1 座標変換
1.1 平行移動と反転
問題1. 下の図で表される座標変換について,(x, y)成分と(x′, y′)成分との関係を求めよ。
x
y
x'
y'
x'
y'
P (x, y)
a
b
x
y x
y
x'
y'
P (x, y)
x'y'
nÌæ1ÛÀ
【解答】左図では
x′ = x − a, (1.1)
y′ = y − b (1.2)
行列を使って書くと
(x′ y′ )
=(x y )
−(a b )
. (1.3)
右図では(xy系とx′y′系の座標軸が区別し易いように原点をずらして描いた。もちろん原点が一致した変換 を考えている)
x′= −x, (1.4)
y′= −y, (1.5)
行列を使って書くと
(x′ y′ )
= −(x y )
. (1.6)
1.2 座標回転
x
y
x'
y'
α
cosα
sinα
- sinα
cosα
e
x'e
y'問題2. 右図の座標回転(x, y) → (x′, y′)について以下の考える。 2-1.x′, y′方向の単位ベクトルをそれぞれex′, ey′ と書く*1。これ らをxy座標系から見た成分で表せ。
【解答】単位ベクトルは大きさが1である。これを利用して各軸へ の射影を求める。図で,ex′のx成分およびy成分は緑色の線で表し,
*1太字で書いたアルファベットはベクトルを表す。
2 1 座標変換
ey′のx成分およびy成分はシアンの線で表してある:
ex′ =(cos α sin α )
, (1.7)
ey′ =
(−sin α cos α
)
. (1.8)
2-2.この座標回転での(x, y)成分と(x′, y′)成分との関係を求めよ。
x
y
x'
y'
α
x sinα
x cosα
x'
y sin α
y'
y cosα
P (x, y)
【解答】同一の点Pの座標が,xy座標系では(x, y)と,x′y′座標系 では(x′, y′)と表されるとする。図より
x′= x cos α + y sin α, (1.9) y′= −x sin α + y cos α (1.10)
と分かる。x′に関連する線をマジェンタで,y′に関連する線をシアン で描いた。
2-3.上の座標変換を行列表示せよ。
【解答】行列表記をすれば
(x′ y′
)
=
( cos α sin α
−sin α cos α ) (x
y )
(1.11)
上の変換行列において,1行目の横ベクトルはex′ の転置行列tex′一致し,2行目の横ベクトルはey′の転置 行列tey′に一致する。すなわち
(x′ y′ )
= (t
ex′ te
y′
)(x y )
(1.12)
のように表せる。(1.12)式の意味を考える。規格直交化された座標系(x′, y′)において,位置ベクトルrのx′ 成分とはx′軸への正射影すなわちex′との内積であり,y′成分とはy′軸への正射影すなわちey′ との内積で ある。右辺にある
(x y )
をベクトルrと解釈すれば,(1.12)式は,正しく上記の内容を表している。すなわち
x′= ex′·r, (1.13)
y′= ey′·r, (1.14)
である。これについて,問題3でも再び議論する。
2-4.この座標変換の逆変換を求めよ。求めた逆変換が回転角−αの座標回転と一致することを確かめよ。
【解答】(1.11)式の成分行列を,回転角αの座標回転行列T(α)と定義する: T(α) : =
( cos α sin α
−sin α cos α )
. (1.15)
T(α)の行列式は0ではないので,逆行列が存在する。従って (x
y )
=[T(α)]−1(x′ y′ )
= 1
cos2α+ sin2α
( cos α −sin α + sin α cos α
) (x′ y′ )
=
( cos α −sin α + sin α cos α
) (x′ y′ )
(1.16)
と決まる。ここで三角関数の性質より (x
y )
=
( cos(−α) sin(−α)
−sin(−α) cos(−α) ) (x′
y′ )
= T (−α)(x′ y′ )
. (1.17)
図から予想できた様に,回転角αの座標回転の逆変換は,回転角−αの座標回転となることが分かった。 問題3. xy平面上の任意のベクトルAは
A= Axex+ Ayey (1.18)
と表される。ここでAxおよびAyを,それぞれAのx成分およびy成分という。同様に問題2のx′y′座標 系では,Aは
A= Ax′ex′+ Ay′ey′ (1.19)
と表される。これらの成分間の関係を求めよ。
【解答】(1.18)と(1.19)は,同一のベクトルを単に違う座標系で表現したものに過ぎない。従って当然これ
らは等しい。すなわち
Ax′ex′+ Ay′ey′ = Axex+ Ayey (1.20)
が成り立つ。ここで(1.20)の両辺に対してex′ との内積をとる:
Ax′ex′·ex′+ Ay′ey′ ·ex′ = Axex·ex′+ Ayey·ex′. (1.21)
左辺ではex′とey′との直交性を,右辺では(1.7)式を用いると Ax′ex′·ex′
| {z }
1
+Ay′ey′ ·ex′
| {z }
0
= Axex·ex′
| {z }
cos α
+Ayey·ex′
| {z }
sin α
∴ Ax′ = Axcos α + Aysin α (1.22)
が導かれる。同様に(1.20)の両辺に対してey′ との内積をとり,ex′ とey′ との直交性および(1.8)を用い ると
Ax′ex′·ey′
| {z }
0
+Ay′ey′ ·ey′
| {z }
1
= Axex·ey′
| {z }
− sin α
+Ayey·ey′
| {z }
cos α
∴ Ay′ = −Axsin α + Aycos α (1.23)
が導かれる。(1.22)および(1.23)をまとめると (Ax′
Ay′
)
=( Axcos α + Aysin α
−Axsin α + Aycos α )
(1.24)
=
( cos α sin α
−sin α cos α ) (Ax
Ay
)
(1.25)
と書ける。これらは(1.9)および(1.10),あるいは(1.11)と同じ形である。すなわち,座標回転に対してベク トルは,座標成分と同じ様に変換することが分かる。
(1.20)から(1.23)の計算によって,ベクトルAの両辺に対してex′ およびey′との内積をとると,そのx′ 成分およびy′成分を取り出せることが明らかになった。
✓ ✏
定義: 座標回転に対して座標と同じ様に変換する量をベクトルと呼ぶ。
✒ ✑
4 1 座標変換
x
y
x'
y'
z' z
参考: 右図のような3次元の座標回転を考える。xyz座標系から見たx′, y′, z′ 方向の単位ベクトルを次式で表す:
ex′ =
l1
m1
n1
, ey′ =
l2
m2
n2
, ez′ =
l3
m3
n3
. (1.26)
この場合,3次元の座標変換は次式の通りである: x′=l1x+ m1y+ n1z,
y′=l2x+ m2y+ n2z, (1.27) z′=l3x+ m3y+ n3z.
✎ 2次元座標回転の合成によって任意の3次元座標変換が作られるので,ここでは詳しく述べない。
1.3 直線の記述
問題4. ある直線上にある任意の点Pを表す位置ベクトルをpとする。pの満たす方程式は以下の3つの考 え方から求められる。
1. 直線上のある点Aの位置ベクトルaに,直線と平行なベクトルdの定数倍を加える。
2. 原点から直線に降ろした垂線の足をH,Hの位置ベクトルをhとする。P とHを結ぶ線は,hと直 交する。
3. 直線の上の同一でない2つの点S, T の位置ベクトルをそれぞれs, tとする。P は線分ST を適当に 内分または外分した点である。
下図を参考にして,それぞれの場合でpを表す式を作れ。
d
a
H
h
T
S p
p
p
s
t
【解答】図を参考に問題文のヒントをそのまま数式で表せばよい。結果は
1. p= a + kd (kは実数のパラメータ), (1.28)
2. (p − h) · h = 0, (1.29)
3. p= s + k(t − s) = (1 − k)s + kt (kは実数のパラメータ) (1.30)
となる。
3つの式を比べると(1.28)および(1.30)は2本の等式を含むのに対し,(1.29)は一本の等式しか含まない。 また,(1.28)および(1.30)はベクトルの等式であるのに対し,(1.29)はスカラーの等式である。以下で少し 詳しく調べる。
(1.28)および(1.30)はベクトルに対する式なので,2本の等式を含んでいる。等式が2本あるのは2次元 平面を考えているからであり,3次元空間なら3本,一般にn次元空間ではn本の等式を含む。2次元空間に
2本の等式(制約)があるため1点を指定することになるが,実数パラメータkが変化することで,直線(1 次元のオブジェクト)が記述できる。この構造は3次元以上でも同じで,どんな次元でも直線(1次元のオブ ジェクト)を記述する式である。
一方,(1.29)はスカラーに対する式なので,1本の等式しか含まない。3次元空間でも,一般にn次元空間 でも等式は1本しかない。平面を考える場合には,2次元空間に1本の等式があるため直線(1次元のオブ ジェクト)を記述する。しかし3次元空間の場合,3次元空間に1本の等式があるため平面(2次元のオブ ジェクト)を記述することになる。一般にn次元空間の場合,n次元空間に1本の等式があるためn −1次元 超平面(n −1次元のオブジェクト)を記述する。