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マクロ経済学 9
失業とインフレーション
慶田 昌之
失業とインフレーション
ここまで、財政政策と金融政策を中心にして、ケインズ派マ クロ経済モデルと新古典派マクロ経済モデルを比較しなが ら、その構造を考えてきた。
財政政策と金融政策を考える場合には、ケインズはマクロ経 済モデルの一部分を取り出したIS-LM 分析が有効であり、こ れを中心に2つのマクロ経済モデルを比較してきた。 ここでは、失業とインフレーションという、マクロ経済にお ける重要な2つの問題を考えながら、ケインズ派と新古典派
失業とインフレーション
最初に言葉の定義をする。
インフレーションとは持続的に物価水準が上昇することを意 味し、デフレーションとは持続的に物価水準が下落すること を意味する。
これまでのモデルには、物価水準 P と物価上昇率 π が考慮 されてきている。
インフレーションとは、ある程度の期間にわたって物価水準 P が上昇を続けることを意味する。このとき、物価上昇率 π はプラスの高い水準を維持し続ける。
デフレーションとは、ある程度の期間にわたって、物価水準 P が下落を続けることを意味する。このとき、物価上昇率 π はマイナスの低い水準を維持し続ける。
失業とインフレーション
失業とインフレーションは歴史的に関連があると考えられて きた。
多くの経済学者が観察してきた事実によると、好景気のとき にはインフレ率が上昇し、失業率が低下する。一方、不景気 になるとインフレ率が低下して、失業率が上昇する。
ケインズ派マクロ経済モデル
ケインズ派のモデルにおける、財政政策や金融政策を分析す るためのIS-LM 分析は、物価水準を一定と考えていた。 その意味でIS-LM 分析は、ケインズ派マクロ経済モデルの 全体像を示したものではない。
ケインズ派マクロ経済モデルでは、必ずしも物価水準が一定 ではないので、もう一度ケインズ派マクロ経済モデル全体を みることにする。
総供給曲線
ケインズ派マクロ経済モデルにおける労働市場において、物 価水準 P が変動したときに、生産量 Y がどのように影響を 受けるかを考える。
ケインズ派マクロ経済モデルでは、名目賃金がW¯ で固定で あると考えているので、物価水準 P の変動は実質賃金率 w = ¯W /P を変動させる。その関係はP ↑=⇒ w ↓ である。
総供給曲線 ( 労働市場 )
総供給曲線
結果として、ケインズ派の考える労働量 N は増加する。労 働量 N が増加することは、生産関数から生産量Y の増加を 意味する。
したがって、P ↑=⇒ Y ↑という関係があることが分る。 この関係をY − P 平面で描いたものを、総供給曲線(AS 曲 線)と呼ぶ。
総供給曲線
総需要曲線
一方、IS-LM 分析では物価水準 P が固定であると考えてき たが、これは言い方をかえると、物価水準 P は外生変数で あるということである。
したがって、物価水準 P が変動したときに、生産量 Y がど のように変動するかをみる。
総需要曲線
物価水準 P はLM 曲線のみをシフトさせる。 I(i − π) + ¯G = S(Y − ¯T )
M
P = L(Y, i)
P の上昇はM/P を減少させるので、左辺が減少する。結果 として右辺の実質貨幣需要も減少しなければならないので、 Y を一定とすると、名目利子率iが上昇する。
したがって、LM曲線は左にシフトすることが分る。
総需要曲線 (IS-LM 分析 )
総需要曲線
その結果として、P の上昇はY の減少と、iの上昇をもたら すことになる。
結果として、P ↑=⇒ Y ↓の関係があることが分る。
この関係をY − P 平面に書いたものを、総需要曲線 (AD曲 線) と呼ぶ。
総需要曲線
AD-AS 分析
総需要曲線 (AD曲線) と総供給曲線(AS 曲線) の交点によっ て生産量 Y と物価水準P が決定することがわかる。 これをAD-AS 分析とよぶ。
これによって、ケインズ派マクロ経済モデル全体を考慮した 生産量 Y の決定が分ったことになる。
さらに、ケインズ派マクロ経済モデルにおける物価水準がど のように決定するかも分る。
AD-AS 分析
ケインズ派の考え方
雇用者である労働量N が増加していることは、失業者が減 少していることを意味する。
もし、総需要曲線がシフトしたならば、N ↑=⇒ P ↑となり、 経済学者が観察してきた失業率とインフレ率の間の負の関係 が生じる。(労働量 N と生産量 Y の間には正の関係がある ことに注意すること)
もし、総供給曲線がシフトしたならば、N ↑=⇒ P ↓となり、 失業率とインフレ率の間には正の関係が生じる。
ケインズ派の考え方
このようなことから、ケインズ派は総需要の変動が経済の変 動の大きな要因であると考えてきた。
また、ケインズ派の考える財政政策や金融政策は、総需要曲 線をシフトさせていることから、総需要管理政策と呼ばれて いる。
経済変動に応じた総需要管理政策によって、総需要曲線をシ フトさせることによって、経済を安定化させることができる という考え方がケインズ派の考え方といえる。
新古典派マクロ経済モデル
新古典派マクロ経済モデルについては、これまでに物価水準 P を固定することなく論じてきたので、失業やインフレー ションについて考える場合も、これまでの考え方に修正を加 えることなく論じることができる。
このトピックについて、もう一度ケインズ派と比較しながら 考えてみよう。
完全雇用水準の生産量
新古典派マクロ経済モデルでは、労働市場の均衡を最初に考 えることと、そこで決定する労働量による生産量を完全雇用 水準の生産量 Y˜ ということは、すでに述べた。
新古典派マクロ経済モデルにおける労働市場では、物価水準 P が変動しても名目賃金率 W が調整されるので労働量 N は物価水準P に影響をあたえない。
したがって、生産量Y もP に影響を受けない。
新古典派の総供給曲線
したがって、新古典派マクロ経済モデルにおける物価水準 P と生産量 Y の関係は、P とは無関係に Y˜ である。
これを Y − P 平面に描くと、Y˜ において垂直な直線となる。
新古典派の総供給曲線
新古典派の総需要曲線
新古典派の総需要曲線は、ケインズ派とほぼ同じである。
新古典派の総需要曲線
新古典派の考え方
新古典派マクロ経済モデルによると、総需要曲線のシフトは 物価水準 P を変動させるだけで、生産量Y をまったく変動 させることはない。
逆に、総供給曲線の変動のみが生産量Y を変化させること ができると理解される。
新古典派の考え方
新古典派の考え方
新古典派は、短期的には P とY の間に負の関係があるとし ても、長期的にはそのような関係は存在しないと考える。 なぜならば、新古典派マクロ経済モデルが示すように、労働 市場もふくめたすべての市場が均衡に達すれば、そのような 関係は生じないからである。
需要か、供給か?
これまでみたように、ケインズ派マクロ経済モデルでは総需 要曲線のシフトを重視する立場であることが分る。
すなわち、ケインズ派は需要による経済の変動をマクロ経済 政策 (すなわち総需要管理政策) によって解決することを提 案する。
これに対して、新古典派は総供給曲線のシフトのみが生産量 を変動させ、総需要曲線のシフトは物価水準の変動以外のも のをももたらさない。