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総研大ジャーナル 11号 2007

20 SOKENDAI฀Journal฀฀No.11 2007 21

観測センサーを指向させるには

 人工衛星を用いて天体の観測を行うた めには、観測センサーの視野方向を目標 天体へ向ける必要がある。一般には望遠 鏡などは衛星に固定されているので、衛 星自体の向き(「姿勢」と呼ぶ)を宇宙空 間の所望の方向へ向けることになる。現 在の人工衛星は、搭載姿勢センサーに よって自身の現在の姿勢を計測し、搭載 計算機により目標とする姿勢とのずれを 計算、姿勢制御アクチュエーターを駆動 して自動的に目標姿勢へ向けることがで きるようになっている。そのため、観測 者(衛星運用者)は「○時○分○秒に△△の 方向を向けよ」という指示(コマンド)を衛 星に送るだけで、望む指向ができる(図1)。  衛星の姿勢制御系に必要な機能として

は、(1)指定した方向を高精度に指向す る、(2)指定した方向へできるだけ速く 姿勢変更する、(3)信頼性高く、かつ使 い勝手がよく(できるだけ単純なコマンドで) 実現すること、がある。

 これらは姿勢制御系単独で実現できる ものではなく、衛星構造設計、熱設計、 電力設計、あるいはデータ処理系、地上 運用系との組み合わせで実現できるもの であり、衛星システム全体としての最適 化と多分野にわたる研究開発が必要であ る。本稿では、2006年9月23日に打ち上 げられた太陽観測衛星「ひので」を例と して、衛星の姿勢制御について紹介する。

「ひので」の姿勢制御系

 「ひので」衛星は、可視光磁場望遠鏡、 X線望遠鏡、極紫外分光撮像望遠鏡の3

つの観測装置を搭載している(図2)。衛 星姿勢に関しては、表1のような非常に 厳しい精度が求められている。特に1時 間の変動が2秒角(0.0005deg)以内を満 たすためには、高精度に衛星の姿勢を 知る必要があり、超高精度太陽センサー

(Ultra Fine Sun Sensor:UFSS)を 開 発 した(図3)

 これにより、衛星から見た太陽中心の 方向が約1秒角の精度で検出できる。一 方、望遠鏡視野方向(Z軸)回りの姿勢 精度要求は高くないので、小型軽量な 0.05deg精度の恒星センサーを搭載し、 カノープス星の見える方向を検出する。 天空上で方向がわかっている2つの天体

(この場合、太陽とカノープス)が衛星から 見てどの方向に見えるかがわかれば、衛 星本体の姿勢が計算できる。

能である。「ひので」の場合、1台が故障 しても姿勢制御が継続できるように4台 のMWを搭載している。

 実際の宇宙空間では、地球重力場の傾 斜や太陽光の光子が当たることによる圧 力で、衛星には回転力(トルク)が働く。 これは姿勢制御誤差の要因になるととも に、トルクによっては、衛星全体の角 運動量が増え続ける(あるいは減り続ける) ことが起こる。MWによる姿勢制御は、 MWと衛星との間で角運動量を交換して いるにすぎないので、これらの外乱ト ルクに対して衛星姿勢を止め続ければ、 MWの回転数はどんどん増加する(ある いは減少する)ことになり、動作可能な限 界に達してしまう。そこで、磁気トルカ と呼ばれる電磁石を搭載し、地磁場との 相互作用により適切なトルクを発生させ て、衛星全体の角運動量を既定範囲内に 収めるように制御則が組まれている。

さらなる高精度指向のために

 衛星本体の姿勢制御は、諸々の制約か ら0.1Hz程度の応答が限界であり、振動 擾乱などのより高周波の外乱に対しては 別の対策が必要である。衛星搭載機器の 振動を抑えるため、可動部があるMW、 IRU、あるいは観測望遠鏡の可動フィル ターについては、その回転バランスを精 密にとる、緩衝材により衛星本体へ振動 が伝わらないようにする、などの工夫が 必要である。

 「ひので」の可視光磁場望遠鏡は、観 測センサーの焦点面にあるコリレーショ

ントラッカーにより太陽表面の模様(粒 状班)を追尾し、画像がぶれないように 反射鏡の傾きを制御して観測画像の像安 定を図っている。また、観測センサーと 姿勢センサーの間の取り付け構造が熱歪 みなどにより変形すると指向誤差になる ので、温度差が付かないような熱設計、 変形しない一体構造などの工夫も必要で ある。

 このように、極限の指向精度を達成す るためには、姿勢制御技術のみならず衛 星システムとしての諸々の高度な技術が 必要であり、理学と工学の連携により第 一級の観測が実現できると言える。  衛星は地球の周りを回っているので、

地球の陰になり太陽や星が見えない時 間帯が存在する。また、10秒間の姿勢変 動が0.3秒角という要求を満たすために は、姿勢の変化を高精度に検出するセ ンサー、すなわち慣性基準装置(Inertial฀ Reference฀Unit:IRU)が必要である。「ひの で」のIRUは、機械式のジャイロスコー プで構成されている。最近では光ファイ バージャイロなどの非機械式ジャイロが 登場し、中精度までの用途では置き換え られつつあるが、性能的にはまだ機械式 のほうが優れている。IRUでは、姿勢の 変化しかわからないこと、時間が経つと 誤差が大きくなっていくこと(バイアス ドリフトと言う)から、太陽センサー、恒 星センサーなどと併用して使用されるの が通常である。

 このように高精度な姿勢制御を実現す るには、さらに衛星が地球を周回する運 動、(地球とともに)太陽を公転する運動 によって太陽や星の方向が曲がって見え る(光行差、視差)効果を考慮する必要が あり、搭載計算機ではこれらの補正計算 も行っている。

 衛星の姿勢を動かすアクチュエーター は、モーメンタムホイール(Momentum฀ Wheel: MW)と呼ばれる「はずみ車」を 使用する。角運動量保存の法則から、回 転する円盤を加速すれば衛星は反対方向 に回り始める。したがって、3台以上の MWを搭載してその回転数を加減速する ことにより、衛星を任意の方向に向ける こと(X、Y、Z 3軸回りの姿勢制御)が可 Part฀2฀「宇宙」研究の最前線

橋本樹明

総合研究大学院大学教授宇宙科学専攻/宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部教授

天文観測衛星にとて重要なのは、観測天体の方向にいかに高精度で指向させるかである。

2006年に打ち上げられた太陽観測衛星「ひので」では、これまでにない高精度の姿勢制御技術が開発された。

橋本樹明(はしもと・たつあき)

私は電車などの動くものが好きで、大学院で は電気工学を専攻し、新幹線のモーター制御 の研究をした。1990年、宇宙科学研究所(現 在の宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本 部)に入所。以来、人工衛星の姿勢制御に関す る研究・開発・教育に従事している。宇宙工 学の魅力は、その研究対象のみならず、優れた 科学者とともに仕事ができることだと思う。 図1 衛星姿勢制御の原理

図2฀฀฀「ひので」の観測センサーと座標系 地上からのコマンド

姿勢制御計算機

太陽センサー 恒星センサー 慣性基準装置 太陽光圧トルク

重力傾斜トルク 振動擾乱など

ホイール 磁気トルカ

衛星姿勢推定 姿勢アクチュエーター 衛星姿勢運動ダイナミクス 姿勢センサー

アクチュエーター駆動則計算 姿勢制御則計算 姿勢外乱トルク

姿勢外乱トルク

観測目標姿勢 真の姿勢

推定姿勢 極紫外分光撮像望遠鏡

X 線望遠鏡

X Y

Z 可視光磁場望遠鏡

太陽電池パネル

超高精度太陽センサー

太陽光

レティクル

リニア CCD

CCD 受光感度

基準矩形波信号

位相差を比較 X,Y軸回り Z軸回り

絶対指向方向精度(3σ) 20秒角 145秒角 1時間の姿勢変動(3σ) 2秒角 145秒角 1分間の姿勢変動(3σ) 1秒角 145秒角 10秒間の姿勢変動(3σ) 0.3秒角 36秒角

(参考)SOTの焦点面での指向方向要求 10秒間の変動 0.09秒角 ฀─ 表1฀฀฀「ひので」の姿勢制御精度要求

図3 UFSSの原理

UFSSは、リニアCCD検出素子の前面にレティクルと呼ばれるパターンが置かれ、 そこを透過した太陽光の像と基準矩形波信号との位相差から太陽入射方向を高精 度に検出する姿勢センサーである。

参照

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