
協力
すれ
ば
一
週
間で
3話
の漫画が
完
成する.
2人で
協力
して
3話
の漫画を描
き
,その
報酬
を
半
分ずつ
すれ
ば
,一
週
当たり
1
.
5話
分の
報酬
を得ることがで
き
●
比較優位
と特化
チームを作り,分業を行うことにより
1
人では
達
成で
き
な
い
量
の生産を行うことがで
き
る.
この場
合
,その生産を行うことで
他
の生産物の生産
量
を
どれ
だ
け
減
らさなけれ
ば
ならないかという機会費用が
重
要であることが
知
られている.
た
だ
し,漫画家
A
は漫画家
B
よりストーリー作りがう
まく(
絶対優位
),漫画家
B
は漫画家
A
よりも作画が
うまい(
絶対優位
)のでコンビを
結
成して分業するのが
望
ましいのは
明
らか.
もし,2人のう
ち
一
方
が
ストーリーでも作画でも
絶対優
●
2.2.2
絶対優位
と
比較優位
の
違
い
ア
シ
ス
タ
ント
C
の
登
場
漫画家
B
が
独立
したので,ア
シ
ス
タ
ント
C
を
雇
うこと
に.
ア
シ
ス
タ
ント
C
は作画もストーリー作りも
苦手
ストーリーの追加的費用
2
4
日
作画の追加的費用
4
日
漫画家
A
と同
様週6
日
働
く.
ア
シ
ス
タ
ント
C
のトレードオフ
;
C
の行うストーリーの
量
;
C
の行う作画の
量
⇔
C C
4
24
6
x
y
C6
C2
3
● 〇〇〇〇
比較優位
に基
づ
く分業
このようなア
シ
ス
タ
ント
C
は
何
らかの
役割
を果たすことがで
き
るか
?
〇●〇〇〇
比較優位
に基
づ
く分業
漫画家
A
とア
シ
ス
タ
ント
C
の
追加的費用
の
比較
ストーリーの追加的費用 漫画家
A
2日,ア
シ
ス
タ
ント
C
2
4
日
作画の追加的費用 漫画家
A
3
日,ア
シ
ス
タ
ント
C
4
日
ストーリー作りは
漫画家
A
の
方
が得意
作画も
漫画家
A
の
方
が得意
ストーリー,作画ともに漫画家
A
に「
絶対優位
」がある.
〇〇●〇〇
比較優位
に基
づ
く分業
漫画家
A
とア
シ
ス
タ
ント
C
の
機会費用
の
比較
ストーリーを
1話
作成することでで
き
なくなる作画
量
漫画家
A
は
話
ア
シ
ス
タ
ント
C
は
6 話
作画を
1話
作ることでで
き
なくなるストーリー
量
漫画家
A
は
話
ア
シ
ス
タ
ント
C
は
話
A
の
方
がストーリーを作ることで
失
う作画
量
が少ない.
C
の
方
が作画を行うことで
失
うストーリー
量
が少ない.
漫画家
A
はストーリー作りに
比較優位
がある.
ア
シ
ス
タ
ント
C
は作画に
比較優位
がある.
〇〇〇●〇
比較優位
に基
づ
く分業
漫画家
A
とア
シ
ス
タ
ント
C
が組
む
ことで多くの漫画を生
み出せる.
作画に
比較優位
のあるア
シ
ス
タ
ント
C
に作画を行わせ
る.
ストーリーに
比較優位
のある漫画家
A
はストーリーを
2
話
.
残
りの
時
間で作画を
話
分行う.
2人の
合計
でストーリーを2
話
,作画を2
話ちょ
っと
行うことがで
き
る.
〇〇〇〇●
比較優位
に基
づ
く分業
A
C
● 〇
分業と
取引
2
話
分の
連載
の
報酬
を漫画家
A
とア
シ
ス
タ
ント
C
で分けれ
ば
よい.
例
え
ば
漫画家
A
は
1
.
5話
分の
報酬
を
受
け
取
り,ア
シ
ス
タ
ント
C
は
0
.
5話
分の
報酬
を
受
け
取
る.
漫画家
A
は
B
と組
ん
でいる
時
と同じ
報酬
が
貰
える.
ア
シ
ス
タ
ント
C
は
0
.
5話
分の
報酬
を
貰
える.
〇●
分業と
取引
比較優位
の考え
方~
機会費用の
重
要性
「作画」と「ストーリー」の
トレードオフの観点から
費用を
最
小にする
ことが
重
要.
トレードオフの
下
では
機会費用が
重
要.(追加的費用ではな
い)
作業
時
間を少なくすること自体は
重
要ではない.