数学補講:2日目
定義1 (線形従属:Linear dependent,線形独立:Linear independent) 任意の有限個のベクトル(行列)の集合{a1, a2, ..., ak}は
x1a1+ x1a2+ · · · + xkak= 0.
のような少なくとも1つは0でないスカラーx1, x2, ..., xk が存在するとき、線形従属であるという。そのよ うなスカラーが存在しないとき、線形独立であるという。
補題1
2 つ 以 上 のn次 元 ベ ク ト ル の 集 合{a1, a2, ..., ak}は 、そ れ ら の ベ ク ト ル の 少 な く と も 1 つ が 他 の ベ ク ト ル の 線 形 結 合 と し て 表 せ る と き か つ そ の 時 に 限 っ て 、す な わ ち 、あ る 整 数j(1 ≤ j ≤ k)に 対 し てaj が
a1, ..., aj−1, aj+1, ..., akの線形結合として表せるときかつかつそのときに限って、線形従属である。
証明
あるjに対して、ajがこれ以外のk − 1個のm × n行列の線形結合
aj = x1a1+ · · · + xj−1aj−1+ xj+1aj+1+ · · · + xkak
のように表すことができると仮定する。このとき、
(−x1)a1+ · · · + (−xj−1)aj−1+ aj+ (−xj+1)aj+1+ · · · + (−xk)ak = 0,
であり、{a1, a2, ..., ak}が線形従属な集合であることが得られる。逆に、{a1, a2, ..., ak}が線形従属である と仮定する。この場合は少なくとも1つが0でないあるスカラーx1, x2, ..., xkに対して、
x1a1+ x1a2+ · · · + xkak= 0
である。jに対してxj ̸= 0であるとする。このとき、
aj = (−x1/xj)a1+ · · · + (−xj−1/xj)aj−1+ (−xj+1/xj)aj+1+ · · · + (−xk/xj)ak.
である。
□ 補題2
2つ以上のn次元ベクトルの集合{a1, a2, ..., ak}において、この最初のベクトルは0でないとする。このと き、このベクトルの少なくとも1つがその前にある行列の線形結合として表すことができるときかつそのとき に限って、すなわち、ある整数j(2 ≤ j ≤ k)に対して、ajがa1, a2, ..., aj−1の線形結合として表すことがで きるときかつそのときに限って、線形従属である。
証明
あるjに対して、aj がa1, a2, ..., aj−1の線形結合として表せると仮定する。このとき先の補助定理により 直 ち に 集 合{a1, a2, ..., ak}は 線 形 従 属 で あ る 。逆 に 、{a1, a2, ..., ak}が 線 形 従 属 で あ る と 仮 定 す る 。j を {a1, a2, ..., aj}が線形従属な集合である最初の整数であると定義する。このとき、少なくとも1つは0ではな いあるスカラーx1, ..., xjに対して、
x1a1+ x1a2+ · · · + xjaj= 0
である。そのうえ、xj̸= 0である。これは、そうでないとjの定義に反して{a1, a2, ..., aj−1}が線形従属に なってしまうからである。よって、
aj = (−x1/xj)a1+ · · · + (−xj−1/xj)aj−1
である。
□ 定義2 (列空間:Column space)
m × n行列Aの列空間,C(A)はその要素がAのn個の列の線形結合として表せるすべてのm次元列ベクト ルから成る集合である。すなわち、Aの列空間の要素は、x1, x2, ..., xnとスカラー、a1, a2, ..., anをAの列 として、一般形
x1a1+ x1a2+ · · · + xnan
の、言い換えるとxをn次元列ベクトルとして、一般形Axの、すべてのm次元列ベクトルから成る。 例えば、3 × 4行列
2 −4 0 0
−1 2 0 0
0 0 1 2
の列空間は列ベクトル
4
−2
−3
= 2
2
−1 0
+ 0
−4 2 0
− 3
0 0 1
+ 0
0 0 2
,
を含むが、(1, 0, 0)
′
は含まない。
定義3 (行空間:Row space)
m × n行列Aの行空間,R(A)はその要素がAのm個の行の線形結合として表せるすべてのn次元行ベクト
ルから成る集合である。すなわち、Aの行空間の要素は、x1, x2, ..., xmをスカラー、a′1, a′2, ..., a′mをAの 行として、一般形
x1a′1+ x1a′2+ · · · + xma′m
の、言い換えるとxをm次元行ベクトルとして、一般形x′Aの、すべてのn次元行ベクトルから成る。
記号Rm×nをその要素がすべてのm × n行列から成る線形空間を表すのに用いることにする。記号Rnをす べてのn次元列ベクトルの集合、あるいはその文脈によっては、すべてのn次元行ベクトルの集合を表すの に用いることもある。
補題3
任意の行列Aに対して、y′∈ R(A′)であるときかつそのときに限って、y∈ C(A)である。
証明
もしy∈ C(A)ならば、ある列ベクトルxに対してy= Axである。これよりy′= (Ax)′= x′A′である こと、従ってy′= R(A′)であることが得られる。同様に、もしy′∈ R(A′)ならば、y∈ C(A)である。
□ 補題4
Bをm × n行列、Vをm × n行列の線形空間とする。このとき、Vの中の任意の行列Aに対して、B∈ V であるときかつそのときに限って、A+ B ∈ Vである。
証明
もしB∈ Vならば、A+ B ∈ Vは明らかである。逆に、もしA+ B ∈ Vならば、B= (A + B) + (−1)A であるので、B∈ Vであることが線形空間の定義より明らかである。
□ 定義4 (部分空間:Sub space)
線形空間Vの部分集合Uは、U 自身が線形空間のとき、 Vの部分空間あるいは部分ベクトルという。
補題5
Aをm × n行列とする。このとき、Rmの任意の部分空間Uに対して、 Aのあらゆる列がU に属すると
きかつそのときに限って、C(A) ⊂ U である。 同様に、Rn の部分空間Vに対して、Aのあらゆる行がV に属するときかつそのときに限って、R(A) ⊂ Vである。
証明
a1, a2, ..., an をA の 列 と す る 。も しC(A) ⊂ U な ら ば 、明 ら か に ai ∈ U (i = 1, ..., n) で あ る 。逆 に ai ∈ U (i = 1, ..., n)であると仮定する。y∈ C(A)に対して、y= x1a1+ x1a2+ · · · + xnanを満たすスカ
ラーx1, ..., xnが存在する。よって、y∈ U が得られる。 Aのあらゆる行がV に属するときかつそのとき に限って、R(A) ⊂ Vであることは同様の方法で証明できる。
□ 補題6
任意のm × n行列Aとm × p行列Bに対して、B = AF を満たすn × p行列F が存在するときかつその ときに限って、C(B) ⊂ C(A)である。同様に、任意のm × n行列Aとq × n行列C に対して、C = LA を満たすq × m行列Lが存在するときかつそのときに限って、R(C) ⊂ R(A)である。
証明
b1, b2, ..., bkをBの列とする。明らかに、bi= Afi(i = 1, ..., p)を満たすp個の列ベクトルf1, f2, ..., fpが
存在するときかつ その時に限って、すなわち、i = 1, ..., pに対して、bi∈ C(A)のときかつそのときに限っ て、B= AF であるような行列F が存在する。補題5より、B= AF であるような行列F が存在すると きかつそのときに限って、C(B) ⊂ C(A)であることが得られる。列空間に関する証明も同様の方法でできる。
□ 定義5 (スパン:Span)
有限個の空でない集合{a1, ..., ak}のスパンとは、a1, ..., akの線形結合として表せるすべてのベクトルから 成る集合のことをさし、sp(a1, a2, ..., ak)で表す。
線形空間Vの中の集合Sは、sp(S) = Vのとき、Vを張るという。
定義6 (基底:Basis)
線形空間Vを張るVの中の線形独立なベクトルの有限集合をVの基底と呼ぶ。
例えば、空集合は線形空間{0}の基底である。 補題7
a1, .., ap とb1, ..., bq を 線 形 空 間V の 中 の ベ ク ト ル と す る 。こ の と き 、も し 集 合{a1, ..., ap}がV を 張 る な ら ば 、集 合{a1, ..., ap, b1, ..., bq}もV を 張 る 。ま た 、も し 集 合{a1, ..., ap, b1, ..., bq}がV を 張 り b1, ..., bqがa1, ..., apの線形結合として表せるならば、集合{a1, ..., ap}はVを張る。
証明
a1, .., apがV を張り、b1, ..., bq はVの中のベクトルであることを考慮すると、b1は、 b1= x1a1+ x1a2+ · · · + xpap
として表せる。明らかに、{a1, ..., ap,x1a1+ x1a2+ · · · + xpap}もVを張るので、{a1, ..., ap, b1}もVを 張る。同様の手順で行えば、{a1, ..., ap, b1, ..., bq}がVを張ることがいえる。証明の後半も同様である。
□ 定理1 (取り換え定理)
Vをr個のベクトルの集合によって張られる線形空間とし、SをVの中のkの線形独立なベクトルの任意の 集合とする。このとき、k ≤ rであり、もしk = rならばSはVの基底である。
証明
r > 0 の場合を示す。a1, a2, ..., akを集合Sの中のk個の線形独立なベクトル、{b1, b2, ..., br}をVを張 るr個のベクトルの基底とする。k > rであると仮定する。集合{b1, b2, ..., br}の先頭にベクトルa1を挿入 して得られる集合{a1, b1, ..., br}を考える。補題により、この集合はVを張る。そのうえ、a1はb1, ..., br の 線 形 結 合 と し て 表 せ る の で 、集 合{a1, b1, ..., br} は 線 形 従 属 で あ る 。よ っ て 、ベ ク ト ルb1, ..., br の 間 に、ベクトルの列a1, b1, ..., br の中に自身より先行するベクトルの線形結合として表せるベクトルが存在す ることが得られる。それをbp とする。補題7より、集合{a1, b1, ..., br}からbpを削除して得られる集合 {a1, b1, ..., bp−1, bp+1, ..., br}がV を張ることが得られる。いま集合{a1, b1, ..., bp−1, bp+1, ..., br} の a1の後にベクトルa2を挿入して得られる集合{a1, a2, b1, ..., bp−1, bp+1, ..., br}を考える。この集合は Vを張る。加えて、この集合は線形従属である。それで、ベクトルb1, ..., bp−1, bp+1, ..., br の間に、ベク
トルの列a1, a2, b1, ..., bp−1, bp+1, ..., br の中に自身より先行するベクトルの線形結合として表せるベクト ルが存在する。集合{a1, a2, b1, ..., bp−1, bp+1, ..., br}からこのベクトルを削除すると、Vを張るr個のベ クトルの部分集合を得る。この過程を続けると、{a1, ..., ar}がVを張ることが得られる。これはベクトル ar+1, ..., akがa1, ..., arの線形結合として表せることを意味する。これはSが線形独立な集合であるので、 矛盾した結果となる。よって、k ≤ rが得られる。また、k = rの場合、先の過程を用いると、SがV を張る こと、したがって、Sは線形結合な集合であるので、SはVの基底であることが得られる。
□ 系1
n次元ベクトルの線形独立な集合の中のベクトルの数はn個を超えることはできない。
定理2 (基底の存在)
あらゆる線形空間は基底を持つ 証明
Vをn次元ベクトルの任意の線形空間とする。基底をBとする。もし、V = {0}ならば、すなわち、もしV がいかなる0でなしベクトルも含まないならば、この手順を直ちに終えてBを空集合にとる。そうでないな らば、0でないベクトルa1もV に含ませる。もしa1だけからなる線形独立な集合{a1}がV を張るなら ば、B = {a1}にとる。もしこの集合がV を張らないならば、a1のスカラー倍として表せないa2をVに含 ませる。この線形独立な集合{a1, a2}がVを張るならば、B = {a1, a2}にとる。もしそうでないならば、 a1, a2の線形結合で表せないベクトルa3をVに含ませる。この手順を続け、第kステップで、この手順を 終えB = {a1, ..., ak}にとるかそうでなければ集合{a1, ..., ak+1}が線形独立であるようなak+1をVに 含ませる。この手順はたかだかnステップで終了する。そうでないと、n個より多い線形独立なベクトルの集 合が存在することになるが、これは系に矛盾するからである。
□ 補題8 (表現の一意性)
線形空間Vの中のベクトルaは任意に固定した基底{a1, a2, ..., ak}を用いて一意に表される。すなわち、線 形結合
a= x1a1+ x1a2+ · · · + xkak
の中の係数x1, ..., xkは一意に決定される。
証明
x1, ..., xk とy1, ..., yk をそれぞれa=∑ki=1xiaiとa=∑ki=1yiai を満たす任意のスカラーとする。この とき、
k
∑
i=1
(yi− xi)ai=
k
∑
i=1
yiai−
k
∑
i=1
xiai= a − a = 0
である。a1, a2, ..., akが線形独立なベクトルなので、yi− xi= 0,すなわち、yi= xi(i = 1, ..., k)が得られる。
□ 定義7 (次元:Dimension)
線形空間Vの規定の中のベクトルの数をV の次元と呼び、記号dimVあるいはdim(V )で表す。
定理3
もし線形空間V がr個のベクトルによって張られるならば、dim(V ) ≤ rであり、もしV の中にkこの線形 独立なベクトルの集合があるならば、dim(V ) ≥ kである。
定理4
もしU が線形空間Vの部分空間ならば、dim(U ) ≤ dim(V )である。 定理5
r次元線形空間V の中のr個の線形独立なベクトルの集合はVの基底である。
定理6
U, Vをm次元ベクトルの線形空間とする。もしU ⊂ Vでdim(U ) = dim(V )ならば、U = Vである。 証明
r = dim(U ),SをU の基底であるr個の線形独立な任意の集合とする。U ⊂ Vと仮定する。この場合にはS の中のベクトルのr個はすべてVの中にある。もしdim(U ) = dim(V )ならばSはV の基底である。よって V = Sp(S) = Uである。
□ 定義8 (行階数:Row rank,列階数:Column rank)
行列Aの行空間の次元を行階数と呼ぶ。また、列空間の次元を列階数と呼ぶ。 定理7
Aを行階数がrでかつ列階数がcの0でないm × n行列とする。このとき、A= BLを満たすm × c行列 Bとc × n行列Lが存在する。同様に、A= KT を満たすm × r行列Kとr × n行列T が存在する。
証明
定理より、C(A)の基底であるc個のベクトルの集合{b1, b2, ..., bc}が存在する。Bをその列がb1, b2, ..., bc であるm×c行列にとる。このとき、C(B) = sp(b1, b2, ..., bc) = C(A)である。そして補題6よりA= BL
を満たすc × n行列Lが存在することが得られる。A= KT に関する証明も同様である。
□ 定理8
任意の行列Aの行階数はAの列階数に等しい。
証明
rを 行 列Aの 行 階 数 、cを 列 階 数 と す る 。Aは0で な い と 仮 定 す る 。定 理7に よ り 、A= BLを 満 た す m × c行列Bとc × n行列Lが存在し、同様に、A= KT を満たすm × r行列Kとr × n行列T が存在 する。補題6から、R(A) ⊂ R(L)とC(A) ⊂ C(K)が得られる。よって、定理4, 5を使用すると、
r ≤ dim(R(L)) ≤ c
及び
c ≤ dim(C(K)) ≤ r
が得られる。よってr = cである。
□ 定義9 (階数:Rank)
行列Aの行階数及び列階数の値をAの階数と呼び、記号rank(A)で表す。 補題9
任意のm × n行列Aに対して、rank(A) ≤ mかつrank(A) ≤ nである。 定義10 (非特異:Nonsingular)
m × n行 列BA は 、rank(A) = m、す な わ ち 、階 数 が 行 の 数 に 等 し い と き 、最 大 行 階 数 を 持 つ と い い 、
rank(A) = nのとき、最大列階数をもつという。行列は、最大行階数と最大列階数をもつとき、非特異である
という。
定義11 (行列式:Determinant)
2次、あるいは3次の正方行列に対して、行列式を次のように定義する。また、行列Aの行列式をdet(A)で 表す。
A =
[ a11 a12
a21 a22
]
det(A)= a11a22− a12a21
B =
a11 a12 a13
a21 a22 a23
a31 a32 a33
det(B)= (a11a22a33+ a21a32a13+ a31a12a23) − (a21a12a33+ a31a22a13+ a11a32a23) 定理9
Aをn × n行列とすると、det A ̸= 0のときかつそのときに限って、Aは非特異である。
逆行列と行列式の関係は次のようになる。 BをAの逆行列とする。
A=
[ a11 a12
a21 a22
] , B =
[ b11 b12
b21 b22
]
AB=
[ a11b11+ a12b21 a11b12+ a12b22
a21b11+ a22b21 a21b12+ a22b22
]
= I = [ 1 0
0 1 ]
これを解くと、
B= 1
a11a22− a12a21
[ a22 −a12
−a21 a11
]
= 1
det(A)
[ a22 −a12
−a21 a11
]